ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  2. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  3. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」
  4. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(前編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  5. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(後編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  6. interview with Boom Boom Satellites 明日は何も知らない  | ブンブンサテライツ(中野雅之+川島道行)、インタヴュー
  7. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  8. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  9. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  10. Columns Nala Sinephro ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている
  11. Jan Urila Sas ——広島の〈Stereo Records〉がまたしても野心作「Utauhone」をリリース
  12. Damon & Naomi with Kurihara ──デーモン&ナオミが7年ぶりに来日
  13. Columns 8月のジャズ Jazz in August 2024
  14. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る
  15. Gastr del Sol - We Have Dozens of Titles | ガスター・デル・ソル
  16. KMRU - Natur
  17. Wunderhorse - Midas | ワンダーホース
  18. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  19. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  20. K-PUNK アシッド・コミュニズム──思索・未来への路線図

Home >  Reviews >  Album Reviews > My Cat Is An Alien- Fragments Suspended in Time

My Cat Is An Alien

My Cat Is An Alien

Fragments Suspended in Time

Opax

Alio Die & Zeit

Alio Die & Zeit

Il Giardino Ermeneutico

Hic Sunt Leanes

Amazon iTunes

三田 格   Feb 14,2011 UP

 アンビエント本に2011年の項目があったらコレで決まりかもしれない(......まだ11ヶ月あるけど)。イタリアからアリオ・ダイ&ツァイトによるサード・コラボレイションで、日本語に訳すと『解釈学的庭』。ヴィンセント・ラジオのレギュラー番組でオン・エアしたときはディーと発音してしまいましたが、ダイが正しいそうです。ヴィンセントではシングルやこのサイトで取り上げ損なったものをなるべくピック・アップするようにしていて、アンビエント盤というのはどうしてもレヴューのタイミングが難しかったりするので、どちらかというとこれはつなぎのつもりで「オレンジ色のビジョン」をかけたところ、たいていは3分ぐらいでフェイド・アウトしているにもかかわらず、聞き役のタキシムやスタッフからもうちょい、もうちょいといわれて結果的にかなり長々とかけてしまったという......。番組が終わってからも問い合わせが来たりして、あまりにも反応がよかったので、こちらでもやっぱり紹介したほうがいいかなと。活動歴20年を越えるアリオ・ダイをアンビエント本から省いてしまった理由などはヴィンセントの過去ログで話してます(1/30放送分)。

 前2作は聴いていないので、常にそうなのかはわからないけれど、ここで展開されているアンビエント・スケープは驚くほど和やかで、ジャケット・デザインから想像するような物々しさは皆無。最初から最後まで柔らかい陽射しを浴びつつ、何も特別なことを感じないでいられるというか。ツァイトのカリンバやダイによるフィールド・レコーディングが緻密に、巧みに人工自然を練り上げていく。なんだろう、この穏やかさは......本当に。忌野清志郎の言葉を借りれば「悪い予感のかけらもない」か。アレックス・パタースンが親近感を覚えるという湿地帯のメンタリティでもない。サン・エレクトリックのような強引さもないし、ブライアン・イーノほど背景に引いてしまうわけでもない。感情の揺れがあるわけでもないし、エゴがあるわけでもないわけでもない。"風の物語"と題された3部作が前半、オーロラに触れているような(って、触ったことないけど)"ヒノキの泉""融点"と続いて、最後がそれらの集大成ともいえる"オレンジ色のヴィジョン"。どの曲も同じようなものなのに、このまま終わらないで欲しいと願いつつ......(なぜか1曲目しか配信はされていないらしい)。

 イタリアからもうひと組、オパーリオ兄弟によるマイ・キャット・イズ・アン・エイリアンは、企画盤やコラボレイションを除くと実に4年振りとなる21作目(Rを除く)。トリノの市街からアルプスの山中にスタジオを移したことで、それまで徹底的にイメージを集中させていた「宇宙」というテーマから、むしろ、ノイジーでインダストリアルともいえる作風に変化していく兆候が窺えた時機もあったものの、最終的には大地や地球といった「自然」を想起させる感触に落ち着いたようで、ドローン・インプロヴァイゼイションとしては正統に回帰した印象も。この数年で灰野ケイジやローレン・コナーズとコラボレイトしてきた影響があったりするのか、オープニングで透き通るようなアルペジオを延々と聴かせたりする以外はとくに方法論が変化したとも思えないのに、与える印象はかなり違ったものに。そう、06年に7枚のアルバムをリリースした後、オリジナル・アルバムは一気にリリース量が減ったにもかかわらず、コラボレイションに関しては相変わらず旺盛で、昨年末には(この3月で83歳を迎える)エノーレ・ザッフィーリとも『スルー・ザ・マグニファイイング・グラス・オブ・トゥモロー』をDVDとの2枚組でリリース。ここで聴くことができる闇夜の気配が伏線となったのだろう。ザッフィーリが持ち込んでくるミュージック・コンクレートのテクスチャーに逆らうこともなく(=これまでのように極端なクライマックスをつくらず)、僅かな差異を示しながら創られていく空間性を、そのような拮抗性から解き放ち、自分たちの流のアンビエント・ドローンとして再生させている。ダイ&ツァイトがタイトル通り、徹頭徹尾、気持ちよくつくられた人間不在の人工庭園だとしたら、オパーリオ兄弟のそれは自然の表情を様々にとらえたドキュメンタリー番組のようなものだろう。イタリアでは果たしてどちらのほうがマイナーな感性なのだろうか。※初回100部限定で箱入り、マーブル・ヴァイナル仕様、CDrおよびDVDr付き。
 ちなみにスイス電子音楽の重鎮であるザッフィーリはアンビエント・ミュージックの先駆といわれる人で、1968年にはじめられた『ミュージック・フォー・ワン・イアー』はアルヴァ・ノトやミカ・ファイニオを先取りしたシグナル系の快作。08年にジュゼッペ・イエラシ(裏アンビエントP199)のマスタリングでCD化されている。

三田 格