「NotNotFun」と一致するもの

現代SF小説ガイドブック 可能性の文学 - ele-king

SFが描く未来――それは常に時代や社会を反映してきました。

21世紀ならではのテクノロジー描写を駆使したエンタメ作からジェンダーや人種などの多様性を考察した思考実験、躍進する中国をはじめとしたアジアのSFなど、SFの「今、ここ」を紹介する最新SFガイドが登場!

日本SF作家クラブの前会長にして希代の読み手としても知られる池澤春菜さんの監修による厳選した海外作家50人と国内作家50人の紹介と、周辺知識を補うコラムで今読むべきSFを一挙紹介します!

目次

はじめに(池澤春菜)
SF史概説(牧眞司)

作家紹介(海外)
オクテイヴィア・E・バトラー/N・K・ジェミシン/メアリ・ロビネット・コワル/ケン・リュウ/パオロ・バチガルピ/アンディ・ウィアー/シルヴァン・ヌーヴェル/テッド・チャン/グレッグ・イーガン/劉慈欣/アン・レッキー/ジェフ・ヴァンダミア/チャイナ・ミエヴィル/コニー・ウィリス/サラ・ピンスカー/アーシュラ・K・ル・グウィン/ロイス・マクマスター・ビジョルド/ジョー・ウォルトン/ピーター・トライアス/ユーン・ハ・リー/キジ・ジョンスン/マーサ・ウェルズ/ニール・スティーヴンスン/フィリップ・リーヴ/ピーター・ワッツ/アーカディ・マーティーン/アイザック・アシモフ/クリストファー・プリースト/キム・ヨチョプ/ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/ラヴィ・ティドハー/ンネディ・オコラフォー/J・P・ホーガン/バリントン・J・ベイリー/コードウェイナー・スミス/ウィリアム・ギブスン/ロバート・A・ハインライン/カート・ヴォネガット・ジュニア/J・G・バラード/エイドリアン・チャイコフスキー/R・A・ラファティ/スタニスワフ・レム/アリエット・ド・ボダール/アレステア・レナルズ/オースン・スコット・カード/アーサー・C・クラーク/P・K・ディック/チャーリー・ジェーン・アンダーズ/マーガレット・アトウッド/カズオ・イシグロ

近年の日本SF(小川哲)

作家紹介(国内)
柴田勝家/伊藤計劃/飛浩隆/伴名練/酉島伝法/小川哲/藤井太洋/円城塔/高山羽根子/宮内悠介/山本弘/春暮康一/三島浩司/上田早夕里/柞刈湯葉/津久井五月/田中芳樹/菅浩江/津原泰水/谷甲州/小林泰三/新井素子/月村了衛/森岡浩之/野﨑まど/林譲治/冲方丁/小川一水/宮澤伊織/石川宗生/長谷敏司/牧野修/上遠野浩平/小松左京/星新一/筒井康隆/光瀬龍/眉村卓/夢枕獏/神林長平/梶尾真治/山田正紀/空木春宵/新城カズマ/樋口恭介/北野勇作/草野原々/オキシタケヒコ/ユキミ・オガワ/高島雄哉

ガイド
花開くアジアのSF(立原透耶)
非英語圏SF(橋本輝幸)
アンソロジーのすすめ(日下三蔵)
最新SF小説原作映像化事情(堺三保)
ライトノベルに確固たるジャンル築くSF(タニグチリウイチ)

コラム
アフロフューチャリズムとは(丸屋九兵衛)
現代日本のジェンダーSF(水上文)
ゲンロン 大森望 SF創作講座(大森望)
世界のSF賞(大森望)
プロ/アマの垣根を超えたウェブジンとファンジンの世界(井上彼方)
SFファンダムとコンベンション(藤井太洋)
対話のためのSFプロトタイピング(宮本道人)
SF編集者座談会──そこが知りたい翻訳SF出版

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* 発売日以降にリンク先を追加予定。


お詫びと訂正

このたびは弊社商品をご購入いただきまして誠にありがとうございます。
『現代SF小説ガイドブック 可能性の文学』に誤りがありました。
謹んで訂正いたしますとともに、お客様および関係者の皆様にご迷惑をおかけ
しましたことをお詫び申し上げます。

p.2
  誤 作家紹介 国内
→ 正 作家紹介 海外

  誤 キム・ヨチョプ
→ 正 キム・チョヨプ

p.42

ジョンスンの作品世界では、しばしば他者や「未知なるもの」との接触が描かれる。それでも分からないなりに「了解」し、触れ合うことで、登場人物たちは相手を受け入れる。他者や世界の不条理さとどう向き合うかという問題に悩む現代の私達を、そっと導いてくれるかもしれない。


ジョンスンの作品では、しばしば他者や「未知なるもの」との接触が描かれる。「スパー」のような(少々ショッキングな)エイリアンとのファースト・コンタクトの場合もあれば、猿や猫、角と羽の生えたメルヒェンチックな謎の生物の場合ある。こうした他者との交流には、究極的な分かりあえなさ、不条理さが存在する。それでも分からないなりに「了解」しつつ他者と触れ合う登場人物たちは、他者や世界の不条理さとの向き合い方に悩む現代の私達を、そっと導いてくれるかもしれない。

p.50
  誤 キム・ヨチョプ
→ 正 キム・チョヨプ

p.72
  誤 野崎まど
→ 正 野﨑まど

  誤 伊藤計畫
→ 正 伊藤計劃

yahyel - ele-king

 次世代を担うバンドとして彼らが浮上してきたのが2010年代半ば。その後2018年にセカンド・アルバム『Human』で大いに飛躍を遂げた東京の4人組、ヤイエルが5年ぶりに帰ってきた。
 この間、ほんとうにいろんなことが起こった。敏感なアンテナを有する彼らもまた、それぞれに思うところがあったにちがいない。はたしてそれは、どのように音楽へと昇華されたのだろうか。
 まずは3月8日、『Loves & Cults』と題されたひさびさのアルバムがリリースされる。その後3月下旬から4月頭にかけ、名古屋、梅田、渋谷の3年を巡回。ヤイエルの新たな船出に注目したい。

先日アナウンスされたyahyel5年振り最新作「Loves & Cults」のアートワークとトラックリストが公開された。そして、同時発表を行った名古屋、大阪、東京を巡るリリース・ツアーの前売り一般チケットも本日から発売開始する。

“Loves & Cults” は、加熱した時代、愛と狂信の望まない類似性をテーマにしたアルバムとなっている。人間の不確かさを巡る、誠実さへの問いかけはyahyelの脈々と通底するテーマ。しかし同時に、今作がこの5年間の間に、人間が新たに生み出した怪物に向き合っているという意味で、”群れ”の中の人間の視座が新たに加味されている。それは結果的に、かつてのような個々を重んじるプレイヤーの集まりとしてではなく、摩擦の先にある、バンド(≒小社会)”yahyel”しか鳴らせない音像として結実することとなった。”Loves & Cults”は、まさに長い時間をかけて固まっていった大陸のような作品であり、その歪で予定調和のない造形の中に込められた対話への願いが、異質なリアリティとして浮き上がる”怪作”となっている。愛と狂信の境界はどこか。2023年のyahyelに注目だ。

■作品概要
Artist : yahyel
Title : Loves & Cults
Label : LOVE/CULT
Date : 2023.3.8[ Wed ]
Cat # : LC004 ※Digital Only

Tracklist
01. Cult
02. Karma
03. Highway
04. ID
05. Mine
06. Sheep
07. Slow
08. Eve
09. Four
10. Love
11. kyokou

■作品紹介
東京を中心に活動するyahyelが5年の歳月をかけた最新作”Loves & Cults”をリリースする。
2015年に忽然と現れたyahyelは、10年代のポストダブステップ的な感性、出自など関係ないような独特のボーカルライン、猟奇的なライブパフォーマンス、予想外の映像作品など当時の真新しいアイディアを詰め込んだ特異な存在だった。”日本の音楽≒J-Pop”という呪いにかかった東京の街へのアンチテーゼは、”破竹の勢い”とも形容されるほどだった。

そして、世界的なパンデミックを目前にした2019年、yahyelは突然の沈黙に入る。

本人が”糸口の見えない世界の混沌に滅入っていた”と認めるように、 社会と音楽の一進一退の歩みは、彼らにそれだけのインパクトを残したものだった。再定義、線引き、分裂、その中での希望と失望。社会=共同体が、それぞれの正義を掲げて両極化に突き進んだ赤い熱の時代。双方の主張はフェイクニュースと断じられ、仮想敵はカルトじみた存在に仕立てられ、身内はラブの名の下に扇動される。
人の、あらゆる事象への執着が愛から来るものなのか狂信からくるものかは、あくまで不完全な自我が生み出す主観的な感覚でしかなく、社会という相対性の中では非常に脆いものである。音楽という営みなど、カウンターの霞に追いやられ、もれなくyahyelもその問題に向き合っていく。
バンドを小さな共同体として見た場合、我々は一つの社会として何を結論づけるのか。なぜ、我々はここで音を鳴らすのか。“Loves & Cults”は愛と狂信の表裏一体さを意識せずにはいられない、それでも人と人が対話をするという理想を捨てきれない、人間の”群れ”の中に傍観者として立ち尽くすことの憂鬱をテーマにした作品となっている。

おどろおどろしい合唱とサイバーな儀式のような狂騒が印象的なオープニング曲 ”Cult”では、痛烈にカルトじみた世相を皮肉りながらも、その混沌とした音像は迷いの中に立ち尽くしている。アルバムのストーリーはすでにシングルカットされている”Highway”、”ID”などを通過しながら、形而上学的な問いの中で、骨太で90年代のアートロックのような文脈で深まっていく。完全なロックチューンとなった”Four”は、まさにこの時期のyahyelの進化を如実に表しており、”4人でバンドとして音楽をする”ということに対するアンサーになっているともとれるだろう。個人主義から共同体へという流れはまさに20年代らしいが、その結論が一筋縄ではいかないのがyahyelらしく、バンドのリアリティを内包しているとも言えるのかもしれない。そして、アルバムのストーリーは一つの臨界点、アンセム”Love”へと導かれる。アルバムタイトルにある通り、”Cult”への皮肉から始まった物語は、”Love”は何なのかという問いを残して終わるのだ。

yahyelの作品は、3作目となった今でも一貫したテーマを周回している。それは人間の不確かさを巡る、誠実さへの問いかけである。今作がこの5年間の間に、人間が新たに生み出した怪物に向き合っているという意味で、時代に対するyahyelの解答ということにもなるだろう。それは結果的に、かつてのような個々を重んじるプレイヤーの集まりとしてではなく、摩擦の先にある、バンド(≒共同体)”yahyel”しか鳴らせない音像として結実している。”Loves & Cults”は、まさに長い時間をかけて固まっていった大陸のような作品であり、その歪で予定調和のない造形の中に込められた願いが、異質なリアリティとして浮き上がる”怪作”となっている。

■ツアー情報
yahyel "Loves & Cults" Album release tour

2023年3月22日(水)
名古屋 CLUB QUATTRO
18:45 開場/ 19:30 開演
ぴあ : https://w.pia.jp/t/yahyel/
ローソン : 42590
イープラス : https://onl.tw/uf6EcBc

2023年3月23日(木)
梅田 CLUB QUATTRO
18:45 開場/ 19:30 開演
ぴあ : https://w.pia.jp/t/yahyel/
ローソン : 56616
イープラス : https://onl.tw/uf6EcBc

2023年4月5日(水)
渋谷 WWWX
18:30 開場/ 19:30 開演
ぴあ : https://w.pia.jp/t/yahyel/
ローソン : 75386
イープラス : https://onl.tw/uf6EcBc

■yahyel profile :
2015年東京で結成。池貝峻、篠田ミル、大井一彌、山田健人の4人編成。エレクトロニックをベースとしたサウンド、ボーカルを担当する池貝の美しいハイトーンボイス、映像作家としても活躍する山田の映像演出を含むアグレッシブなライブパフォーマンスで注目を集める。2016年、ロンドンの老舗ROUGH TRADEを含む全5箇所での欧州ツアー、フジロックフェスティバル〈Rookie A Go Go〉ステージへの出演を経て、11月にデビュー・アルバム『Flesh and Blood』を発表。翌2017年には、フジロックフェスティバル〈Red Murquee〉ステージに出演、さらにWarpaint、Mount Kimbie、alt-Jら海外アーティストの来日ツアーをサポートし、2018年3月に、さらに進化した彼らが自身のアイデンティティを突き詰め、よりクリアで強固なものとして具現化することに挑んだセカンドアルバム『Human』をリリース。その直後のSXSW出演を経て、フランスのフェス、韓国・中国に渡るアジアツアー、SUMMER SONICなどに出演。同9月にはシングル「TAO」をリリース。楽曲、ミュージックビデオの両方を通じて、yahyelの芸術表現が完全に別次元に突入したことを証明した。同じく11月には水曜日のカンパネラとのコラボ楽曲「生きろ」をリリース。2019年には再びSXSWに出演、米NPR、英CRASH Magazineなど数多くの海外メディアに紹介される。パンデミックの最中に開催された2020年のワンマンライブを最後に、突然の沈黙期に入ったyahyelは、扇情と混沌のユーフォリアから起き上がろうとする2023 年の世界に呼応するように、新たなフェーズへの密かな胎動を繰り返している。

Squid - ele-king

 2021年5月に〈Warp〉からリリースしたデビュー・アルバム『Bright Green Field』(全英チャート初登場4位)で高く評価された5人組スクィッドが、パンデミックの影響で延期となっていたロンドンでの初の単独ヘッドライン・ショウをおこなった。この前日に2年ぶりとなるセカンド『O Monolith』リリースの告知および新曲 “Swing (in A Dream)” も発表されたばかりのタイミングで、バンド側も「新曲寄りの内容になる」と予告していた通り約80分のセットで1枚目からは4曲のみ(セカンドに収録されていない新曲もプレイした)。一種のプレヴュー的ショウと言えるが、2021年夏に「Fieldworks(現地調査)Tour」と称して英数カ所の会場でセカンド向けのマテリアルを試運転したこともあるだけに、演奏はすでに見事に化合していた。

 パーカッション奏者も加わっての6人編成で、ステージ両端左&右にそれぞれアーサー・レッドベター(Keys)とオリー・ジャッジ(Vo / Ds)が陣取り、中央にギター/ベース/サウンド・マニピュレーション/パーカッション/コルネットを自在に切り替える3名=ルイス・ボーラス、ローリー・ナンカイヴェル、アントン・ピアソン。ステージそのものはけっして広くないのでたまたまああなったのだろうが(何せ機材の数が多い!)、イカの触手が広く長く伸びるように見えたのは面白い。

 その「触手が伸びた」は、あながちヴィジュアル面での印象だけではなかったと思う。1曲目 “Undergrowth” からバスドラを合図にアフロ・ラテンなパーカッションのさざ波が起こり、安定したヨコ揺れのグルーヴ上に構築されていくサウンドの緻密な網が場内をすっぽり包む。スクィッドと言えばタテノリのファンク・パンク~鋭角的マス・ロックの印象が強いが、この新たに獲得したサイキックな広がりには引きずり込まれる。シニカルさと自虐ペーソスが交錯し、頓狂にキレるオリーの独特な歌声──音楽の中で「第四の壁」を破る存在と言えるだろう――も抑えた表現でサウンドの一部と化す場面が増え、後半ではキットを離れハンドマイクで歌うことも。続く “If You Had Seen The Bull’s Swimming Attempts You Would Have Stayed Away” ではタイトで重層的なリズムの波動とダイナミックなアレンジがぶつかり合い、その醍醐味に思わずマグマを想起した。

 セット中盤の2曲、淡々とはじまった “Devil’s Den” のフォーキィなメロディ(と言ってもフォークロアの方)の不気味なゆかしさ、そしてコルネットを生ループで重ねる印象的なイントロから鉄槌のギター・リフでビルドアップしていく “After the Flash” の耳で聴くホラー映画の迫力。どこかのグロットでおこなわれる儀式のようなただならぬムードに、会場全体が圧倒され全身で聴き入る。このようにスロー・バーンでポップとは言いがたい楽曲を、しかしオーディエンスの感性を信頼してぶつける度胸が彼らにはあるし、初めて耳にする曲で聴き手を虜にするだけの演奏力もある。

 観客の放つエネルギーとの相互交流からマジックが生じるのもライヴの良さだし、その面はファーストからの人気曲で存分に楽しませてもらった。キース・レヴィンを彷彿させるルイスのギターにリードされはじまった3曲目 “G.S.K.” でたちまちシンガロングが起こり、後半に畳み掛けた “Peel St.” と “Documentary Filmmaker” で「待ってました」とばかりにフロア中央でモッシュ開始。オイルをたっぷり差した歯車のようにスムーズに熱いグルーヴを繰り出すバンドの手の平に乗り、“Narrator” では老いも若きも本能に任せて踊り歌う――コーラスの「narrator!」を繰り返し絶叫するだけでもいまの時代のうっぷんがちょっと晴れるし、イカ型の電球付きおふざけ帽子(笑)姿の男性客がクラウドサーフィンを成功させた姿に、このときばかりはメンバーも笑い出して喜んでいた。

 ショウ全体のピーク点がここだったのは間違いない。だが、それに続いてラストに披露されたセカンドからの第一弾曲 “Swing (in A Dream)” がとても印象的だった。“Narrator” のカオティックな盛り上がりでもみくちゃになった後だったので余計にそう感じたのかもしれないが、シンセやエフェクトのコズミックな電気音のスモッグを抜け、一気に視界がカーッ! と開ける爽快感を備えたこの素晴らしいポップ曲は、ダイヤモンドのごとく澄み切ったギター・サウンドと相まって彼らがそのK点を大きく伸ばしたことを痛感させた。

 『Bright Green Field』はコンクリートとアスファルトの都会的景観を主たる舞台としたアルバムであり、それゆえのアイロニックな反語的タイトル(=明るい緑の草原)だったわけだが、『O Monolith』での彼らは実際に多様な風土や歴史に腕を伸ばし、モダニストでありつつアルカイック、ナチュラルでありながらテクノな、どこにもない音世界を作り上げたのを感じたギグだった。「南ロンドン派」云々の形容はもう必要なし、現在のスクィッドは自力で立っている――客電が灯り、フランキー・ヴァリの “君の瞳に恋してる(Can’t Take My Eyes Off You)” が流れる場内を後にしながら、セカンド投入で全貌が明らかになる、彼らのたくましい浮上からはまさに「目が離せない」と思った。

Black Country, New Road - ele-king

 昨年のフジでは全曲新曲というチャレンジングな姿勢を見せつけたロンドンの若き6人組、ブラック・カントリー・ニュー・ロード。この4月頭には単独来日ツアーも決定している同バンドから、嬉しいお知らせの到着だ。
 昨年12月、彼らはロンドンのブッシュ・ホールなるヴェニューにて、なかなか趣向を凝らしたパフォーマンスを3回にわたっておこなっているのだが(回ごとに「学芸会」だったり「おばけ」だったり「牧歌的田園」だったり、ヴィジュアル・コンセプトが異なる)、その模様が昨日、YouTubeで公開されている。

 そしてここで披露された新曲9曲がなんと、『Live at Bush Hall』として音源化、日本限定でCD化されることになった。
 この『Live at Bush Hall』はバンドにとってアイザック・ウッドが脱退してから最初のリリースであり、新体制となって以降に書かれた曲で構成されている。文字どおり、新たな出発というわけだ。来日ツアーにそなえ、ぜひとも聴きこんでおきたい。
 なお、昨年来日時のインタヴューはこちらから。

Black Country, New Road

ブラック・カントリー・ニュー・ロード

完売となった話題のロンドン公演を映像作品として発表!
あわせて9曲の新曲を収録した最新作『Live at Bush Hall』が
日本限定でCD化決定! 3/24発売!

数量限定のTシャツセット、タワーレコード限定の
トートバッグ・セットも発売!

待望の初単独ジャパンツアーはチケット発売中!
フジロックの感動が再び!

昨年リリースされた2nd『Ants From Up there』が、全英3位を記録し、数多くのメディアが年間ベストチャートでトップ10にリストアップするなど大絶賛を浴びたブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下BC,NR)。初来日となった昨年のフジロックでは「セットリストを全て新曲で構築」という大胆な姿勢で臨み、圧倒的演奏力と感情を揺さぶる歌声で、観客の涙腺は崩壊! SNSでトレンド入りも果たすなど大きな反響を生み、今年4月には初の単独来日ツアーも決定している彼らが、完売となった話題のロンドン公演のフル・ライブ映像作品を公開! 今回の映像と音源はロンドンのブッシュ・ホールで行われた3公演のドキュメントである。また、映像化された9曲の新曲を収録した最新作『Live at Bush Hall』が日本限定でCD化され、3月24日に発売することが発表された。数量限定のTシャツセットや、タワーレコード限定のトートバッグ・セットも発売される。

Black Country, New Road - 'Live at Bush Hall'
https://youtu.be/VbHV8oObR54
ブッシュ・ホールで行われたライブは、バンドにとって新たな始まりとなるものだった。2022年の初め、BC,NRは全英3位のアルバム『Ants From Up There』(マーキュリー賞候補のデビュー作『For the first time』に続く、12ヶ月ぶり2度目の全英トップ5アルバム)をリリース、ファンや評論家から称賛され、数々の満点レビューを獲得、r/indieheads、Rate Your Musicでのファン投票での1位、Pitchfork読者投票の3位、日本ではrockin’onやele-kingなど世界中の年間ベストで高評価を記録した。

前作『Ants From Up There』がリリースされる数日前にフロントマンのアイザック・ウッドはバンドから離れることとなり、BC,NRは残ったメンバーのルイス・エヴァンス(サックス/ヴォーカル)、メイ・カーショウ(キーボード/ヴォーカル)、ジョージア・エラリー(ヴァイオリン/ヴォーカル)、ルーク・マーク(ギター/ヴォーカル)、タイラー・ハイド(ベース/ヴォーカル)、チャーリー・ウェイン(ドラム/ヴォーカル)の6人から成る新体制となり、ライブ用に全く新しい楽曲を書くこととなった。 彼らは短期間で作り上げた楽曲を、Primavera、Green Man、Fuji Rockなどの世界各地の大型フェスで披露し、新たなパフォーマンスは英Rolling Stone誌や、The Guardian紙、NY Times紙など様々なメディアから賞賛を受け、昨年のAIM Independent Music Awardsの "Best Live Performer" にノミネートされるなど、注目を集めた。

今回公開された3日間にわたるロンドンのブッシュ・ホールでのライブ・パフォーマンス映像の監督はグレッグ・バーンズが担当し、音源はPJハーヴェイのコラボレーターでもあるジョン・パリッシュがミックスを行った。メンバーのルイス・エヴァンスは、次のように語る。

これは瞬間をとらえたものなんだ
この8ヶ月間、ツアーで演奏してきた曲の小さなタイム・カプセルのようなもの
- Lewis Evans

12月に行われたこのロンドン公演では、公式にリリースされた楽曲ではないにもかかわらず、観客がバンド共に歌い上げ、バンドとファンとの絆の強さを証明した。
BC,NRにとって、典型的なやり方でライブを映像化し、ありきたりな方法で公開するというアイデアは、魅力的ではなかった。

過去に見た、あるいはやったライブ・セッションの映像化のやり方には懸念があったんだ。
複数の公演での演奏が視覚的にまとめられていて、そのため実際の演奏からは離れたものとなってしまい、人工的でライブとは思えないような印象を与えてしまう。そこで僕たちは、3つの夜がそれぞれ異なるビジュアルに見えるようにするアイデアを思いついた。僕たちは、正直に、3回演奏したことをみんなにわかるようにしたかった。ノンストップで演奏しているわけではないんだとね。
- Luke Mark

学校劇、牧歌的なシーン、幽霊の出るピザ屋など、アマチュアの演劇にインスパイアされた独自のテーマと美学が各夜に設定されていた。学校のプロム・パーティーの終わりのようなシーンもあった。

僕たちは架空の劇というアイデアを思いついたんだ。
架空のあらすじを書き、登場人物に扮し、それぞれの劇のプログラムやセットを作った。
本当にエキサイティングで、楽しかったよ。
- Lewis Evans

また、今回のライブでは友人やファンにも協力してもらったという。ペンキ塗りやセット作り、カメラを渡されたり、電話で撮影を指示されたりして、物作りを手伝った人もいた。そして、これらのすべての人のスタイル、物語、視点を織り交ぜた独特のビジュアルが生み出された。

映像を作るなら、人間味のあるものにしようと思ったんだ。
この作品を作っている時に、多くのファンが曲を広めてくれて、僕らが曲を出さなくても、みんなが曲を聴くことができるようになったんだ。
この映画を作るにあたって、僕らの活動を支えてくれている人たちを巻き込むのはいいことだと思ったんだ。
- Luke Mark

日本限定でCD化される待望の最新作『Live at Bush Hall』は3月24日にリリース! 数量限定のTシャツセット、タワーレコード限定のトートバッグ・セットも発売される。

また、BEATINK.COMではブッシュ・ホールで行われたライブ・レポートを公開中!
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13199

今年2022年、ブラック・カントリー・ニュー・ロードは、2月にセカンド・アルバム『Ants From Up there』をリリースした。その発売の4日前に、主要メンバーがバンド離脱という危機的状況に一度は陥ったものの、確固たる想いを胸に6人で再始動し、更なる進化を証明してみせた。初来日となった今年のフジロックでは「セットリストを全て新曲で構築」という大胆な姿勢で臨み、圧倒的演奏力と感情を揺さぶる歌声で、観客の涙腺は崩壊! YouTubeでも配信されたそのパフォーマンスは全国の音楽ファンを魅了し、SNSでトレンド入りも果たすなど大きな反響を生んだ。そんな彼らの初単独ジャパンツアーが決定!!ポストロックな曲調にホーン、ストリングスを重ね、どこか上品な一面を持ちながらも大迫力で、時には狂暴なプレイを見せてくれる彼らのライブは、今や世界中でソールドアウトを重ねている。ロックシーンの最前線を駆ける彼ら “BC,NR” にとって記念すべき初の単独来日公演。そのライブは、きっとオーディエンス一人一人の記憶に強烈に刻まれることになるだろう。

また、今回のジャパン・ツアーでは数量限定のチケット+Tシャツセットの発売も決定! チケット+Tシャツセットでしか手に入らないファン必携の限定デザインTシャツ!

名古屋公演
2023年4月4日(火)
名古屋 CLUB QUATTRO
INFO:名古屋クラブクアトロ 052-264-8211 [ http://www.club-quattro.com/ ]

大阪公演
2023年4月5日(水)
梅田 CLUB QUATTRO
INFO: SMASH WEST 06-6535-5569 [ https://www.smash-jpn.com ]

東京公演
2023年4月6日(木)
渋谷 O-EAST
INFO:BEATINK [ www.beatink.com ] E-mail: info@beatink.com

[全公演共通]
OPEN 18:00 / START 19:00
前売チケット: ¥6,800 (税込)
別途1ドリンク代 / オールスタンディング
※未就学児童入場不可
前売りチケット+Tシャツセット: ¥11,300 (税込/送料込)

チケット情報

一般発売:12/17 (土)〜
イープラス
ローソンチケット
チケットぴあ
BEATINK

企画・制作: BEATINK
INFO: www.beatink.com / info@beatink.com

label: Ninja Tune / Beat Records
artist: Black Country, New Road
title: Live at Bush Hall
release: 2023.03.24

商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13274

Tower Records:
https://tower.jp/artist/discography/2795695?sort=RANK&kid=psg01

ele-king books - ele-king

 寒いっすね。春が待ち遠しい今日この頃、東京でもっともホットな街は、JR武蔵小金井駅である。なぜなら「くまざわ書店 武蔵小金井北口店」にて、1月下旬より「ele-king books 10周年フェア」を大々的に開催しているのです(終了日は未定)。
 この魔法の書店に行けば、これまでele-king booksから刊行された様々なタイトルがずらっと見物できますよ〜。さらに、品切れとなっていたタイトルから若干キズ等のある「わけあり品」を在庫から発掘し、なんと半額にて販売!!
 しかも、対象商品を購入いただいた方にはele-king booksのロゴステッカーを特典としてプレゼントしております!!
 くまざわ書店武蔵小金井北口店は郊外の駅前書店ながら充実した品揃えで知られる先鋭的な書店であり、これまでもele-king booksの本についても好意的に取り扱ってくれています。ele-king booksの、栄光と挫折に満ちた10年のあゆみが一堂に介する貴重な機会でもありますので、これを機にぜひお立ち寄りください!

くまざわ書店 武蔵小金井北口店
東京都小金井市本町5丁目11-2 MEGAドン・キホーテ武蔵小金井駅前店 地下1階
(武蔵小金井駅から徒歩3分)
https://www.kumabook.com/shop/musashikoganei-kitaguchi/

P-VINE - ele-king

 近年はレコード・ブームが訪れ、アナログ盤の需要が高まっていることは読者もご存じのことだろう。けれどもプレス工場は限られている。そのため大手メジャーが参入して以降、インディ・シーンやクラブ・カルチャーにとっては、なかなかヴァイナルを出しづらい状況も見受けられた。
 ここへ来て朗報である。日本を代表するインディ・レーベルのひとつ、Pヴァインが新たにプレス工場を設立することを発表した。立ち上げは来春。デトロイトではジャック・ホワイトがプレス工場をオープンする例があったが、日本のインディ・シーンでは初の試みだろう。
 なお、Pヴァインは同時に、デジタル分野でも新たな事業に挑戦する。ブロックチェーンとNFTの技術を用いたプロジェクトを年内に始動するとのことで、詳しくは下記プレス・リリースをご参照ください。

まもなく設立50周年を迎える株式会社Pヴァインが2つの新規事業として、アナログレコードのプレス工場を来春に、ブロックチェーンを活用したNFTサービスを年内に開始いたします。

日本におけるインディーズ音楽シーンの草分け的存在である株式会社Pヴァインが、アナログレコードのプレス工場Vinyl Goes Around Pressing(ヴァイナル・ゴーズ・アラウンド・プレッシング)の国内設立と、メタバースへ向けたブロックチェーン活用のNFTサービスを2つの新規事業として着手いたします。

世界中のアナログレコードの価値を高めることに貢献するために、PヴァインはVinyl Goes Aroundプロジェクトを2021年から始動し、“たくさんのレコードが世界中の皆様に届くように”というコンセプトのもと、様々な商品企画を展開してきました。

このたびPヴァインは、そのレコードそのものを生み出すプレス工場Vinyl Goes Around Pressingを来春に立ち上げます。製品のクオリティ、適正な製造価格、迅速な納期などサービスの向上に努めるとともに、国内外のアーティストやレーベル等からのプレス製造を請け負います。将来的には単なる工場ではなく、小規模イベント等も行えるような音楽リスナーが集まれる「空間」を築いていければと思います。

そしてさらに、ブロックチェーンとNFTの技術を利用したプロジェクトを年内に開始いたします。新たに開発したレコードは、フィジカルのレコードであり、かつ、デジタル上でも新たな音楽体験が行える新商品です。私たちの新たなマーケットプレイスでは、二次売買においても権利者に適切な印税を還元いたします。このプロジェクトは現実世界を超えてレコードをメタバース上にも届けることを目指します。現実世界とデジタル〜メタバースを横断してもらえる本サービスは、音楽リスナーが集まれる新たなデジタルの「空間」としての展開を予定しております。

我々Pヴァインは、ややもすれば画一的になりつつある日本の音楽シーンに多様性のあるインディーズの良質な音楽が根付くことをひとつの目標に掲げております。まだ知名度のないアーティストや小規模なレーベルでもアナログレコードがプレスでき、メタバースを含め世界へ向けて音楽を発信できる環境を整備することで、音楽リスナーの皆様へアナログとデジタルのコンテンツをもって、フィジカルとヴァーチャルの世界を跨ぐ新たな音楽の体験をご提供できるように努めてまいります。

私たちPヴァインはまもなく会社設立50周年を迎えます。

先日、アメリカ合衆国のミュージシャンであるWELDON IRVINE (ウェルドン・アーヴィン)の原盤権・著作権を取得する契約を締結し、彼の遺した音楽を世界に向けて広めていくべくカタログのリイシューを順次手掛けていくことを発表させていただきました。このように我々は、この半世紀において、国内外の多種多様な音楽とその文化を、レコードやCD、DVD、雑誌や書籍といったメディアを通して紹介してきました。

そしてこのたび私たちは、アナログレコードのプレス事業と、来るべきメタバースの世界を見据えた事業を開始いたします。これからの私たちは仮想と現実のどちらの世界にも身を置くことになるのでしょうが、私は単純にレコードが好きで、そのどちらの世界でもレコードを持ちたいという思いがあります。

我々Pヴァインは、時代は変われどもそして手段は変われども、世界中の魅力的な音楽とカルチャーをあらゆるお客様のもとへ届けることを使命とし、「THE CHANGING SAME ~変わりゆく、変わらないもの~」を大切にしながら新たな領域へチャレンジいたします。

株式会社Pヴァイン
代表取締役社長 水谷聡男

Powell + LCO - ele-king

 パウウェル、ひさびさのリリース情報だ。
 コンセプチュアルなエレクトロニック・ミュージックを得意とするロンドンのこのプロデューサーは、2020年にマルチメディア・プラットフォーム「a ƒolder」を始動、しばらくはその関連作に専念しつつ、2021年には〈Editions Mego〉から合成ピアノの作品集を出したりもしていたわけだが……その後しばらく音沙汰が途絶えていた。
 このたび2月24日に発売される新作は、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラ(LCO)とのコラボレイション。オーケストラ、といってもLCOは柔軟な考えを持つ楽団で、これまでアクトレストム・ヨークなどに協力してきている(今回の作品には参加していないが、メンバーのひとりオリヴァー・コーツはソロでも名をあげている)。
 『26 Lives』と題された新作は、2022年1月16日にロンドンのバービカン・センターでおこなわれたパフォーマンスを収録(ケージやミカ・リーヴィ、アルヴィン・ルシエ、モートン・フェルドマンらの作品を演奏するコンサートの一部)。コントラバス、チェロ、ヴィオラ、クラリネット、フルート、マリンバが使用されているらしいが、どうやらたんにエレクトロニクスとオーケストラを融合した作品ではないようで、両者の境界は不明瞭、アコースティックなのかデジタルなのかわからないアルバムに仕上がっているとのこと。パウウェルらしく、やはりコンセプトがあるようだ。ちなみにマスタリングはラッセル・ハズウェル。
 考える人、パウウェルの新たな試みに注目したい。

artist: Powell + LCO
title: 26 Lives
label: Diagonal
release: 24th Feburary 2023
tracklist:
01. 3
02. 23
03. 6, 8
04. 13, 12
05. 10, 14, 4
06. 14, 23, 18
07. 19
08. 24
09. 20, 25
10. 26

時を超えるウェルドン・アーヴィンの魂 - ele-king

 90年代以降のジャズ・シーンにおいて、ある意味マイルス以上の影響力をもつスピリット・マン。その真実を、なぜみんなは語ろうとしないのか。そんな葛藤に悶えながらも2002年、ウェルドン・アーヴィン(キーボード他)は冥土へと旅立ってしまった。それも自死による最期は、おいそれと受け入れられる現実ではない。
 いっぽうで、彼はそもそも死んでいないという精神的な共通認識を世界中のシンパはもっている。彼のなかでもわたしたちのなかでも時間の流れは自死したあの日で止まったのだろうが、それとはべつの時間を前進させる彼の魂は、いまでも多くのひとたちに感動を与えつづけている。
 冒頭にもどれば、それでもわたしたちは彼について議論と呼べるような議論などしてこなかった。おそらくそれは、なにひとつ語っていないに等しい。
 たとえばアーヴィンの名声を決定づける曲 “To Be Young, Gifted And Black”(1969年)は、長年ニーナ・シモンとアレサ・フランクリンが独占してきたようなものだった。ジャズ、ソウル界を代表する黒人女性に取りあげられたことは、それはそれで立派だが、作者が楽曲に込めた念いや意味についてまで、だれもが納得できるほど多くを語られてきたわけではない。
 そもそもニーナが語っていなかった。彼女の自伝『I Put a Spell on You』の第6章に曲名がそのまま冠されているにもかかわらず、アーヴィンの名前はひと言も触れられない。代わりに彼女が初めてうたったとされるプロテスト・ソング “Mississippi Goddam” を中心に紙幅が費やされる。メドガー・エヴァース(公民権運動家)がミシシッピの自宅前で銃殺(1963年)されたことへの抗議として書かれた曲が、この章つまりアーヴィンの曲名のもとに触れられることにいささか戸惑いをおぼえずにはいられない。
 それでもニーナに悪意があるはずもなく、彼女にとってのトップ・プライオリティに、レイシストへの抗議の場の必要性があったのだと考えたい。エヴァースを筆頭に同胞たちの命がつぎつぎと奪われるなか、上げた拳を下ろす理由などなかったのだろう。ただし彼女がその怒りの熱を音楽に転化するまでには、それなりのハードルがあった。
 誤解をしているひともいるかもしれないが、ニーナはある特定の思想を歌に持ち込むことに抵抗していた時期がある。クラシックをルーツにもつ彼女にとって、それはごく自然なこと。プロテスト・ソングへの安易な傾倒は好ましくないという自覚すらあった。その封印を解いたのが “Mississippi Goddam” であり、以降運動への積極的な姿勢をみせながら “To Be Young, Gifted And Black” を発表する。
 もっとも、その機会ですら悲しみの連鎖がもたらしたというのだから皮肉というほかない。それは親愛なる劇作家ロレイン・ハンズベリーの死であった(1965年)。“To Be Young, Gifted And Black” は彼女が生前に書いた戯曲でもあり、オフブロードウェイにて初めて上演された黒人による作品ともなった。時の作家ジェイムズ・ボールドウィンをして、「黒人があれほど劇場の席を埋めた光景はみたことがない」といわしめる。つまり彼女の死は、痛ましさと引き換えにあらたな生命をもたらすものだった。
 ニーナはハンズベリーへの哀惜の念を込め、作詞の依頼をアーヴィンにこう伝えている。「世界中の若き黒人に希望の歌を書いてほしい」。
 アーヴィンはそのあと、ニーナの声が神からの啓示であったかのような体験をしていた。ある日のこと、ガールフレンドを迎えに車を走らせ信号待ちをしていたとき、あふれるほどの言葉が目前に降りてきたという。彼の手は助手席にあったナプキンとマッチ箱をつかむと、すぐさまそこに書きなぐる。まもなくそれはオタマジャクシを連れ立ち、世界中の若者を鼓舞する歌になった。
 いっぽうで、ニーナを中心に語られてきた “To Be Young, Gifted And Black” には、(自伝でもスルーされたように)アーヴィンの視点が欠けていることも否めない。ニーナの言にもあるように、ここでうたわれる「Black」が兄弟姉妹たちに向けられていることは疑いようがないが、同時にアーヴィン自身でもあることは、彼の作品に触れたことがあるならば見透かせないはずがない。生地ハンプトンからNYへ上京したのが22のとき。いくつかの楽団を転々としながらニーナに認められたアーヴィンの人生は、歌詞にもあるように「Your's Is The Quest That's Just Begun(あなたの旅は始まったばかり)」そのものだった。
 べつの歌詞にはこうある。「I Am Haunted By My Youth(わたしは自分の青春に悩む)」「Your Soul's Intact(あなたの汚れなき魂)」。以上の主語をアーヴィンにしたところで違和感はない。彼との初対面にてニーナが抱いた印象がまさにそれだったらしい。おおきな瞳を揺らした青年からは、イノセンスであるゆえのこころの隙間が感じられたという。
 言い得て妙だが、アーヴィンの魅力にそのような「少年性」があるのはまちがいない。彼の純真な一面は、まるでボールドウィンの小説に描かれる黒人少年の愛情に飢えた孤独と相似の関係に映る。マチスモ社会のジャズにあってそれは何の役にも立たないものだが、物語性をもとめる聴き手にしてみれば詩的に輝いてみえただろう。平たくいうならコミュニケーション能力。ロマーン・ヤーコブソンがいうところの交話的機能が働き、多くの共鳴者が生まれた。
 またこれらは、「レアグルーヴとはなにか?」という設問への回答をすみやかに引き出す。レアグルーヴとは80年代初頭のロンドンにて勃興したDJカルチャーだが、その本質にはリスナー主導型のあらたなプラットホームがあったことを見逃してはならない。演奏力の良否よりも、どんな世界観であるかがそこでは優先され、さらにその周囲、隣接文化へと興味対象をひろげながら、“聞こえてくる過去” あらため “過去に聴く未来” を能動的に共有する場として開拓された。
 よって、巧拙に集約されてきたミュージシャンの評価と、作品を支える全体性の評価が一致しないことはままある。マイルスよりもアーヴィン、コルトレーンよりもファラオ(・サンダース)、ジョビンよりもジョイスといったヒエラルキーの逆転がレアグルーヴにおいて生じるのはそのためである。
 マイルスもコルトレーンも偉大であることは論をまたない。彼らの奥義は同業者へ正しく伝授されることを望む。ただし、わたしたちが明日のパンを食べるための手引きになるかはわからない。極論だがそういうことになる。
 作品を通して対話ができる、できた気にさせる親和性こそアーヴィンの魅力であり、生涯をとおして交話的機能を欠かさなかった。生前におこなった筆者のインタヴューでもこんな発言をしている。
「すぐれたアーティストもそうでない者も、いろんな音楽を習得したとたん、つぎのフェーズに入るとそれらの要素を捨ててしまうんだ。わたしはどこまでも積み重ねていった」
 あらたな挑戦をつづけながら、それまでのファンも置いてけぼりにはしない。自主制作の2枚め『Time Capsule』(1973年)が最高だというひともいれば、〈RCA〉レーベルからの第2弾『Spirit Man』(1975年)こそ定番だというひともいる。アーヴィンは彼らの声を聞き、さらに〈RCA〉なら3枚め『Sinbad』(1976年)じゃないかという意見にも耳を傾ける。その柔和な姿勢は「ポップ」のワンワードに置き換えられるが、商業主義にまでシッポを振っていたわけではない。事実、業界を席巻していたディスコ・ブームは彼の信条をおおいに悩ませた。
 またそれらも一因にあるが、アーヴィンのキャリアのうち、前半はその『Sinbad』にていちどは終止符が打たれている。メジャーとの契約が切れた理由は説明するまでもないが、その一部に権利譲渡をめぐって意見の対立があったとも報じられている。そしてそのことが遠因となり、彼は国内の全メジャーとの交渉が断たれるという仕打ちにあう。以来、10年強にもおよぶ(作品上の)空白が語るものとはそれであり、沈黙を破る契機となった『Weldon & The Kats』(1989年)以降も状況の改善はみられなかった。
 それでもマイルス以上の残光を歴史に焼きつけた事実を歪めることはできない。1994年にMASTER WEL名義でラップ・シーンに挑んだのも、すべては交話的機能を手放さなかったからだろう。彼はいまでもそれを手放さずに、だれかと会話をつづけている。

※本日2月15日、ウェルドン・アーヴィンの限定10インチ「Time Capsule ep」発売です。
 https://p-vine.jp/music/p10-6465#.Y-w46HbP2M8
 オリジナルTシャツとのセットは↓こちら。
 https://vga.p-vine.jp/exclusive/vga-1033/

Laurent Garnier - ele-king

 いまテクノを絶対に聴くことができない──パンデミックど真ん中にそうこぼしていたパリの至宝は、ここ1年半ほど、欧州を中心に各地を飛びまわっている。どうやらとっくに迷いは晴れていたようだ。
 出世作となったEP「A bout de souffle(息を切らして=『勝手にしやがれ』の原題)」やチョイス「Acid Eiffel」から今年でちょうど30年。地元フランスでは音楽以外の分野でも活躍し、2年前にはその半生を描いた評伝映画が製作されてもいる世界指折りのDJが、4年ぶりに日本の大地を踏みしめる。
 3月17日から22日にかけ、大阪・東京・札幌・ニセコの4か所をツアー。東京公演はなんと23:30~5:00のオールナイトセットとのことで、これは見逃す理由がない。「僕たちみんなが愛する音楽は、それが同じダンスフロアで一緒に聴けて、体験できるときにだけ本当の価値があるんだ。そしてそれが日本のダンスフロアでもあるとすると……僕にとってそれは本当に世界でもっとも美しいものなんだよ」。来る3月が、そのときだ。

LAURENT GARNIER JAPAN TOUR 2023

◆OSAKA
Date: 2023年3月17日(金)
Venue: JOULE Osaka
Act: Laurent Garnier and more
Open: TBC
Tickets: Advance: TBC Door: TBC

◆TOKYO
Date: 2023年3月18日(土)
Venue: Spotify O-EAST
Act: Laurent Garnier & more
Open: 23:30
Tickets Prices: ¥5,000 Door: ¥6,000

◆SAPPORO
Date: 2023年3月20日(月)
Venue: Precious Hall
Act: Laurent Garnier & more
Open: 23:30
Tickets Prices: TBC

◆NISEKO
Date: 2023年3月21日(火)
Venue: Powder Room
Act: Laurent Garnier & more
Open: TBC Curfew: 2:00am
Tickets Prices: TBC

奥深すぎるギャングスタラップの世界……

史上初!
ギャングスタラップカセット300本超を掲載したジャケット本!

暴力、エロ、金ピカ、ドラッグ、ヘタウマイラスト……
何でもありのGラップカセットジャケの目眩く世界を大紹介!
あのGラップのバイブル本 “GANGSTA LUV” 執筆陣によるコメント、コラム付きで読み応え見応え抜群!
ギャングスタラップに興味のなかった人でも絶対楽しめる一冊!
一度ハマったら抜けられない “Gラップ沼” の世界へようこそ……

CONTENTS
・ジャケット紹介300P以上
・執筆陣の選ぶベストジャケ
・自作ジャケ集
・カセットコラム、など

■収録アーチスト
Eightball & MJG, Three 6 Mafia, Tommy Wright, Playa G, Al Kapone, Skinny Pimp, Mack 10, Murder Inc., DJ Nite, Mac Dre, Too Short, Master P, Big Bur-Na, 他マイナーアーチスト多数

■執筆陣
Lil Ricky a.k.a. Da Mask Baby(D.M.F. Inc./Piranha Soldierz)
Gonzosta-T a.k.a. Da Mask Daddy(D.M.F. Inc.)
BIG-K(Piranha Soldierz)

■構成
Lil Ricky a.k.a. Da Mask Baby(D.M.F. Inc./Piranha Soldierz)

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