「UR」と一致するもの

Jay Daniel - ele-king

 だからなんども言っているように、ぼくはトラップは嫌いじゃない。デトロイト・テクノの根っこが同じくエレクトロ・ファンクであるから、マイアミベース経由の現在形とはいえ、むしろサウンド的には親しみを覚える。ただ、それは、おそらくは「考えるな、感じるんだ」であり、決して「考えろ、考えろ、それはイリーガルではない」(byジョージ・クリントンの名言)ではないように思う。ぼくが間違っていたら指摘してくださいね。「考えるな、感じるんだ」は、たしかに説得力がある。妄想が膨らむ。しかし、ぼくは「考えろ、考えろ」のほうに惹かれてきた。デトロイトは、「考えろ、考えろ」の音楽の街である。「考えるな、感じるんだ」は、初期衝動は良いが、すぐに行き詰まる。サッカーも同じだ。レヴェルが高いところでは、運動神経だけでは通用しない。いや、まあ、運動神経だけでもある程度のところまではいけるんだけど、そう、ある程度までは。
 ジェイ・ダニエルは、なんども言っているように、ナオミ・ダニエルの息子である。ナオミ・ダニエルは歌手で、90年代にカール・クレイグのレーベルから2枚の12インチ(うち1枚は2枚組)をリリースして、そしてその2枚、いや、正確にいえば2曲なのだが(つまり、ヴァージョン違いが多数あるだけ)、その2曲は、いまでもうっとりする素晴らしい歌モノのハウスで、名曲で、クラシックで、中古で見つけたら絶対買いで、ぼくは彼のお母さんの曲の大ファンなのだが(正直、ナオミ・ダニエルがなぜアルバムを残さなかったのか不思議でならない)、息子のジェイは母がやったことをなぞろうとはしなかった。

 アフロ・フューチャリズムとは、黒人の宇宙観/SF趣味のことだけではない。アフリカ系アメリカ人の文化において、若い世代は必ず親の世代のやったこととは別のことをやること、新しいことに集中すること、つまり、ソウルで育った親の子供がテクノをやること、その更新力のことも意味する。
 白人や日本人の黒人音楽ファンは、つねに古きよきブラック・ミュージックを求めたがる。エイミー・ワインハウスでもアデルでもノラ・ジョーンズでも、拍手される彼女たちの音楽は、基本、ひと昔前のソウルである。黒人音楽はこうであって欲しいという願望が、そこには見え隠れする。しかし、たとえば、今年最高のダンス・アルバムを発表したジャマイカのイキノックスは、ルーツ・ミュージックから離れて、むしろベース・ミュージックとシンクロしている。手に負えない新しいモノ好き。ブラック・カルチャーのその本質の一部を、懐かしむべき過去を持たないための未来志向と解釈したのが、アフロ・フューチャリズムとも言えるのだ。
 とはいえ、ことはそう単純ではない。すでに懐かしむべき過去がブラック・カルチャーにあることは、URやムーディマンのリスナーでも知っている。トラップやドリルのような音楽のほうが、現時点では、過去を懐かしまないアフロ・フューチャリズムだと言えよう。しかしそこには、かつての、いち部のハウスやテクノのように、刹那主義以上のものはない。刹那的だからこその美しさもあるし、まあ逆に言えば、いまさえ良ければもうどうでもいいというくらいに、逼迫しているのだろうけれど。

 ジェイ・ダニエルは、カイル・ホールもそうだが、親の世代を否定せずに新しいことをやろうとしている。そのとき彼らは、まずはリズムから入る。というか、リズムしかない。リズム・イズ・リズム。本作『Broken Knowz』において、ジェイはリズムを更新するためすべてを機械まかせにせずに、ドラムスティックを握って、叩き、試行錯誤したという。要するに、古きを重んじながら新しきを追い求めた結実が、これだ。このリズム。反射神経だけに頼らず、「考えろ、考えろ」の街で生まれた、リズムである。それは……ある種コスモポリタン的な、と同時に生粋のアフリカンなのだろう。2曲目の(アルバム中のベスト・トラック)“Paradise Valley”とは、1920年代から50年代にかけて、デトロイトが北部の工業都市として賑わっていた時代の、アフリカ系の人たちの華やかな商業/娯楽エリアのこと。白も黒もジャズを楽しんだ場所であり、しかし43年の暴動以降、白と黒の溝は空き、そして重なる再開発に打撃を受け廃れていったエリアだという。それからジェイは5曲目の“Squeaky Maya”では中米の先住民をたずね、クロージングの "Yemaya"では西アフリカの生みの女神をテーマにする。それらの曲でも強調するのは、リズムだ。
 ジェイは、決して認めないだろうが、ぼくなりに彼の最初のアルバムを言い表すなら──リズム・イズ・リズムの「ザ・ビギニング」の続きを見たと。25年経ったいま、なんて素晴らしいことだろう。

Goldie × Lee Bannon - ele-king

 10月にコンゴ・ナッティとマーラを迎えて開催された「Drum & Bass Sessions」こと「DBS」の20周年記念パーティ。なんと、その続報が届けられました。2016年を締めくくる「DBS20TH」第2弾は、ドラムンベース/ジャングルの帝王ゴールディと、〈ニンジャ・チューン〉などからのリリースで知られるリー・バノンの夢の共演です(リー・バノンは今月Dedekind Cut名義で新作『$uccessor』をリリースしたばかり)。相変わらず豪華な面子でございます。12月17日(土)は代官山UNITにて、一夜限りの「THE DARK KNIGHT BEFORE CHRISTMAS!!!」を体験しましょう。

★GOLDIE (aka RUFIGE KRU, Metalheadz, UK)

"KING OF DRUM & BASS"、ゴールディー。80年代にUK屈指のグラフィティ・アーティストとして名を馳せ、92年に4ヒーローの〈Reinforced〉からRUFIGE KRU名義でリリースを開始、ダークコアと呼ばれたハードコア・ブレイクビーツの新潮流を築く。94年にはレーベル〈Metalheadz〉を始動。95年に1stアルバム『TIMELESS』〈FFRR〉を発表、ドラムンベースの金字塔となる。98年の『SATURNZ RETURN』はKRSワン、ノエル・ギャラガーらをゲストに迎え、ヒップホップ、ロックとのクロスオーヴァーを示す。その後はレーベル運営、DJ活動、俳優業に多忙を極めるが07年、RUFIGE KRU名義で『MALICE IN WONDERLAND』を発表、08年に自伝的映画のサウンドトラックとなるアルバム『SINE TEMPUS』をデジタル・リリース。09年にはRUFIGE KRU名義の『MEMOIRS OF AN AFTERLIFE』を発表、またアートの分野でも個展を開催するなど、英国が生んだ現代希有のアーティストとして精力的な活動を続ける。12年、〈Metalheadz〉の通算100リリースにシングル「Freedom」を発表。13年には新曲を含む初のコンピレーション『THE ALCHEMIST: THE BEST OF 1992-2012』をCD3枚組でリリース。14年、〈Ministry of Sound〉からのヴィンテージMIXシリーズ『MASTERPIECE』を発表、ヘリテージ・オーケストラとのTIMELESS LIVEが好評を博す。16年、音楽とアートの功績を称えられ大英帝国勲章MBEを授与される。15年の「Broken Man」以降リリースはないが、フライング・ロータス、ブリアル、フォーテックらが参加した新作のリリースが待たれる!

★LEE BANNON aka DEDEKIND CUT (Ninja Tune, NON WORLDWIDE, USA)

カリフォルニア州サクラメント出身、現在はNY在住のビートメイカー/プロデューサー。映画からインスピレーションを得ることも多く、フィールド・レコーディングを多用した自由なプロダクションが賞賛を浴びた1stアルバム『FANTASTIC PLASTIC』を2012年にFLYING LOTUSの作品で名高い〈Plug Research〉からリリース。またブルックリンの若手ヒップホップ・クルー、PRO ERAとの交流を経て、代表格のJOEY BADA$$のプロダクションや彼らのツアーDJとして注目を集める。13年にはダーク&エクスペリメンタルな『CALIGULA THEME MUSIC 2.7.5』、『NEVER/MIND/THE/DARKNESS/OF/IT...』の2作のデジタル・アルバムのリリースを経て〈Ninja Tune〉と契約、ダウンテンポの「Place/Crusher」を発表。14年、〈Ninja Tune〉からアルバム『ALTERNATE/ENDINGS』を発表、90'sジャングル/ドラム&ベースのヴァイブを独自のサイファイ音響&漆黒ビーツで表現し、『Rolling Stone』誌のBest Electronic and Dance Albumの15位となる。15年には前作とは趣を異にするドープなドローン/アンビエント色の濃厚な怪作『PATTERN OF EXCEL』をリリース。その後、突然改名を宣言し、新たにDEDEKIND CUTの名前でEP「Thot eNhançer」をセルフ・リリース。LEE BANNONと決別したDEDEKIND CUTはエクスペリメンタルなノイズ、ニューエイジ、アンビエントの現代的なアプローチを標榜し、16年に「LAST」、「American Zen」を発表、11月には注目のアルバム『$UCCESSOR』がリリースされる。

Rider Shafique - I-Dentity / Freedom Cry - ele-king

Rider Shafique - I-Dentity / Freedom Cry (Young Echo Records - YE001)

 〈ノー・コーナー〉、〈ホットライン〉、〈ペン・サウンド〉といったレーベルを運営しながら、ブリストル新世代の音楽を世に送り出してきたヤング・エコー。ゴーゴン・サウンドとしても知られるふたり、カーンとニークの他、ヴェッスル、エル・キッド、ジャブ、アイシャン・サウンドなど、個々の活動においても注目を集めるプロデューサーたちが参加しているコレクティヴだ。彼らがカバーする音楽範囲はグライム、ダブ、パンク、エレクトロニカと幅広く、これまでに発表されてきた作品では、いずれにおいても過去の焼き直しに終わることのないエッジの効いたサウンドを聞くことができる。そんな彼らが多岐にわたる活動を集約することを目的に、コレクティヴ名を冠した〈ヤング・エコー・レコーズ〉を始動した。

 コレクティヴの運営面を主に手掛けているオシア曰く、「ダンスフロア向きではないリリースが増えていきそうだから、できるだけ多くの人に届けられるようにしたい。これまでのレーベル運営で得た経験を活かしてコレクティヴの音源から特別なものを作っていければと思っている」とのことで、〈ヤング・エコー・レコーズ〉では以前よりも広義の意味でのエレクトロニック・ミュージックが対象とされていくようだ。そしてレーベルの第1作を担当するのはコレクティヴに所属するMC、ライダー・シャフィーク。「I-Dentity / Freedom Cry」は、彼の個人体験に根付いた葛藤を深く掘り下げたメッセージ性の強い作品となっている。

 「もともと、どこからやってきた?」という問いに対し、「俺は母親の子宮からやってきた。多くの人と同じように。みんなと何も違わない」と坦々とした声で自らの出自を表明するライダー・シャフィーク。幼少期に自分はブラックなのだと母親から告げられたものの、ベージュに近い肌を持つ彼はその言葉に違和感を覚える。魂を映し出すのは肌だけではない、ブラックとは肌の色よりも深く、表面的なものではないと教え、社会が彼をどのように見るのかを説明する母親。白人ではない人々が受ける扱いは、かつてとは幾分変わってきたのかもしれないが、それでもなお、先述の質問のように差別的な言葉使いとは違うかたちで日常のちょっとした場面に表出する。アイデンティティは誰に証明するためにあるのか。その問いに対し、彼の思いを綴った“I-Dentity”。独白しているような声の向こう側で金属摩擦のような甲高く不穏に起伏するドローンを鳴らすのは、今年、ミューザックをテーマに作品を発表したサム・キーデルことエル・キッドだ。

 一方“Freedom Cry”では、アイシャン・サウンドとのプロジェクトであるゾウとしても活動するジャブが厳かな雰囲気のホーンセクションに合わせてジャズのドラムブレイクをループさせ、そこへライダー・シャフィークが人種差別撤廃運動を繰り広げた人物を挙げていきながら、ブラック・パワーの詩を読み上げる。「俺の使命は人間が人間として繁栄している姿を見ること。もともとシンプルなものを俺たちはなぜ複雑にしてしまうんだ? とてもシンプルなのに」と彼は説く。本作では、気付かぬうちに意識へ根付いている先入観や境界がライダー・シャフィークの個人体験を通じて浮き彫りにされている。

 数ある才能を抱えるヤング・エコーから、なぜライダー・シャフィークをレーベル1作目としてフィーチャーすることにしたのかをオシアに尋ねてみたところ、「現在の世界情勢を考えたとき、今、聞かれるべき重要なメッセージになるんじゃないかって思ったんだ」という答えが返ってきた。以前からポリティカルな姿勢を取っている彼らしい回答だが、レーベルは必ずしも本作のようにメッセージ性の強いものになるとは限らないようだ。ブリストルの次世代を牽引してきたコレクティヴによる、これからの展開には今後も注視したいところ。

 毎年恒例でアイスランド・エア・ウエイブスのレポート。18回目のエアウエイズで、私にとっては4回目の参加。滞在期間は2日と短かったが、中身は濃かった。
 いったい、この国の良いバイブがどこから来るのだろう。アイスランドは、2008年に経済破綻したというが、初めてアイスランドに行った2013年にも、そんな様子はまったく見えなかった。レコード屋に行ったらエスプレッソが出て来るし、バーは夜中の3時でも列が出来ているし、高級レストランにも多くの人がいる。若くして子供を持っている人が多く、町は綺麗で、ホームレスもいない。どう言うこと?
 たしかに、オーロラは日常的に見れるし、ブルーラグーンや、この世の物とは思えない美しい自然が目の当たりに見れるから、観光客もエア・ウエイブスに関わらず多い。レイキャビックの町は小さく、NYで言うとベッドフォードくらいで、端から端まで歩いても1時間ぐらいなので、自転車に乗っている人が多い。町の中心にある、ミュージック・ホールのハーパ周辺の港と景色は、何処を写真撮っても絵になり(ピンク色の空)、歩くのがとても楽しい町である。
 どのようにアイスランドが、経済復興したのかと、地元の人に聞いたところ、やっぱり観光業のお陰だと言う。ただ、この小さな国にとって、クローナの価値が上がり過ぎて、またバブルが弾けるだろうと言う。エアbnbなどで、観光業が調整されず、アイスランド人にとっては家賃はどんどん高騰しているし、クローナがこのまま上がり、上がらないところまで達したら、後は下がるしかないので、政府が次にどんな対策に出るかがキーだと言う。それが資本主義だけど、もし政府が、観光業を調節しはじめ、家賃レートを守れるなら、滅茶苦茶な状態は避けることができるはず、と。とにかく2016年、アイスランドはバブリーな状態にある。因みに、NYから来た身としては、アイスランドは何でも高い。ビールが大体$9、サンドイッチを買ったら$15など。

   

 さて、私のメインの目的は、オフ・べニューと呼ばれる、昼間行われるイベント。日本やアメリカでは見れない、地元のアーティストからツアーバンドまでが、レイキャヴィックのバー、レストラン、洋服屋、洗濯屋、レコード屋、ホテル、銀行など、音楽をプレイできるところなら何処でもライヴをしている。バンドによっては1日3ステージこなし、エアウエイブス期間に10以上のライヴをこなすこともあるし、新しいバンドに出会うのに、こんなに良い機会はない。何となく予定は立てるが、もちろん予定通りにいかない。偶然良いバンドに出会ったり、知り合いに出くわしたり、人が親切なので、心地の良い所にずーっと居てしまったりする。エア・ウエイブスのいい点は、時間にきっちりしているので、何かをミスっても、すぐ予定を立てやすい。

 今回の新しい会場ベスト2は、港近くのbryggjan brugghúsとBar Ananas。どちらも、レストラン・バーで、普通のお客さんもいながら、オープン・スペースでバンドがプレイしてる。bryggjan brugghúsはビストロ風、Bar Ananasは常夏風でトロピカルなサーフ気分が味わえる。ハングアウトも出来、バンドも見れ、ご飯も食べれ、来た誰もが楽しめるようになっているのが、アイスランド風。

 新しいバンドで印象に残ったのは、Skrattar , GANGLY, GKRで、リピートとしてはSamaris, Mammút, Hermigervill, Fufanu, Mr.Sillaが良かった。キー人物がいろんなバンドでプレイしているので、それを追いかけると、だいたい良いバンドに出会える。例えば、SamarisのJofridurは、Samaris以外に、 Pascal Pinon, GANGLY,そしてソロのJFDRをやっていて、どれも彼女の個性で成り立っている。GANGLYはまったく知識がなく、感で見に行ったのですが、見てすぐに彼女がシンガーだと気づいた。何か、引き寄せられる物がある。
 見れなくて残念だったのは、やっぱりビョーク。私はDARLINGリストバンドをもっていたが(列に並ばず入れるVIPリストバンド)、それでも入れず、会場のハーパで雰囲気だけを味わっていた。見れた人は本当にラッキー。アメリカのバンドはNYでも見れるので、ことごとくスキップしたが、Santogold, Warpaint, Frankie cosmosは見たかった。
 2日の滞在だったが、新しいバンド、新しいものごと、上から下まで十分にインスパイアされた。気候がどんどん温暖化して、今年は軽装で行ったのだが、難なく快適に過ごせた。
 アイスランドは本当に、何を食べても美味しいし、人びとは、朝まで普通にパーティしているが、モラルがあり、嫌な目にあったことがない。何処でもクレジットカードが使え、Wi-Fiがあり、英語が通じる。そして、アイスランドは安全、親切。朝6時にバスを待っていると、シリアから来たという男の子と簡単に友だちになったり、バスの乗り場を間違えて待っていたら、ホテルの男の子スタッフが、わざわざ正解のバス停まで連れて行ってくれ、バス会社に電話して、私がミスっていないかを確認してくれ、バスが来たら、わざわざ止めて、そのバスがあってるかどうか確認してくれたうえで「良い旅を!」と、送り出してくれる。これが平均的なアイスランド人。涙が出そうになった(とくにNYにいると)、マジカルなアイスランド体験だった。

 

最後に今回見たバンドのリスト。

Fri 11/4
Just another snake cult @bio Paradis
Samaris @bryggjan brugghús
Mammút @bryggjan brugghús
Kótt grà pje @bryggjan brugghús
SiGRUN @12 tonar
THROWS (UK) @12 tonar
Gruska Babuska @ Bar 12
GKR @ American bar
Dolores Haze (Sweden) @gaukurinn
IDLES (UK) @gaukurinn
Hermigervill @ gamla bíó

Sat 11/5
asdfhg. @ Hlemmur Square
Kaelan Mikla @ Hlemmur Square
Fufanu @ Bar Ananas
Mr.Silla @ NASA
Skrattar @ Gaukurinn
GANGLY @ Gamla Bio
Chinah (DK) @ Gamla Bio

公式サイト
https://icelandairwaves.is/

エアウエイブス・サバイバルガイド
https://grapevine.is/culture/music/airwaves/2016/10/31/iceland-airwaves-survival-guide/?=rcar

Yoko Sawai
11/12/2016

RYOTA OPP(Meda Fury / R&S) - ele-king

ロンドンのツアーに持って行くレコード Best 10

 これはドイツのテクノの情熱と狂騒の物語である。90年代のはじまりとおわりの物語。本書で、ベルリンの壁崩壊後、ヨーロッパ、ことドイツにおいてテクノがいかに重要な意味を持っていたのかをぼくたちは知ることになる。過去を振り返らず、前途洋々たる未来を見つめ、自らを祝福することで生まれた革命──テクノを要求した人たち(西側)とテクノを必要とした人たち(東側)との邂逅。ドイツのテクノが、のちにラヴ・パレードに代表される巨大なレイヴとなったのには理由があった。
 ウエストバムは、ドイツにおいて、お茶の間でも知られるDJである(そこは盟友、石野卓球と同じ)。彼は、ドイツでもっとも早くシカゴ・ハウスをスピンしたDJであり、ドイツで最初のアシッド・ハウスと言われる「モンキー・セイ、モンキー・ドゥ」(曲名はイギー・ポップの歌詞からの引用)を作ったプロデューサーだ。メガ・レイヴのメイデイを主宰し、ドイツにおけるレイヴ・カルチャーの土台を築いた最重要人物でもある。『夜の力』は、そんな彼の半生が描かれている。同時に、80年代のノイエ・ドイチェ・ヴェレからハウスの時代へと、そしてテクノとレイヴの時代へと展開する模様がユーモラスなタッチで描かれている(冗談が好きなのも卓球と同じ)。

 それにしても……みなさんはウエストバムという名前にどんなイメージをもってらっしゃるだろうか。ドイツ・テクノ界の巨匠、じつは技術のあるターンテーブリスト、卓球が尊敬するDJ……他には? まあ、いろいろあるかもしれないけれど、彼の口からアドルノやショーペンハウアーという思想家の名前が出てくるとは、思わないのではないでしょうか? また、〈ミル・プラトー〉のアヒムと仲良しだってこととか。つーか、ヒッピー左翼系の大学教授の息子だったんですね。などなど、意外な事実やさりげない知性も垣間見れる。たとえば、90年代初頭のジャーマン・テクノを聴き漁っていた世代が読んだら、スヴェン・フェートをけっこうおちょっくているところは笑えます。ウエストバムはジャーマン・トランスが本当に嫌いだった……。大丈夫ですよ、愛とギャグのある批判なんで。
 DAFのガビ・デルガドと一緒に手作りのシカゴ・ハウスをかけるパーティを主宰するといういい話もあるし、UKセカンド・サマー・オブ・ラヴ体験はもちろん、デリック・メイをベルリンに初めて招聘したときのエピソード、URとの思い出も出てくるし、ウエストバムがデトロイトでまわした話もある。さらにまたもうひとつ言うと、ドイツ語で書かれ、ドイツの出版社から昨年刊行された本書には、しっかり石野卓球とWIREのエピソードも描かれている。
 これは90年代の終わりの物語ではあるが、あらたな祝祭を要求する物語でもある。
 テクノ・ファンは必読。発売は11月21日です!


ウエストバム (著),
楯岡三和+トーマス・シュレーダー (翻訳)
『夜の力──ウエストバム自伝』
Amazon

Brian Eno - ele-king

 なんということだ。前作『The Ship』がリリースされてからまだ7ヶ月も経っていないというのに、そしてその『The Ship』を映像として発展させた「The Ship - A Generative Film」が公開されてからまだ2ヶ月しか経っていないというのに、もう新たなアルバムのリリースがアナウンスされるとは。
 老いては益々壮んなるべし――この言葉はブライアン・イーノにこそふさわしい。2017年1月1日、イーノの最新作『Reflection』が世界同時にリリースされる。
前作『The Ship』はそれまでのイーノ自身のスタイルとは異なる方向性を模索した野心作だったけれど、今回アナウンスとともに届けられた彼自身の言葉によれば、来る『Reflection』はこれまでの彼のスタイルをストレートに継承した作品になっているようだ。すなわち、「アンビエント」と「ジェネレイティヴ」。
 たしかに、ただ踊ることに特化したダンス・チューンも必要だ。たしかに、怒りのメッセージの込められたプロテスト・ソングも必要だ。でも、あまりに混迷を極めるいまのような時代だからこそ、聴くという行為そのものについて考えたり、偶然性について考えたりすることも必要なんじゃないか――
この正月、われわれは「考えるための音楽」の尖端を聴き取ることになる。それは、ブライアン・イーノという知性による長きにわたる実験の、最新の成果である。

『Reflection』は、長きに渡って取り組んできたシリーズの最新作である。
あくまでもリリース作品という観点で言えば、
その起源は1975年の『Discreet Music』にまで遡るだろう。
――ブライアン・イーノ


ブライアン・イーノが新たに完成させたアンビエント作品『Reflection』を2017年1月1日(日)にリリースすることを発表した。以下ブライアン・イーノより。


『Reflection』は、長きに渡って取り組んできたシリーズの最新作である。あくまでもリリース作品という観点で言えば、その起源は1975年の『Discreet Music』にまで遡るだろう(もしくは1973年のフリップ&イーノ作品だろうか? それとも1965年にイプスウィッチ・アート・スクールで、私が最初に制作した作品――金属のランプシェードの音を録音し、1/2倍速と1/4倍速のスピードで再生させた音源を重ねて録音したもの――だったろうか?)。

何れにしても、これは後に私が“アンビエント”と呼び始めるものである。もはや私自身も、この言葉の意味を理解しているとは言い難い。想定外の範囲にまで適応するよう、言葉が一人歩きしているように思えるからだ。それでも私は、同じ時間の中で、律動的に結びつき、一つにまとまる要素を備えた音楽作品を識別するために、この言葉を今でも使用している。

この系譜には『Thursday Afternoon』『Neroli』(サブタイトルは『Thinking Music IV』)、そして『LUX』が含まれる。“Thinking Music”をコンセプトにした音楽は数多く作ってきたが、そのほとんどは自分自身のために留めてきた。しかし今、人々は、私の初期作品を、当時私が活用してきたように――考える行為に最適な環境を作るために――活用していることに気がついた。だからこそ、皆さんに共有したい気持ちが芽生えたのだ。

このような作品には別の名前もある。これらは“自動生成的”なのだ。つまり自らが自らを作り出す。作曲家としての私の役割は、一つの場所に、複数のサウンドやフレーズを集め、それらに何が起こるのかというルールを設けること。それから全体のシステムを作動させ、何が生じるかを確認し、満足がいくまで、サウンドやフレーズ、ルールを調整する。そのようなルールは確率論的であるため(ほとんどの場合、それらは、Xという働きを、Yのタイミングで行う、というようなものである)、生み出される音楽は、システムを作動させる度に異なる結果をもたらす。あなたが手にすることになる作品は、それらの結果の一つなのだ。

『Reflection』と名付けたのは、今作が私に過去を振り返らせ、物事を熟考するように働きかけるからだ。自分自身との内在的な会話を促す心理的空間を誘発するように感じるのだ。その一方で、他者との会話をするときの背景音としても機能すると感じる人もいるようだ。このような作品を作る際、私の時間のほとんどは、聴く行為に費やされる。時には何日間にも渡って聴き込むことになる。異なるシチュエーションでどのようなことが生じるのか、またそれらによって、私がどのような気持ちになるのかを観察する。まず観察し、ルールを調整する。これらの作品を構成する要素は確率論的であり、様々な確率が積み重なるため、起こり得るすべてのバリエーションを理解するのに時間がかかるのだ。例えばルールの一つを「100音毎に音程を半音階5つ分上げる」というものとする。そしてまた別のルールを「50音毎に、音程を半音階7つ分上げる」というものとする。それら二つのルールを同時に走らせると、非常に稀だが、ある時点で二つが全く同じ音階を奏でることになる。つまり5000音毎に音程が半音階12個分上がるからだ。ただし、どの時点からの5000音がそれを生じさせるかどうかはわからない。なぜなら、あらゆる操作が、異なる形で並行して同時に行われているからである。ゆえに最終形は複雑かつ予測不可能なものになる。

アーティストという存在は、おそらく二つのカテゴリーに分類できるだろう。農耕民族と狩猟民族である。農耕民族は、一つの土地に定着し、そこを丁寧に耕し、その場所に多くの価値を見出す。狩猟民族は、新しい土地を探し求め、発見する行為自体や、まだ多くが踏み入れたことのない地に身を置く自由に喜びを見出す。私は、自分の気質上、農耕民族的であるよりかは、狩猟民族的であると以前は考えていた。しかし、この作品が属するプロジェクトがすでに40年以上に渡って続いてきたという事実は、自分の中に農耕民族的資質が多く存在していることを考えさせてくれる。

Brian Eno, November 2016


ブライアン・イーノ最新作『Reflection』は、2017年1月1日(日)世界同時でリリースされる。国内盤CDには、セルフライナーノーツと解説書が封入され、初回生産盤は特殊パッケージとなる。

Labels: Warp Records / Beat Records
artist: BRIAN ENO
title: Reflection

ブライアン・イーノ『リフレクション』

release date: 2017/01/01 SUN ON SALE
国内盤CD: ¥2,400+tax
BRC-538 初回生産特殊パッケージ

商品情報はこちら:https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Brian-Eno/BRC-538

ご予約はこちら:
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002121
amazon: https://amzn.asia/iWse0UP
iTunes Store: https://apple.co/2f015Xf

Ishan Sound & Rider Shafiqu - ele-king

 尖ったサウンドの伝統を持つブリストルで現在もっとも尖っているポッセ、ヤング・エコーのメンバーでもあるIshan Sound(アイシャン・サウンド)とRider Shafique(ライダー・シャフィーク)の2人が来日する。
 アイシャン・サウンドは、〈Peng! Sound〉や〈Hotline Recordings〉、〈Tectonic〉などからもリリースする、現在20代半ばのプロデューサー。マーラやザ・バグなどからもイヴェントに招かれ、またリリースされる曲はレゲエ系サウンドシステムでも好評を得ている。ルーツへの興味を示しつつ、ダブステップ~グライム~トラップ~ダンスホールを折衷する、まさに新世代感覚。
 もうひとりのライダー・シャフィークは、もっか注目もMC。ヒップホップ~ジャングル~ダブステップなど多くのDJやプロデューサーに招かれ、そのラップを披露している。Kahn、Sam Binga、Epoch、Gantz、Submotion Orchestraなどなどの作品に参加している。
 最近Young Echoはレーベルを立ち上げたが、その第1弾は、El KidとJabuがトラックを提供した、ライダー・シャフィークのスポークン・ワード作品(https://bs0jukebox.tumblr.com/post/152601400294/i-dentity-rider-shafique-official-video
 詩の邦訳: https://dsz-instagram.tumblr.com/tagged/ye001

 とにかく、ブリストルのアンダーグラウンド・ミュージックの気鋭の2人の来日、ぜひ生で体験してほしい。11月22日から、東京、名古屋、京都、福岡、金沢、宇都宮をまわります。

■Ishan Sound & Rider Shafique Japan Tour Nov/Dec 2016

The xx - ele-king

 きました。ついにきました。
 全英1位を獲得した前作『コエグジスト』から4年半。ザ・エックス・エックスが新作を来年1月13日にリリースします。タイトルは『アイ・シー・ユー(I See You)』。レーベルは〈ヤング・タークス〉。プロデューサーはロディ・マクドナルドと、メンバーのジェイミー。現在、同アルバムから先行で新曲“On Hold”が公開されています。

 どうです? これはアツいでしょう。ザ・エックス・エックス新章の幕開けです。いやがうえにもアルバムへの期待が高まります。また、ザ・エックス・エックスは新作にさきがけて12月に来日することも決定しています。この年末年始はエックス・エックス漬けでいきましょう!

■リリース情報
アーティスト:The xx(ザ・エックス・エックス)
タイトル:I See You(アイ・シー・ユー)
レーベル:Young Turks
発売日:2017年1月13日(金)

トラックリスト
01. Dangerous
02. Say Something Loving
03. Lips
04. A Violent Noise
05. Performance
06. Replica
07. Brave For You
08. On Hold
09. I Dare You
10. Test Me

■公演情報

東京  12月6日(火)豊洲PIT

開場18:00 開演19:00 前売:¥9,000(standing、1ドリンク別)

問い合わせ:03-3444-6751(SMASH)

企画/制作:SMASH

総合問合せ:SMASH 03-3444-6751 smash-jpn.com smash-mobile.com



■チケット詳細

一般発売 : 発売中

東京 :e+(pre order:10/26-30)、ぴあ(P:313-155)、ローソン(L:73355)



■バイオグラフィー

サウス・ロンドン出身のドラムレスな男女混合3人組。08年初めのNME誌「今年の注目新人」特集でいきなり大フィーチャーされ、09年『エックス・エックス』でデビュー。アンニュイでメランコリーな独特の世界観が口コミで評判となり、主要メディアの年間ベストアルバムに次々に選出。10年5月には初来日公演をソールドアウトさせ、同年フジロック'10でもレッドマーキーを埋め尽くす満員のオーディエンスを熱狂させた。12年にセカンド・アルバム『コエグジスト』を発表。イギリスを含む全世界5カ国でチャート1位を獲得。翌年フジロック'13ではホワイト・ステージのヘッドライナーを務めた。16年12月に豊洲PITにて来日公演を行うことを発表した。

R.I.P Leonard Cohen - ele-king

 私は彼の歌をはじめて手に入れたのはたしか19のとき、『アイム・ユア・ファン』(1991年)なるアルバムだったがこれは赤の他人がコーエン翁の曲をカヴァーしたトリビュート盤だったのでレナード・コーエンの音盤というのはただしくない。手を伸ばしたのはおそらく、R.E.Mとピクシーズが参加していたからだろう。いや、それもちがう。大学チャートの常連だったR.E.M.はキャンパスライフをわが世の春と謳歌するヤツらが好きなはずだから好きじゃなかったし、ピクシーズは幼い私にはノイズが甘かった。ただただダダであった。バウハウス(音楽じゃないほうね)とかシュルレアリスムとか未来派とか構成主義とかビートとバロウズとかジャズの10月革命とかノーウェイヴとか即興とか騒音とか無音とかフルクサスとか、そんなものばかりほしがった。ポップアートはポップすぎるきらいはあったが、ウォーホルは無視できない。つまるところ『アイム・ユア・マン』を買ったのはジョン・ケイルがはいっていたからである。私は偉そうなことを書いてはやくも後悔しているが学生とはいえ20歳ともなればいよいよ子どものふりなどできない。酒も飲めればタバコも吸える、ティーンエイジャーにできないことができるのが大人なら、大人になるとは禁忌をおかすことにほかならず、10代最後の私にとってヴェルヴェッツほどのロールモデルはどこにもなかった。
 思えば長い道のりだった。ポピュラー音楽の分野ではじめて大人を感じたのはフレディ・マーキュリーだった。「ボヘミアン・ラプソディ」のママへの呼びかけはエディプスコンプレックスの対象物としてのマザーコンプレックスというより、こときれる寸前の改悛のつぶやきのように最後の瞬間から生の始原へむかう転倒した問いかけは私にはジョンの「マザー」の絶唱以上に大人を思わせた。そのまま進めば、私もさぞ立派な成人男性になれたはずだが、汎用性の面でフレディには難があり、いまではヒゲにそのなごりをとどめるのみである。空席となった大人枠に滑りこんだのがヴェルヴェッツであり、その一員であるジョン・ケイルが参加しているなら気にならないはずはない。私はCDをつかみレジにむかった。いや、バイト先のレコード屋の社販で手に入れたのだった。買って帰り順繰りに聴いた。ジョン・ケイルの「ハレルヤ」は大トリである。ピアノの一本を伴奏に朗々と歌うケイル、それを聴くだけでいまも広瀬川のわきの県立工業高校ウラの安アパートの一室の吹き晒しの寒々しい光景を思い出す。曲にはシンプルだが歌を呼び込む隙間がある。隙間風も冷たい部屋で私は暖をとるように「ハレルヤ」を何度も聴いた。コーエンの名前は仄聞していたしラジオでも何度か耳にしたはずだが気にとめていかった私のおそまきながらのケイルからのコーエン体験だった。それからは音楽雑誌で記事を探しては読んだ。「ある女たらしの死」と見出しを打った記事がある。私はこの身も蓋も言い方がフィル・スペクターがプロデュースした77年のアルバム・タイトルだと本文を読むまで知らなかった。詩人、作家にして鬱々とした声の自作自演歌手であり稀代の女たらし、そのようなことが書いてあり、キャプションの略歴には1934年生まれとある。
 すでに還暦にさしかかっている。大人どころか老境ではないか。「ハレルヤ」を収録した1984年の『哀しみのダンス(Various Positions)』のときすでに五十路。世評ではもっぱら、冒頭のトリビュート盤のタイトルの元ネタである88年の『I’m Your Man(邦題/ロマンシェード)』がシンセポップ的なスタイルにきりかわって転機となっているが、音の変化への志向は『哀しみのダンス』に潜在している。なんとなれば、私は「ハレルヤ」はてっきりもっとアコースティックな曲だと思っていたのでね、読経のようなヴォーカルと女声コーラス、ドラムのリヴァーブにメンくらった。とはいえ80年代のまっただなかなのだから80年代仕様はあたりまえである、それが衒いもないコーエン節と同居している。おそらくサウンドのトレンドの変化には頓着してはいなかっただろう。60年代のやり方そのまま、時間をかけて歌をつむぎ、まとまったらアルバムになる。半世紀におよぶ歌手活動でのこしたわずか14枚のスタジオ作にはひとに行動を強いるメッセージなどなく、詩は何重もの意味に覆われ、書法はフォーク時代のそれを反復しつづけている。かわれるものならなりかわってみたい人物としてディランがこの年長の友人の名前をあげたのは、コーエンのかわらなさにあるのではないか。ことに80年代、ボブがゴスペル三部作から『インフィデルズ』〜『エンパイア・バーレスク』で隘路にはまり、ニール・ヤングがゲフィンで気を揉んでいたころ、コーエンは淡々とコーエンだった、あまりにもコーエンだった。ユダヤ系カナダ人として宗教的戒律と教えに忠実であるとするそばから煩悩に悩まされ、聖と俗は混濁し、同居した矛盾は詩そのものである。スザンヌへの邪な純潔を歌った(「Suzanne」)かと思えば、ジャニスにフェラチオされたと歌にし(「Chelsea Hotel #2」)、神に悩みを訴え、深遠な内面を吐露する。私はコーエンは跪くのは神でも女でもよかった。その圧巻の受動態をユダヤ人の運命に求めるにはあと100万語を費やさねばならないが、跪いた者が下から見上げる先に思考で飛躍し、神話と現在をおなじ視野におさめ、時制を解き漂わせるコーエンの詩の余白こそ大人の男の官能だった。
 と書くと途端にチープだが、あなたのまわりのセクシーな大人たちを思い出していただきたい。高い服を着ているだろ? うまいメシ食ってるだろ? アンチエイジングに死にものぐるいだろ? でも音楽なんてどうでもいいと思っているだろ? コーエンはどうか? 私がようやく追いついた『ザ・フューチャー』(1992年)の表題曲で、ベルリンの壁とスターリンとヒロシマが再臨する未来──つまり現在だ──を描いてから次作『テン・ニュー・ソングズ』まで9年半沈黙をつづけた。どうやら1994年にマウントボールディの禅センターで臨済宗の佐々木老師に教えを乞うていたようだ。やがてコーエンは静かなる存在を意味する「自間」の僧名を授かる。だからといって達観しかといえばいささかあやしく、1999年に山を下り21世紀最初の年に発表したアルバム冒頭の「イン・マイ・シークレット・ライフ」では夢のなかではまだあなたとメイク・ラヴしていると歌う。
 コーエンがすごみをますのはここからである。『ディア・ヘザー』(2004年)、『オールド・アイデァイ』(2012年)と『ポピュラー・プロブレムズ』(2014年)、作品を重ねるごとに音は憑きものを落としたように漂白され、声は小声やささやき、ぼそぼそとつぶやくようになる。『ディア・ヘザー』の表題曲を聴いたときなど、私はてっきり死んでしまって天国にきてしまったのかと思った。もっとも天に召されたのはコーエン翁のほうだがしかし、このようなデジタル・サウンドの使い方はこの世のものとも思えない。齢80を迎えた次の2作は王道のプロダクションにゆりもどし、抑制した編曲によるコーエン・サウンドの円熟の境地をうかがわせたが、死の直前に出した14作の最終作『ユー・ウォント・イット・ダーカー』で、老いては子にしたがえとばかり、愛息アダムがプロデュースしたこのアルバムの冒頭でコーエンは賛美歌を思わせるみじかいコーラスにつづき低く押し殺した声で歌いはじめる。いうまでもなく曲はシンプルだが、コーエンの声と女声コーラスと抑制的な演奏に、歴史と信仰と性愛ないまぜのことばが乗れば、それは秘密のコード(Secret Chord)となる。

「Well it goes like this : the fourth, the fifth
The minor fall and the major lift
The baffled king composing Hallelujah
そう、それはこんなふうに進む
4度、5度、マイナーにさがり、メジャーであがる
ハレルヤを書きあげる困惑した王
ハレルヤ ハレルヤ ハレルヤ ハレルヤ」
(レナード・コーエン/ハレルヤ 対訳は筆者)

 秘密のコードはこのように進行する。この曲は古今東西老若男女問わず、無数の人間がカヴァーしているのは前に書いたとおりである。早世したティム・バックリーの早世した息子であるジェフのカヴァーなどはよく知られているが、私はバンドをやっていると不思議なもので、スネオヘアーさんと大友良英さんと数年前、映画がらみのイベントでこの曲を演奏した。たしかキーは移調していたはずだが、4度、5度、マイナーからメジャーへ、歌詞をなぞりコードが進行するくだりには昂揚感をおぼえずにいられない。ところがそれはとくに変哲のない進行でしかない。ダビデが主をよろこばせた秘密のコードはつねにだれの耳にもさらされており、それが声と詩といったいとなり、そのすべてが露わになったとき、音楽は意味の手のたやすく届かない深みをみせる。思想、信条、信仰、ポリティカル・コレクトネスと経済効率と融和と分断のマジックワードがのさばるいま、ユダヤ系カナダ人であり、新旧訳聖書に範をとり、禅に学ぶ、女々しい男のこのした矛盾を矛盾のままに据え置く音楽を、私はそれが人間だものとか、愚にもつかない箴言に回収したくはないし、多元的価値観を称揚したいのでもない。お気づきだろうか、4段目の冒頭部分の「でも音楽なんてどうでもいいと思ってんだろ?(But you don't really care for music do you)」は「ハレルヤ」の歌詞の引用である。ここでいう「you」とはだれか、「music」はいまやあらゆるものが代入可能な変数となってはいまいか。そのような世界で、あのように生き抜いた人間がいたことがこれからも心の支えにならなくてなんであろう。(了)

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495