「IO」と一致するもの

 アナログ世代かCD世代かという議論があれば、僕は勝手に「12インチ・シングル・ジェネレイション」というタームを思い浮かべてしまう。ジャズ・ファンならLPだろうし、着うたフルで育った世代は「MP3のスカスカが懐かしい」というように、高校時代から普及しはじめた12インチ・シングルに馴らされてしまっただけともいえるけれど、身体性というのはそう簡単に変容できるものでもなく、CDが簡単に買えるようになっても(最初はヒドいものだった)、データ配信がこれだけ身近になっても、それに合わせて自分の体をカスタマイズできなかったと思うしかないような気がする。同じ曲を聴いていても、12インチならすんなり入ってくるものがCDではまったく身につかなかったり、データだと違う曲に聴こえていたりといったこともないとは言い切れない。どうか……している。

 12インチ・シングルは、なぜか日本では定着せず、そこで輸入盤文化とJポップやアイドルなどの日本文化も離ればなれになってしまった印象がある。「NME」がいつだったか、プリンスの特集を組んだときに「知られざる100の秘密」というような記事も載せていて、そのなかに「日本ではプリンスの12インチ・シングルが1枚もリリースされていない!」という項目があった。プリンスだけではなく、誰もリリースされてないんだけどなとは思ったものの、それぐらい欧米では12インチというフォーマットが当たり前になっているということをその記事は教えてくれたといえる。片面に1曲しか刻まれていない12インチ・シングルは、縮み志向の日本人には合わなかったのか、しかし、余白と感じられるだけのスペースがあるからこそ、そこにはやがてリミックスという手法が呼び込まれ、それが複雑化し、さらにはDJカルチャーを促すものがあったといえる。レイヴ・カルチャーの有無がどれだけ音楽文化に違いを与えてしまったかは、「オマル・スレイマンがビヨークをリミックス!」とか、そういったことがまったくといっていいほど日本では起きないことからもよくわかるだろう。12インチ・シングルはPCが普及するまで音楽文化における大きなプラットフォームだったのである……と、思いたい。

 20年ぶりに引っ越して、少し広い部屋に移ったために、なるべく買わないようにしていた12インチ・シングルを……また買い出してしまった。あー(嘆)。ドローンにも少し飽きてきて、ダンス・カルチャーに再び深入りしようかなという思いもあったからか、気がつけばヒドゥン・ハワイは揃える、リル・シルヴァは買い漁る、ウイリー・バンーズやなんだかよくわからない白盤がまたしても足元に溜まり出してしまった。幸い、断捨離教には入っていなかったので、いまのとことろは楽しいだけである。あー(嘆)。まー、せっかくなので、2013年のハイライトを12インチ・シングルで振り返ってみましょうか。


1月 Andrey Zots / Not So Secret Diary (Not So Secret Dairy)

 年頭はまずロシアからアンドレ・ゾッツがぶっちぎり。ロウリン・フロシュトがハンガリーで立ち上げたレーベル名をそのままタイトルにした6作目で、ファニーな響きもさることながら、全体にここまで実験的なミニマルも珍しい。前作まではヴィラロボスの影響下にあったことは免れていなかったにもかかわらず、ジュークを取り入れたイントロダクションから動物園を丸ごとループさせたような展開など、ミニマルの裾野が無限大に広がっていく。
1月はまた、リル・シルヴァ「ザ・スプリット」も相変わらず絶好調で、〈ラフ・ドッグ〉が発掘してきたグローイング・パームスのソロ・デビュー作「RK#7」もご愛嬌。

2月 Lord Of The Isles / SHEVC007 (Shevchenko)

 アンドレ・ゾッツでなければ、1月はジョージア州から彗星のように現れたHVLのデビュー作にしたかったところだけれど、同じようにミスター・フィンガーズを思わせるアトモスフェリックなディープ・ハウスなら2月はロード・オブ・ジ・アイルの8作目が圧倒的だった。キックもスネアもなしで10分を越えるロング・トリップを可能にした1枚で(ハットは少々入る)、延々と上昇しつづける音のスパイラルは『E2-E4』に似た世界を垣間見せつつ、デリック・メイにも近い部分を感じさせる。ほかには前の年に出た「ゴールド・ランゲージEP」ほどではないものの、レオン・ヴァインホール「ロザリンド」もまだかなりイケる感じで、〈モダン・ラヴ〉からデビューしたライナー・ヴェイルも今後が期待できる感じ。

3月 Amit / Acid Trip / Don't Forget Your Roots (Tempa)


Amazon iTunes

 3月はペヴ「アズテク・チャント」やウィリー・バーンズ=ブラック・ディアー……といいたいところだけど、「セカンド・カット」や「ヴィレッジ・フォーク」などのヒットで知られるドラムン・ベース・ヴェテランが前年からダブステップに手を染めはじめ、これにアシッド・ハウスを組み合わせた14thシングル「アシッド・トリップ」がダントツでした。まったくもってアイディアは単純。ヴィデオも最後で大笑い。フランスのアルビノにも似たようなことがいえる。

4月 Om Unit & Sam Binga / Small Victories EP (Exit Records)


Amazon iTunes

 これに関しては紙エレキングのブリストル特集(P.112)で長々と書いたので、そちらを参照ください。4月はほかにダブ・メックスのセカンド・シングル「ブロークンUFO」、イオマックの5thシングル「スプーク」、バーズメイキングマシーンのサード・シングル「2」、フローリアン・カップファーのデビュー・シングル「ライフトラックス」、Lヴィス1990「バラッズ」なども良かった。

5月 Various / Dark Acid (Clan Destine Records)

 〈クラン・デスティン〉が現在までに3集までリリースしているアシッドハウスのコンピレイション・シングルで、1枚めはなんといってもトーンホーク「ブラック・レイン」がハイライト。このPVを観て、音楽だけを聴いて……といっても無理だと思うけれど(最初に一回、映像を観ないで音だけ聴くことをオススメします)、いつにもましてトーン・ホークがソリッドにキメている(最近、ちょっと方向転換しちゃったみたいだけど……)。ほかにナッティマリの変名であるロン・ハードリータフ・シャーム(ドロ・ケアリー)をこの時点でまとめたところも慧眼といえる。ワイルド・ナッシングのEP「エンプティ・エステイト」にもちょっといいチル・アウトがありました。

6月 Serifu / Stucco Swim (Diskotopia)


Amazon

 5月はイナー・サイエンスによる音の乱舞が実に美しかった「サイレント・アウェイキングEP」も捨てがたいものがあったけれど、同じ日本人で6月はセリフのデビュー・シングル「スタッコ・スイム」がなかなかやってくれたという感じ。レーベルはディスコトピア。エスニックなイントロダクションからグッと惹きつけるものがあり、ドライヴの効いた2曲めに引き継がれ……と、ベース・ミュージックの新境地が次々と押し寄せる。いやー、これはカッコいい。どこかに和太鼓のリズムを感じさせる感触があり、それが全体にエスニックの裏打ちになっているのだろう。ディプロが見つけるのも時間の問題というか。同じようにスチール・パンで「ヴードゥー・レイ」をカヴァーしたジェレミー・デラー「イングリッシュ・マジック」もかなり斬新なアレンジで、マッドチェスターにトチ狂った覚えがある人は是非、聴いてほしい感じ(オプティモによるリミックス盤はもうひとつでした)。この人はターナー賞を受賞したことがある美術家なんだそうで、なるほどメイキング・ヴィデオもそれらしくアートっぽい?

7月 DJ Rashad / I Don't Give A Fuck (Hyperdub)


Amazon iTunes

 2013年の顔役のひとりで、野田努は「ローリン」を押しまくるけれど、僕はこっちが良かったピーッ。いかにもインプロ風に被せられたピーッという音のフリーキーさがたまりませんよね。アーリー・レイヴを思わせる不穏なシンセサイザーのループもいいムードを醸し出しているし、ピー……じゃなかった、Bサイドに収録されたフレッシュムーンとの共作「エヴリバディ」がまたM.I.A.を遅くしたような展開とデリック・メイを早回しにしたものが、どこかで接点を見出したというような曲で、実にけっこうでした。

8月 dBridge & Skeptical / Move Way (R & S Records)


Amazon

 エイミットやサム・ビンガ、あるいはダブ・フィジックスの陰にこの男ありというわけで、ここ数年、ドラムン・ベースの変容に立ち会ってきた〈イグジット〉主宰、ブリッジがジュークの影響をダンスホールで返したような直球勝負。ガッツ、ガッツでドタン、ドタンって、あまりな音数の少なさはS-X「ウー・リディム」にも匹敵するものが。つーか、ダンス・カルチャーというのはコレですよね。ヴェイパーウェイヴとかやめてほしいです。とにかく徹頭徹尾ビートだけで、快楽的なんだかストイックなんだかよくわからない~。追って10月にリリースされたテッセラの5thシングル「ナンシーズ・パンティ」もこれに影響されたんだろうか。

9月 FKA Twigs / EP2 (Young Turks)


Amazon iTunes

 前に書いたサウンド・パトロール(https://www.ele-king.net/review/sound_patrol/003359/)を参照ください。

10月 DJ Nigga Fox / O Meu Estilo (Principe)


Amazon iTunes

 アンゴラが起源とされるクドゥロのコンピレイション『バザーク』から2年、もっとも興味深かったリスボン・ベースのDJニガ・フォックスがついにデビュー! しかも、作風はかなりハウスに寄せていて、オソロしい才能を感じます。「ミウ・イシーロ」=「マイ・スタイル」を標榜するだけあって、本当に独特のものがあるし、ポリリズムすぎて詳しくはなんだかわかりませんが、クドゥロだけでなくルワンダから流れてくるリズム(?)やタラシンハ(?)、あるいはバティーダもミックスしてるとか(?)。とにかくウルドゥー語ヴァージョンなどを出していた頃のファン・ボーイ・スリーやトーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』の先を思わせるところもあったりと、ダンス・ミュージックの長い道のりを感じさせることしばしば。コレはマジやばいは。続いてリリースされた彼のお仲間(?)であるナイアガラは、しかし、かなりナゾ。10月はほかにヴァンパイア・ウィークエンドからバイオが少し垢抜けた「ミラEP」にルーマニン・ハウスではプリークとして知られるアドリアン・ニクラエ「アコースティックEP」もそれぞれ出色の出来。

11月 Shit And Shine / Blowhannon (Diagonal)


Amazon iTunes

 これは意表をついた。いままでもひと筋ではいかなかったハードコアというのか、サイケデリックというのか、それともマス・ロッックだったり、インダストリアル・ロックでもあったシット&シャインがハウス・シングルをリリース。そして、オルタナティヴ・ロックのエッセンスは見事にハウス・ミュージックに溶かし込まれ、異様なダンス・ミュージックに仕上がっている(ちょっとバットホール・サーファーズのサイド・プロジェクト、ジャックオフィサーズを思い出した)。いわゆるひとつの鉄槌感もあるし、なんだろう、インダストリアル・ハウスとでも呼べばいいのだろうか。しかも、B2にはセオ・パリッシュ「シンセティック・フレム」のエディット・ヴァージョンまで収録されて……(プロモ盤では「ディキシー・ピーチ」と題されていたものが、クレームでも入ったか正規盤ではセオ・パリッシュの曲名に変更されている?)。いや、しかし、もしかして、このままUSアンダーグラウンドのプライマル・スクリームになっちゃったりして…。

12月 Joe / Punters Step Out (Hemlock Recordings)


Amazon iTunes

 リリース・ペースはけして早くないジョーが続けさまにリリースした2枚のうち、後から出た方で、ちょうど1年前にスウィンドルがダブステップにマンボを取り入れたことに挑発されたか、オルガンをフィーチャーしたモンド・ステップで世界を少しばかりグニャリと歪ませてくれる。構成がとにかく大胆で、時間軸まで歪んだように聴こえるというか、「ダブステップは終わった」と言われてからが面白いと言わんばかり。カップリングはまるで上に挙げたシット&シャイン風で……あー、しかし、シャッフル感がぜんぜん違うかな、この人は。それこそ時間をかけるだけのことはある。12月はほかにマッドテオの8thシングル「インサイダー」、トム・ディシッコの6th「ノー・シンパシー」、グア・カモーレ「マシュタハ」もやってくれました。

 ……こうしてみると、まったくといっていいほどヒップ・ホップを聴かなくなったなー。ミックステープも落とすだけで長いからあんまり聴かないしなー。まー……それはおいといて、要するに12インチというのは短いから頭に入ってくるんですね。1日に詰め込める量なんて、実は限られているんだろう。昔は、「NME」のシングル・オブ・ジ・ウィークを毎週、チェックして、週に1枚、気に入ったシングルがあれば、それでかなりシアワセだったからなー。それでも年間にしてみれば50曲以上はフェイヴァリットになっているわけで、けして少なくはないわけだし。それこそ昔、よくやっていたのはデビュー作から3~4枚のシングルを好きな曲順で再構成したテープをつくってファースト・アルバムとして聴いていたこと。実際にファースト・アルバムが出ると、ほとんどの場合はがっかりで、どういうわけかそれ以上のものにはなってくれないという……。

interview with Wataru Sawabe and Yusuke Satoh - ele-king



V.A.
カーネーション・トリビュート・アルバム なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?

TOWER HMV

 2013年12月14日、渋谷クラブ・クアトロのステージにはバンド結成から30年の節目の年を迎えたカーネーションが、年を重ねるごとに若がえる、回春というと何やらあやしげだけれども、その汗と音楽を迸らせていた。
直枝政広と大田譲を中心に、バンド・メンバーには張替智広(Dr)と藤井学(Key)、それにこの冬のツアーをサポートしたスカートの澤部渡と(スカートのメンバーでもある)カメラ=万年筆の佐藤優介の姿も。“Edo River”で前編を締め、直枝政広がプロデュースした『絶対少女』を出したばかりの大森靖子を加えたアンコール以降はとくに「さざなみ」というより高波に掠われるようだった。
いい大人といい若者による渾然一体とした音楽。それはそのまま、『なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?』と題したカーネーションのトリビュート盤にもあてはまる。
シャムキャッツ、森は生きている、失敗しない生き方、大森靖子といった新鋭から岡村靖幸、曽我部恵一、山本精一、さらには森高千里といったおなじみの方もそうでない方もまじえ、音盤という物体に乗った音楽のもつ構造を多角的に対象化したこのアルバムの発起人、上述の澤部渡、佐藤優介のふたりが、ときにおどろくほどざっくばらんに、カーネーションへ捧げた音盤を語りおろす。

僕は解釈というよりは、トリビュートをやるとすればカーネーションというバンドの楽曲がいかにすぐれているか提示できたらと思っていたので、いじり倒すというよりは削いでいくようになればいいなと思って作業していました。(澤部渡)

『なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?』は澤部さん、佐藤さんが発起人ということになっていますが。

澤部:カーネーションが30周年だから何かやりたいと思っていて、若手からカーネーションをもりあげることができたらいいなと思っていたんです。これもかなり正直な意見になるんですけど、20代のひとたちがカーネーションを知る機会が少なかったのがもったいない気がしたんです。

澤部さんは何歳ですか?

澤部:26です。

佐藤さんは?

佐藤:24です。

同級生でカーネーションを聴いていたひとは?

澤部:ほとんどいないですね。

あえて若手を中心でつくるということになったんですね。

澤部:もともとは中堅、大御所の方と若手半々の予定だったんですが、フタを開けたらちょうどいいバランスになったと思います。

人選はすんなり決まったんですか?

澤部:そんなに苦労はしなかったですね。

声をかけはじめていったのはいつくらいからですか?

澤部:今年の春くらいでした。

今年初頭にたちあがって、ちょうど一年かけてできあがったということになるんですね。参加された方と澤部さんなり佐藤さんなりが相談しながら選曲していったんですか?

澤部:ミツメは何枚かは聴いたことはあるといっていました。でも全部は聴いていないというので、僕がベスト盤を編んで、ミツメに送って、そうしたら“Young Wise Men”を選んできたんですね。

全バンドそういった対応ですか? 森は生きている(以下「森」)などは新作からのカヴァーですが。

佐藤:森の“Bye Bye”に関してはスタッフさんと相談して、彼らのイメージに合いそうな曲を選びました。

音楽性が多様で活動期間も長いとなると、固定的なイメージを結びにくい感じがあるのかもしれないですね。

澤部:ひとによっては実体がわからないというひともいるのかもしれませんね。

ひとりひとり相談しながらオルグして、それ以上に制作に立ち入っているんですか?

佐藤:お願いしてからはお任せでした。

曲順はどうやって決めたんですか?

澤部:一度みんなで集まって、どれがいいあれがいいとか、1曲めはあれがいいといって仮の曲順を決めていたんですけど。

佐藤:最初は“夜の煙突”を最後のトラックに置いてたんですね。カーネーション本人たちが参加しているからボーナストラック的な扱いで最後かなと思っていたんですけど、それが音が届く前のことで。会議のときに初めて届いた音を聴かせてもらったら、すごく瑞々しくて。届いたなかではどの若手よりも――

澤部:勢いがあった(笑)。

佐藤:これは最初に置きたいというのが満場一致で決まって――

澤部:それから、曲順を考え直したんですよ。いろいろ考えていたら、あるときふと気づいたんです。中間の並びはいろいろあったんですが、1曲め2曲めと最後の12、13はこれだというのがあって、それがデビュー・シングルではじまり、最新作で終わるという順序だったので年代で並べたらおもしろいんじゃないかって提案したら、それがバシッとハマったんです。

最初からそういうコンセプトだったんじゃなかったんですね。

澤部:想像以上にピッタリはまったんでビックリしましたね。

佐藤:ハハハハハ。

その大森靖子さんも参加していますが、存在感が突出しているというわけではないと思うんです。それがこのアルバムの完成度でもあるし、さまざまな解釈が入る余地がカーネーションの音楽にはあるということでもあると思うんです。これは難しいと思いますけど、おふたりがそれぞれいちばん気に入っているカヴァーはどれですか? 

澤部:僕はカメマン(カメラ=万年筆)かBabiさんですかね。

佐藤:(山本)精一さんのがすごく好きなんですけど、メロディとかも精一さんの曲のように聴こえてきて。

原曲は大田さんの歌唱ですね。あの儚げな感じが原曲と地続きな気がしますね。

佐藤:そうですよね。大好きです。


[[SplitPage]]


それで敬遠されるようなことがあったら非常にもったない。だから今回若いひとたち、おもしろいことをできるひとたちに頼めたのはよかったと思います。
(佐藤優介)

おふたりにとって好きなトリビュート盤というとどういったものがありますか?

澤部:流行った時期がありましたね。何聴いたかな。小学生のころ、はっぴいえんどのトリビュートが出て。『Happy End Parade』です。

〈OZ〉じゃないんですね。

澤部:さすがに〈OZ〉じゃないです(笑)。印象に残っているというか、ようはトリビュートのブームより僕らはちょっと後なんですよ。キンクスのトリビュートが出ても、シンバルズが参加して叩かれるといった時期で。あ、でも、yes, mama OK? のトリビュートのスタッフをやったことはあったな。

佐藤:僕はハル・ウィルナーの仕事は好きですね。クルト・ワイルとかディズニーとか、あの手は全部いいです。でもトリビュートなんて聴かないですよ。

澤部:発起人がそんなこといっていいのかって話ですけど。

でも現役の日本人アーティストの曲をトリビュートするのは心理的なハードルもあると思うんですね。おふたりだって、好きに解釈すればいいというだけじゃなかった気がしますが。

澤部:僕は解釈というよりは、トリビュートをやるとすればカーネーションというバンドの楽曲がいかにすぐれているかを提示できたらと思っていたので、いじり倒すというよりは削いでいくようになればいいなと思って作業していました。

削ぎ落としても残る部分を剥き出しにしたい。

澤部:そうですね。

カーネーションの良さはやはりメロディにトドメをさしますか?

澤部:いろいろあるんですよ。バンドがいかに成熟していたのかという、5人時代の折り重なるようなアレンジもすばらしいですし、3人になったカーネーションの強靱なグルーヴにはひれ伏すしかない。そういう視点からトリビュートだと見られないじゃないですか。いろんな時代の楽曲が並ぶわけですから、バンド自体に頼らない、なんていったらいいのかな、バンドの構造に頼らないで聴くものにするかといえば、頼るべきは詞とメロディなんじゃないかということですね。

イコール直枝さんの作家性ということですか?

澤部:直枝さんであり、僕のやった曲(“月の足跡が枯れた麦に沈み”)は矢部浩志さんのつくった曲なんですよ。もう『Parakeet & Ghost』くらいになると別のバンドって感じがしますけどね。すごく好きなんです。キャリアのなかでもある意味浮いていると思うんです。やっぱり外部にプロデューサーがいるからかな。地続きではあるんですけど、何かが突き抜けたアルバムだと思うんで。

『パラキート~』がもっとも好きなアルバムですか?

澤部:難しいんですけど、3位以内には絶対入ります。

佐藤さんにとってカーネーションをカヴァーするポイントというか、彼らをどう捉えていましたか?

佐藤:やっぱり直枝さんはすごいヴォーカリストじゃないですか。そこから離れて、それぞれの歌になったときにメロディがどう聴こえてくるか、個人的にすごく興味があったところなんですけど、すごく浮き彫りになってメロディが聴こえてくるというか、再発見できたメロディが多かった。僕らがカヴァーした曲は“トロッコ”という、メロディがすごく特殊な、他ではあまり聴かないような半音の動きがあったりして、好きな要素なんですが、カヴァーするにあたってはすごく悩んだんですよ。曲をどう活かすか、ということで自分がやる意味のようなものですね。みんな意識的にも無意識だとしてもそういうふうに考えてやってくれたと思うんで。

それ全体の調和を乱していないのがコンピレーションとしての完成度の高さだと思います。ちなみにタイトルは誰がつけたんですか?

澤部:カーネーションの曲の引用なんですけど、これもタイトルを決めないと案内も出せないというすごいギリギリの煮詰まったときに、とりあえずそれぞれ何か考えてこいという話になったんです。結局ふたりともいいのが思いついていなくて、スタッフさんと話していたときに、岡村ちゃんのトリビュート・アルバムがあったじゃないですか? 『どんなものでもきみにかないやしない』これは“カルアミルク”の歌詞の一節の引用ですけど、そういうクレバーなことをできないかということになって、スタッフさんがアルバムの収録曲の歌詞を読み上げていくんですよ。まったくクレバーな要素がないな、この会議は、と思っていたんですが(笑)、97年の『Booby』の曲名を読み上げたときに、会議の場がグッと締まったんですね。まさにこのトリビュートのことをいっているんじゃないかということで、これしましょうということになりました。

[[SplitPage]]


本人もわからないくらいミツメの“Young Wise Men”のアレンジが変わっていて、それがすごい僕はおもしろかった。ある意味では、誰の思惑のなかにもなかったものができあがったんだという気がいして僕はよかったと思いました。(澤部渡)

漠然とした話になりますけど、おふたりは日本の音楽史でカーネーションをどういうふうに位置づけています?

澤部:なんなんだろうな、とよく考えるんですけど、そのときそのときにいいレコードを残してきたバンドなんだなということになりますよね。屈強というか。メンバーが抜けても、そのときそのときにつねにいいものを残している、それはすごく恰好いいと思います。でも続けているバンドってそこが恰好いいんだよね。

30年続けるというのは。

澤部:ねえ。

おふたりは30年、音楽をつづけていくことを想像できますか?

澤部:僕は30年やりたいとは思うんですけどね。たいへんだと思います。どうなるんでしょう。不安になってきた(笑)。

将来の不安はここでは置いておきましょう(笑)。

澤部:一度こうやってトリビュートで縁ができてしまったので、大先輩という感じになってしまいましたね。それまではただのファンでしたけど。……難しいですね。何いっても正解じゃない気がします。どう思います(と佐藤氏に)。

佐藤:単純に知られなさ過ぎているな、とは感じていたんです。こんなにいい曲をつくっているひとたちが知られていないのはすごくもったいないことだと思っていたし、知らないひとにとって「30周年」とかいわれると――

澤部:重いよね。

佐藤:重いし、若いひとたちに近寄りがたい存在になっちゃっている。それを危惧していたんです。でも最新作を聴いてもらえればわかりますけどいまでもすごくフレッシュじゃないですか。そんなバンドが知られていないのはすごくもったいないことだと思っていたんで。

枯れていない感じはありますよね。

佐藤:そうですね。演奏も勢いがすごい。

澤部:“ジェイソン”でいまだにあんなにバリバリにギター・ソロを弾くひとはいないよ。

佐藤:ぜんぜん「ベテラン」っていうイヤな重みがないですよね。フットワークは軽いし。

キャリアにものをいわせることはないですからね。

佐藤:それで敬遠されるようなことがあったら非常にもったない。だから今回若いひとたち、おもしろいことをできるひとたちに頼めたのはよかったと思います。

30年、40年となると。

佐藤:知らないひとにとっては、関係ないところにいると思っているんじゃないですか。30年というのはそれぐらいの距離になってしまいかねない。

それだけの作品数があるともいえるわけですからもっと端的に教えてくれよ、という気持ちは入門者にはあるかもしれないですね。

佐藤:だからカーネーションのファンよりも、僕はもっと広く知られてほしいと思ったので、ファンからしたら、もっと仲のいいベテランのひとがいるじゃないかという指摘もあるでしょうし、そのひとたちにやってもらってもすばらしいものになったと思うんですが、いま僕らが企画できることでいちばん広がりがある人選であり企画だったと思います。

身内感がですぎると広がりがかぎられる可能性はありますね。

佐藤:身内だけで聴いちゃうことになってしまいますから。もっと広く知られてほしいという気持ちがありました。

澤部:『Wild Fantasy』のころカーネーションが謳っていた「大人の聴けるロック」というキャッチコピーには頭をかしげたことはあったんですね。大人に向けてアピールするより若い世代にとっても純粋にいいじゃないですか。

佐藤さんがおっしゃった、瑞々しい感性がカーネーションの真骨頂なのだとしたら、それは逆のベクトルだったかもしれないですね。というか、カメマンもスカートも大人に受けのいいミュージシャンだという気もしますが。

澤部:そういわれるとそうかも(笑)。

佐藤:そうなの!?

澤部:僕は若者に聴かれている実感がないよ。この前昔の雑誌の記事に「高校生のムーンラーダーズファンが」というフレーズがあって、そうかムーンラーダーズにも高校生のファンがいたのか、と思いました。

いつの話?

澤部:80年代です。それを読んでドンヨリした気分になりました。

スカートには若いファン多いと思いますけどね。

澤部:いるんですかね(笑)。カメマンのほうが若いファンが多いでしょ。

佐藤:全然いないですよ。オッサンばっかりですよ(笑)。

目の前をオッサンが埋めつくしているんですか?

佐藤:前にはいないです。壁際に。でも嬉しいんですよ。

カーネーションはもとより、スカートもカメラ=万年筆も老若男女に聴かれるべき音楽だと思うんですけどね。

澤部:ほんとうにそうですよね。

ここ最近、澤部くんたちの影響かはわからないですが、音楽そのものに力を入れている若いミュージシャンが増えた気がします。ここに入っているひとたちは比較的その系譜に置かれるひとたちかなという気がします。

澤部:そうですね。

じっさいはパッとやったもののほうがうまくいったりすることも多いんでしょうけど、さすがに今回は悩みました。(佐藤優介)

ところで直枝さんたちにはいつの時点で作品を聴かせたんですか。

澤部:マスタリングが終わって、スタジオに来てもらったんですよ。トラックシートを見ないで聴いていて、1曲めが終わって次はミツメなんですが、曲がはじまってしばらくして歌がはじまって、直枝さんが「なんだっけこれ?」っていうんですよ。「ミツメです」っていったら、「いやそうじゃない。この曲なんだっけ?」って。本人もわからないくらいミツメの“Young Wise Men”のアレンジが変わっていて、それがすごい僕はおもしろかった。ある意味では、誰の思惑のなかにもなかったものができあがったんだという気がして僕はよかったと思いました。

矢部さんや鳥羽修さんが参加しているのはどういういきさつですか?

澤部:僕は最初、“オフィーリア”をやろうとしていたんだけど、リストを見て、矢部さんの曲が入っていないから、「矢部さんの曲を、俺やりますよ」となった時点で、スタッフさんから矢部さんに参加してもらおう、と提案があってその人が連絡してくれたら即快諾していただいたんです。で、さらにその人のアイディアでうどん兄弟とカメ万のコラボには鳥羽さんに参加してもらったんです。発起人の曲にひとりずつ脱退したメンバーが参加するかたちになったんですよ。

なるほど。でもカメマンは2曲やっているんだから。

澤部:“トロッコ”はマスタリング当日まで作業していましたから、誰かに参加してもらうのはムリでしたね。

なぜそれほど時間がかかったんですか?

佐藤:ずっと試しちゃうんですよ。まとめるのはずっと後になってからで……

でも考えてはいるんですよね。

佐藤:迷っているのが好きなんです。終わるのが好きじゃないんです。ずっとやっていたいんですけど、そうはいかないんですね。

ひとの曲をカヴァーするのでも幾通りも方法論を模索するんですか?

佐藤:はい。じっさいはパッとやったもののほうがうまくいったりすることも多いんでしょうけど、さすがに今回は悩みました。

木津毅、2013年のベスト10選! - ele-king

 昨年のスプリングスティーンの呪いが解けなかった僕は今年、スピルバーグの『リンカーン』にいたく感銘を受けて「市井の人びとの理想主義」を探していたが、それはブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマに、ジャネール・モネイに、あるいはザ・ナショナルに見つけることができた。たしかにそれらは僕が期待するほどこの国で話題になっているとは思えなかったけれど、それでもそういう音楽が、そういう人びとが世のなかにいることに勇気づけられた。だが振り返れば、何よりもジョン・グラントが歌うソウルと孤独に胸をかきむしられた年だったようにも思える。普段あんまりしないけれど、思わず自分の10年後のことを考えたりした。彼の視線に捕まったのは何やら運命的な出来事だった……と書くと、スピってると言われてしまうのだろうか。ああ、そう言えば、来年はスプリングスティーンの新作が出るらしい。



木津毅、2013年の10枚!


1
John Grant / Pale Green Ghosts (Bella Union)

2
Blind Boys of Alabama / I'll Find A Way (Sony Masterworks)

3
Oneohtrix Point Never / R Plus Seven (Warp)

4
Janelle Monáe / The Electric Lady (Bad Boy Entertainment)

5
Tim Hecker / Virgins (Kranky)

6
The Flaming Lips / The Terror (Lovely Sorts of Death Records)

7
Volcano Choir / Repave (Jagjaguwar)

8
The National / Trouble Will Find Me (4AD)

9
The Haxan Cloak / Excavation (Tri Angle)

10
James Blake / Overgrown (Republic)

松浦俊夫 - ele-king

今年11年ぶりに新しいプロジェクト"HEX"でアルバムをブルーノートからリリースした松浦俊夫と申します。今年特に印象的だったダンス・ミュージックを10曲選びました。他にもKalabrese,Todd Terje,Tommy Rawson,Omar Souleyman,Moritz von Oswald & Nils Petter Molvaerなど素晴らしい作品が沢山発表されました。来年もたくさんの素晴らしい音楽に出会えますように。来年は夏のヨーロッパ・ツアーを筆頭にHEXの活動を本格化させていきますのでどうぞよろしくお願いします。

https://www.toshiomatsuura.com/
https://www.hex-music.com/
https://www.universal-music.co.jp/hex/

BEST DANCE TRACKS 2013(順不同)


Fat Freddy's Drop / Mother Mother(P-Vine)

Jimpster / These Times -Dixon Retouch (Freerange)

Koreless / Sun (Young Turks)

Diego Barber & Hugo Cipres / Poncho (Origin)

DJ Rashad & DJ Manny / Drums Please(Hyperdub)

Satanicpornocultshop / Maiden Voyage (neji/nunulaxnulan)

Bonobo / Cirrus (Ninja Tune/Beat)

Soy Mustafa / Bug In The Bassbin (Cinematic Recordings)

Haim / Falling-Duke Dumont Remix (Polydor)

Disclosure / January (Universal)

 

 こんにちは、NaBaBaです。年の瀬迫る今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。今年もあっという間に過ぎてしまいましたが、ゲーム業界的には非常に盛り上がった1年でした。PlayStation 4とXbox Oneの二大次世代機も北米と欧州ではついに発売となり、どちらも品切れ続出の大人気のようです。

 そんな僕もじつはPlayStation 4の北米発売日である11月15日に、ロサンゼルス旅行に行ってきました。あいにくゲーム機そのものは手に入らなかったのですが、発売日の深夜販売に合流してみたり、個人のゲーム・ショップで店員さんたちといっしょに遊んだりして、向こうのゲーム熱を直に感じてきたのです。

 
L.A.市内のゲーム・ショップ『World 8』にて。店員さんたちと開封したてのPlayStation 4で遊んだときの様子。

 そしてこのロサンゼルスを舞台のモチーフにしているのが、今年最大の超大作である『Grand Theft Auto V』です。〈Rockstar Games〉の看板シリーズであり、昔『Grand Theft Auto III』が日本で発売されたときには、その暴力的内容から神奈川県で有害図書に認定されるという事件もありました。そうしたことから名前だけは知っている方も多いのではないでしょうか。

 そんなシリーズの最新作である本作は発売されるや否や、数々の記録を打ち立てています。まず開発費が約2.65億ドルと歴代ゲーム1位(2位は前作『Grand Theft Auto IV』の1億ドル)で、しかも発売初日に8億ドル以上売り上げ、発売6週で約2,900万本も売り上げるなど、化物みたいな数字が目白押し。さらにVGX等の数多くのアワードでもGame of the Yearを受賞しています。

 そんなあらゆる面において今年を代表し、また今世代の集大成と呼ぶにふさわしい本作のレヴューで以て、このコーナーも今年を締め括りたいと思います。

■進化・改善と新要素

 先程『Grand Theft Auto V』を今世代の集大成と呼んだのは、何も比喩的な意味ばかりではありません。〈Rockstar Games〉の作品としては、今世代に発売された『Grand Theft Auto IV』のオープンワールドゲームとしての骨格の上に、『Red Dead Redemption』の自然表現やランダムミッションシステム、『Max Payne 3』のシューティングシステム等といった長所を組み合わせた、正しく字のままの集大成として仕上がっているからです。

 舞台となるSan Andreas地方は、都市部と自然が織り成す、〈Rockstar Games〉の作品の中ではもっとも広大なもの。そこに詰め込まれているアクティヴィティも膨大で、現代のロサンゼルスに存在するであろう、あらゆる事物を徹底的に再現し、その上で現実では体験できないフィクションを織り交ぜています。シリーズはおろかオープンワールドゲームの中でも史上最大の物量だと密度と言っても過言ではありません。

 
シリーズ最大の舞台を、もっとも洗練されたゲーム・システムで楽しめる。

 さて、こうした進化と改善に対して、今回からの新要素はなんといっても3人の主人公によるザッピングシステムでしょう。本作ではMichael、Franklin、Trevorというそれぞれまったく別の境遇の3人組が、お互い協力して数々の犯罪に挑んでいきます。そしてゲーム的にもプレイヤーはこの3人を使い分けながら攻略していくことになり、ゲーム全体を通して非常に重要なシステムとしてフィーチャーされています。

 ではここから、前半はオープンワールドとメインミッションについて、後半は世界観の考察を交えながら、シナリオに対してこのザッピングシステムが持つ功罪について、考えていくことにしましょう。

本作の特徴についてはこの公式解説動画がもっとも纏まっている。

■3人の主人公と3種類の視点

 オープンワールドゲームとしてのこの主人公のザッピングシステムは、まずはミッション中でなければ基本的にいつでも自由に操作キャラを切り替えられるという点で、遊ぶ上での利便性に寄与しています。たとえば別々の場所にいる主人公たちを切り替えることで移動の手間が多少省けるし、また、いまやっていることに飽きても他の主人公に切り替えることで、心機一転して別のことに取り組むきっかけになるのが面白い。

 しかしそれ以上に個性や行えることが違う主人公たちを切り替えることで、ひとつの舞台を三者三様の角度から楽しむことができるのが効用としてはもっとも大きいと感じます。典型的なのがTrevorで、彼の破滅的な性格、言動はプレイヤーの遊び方をも自然と暴力的な方向に導いていく。MichaelやFranklinでは性格的に似合わない大量虐殺もTrevorだったら起こし得るし、実際そういう趣旨のイベントもたくさんあります。

 
Trevorの狂気はプレイヤーの暴力的衝動を掻き立ててくれる。

 前作『Grand Theft Auto IV 』でリアリティとシリアス路線の観点からトーン・ダウンしたシリーズ元来の暴力的ハチャメチャプレイが、Trevorというキャラによってリアリティを損なうことなく実現できた意義は大変大きい。シリーズのどのタイトルのファンにとってもうれしい改善だと言えます。

[[SplitPage]]

■格好良い+ 格好良い +格好良い=超格好良い!

 『Grand Theft Auto V』の遊びの本軸となるメインミッションでも、先程のザッピングシステムは効果を発揮しており、ここではひとつの出来事を多角的に、かつよりスペクタクルに描き出すものとして、さらには攻略における戦術的オプションとしても機能しています。

 本作のメインミッションは前述した通り、3人が協力して大仕事に挑むパターンが多い。プレイヤーは異なる役割の3人を任意に切り替えたり、または自動で切り替わったりするなかでひとつのミッションを攻略していくことになります。

 これは簡単に言えば、3人の主人公の格好良い瞬間を切り貼りして、全体が構成されているという感じ。なので展開が常に引き締まっていて中弛みがなく、ひとつの出来事を多角的に見れるので物語としての厚みも増す。また役割が3人に分散するので、従来のゲームに見られた、主人公がひとりで全部やるみたいなことが起きず、リアリティにも貢献しています。

ミッション中のザッピングシステムの機能は、映像を直接見てもらうのが理解する近道だろう。

 メインミッションでは大抵の場合頻繁にキャラクターを切り替えることになりますが、こうしたシステムで懸念材料になるのが、キャラクターを切り替えたときに状況が把握しきれず混乱しかねないことだと思います。しかし本作では不思議なくらいこの問題は起きませんでした。

 それは良くも悪くもこのシリーズのミッションには、もともと戦略の自由度が無いからなのでしょう。とくに04年発売の『Grand Theft Auto: San Andreas 』以降のミッションは紋切型ばかりで、大局的な目線で立ち回りを考えたりといった、創意工夫を許す余地がありません。この点がいままでは欠点のひとつとして度々指摘されてきたわけですが、しかし本作に限ってはその指示された通りやればいいという単純さが、むしろ主人公を使い分ける際に混乱を抑制するプラスの効果を生んでいるのです。

 また違う立場のキャラクターに切り替える機能は戦略の幅には寄与しなくとも、局所的な戦術という意味では自由度を増やしてくれています。たとえば1人が迷路のような場所を進み、もう1人が遠方からスナイパー・ライフルで援護するというシチュエーションの場合、片方の操作に専念するか、交互に使い分けるか、またその割合等もプレイヤーの裁量に委ねられるのです。

 
定番の狙撃で援護する場面も、する側とされる側を自由に切り替えられるとなれば俄然面白くなる。

 そうした点を考えれば、紋切型という根本的な構造自体は変わっていませんが、むしろ紋切型としては、従来のゲームには無いシステムがとても新鮮で、かつそれがしっかり機能していて、とても面白いものに仕上がっていると思います。

■リーマンショック以降のアメリカ社会を切る

 問題はシナリオで、ザッピングシステムがほぼ完璧に機能していると感じた先の2件に比べて、こちらは不満に感じる部分が結構ありました。しかしその点を語る前に、まずは本作の全体的な世界観から考察していきたいと思います。

 このシリーズの世界観の特徴は、一貫してアメリカ社会の風刺であると思っていますが、本作ではとくにその傾向が強い。なぜなら今までのシリーズはギャングやマフィアといった裏社会の出来事を中心に描いていたのに対し、本作ではより一般人と表社会に近いところで物語が展開されるからです。

 もっともわかりやすい例が主人公たちに仕事を依頼するクライアントや敵対者たちで、これまでのような裏社会の犯罪者はほんのわずかで、かわりに実業家やFIBやIAA(FBIとCIAのパロディ)の捜査官、パパラッチやエクササイズ・マニアだとかいった、ほとんどが表社会や公的機関の人々。そんな彼らが金を稼ぐため、社会で生き残るため、あるいは狂気の結果として、主人公たちに不正行為の外注をするわけです。

 
実業家のDevin Weston。儲け話でそそのかしながら、報酬を出し渋る嫌な奴だ。

 さらに街を見回してみると、現代社会のさまざまな事物が強迫観念的に誇張されて描かれています。経済問題やセレブの堕落といった話題がニュースの紙面を賑わせ、IT会社のCEOは児童労働を高らかに宣言し、保守主義と社会主義の知事候補が日々過激な罵り合いを繰り広げ、TwitterやFacebookを模したSNSを見ると人々はヤクやセックスの話ばかりしている。

 
現実では建前の奥に隠している本音も、本作では皆堂々と曝け出している。

 そこから浮かび上がってくるのはリーマンショック以降のアメリカの姿です。不景気や相次ぐ社会問題に喘ぎ、しかしかつての栄華を捨てきれずに体裁だけ整えようと、皆が必死になっている姿がそこにはある。劇中ではどれも表現が過激で往々にしてコミカルに見えるますが、捉えている問題は極めて現実的でシリアスなものです。

 そんな世界において、主人公たちはある意味ではもっとも被害者なのかもしれません。なにしろほとんどの場合クライアントからは報酬が支払われない。これまでのシリーズでは仕事を請け負えば必ず報酬がありましたが、本作では何かと理由を付けてケチられたり、そもそも初めから無銭労働を強いられる場合も多い。

 当然主人公たちはジリ貧です。物語的にはもちろん、ゲーム的にも出費だけがかさみ、そのうち何もできなくなり、最終的には自ら企画立案した仕事=強盗に挑まざるを得ない状況に追い込まれていく。

 
本作の自主的な強盗の動機は、基本的に生活苦なのである。

 つまり本作は本質的には労働者の物語なのです。これは言うなればウォール街を占拠せよ運動で語られた、1%の富める者と99%の貧する者たちによって繰り広げられる死の舞踏なのです。問題の発露、あるいは解決に犯罪行為が選ばれているだけで、問題そのものはわれわれ一般人の生活のなかにあるものを捉えている。

 そして本作の凄いところは、こうした社会風刺を言うまでもなくオープンワールドゲームとして表現している点にあります。これまでゲームに限らずあらゆるメディアに社会風刺的な作品は存在しましたが、風刺の対象となる社会そのものを仮想現実的に再現してしまうことに関しては、このシリーズに勝るものは他にありません。とりわけ本作はいままで以上に一般人の目線に立った世界観と、先述したシリーズ最高のゲーム・システムが組み合わさり、シリーズとしてもメディア作品としても風刺表現のひとつの極みに達していると言えます。

[[SplitPage]]

■三兎を追う者は何とやら

 問題はここから。世界観と全体的なテーマは文句なしですが、3人の主人公個々の物語として見ると話は違ってきます。結論から言えば主人公が3人になったぶん、視点が分散してしまい、両者とも十分に掘り下げきれないまま話が終わってしまう印象を受けました。

 少なくとも中盤までは大変面白い。ストリート・ギャングと決別し、より現実的な方法で成功を望むもうまくいかず悶々としているFranklinは同世代として共感できるし、家庭崩壊と己の性に苦しむMichaelはいままでのゲームには無かったキャラクター像でとてもユニークです。そんなふたりに正真正銘の外道であるTrevorが合流し、毎回乱痴気騒ぎをしつつも全体的に駄目な方向に堕ちていく様子は、まさに現代版死の舞踏といった感じで、悲劇でも喜劇でもありながら独特の緊張感がある。

 
ついには家族に出て行かれてしまうMichael。

 しかし後半以降になると途端に展開がマンネリ化してしまいます。まずFranklinは本人の目標を早々に達成してしまい、話の本筋にあまり絡まなくなってしまう。TrevorはMichaelのことをチクチク言葉責めするばかりで関係に進展がほとんどないし、3人のクライアントもほぼFIBに固定化されてしまう。

 
Franklinはときどき元ギャング仲間との絡みがあるだけで、後半はほとんど彼自身の物語が展開されない

 こうした後半のマンネリ化に続いて、終盤で物語が収束していく段になっても、個々の出来事にいまひとつ説得力が欠けているのです。極めつけはエンディングです。3種類に分岐するのですが、どれもいままで積み重ねた伏線を回収しきれずに終わるか、もしくはまるで打ち切りマンガのように強引に風呂敷を畳む感じになってしまい、いずれにせよ不満が残ります。

 以上のようなシナリオになってしまったところに、3人主人公というシステムの難しさを感じずにはいられません。エンディングについて、「もっと尺を取って個々の伏線にしっかり決着をつけるべきだった」と言うのは簡単ですが、おそらく律儀にそれをやっていたらただでさえ長大な物語がさらに気の遠くなる長さになっていたに違いありません。後半のマンネリも、3人の個々の物語を展開しつつ、本筋の大きな物語に歩調を合わせることの困難さが露呈してしまっています。

 どうすればうまくいったのか簡単には思いつきませんが、つまりはそのワン・アイディアが足りなかったということでしょう。結論としては一般的なゲームのシナリオとしてはユニークさも完成度も十分と言えますが、個人的にシリーズ最高だったと思っている『Grand Theft Auto IV 』の主人公Nikoの物語と比べると、今回の3人の物語は数段落ちるのが残念でした。

■まとめ

 お金をつぎ込めるだけつぎ込み、現在考えられる究極のゲームを作ったとしたら? その答えのひとつが『Grand Theft Auto V』であり、その圧倒的物量は前代未聞の領域。新しいシステムも含め全体的な完成度はとても高い。

 唯一、シナリオの後半以降の粗が目立ってしまうのが玉に瑕ですが、現代アメリカの風刺としてはこれ以上無いほど極まっており、総合的に見て『Grand Theft Auto』シリーズの名に恥じない傑作と断言できます。ゲーマーは勿論、普段ゲームに興味の無い人にも手にとってほしいと感じる逸品。

 最後に、『Grand Theft Auto V』はとても多義的な作品です。今回はゲーム・システムと物語という観点からレヴューしましたが、よりアメリカン・カルチャーに根ざしたところから本作を考察することもできるでしょうし、犯罪映画の数々と比較して語ることもできるでしょう。

 そして『ele-king』的には何よりも音楽ではないでしょうか。本シリーズは毎回劇中のラジオという形で、時代性に即したさまざまな実在の楽曲が収録されていますが、本作もまた古くはザ・スモール・フェイセスの『オグデンズ・ナット・ゴーン・フレイク』から、近年ならジェイ・ポールの『ジャスミン』等、幅広いジャンルの曲が選ばれています。

 こうした観点からのレヴューも非常に興味深いに違いありませんが、あいにく僕は音楽の専門化ではないので書くのは難しい。むしろ他の誰かが書いてくれないかな! という淡い期待を寄せつつ、本年のレヴューを締め括らせていただきたいと思います。それでは皆さん、よいお年を。



P-RUFF (radloop) - ele-king

次作がMIX TAPEということで、近年リリースのカセット作品10本をセレクトしました。
radloopからの第二弾7inch、Ackky / painting in novemberが好評販売中。
radloop.com
2014年もリリース予定していますのでよろしくお願いします!

CASSETTE TAPE 10選


1
Les Halles -  Magnetophonique - Split II [Carpi Records]
https://carpi-records.bandcamp.com/album/cr-08-split-ii

2
Niityt - Niityt [Ikuisuus]
https://www.ikuisuus.net/products.php?id=7431&kategoriaLevy=12

3
Bataille Solaire - Documentaires [Constellation Tatsu]
https://www.ctatsu.com/portfolio/bataille-solaire/

4
Filthy Huns - Watch of the Bear [NOT NOT FUN]
https://www.notnotfun.com/posts/filthy-huns-st-cs/

5
The Smoke Clears - Listen [Further Records]
https://furtherrecords.org/album/listen

6
Stag Hare - Angel Tech [Space Slave]
https://spaceslave.bandcamp.com/album/angel-tech-2

7
Julia Holter - Live Recordings [NNA Tapes]
https://nnatapes.com/available-releases/julia-holter-live-recordings-c54/

8
Meadowlands - Cross-Sectional Studies [Exo Tapes]
https://exotapes.tumblr.com/post/23054489058/

9
Celer And Hakobune - Vain Shapes And Intricate Parapets [Chemical Tapes]
https://celer.bandcamp.com/album/vain-shapes-and-intricate-parapets

10
Woodpecker Wooliams And Golden Cup Meet Love Cult - In Russia [Full of Nothing]
https://fullofnothing.net/fon38/

今年最高のライヴ体験 - ele-king

黒田さんのマイブラ本が2月に!
■2/14発売予定
『マイブラこそはすべて
~All We Need Is
my bloody valentine~(仮)』

(DU BOOKS)
1890円(税込)

Union

 去る9月30日、東京国際フォーラムホールAにて行われたマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの来日公演は、間違いなく本年のベストに数えられるべきものだった。〈DOMMUNE〉全面プロデュースによる本企画は、ケヴィン・シールズの要望に忠実に構築されたという独自のサウンドシステムと、それを十全に機能させることのできるホールを前提に、音響を浅田泰氏が監修、「配信は勿論無い!!!!!!!」(宇川直宏)というこだわりきった内容で大いに前評判も呼んだ、まさに「ワールドプレミアム・ライヴ」。入場時に耳栓を配るという冗談も洒落ていたが、ときに伝説化され神秘化されすぎもするマイブラ像から、「轟音」への執着というコアを比類ない形で蒸留してみせた点でも非常にクリティカルな試みであったと言えるだろう。
 語り忘れ禁止。ご存知、『シューゲイザー・ディスク・ガイド』の黒田隆憲氏と、当日は最前で観覧してもらったTHE NOVEMBERSの小林祐介氏に、この稀有な体験とマイブラへの思いを語っていただいた。

ホールで聴くマイブラ

今回のマイブラ公演では、着席スタイルでじっくりと音を体験することができましたが、こうした形式は2009年の〈プリマヴェラ・サウンド(Primavera Sound)〉以来ということですね。今回は、やはり東京国際フォーラムという音響環境+着席ライヴというスタイルがキーだったのかなと思うんですが、そのあたりの感想からおうかがいできればと思います。

黒田:着席スタイルっていう点は、けっこう抵抗があるというか、違和感のある人もいたようですね。それもわかるのですが、僕としてはあそこでシガー・ロスを観たときの印象がすごくよくて。音響といい、音のまわりかたといい、素晴らしかったんです。だからマイブラもあそこでやったらすごくいいだろうなって思っていました。期待どおりでしたね。

小林:はじまる前は「音響設備のいいところでやりたかったのかな」という程度にしか思わなかったんですが、いざ体験してみて思ったのは、スタンディングだとお客さんがリズムを刻みながら観られるけれども、そういうことを一旦排除できる状況に持っていくことが重要だったのかなということです。立ちってことは、前の人の身長しだいで音が遮られてしまうってことじゃないですか。

黒田:ああ、なるほど。

小林:客席に傾斜があって、音の響き自体も計算されているホールなわけですよね。サウンド・デザインに重きが置かれているぶん、いろんなものからの干渉を避けているのかなと感じました。

黒田:小林さんはどのへんで観ていらっしゃったんですか?

小林:僕は最前列で、ステージに向かってやや右側。ケヴィン・シールズのほぼ目の前って感じのところでしたね。ケヴィン・シールズを目の前で観られるという贅沢はあったんですが、おそらくはステージの上の生の音がたくさん聴こえていた場所で、舞台の両端あたりにある大きなスピーカーよりも前に出ちゃっている感じの位置だったんです。だから、もっと後ろの他の位置にいた方にはどんなふうに聴こえていたのかなという興味がありますね。

黒田さんは撮影をしながらという変則的な聴かれ方をされていたわけですが、いかがでしたか?

黒田:音としていちばんいいのはPAのど真ん中くらいかなとは思いますけど、僕もずっとステージの麓みたいなところで写真を撮っていて、そこでは音がわんわんと回っているような、音に包まれているような感覚でした。その後、ちょうど“ユー・メイド・ミー・リアライズ”のノイズ・パートのときに、これはやっぱりちょっと後ろで聴きたいなと思いまして、後ろに回ってPAのところで聴いたんです。そしたらやっぱり、すごい立体感があって、とてもよかったですね。あのへんで観ていた方はいちばんよかったかもしれません。

アンプやエフェクターの配線図も見せてもらったのですが、やっぱり曲ごとに使うアンプと組み合わせが決まっているようですね。(黒田)

轟音ではあるけれど、一音一音、しっかり聴こえたっていう感想もよく見かけますね。マイブラって、衝動でノイズや音量を出すというよりも、そのあたりはずっと意識しながらやってきているバンドなんですかね?

黒田:どうでしょうね。ノイズの積み重ね方ということで言えば、のっぺりとした印象ではないですよね。とても立体感がある。それは以前から感じていたことなんですが、今回はより際立ったりしていたかもしれません。

アンプなんかも30個くらい積み上がっていましたけど、そうしたセット、装置含めてお気づきの点があればうかがいたいです。

小林:アンプに関しては、どの曲でどれを使っているのかっていうところまではさすがにわからないんですけど、多少はギミック的な意味もあるのかなと思いました。アンプの壁っていうのは大音量の象徴でもあるわけじゃないですか。でも、たくさんマイクも立てられていたし、実際のところどうなんだろう……。

黒田:なるほど、実は今年2月に来日したときにステージ裏で機材とかを撮らせていただいたことがあって、そのときにエフェクターやアンプのブロック図も見せてもらったのですが、やっぱり曲ごとに使うアンプと組み合わせが決まっているようですね。たとえば“ユー・ネヴァー・シュッド”という曲だったら、はじめのパートではハイワット等のエフェクターが使われているんです。マーシャルとそのふたつをいっしょに鳴らしていて、次のセクションになるとまた別のアンプをいっしょに鳴らしていると……。セクションごとに切り替えているんですよね。“トゥ・ヒア・ノウズ・ホエン”とかだったらこれ、とか。いちおうアンプは全部使っているみたいですよ。

小林:なるほどなるほど!

黒田:だからけっしてギミックでアンプを積み上げているわけではないと思います。

小林:きちんと意味があるんですね、いろいろ腑に落ちました。


“サムタイムズ”というビッグ・サプライズ

2009年にATPの〈ナイトメア・ビフォア・クリスマス〉で彼らがキュレーターをやったときに演奏したきりで、たぶん91年のときもやってないんじゃないかな。

それほど偶然性に左右されないものというか、確固と組みあがっているような種類のものなんでしょうね。

黒田:やっぱりそれはすごくあるみたいですね。今回“サムタイムズ”を1曲めにやったじゃないですか。あれは2月に来たときもリハーサルではやっていた曲なんですね。ビリンダから聞いた話では、ライヴの前のリハーサルでもいつも入れている曲らしいんですけど、どうもそのギター・アンプの感じ……トーンの感じが納得いかないっていうことで、結局ずっとやらないでいたんです。

そうか、“サムタイムズ”はサーヴィスなんですね。

黒田:演奏前にクルーのひとりがセットリストをヒラヒラさせながら、「今日はビッグ・サプライズがあるよ」って言ってました(笑)。他の国では、それまではまったくやってないはずです。2009年にATPの〈ナイトメア・ビフォア・クリスマス〉で彼らがキュレーターをやったときに演奏したきりで、たぶん91年のときもやってないんじゃないかな。だから、今回で、世界で4回めくらいということになりますかね。

小林:へえー。

けっこう思い入れの深い曲ですか?

小林:いや、回数的にレアかどうかっていうようなことは意識したことなかったですけど、もちろんいいなと思っている曲です。

黒田:マイブラ自体はいつぐらいから聴いていらっしゃるんですか? 年齢的には後追いということになりますよね……?

小林:僕は18くらいですかね、聴きはじめたのは。後追いです。

黒田:“サムタイムズ”が『ロスト・イン・トランスレーション』(ソフィア・コッポラ監督映画、2003年)で使われていたのがきっかけだったりしたわけではなく?

小林:そうではないですね。単純に友人のすすめで『ラヴレス』を聴いて、『イズント・エニシング』を買って、という感じです。

黒田:まわりに洋楽詳しい友人がいて、という感じなんですね。

「シューゲイザー」っていう記号性を意識して入っていったんですか?

小林:あんまり「シューゲイザー」って呼ばれているものを理解できないまま聴いていました。ライドとかジーザス・アンド・メリーチェインとかチャプターハウスとかも好きで、「それをシューゲイザーっていうんだよ」って言われて、なるほどって。

そもそも蔑称的な呼び方だったりしますし、オリジナル世代の人たちも「シューゲイザーやってます」って意識はないと思いますけど、後追いのわれわれだと奇妙に神格化されたジャンルとして出会いますよね。

小林:あんまりいいか悪いかを考えることもなく、「シューゲイザー」って呼ばれているのかあという感じで、シューをゲイズするって意味なのかあ、ふーん、という感じでした。だけど、いろんなバンドを聴けば聴くほどマイブラの特殊性とか、他と次元が違うようなところがあるような気がしてきて。


マイブラの「可聴」域

そうですよね。それこそ、アンプがあれだけ積み上がっているのにひとつひとつ意味があったりとか。

小林:アンプが積み重なっていてもマイキングしない人が多いじゃないですか。でもあの公演では細かにしてましたよね。いまシューゲイザーって言われている音は、僕ら自身も含め、手法や機材面での工夫についてのセオリーがある程度でき上がってしまっていると思うんですよ。でも、いざマイブラのライヴを観て聴くと、発想自体がもう僕らの追っているものと違っていると思いました。
僕はこれまで、可聴域というか、ある意味では狭い範囲のなかで音の広がりや表現をイメージしていたんですけど、マイブラって大気のなかのフル・レンジでそれを考えているんじゃないか。倍音成分をどういうふうに出すかってことで、人の深層心理に働きかけるやり方をしているんじゃないか、って思ったんです。
シューゲイザーと呼ばれているバンドは、いわゆる空間系のエフェクターを使うじゃないですか。それって、言ってみれば、本来ない空間を再現するためのものだと思うんです。それに対して、マイブラはフル・レンジで鳴らしている――最初から空気のある、空間の存在しているところを鳴らしているので、僕らが通常頼っているようなエフェクターの使い方をしていないんじゃないかと感じたんです。僕はやっぱり、(あの轟音が)ギターのものとして聴こえたんですよ。いろんな倍音がキラキラしていたり、ぐーっとくぐもっていたり、ギターらしい中域のあたりが聴こえたり、いろんなものがフル・レンジで鳴っていて、全体として塩梅よくなっている。だから耳に痛くないし。
大音量なのに耳に痛くないってすごく難しいことで、それをずっと浴びていたわけですけど、もうこれ以上の音量はないだろうって思ったその先に、“ユー・メイド・ミー・リアライズ”のノイズ・パートが現れて……って、もう、僕のなかで音そのもの、サウンド・デザインそのものへの考え方がそのときガラっと変わりました。

黒田:たしかに空間系のエフェクターってケヴィンはほとんど使ってなくて、リヴァーブとかディレイはほとんど用いないようにしていた……というのは、80年代後半からずっと変わらないはずです。コクトー・ツインズとかそのへんのネオ・サイケ流れのバンドたちというのはモジュレーション系、たとえばコーラスとかよく使っていたんですけど、ケヴィンたちはダイナソー・Jrとかソニック・ユースとかUSのバンドの影響をすごく受けていたので、じつは音がものすごくドライ。そのへんの違いというのは最初からあったみたいですね。

マイブラって大気のなかのフル・レンジでそれを考えているんじゃないか。(小林)

小林:なるほど、そうなんですね! そうやって考えると、日本でいちばんマイブラっぽいことをやっていたのはディップ(dip)なんじゃないかって思うところもあって、ヤマジ(カズヒデ)さんって空間系を使わないわけではないんですけど、鋼が鳴る音の倍音とかにすごい執着があるんじゃないかなって、「ギターっていうのは中域がおいしいんだ」っていう考え方じゃなくて。

黒田:たしかに、マイブラもはじめ『イズント・エニシング』を聴いたときに鋼みたいな音だなって思いました。そういう意味では近いかもしれませんね。

小林:ヤマハの逆再生系のリヴァーブ、SPX900とかはたぶん『ラヴレス』で使っているかなと思うんですけど、そういう特殊系だけですよね。空間というよりは時空を歪めるような使い方というか。

なるほど、技術的ですけど抽象性を帯びた話で興味深いですね。小林さんのマイブラに対するエフェクター観は、現実にない場所を作り出してぶっ飛ぶものではなくて、現実の空気を拡張させるものだ、という感じなんですか。

小林:マイブラがやっていることが、空気を震わせたりすること、つまり目の前に何かを実現させることだとしたら、他のバンドがやっていることは、イヤホンのなかとか、ライヴハウスとか、限られたサウンド・システムのなかで起こっていることを真似ること、という違いがあるような気がします。機材とかを駆使して。広い空間で鳴らしている音像にしたいときも、それを足元でコントロールしたりとかする。それに対してマイブラは大きいところで本当に空気がビリビリいうことで、実際に広がっているし散っているんですよ。……なんというか、マイブラは「実現」していて、他は「再現」しているというふうに感じるんです。抽象的ですけれども。

実現ということで言えば、サウンドの設計図まできっちりと作られているわけで、そこまでの過程がはっきり示されていますね。「シューゲイザー」っていえばリヴァーブで……っていうイメージも一方には強くありますし、あるいは曖昧模糊とした音像ならばもうそう呼んじゃおうというようなところもあるわけですが。

黒田:あとはデカい音でうわーっと鳴らしていれば、っていうところもありますよね。でもマイブラについて言えば、もっとすごく計算されているものではあるんです。


棒立ちの説得力

ビリンダもケヴィンもいっさい身体でリズムを刻まないじゃないですか。足で拍子をとったりとかもいっさいしない。リズム隊とは反対に、一輪挿しみたいな感じで。(小林)

小林:あとものすごく衝撃的だったのは、マイブラのライヴって、けっこうやり直したりとか、まったくキメが粗かったりとか、緊張感がないところがあるじゃないですか。僕はそういうところだけ話に聞いていて、緊張感のなさはあまり好きじゃない音楽に感じることが多かったので、マイブラもそんなふうに、ゆるい感じでやっているのかなと思っていたんです。それに、ビリンダもケヴィンもいっさい身体でリズムを刻まないじゃないですか。足で拍子をとったりとかもいっさいしない。ブレイクやキメを合わせようともしない。リズム隊とは反対に、一輪挿しみたいな感じで。
人ってリズムを刻むと、音をリズムに当てはめてしまうというか、区分してしまうんだと思うんですね。区切りで考えてしまって持続しない。ループするんだけどどこか持続している感覚にならないというか。ケヴィンはずっと船を漕ぐようなピッキングをしていて……

黒田:そうそう、あのピッキングは音に影響していると思いますよね。

小林:はい、そういうのを見ていて、ある瞬間にギュッと緊張感とか焦点を絞っていくっていうこと自体がマイブラのサウンド・デザインのなかで重要ではない、むしろあっちゃいけないんじゃないかと思ったんです。観ている側に視覚的なリズムを与えないようにしているんじゃないかなって。いろんなことを憶測させながらもどこかでつじつまが合っているような説得力を感じます。

黒田:ノイズを出していると、ついついオーバーアクションでかき鳴らす感じになってしまいがちですけどね。それをいっさいやらずに棒立ちで弾いていられるなんてすごいですよね。

小林:凄みがありますよね。

小林さんが指摘するのは、リズムを刻むとひとつの定形に落ちてしまうというようなことでしょうか。たとえばソングという定形とか。マイブラには疾走感ある曲ももちろんあるわけですが、それらもソングとして収まってしまうことから逸脱している、というような?

小林:おそらく、逆にソングということに執着のある人なんじゃないかと思います。ドローンとかノイズをやっていて陥りやすいのが、ソングから逸脱することに執着するがゆえに、ノイズである必要のない音楽をやってしまうこと。ノイズであるってことは、ノイズのないものが同時にあったほうがコントラストを生む場合もあるわけじゃないですか。僕はライヴを観て、マイブラってリズム隊に関してはロック・バンドのひとつのスタンダードであり、しかも質の良いものだって思ったんです。CDよりも躍動感があるなって思ったし。でもそれにギターふたりがグルーヴ優先で乗っていっちゃうと、ソングだけになるかもしれない。自分たちが出している音は持続するものだって思っているのだったら、そこにリズムの正確さは必要ない。リズムはリズム隊がいるから、自分たちは自分たちのやることを全うするんだっていう意志を感じるんですよね。メンバーで確認し合って「せーの!」とかやらないでしょう? ドラムが一生懸命見てるだけ(笑)。

黒田:コルム(・オコーサク)、一生懸命見てましたよね、ケヴィンのこと(笑)。

小林:「♪ユー・メイド・ミー・リアライズ~」って曲が再開する瞬間に、さすがにビリンダとケヴィンは合うのかなと思ったらバラバラで、ドラムが「いっていいのか!?」って感じになってて。合わせようとしないから合うはずがないのに、張本人のケヴィンがちょっと不満そうにしているっていう(笑)。あそこに、もう、逆に徹底してるなって思いました。キメを外すことを恐れてないですね、まったく。

黒田:普通だったらキメを合わせるっていうところはとても意識して、大事にするものですけど、彼らはあんまり気にしてないというか。

小林:気にしてないですよね。すごいですよね。

ライヴのスタイルとしてもそのへんの変遷はとくにない感じですか。

黒田:もう、ずっとですね。91年のころから、さっき小林さんもおっしゃったように一輪挿しのようになっていて。フォーメーションも何もかも、20年前とまったくいっしょですね。

ブレなさすぎですね。普通、変わっていかなきゃっていう強迫観念とかもあったりするものじゃないかと思いますが。本当にマイペースというか、「十年一枚」みたいな世界ですね(笑)。

[[SplitPage]]

キャリア総決算、そして新しい章へ

今回の公演が、言ってみれば「ラヴレス・ツアー」というか、90年代からやりたくてやれなかったことを、ようやくほぼ十全なかたちでやれるようになった、その総決算というようなものになったんじゃないかと感じますね。(黒田)

さて、つねにこの前のような環境でライヴができるわけではないと思いますが、たとえば90年代のマイブラはそういう設備の問題について不満に思ったりしていたんでしょうかね?

黒田:それはすごく言ってますね。当時はぜんぜん納得がいかなくて、ようやくよくなってきたと。再始動していちばんはじめについたエンジニアも、マイケル・ブレナンという、プライマル・スクリームとかザ・キュアーとかをやっている人なので、彼とだったらうまくいくだろうと思ったみたいですね。先ほどのアンプとかエフェクターを切り替えるシステムみたいなものについても、ああいうものを作れるマイク・ヒルというエンジニアがいて、その人にエフェクターのシステムを組んでもらったと言ってました。ギャラがすごい高額だそうですが。

では、スタイルは変わらないながらも、ひとつの理想のかたちへとどんどん近づいているということなんでしょうね。

黒田:たぶん90年代の時点で、ケヴィンには何をやりたいのかといったヴィジョンがはっきりあったんだと思います。ただ、技術もサウンド面もそこに追いついていなかったのが、ようやくいま納得のいくかたちが見えてくるようになったと。

小林:その理想のヴィジョンみたいなものが持てるということがすごいと思います。

小林さんは同じアーティストとしての視線で見ていらっしゃる部分もあるかと思いますが、いかがですか。

小林:もちろんです。単純に、畏敬の念を改めて抱いたと言うに尽きますね。音楽を作っている人、いない人に関わらず感じることだとは思うんですが、たとえば先ほどのキメの話。精度の高い音楽とされているものの条件として、リズム――どれだけそれが正確無比なものであるか、整えられているかというような価値観があるかと思うんですが、僕はそういうこととは別のところに美点を見たり、執念を燃やしたりしているんです。その意味で、音楽について自分たちなりの基準やセオリーは持っていたし、いい意味で時代に合うような部分もあったのですが、一回そこから洗い直そうかなというきっかけになったのがこのライヴでした。それが数値化できる良さ/悪さなのだったとしたら、いちど捨ててみようって。現象として、実際に目の前の空気を震わせること……メロディがいいから感動するとかって次元じゃないじゃないですか、マイブラって。イヤホンだとどうしても無理な体験だったし、CDとかの音源自体の価値が問われているときに、現場でできることっていうのは、そういう体験をどこまで特別にできるかってことだと思っていて。その特別さっていうことにおいては、昔からケヴィンのやっていることはずば抜けているわけだから、本当にすごいなって感じます。すごいな、というか、それは自分のためなんでしょうけれど。自分のためだからこそここまでできる。

黒田:そうですね。

近年のライヴのなかで比較すると、この間の公演をどのように位置づけておられますか?

黒田:まず今回は、新作をどのくらいやるのかというところをすごく楽しみにしていました。〈TOKYO ROCKS〉が中止になってしまいましたが、ケヴィンは2月の時点で、そこで新曲を5曲やりたいって言ってたんですね。それを心待ちにしていたので残念だったのですが、その分、DOMMUNEでは新曲をいくつかやってくれるんだろうなって思っていました。なので“フー・シーズ・ユー”が聴けたのはすごくよかったです。

ファンとしてのすごくリアルなご感想ですね!

黒田:(笑)もちろんファンとしてですよ、ことマイブラに関しては。「まっさらな新曲をやる」というアナウンスが事前にされていたようなんですが、ケヴィン自身はもともとそのつもりがなかったようなので、ファンがガッカリするんじゃないかと気にしていたみたいですね。
 ライヴの位置づけとしては、どうですかね。来月からの北米ツアーで、一旦ライヴは終わりになって、それからニュー・シングルを作るベクトルに向かうことになると思います。そういう意味では、今回の公演が、言ってみれば「ラヴレス・ツアー」というか、90年代からやりたくてやれなかったことを、ようやくほぼ十全なかたちでやれるようになった、その総決算というようなものになったんじゃないかと感じますね。次、本当にまっさらな新曲がでてきたときには、もしかしたらシステムとかを全部洗い直したまったく別のステージになったりしているかもしれませんよね。またまったく同じものかもしれませんけどね(笑)。

そうか、新作に対してはすごく意欲を燃やしてるってことですね。

黒田:すごいありますね。2、3ヶ月くらい前ですかね、ケヴィンがアイルランドへ引っ越したんです。牧場みたいなところで、鹿が住んでいるような環境なんですけど、そこの納屋を改造してスタジオを作って、録音をしようと思っているみたいです。

シガー・ロスもアヒルとか牛とかが悠々と歩いている森のなかにスタジオを構えているみたいですね。今年の新作はどのように聴かれました?


メロディ自体は96年くらいから頭にあったらしいです。(黒田)

小林:僕はフリーティング・ジョイズとかアストロ・ブライトとか、マイブラ・フォロワーの作品にも興味があって聴いていたんですけど、聴くたびに「研究してるなあ」って思っていました。だからマイブラがマイブラ・フォロワーみたいな新譜を作ったらちょっとがっかりしちゃうなあって。あと、妙にいまっぽい曲とかだったらいやだなあとも思っていました。けれど、実際には仙人というか、何も変わらなくて……いや、変わらないというよりは継続しているという感じでしょうか。それがすごいなあと思いました。

黒田:『ラヴレス』の延長で聴かれました?

小林:感じないこともないですけど、どちらかといえばソング寄りというか。

黒田:曲が際立っている感じがありましたよね。

小林:そうですね。それで言えば、ライヴでもヴォーカルの音量がすごく小さいのは意図的なものなのかなと思って。人って、人の声や歌に耳を向ける習性があると思うんですけど、小さければ小さいほど耳を澄ませますよね。僕は耳を澄まさないですむ音楽ほど人の注意をひかないものはないと思っているんです。その点、マイブラは轟音なんだけど、耳を澄まさなきゃいけない。

なるほど、轟音のパラドクスといいますか。

小林:何かが大きいということは、相対的に何かが小さいということとイコールなわけですよね。歌をどう捉えているかというのは本人じゃないからわからないんですけど、彼らの歌や音楽に対しては、どちらかというと僕はきちっと座って、きき耳を立てて聴く感じです。


マイブラは轟音なんだけど、耳を澄まさなきゃいけない。(小林)

黒田:メロディを大切にしているなというのは以前から感じていたし、今回も感じましたね。

新譜を出すにあたって、このタイミングというのは自然なものだったんでしょうかね。自分たちのなかで納得のいくかたちになったのがたまたまいまだったというような。

黒田:もともと作っていたのはかなり前からみたいですね。メロディ自体は96年くらいから頭にあったらしいです(笑)。

(一同笑)

黒田:ギターだけだったりとか、断片としては音源が存在していたということで、そのままボツになっていたんだけど、2006年にリマスターのプロジェクトがはじまって――あれ自体が10年ほどかかっているわけですよね――、当時のマルチ・テープとかを聴き直しているときに、その素材を久しぶりに見つけて、けっこういいなと感じたらしいです。それで、頭のなかにメロディも残っているし、この素材を使って何か新しいものができるなと思って作りはじめたのが2010年くらいということのようですね。ほんとに10年越しでようやくできた作品。

小林:へえー。

黒田:それを全部吐き出して、これから作るものが本当の意味で新しい書き下ろしになるっていう。

小林:そうなんですね!

黒田:ケヴィンの脳内の筋書きでは(笑)。


ペダル・フェティシズム

小林:“ユー・メイド・ミー・リアライズ”でゴーっと轟音が押し寄せた後に、もう一段階レンジが広がったなっていう瞬間があって、そのとき踏んだのがたぶんこれじゃないかな。ワーミー。低いドから高いドに上げるっていうような移動ができるものなんです。大気がひとつ動く。さっきまで耳のなかが中低域までで飽和していたのに、次の瞬間、急に高音域を感じるので、音量は変わらないけど「うわっ」ってなるんですよ。一段階上に上がったっていう感じ。

光量が一気に増したような瞬間がありましたね。ペダルへのこだわりというのはあると思いますが、必ずしもフェティシズムに結びつかない気もします。

黒田:でも相当なペダル・フェチですよ。来日するたびに御茶ノ水に行って、缶詰を買うようにペダルをカゴに入れているらしいです(笑)。

小林:ははは。写真の中にも(※)見たことないようなやつがいっぱいありますね。

   ※使用しているペダルの写真を見ながら

黒田:倍音みたいなことは相当考えているんでしょうね。トーン・ペダルっていうか、EQもいっぱい使っているし。

小林:これなんかもアナログ・ディレイだと思うんですけど……、あっ、しかも改造してますね。

黒田:そう、ピート・コーニッシュのやつもけっこう使ってますね。このへんはビッグ・マフの――

小林:トライアングルですね。あとはこのルーパーが気になるというか。何のあたりで使ってるんでしょうね。

黒田:何でしょうね? でも“オンリー・シャロウ”とかループっぽいことをけっこうやってるみたいなんですよね。そのへんかな。……それからこれ。「シューゲイザー」があります(笑)。

小林:このエフェクターもちょっと話題になりましたよね。ケヴィン本人が使っているというのがいいですね(笑)。示唆的というか。

“ユー・メイド・ミー・リアライズ”でゴーっと轟音が押し寄せた後に、もう一段階レンジが広がったなっていう瞬間があって、そのとき踏んだのがたぶんこれじゃないかな。ワーミー。(小林)

小林:ビリンダが使っているものも気になります。……彼女は本当に変わらないというか、ずっと美しいですよね。

黒田:ほんとにね(笑)。

小林:お客さんが「ビリンダー!」って叫んでましたよ。

黒田:ビリンダ・コールがすごかったですね。Tシャツも売ってましたよ、ビリンダの。……それで、これが彼女のセッティングなんですが。

小林:オクターバーありますね、やっぱり。

黒田:それから、マイブラはベースのエフェクターもいっぱい使ってるんですよ。

小林:あ、うちのベースが使ってるやつもありますね。

詳しくないんですが、ベースって一般的にそんなにエフェクターを使うものなんですか?

黒田:こんなに使うベースは珍しいですよね。しかもパッチが組んであって。

へえー。ベースの場合、耳でちゃんとその差がわかります?

黒田:ケヴィンはたぶん完全に聴き取れているんでしょうけど。でも、ライヴを観ていてよかったのは、デビーのベースが素晴らしかったことですね。

小林:デビー、いいですよね……。

黒田:かなドライヴ感があって、曲を引っ張っているのがわかりましたね。しかも、プライマル・スクリームに一回入ったじゃないですか。

小林:あ、そうですよね。

黒田:あれでまた一段階、グルーヴが増した気がします。

小林:デビーはデビーで、弦を弾く位置を変えたりとか、いろいろやってますよね。それによってより低音を出したりできるんですが、ケヴィンに合わせているのか曲に合わせているのか、とにかくいろんな工夫をしているのがわかりました。目からウロコというか、ますます「適当じゃない」ってことがわかりましたね。

[[SplitPage]]

“オンリー・シャロウ”、カヴァー秘話

小林:バンドマン目線でいちばんグッときたのはじつはドラムで。ひとりだけちょっとハード・ロック臭がするというか(笑)、毎回同じ位置にタム回しが入ってシンバルが入って……って、ほんと一発芸みたいな感じもあるんですけど、すごく一生懸命。見ていてすごく上がるというか、無気力なふたりのルックスとの対比が凄まじいんです(笑)。

黒田:はははは。

小林:いちばんがんばっているというか。

黒田:あと、フジロックからはサポートの女の子を連れて来日してますが、ジェーン・マルコという人で、グレアム・コクソンのツアーのサポートとかもやっていた子なんです。彼女が入ったことで、ほんとにギターの厚みが出せるようになりましたね。
以前はテープの音に重ねたりもしていたんですよ。たとえば“オンリー・シャロウ”なんてギターが相当重なっているので、ケヴィンとビリンダだけでは出せなくて、テープでギターの音を出したりしていたようなんです。それがケヴィンは相当嫌だったらしくて。ジェーン・マルコが入ったことで、そのあたりのパフォーマンスがすごく上がったんじゃないかな。

サポートというだけなら、これまでにも入れられそうなものですが……?

黒田:97年のときには、「♪テーレーレッ、テーレーレー……」っていうところ(“アイ・オンリー・セッド”)や“ホエン・ユー・スリープ”のシンセなんかはフルート奏者が吹いてたんですよ。

小林:ええー、それもすごい(笑)。

黒田:なんか、違和感がありまくりでした(笑)。


の音に重ねたりもしていたんですよ。たとえば“オンリー・シャロウ”なんてギターが相当重なっているので、ケヴィンとビリンダだけでは出せなくて、テープでギターの音を出したりしていたようなんです。(黒田)

小林:僕、“オンリー・シャロウ”は、〈ジャパン・ジャム〉っていうイヴェントでプラスティック・トゥリーの有村(竜太朗)さんと、ディップのヤマジ(カズヒデ)さんを招いて、ノーヴェンバーズでカヴァーしたことがあるんですよ。

黒田:へえー。

小林:やっぱりギターが4人になったおかげで、あの曲がわりと再現できたんじゃないかなと思うんです。エフェクトとかも工夫して。あの曲の代名詞になっているともいえる、「ギュイーン」っていう音がありますよね? あれって逆再生のリヴァーヴで、自分としては必要不可欠な要素だと思って聴いていたんですよ。それが、この前のライヴではその逆再生要素がなかった。「ギュイーン」っていうのを2~3パターン使い分けて弾いていただけだったんです。僕はそれが本当に衝撃でした。それでショボくなっていなくて。むしろ、まさに倍音というか、鋼の音がヒリヒリいいながら立ち上がってくるような感じを生で出す凄みがあったんですね。だから、そういうイメージをCDとしてパッケージングするにあたって逆再生のようなギミックが必要だったというだけで、本来のイメージはあのライヴのようなかたちだったのかなと思いました。歪んだギターで「ギュイーン」ってやるだけなら、ふつうに高校生でもできることなんですけど、音像がああいうふうになっただけでまったく感じ方が違うというか。あれはすごいことです。僕たちもただ歪ませただけのパターンもやってみたんですが、それだとほんとにショボいというか、ただの「熱いロック」になって終わってしまうんですよね。そのへんの塩梅が、彼らはとにかく素晴らしいということを実感しました。

あの曲の代名詞になっているともいえる、「ギュイーン」っていう音がありますよね? あれって逆再生のリヴァーヴで、自分としては必要不可欠な要素だと思って聴いていたんですよ。(小林)

小林:あとはアコギの使い方が常軌を逸してますよね。なんでアコギなんか持つんだろう? っていう感じなんですけど、ああ、なるほど、これがあの独特の倍音感を生むのかって納得させられることがすごく多かったです。アコギを繊細に鳴らしたり、フォーキーに用いる人はいくらでも知ってるんですけど、ああいう音像にする人というのはちょっと……。だから無国籍な感じがするというか、非民族的なものに感じる瞬間がありました。

黒田:変則チューニングのせいもありますかね。

小林:あ、そうですね。やたら持ち替えてましたしね、ギター。

黒田:1曲ごとにね(笑)。

4人でカヴァーされたときは、音のつくり方については耳だけで研究吟味したわけですか?

小林:最初は安直な感じで、ネットで誰か再現していないか探したんです。けっこう動画が上がってたんですけど、でもみんなバックのコード弾きだけで、「ギュイーン」を誰もやっていないんですよ。譜面もいろいろ探したんですけど、結局エフェクターが決まってないと、探したって仕方ないよってことになりまして。それでさんざん調整した挙句に行き着いたのが、逆再生のリヴァーブにオクターブを足したりっていうやり方だったんです。でもさっき言ったように、この間のライヴを観るとイメージしていたものがむしろ逆だったので、CDに限界があっただけなのかもしれません。

黒田:真似をするにも、「ああでもないこうでもない」ってやりがいがあるわけですね。

小林:ほんとにそうですよね。

黒田:忠実に再現できなかったとしても、そうやっている過程自体が楽しそうですよね。そのうちに、自分たちで新しい音を見つけちゃったりするかもしれないですし。そのへんがやっぱり、たくさんのアーティストに影響を与えたり、インスパイアさせる要因になっているんじゃないですかね。

大きななぞかけですね。それを解いていくことが新たな創作にもつながるというような。たしかに消費されるバンドという感じがまったくしてこないですからね。

小林:消費しようにもしきれないですね(笑)。

黒田:本人はぜんぜん秘密主義でもなんでもなくて、写真もたくさん撮らせてくれました。だけど、同じものを揃えてやってみても、絶対に同じ音は出せないと思っているのかもしれませんね。秘密主義ではないけれどミステリアスなことが多すぎるから、いろんな解釈ができます。

だから、「歳とっちゃったけどがんばってやってるね」って感じにはぜんぜんならないですよね。

小林:そうですね。


人はなぜ轟音に惹かれるのか

もしかしたら子宮の中っていうのはこんな感じなのかな、とか。(黒田)

そして、たくさんのフォロワーがそこから生まれてもくるわけですが、いまなお「シューゲイザー」なるジャンルは強固に存在して、新しい才能を生んだりもしていますね。脈々と絶えることなく存在している印象もありますが、大きなリヴァイヴァルがどこかのタイミングであったと認識されていますか?

小林:ニューゲイザーっていう言葉が一時期ありましたね。

ありましたね(笑)。無理くりですけども。ただ、それはかなり近年のことになります。その根元にあたるような動き・タイミングとしては、何か記憶されていますか?

黒田:そうですね、〈モール・ミュージック〉からスロウダイヴのトリビュート・アルバム『ブルー・スカイド・アン・クリア(Blue Skied an Clear)』が出たのが02年で、そのあたりはひとつ考えられますね。ウルリッヒ・シュナウスとかマニュアルとかが参加していて、エレクトロニカ周辺の人たちが、音響的にシューゲイザーを見直すみたいな流れがあったと思います。そのあたりから「ニューゲイザー」と呼ばれるようなものが出てきたんじゃないでしょうか。マイブラが再始動した2008年くらいには、ディアハンターとかTV・オン・ザ・レディオとか、ザ・ナショナルとかが、マイブラやシューゲイザーから影響を受けたということをすごく言ってましたね。そういう流れもある。あとは、ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートも初期マイブラの影響を受けていますよね。


〈モール・ミュージック〉からスロウダイヴのトリビュート・アルバム出たのが02年で、ウルリッヒ・シュナウスとかマニュアルとかが参加していて、エレクトロニカ周辺の人たちが、音響的にシューゲイザーを見直すみたいな流れがあったと思います。(黒田)

ああ、ギター・ポップ解釈というか。なるほど、たしかに流れはいくつかありますよね。エレクトロニカとの接点というのは、スロウダイヴに鍵があったんですね。

黒田:そうそう。スロウダイヴ自体が、ブライアン・イーノも参加した『ソウヴラキ(SOUVLAKI)』でアンビエントの方向に行ったりとかっていう性格も持っていたので、エレクトロニカ勢も入りやすかったというか、親和性はあったと思います。

ああ、なるほど。マニュアルがシューゲイザーの棚に入っていたりするのは、一見謎だったりもするんですけどね。

黒田:でもボーズ・オブ・カナダにもマイブラを感じたりしますよ。シンセをレイヤードしていって、空間をぐにゃっと歪めるようなやり方は、すごくマイブラっぽいなと当時から思っていました。

小林:日本だとコールター・オブ・ザ・ディーパーズとかも明言していましたよね。マイブラやりたいとかって。あと、僕は裸のラリーズにも似たようなものを感じるんです。あの人たちも徹底的な轟音のなかでサイケデリックな歌を歌って。

黒田:へえー、なるほどね。

小林:あとはアリエルとかもエレクトロニックとシューゲイザーの接点というところではひとつの価値観を提示していると思います。

ああ、アリエル。『ザ・バトル・オブ・シーランド』ですかね。

小林:ああ、そうですね。あとはノー・ジョイ。セカンドとかはけっこう好きでした。

ちょっとドゥーミーな感じが入ってきますね。あっさり括ることはできないんですが、轟音という音や概念そのものに、人々は尽きせぬ興味を抱きつづけていますよね。そういう興味のコアには何があるんだと思いますか?

黒田:何でしょうね。僕もなぜ轟音に惹かれるんだろう、って考えるんですよ。アストロ・ブライトって、“ユー・メイド・ミー・リアライズ”なんかの音像をそのまま引き延ばしたようなバンドなんですけれども、あれを聴いていて思うのは「このなかにいると落ち着くな」ということなんですね。もしかしたら子宮の中っていうのはこんな感じなのかな、とか。

ああー。『ラヴレス』のジャケットとかだと、赤ちゃんのエコー写真と似ている気もしなくはないですね。

経験がどれだけ豊富になっていったとしても、轟音って知識の寡多に関係がないというか。(小林)

小林:たしかに、とてもプリミティヴなものだと言われればそうであるような気もします。赤ちゃんって、まだ感覚が未分化で、知識や経験がない状態ですよね。で、経験がどれだけ豊富になっていったとしても、轟音って知識の寡多に関係がないというか。浴びせられるものはみな同じで、同じようにそれを感じると思うんです。メロディとかは経験や知識によるけれど。

黒田:たしかに、「いいメロディ」を感じさせるのはある程度教育によるものでしょうね。

小林:民族によってはメロディの概念がないと言いますし、ドレミもないわけじゃないですか。太鼓の音とピアノの音がいっしょに聴こえるというふうな話を聞いたことがありますね。でも轟音っていうようなことに対しては、もう先天的なものとして人間のなかに感度があるんじゃないかって思います。だから子宮の中というイメージは腑に落ちますね。

黒田:アートスクールの木下(理樹)くんが言っていたんですが、シューゲイザーというのは「どこが終わりで始まりなのかわからない、泥の海に呑まれていくような、時間が麻痺した感覚」だと。そこに人間の死と近いものを感じると。たしかに、轟音が鳴っているという状態はそこにイントロもアウトロも必要としない場所が生まれているということでもあって、そのなかにいると時間の感覚なんかも奪われていくと思うんです。その気持ちよさもあるのかと思いました。

小林:ああ、わかります。まさに忘我というか。ゴーってうるさいはずなのに、聴いているうちにむしろ静かに感じられたりしますよね。

黒田:落ち着いてきたりする感じはありますよね。

小林:それで、鳴りやんで人の声が聞こえ出すと、何か鳴ってるなって初めて気づくんです。

あの日、ラストのあたりはほとんど無音に感じられる時間がありましたよね。極点を通過しちゃって。

マイブラという規格外のサイズ感

一貫してるんですけど、自然体というか。変に神話に近づこうと意識するわけでもなくて、そこがいいですよね。(小林)

他に気のつかれた点はありますか?

黒田:映像が少しアップデートされてましたね。CGが付いたりして。より抽象的になって、とてもいいと思いました。前は雲とか木の映像なんかを使っていたんですが、そういう具象性が崩れていて、それがサウンドに合っているなと感じました。いくつかの映像はコルムが自分でHi8のカメラを回して作っているようですね。

映像面でのこだわりというか、とくに制作を任せているような監督やクリエイターがいるわけでもなさそうですよね。有名映画監督と絡むとかってこともなく。

黒田:スタッフとコルムでやっているみたいですよ。本当に、ケヴィンってD.I.Y.というか。

小林さんはいかがでした?

小林:映像は……ポケモン・ショックみたいな感じで(笑)。

(一同笑)

黒田:照明もすごかったですからね。

小林:すごかったですね。僕はマイブラを生で観るのが初めてだったんです。しかもいちばん前で。

黒田:いいですね。初めての体験というのはすごく大事ですからね。

小林:自分が感動しているのを自分が置いてけぼりにしているというか。初めて観たという意味での感動というひいき目も入ると思うんですが、あの日に関しては圧倒的に打ちのめされるというか。本当にやばかったです。帰り道、乗り換えがうまくできなかったりとか(笑)。

黒田:はははは。ぼーっとしちゃって。

小林:本当に。モチヴェーションはすごく上がっているのに、何も手につかないというか。曲も手をつけられないし、「今日はまあ寝るか」みたいな日がつづいて……。

けっこうな体験でしたよねえ。さて、音楽以外のところでもうちょっと素朴な感想もうかがってみたいと思います。今日は彼らの「変わらなさ」についての話にひとつ焦点がありましたが、黒田さんはずーっと観てこられて、年月が経ったと感じられたところはありますか。

黒田:ケヴィンが太ったっていうことですかね。しばらく前に一回痩せてましたけど、ちょっとリバウンドしてますね。ギターがお腹の上に乗っかっちゃってた(笑)。それ以外は全部昔のままだと思います。ビリンダもきれいだし。

小林:あはは。僕は、アー写がずっと更新されていないので、わりとそのままのイメージを持っていました(笑)。ビリンダは変わらないですけど、ケヴィンは週末のお父さんみたいな雰囲気がありましたね。自分の中では、ロバート・スミスとの対比でもおもしろく感じました。(ザ・)キュアーも好きなんです。いくら歳をとってもスタイルとしてブレないロバート・スミス……。ケヴィンも一貫してるんですけど、自然体というか。変に神話に近づこうと意識するわけでもなくて、そこがいいですよね。

黒田:そうですね。


なんというか、時間の感覚がほんとにおかしいっていうだけで。(黒田)

小林さんは、ライヴは初めてだけれど、いちど彼らを間近に見ているんですよね?

小林:はい、渋谷の〈TRUMP ROOM〉っていうところのイヴェントに、新木場の公演(2013年2月)を終えた一行が現れて。僕もそのとき遊びに行っていたので、うわーっ! て感激しました。でも、きっとケヴィンとすれ違ったりしていたと思うんですけど、何しろアー写のイメージなので、気づいていなかったかもしれないですね。

黒田:はははは。あのときは本当にもみくちゃになってましたね。

小林:写真撮って! って殺到していましたね。

黒田:でも、そういうのをぜんぜん断らないですよね、ケヴィンって。新木場のライヴが終わった後、出待ちの人が30人くらいいたのかな。寒いなかみんな待っていたからという事情もあったとは思いますけど、ちゃんと車を停めさせて、全員にサインをしてましたね。ライヴで疲れてはいたでしょうけど、ぜんぜんそういうことを気にしない。

なんとなく、狷介なのかなという先入観がありましたけれど。

黒田:ねえ? ちょっと気難しいのかなというようなイメージはありますよね。

小林:僕もそんなイメージでしたね。

「スーン」としか言わない、みたいな(笑)。

小林:新譜も、出す出す詐欺みたいな(笑)。

黒田:ははは。そうですよね、なんというか、時間の感覚がほんとにおかしいっていうだけで。締切の概念が一切ないとか。

小林:なるほど。

ははは。時間の感覚ということになると、今日お話されていたような音の奥の空間性というトピックと重なるところがありますね。

黒田:はじまりと終わりがないという(笑)。

小林:彼に比べたら、僕らは日々の生活を秒針を見守るように生きているのかもしれませんね。


黒田さんのマイブラ本が2月に!
続報を待とう!

■2/14発売予定
『マイブラこそはすべて~All We Need Is my bloody valentine~(仮)』
(DU BOOKS) 詳細 https://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK052
1890円(税込)


Ambient Patrol - ele-king

 『テクノ・ディフィニティヴ』に続いて『アンビエント・ディフィニティヴ』を出さないかと言われた時は本当に戸惑った。スタジオボイス誌に特集を持ちかけた行きがかりもあって、それをベースにしたカタログ本をつくるところまでは勢いで進められたものの、もともと専門家の意識があったわけではないし、単行本化の過程でいかに手に入らない音源が多いか思い知らされたからである。どちらかというと違った考えを持った人が別なタイプのカタログ本を出してくれた方が気が楽になれると思っていたぐらいで、しかし、そういったことは起こらないどころか、僕の知る限り、体系の方法論だったり、構成の仕方に対する批評も批判も何も出てこなかった。もっといえば書評ひとつ出ないのになぜかやたらと売れてしまったし(渋谷のタワーブックスでは年間2位ですよ)。

 これで『テクノ・ディフィニティヴ』までつくったら、ダメ押しになってしまうではないかと思ったものの、前につくった2冊の編集部が閉鎖されることになり、自動的に絶版が決定し、それまで入手できないと思っていたレア盤のいくつかを聴く機会にも恵まれたので(PDUの3大名作が全部、再発されるとは!)、なんとか乗りかかった船をもう一度、押そうかという気になった。ジャン・ジャック・ペリーのソロ作やグラヴィティ・アジャスターズといった過去のそればかりでなく、OPNやメデリン・マーキーといった新人たちの作品が素晴らしかったことも大きい。ルラクルーザ、トモヨシ・ダテ、マシュー・セイジ……。新世代のどの作品も素晴らしく、モーション・シックネス・オブ・タイム・トラヴェルやミラー・トゥ・ミラーをその年の代表作(=大枠)にできなかったのは自分でも驚くぐらいである。

 アンビエント・ミュージックは06年を3回目のピークとしてリリース量はこのところ毎年のように減っている。しかし、これまでにもっともリリース量が多かった94~95年はいわば粗製乱造で、量が多かったからといって必ずしも全体の質もよかったわけではない。金になると思って寄ってきた人が多かったということなのかなんなのか、素晴らしい作品とそうでない作品にはあまりに差があり、いいものは量のなかに埋もれがちだった。ブッダスティック・トランスペアレンツなんて、当時はデザインだけ見て、なんだ、トランスか…と思っていたぐらいだし。セバスチャン・エスコフェの果敢な試みに気がつくのも僕は遅かった。

 最近は、しかし、むしろ、いいものが多すぎて拾いきれないというのが正直なところである。適当に買ってもあまり外さないし、そこそこ満足しがちである。もっといいものがあるかもしれないという強迫観念は90年代よりもいまの方が強くなっている。あると思い込むのも危険だし、だからといっ てないとはやはり言い切れない。これは喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。いずれにしろ『アンビエント・ディフィニティヴ』に間に合わなかった2013年後半のリリースから10点ほどを以下で紹介いたしましょう。すでに本をお持ちの方はプリント・アウトして最後のページに挟みこみましょう~。

1. Patryk Zakrocki / Martian Landscape (Bolt)

 いきなり詳細不明。ポーランドから40歳ぐらいのパーカッション奏者? アニメイター? 基本はジャズ畑なのか、ポーリッシュ・インプロヴァイザー・オーケストラなど様々なグループに属しつつ10枚近くのアルバムと、06年にはポスト・クラシカル的なソロ作もあるみたいで、ここではマリンバによるミニマル・ミュージックを展開。『火星の風景』と題され、子どもの頃にSF映画で観た火星に思いを馳せながら、繊細で優しい音色がどこまでも広がる。ミニマルといっても展開のないそれではなく、山あり谷ありのストーリーありきで、現代音楽にもかかわらずトリップ度100%を超えている。涼しい音の乱舞は夏の定番になること請け合いです。イエー。

2. Various / I Am The Center (Light In The Attic)


Amazon

 これは素晴らしいというか、実にアメリカらしい企画で、1950年から1990年までの40年間(つまり、アンビエント・ミュージックが商業的に成功する直前まで)にアメリカでプライヴェート・リリースされたニュー・エイジ・ミュージックをシアトルの再発系サイケ・レーベルが20曲ほどコンパイル。ヤソスやララージといったビッグ・ネームから『アンビエント・ディフィニティヴ』でも取り上げた多くの作家たちが、かなり良いセンスでまとめられている(こうやって聴くとスティーヴン・ハルパーンもあまりいかがわしく聴こえない)。OPNが『リターナル』をリリースした頃からアメリカでは「アンビエント」ではなく「ニュー・エイジ」という単語がよく使われるようになっていて、アメリカの宗教観がぐらぐらに揺れているのがよくわかる。元がいわゆる私家版だけに詳細を極めるブックレット付き。

3. Donato Dozzy / Plays Bee Mask (Spectrum Spool)


Amazon iTunes

 イタリアン・ダブ・テクノの急先鋒とUSアンダーグラウンドのルーキーが2012年に苗場のラビリンスで意気投合し、ルーム40からリリースされた後者による『ヴェイパーウェアー』を前者がヴェイパー・リミックスするはずが……いつしかフル・アルバムへと発展。DJノブが『ドリーム・イントゥー・ドリーム』でも使っていた曲から驚くほど多様なポテンシャルが引き出されている。ゼロ年代後半からノイズ・ドローンなどを多種多様な実験音楽を展開していたビー・マスクからアンビエント的な側面を取り出したのはエメラルズのジョン・エリオットで、リリースも彼がA&Rを務める〈スペクトラム・シュプール〉から。

(全曲試聴) https://www.youtube.com/playlist?list=PLE9phMAwHQN5V6oNfDk-dVc6eRL5CiNgE

4. Karen Gwyer / Needs Continuum (No Pain In Pop)


Amazon iTunes

 〈ワープ〉に移籍したパッテンのカレイドスコープから13本限定のカセットでデビューしたカレン・ワイアーの2作目で、ミシガン州時代には旧友であるローレル・ヘイローのデトロイト解体プロジェクト、キング・フィーリックスとも関係していたらしい(現在はロンドンに移住)。この夏にはトーン・ホークとのコラボレイション「カウボーイ(フォー・カレン)」でも名が知られるようになり、どことなく方向性がナゾめいてきたものの、ここではクラスターから強迫性を差し引き、なんとも淡々としたフェミニンな変奏がメインをなしている。あるいはジュリアナ・バーウィックとOPNの中間とでもいうか。〈ワープ〉の配信サイト、ブリープが年間ベストのトップ10に選んでいるので、来年はパッテンに続いて〈ワープ〉への移籍も充分にありそう。

5. Gaston Arevalo / Rollin Ballads (Oktaf)


Amazon iTunes

 波に乗っているマーゼン・ジュールがセルフ・レーベル、〈オクターフ〉からアルバム・デビューさせたウルグアイの新人。さざなみのようにオーガニックなドローンを基本としつつ、大した変化もないのにまったく飽きさせない。ペターッとしているのに非常に透明感が高く、何がではなく、ただ「流れ」という概念だけがパッケージされているというか。カレン・ワイアー同様、あまりに淡々としていて人間が演奏していることも忘れてしまいがち。マスタリングはテイラー・デュプリー。

6. Madegg / Cute Dream (Daen)


duennlabel tumblr

 〈デイトリッパー〉からの『キコ』に続いて5曲入りカセット。コロコロと転がる硬い音がアメリカの50年代にあったような電子音楽を想起させるパターンとフィールド・レコーディングを駆使した側面はなんとも日本的(どうしてそう感じるんだろう?)。安らぎと遊びが同居できる感じは初期のワールズ・エンド・ガールフレンドに通じるものがあり、とくにオープニングはトーマス・フェルマンまで掛け合わせたような抜群のセンス。エンディングもいい。フル・アルバムもお願いします。

7. Alio Die & Zeit / A Circular Quest(Hic Sunt Leones)


Amazon iTunes

 ライヴ・アルバムを挟んで4回目のスタジオ・コラボレイト。庭園に降り注ぐ優しい日差しのなかで果てしなくトロケてしまいそうだった3作目とはがらっと違って全体にモノトーンで統一され、悠久の時を感じさせるような仕上がりに。デザインもイスラムの建築物を内外から写したフォトグラフがふんだんに使用され、「カタチあるもの」に残された人間の痕跡になんとなく思いが飛んでしまう。イッツ・オンリー・メディテイション!

8. Aus / Alpha Heaven (Denovali)


Amazon iTunes

 モントリオールから2007年にアンビエント・タッチの『ホワイト・ホース』とノイズじみた『ブラック・ホース』を2枚同時にリリースしてデビューした2人組による10作目で、これはロマンティックなムードに満ちた甘ったれ盤。ロック的な感性というと御幣があるかもしれないけれど、コクトー・ツインズが現役だったら、こんなことをやっていただろうと思わせる感じは、現在の〈トライ・アングル〉とも直結する感性だろう。インダストリアル・ムーヴメントに取り残されたウィチネスが「そっちじゃない、そっちじゃない」と手招きしているような……

9. Tim Hecker / Virgins (Kranky)


Amazon iTunes

 同じモントリオールから、もはやベテランのティム・ヘッカーは……エレキングの年末ベスト号を参照下さい。キズだらけの毅が素敵な文字の羅列を試みているはずです(まさかの本邦初となる国内盤ではライナーノーツを書かせていただきました)。

 そして……

10. Deep Magic / Reflections Of Most Forgotten Love (Preservation)


Amazon iTunes

 まさに校了日の次の日。1週間早く手にとっていたら2013年の大枠は間違いなくコレだった。当然のことながら、編集作業を終えてからすぐにレヴューを書いたんだけど、鬼のような橋元優歩がいじわるをしてアップしてくれなかったので、以下にそのまま貼るですよ(時事ネタだったので、わかりづらいかもしれませんが)。

……

 “アレックス・グレイはある日気づいたら、アンビエントだったのが変わって、ノイズ・ドローンに変わっていたんですよ。誰も気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね。” (あそうそたろう)

 サン・アロウでサポート・ギタリストを努めるアレックス・グレイが様々な変名を使い分け、とりわけ、アンビエント志向のディープ・マジックとノイズ・ドローンを展開するD/P/I/(DJパープル・イメージ)が実は同じ人だったのかーという原稿は前にも書いた通りだけど、さらに『リフレクションズ・オブ・モースト・ファガットン・ラヴ』では彼の作風がミュージック・コンクレートに変わっていた。貧して鈍した日本政府が平和憲法という理想を掲げることに疲れ始めてきたのとは対照的に、アレックス・グレイの向学心は音楽の中身をどんどん発展させていく。倉本諒が指摘していたように、これは彼のルーム・メイトであるショーン・マッカンとマシュー・サリヴァンが先に始めたことで、2011年には連名で『ヴァニティ・フェアー』(『アンビエント・ディフィニティヴ』P246)という傑作もすでに世に問われている。それに感化されたとはいえ、それを自分のものにしてしまうスピード感もさることながら、その完成度の高さには舌を巻くしかない。

 アレックス・グレイがこれまでディープ・マジックの名義でリリースしてきた作品のことはすべて忘れていい。彼がアンビエント・ミュージックとしてやってきたことは、ある種の感覚を磨いていただけで、まだコンポジションという概念に辿り着く前段階でしかなかったとさえ言いたくなる。『リフレクションズ・オブ・モースト・ファガットン・ラヴ』にはもちろん、これまでと同じモチーフは散見できる。オープニングがまさにそうだし、桃源郷へと誘い出す留保のなさは最初から際立っている。彼はリスナーをいつも幸福感で満たしてくれるし、そこから外れてしまったわけではない。過剰なランダム・ノイズもピアノの不協和音も、それ以上にパワフルな光の洪水に包まれ、ミュージック・コンクレートを取り入れたからといって手法的ないやらしさはまったくない。あくまでも彼の世界観を強化するために応用されているだけであって、むしろ、ミュージック・コンクレートにはこんなこともできたのかという発見の方が多い。


 前半ではピアノがかつてなく多用されている。『ミュージック・フォー・エアポーツ』のような鎮静作用を伴ったそれではなく、高揚感を煽るダイナミックな展開である。炸裂しているとさえ言える。あるいはそのようなテンションを持続させず、適度に緩急が持ち込まれる辺りはナチスではなく……DJカルチャーに学んだ部分なのだろう。身体性が強く反映され、具体音に主導権が移っていかない辺りはミュージック・コンクレートとは決定的に異なっている。ということはつまり、ザ・KLFが『チル・アウト』(1990年)で試みたことと同じことをやっているに過ぎないともいえる。もしかすると、そうなのかもしれない。しかし、そうだとしてもここにあるのは圧倒的な手法的成熟と、さらにはイギリス的な抒情とはまったく異なるアメリカのオプティミズム、そして、タイトル通り「ほとんど忘れていた愛の回想」があるのだろう(どうやらこの回想は失敗に終わるという筋立てのようだけど)。

 アメリカという国は理想を捨てない。あまりにスピっていたテレンス・マリック監督『ツリー・オブ・ライフ』の内省はアン・リー監督『ライフ・オブ・パイ』でニュー・エイジの肯定、あるいはニュー・エイジが必要とされる理由へと進み、ウォシャウスキー姉弟監督『クラウド・アトラス』で見事なまでに肯定へと向きを変えてしまった。有無を言わせぬ力技である。かなわない。彼らの書いた企画書にお金を出すのは、いまやインド人や中国人かも知れないけれど、つくっているのはやはりアメリカ人である。お金を出す人たちもアメリカに金を出すということである。この手口に学んだらどうかね。

KABUTO - ele-king

 KABUTOは千葉出身、東京在住のDJ。KABUTOが少年時代を送った1980年代~90年代はパンク以降の音楽、クラブ・カルチャーの隆盛、ファッション、スケート・ボード、あらゆるユース・カルチャーが混然となった時代である。当時10代のKABUTOは千葉の街で、日々次々と生み出される新しく刺激的なムーブメントの数々を、ヤンチャな遊びの過程で貪欲に吸収して育った。
 そして2000年代になり、KABUTOは地元の先輩であるDJ NOBUからの誘いで、始動間もない〈FUTURE TERROR〉に加入する。千葉という街で何の後ろ盾もなく、仲間たちによる手づくりで始められた〈FUTURE TERROR〉……それがどれだけ特別なものであるかは、インタヴュー本文でKABUTOの言葉から知ってもらうべきだろう。とにかくKABUTOは〈FUTURE TERROR〉のオリジナル・メンバーであり、後に彼は〈FUTURE TERROR〉を脱退し東京に移るが、いまでもKABUTOの言葉は〈FUTURE TERROR〉への愛と敬意にあふれている。それからKABUTOは〈FUTURE TERROR〉で得た大いなる経験と理想を胸に歩み、彼はいま、東京のダンスフロアからもっとも信頼されるDJのひとりとなった。頼るものはDJとしての心と技、ただそれだけだったであろうが、それゆえに彼の周りには、新しい仲間たちも集まってきた。

 現在のKABUTOのホーム・グラウンドは、全国の音楽好きから愛される東高円寺の〈GRASSROOTS〉で自らオーガナイズする〈LAIR〉。それと、和製グルーヴ・マスターと名高いdj masdaが運営し、ベルリン在住のyone-koも名を連ねる代官山UNITの〈CABARET〉である。KABUTOのプレイ・スタイルの片鱗は、2009年に〈DISK UNION〉からリリースしたMIX CDシリーズ"RYOSUKE & KABUTO - Paste Of Time Vol.1/2"や、この秋サウンドクラウドにアップされた"Strictly Vinyl Podcast 010"等でも触れてもらえると思う。だができることならぜひ、パーティの現場でこそ、彼のDJと人柄を味わってもらいたい。なお2013年12月13日、現時点でのKABUTOの最新のプレイのひとつである〈CABARET〉では彼は朝6時過ぎからブースに登場。ミニマルとディープ・ハウスを行き来し気持ちよく踊らせる持ち味を発揮した後、荒々しいシカゴ・ハウスをはさみつつどこまでも加速するようなKABUTOのプレイにダンスフロアの歓声はどんどん膨らんでいった。時計は7時半を回っていた。

 それではKABUTOの初めてのインタヴューをお届けする。KABUTOと長年交流する五十嵐慎太郎(〈Luv&Dub Paradise〉主宰)をインタヴュアーとして、過去、現在、そしてこれからについて存分に語ってもらった。


俺、全部同時進行なんです。「(特定の)この音楽で育った」っていうのはないんですよね。そういう音楽の聴き方をしていたのは先輩とかの影響もあるから、千葉での遊びがルーツとも言えるかもしれないですね。

■五十嵐:俺、カブちゃんとは常に会うような関係ではないけど、お互いの要所要所では何度も会って、熱い話をしてるんだよね。それこそカブちゃんが〈FUTURE TERROR〉を離れるにあたって考えていたこと、その当時の目標やヴィジョンなんかも含めて、個人的には以前にも話を聞いてるんだ。それからしばらく経って、KABUTO君の近年のDJ/オーガナイザーとしての活躍ぶりは、すごく注目されるべきものだと俺は強く思っていて。それでインタヴューという形で改めて、KABUTOというDJのこれまでの歩みや、何よりもKABUTO君がこの先、DJとしてやろうとしていることについて、じっくり話を伺おうと思ったんです。
 まず、カブちゃんが〈FUTURE TERROR〉を辞めたのはいつなんだっけ?

KABUTO:2008年に辞めたから、5年ですね。

■五十嵐:いきなり言っちゃうけど、その頃カブちゃんは、NOBU君が〈FUTURE TERROR〉というパーティを何もないところから作って、みんなの信頼を勝ち得るまでのものすごい大変さをわかった上で、「そこに挑戦したい」と言っていたんだよね。そして「それで、俺がDJとしていまより良くなっていったとしても、それは〈FUTURE TERROR〉のおかげなんだ」とも話していた。

KABUTO:本当にそう思います。

■五十嵐:これからあらためて聞くけど、カブちゃんがその頃から思ってきたことに、ここに来て近づいてきたのかなって俺は感じてるんだよね。

KABUTO:やっとちょっとは見えたかなって感じですね。

■五十嵐:まず、11月15日にカブちゃんがいま〈GRASSROOTS〉で主宰してる〈LAIR〉の6周年があったじゃない(その日のゲストはムードマンと、DJスプリンクルズことテーリ・テムリッツだった)。あれは本当に素晴らしかったね。あの雰囲気を作り上げたっていうのがさ。DJはもちろん良いに決まってるんだけど。

KABUTO:プラス皆の人間力ですよね。

■五十嵐:その一方で2013年になり〈womb〉や〈ageha〉の〈ARENA〉のような大きな会場のメインも務めたり、活躍の場を広げてきているよね。そんなこといろいろと思い出してたら、こないだの〈FUTURE TERROR〉の12周年(2013年11月23日)のフロアでさ、朝、俺がHARUKAのDJで踊っていたら、NOBU君がカブちゃんのところに来て、「お前、去年あたりからいい動きしてるよ」って、俺の目の前で話し出してさ(笑)。それを見た時に、お互いの気持ちをメチャメチャ感じて、何故か俺が感動しちゃって。俺が泣いてどうするんだっていう(笑)。

KABUTO:NOBU君とは、もう出会って20年ですよ。俺が17のとき。共通の知り合いがいて、ある日その人とNOBU君とで俺の地元に来たことがあって、そのときに初めて会って。凄い覚えてますね。RYOSUKE君(同じく元〈FUTURE TERROR〉)も17のときから知っていて、俺はRYOSUKE君が当時やっていたバンドをよく見に行ってましたね。

■五十嵐:RYOSUKE君がやってたのはハードコアのバンドだったんだっけ?

KABUTO:そうです。RYOSUKE君は、ハードコアだけじゃなくてレアグルーヴとかいろいろな音楽を聴いてる感じで、当時の俺はメチャメチャ影響受けてるんですよね。RYOSUKE君とは、高校生の頃、俺が船橋のバーみたいな所でDJしてたときに、初めて話したのは凄い覚えてます。

■五十嵐: RYOSUKE君も年上だよね? 当時のふたりはどんな関係だったんだろう。街の兄貴分みたいな感じ?

KABUTO:兄貴って、そこまで仲良くなれなかったですね。

■安田:遊びに行くといる、格好いい先輩みたいな?

KABUTO:そう。千葉に〈LOOK〉っていうライヴハウスがあって、そこによく遊びに行っていたんですけど、最初は話もできなかったですね。「ちわっす」「おつかれさまです」って感じで。

■五十嵐:ガハハハハ(笑)! そのときが17歳っていうと、1992、93年ぐらいか。そのときはどんなDJしてたの?

KABUTO:そのDJのとき、(ビースティー・ボーイズの)『CHECK YOUR HEAD』からのシングル・カットをかけてたんですよ。そうしたらRYOSUKE君が反応して、話かけてくれて。

■安田:KABUTO君の音楽のルーツっていうと何なんですか?

KABUTO:うーん、強いていうならスケート・カルチャーがルーツですね。スケートのビデオで使ってる音楽っていろいろじゃないですか。それをすごい観てたから、いろんな音楽を聴くようになったんですよ。
 あと姉が洋楽好きだったので、それでピストルズとかを聴いたのが小6とか。で、ガンズとかのハードロックからヘヴィー・メタル。スレイヤー、メガデス、というのが中1、中2ぐらい。
 で、中3になるとスケートもはじめて、メタリカ、アンスラックス、レッチリとかレニー・クラビッツを聴いていて、それからジミヘンやクラプトンとかも聴くようになりました。で、高校生になるとスーサイダル(・テンデンシーズ)とかバッド・ブレインズとかを聴く一方でHIP HOP、R&Bも聴いてて、テレビでは〈BEAT UK〉を観てたり。そういう感じで、聴いてきたものは皆とそう変わらないんだけど、ゴチャゴチャでいろいろ聴いてたんですよね。だから「昔何聴いてたの?」って聞かれると「全部!」って答えてて。レゲエやスカ、キンクスもスペシャルズも大好きだったし。昼間はスペシャルズ聴いて、夜になったらサイプレス(・ヒル)聴いて、みたいな(笑)。またゆったりしたい日にはスティーヴィー・ワンダーやプリンスも聴いてたし。だから「(特定の)この音楽で育った」っていうのはないんですよね。あと、そういう音楽の聴き方をしていたのは先輩とかの影響もあるから、千葉での遊びがルーツとも言えるかもしれないですね。

■五十嵐:ロックとクラブ・ミュージックが交わる時期というか、とにかくいろいろ新しいものが出てきた時代でもあったよね。

KABUTO:そうですね。アンスラックスとパブリック・エネミーの“ブリング・ザ・ノイズ”とか、ビースティーとかNASも人気があって、それで元ネタを掘り始めたりするんですよね。

■五十嵐:『パルプ・フィクション』等の影響でのレアグルーヴもあったしね。

KABUTO:映画の影響もありましたね。高校の時に『さらば青春の光』を見たり、マット・ヘンズリーの影響でVESPAが流行って乗ったりもしてましたね。

■五十嵐:90年代にはフィッシュとか、ジャム系のバンドも出てきたけどそういった音は?

KABUTO:俺はフィッシュとかは通ってないんですよ。その頃は俺、日本のハードコアがすごい格好いいと思ってた時期ですね。下北沢の〈VIOLENT GRIND〉とかもよく一人で行ってました(笑)。そういえば、NOBU君はニューキー・パイクスと繋がってたりして。

■五十嵐:そうなの?

KABUTO:そうなんですよ。そこでAckkyさんとも繋がるんですよ。

■五十嵐:なるほどね! Ackkyもニューキー・パイクスのライヴに客演で参加したこともあったみたいだもんね。
 そういう、90年代からいまへと連なる人の繋がりもあるわけだけど、ミクスチャーとかHIP HOPの世代の人たちから、バンドとDJの間の壁がまるっきりなくなったと俺は感じていて。要するにNOBU君世代ぐらいからなのかな。それまではクラブとバンド、ラップとバンドの垣根はすごく高かったように思うんだけど、サイプレス・ヒルとかガス・ボーイズが出てきたあたりから変わってきたんだよね。

KABUTO:それが、俺が高校生の頃ですね。俺、全部同時進行なんです。ハードコア聴いてる時期に〈MILOS GARAGE〉に行ったり、平日の青山〈MIX〉、あと〈BLUE〉とかも、千葉から遊びに行ってたし。四つ打ち行く前にアシッド・ジャズ、ラテンとかも聴いていて、ビバ・ブラジル(Viva Brazil)のスプリットのレコードを買ったらその逆面にサン・ラが入ってたりして。後に気付くんですけど、当時はサン・ラってわからず聴いてましたね。

■五十嵐:カブちゃんはバンドだけじゃなくDJの方にも、すんなり入っていったんだね。

KABUTO:クラブ・ミュージックの最初は、地元の仲良い年上の友だちが、兄弟でレコードすごい持ってて。その家がたまり場でよくDJして遊んでたりしてたんです。そこで電気グルーヴの『VITAMIN』や『オレンジ』とかを初めて聴いて、あとは〈ON-U〉とかのダブを聴いたり。高校のときはハウスとかテクノってあまりピンとこなかったんですけど、シカゴ・ハウスを聴いたときに「何だこれ!?」って思って衝撃を受けて、そこからハマってったんですよ。

■五十嵐:その頃、RYOSUKE君とかNOBU君はもうDJやってたの?

KABUTO:NOBU君は出会った頃はまだそんなにやってなかったはずですね。あまり正確には覚えてないんですけど。その頃トリップ・ホップも流行ってたじゃないですか。スカイラブ(SKYLAB)とか〈MAJOR FORCE〉、デプス・チャージ、セイバーズ・オブ・パラダイスとか、それでアンディ・ウェザオールが〈新宿リキッドルーム〉でやるときに、地元の友だちとNOBU君と一緒に行ったんですよ。それがクラブで初めての四つ打ち体験。19ぐらいの時かな?

■安田:四つ打ちを聴きはじめてからはどうなったんですか?

KABUTO:その後、ハタチぐらいからの何年か、毎年のようにアメリカに遊びに行ってた時期があるんですよ。地元のスケーター仲間がアメリカに住んでたから。いろんな街に旅行して、クラブもいろいろ行きました。ニューヨークに行ったときには(ジュニア・)ヴァスケス聴きに行ったりとか(笑)。NYでは他にも〈Sonic Groove〉と〈Drumcode〉の共同開催みたいなパーティとかにも行ったし。ちょうど年越し時期のフェスっぽいパーティで、NYのフランキー・ボーンズ、シカゴのマイク・ディアボーンやポール・ジョンソン、ヨーロッパからもアダム・ベイヤー、ニール・ランドストラムとか、いろいろ出てましたね。サンフランシスコではQ-BERTとか聴いてるけど、レコードはテクノを買って帰ってきました(笑)。ロスアンジェルスに行った時はたまたまカール・クレイグとステイシー・パレン、デトロイトのふたりが出るパーティがあったから、それに遊びに行ったりとかしてました。

■五十嵐:ここまで、若いときの音楽の話には「地元の仲間」という言葉が頻繁に出てくるから、やっぱり「千葉」はカブちゃんにとってとても重要な要素なんだね。カブちゃん自身は、住んでいたのは千葉のどのあたりなの?

KABUTO:僕は成田で、〈FUTURE TERROR〉の最初の4人のなかでは僕だけ住んでる所が離れてるんですよ。

五十嵐:成田ってどういう感じの街だったの?

KABUTO:成田山と空港くらいで田舎です(笑)。で、外国人が多い。地元の仲間はみんなスケーターでしたね。

■五十嵐:それにハードコアとか、バンドや音楽が好きな仲間も。

KABUTO:そうですね。皆で滑って、飲みに行ったり。その頃俺らまだ未成年だったけど、悪い先輩達と遊ぶのがすごい楽しかったし。そこからもう夜遊びの方にシフトしていくタイミングですね。

■五十嵐:俺の地元の静岡もそうだけどさ、そういうので生活は成り立たないじゃない。

KABUTO:成り立たないですね。

■五十嵐:どうしてたの?

KABUTO:普通に働いてました。まず車がほしいんで、お金貯めなきゃ、ってなって。高校卒業してすぐ車ゲットして。これで東京のクラブにも遊びに行ける! って。もうみんな乗せてパーティ行ったりとか、ウロチョロウロチョロしてましたね。俺、就職するとか大学に行くとか、全然考えなくて。まず遊び。

■五十嵐:ガハハハハ(笑)!

KABUTO:パーティの楽しさを知ってしまったので、もうひたすら遊びに行ってました。

■五十嵐:千葉で自分でパーティもやってたの?

KABUTO:いや、やってないです。俺が22歳くらいの時にRYOSUKE君が〈MANIAC LOVE〉でDJシャッフルマスターと〈HOUSEDUST〉っていうパーティでDJをやってて、それに結構遊びに行ってて。その頃にDJ RUSHとかPACOUみたいなDJを初めて現場で聞くんですよね。後で知るんですけど、その頃、KURUSU君(FUTURE TERROR)もRYOSUKE君と遊んでるんですけど、俺はその頃はまだKURUSU君のことは知らなくて、実際に知り合うのはもう少し後なんですよね。

■五十嵐:そうなんだ?

KABUTO:俺とKURUSU君がリンクしたのが、たしか(2000年前後に大人気だった)SUBHEADが来日した後くらいだったかな。
 SUBHEADが来日して、渋谷道玄坂の〈MO〉ってクラブでやってた〈Maximum Joy〉ってパーティでプレイしたことがあったんですけど、そのパーティがすごいヤバかったんですよ。ちなみに〈FUTURE TERROR〉の第1回目のゲストが、そのSUBHEADのフィルとMAYURIさん(metamorphose)なんですよ。
 その〈Maximum Joy〉には俺は客として遊びに行ってて、そこからクリスチャン・ヴォーゲルとか、No Future系にもハマっていくんですけど、そこにはNOBU君たちもいて。それから何年かして誘われるんですよね、〈FUTURE TERROR〉に。

[[SplitPage]]

デトロイトで音を作っている人たちって、結構生活が厳しいながらも、やっぱり音楽の力を信じてやってたりしますよね。自分も(進学はせずに)仕事して、働いた後にパーティの準備するために集まったりしてたんで、そういうところが当時ちょっと自分とダブって感じて、デトロイトの音楽にハマったっていうのもあるかもしれないですね。

■五十嵐:〈FUTURE TERROR〉はこないだ12周年だったから、2001年ぐらいに始まってるわけだよね?

KABUTO:俺は1回目の〈FUTURE TERROR〉のときはDJじゃなくて。実は1回目は遊びにも行ってないんですよ(笑)。
 俺、その時パーティが開催されることを全く知らなかったんです。地元で仲良かった友だちはそれ行ってて、俺は後から聞いて「え、そんなのやってたの!?」みたいな。で、それが集客も良かったらしくて、レギュラーでやってみようかってなったらしいんですけど、俺はもう、全然知らずに。
 だけど、ちょっと経った頃に……当時よく、音楽好きな友だちと、家でいろんな音楽聴きながらDJしてたんですよ。そしたらある日、NOBU君からいきなり電話がかかってきて「DJやらない?」って言われて。「レコードあるんでしょ?」「はい」って、「今度こういうのやるんだけど、どう? RYOSUKEとKURUSUと4人で」って。だから正式には、俺は2回目からなんですよ。

■五十嵐:なるほどね。

KABUTO:その時は結婚式場を借りて、システムを入れてやるって話で。でも、その時俺はパーティのやり方がなんにもわかんないから。必死にDJやるだけでした。

■五十嵐:俺、その辺の話は静岡にいる時に、何かの雑誌で読んで知った。パーティを自分たちで一から作り上げて。千葉にね、静岡の自分と同じ気持ちの人たちがいるんだってシンパシーを感じてたんだよね。環境がなければ自分たちで作るしかないっていう。

KABUTO:俺はもう、右も左もわかんないし、DJしかやってなかったんですけど。ただ言われたことをひたすらやって。「この時間に集合ね」って言われたら行って、システムを運ぶのを手伝ったりとか、その程度でしたけどね。その前に、自分がパーティに行ってクチャクチャに遊んで、っていう経験はあるんですけど、それを自分がやるとなったらどうやればいいかっていうのは、わかってなかったですね。

■五十嵐:東京のクラブで遊んでて、それを地元の千葉で再現したいっていう気持ちだったの?

KABUTO:うーん、東京で遊んでて、なんだろう、その時期はRYOSUKE君も〈HOUSEDUST〉を辞めていて、NOBU君は空手に打ち込んでた時期なんですよね。たぶん、また遊びたくなったからはじめたんだと思うんですけど。パーティをやるスキルはみんなあったと思うんだけど、日本のシーンに対するアンチテーゼ的な感じで最初ははじまってるんで。

■五十嵐:商売気とかの部分かな?

KABUTO:当時の東京のノリにちょっと飽きちゃったというか。やっぱり地元でやりたいっていうのも強かったと思うんですよね。

■五十嵐:遊びではじめたことに、だんだん気持ちが入っていったって言う感じ?

KABUTO: 初めはNOBU君に誘ってもらったけど、なんで俺を誘ってくれたのかはわかんないですね。聞いたこともないですけど。
 最初の〈FUTURE TERROR〉でのDJは警察に止められて途中でダメになったし、それからは数々のいろんなことがあるわけですけど。当時は「地元でやろう」ということだけを考えてたと思うんですけどね。それが徐々に、徐々に大きくなっていくというか。結婚式場からレストランに移ったり、場所も変えつつ。あ、レストランの前に別の箱があって。潰れて空いてた箱なんですけど、そこでパーティできるって話になって、〈FUTURE TERROR〉で最初にテレンス・パーカーを呼んだのはそこなんですよ。そこでみんなで何日か前から集合して、ホコリだらけのところをみんなで掃き掃除から全部やったりして。そのパーティが凄く強烈でしたね。それまでのパーティも楽しかったんですけど、そこで気持ちが一気に入った感じですね。

■五十嵐:ゼロから自分たちで作っていった、っていう。

KABUTO:強烈に憶えてますね。

■五十嵐:テレンス・パーカーも感動して〈Chiba City〉っていうレーベルを作っちゃったりね。

KABUTO:すぐやめちゃいましたけどね(笑)。最初DJ引退するって言ってたんだけど、その時の〈FUTURE TERROR〉で「やっぱり辞めない」ってなって、それからいまだに辞めてないんですけど。テレンスもそれぐらい強烈なインパクトを感じたんだと思うんですよね。(壁や天井から)水滴も垂れるし、最前列はタバコの火も点かないぐらい酸欠で。みんなメチャクチャ踊ってて。本当、初めて「ハウス」を感じた日だったかもしれない。

■五十嵐:伝説として話は聞いてる。

KABUTO:あれ遊びに来た人はみんな結構憶えてるんじゃないかなぁ。当時はいろんなMIX音源を聴けるサイトは〈Deephouse Page〉ぐらいしかなくて、来日前はそれでチェックするしかなかったんだけど、テレンスはHIP HOPとかいろいろなセットも結構やってたから「当日はどんなDJやるんだろう?HIP HOPやったらどうする?」とか、心配したりもしてたんですよ(笑)。けど、その日はURから始まって、ゴスペルやらディスコやらを2枚使いでかけたりしてて、何じゃこのDJは! って皆ひっくり返ったっすね。

■五十嵐:みんなで何日も前から集まって準備してそこに至る、って、いいなぁ。

KABUTO:みんなでマスクして(笑)。でも千葉のそのDIYスタイルはずっとそうで。その後やった会場はレストランだったけど、そこも何日か前から集合して、壁に防音やったりしてました。そこで本当、パーティをつくるっていうのはこういうことだと教えてもらって……「教えてもらった」って言っても、言葉で何を言われるわけじゃないですけど。

■五十嵐:今日はいろいろ訊こうと思ってたんだけど、その全部の答えがいまの話に集約されていたというか。そういうパーティ体験があったからこそカブちゃんは、ただスキルを磨くだけのDJにはならなかったんだね。

KABUTO:DJのスキルがあっても気持ちがないと……NOBU君のDJを見てたらわかると思うんですけど、たまに(ミックスを)ミスりますよ、NOBU君でも。だけど人間力で持っていけるんですよ。あれはNOBU君にしかない部分だと思うんです。あのイケイケな感じでミックスしてオラーッて、フロアが盛り上がっちゃうんですよ。ああいうDJ、誰にでもできることじゃないから、それをずっと見てると、そういう感覚に陥っちゃうというか。

■五十嵐:スキルは大事だけど、パーティを楽しみたいという気持ちはもっと大切なんだよね。

KABUTO:そう。その気持ちがグルーヴになって現れるし。あとひとつ言えるのは、〈FUTURE TERROR〉のお客さんってメチャメチャ踊るんですよ。常にダンスフロア。そういうダンスフロアの雰囲気。踊った人にしかわからない感覚ってあるじゃないですか。DJの皆もそうで、その感覚を持ったDJが揃ったな、とは思いましたね。

■五十嵐:高橋透さんが同じこと言ってた。透さんはソウルのダンサーやってたの。チーム組んで。透さんが言うには、俺たちは音楽評論家じゃないんだ、ダンスして遊ぶ仲間なんだ、って。

KABUTO:やっぱり、踊ったときにしかわからない感覚、ダンスフロアにいる時にしかわからない聴こえ方、見え方って重要じゃないですか。それをみんな知ってるんですよね。それを言葉で確認したりしないですけど、自然とDJもそうなるというか。〈FUTURE TERROR〉が最初ハウスやってたのも、そこから今のテクノに移行していって耳がどんどん変化していくのも、踊ってる人ならではの感覚があるゆえにだと思います。

■五十嵐:ダンスの楽しさを、人一倍味わっちゃってる人たちなんだよね。

KABUTO:そうなんですよね。いまの〈FUTURE TERROR〉に来てる人は知らないかもと思うんですけど、最初は歌物がガンガンかかってましたからね。ゴスペルとか。デトロイト・ハウスが好きすぎて、実際みんなでデトロイトまで遊びにに行っちゃいましたし(笑)。
 デトロイトで音を作っている人たちって、結構生活が厳しいながらも、やっぱり音楽の力を信じてやってたりしますよね。自分も(進学はせずに)仕事して、働いた後にパーティの準備するために集まったりしてたんで、そういうところが当時ちょっと自分とダブって感じて、デトロイトの音楽にハマったっていうのもあるかもしれないですね。俺の勝手な妄想かもしれないですけど(笑)。仕事してキツいけど、その日のためにみんな気持ちをそこに持っていくというか。
 ひとつ、すげー嬉しかった話してもいいですか(笑)? さっき話したテレンスを呼んだ回の後なんですけど、デトロイトからテレンスとスティーヴ・クロフォードのふたりを一緒に〈FUTURE TERROR〉に呼んだ時があったんです。そこでNOBU君は(海外からゲストをふたり招く大切なパーティを)、テレンス、スティーヴ、俺、の3人だけで一晩やらせてくれたんですよ。そのときもお客さんパンパンで。すげー嬉しかったですね。任されたっていうのもあったし。スティーヴの前にやったんですけど、DJ変わるときお客さんすごい拍手してくれて、テレンスとスティーヴも来てくれてワーッってなって。本当嬉しかったですね。NOBU君はサラッと俺を指名してくれたというか。RYOSUKE君やKURUSU君でもいいはずなのに。でも俺に振ってくれたんです。

■五十嵐:それぞれがDJスキルを見せつけるためにパーティをやってるんじゃないんだよね。

KABUTO:それをすごい感じましたね。

■五十嵐:こないだ(2013年11月)、カブちゃんが〈ageha〉の〈ARENA(メインフロア)〉でやってたじゃない? 同じ日にNOBU君は〈ageha〉の中の〈ISLAND〉でやってたんだけど。いまの話を聞いて、その日のことともリンクすると思った。

KABUTO:俺は初めてNOBU君が〈ARENA〉でやるときも行ってたし、正直みんなも、〈ARENA〉はNOBU君だと思ってたと思うんですよ。最初話が来た時は、自分が本当に〈ARENA〉でやるとは思ってなかったし。今までやってきたことがちょっとずつ繋がってきた瞬間でもありました。

■五十嵐:カブちゃんが〈ARENA〉でやるって知ったときは、俺もめちゃめちゃ嬉しかった。11月にはその〈ARENA〉があって、インタヴューの最初に言った、〈FUTURE TERROR〉12周年におけるNOBU君の「お前、この1年いい動きしてるよ」という言葉があった。その時に俺は「やっぱり思ったとおりだな」って感じたんだよね。あれは同じクルーとしての言葉でもあるけれど、ひとりの男同士としての言葉なんだよね。

KABUTO:本来DJとしては、そういうの持ち込まない方がいいのかな、って思うところもあるんですけど、やっぱり千葉の人間ってそこが熱いのがいいところだから。そういうのがダメな人もいるんですよ。でもやっぱり俺はそういうところ出身の人間なんで。そういう人たちのパーティはやっぱ熱いから。泣けるっすよね。

■五十嵐:だからデトロイト・ハウスにも泣けるんだよね。

KABUTO:感動するし、流行り廃りじゃないスタイルで、本当にここ(胸に手を当てて)。気持ちの部分。いちばん芯の部分をちゃんとわかってる人にしかできないパーティというか。〈FUTURE TERROR〉もダメな人にはダメだと思うんですよ、でもそれはまだ、本当の〈FUTURE TERROR〉を知らないなって。 

■五十嵐:最近になってNOBU君を知った人には案外知られてない部分かもしれないし、もっとアナウンスをしたい部分だと思うんだよね。

KABUTO:常に100%。本気な人ですね。

■五十嵐:KABUTO君もそうなんだよ。

KABUTO:その影響を受けてるから。それは身体で教えられたというか、見せられましたね。言葉では何も言われてないですね。

■五十嵐:それで〈GRASSROOTS〉の〈LAIR〉も同じ11月に6周年。「本当に素晴らしかった」という感想は最初に伝えたけど、あの光景を見た時に、カブちゃんがいままで頭に描いてたことが、形になってきたことの表れだと俺は思ったんだよね。6年経って、それについてはどう?

KABUTO:元々は〈GRASSROOTS〉が10周年のときに、(店主の)Qさんから「カブちゃんやってみる?」って言われて、「いいんすか?」って、最初はホント気楽にはじめさせてもらったんです。そのときは〈FUTURE TERROR〉に在籍してたんで、〈LAIR〉はもうちょっとパーソナルなパーティ……自分のスタイルでパーティをやれたらいいかなと思ってました。その後すぐに〈FUTURE TERROR〉を抜けるんですけど、千葉で教わった、パーティを一から作っていくことを目標にしてやっていきたいと思ってましたね。6年本当あっという間でした。やっと少しは良い感じにやれてきたかなと。

■五十嵐:いま話してくれた、「結果的に〈FUTURE TERROR〉を辞めることになったけど、自由にやれることにもなったんで、千葉で教わった、パーティを一から作っていくことを目標にしてやっていきたいと思うんです」という話が実は、このインタヴュー冒頭で俺が言ったことなんだよね。俺がブッキングさせてもらった姫路の〈彩音〉で、酒でベロンベロンになりながら2時間ぐらい同じ話をずっとしてたよ(笑)。

KABUTO:だはは! ありましたね(笑)。元〈FUTURE TERROR〉の人間として、このパーティの凄さを、もっと知らしめたかったっていうのもありましたしね。

[[SplitPage]]

これから厳しくなっていく環境のなかで、どれだけ工夫してサヴァイヴしていくか。それは、その人がこれまでやってきたことが全部出ちゃう部分だと思うけど、そこからいい音楽は絶対生まれてくると思っていますね。やっとみんな本気で考え始めたんじゃないかって思ってて。「なぜパーティをやってるのか」ということを。

■五十嵐:そして、〈LAIR〉が軌道に乗ってきた2009年には、カブちゃんとRYOSUKE君のスプリットのMIX CDシリーズ(『Paste Of Time』)を〈DISK UNION〉からリリースしたじゃない。あれは俺、いまだに聴いてる。さっきカブちゃんが「踊った人にしかわからない感覚を大事にしているDJが〈FUTURE TERROR〉には揃った」という発言をしていたけど、あのCDの空間の捉え方はまさしく、自宅ではない音の響き方を知ってる人たちのものだと思うんだ。
 去年、〈DOMMUNE〉の番組でベルナー・ヘルツォークの映画(『世界最古の洞窟壁画 3D 忘れられた夢の記憶』)を紹介する番組に俺が関わったときに、あの日の〈BROADJ〉をRYOSUKE & KABUTOにお願いしたのも、『Paste Of Time』からの流れなんだよ。あの映画は、それまで言われていた人間の起源を大きく塗り替えた、3万2千年前の洞窟壁画にまつわる作品なんだけど、それを〈DOMMUNE〉の番組前半で紹介するなら、番組後半の〈BROADJ〉は「あのふたりに頼んでみたい」と思ったんだ。

KABUTO:なんだろう、(『Paste Of Time』でやったように)空間をイメージするっていう行為というか、ある空間の中でダンスするとか、みんなパーティでやってることなんですよ。

■五十嵐:俺が素晴らしいと思ったのは、ふたりは映画に合った、洞窟という空間による音の響きを意識した選曲とミックスをちゃんとしてくれたのよ。空間プロデュースという側面でのDJの役割を見事に果たしてくれて、印象深いんだよね。

KABUTO:俺も、「洞窟」っていうテーマは初めてで(笑)、しかも何万年もさかのぼるっていうのは初めての感覚で、悩みましたけどね。

■五十嵐:何万年も前の人も、現代の人も、根本のところでは同じなんだよね。それを音で見事に表現してくれた。

KABUTO:あのときの録音はたまに自分でも聴いてます(笑)。でも、そうやっていろいろな現場でDJやれるのはありがたい話ですよね。いま、同じ〈CABARET〉チームのyone-koやmasda君と出会ったのもそうだし。yone-koに関しては、静岡にDJで行った時に、静岡のKATSUさんから「yone-koってのが東京にいるからよろしくね」って言ってもらったことがあって。でも実は俺は、当時から〈CABARET〉が気になってたんですよ。日本人の音源も結構チェックしてたから、The Suffraggetsも聴いてたし。で、静岡から戻ってきてから、〈CABARET〉に遊びに行って。そこで、「yone-ko君っすよね?」って、俺から話しかけたんですよ(笑)。「今度タイミング合ったら一緒にやろうよ」って。それがファースト・コンタクトですね。
 その後、さっき五十嵐さんが言った『Paste Of Time』を俺とRYOSUKE君とで出した時に、「リリース・パーティやらない?」って話になったんですね。それで「ふたりだけでやるのもなんだから、誰か呼ぼうか」ってなった時に、yone-koがいいんじゃないか、と。そのときにyone-koと初めて一緒の現場でDJやって、yone-koが俺らのDJにも反応してくれて。それですぐyone-koはわかってくれたと思うんですよね。その時、音楽の話はそんなにしてないと思うんですけどね。

■五十嵐:音で通じ合った。

KABUTO:そう、それで俺が「〈LAIR〉でもDJやってよ」って。逆にyone-koは自分が〈SALOON〉でやってた〈Runch〉に呼んでくれたり。そういう風に、とんとん拍子に。
〈CABARET〉のメンバーは、最初yone-koしか知らなかったんですよ。他のメンバーとは誰も喋った事なかったから。顔は知ってたんですけど(笑)、話しかけるのも照れくさいしって感じで。で、〈CABARET〉に遊びに行くようになって、yone-koと話してるときにmasda君が来て、「KABUTO君だよね?」って話しかけてくれて「よろしくっす」みたいな感じで。で、少し経ってyone-koはベルリンに行くんだけど、ある時にmasda君と話してて、「〈CABARET〉どうするの?」って聞いたときに、「パーティは続けたい。手伝ってくれない?」って言われて。で、俺、レギュラー・パーティも〈LAIR〉しかなかったから「いいよ」って。俺、最初、裏方の手伝いかと思ったんですよ。一足早く現場に入っていろいろケアしたりとか、そういう意味での手伝いを頼まれてるのかと思って返事したら「いや、DJで」って(笑)。

■五十嵐:そりゃそうだよ(笑)

KABUTO:それで2012年に〈CABARET〉に正式に入って、いきなりスコーンってやらせてもらって。そのとき思ったのが、「masda君、けっこう腹くくってんなぁ」って。本気だなって思ったんですよ。

■五十嵐:カブちゃんからの影響も強いと思うんだけど。

KABUTO:本当っすか。本気でやろうとしてる人には魅力を感じるし、そういう人じゃないとやりたくないし。

■五十嵐:一緒に本気でやれる新しい仲間ができて、それが〈CABARET〉ということなんだね。それじゃあ、この先の目標は? カブちゃんは〈FUTURE TERROR〉を離れるときから「DJとしても上を目指す」とも話していて、いまは事実、全国津々浦々に呼ばれるようになっているわけだけれど。

KABUTO:目標……大げさですけど、遊びに来てくれた人の人生を変えられるようなパーティをやることですかね。「このパーティがあったから、俺の人生変わっちゃったんだよね」って、来てた人に言わせてみたいですね。それだけかも。俺もパーティで人生狂わされたし(笑)。もちろんいい意味で。〈FUTURE TERROR〉で人生狂わされた人、価値観変わった人結構いると思うんですよ。それを伝えてくってわけじゃないですけど、人生巻き込み型パーティっていうか。生き方に対してもそうだし、全てにつながるじゃないですか。いろんな考えがあってもちろんいいんですけど、やっぱり音楽ってすごい原始的なもので、リズムはずっとあったものだから(人間にとってすごく大切なもの)。それはやっぱ、ずっと伝えないといけないっていうか。テクノだろうがハウスだろうが、基本、根っこの部分は一緒だと思うんですよ。お客さんの人生を変えるぐらいのパーティをしたいっていうのは、永遠のテーマですね。〈FUTURE TERROR〉を抜けてからですけど、やっぱりそれは常に目標というか。

■五十嵐:この生きづらい時代の、パーティの存在意義という話にもつながるよね。ただ楽しみたいだけなのに、どうにかして奪いに来ようとする奴らがいるからね。

KABUTO:それと戦う意味で音楽があると思ってるし。

■五十嵐: 〈LAIR〉に行ったときもさ、あのお客さんの優しさ。

KABUTO:そうなんですよね。

■五十嵐:あれはある意味理想郷だった。あれを目指したいと思ったよ。具合悪そうな奴がいたら「大丈夫ですか?」とか。「金なくて困ってる」っていう奴がいたら……。

KABUTO:一杯おごるとか。そういうことじゃないですか。助け合いの精神。「全てパーティから学んだ」って言ったら大げさかもしれないですけど……俺、元々は凄い人見知りなんですよ。さっきyone-koに自分から話しかけたって言ったじゃないですか。何かそれから、自分からいろんな人に話しかけるようになったんですよ。だいたい酔っ払ってんですけど(笑)。
 最近仲良くしてるSatoshi Otsuki君もそうで。(田中フミヤの)〈CHAOS〉にOtsuki君が来てたときに、「Otsuki君今度一緒にやろうよ!」って話しかけて、そうしたら「MIX聴いてましたよ」なんて言ってくれて「おっ!」みたいな。だからそういう、ベクトルが合う感覚というか、あ、この人全然大丈夫だわ、って嗅ぎ分ける感覚とか、そういうのもパーティから学んだし。だから、自分から行かないと何も開かない、待ってても何も来ない、っていうのは本当に、千葉にいたときに教わったことっていうか。

■五十嵐:ヴァイブスで繋がると、偏見も取れるしね。

KABUTO:そう。例えば〈CABARET〉はマニアックな音を出してるんだけど、みんなシュッとしてて、出で立ちもスマートじゃないですか。最初は俺、〈CABARET〉クルーとこんな仲良くなるなんて思ってなかったけど、なんだろう、〈CABARET〉に入るって決まったときに、俺のキャラがプラスに働くと想像できたんですよ。yone-koやmasda君みたいに知的で、膨大な知識のあるDJと、俺みたいなタイプのDJが一緒にやれたらいいパーティができるなっていうのが。バランスですよね。どっちが行き過ぎてもダメだから。お互い切磋琢磨して、バランスがとれてると凄くいい。それが今の〈CABARET〉なんですよ。

■五十嵐:違う人との調和ってことだよね。本当にここのところね、カブちゃんがずっと前から言ってたことが形になってるという感触を、きっと本人がいちばん感じているはずなんだよ。

KABUTO:そうですねぇ。感じられるようになったかな。

■五十嵐:周りも、そういうステージも用意してきているし。

KABUTO:なんか、DJ度胸じゃないけど、海外のDJが出るパーティで、そのゲストDJの後にやることが何回かあって。その時もまぁ普通に緊張はするんですけど、〈FUTURE TERROR〉のときに比べたら全然余裕、って正直思いましたね。当時は、NOBU君の後にDJすることほど、緊張するものはなかったですね。当時みんなNOBU君を観に来てるって感じもあって、お客さんはNOBU君で散々踊りつくして、DJ変わるとき「次DJ誰? まだ踊れるの?」みたいな空気があるじゃないですか。そういう現場を経験してきたから、外タレのときは緊張は少なくて。やっぱそれは、千葉でやってきた甲斐があったなぁ、っていうのは東京に出てきてから感じましたね。

■五十嵐:俺は、カブちゃんが実際いま好きな音楽とかも詳しくはチェックしてないんだけど、皆がカブちゃんやNOBU君に求めてるものっていうのは、パーティ=人なわけじゃん。

KABUTO:人生捧げてる人たちですから(笑)。

■五十嵐:だから俺はもう、今後の活躍を……。

KABUTO:「このまま散ってやるよ」って感じですね(笑)。

■五十嵐:ガハハハハ(笑)。

KABUTO:だからもう、そこの覚悟を決めてる人と決めてない人との違いは、俺のなかではものすごくデカいんですよ。東京でやってても、辞めちゃう人もいるじゃないですか。

■五十嵐:みんなセンスは凄くいいのにね。

KABUTO:そう。でもなんだかんだ言って、いまは東京で見せてナンボってところは実際あると思う。

■五十嵐:世界との玄関口だしね。

KABUTO:世界中見てもこんなクレイジーな街ってないと思ってるんですよ。本当、東京って独特な狂い方じゃないですか。だからそこで勝負できるっていう幸せも感じないといけないし、ここで生活することの大変さもそうだし、ここでDJできることのありがたみを感じながらプレイして、その気持ちをお客さんに伝えられるかどうかってことですよね。

■五十嵐:プレイがいいのは大前提としてね、そこに気持ちがないと、この街ではサヴァイブできないよね。

KABUTO:ニュースを見てても、これから厳しくなっていく環境のなかで、どれだけ工夫してサヴァイブしていくか。それは、その人がこれまでやってきたことが全部出ちゃう部分だと思うけど、そこからいい音楽は絶対生まれてくると思っていますね。

■五十嵐:だからいま、突きつけられてるんだろうね。

KABUTO:そう、やっとみんな本気で考えはじめたんじゃないかって思ってて。「なぜパーティをやってるのか」ということを。風営法(の問題)もあるし。デトロイトなんか2時までしかパーティできないですからね。それでもたくさんいい音楽が出てくる。普段の生活はキツかったりするのに。厳しい状況になればなるほど、音楽って良くなっていくじゃないですか。それに比べたら東京はまだ恵まれてるんですよ。すごい数のクラブやパーティがあるんですよ。

■五十嵐:本当に、いまの東京は凄いんだよね。

KABUTO:だけど実際は、(本気で)やれてる人はほんの一部じゃないですかね。でも歳とるとだんだん感覚が研ぎ澄まされてくるというか、同じような人が自然と集まってくるんですよね。どんどん辞めて抜けていくから、そういう人しか残んなくなってくるし。それでみんなで協力して盛り上げようとか、そういうことでもいいし。皆でできることがたくさんあると思うんです。

■五十嵐:こないだ俺、ele-kingのチャートで『求めればソウルメイトと必ず会える都内のDJ BAR&小箱10選 pt.1』ってやったけど、「ソウルメイト」ってそういうことなんだよね。若い人に「ソウルメイト」とか言うと笑われるかもしれないけど(笑)。

KABUTO:ジャンルとかじゃないんですよね。だから俺は〈GRASSROOTS〉でパーティやってるし。〈CABARET〉に入る前、〈LAIR〉にmasda君を呼んだ時なんですけど、秋本さん(THE HEAVYMANNERSの秋本武士)とかKILLER-BONGとかがフラッと来たことがあったんですよ。普段やってるクラブじゃ有り得ないですよ。masda君がDJやってるところに秋本さんがいるとか。で、Qさんが「これで秋本さんを踊らせたら凄いよね」とか言うんですよ。俺も本当、そう思って。ジャンルとかは無し。人と人。だから俺も、全然知らない人がやってるパーティ行ったりしてるんですよ。それで新しい感覚を覚えるし、いろんな考え方を知ることもできる。だから〈womb〉も〈AIR〉も遊びに行くし、逆にそこで遊んでる人たちが〈GRASSROOTS〉に来てくれるようになったりするんです。「こんなとこあったんだ、ヤバいね」って言ってくれて「でしょ?」って。でもキッカケがなかっただけで。そのキッカケづくりができたのはデカかったかな。そうすると「ひとりでGRASSROOTS来ちゃいました」とか言う人も出てくるんだけど、何でもいいんですよ。そうやっていろいろな音楽を聴いて、いろんな感覚や価値観を感じてもらえば、やってる意味があるというか。別にDJ巧い人でも、その感覚がなかったら俺はあんまり魅力を感じないし。NOBU君の凄さってそういうところにあるのかなって。〈BERGHAIN〉でやってて、〈GRASSROOTS〉でもやるっていう。

■五十嵐:それをやってたのは、ラリー・レヴァンなのかもね。

KABUTO:そういう感覚を身につけるのはすごい重要だと思いますね。場所を選ぶ嗅覚というか。その場の匂いを感じ取ってそこにガッと行けるというか。

■五十嵐:パーティがあれば幸せでしょ?

KABUTO:幸せですよ。パーティで皆で踊ったり、いろんな人と出会えたり、いろんなジャンルの音楽や人が交じり合う瞬間って、やっぱり楽しいし、幸せだって思います。それがいま自分がいちばん感じやすいのが〈GRASSROOTS〉なのかな、とか思ってますね。そこでいろいろなジャンルの人が交差して新しいものが生まれたら凄くいいし。「俺は違うことやるよ」って思うのもいいし。それを全部含めて、パーティでしかできない感覚というか。そこが全てですね。

■五十嵐:なんか、安心したよ(笑)。さっきからNOBU君、NOBU君、って言ってるけど、カブちゃんにとってはNOBU君発信だったものが、KABUTO君が発信することによって伝わっている人というのが、着実に増えているという風に俺は実感してるんだ。カブちゃんのいないところでね。それこそ、〈CABARET〉にしか行ったことのなかったお客さんが「KABUTOさん良かったです」と。そういうのを耳にしていると、おべんちゃらみたいだけど、カブちゃんは有言実行したんだな、と思う。

KABUTO:俺も意地ありますから(笑)。〈FUTURE TERROR〉を辞めた時の気持ちがずっと原動力になってますから。これからもずっと続いていくでしょうけど。

■五十嵐:いまでも〈FUTURE TERROR〉にはLOVEなんだね。

KABUTO:もちろん。当時〈FUTURE TERROR〉に関わった全ての人には本当感謝してます。お客さんとケンカしてるの五十嵐さんに見られたりとかあったけど(笑)。

■五十嵐:でもちゃんとその後仲直りしてたじゃん(笑)。音楽の前に人ありき、だもんね。

KABUTO:そういうところを感じられたら、また音楽が楽しくなるし。全てですよね、音楽と、人と、その人生。それについてくると思ってるんですよ、パーティって。そこにいるいろんな人に出会って、そこから生まれるものってたくさんあると思うんで。だから、グイグイ来る若い子に「シッシッ、あっち行け」なんて、絶対誰もやらないと思うんですよ。相当ヒドくない限りは(笑)。そういう若い子を増やしたいですね。ちょっとしたことでもいいんですよ。いいパーティだなって思って最後まで遊んだなら、グラス片付けたり、皆に「おつかれさまでした」って声かけてから帰るとか。なんでもいいんで、自分の方からパーティに関わって楽しんでほしいですね。そうすればもっと楽しくなるし。

■五十嵐:そろそろまとめようか。俺が話してほしかったこと、ほぼ全部言ってくれたよ。

KABUTO:あとは〈CABARET〉をよろしくお願いします。これから先も面白い動きがあるし。それで来年で〈CABARET〉は15周年だから、パーッと何かやるか、っていう話もしてて。DJも、〈CABARET〉関連デザインを担当してくれてるMAA君も含めてみんなでいいパーティやりたいと思ってます。

■五十嵐:常に応援してます。これからもその調子で頑張ってください。最近住居がご近所さんにもなったし(笑)。

KABUTO:まだまだ話したいエピソードは山ほどありますけど(笑)、今後の活動を楽しみにしててください。

■ KABUTO on line DJ MIX
CB-157 KABUTO
https://soundcloud.com/clubberia/cb-157-kabuto

Strictry Vinyl Podcast 10 KABUTO
https://soundcloud.com/strictlyvinylpodcast/svp010

■ DJ schedule
12/28(SAT) Mood and Voltage@cafe domina名古屋
12/30 (MON) KARAT@Solfa w DJ SODEYAMA
12/31 (TUE) TBA
1/10 (FRI) GRASSROOTS
1/18 (FRI) CABARET - a leap of faith edition - feat KAI from berlin
2/1 GIFT feat CASSY @AIR afterhours

Compilation Albums - ele-king

 コンピレイションを3~4枚。

Various Artists - New German Ethnic Music  Karaoke Kalk

Amazon iTunes

 エレクトロ・アコースティックならぬエレクトロニカ・アコースティック系の〈カラオケ・カルク〉が企画したのはドイツのフォークロアをマーガレット・ダイガスやウールリッヒ・シュナウスをはじめとするクラブ系のプロデューサーたちが電子化するというもので、1970年代にヘンリー・フリントがアメリカでブルースやカントリーをエレクトロニック化した「ニュー・アメリカン・エスニック・ミュージック」に習ったものだという。このところドイツでは過去の音楽に関心が集まっているらしく、移民たちがドイツに持ち込んだ音楽を浮き上がらせるためにリミックスという手法を選択したのだとか。なるほどトーマス・マフムードは北アフリカ起源のグナワをダブに変換し、グトルン・グットはクロアチアの無伴奏男性合唱、クラッパに重いベースをかませて高い声を引き立てている。マーク・エルネストゥスの興味はモザンビークに移ったようですw。

 元の曲がわからないのでジャーマン・ネイティヴのようには楽しめないものの、基調となっている重苦しさはブルガリアン・ヴォイスを思わせるものが多く、オープニングのムラ・テペリはまったくそのまんま。言われてみれば明らかにトルコ系の名前だったカーン(エア・リキッド)はかつての出稼ぎ先だったギリシア音楽をゴシック風にアレンジしてみせる(古代を中世化させたわけですね)。奇しくも2013年はトルコ人9人を殺害したネオ・ナチで唯一自殺しなかった女性、ベアテ・チェーペの裁判がドイツ中の注目を集め続けた年だけにトルコ系のプロデューサーが健在だったというだけで嬉しい知らせといえる。ワールプール・プロダクションズのエリック・D・クラークがキューバ系だったということも初めて知った。
 グルジアや南米からのエントリーもあって、2013年には相変わらずモンド気分な『ザ・ヴィジター』をリリースしたマティアス・アグアーヨと第2のジンバブエと化しているベネズエラのニオベはそれぞれヴェトナム・カン・ホーというフォーク・ソングとスペインのルネッサンス合唱を題材にレジデンツ風ラウンジ・ミュージックに仕上げている(そう、個人的には南米組、圧勝です)。つーか、トラック・リストは面倒くさいので以下を参照。
https://www.inpartmaint.com/shop/v-a-new-german-ethnic-music-immigrants-songs-from-germany-electronically-reworked/

HouseIDM

Various Artists - Scope Samurai Horo

Amazon iTunes

 なんだか補完しあっているようだけど、同じドイツから〈サムライ・ホロ〉がコンパイルした『スコープ』は期せずして、フォークロアとはなんの関係もないのに、似たような重厚さにに支配され、フェリックス・Kのヒドゥン・ハワイと同じく、ベーシック・チャンネルを通過したストイックかつスタイリッシュなミニマル・ドラムンベースを聴かせる。イギリスからASCや最新シングルがまさかの〈トライ・アングル〉に移ったニュージーランドのフィスなど、集められたプロデューサーはドイツだけとは限らず、このところ頭角を現しつつあるサムKDCや2011年に『テスト・ドリーム』が話題となったコンシークエンスの名前もあるものの、まるでひとりの作品を通して聴いているような統一感があって、その意志の堅さには恐れ入る。こういった音楽をマイナー根性ではなくファッショナブルな感覚で聴いていただけたら。



ExperimentalDrum'n'BassIDM

Various Artists - We Make Colourful Music because We Dance in The Dark
Greco-Roman

Amazon iTunes

 大量に吐き出される音楽にはやはり無意識が強く反映され、日本のそれには奇妙な躁状態が表出しているように(なんで?)、ヨーロッパはいまだ深い闇に沈んでいるようである。2017年までにEUからの離脱を国民投票で決めるだなんだと騒がしくなってきたイギリスは、しかし、まったく雰囲気が違っていて、ディスクロージャーのシングルをリリースしてきたグレコ・ローマンがコンパイルした『ウイ・メイク・カラフル・ミュージック・ビコ-ズ・ウイ・ダンス・イン・サ・ダーク(僕たちは暗闇で踊るのだから、カラフルな音楽をつくるのさ)』は(思わずタイトルで買ってしまったけれど)、たどたどしさをなんとも思っていない勢いと若さに満ち満ちている。ディスクロージャーとデーモン・アルバーンのDRCミュージックに参加していたトータリー・イノーマス・イクスティンクト・ダイナソー以外はまったく知らないメンツだったけれど、バイオとテルザがとても耳を引き、調べてみたら前者はヴァンパイア・ウィークエンドのクリス・バイオで、それこそヴァンパイア・ウィークエンドのトラックを使い回したハウス・ヴァージョン。ハーバートがデビューさせたマイカチューのプロデュースによるテルザはゼロの飯島さんもお気に入りのようで、「踊ってんじゃなくて戦ってんのよ/輝いてんじゃなくて燃えてんのよ/触ってんじゃなくて感じてんのよ」という歌詞を気だるげに歌っています。


Various Artists - Young Turks 2013 Young Turks

Amazon iTunes

 この辺りのシーンの火付けは野田努が言うようにジ・XXなんだろう。同じくレーベル・コンピエイションとなる『ヤング・タークス2013』はジ・XX「リコンシダー」にサウンド・パトロールで紹介したFKAトゥィッグス「ウォーター・ミー」とまー、レア・シングルばりばりで、コアレスのニュー・プロジェクト、ショート・ストーリーズ「オン・ザ・ウェイ」まで入ってますよ。いやー、こんなに勢いがあったら、そらー、EUも飛び出しちゃうかも知れませんねー。とはいえ、ギリシャを見放さなかったことで、EUには現在、周辺から弱小国が相次いで加入を決め、入れてもらえないのはトルコだけという感じになっています。〈ヤング・タークス〉というのは若いトルコ人という意味だけどね。

ExperimentalHouseAmbientElectro

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467