ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  2. interview with Toshimaru Nakamura 世界を魅了する、類い稀なる電子音響 | ──中村としまる、待望の初期ベスト盤リリースと超ロング・インタヴュー
  3. Columns Dennis Bovell デニス・ボーヴェルひさびさの新録は無類のカヴァー集
  4. Open Mike Eagle & Kenny Segal - DOOMED! | オープン・マイク・イーグル、ケニー・シーガル
  5. Betty Hammerschlag ——マニア受けしていたZ世代のe-girlシンガーが、実は中年のおじさんだったニュース
  6. 微風ゾーン - The West
  7. interview with HASE-T and Bose パンクからレゲエ/ヒップホップへ、それから30年後の “現代” へ | ──80年代日本ラップ黎明期のリアルな物語をHASE-TとBoseが語る
  8. Cornelius - Refractions | コーネリアス
  9. Mori Wa Ikiteiru ──森は生きているのアルバム2枚が新たなミックスでリイシュー
  10. Columns 国会前でシルヴィア・ストリプリンが流れたことについて  | SEALDs、シールズ
  11. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  12. Roy Montgomery & Martha Skye Murphy - Nebular | ロイ・モンゴメリー、マーサ・スカイ・マーフィー
  13. Juan Atkins ──デトロイト・テクノの創始者、ホアン・アトキンスが日韓ツアー、来日は13年ぶり
  14. interview with Tyondai Braxton ひさびさの新作を出した実験音楽家タイヨンダイ・ブラクストン
  15. yuu.ten vol.3 ──heykazma主催パーティに石橋英子、Taigen Kawabe+食品まつりらが出演
  16. Phew, Danielle De Picciotto - Paper Masks
  17. Columns Boards of Canada ボーズ・オブ・カナダの帰還  | ──その軌跡、その影響、そして13年ぶりの新作『Inferno』をめぐって
  18. interview with NF Zessho サンプリングは、それを突き詰めればDJプレミアみたいなすごいことになるけど、俺がDJプレミアになれるわけじゃない。だったら自分にないものを埋めたいと思って。
  19. The Durutti Column - Renascent | ザ・ドゥルッティ・コラム
  20. 異次元の常識──パンク/ハードコアの思想とメッセージ

Home >  Reviews >  Album Reviews > patten- GLAQJO XAACSSO

patten

patten

GLAQJO XAACSSO

No Pain In Pop

Amazon iTunes

橋元優歩   Dec 30,2011 UP

 チルウェイヴの異端として忘れがたい面影を持つ音である。しいて異端とするのは、その手練や仔細らしい態度のためだ。ロンドンのプロデューサー、パッテンによるファースト・フル・アルバム。彼のバイオグラフィについては多くの記事が「ミステリアス」のひと言で片付けている。なにしろ質問に対して動画だか音源だかで回答したりするそうで、やっと読めたインタヴューなどでも問いを巧みにはぐらかすような発言が多く、ひと言でいってつかみどころがない。本タイトルも『グラック・ジョー・ザック・ソウ』とわけがわからない。おそらくはどう発音しても「正解だ」と言われるのだろう。
 バイオや音楽性ふくめ、そうした「発音しにくさ」がひとつのコンセプトになっているようだ。どのようなバンド名や曲名も、時間が経てばその存在や音となじみ、一体化していく、と彼は述べる。だから「もしあなたが見たことのない言葉(=名前)をつくることができたなら、見たことのない音もつくることができるだろう」......詭弁ともとれるコメントだが、ここには名前/名づけという行為をめぐる存在論的な考察とともに、彼自身の創作理念が表明されていると言えるだろう。じつにインテリらしく、気難しささえ窺われる。
 筆者はチルウェイヴの重要な特徴はもっと素直で融和的な表現態度にあると考えていて、それを悪くとり違えれば「バカみたい」ということになるのだろうが(そしてそれを「バカみたい」とするならば、アニマル・コレクティヴ/パンダ・ベアらが敷き、後期2000年代が模索し伸張してきたインディ・ミュージックの大きな可能性が全否定されることになるのだが)、その意味ではパッテンの音は決して「バカみたい」ではなく、つまりチルウェイヴのもっともヴィヴィッドな部分をやや逸らしたところに狙いがあるようにもみえる。では「グラック・ジョー・ザック・ソウ」なる「新しい言葉」は、「新しい音」を拓きうるだろうか。
 
 "アイス"の冒頭は、本作をチルウェイヴ/グローファイの文脈でとらえる上で絶好のイントロダクションとなるだろう。コンプレッサーで過度に歪められた音像、そこには様々なノイズがとけあうようにして渦巻いている。ドリーミーなシンセのリフが印象的に主題をリフレーションし、やがてオーヴァードライヴンなスネアが機械のように容赦なくビートを刻みはじめる。このとろりと濁ったプロダクションには現在形のインディ・ミュージックの粋が詰まっているし、ビートにはフライング・ロータスなどの硬質でアブストラクトな感覚も流れ込んでいる。他にはシーフィールやクリスタル・キャッスルズ、またボーズ・オブ・カナダに比較されもする華やかなトラックだ。"ファイヤー・ドリーム&"などはゴールド・パンダを連想させる。歪んだ808サウンドがレイヤーを形成し、乾いたビートはアルバム中もっともストロングでストレートに機能している。
 "ピーチー・スワン"や"アウト・ザ・コースト"など中盤はこうしたハウス風のトラックが続く。"ブラッシュ・モザイク"などではビートが壊れその隙間から唱導のようにドローンなコーラスが顔をのぞかせる。90年代なかばの〈ワープ〉のカタログもよく引き合いに出されているが、とくにエイフェックス・ツインの影響は強いかもしれない。くっきりとした叙情が受け継がれている。こうしたドリーミーな叙情性に加え、"ワーズ・コライデッド"や"プルーラルズ"、そして"ルビーリッシュ・フィルム"などに見られるスキゾフレニックなカット・アップやループ、そしてアンビエントな音色が、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーやマーク・マッガイア、ローレル・ハロなどチルウェイヴの地下鉱脈ともいうべき流れをも汲んでみせている。

 こうして見ていけばいかに優秀なセンスでまとめられた作品であるかということがわかるが、それを上回って感心したのが、ピッチフォーク等で高い評価を受けたシングルからの変わりようだ。〈DFA〉などに重なる、たぶんにポスト・パンク的なダンス・トラックで一躍有名になったわけだが、本アルバムではダンス色をなぎはらい、音色もずっと鬱蒼としたものに変化させている。〈DFA〉がやや時代とずれつつあるというような嗅覚もあるのかもしれないが、大きくはチルウェイヴとして認識されるインディ・ミュージックの内向化に対応したのだろう。アート・ワークにももともとそうしたセンスがあった。パッテンのホームページにはスクロールしてもしても繰り返し広がり続ける背景画像のパターンがある。
 とくに対象物を配置せず、しかしモノトーンというにはあまりにさざまなな情報が溶かし込まれたようなその微妙な色合いのつながりを見れば、きっと何十年してもこの時代の音楽を思い浮かべるだろうと思えてくる。

橋元優歩