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patten

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ESTOILE NAIANT

Warp/ビート

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橋元優歩   Feb 14,2014 UP
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 パテンには詐欺師の魅力がある。前作の目くらましのようなタイトル(『グラックジョーザックソウ』2011年)が誰にも確と発音されないまま堂々とシーンをわたっていたのもおもしろかったし、いまだに素性を明かさないまま「D」とだけ名乗っていることも、もはやちょっと愛すべきエピソードになりつつあると思う。〈ノー・ペイン・イン・ポップ〉から最初のアルバムをリリースしたのが2011年。彼の今作と昨年末のEPが〈ワープ〉から登場したことは、〈エディションズ・メゴ〉と〈メキシカン・サマー〉をまたぐOPNが同名門とサインしたインパクトに次いで、現〈ワープ〉のアブストラクトでアンビエントな方向性を明確にするものとなった。
 必ずしもダンス・ミュージックを出自に持たない両者だが、ビート、プロダクション、参照する音楽性、言動、どこかしらインチキな感じがするのがパテンだというのが筆者の印象だ。キャラクターはある意味で対照的で、パテンが詐欺師なら、OPNは錯視家。詐欺は騙しだが、錯視はアートであり科学であり哲学でさえある。それは、『エストイル・ネイアント』と『R・プラス・セヴン』のアートワークにも表れていると言えるだろう。パテンは今回もコラージュだ。ひとつひとつのパートに意図があるようで見えきらない。情念はさらさらない。

 もちろんパテンを貶めるのではない。筆者はそこにこそ彼の魂の躍動を感じる。そして同時に、音楽をけっしてアートや学問にしない、フロアやベッドルームへ向けた勘も働いているように思う。リミックスの依頼も引きも切らないというし、彼自身もレーベル〈カレイドスコープ〉を動かしていて、新人の発掘にも余念がない。ミュージック・ヴィデオにも意欲があり、現在はジェーン・イーストライトと組んで(やはりコラージュ的な作品を)制作している。自身のフォームを築きあげるというよりも、人を触媒として音を世間にめぐらせていくことを楽しんでいるのではないだろうか。

 クラムス・カジノやハウ・トゥ・ドレス・ウェルが2011年に持っていた濁り──スクリューに由来した、あるいはただ過剰にオーヴァー・コンプ気味な音に「ゴーストリー」という衣を着せた、シーンは違えどあの頃の気分をよく思い出させるどろりとしたテクスチャーを口よく直して“ゴールド・アーク”や“ヒア・オールウェイズ”ははじまり、“23-45”をピークとして中盤をちょうど新作のOPNのようなアンビエント・トラックが埋める。インスタントなエメラルズといった印象のものから、アニマル・コレクティヴの『ストロベリー・ジャム』以降のアルバムにおけるインターミッションのような、エクスペリメンタルなスタイルのものまで幅がある。後半には硬質なテクスチャーのものも聴こえ、ちょうどゴールド・パンダのようにドリーミーでインディ・ロックに近い発想のダンス・トラックも散見される。大体のものにはつかみどころのないビートが組み込まれていて、トラップやダブステップの片鱗がのぞいたりもする。

 まとまりがつかないようで強烈に何かを思い出す。何かなーと記憶をたどると『グラックジョーザックソウ』だ。彼の音をいろいろ思案しながら聴いていると結局のところ歴史にも地図にも物語にも結びつかず、彼自身の作品に戻ってしまう。戻ったところで彼は言うんじゃないだろうか、「音楽とは何なのだろう?」とか。これはかつて『ダミー』が行ったインタヴューで、彼の「謎の存在」感に拍車をかけることになった発言のひとつだ。問い自体が詐欺寄りの詭弁、真意をつかもうとすると彼はそこにいない、でも『グラックジョーザックソウ』が残っている。彼はにやっと笑う。『エストイル・ネイアント』はどこかに消えてしまった。そもそも「エストイル・ネイアント」って何なんだろう、すごくめちゃくちゃな感じがする(調べてみると、また騙されたと思うことだろう。変な星型がへらへらするばかりだ)。
 護身にはナイフ1本、頭脳労働専門、人間を動かして観察するのが趣味の詭弁家の情報屋というあるキャラクターを思い出す。悔しいながら彼が魅力的であるようにパテンも魅力的だ。「俺が必然を愛するように、偶然は俺を愛するべきだよね」というセリフがあったけれども、パテンのあのランダムなビートはまさに偶然に愛されたいビートではないかと思う。偶然に愛されないから必然を愛するふりをする。そんなところもあの詭弁家に似ている。騙し続けられなくなったら終わりという、その詐術的な弱さの強さに惹かれてしまう。

橋元優歩