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Space Afrika

AmbientDowntempoDubSound Collage

Space Afrika

Honest Labour

Dais

河村祐介 Nov 05,2021 UP

 BLMに呼応したミックステープ『Hybtwibt?』を経ての、Josh Reidy & Joshua Inyang によるマンチェスターのデュオ、スペース・アフリカによる待望のフル・レングス・アルバム『Honest Labour』。今夏の夜空の下……から隔絶されたクーラーの聴いた薄暗い部屋で最も良く聴いたダウンテンポ~ダブ・アンビエントかもしれない。その名前のように、ある種のアフロフューチャリズム的な世界観はそこにはあるが、しかしそれはPファンクのようなぶっ飛んだ宇宙探訪ではなく、インナースペースへと突き進んでいくタイプのものだ。

 もともとは彼らといえばロッド・モーデルなどのいわゆるベーシック・チャンネル・フォロワー的なミニマル・ダブ・サウンドに呼応する一群のワン・オブ・ゼムといったところであった。現在はお聞きのようにビートは後退し、フィールド・レコーディングやカット・アップ~サウンド・コラージュ的なサウンドへと様変わりしている。やはりサウンドが大きく変化し、彼らの存在をより多くの人びとに知らしめたのは、2018年のダブ・ダウンテンポな『Somewhere Decent To Live』ではないだろうか。シンセの残響音が霧散しながら空気に渦を巻く、うっすらとしたベースラインを揺らし、おぼろげな世界を陰鬱に描いてく。またそのサウンドはここ数年、ある種のヴェイパーウェイヴ以降のミニマル・ダブの発展系として、新たな動きとなっている感もあるフエルコ・S周辺のアヴァンギャルドなアンビエント・テクノの一群とも共鳴する感覚もある。

 2020年には、コロナ禍を経て、一気に吹き上がったアンチ・レイシズムの動きに呼応し、NTSでのレジデンシー番組を、再編集し、BLM、その周辺の支援ドネーションを募った『hybtwibt?』をリリースした。この作品ではフィールド・レコーディングやヴォイス・サンプルなど、さまざまなコラージュによって、殺伐とした現実を断片的に投影することで浮かび上がらせていた。そのサウンドはコラージュ・アンビエントだが、アフリカ系の彼らにとって、それは当たり前のことではあるが、どこか静かに怒気をはらんでいる、そんなサウンドであった。またこうした作品の後、マンチェスター出身のヴィジュアル・アーティスト、詩人、映像作家である Tibyan Mahawah の作品に OST として提供したシングル「Untitled (To Describe You) [OST]」もリリースしている。陶酔的な『Somewhere Decent To Live』とこれらの作品の違いはやはりなんといってもカットアップ&コラージュ。現実を断片的に霧散させながらも意識に投影させていく、逃避だけではなく、ある種の現実へのアプローチを感じるものだ。

 Joshua のルーツとなるナイジェリアの家長にちなんで名付けられたという本作は、『Somewhere Decent To Live』の陶酔観と、こうした作品のコラージュ感がミックスされた作品だ。コラージュ・サウンドのスタイル的にはディーン・ブランドの諸作も思い起こさせる、全体的な感覚としてはトリッキーの『Maxinquaye』、ニアリー・ゴッド名義でもいいかもしれない。ダークでメランコリック、時にノスタルジーと不機嫌が同居する。ノイジーなダークコア・ジャングルのゴーストが断片となってノスタルジーを呼び起こす “Yyyyyy2222” にはじまり、トリッキーとマルチネの危ういランデヴーを想起させる “Indigo Grit”、不安定なノイズがザッピングしてくる “With Your Touch” では子供時代を不穏に呼び起こし、“Meet Me At Sachas” では雑踏の喧噪がループし、時が止まりながらもブレイクビーツが時を刻むが、「Oh! Shit!」という言葉とともにその雑踏は動きだす。こうしたコラージュ音の間を、雨音のようなノイズやゴシック調のシンセ音がかき消えては通り過ぎていく。幾重にも重ねられた現実の断片がまるで走馬灯のようにちりばめられている。また、いくつかの楽曲でラップやポエトリーが取り入れられたのも本作の特徴だろう。
 しかし、ダビーなダウンビートという全体の感覚は、やはりソファーで沈み込む怠惰な快楽を助長するものだ。そんななかインナースペースでトリップを続ける宇宙船から見た窓の外、忘却された過去を必死で呼び戻すようにさまざまなコラージュが迫ってくる。それはどこかメランコリックな忘却で過去を喪失させまいとする絶妙なるせめぎ合いのようでもある。覚めた目で現実を見ながら、怠惰にトリップする。そんな感覚が本作にはある。

 世界から物理的に隔絶された部屋、しかし意識はどこか覚めていて、殺伐とした社会の動きと孤独を認知しながら、同時にソファーに身を沈める怠惰な快楽へと沈殿する。外とつながりながらも隔絶された、そんなコロナ禍の静かに混乱した密室のサウンドトラックとしてこれほど相当しいものはなかったのだ。どうしても僕はニューエイジが描くユーフォリックなパラダイスには重くて飛べやしなかったのだろう。

河村祐介