「NotNotFun」と一致するもの

interview with Courtney Barnett - ele-king

 朝はだらだらと過ごす
 窓際に椅子を引きずっていき
 外の様子を眺める
 ゴミ収集車が道沿いに静かに進む
 犠牲者のためにキャンドルを灯し
 風に乗せて気持ちを伝える
 私たちのキャンドルや希望や祈り
 それらは善意から出たものだけど
 まるで意味がない、変化が訪れなければ
 今日はシーツを変えた方がいいかも
“レイ通り(Rae Street)”


Courtney Barnett
Things Take Time, Take Time

Marathon Artists /トラフィック

Indie Rock

Amazon

 コートニー・バーネットの新作は朝からはじまる。朝起きて、窓の外を覗いて、外で起きている何気ない日常を見入る。このはじまりはバーネットらしい。彼女の風通しの良いギター・ロック・サウンドは、視界が開けていくような感覚をうながす。新作のタイトルは『物事には時間がかかる、時間をかけろ(Things Take Time, Take Time)』という。
 オーストラリアはメルボルン出身のバーネットには、古くて良きものとしてのロックがある。もっとも彼女のそれは今日的な新しい視点によって描かれているし、ロックのともすれば悪しき自己中心的な横暴さや、ありがちだった父権社会への加担もない。バーネットの評価を決定づけたデビュー・アルバムのタイトル『ときどき座って考えて、ときどきただ座る(Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit)』は、それが誕生してからずっと芸術的な進化を期待されてきたロックが別のルートに入ったことを象徴するような言葉であり、彼女の短編小説めいた歌詞のセンスが発揮されてもいた。ヴェルヴェッツ好きのリスナーには先日彼女が披露した“アイル・ビー・ユア・ミラー”のカヴァーを聴けばなおのこと、バーネットの音楽が少数派の代弁として機能していることもわかっているだろう。
 とはいえ、これは悲しいアルバムではないし、やかましくもない。リラックスしていて温かい作品だ。バーネットはカーテンを開けて、部屋に日光を取り入れている。斜に構えることなく、悲観することに感情は支配されない。サウンドも言葉もときに朗らかだったりする。それが新作の特徴で、彼女は“楽しみにしていることのリストを書く(Write A List of Things to Look Forward to)”。

「ロックは死んだ」とか「ギターは死んだ」とか。でも、どうなんだろう。議論すること自体がちょっと馬鹿げているとも思う。世のなかにはいろんな音楽があって、どんなもの、循環して巡り巡って、流行りやトレンドが生まれるわけで。どんなものでも、その居場所があるべきだと思う。

 誰も知らない
 どうして私たちは頑張るのか、どうして頑張るのか
 そんな風に時は流れる
 私はあなたからの次の手紙を待ち焦がれる

 ソングライターとしての才を持っているバーネットの今回は“陽”の部分が広がっている。サウンドには遊び心もあって、アルバムにはきわめて控えめながらリズムボックスやシンセサイザーも鳴っている。そしてそれぞれの曲には彼女らしい思慮深い言葉が綴られている。その多くはコロナ渦において生まれているから、未来へのリセットを余儀なくするしかない(はずの)我々にとってもきっと共振するところが多々あることだろう。朝にはじまり夜に終わる新作について、この10年もっとも広く愛されているインディ・ロック・アーティストのひとりである彼女が電話を通じてアルバムについての詳細を話してくれた。

忙しいなかお時間ありがとうございます。新作がとても良かったので、お話を聞けることを嬉しく思います。いまどちらに住んでいるのですか?

CB:住んでるのはオーストラリアのメルボルンよ。けど、いまは数週間後にはじまるツアーに備えてカリフォルニアのジョシュア・ツリーに滞在している。

いまでもメルボルンに住んでいるのはどうしてでしょう? 

CB:いまでもメルボルンに家があるけど、場所にはそこまで拘っていない。人との繋がりのほうが大事だよ。友だちとか家族とか。だから、特定の場所に深い結びつきを感じているわけじゃないんだ。

今作『物事には時間がかかる〜』をまず聴いて思ったのは、前作『本当に感じていることを私に教えて(Tell Me How You Really Feel)』とくらべて、明らかに全体的にリラックスしたムードがあり、またユーモアとポジティヴなヴァイブもあるということです。ギターの響きは前作よりも繊細で、温かく、とても良いフィーリングが表現されているように感じました。あなた自身、今回のアルバムをどのように解釈しているのでしょう?

CB:あなたがうまく言い表してくれたと思う。私自身は、聴き返すとすごく喜びに満ちていると感じる。楽しそうなアルバムだし、落ち着いていて、のどかな感じもするし。そういう作品になって満足している。そういう感情を捉えたいと思っていて、音楽で表すことができたから。

制作はコロナ中にされたのですか。オーストラリアではそれほどひどい状況ではなかったかもしれませんが。

CB:曲はこの数年間、断続的に書き続けていて、なかには2020年より前に書いた曲もある。アルバムを作ろうと本腰を入れたのは2020年の中頃。メルボルンにいたんだけど、オーストラリアはたしかに他の国と比べて感染者数が極端に多いわけではなかった。けど、かなり長いあいだロックダウンを敷いたり、解除したりの繰り返してで、つい数週間前にもロックダウンが解除されたばかりだったり。だから、これといって大きな出来事もなく、けっこう静かな1年だったかな。世界の他の地域と比べたら状況は良かったものの、長期間ロックダウンが敷かれていたのはたしかだよね。

いまアルバムが喜びに満ちていると言っていましたが、それは自分が抱えていた感情なのか、それとも、そうだったらいいな、という思いからだったのか。

CB:その両面が少しずつあると思う。誰もがそうだったと思うけど、私にとっても感情が揺れ動いた時期だったわけで、いろいろな思いを抱えながら過ごした。だから、前向きな気持ちを切望していたときもあって、そういうことを思い浮かべながら曲を書くこともあったし、いっぽうで、異様な世界を前にして、未来がどうなるかわからないなかで、感謝の気持ちもだったり、生きてることへのありがたみを感じる瞬間もあった。表裏一体なんだと思う。

日常のなかの小さな物語を描いているという点ではファースト・アルバム『ときどき座って考えて~』の頃に近いという言い方もあるのかもしれませんが、今作にはファーストにさえなかった楽天性——この言葉が正確かどうか自信はありませんが——があるように感じたのですが、実際のところいかがでしょうか?

CB:そうね。ちょっとした悟りの瞬間があったんだと思う。しばらく落ち込んでいた時期があって、自分の思考パターンを意図的に変えようとした。自分の脳を能動的に変えよう、という。自分にできる方法でね。ときには楽天性を自分に強いることもあった。それを続けることで、自然とそうなるんじゃないかっていう(笑)。うまく言えないんだけど、自分なりに生き方を模索してたんだと思う。

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しばらく落ち込んでいた時期があって、自分の思考パターンを意図的に変えようとした。自分の脳を能動的に変えよう、という。自分にできる方法でね。ときには楽天性を自分に強いることもあった。


Courtney Barnett
Things Take Time, Take Time

Marathon Artists /トラフィック

Indie Rock

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あなたにとって新たにアルバムを作るという行為は、どんな作業を意味するのでしょうか? たとえば、人によってはまずはコンセプトから考えて作るとか、あるいは、いままでやっていなかった何か新しい音楽のスタイルにトライして作るとか、実験的に自分とはテイストが違うプロデューサーと仕事をするとか、ゲストを入れてみるとか、いろいろあると思いますが、あなたにとっての「新しいアルバム」とは、——これは決してネガティヴな意味で言っているのではないので誤解しないで欲しいのですが——、新しくできた曲を収録以上のどんな意味があるのか……それはひょっとして、人生の記録みたいなところはあるのかなと思ったんですが、どうでしょうか?

CB:たしかにアルバムというのは時間の記録でもある。そのとき居た場所、人、感情の記録で、あとで振り返ったときに、その曲が自分のなかでまた変わっていたり、進化していたりするからまた面白い。私が曲を書いてアルバムを作るのはある種のコミュニケーションであって、もっとも自分を表現できる形であると同時に、人に何かを伝える、自分の考えを知らない人に伝える手段でもある。自分の考えをまず自分で昇華して、理解することで、自分自身、そしてまわりの人のことをより知ることができる、という。

リリックも興味深く思いました。たとえば1曲目の“レイ通り”のコーラスにある「時は金なり、そしてお金は誰のものでもない(time is money; and money is no man’s friend)」というフレーズなんかは印象的なのですが、こうした感覚はたとえば初期の“エレベーターオペレーター ”のような曲にもあったと思います。強いて深読みすれば、資本主義社会に対するあなたのクリティックはつねにあるように思っているのですが、今回のこの言葉はどんなところから出てきたのでしょう?

CB:あのフレーズだけど、じつは子供の頃に父親がよく言っていた言葉で。私たちが学校に遅刻しそうなときに、「時は金なり」といつも愉快に言っていた。彼は楽しげに言っていたけれど、その言葉の本当の意味を私もあまり深く考えたことがなくて。でも、この1年半ふと考えるようになった。突然世界の動きがゆっくりになって、経済も止まった。私はメルボルンにいたからロックダウンも経験したし、倒産するビジネスも出てきたりした。いまでも、そのフレーズの意味を完全に理解できたわけではない。状況によって、いろいろな意味にもとれると思うし。でもこの曲を書いたときは、物事が変わりゆくこと、だったらどこにエネルギーを注ぐべきで、生きていく上で本当に大事なのは何なのか、ということを考えながら書いた。

たしかにこの1年半で多くの変化を経験したわけですが、終息したらみんなまた元の生活に戻ると思いますか? それとも、これをきっかけに生き方を変える人も出てくると思いますか?

CB:これをきっかけに生き方を変えた人は多いと思う。働き方にしても、日々の過ごし方にしても。どんな世のなかになるのか興味深い。都会を出て、静かな町や田舎に引っ越した人もいるだろうし。

ご自身はいかがですか?

CB:当然変化はたくさんあった(笑)。でも、その真っ只なかにいると、変わっていることに自分では気づかないことも多い。普通に、いろんなことをするペースがゆっくりになったことはたしか。前よりも焦らなくなったり、こだわりを捨てることだったり。不安やストレスを溜め込まないことや、結果ばかりを気にするんじゃなくて、目の前のプロセスに意識を向けることもそう。そういうちょっとしたことが凄く大事だったりするわけで、物事に対する見方や考え方も変わったと思う。

“レイ通り”や“楽しみにしていることのリストを書いて”には世界に対する優しい眼差しがあり、ポジティヴな感覚が歌われています。このような、日常のひとこまを描くことはコロナで家から出れない日々を送っていたからこそ生まれた歌詞なのでしょうか?

CB:コロナがちょうどはじまった頃にアメリカからメルボルンに戻ってきたわけだけど、当時はまだ自分の家がなくて、友だちの賃貸をそのまま引き継ぐことになった。大きな窓があって、そこから日光が差し込むすごく素敵なアパートでね、その窓辺に座って、コーヒーを飲みながらいつも曲を作っていた。そこから前の通りを行き交う人たちが見えて、そんな人たちの人生がとても身近に感じられて、気がついたら“Rae Street”ができていた。どこからともなく思いついた。日常のさりげない瞬間にフォーカスしていたんだと思う。

“楽しみにしていることのリストを書いて”はどうですか?

CB:あの曲は2019年終盤に書いてたのを覚えている。けっこう気分が落ち込んでた時に、友人から「人生で楽しみにしていることのリストを書くといい」と勧められた。そのアイディアをもとに書いた曲で、感謝の気持ちをこめている。日々の些細なことでも、自分にとっては大事なことだったりして、生きる原動力にもなるし、感謝すべきものだって。ちょうどその時期、オーストラリアで大きな森林火災が続いていて、避難を強いられたり、家を無くした人もいて、凄く大変だった。あの曲を書きながら、オーストラリアの友人や、大切な人たちに思いを馳せたり、この世界のなかでの自分の立ち位置を考えたりした。どんなに些細なことでも、失ってしまうと、それが恋しくなるし、また出会えるのを楽しみにしていることがある。そんなことを考えながら書いたわ。

『本当に感じていることを〜』の頃は、匿名であることを利用した、悪意で人を傷つけるSNS文化への憤りもあったと思いますが、今回はそれとは反対の世界のほうに注目していますよね。それから、“サンフェア・サンダウン(Sunfair Sundown)”では“レイ通り”で描かれているささやかな幸福とは反対にあるのであろう、過酷な資本主義に象徴される「あちら側」についても少しですが言及されています。前作ではその「あちら側」への憤りがあったように思いますが、もしそうだとしたらあなた自身が今作によってその怒りの状態から脱したと言えると思ったのですが、いかがでしょうか?

CB:そうだと思う。あの頃はいまとはかなり違う状況にいたわけで。大事なのはいまでも憤ることや不満や怒りを感じることが世のなかでたくさん起きているけど、それらとともに生きることで、目を逸らしたり、拒絶しないこと。それを受け入れつつ、この世にたくさんある美しいものや、善良な人たちの存在もしっかり認識すること。辛いことばかりじゃなくて、いいことやいい瞬間もあるんだって。そのバランスが大事で、片方にばかり囚われていると、絶望という落とし穴に落ちてしまう。

いまは、そのバランスがうまくとれるようになったと?

CB:毎日自分に言い聞かせながら、そういう意識を持ち続けることが大事だと思ってるんだ。

最近はアリス・コルトレーン を家で聴いている。あとは……、ニーナ・シモンやジョニ・ミッチェルとか。アーサー・ラッセルも。そのときやその日の気分にもよるけど、いろんな音楽を聴いてるわ。フローティング・ポインツもそう。

今作のなかで、あなた個人が思うもっとも重要な曲は何でしょうか?

CB:どの曲も、その曲なりの重要度があるわけで、例えば“つまりね(Here’s the Thing)”は、美しい曲で思い入れもあるし。あと“緑になる(Turning Green)”もとても気に入っている。大好きで、誇りに思っている曲。固定概念を捨てて、季節の移り変わりのように自分も変わっていくという。

今作ではきわめて控えめですが、エレクトロニクスも使っているようですね。とはいえ、基本的にはあなたはギター・ロック・サウンドにこだわっていると思います。その姿勢はこの先も変わらないと思いますか? ほかの楽器が入るとか、もっとエレクトロニクスを使ってみるとか、そういった可能性はありますか? 

CB:アルバムごとに少しずつ新しいことを試みているんだよね。今作では、これまでと比べてギターを弾く頻度が減って、鍵盤やシンセサイザーを弾いているし。いろいろなサウンドを取り入れることに対してはオープンでいるんだ。今作でもシンセやコンピュータで生成したサウンドについてもっと探究したいと思った。結果的にアルバムにはそれほど使っていないかもしれないけど、制作の過程でいろいろ試して、もっと掘り下げたいと思っている。

ギター・ロック・サウンドは古臭いと思われることに対しては?

CB:その議論はたしかによく耳にする。「ロックは死んだ」とか「ギターは死んだ」とか。でも、どうなんだろう。議論すること自体がちょっと馬鹿げているとも思う。世のなかにはいろんな音楽があって、どんなもの、循環して巡り巡って、流行りやトレンドが生まれるわけで。どんなものでも、その居場所があるべきだと思う。いろいろな面白いことをやっている人たちがそれぞれの音を鳴らせば良くて、情熱を持ってやっている人たちの音楽はその情熱が音楽を通して伝わってくるし、そういうものとどうやって出会うか、ということなんじゃないかと。私の場合、自分が凄く気に入る音楽を探すときというのは、「いい音楽」を探す。ギター・ロックだけを探すのではなく、もっとも面白いことをやっている人を探す。つまり、自分の考え方に甘んじることなく、自分の固定概念の殻を破ろうとしている人たち。そのほうがずっと面白いから。

ちなみに家にいるときにはどんな音楽を聴いているのですか?

CB:最近はアリス・コルトレーンを家で聴いている。あとは……、ニーナ・シモンやジョニ・ミッチェルとか。アーサー・ラッセルも。そのときやその日の気分にもよるけど、いろんな音楽を聴いてるわ。フローティング・ポインツもそう。(※他の記事によれば、イーノとレナード・コーエンもよく聴いていたという)

家で過ごしているとき、音楽以外で楽しいことは何ですか? “楽しみにしていることのリスト〜”に描かれているように、料理だったりします?

CB:(笑)。最近は前より料理をするようになった。前までは、料理ができる環境にあまりいなかったからなかなかできなかったけど、いまは料理をする時間も空間も少しできて、料理したいと思えるようになったのが嬉しい。あとガーデニングもけっこうやっている。小さなサボテンをいくつか育てたり。

アルバムのタイトル『物事には時間がかかる、時間をかけろ(Things Take Time, Take Time)』に込められた意味は何でしょう?

CB:アルバムの曲を書いていたり、レコーディング中に頭の片隅にずっとあったフレーズで、ふと湧いては消えてを繰り返していた。辛抱強さを身につける教訓のようなものだと思う。繰り返し思い出すメッセージだった。

あまりせっかちな性格には見受けられないのですが、それでも辛抱強さが必要だと感じる?

CB:焦りはいろんな形で現れるもので、私はそこまで短気な人間ではないけど、ストレスや不安を感じるときもあって、そうなったときにどう対処するかということなんだと思う。一度スローダウンしてみて、自分に対して優しくなって、自分の掲げる非現実的な期待値を少し下げてみることを意識するようになった。

じつはいま、日本ではいきなり感染者数が減っているのですが、冬にはまた第6波があるとも言われています。なかなか先が見えない世のなかですが、あなた個人はこの先、どんな感じでライヴはやるのが良いと思っていますか? たとえばイギリスみたいに全面解禁して、感染者が出ても以前のようにやるのが良いと思うか、あるいは、まだ慎重に進めていくのが良いと思うか?

CB:なかなか判断が難しいところだと思う。アメリカでライヴ音楽がまた再開されたのは嬉しいけど、まずは様子を見ながらやっていくしかないんじゃないかな。健康と安全のためのルールをきちんと守りながらね。私たちもワクチンを含め、可能な限り安全な形でツアーをする予定だし。ただ、この先どうなっていくかはまだまだ不透明で、以前のように戻るにはもしかしたらしばらく時間がかかるのかもしれない。どうなるか、全然わからない。

ツアー再開にあたって怖さや不安はありましたか?

CB:それはあったし、いまも不安がないわけじゃないな。先が全く読めないから。誰も正解を持っていない。前ほど怖くはないけれど、いざツアーがはじまればもう少し実態がつかめてくるのかな。わからないけど。ニュージーランドで2週間ほどのソロ・ツアーをやったんだけど、あそこは感染者がほぼいなかったから、普通にライヴができて最高だった。見に来た人たちも音楽を本当に喜んでくれて、特別なものを感じた。だから、早くまた普通にライヴができるようになるのを願っている。

Douglas J. Cuomo featuring Nels Cline and the Aizuri Quartet - ele-king

 クラインの法則をごぞんじだろうか。別名をクライン症候群(シンドローム)ともいい、日ごとの寒暖差がはげしく夏のつかれのでやすいこの時期によくみかけるこの症状にかかると、巷間をにぎわす音楽より腰をおちつけ滋味ある作品に耳を傾けたくなるが、やおら昔のレコードをひっぱりだしても年寄りくさいし、サブスクのいいなりになるのもシャクにさわる。そう考える向きが手にとる音盤に、しばしば彼の名をみとめることからこの呼び名がさだまった──ということの真偽のほどはさておき、今年もどうやらネルス・クラインの関連作を聴きたくなる季節がおとずれたみたいである。

 本家ウィルコのアルバムこそ2019年の『Ode To Joy』以来ご無沙汰とはいえ、クラインはその後も継続的に活動をおこなっている。コロナパンデミックは2020年初頭がひとつの境だったが、クラインひきいるネルス・クライン・シンガーズの『Share The Wealth』は同年11月リリース、コロナ禍が炙りだした格差、不平等を想起させる題名もさることながら、ジャズとロックとインプロとオルタナを攪拌しつつ絶妙な濁りをのこすスタイルにはいよいよ磨きがかかっていたのも記憶にあたらしい。アルバムにも参加した私生活のパートナーでもあるチボ・マットの本田ゆかとは CUP 名義でイマジナリーな『Spinning Creature』をその前年にリリースするなど、活動領域は形式を問わない。リーダー作以外でも、霞たなびく演奏が持ち味の即興トリオ、ハンツヴィルの『Bow Shoulder』や、2020年のエルヴィス・コステロの『Hey Clockface』ではその道の先輩格であるビル・フリゼールとの共作もおこなうなど、客演に呼ばれてもサイドにまわってもいかんなく本領を発揮するタチといえるであろう。
 ところが今回はいささか趣がちがう。客演作ではあるものの、母体は弦楽四重奏、いわばクラシックにギターで参加する体である。作曲者は90年代末に話題をとったテレビ・ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』のテーマ曲で名をあげたダグラス・J・クオモ。1958年生まれのクオモはマックス・ローチやアーチー・シェップに薫陶を受けたジャズのギター奏者だったが、テレビをふりだしに劇判を数多く手がけるにいたって作曲家に転身、映像のほかにも舞台の音楽でも注目をあつめている。私はクオモの音楽に上述の『セックス・アンド~』はもとより舞台も未見のため、ネルス・クラインの名前にひかれてはじめてふれたクチだが、これがまたなかなかに味わい深い。

 タイトルの『Seven Limbs』とは仏教用語でいう「七覚支」をさすという。七覚支とは37種の修行方法を7つの部類にわけたものの第6で、悟りのための7種の修行方法からなる。すなわち真実の法を思いとどめて忘れない「念覚支」、智慧により真実を考え選びとる「択法覚支」、たゆみなく努力する「精進覚支」から修業によろこびをおぼえる「喜覚支」とつづき、心身を快適な状態に保つ「軽安覚支」と集中を乱さない「定覚支」、心の平安を保つ「捨覚支」へいたる七覚支がそれで、クオモ自身日々実践しているというが、じっさいに仏門の徒であるかマインドフルネス的なかかわり方なのかはさだかではない。オリエンタルな意匠よりも瞑想的で内省的な曲調をかんがみるに、仏教的な記号は道具立てにとどまらないとは予想はつくが、本作の聴きどころはむしろそれらを音楽的な動機に昇華しクラインの好演をひきだしたクオモの巧みさである。

 『Seven Limbs』はクラインの点描的な演奏で幕をあけ、ほどなく提示する五連符のリフレインをきっかけにストリングスが姿をみせる。弦を担当するのは結成9年目で現在はニューヨークを拠点に活動する女性4名からなるアイズリ・カルテット。4人とクラインがテーマとも断片ともつかないフレーズを交換するなかで、3部10分ほどの演奏時間の1曲目の “Prostration” は静かに展開していく。さきに述べたように本作は仏教用語の「七覚支」に対応すべく、7曲からなるが、1曲はさらにいくつかのパート(楽章というほど大袈裟ではなさそう)にわかれ、微細な変化を強調している。曲どうしは「七覚支」の教えがそうであるように緊密に連関しあうはずだが、「礼拝」「供養」「勧請」などといった表題のもつ意味にことさらにこだわらずとも、聴きすすめれば、タイトルにこめた心の移ろいはサウンドにあらわれているのがわかる。それを綴るクオモの筆はいたずらに饒舌にながれず、寡黙にすぎず。劇伴でつちかった物語性をかいまみせるが、本作の物語はクライマックスに収斂する類のものではなく、むしろ終点が起点にかさなる円環構造を描くかにみえる。輪廻と解脱を旨とする仏教がテーマであるためか、きりつめた音数の動機を効果的に配置した構成力の妙味か、あるいは弦楽曲の形式からくる志向性とクラインのギターの螺旋状のからみあいが楽曲に水平(時間)的な持続力をあたえるためか、聴き手は弦が刻む伸縮する時間感覚を体感することになる。ナイマンの弦楽四重奏曲の4番あたりを想起する “Confession & Purification(懺悔と浄化)” の弓の返し、“Rejoicing(随喜)” でのジャズ・コンボ風の弦のピチカットや、“Beseeching(祈願)” のフィリップ・グラス的なミニマリズムなど、クオモのスコアは随所に仕掛けがあるが、クラインとアイズリ・カルテットのアンサンブルにはいかに激しい曲調であっても輪郭がかすむような滲みがある。演奏はむろんのこと、楽器ごとの音色の差異にも由来する響きからくるものだが、なかでも幾多のアタッチメントを駆使しエレクトリックとアコースティックを持ち替えるネルス・クラインの音色のゆたかさは聴き逃せない。クラインのツボとでもいいたくなる、本作のポイントであろう。

rei harakami - ele-king

 今年で没後10年を迎えたレイ・ハラカミ。彼が音楽家としてデビューする以前、映像作家だった時代に発表していた2本のカセットテープ作品がリマスタリングを施されリイシューされる。フォーマットはCDとカセットテープの2種類で、12月29日発売。4トラック・カセットMTRなどで録音された貴重な音源に触れられる絶好の機会を、お見逃しなく。

『rei harakami / 広い世界 と せまい世界』
日本が世界に誇る、今は亡き音楽家rei harakami(レイ・ハラカミ)が、デビュー前に4トラック・カセットMTR等で宅録して発表された、
幻のカセットテープ音源『広い世界』と『せまい世界』が、リマスタリングされ貴重なアーカイヴ音源として改めて世に放たれる!!

音楽家のレイ・ハラカミのデビュー前、映像作家の原神玲として活動していた時代に、カセットテープで発表された2本の作品を、改めて世に送り出します。
未発表音源ではありません。限られた範囲でしたが、外に向けて発表された音楽が収められています。大仰な言葉でこの音楽を紹介すると、レイ・ハラカミに叱られると思いますから、控えめに言います。傑作です。(原 雅明 ringsプロデューサー)

マスタリングは、当時のカセットテープをマスターとして使用し、レイ・ハラカミ作品の再発レコード盤のマスタリングを担当してきた、山本アキヲによるもの。
また、ジャケットの油絵は、レイ・ハラカミのジャケットやその他グッズなど一連のキャラクターの絵を担当しているtomokochin-pro(Tomoko Iwata)、ジャケットのデザインは、contrast 真家亜紀子が手掛けている。

アーティスト : rei harkami(レイ・ハラカミ)
タイトル : 広い世界 と せまい世界

発売日 : 2021/12/29
レーベル/品番 : rings (RINC83)
フォーマット : 2CD
価格:3,000円+税
バーコード:4988044071568

発売日 : 2021/12/29
レーベル/品番 : rings (RINT1)
フォーマット : CASSETTE TAPE(限定盤)
価格:2,273円+税
バーコード:4988044071575

Official HP : https://www.ringstokyo.com/rei-harakami-hiroisekaisemaisekai

Call Super & DJ Trystero - ele-king

 ファッション・ブランド〈C.E〉からまたも気になるカセットテープの登場だ。
 ひとつは、〈Houndstooth〉やアンソニー・ネイプルズ主宰〈Incienso〉からのリリースで知られるロンドンのコール・スーパーによるミックス作品(以前、別名義の Ondo Fudd としても〈C.E〉から出したことがある)。
 もう1本は、〈The Trilogy Tapes〉から作品を発表している DJ Trystero によるミックス。こちらはアンビエントな佇まいです。
 いずれも〈C.E〉のサイト(https://cavempt.com/)にて試聴可能。ぜひチェックを。

アーティスト:Call Super
タイトル:CE recording - The People Within Us, The Lives Unlived
フォーマット:カセットテープ
収録音源時間:約90分(片面約45分)
価格:1,100円(税込)

アーティスト:DJ Trystero
タイトル:DJ Trystero
フォーマット:カセットテープ
収録音源時間:約60分(片面約30分)
価格:1,100円(税込)

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発売日:2021年11月5日金曜日
販売場所:C.E
〒107-0062 東京都港区南青山5-3-10 From 1st 201
#201 From 1st Building, 5-3-10 Minami-Aoyama, Minato-ku, Tokyo, Japan 107-0062
問合せ先:C.E https://www.cavempt.com/

Disclosure - ele-king

 兆しはあった。振り返ってみれば、ディスクロージャーが一年ほどの小休止を挟んだあとにリリースした「Moonlight」と「Ecstasy」のふたつは、いまの彼らの気分を表していた。ラジオでヘヴィ・プレイされるためのポップ・ソング、もしくは巨大フェスのメイン・ステージでスピンするためのバンガー、彼ら兄弟はずっとその道を歩き続けてきたわけであるが、これらのEPにおいてよりフロア向けのダンス・ミュージックを提示したことは、兄弟の歩む方向に、また別の道があることを示している。あるいは、デトロイトのマイク・ハッカビーに追悼の意を表明したこと(僕は追悼記事を読んで知った)、シカゴのケリ・チャンドラーとB2Bで回したことなどの事実を掘り起こしてみれば、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンを若くして埋めたUKの売れっ子にも、それとはまた別の顔があるのだとわかる。ディスクロージャーといえばサム・スミスとの “Latch” であり、カリードとの “Talk” であり、マック・ミラーとの “Blue World” であるかもしれないが、同時に、UKのアンダーグラウンドなダンス・ミュージックに敬意を抱くミュージシャンであり、また、デトロイトやシカゴで生まれたハウス・ミュージックを愛するDJでもあるのだ。

 そういう意味で、有名ミックス・シリーズである『DJ-Kicks』にディスクロージャーが抜擢されたことは、兄弟の別の道、別の顔を明らかにする良い機会といえよう。兄のガイ・ローレンスが「汗だくな地下のレイヴでプレイしたい」と結論づけるように、ビッグ・ルームなダンス・ミュージックやヴォーカル入りのポップ・ソングではなく、ハウス、ディープ・ハウス、アフロビート、ジャングルを軸に、あまり広くない地下のクラブで聴きたくなるようなミックスに仕上げている。オープナーのアンビエント・トラック “Recollection” から、アルファとジョーによるジャングル・トラック “Recognise” のクローザーまで、もちろん通しで、すべてをひとつの物語として聴いてほしい。
 もちろん、要所での聴きどころもあり、それはディスクロージャーによって提供されたふたつの新曲になるだろう。“Deep Sea” は、前後に配置されたハリー・ウルフマンやサイモン・ヒンター(彼らのDJやプレイリストではおなじみの名前)と同様のフィーリングを持つディープ・ハウスで、“Observer Effect” はむき出しのアシッドなダンス・トラックで、曲の中間ではほぼ無音になり、そこからフィルターによって再び展開していく様はやはりミックス全体の流れで聴きたいところだ。
 そして、もうひとつ僕が注目したいのは、“Fire” のディスクロージャーによるエディット。オニパというガーナとロンドンで発足したプロジェクトによる楽曲で、原曲の大部分は残しつつも、そこにディスクロージャーによってプログラムされたキックやハイハットが重ねられ、よりダンサブルな仕様に。マリ共和国はファトゥマタ・ジャイワラとのコラボレーション、カメルーンはエコ・ローズヴェルトによる楽曲のリエディットや、〈Habibi Funk〉からリリースされたスーダンはカマル・ケリアによる楽曲のサンプリングなど、近年の彼らのサウンドを聴くと明らかにアフリカ大陸の音楽にぞっこんであり、それはこのミックスにも、彼らのいまを表すひとつの気分として添えられている。

 アップル・ミュージックは近年、そのサブスクリプション・サーヴィスにおいてミックス作品をより多く利用可能にしようと動いている。例えばボイラー・ルームの映像はミックスとして一部は聴けるようになっているし、今年の10月に『DJ-Kicks』の過去のカタログも追加されている。僕らは技術的にはシャザムの発明に感謝しつつも、DJによるミックスが、作品として正当な評価を得られる土壌ができつつあることにも感謝しなければならない。そんなタイミングでディスクロージャーがミックス作品を提供することは、この流れにも拍車がかかりそうで何とも嬉しい気持ちにさせてくれる。ミックスにはミックスなりの、アルバムやその他フォーマットにはない、あるいは見せられない表現がある。彼らがどこから来て、いまどこにいるのか、そしてどこに向かっているのか。ディスクロージャーはハウスを軸にしながら、その過去、現在、未来をプレゼンしている。

政治家失言クロニクル - ele-king

なぜ、こんな発言を繰り返すのか……
「妄言」「暴言」「迷言」でたどる、ニッポンの戦後史!

政治家の失言は社会を映す鏡。その変遷から社会の変化が見えてくる!

気鋭のカルチャー批評コンビが、戦後の日本社会を騒がせた数々の失言をピックアップ。
失言を通してコンパクトに日本の戦後政治史を学べる一冊です。

失言リストより
「日本の朝鮮統治は恩恵も与えた」(久保田貫一郎)
「現行憲法は他力本願」(倉石忠雄)
「佐藤栄作さんは財界のちょうちん持ち、財界の男メカケだ」(青島幸男)
「社会党、共産党は日当五千円で学生を暴れさせている」(荒船清十郎)
「日本は単一民族だから教育水準が高い」(中曽根康弘)
「アッケラカンのカー」(渡辺美智雄)
「なりたくて首相になったんじゃない」(宇野宗佑)
「どの女と寝ようがいいじゃないか」(小沢一郎)
「アメリカでは停電になると、必ずギャングや殺し屋がやってくる」(森喜朗)
「長野県でエイズ患者が増えているのはオリンピック絡みである」(加藤紘一)
「不法入国の三国人などの騒擾事件には治安出動してもらう」(石原慎太郎)
「投票に行かないで寝ててくれればよい」(森喜朗)
「非武装中立論ほど無責任な議論はない」(小泉純一郎)
「女性は子どもを産む機械だ」(柳澤伯夫)
「私の友人の友人がアルカイダ」(鳩山邦夫)
「ナチスの手口を学んだらどうか」(麻生太郎)
「まず自分が産まないとダメだぞ」(大西英男)
「まだ東北でよかった」(今村雅弘)
「こんな人たちに負けるわけにはいかない」(安倍晋三)
「『生産性』がない」(杉田水脈)
「戦争しないとどうしようもなくないですか」(丸山穂高)

目次

まえがき
第一章 終戦から55年体制へ 1945~1963年
 現代とは質の異なる「失言」/翻弄される「革新」/ラジオの時代/バカヤロー解散/55年体制の成立と核の脅威/太陽族と石原慎太郎の登場/声なき声
第二章 高度経済成長の時代 1964~1988年
 高度経済成長から政治の季節へ/過去の単純化/テレビの普及と学生運動/社会の安定と労働運動の退潮/サブカルチャーと政治/メディア政治の始まり/右派のロマンとサブカルチャー/新中間層の登場/ジャパンアズナンバーワン時代とミスター80年代/単一民族幻想と日本特殊論/バブル絶頂下での政治意識
第三章 平成初頭 1989~2011年
 90年代の政治意識/サブカルと政治/大変動と「政治離れ」のはじまり/ナショナリズムの台頭/タテマエとホンネ/デフレと文化/世紀の変わり目/曖昧な不満と小泉フィーバー/自己責任論と脱社会傾向/どんよりしていく時代/麻生政権のゼロ年代性/ネットという「現場」
第四章 失言2.0 2010年~
 ネットで政治を語る/エモさと軽さ/加熱するネット情報戦/動員と扇動/政治のサブカル化/エコーチェンバー空間/変わりゆくものと変わらないもの/コロナ禍とオリンピック
テーマ編その1 歴史認識と軍事
 「ぶっちゃけ」の台頭/失言の活性化する80年代/戦後50年決議/記憶の書き換えと歴史戦/「心地よい物語」に抗する多元的な思考
テーマ編その2 核と原子力
 戦後日本にとっての「核」/原発の建設と科学への信頼/テクノロジーを前提とした生活
テーマ編その3 差別
 差別発言の増える80年代/外国人労働者の増加
まとめ対談
あとがき

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Koji Nakamura+食品まつりa.k.a foodman+沼澤尚 - ele-king

 これは期待の膨らむコラボだ。アンビエントをはじめ幅広い活動を繰り広げるナカコー、今年〈ハイパーダブ〉から新作を送り出したプロデューサーの食品まつり、大ヴェテラン・ドラマーの沼澤尚(ナカコーとの関係も深い)によるライヴ・セッションが音盤化される。いろんな要素がクロスオーヴァーした音楽に仕上がっているようだが、はてさて、いったいどんなサウンドが鳴り響いているのか……発売は年明け後の1月12日。いまから楽しみです。

ナカコー×食品まつり×沼澤尚!
待望の初音源リリース決定!!

三者三様、独自の音楽観に定評あるクリエーターよる膨大なセッション音源をナカコーがトリートメント! 静寂の中の心地良さにどこか引っ掛かりを残したアンビエント的オルタナティブポップミュージック!

Koji Nakamura (electronics)、食品まつりa.k.a foodman(electronics)、沼澤尚(Dr)がスタジオに入り素材録音ために敢行した即興的なライブセッションをナカコーがトリートメント(Extraction、Edit、Mix)した全7曲のアルバム『Humanity』が2022年1月12日にリリースとなります。

アンビエント、エレクトロポップ、ダンスミュージック、ロックがクロスオーバーした一種のオルタナティブなポップミュージックはニューノーマルな日常にピッタリ寄り添う今日的な録音作品と言えます。

[リリース情報]
アーティスト:Koji Nakamura+食品まつりa.k.a foodman+沼澤尚
タイトル:Humanity
レーベル:felicity / P-VINE
品番:PCD-18891
フォーマット:CD / 配信
価格:¥3,300(税込)(税抜:¥3,000)
発売日:2022年1月12日(水)

[収録曲]
M1. no.1
M2. no.2
M3. no.3
M4. no.4
M5. no.5
M6. no.6
M7. no.7

[プロフィール]

【Koji Nakamura】
1995年地元青森にてバンド「スーパーカー」を結成し2005年解散。その後、ソロ活動をスタート。アーティスト活動他、コンポーザーとしてCMや劇伴、多くの楽曲提供を行う一方、バンド「LAMA」「MUGAMICHILL」としても活動中。また日本のアンビエントを牽引すべく、『HARDCORE AMBIENCE』をduennと共に主宰し、映像やライブを展開中。

【食品まつりa.k.a foodman】
名古屋出身の電子音楽家。2012年にNYの〈Orange Milk〉よりリリースしたデビュー作『Shokuhin』を皮切りに、現在までNY、UK、日本他の様々なレーベルから作品がリリースされている。また、2016年の『Ez Minzoku』は、海外はPitchforkのエクスペリメンタル部門、FACT Magazine, Tiny MixTapesなどの年間ベスト、国内ではMusic Magazineのダンス部門の年間ベストにも選出されてた功績を持つ。

【沼澤 尚】
ドラマー。LAの音楽学校P.I.T.に留学。JOE PORCARO,、PALPH HUMPHREYらに師事し、卒業時に同校講師に迎えられる。2000年までLAに在住し、CHAKA KHAN、BOBBY WOMACK、AL.McKAY&L.A.ALL STARS、NED DOHENY、SHIELA E.などのツアーに参加し、13CATSとして活動。2000年に帰国して以降現在まで、数えきれないアーティストのレコーディングやライブに参加しながらシアターブルック,blues.the-butcher-590213で活動中。

Space Afrika - ele-king

 BLMに呼応したミックステープ『Hybtwibt?』を経ての、Josh Reidy & Joshua Inyang によるマンチェスターのデュオ、スペース・アフリカによる待望のフル・レングス・アルバム『Honest Labour』。今夏の夜空の下……から隔絶されたクーラーの聴いた薄暗い部屋で最も良く聴いたダウンテンポ~ダブ・アンビエントかもしれない。その名前のように、ある種のアフロフューチャリズム的な世界観はそこにはあるが、しかしそれはPファンクのようなぶっ飛んだ宇宙探訪ではなく、インナースペースへと突き進んでいくタイプのものだ。

 もともとは彼らといえばロッド・モーデルなどのいわゆるベーシック・チャンネル・フォロワー的なミニマル・ダブ・サウンドに呼応する一群のワン・オブ・ゼムといったところであった。現在はお聞きのようにビートは後退し、フィールド・レコーディングやカット・アップ~サウンド・コラージュ的なサウンドへと様変わりしている。やはりサウンドが大きく変化し、彼らの存在をより多くの人びとに知らしめたのは、2018年のダブ・ダウンテンポな『Somewhere Decent To Live』ではないだろうか。シンセの残響音が霧散しながら空気に渦を巻く、うっすらとしたベースラインを揺らし、おぼろげな世界を陰鬱に描いてく。またそのサウンドはここ数年、ある種のヴェイパーウェイヴ以降のミニマル・ダブの発展系として、新たな動きとなっている感もあるフエルコ・S周辺のアヴァンギャルドなアンビエント・テクノの一群とも共鳴する感覚もある。

 2020年には、コロナ禍を経て、一気に吹き上がったアンチ・レイシズムの動きに呼応し、NTSでのレジデンシー番組を、再編集し、BLM、その周辺の支援ドネーションを募った『hybtwibt?』をリリースした。この作品ではフィールド・レコーディングやヴォイス・サンプルなど、さまざまなコラージュによって、殺伐とした現実を断片的に投影することで浮かび上がらせていた。そのサウンドはコラージュ・アンビエントだが、アフリカ系の彼らにとって、それは当たり前のことではあるが、どこか静かに怒気をはらんでいる、そんなサウンドであった。またこうした作品の後、マンチェスター出身のヴィジュアル・アーティスト、詩人、映像作家である Tibyan Mahawah の作品に OST として提供したシングル「Untitled (To Describe You) [OST]」もリリースしている。陶酔的な『Somewhere Decent To Live』とこれらの作品の違いはやはりなんといってもカットアップ&コラージュ。現実を断片的に霧散させながらも意識に投影させていく、逃避だけではなく、ある種の現実へのアプローチを感じるものだ。

 Joshua のルーツとなるナイジェリアの家長にちなんで名付けられたという本作は、『Somewhere Decent To Live』の陶酔観と、こうした作品のコラージュ感がミックスされた作品だ。コラージュ・サウンドのスタイル的にはディーン・ブランドの諸作も思い起こさせる、全体的な感覚としてはトリッキーの『Maxinquaye』、ニアリー・ゴッド名義でもいいかもしれない。ダークでメランコリック、時にノスタルジーと不機嫌が同居する。ノイジーなダークコア・ジャングルのゴーストが断片となってノスタルジーを呼び起こす “Yyyyyy2222” にはじまり、トリッキーとマルチネの危ういランデヴーを想起させる “Indigo Grit”、不安定なノイズがザッピングしてくる “With Your Touch” では子供時代を不穏に呼び起こし、“Meet Me At Sachas” では雑踏の喧噪がループし、時が止まりながらもブレイクビーツが時を刻むが、「Oh! Shit!」という言葉とともにその雑踏は動きだす。こうしたコラージュ音の間を、雨音のようなノイズやゴシック調のシンセ音がかき消えては通り過ぎていく。幾重にも重ねられた現実の断片がまるで走馬灯のようにちりばめられている。また、いくつかの楽曲でラップやポエトリーが取り入れられたのも本作の特徴だろう。
 しかし、ダビーなダウンビートという全体の感覚は、やはりソファーで沈み込む怠惰な快楽を助長するものだ。そんななかインナースペースでトリップを続ける宇宙船から見た窓の外、忘却された過去を必死で呼び戻すようにさまざまなコラージュが迫ってくる。それはどこかメランコリックな忘却で過去を喪失させまいとする絶妙なるせめぎ合いのようでもある。覚めた目で現実を見ながら、怠惰にトリップする。そんな感覚が本作にはある。

 世界から物理的に隔絶された部屋、しかし意識はどこか覚めていて、殺伐とした社会の動きと孤独を認知しながら、同時にソファーに身を沈める怠惰な快楽へと沈殿する。外とつながりながらも隔絶された、そんなコロナ禍の静かに混乱した密室のサウンドトラックとしてこれほど相当しいものはなかったのだ。どうしても僕はニューエイジが描くユーフォリックなパラダイスには重くて飛べやしなかったのだろう。

Boris - ele-king

 世界的な人気をほこるヘヴィ・ロック・バンド、ボリスの新作(シングル)「Reincarnation Rose」が11月17日、〈キリキリヴィラ〉からリリースされる。なんと新曲には、アルバム『We Are The Times』が評判のBuffalo Daughterのシュガー吉永が参加。表題曲はギターがうねりまくりの圧倒的なボリス・サウンドで、カップリング曲のおよそ20分のドローン‏/アンビエントも注目に値する。初回限定盤で、16ページブックレット仕様。

Boris
Reincarnation Rose

11月17日発売
KKV-126
1. Reincarnation Rose 4:20
2. You Will Know 19:38

予約ページ
https://store.kilikilivilla.com/v2/product/detail/KKV-126

Aya - ele-king

 むむむ、これはひょっとしたら新章のはじまりかもしれない。とはいえ、その萌芽は1980年代のレーガン政権下にまで遡る。ダナ・ハラウェイという学者は現実社会がリアルであると同時に政治的なフィクションでもあるように、「女性の経験」もまたファクトでもありフィクションでもあるという意味において政治的に意義深く、そして彼女はフェミニズムを論ずるうえで、機械(サイバネティクス)と生物(オーガニズム)のハイブリッドである“サイボーグ”というタームをメタファーに使った。それからおよそ35年後の今日、女性自らが描くマシナリーかつオーガニックなヴィジョンは、じっさいのところもう何も珍しくなくなっている。
 そこでマンチェスターのアヤ・シンクレア(※それまでLOFT名義で活動)による鮮烈なデビュー・アルバム『Im Hole』だが、まさにこれこそサイボーグのためのサイボーグによる音楽などとついつい喩えたくなってしまう代物なのだ。それに、なんといっても本作はエレクトロニック・・ミュージックの最前線だと言える。空間的に、そして緊張感をもってデザインされたリズムは変化し、テクスチュアは絶えず生成される。スリリングな展開の、じつに刺激的でユニークな作品なのだ。
 
 アヤは〈ハイパーダブ〉の申し子であるかのように、さまざまなリズムを吸引し変奏しているが、ハラウェイがサイボーグを「西洋的な起源の神話を欠いている」と、それを前向きに説明したように、ここではベース・ミュージック(おもにダブステップとグライム)、それからゴムを少々、あるいはヒップホップやテクノなどの雑食性がデジタルに、そして感覚的に解析され、統合されている。
 で、アヤのおそらくもっとも特異な点は、声(そして言葉)だ。個性があるとか美声とかそういう話ではない。むしろ非個性であり、父権社会における女の声という武器を放棄した声だ。詩人であり言葉の使い手としても秀でているという彼女は、自分を声を機械的に合成し、あたかも複数のジェンダーで語らせているかのようだ。たとえば“Once Wen't West”という曲では、女声は男声に変調されセックスさながらやがて同時に発語するその響き自体が聴きどころとなっている。何曲かのラップでも声の合成は試みられているが、ここにはクラフトワークのヴォコーダー(※もともとは軍の機密通信のためにあった)すら太古においやるほどの新鮮味があり、ドレクシアが非人間の声を創造したことと同じではないが似てはいる。人間らしいとカテゴライズされている生の声というもののいっさいを削除することによって逆説的に表象される生の声とでも言えばいいのか。
 周知のように、すでに我々の体内には子供の頃からさまざまな人工物が注入されている。ワクチンをはじめ、いろんな合法ドラッグ=化学薬品が投与されてきている。そういう意味ではすでに我々もメタファーとしてのサイボーグであって、しかも遺伝子組み換えキットが通販されているようなバイオイキャピタリズム時代の真っ只中を生きているのだから、自然と人工との境界線はますます曖昧になってきている。フィクションとしてのリアルはなにもヴェイパーウェイヴだけの話ではない(いや、あれはリアルの喪失ってヤツだからまた意味が違う。こちらはリアルの相対化ということ)。
 もっとも本人によれば『Im Hole』は「クィア・アートが繰り返し自己中心主義へと向かう傾向」への異議であり、「トランスジェンダー体験の文化的認識を妨げる自己実現と性的意識という扱いにくい組み合わせ」の両方に言及しているとのことで、てことは、声の合成は彼女におけるトランスジェンダー体験に依拠しているのだと思われる。
 ぼくの英語力では歌詞の詳細を紹介することができないけれど、わかる人にはそうとうなインパクトがあるそうで、そのイメージの錯乱と通底するニヒリズム、非エロティックなセックス描写などなど、いつか読めるときが来るといいなぁ。いまはサウンドを手がかりにこうして書くしかないとしても、アイデンティティ(人種や性別)を超えた親和力のひとつの描き方として、エレクトロニック・・ミュージックが応用されていることは理にかなっているし、そしてその他方で、『Im Hole』の先駆的な作品としてヴォコーダーを楽器として使ったローリー・アンダーソンの偉大なる『ビッグ・サイエンス』(1982年)が持ち出されるのもまったく納得する。政治的な洞察力をもって声の実験をポップに展開した“オー・スーパーマン”からいくつもの季節を経て、いまここに『Im Hole』があるというのは、これもまたじつに意義深い話だ。というか、アヤを聴いて、もう我慢しきれず、ついついレコード棚から『ビッグ・サイエンス』を引っ張り出してたったいま聴いているのだった。

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