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RIP

R.I.P. Mike Huckaby

R.I.P. Mike Huckaby

野田努 + M87 Apr 26,2020 UP

 COVID-19によってまたひとりの音楽家がこの世を去った。同じくデトロイトのエレクトロニック・ミュージックのコミュニティのひとり、デラーノ・スミスが治療費を募ったというが、彼のエージェントの発表によればマイク・ハッカビーは4月24日に永眠してしまった。25日は世界中のディープ・ハウス・ファンの多くがこの悲報に涙したことだろう。
 マイク・ハッカビーはデトロイトのダンス・シーンに1988年から関わっていたDJであり、プロデューサーであり、ディープ・ハウスのリジェンドである。近年はワールドワイドに活躍し、日本でもプレイしている。
 マイク・ハッカビーの名前が日本で知られるきっかけとなったのは、ごくごく初期のムーディーマンとセオ・パリッシュだった。96年〜97年ぐらいのことで、現在DJチーム“悪魔の沼”のメンバーであるドクター西村がこのあたりのあやしげな音源、つまりデトロイトのハウス・シーンの作品を片っ端から輸入していたのである。リック・ウェイドが主宰する〈Harmonie Park〉の12インチはそうしたなかに紛れていたわけだが、少数しか入ってこないので、たまたま手に入れることができた1枚は当時としてはとても貴重だった。いったいどんな連中なのか素性もわからずに、ぼくはマイク・ハッカビーの「Deep Transportation Vol. 2」を買った。90年代後半、〈Harmonie Park〉や〈M3〉といったレーベルは、アンダーグラウンドのなかのアンダーグラウンドであり、ミステリアスそのものだった。それは別の世界への扉のように思えたものだった。
 そしてたしかに別の世界があった。「Deep Transportation Vol. 2」にはハッカビーの初期の代表曲である“Love Filter”が収録されているが、野太いキックが特徴のこの曲は80年代初頭のディスコ/ファンクからのサンプリングで成り立っている。あるいは、デビュー・シングル「Vol. 1」におけるディープな反復による“Luv Time”においてもそうだ。ストイックでダークなループのうえに切り刻まれたディスコ・サンプルが一見脈絡なくミックスされる。ディスコの突然変異というか、派手さはないが気がつくとハマっているような、そうしたグルーヴ感がハッカビーのトレードマークだった。それは未来志向のデトロイト・テクノにはなかった感性であり、手法だった。前衛ジャズのファンでもあったというから、ほとんど即興的に作っていたのかもしれない。
 のちにぼくはハッカビーがデトロイトの郊外にあるレコード店〈レコード・タイム〉のダンス・コーナーを10年以上担当していたことを知って、その豊富な音楽の知識がどこかから来たのかを少し理解した気になった。〈レコード・タイム〉にはいちど行ったことがある(それも無謀なことにバスで)。渋谷のタワーレコードの2フロアほどある全ジャンルを扱う大型のレコード店で、地元の好みに根付いた品揃えだった。ケニー・ディクソン・ジュニアは子どもの頃から常連だったと店のスタッフが話してくれたように、そこはデトロイトにおけるディスコ/ファンクをネタにしたディープ・ハウスの重要拠点だった。ハッカビーがRoland Kingなる変名でリリースした〈M3〉は、〈レコード・タイム〉が主宰したレーベルである。
 ハッカビーは2002年からは自身のレーベル〈Deep Transportation〉(および〈S Y N T H〉)から作品を出しているが、他方ではデトロイト・ハウス好きで知られるパリの〈Funky Chocolate〉からカルト的人気曲“The Jazz Republic”が再発され、UKの〈Third Ear〉やベルリンの〈Tresor〉といったデトロイト好きのレーベルからもシングルをリリースしている。また、〈Tresor〉からはハッカビーにしては異色と言えるテクノなミックスCD(サージョン、ジェフ・ミルズ、ドレクシア、ロブ・フッド、バム・バム等々)を発表している。リミキサーとしてはモデル500やノーム・タリー、PoleやVladislav Delay、ジャザノヴァやDeepChordなど一流どころを手がけている。アルバムに関しては、12インチ2枚組のベスト盤があるのみで、最後まで12インチ・シングル主義を貫いた人だった。ちなみにハッカービーはカイル・ホールの先生役でもあった。
 ぼくはいちどだけデトロイトで会ったことがあるが、クラブでもレコード店でもなく、おそらくケヴィン・サンダーソン率いる野球チームの試合においてだった。ほんの一瞬の挨拶だったので、どんな人柄だったかまではまったく知るよしもないのだが、その試合ではベンチスタートだったマイク・バンクスをはじめ、こんなところでもみんな繋がっているんだなと思ったことを憶えている。趣味や方向性こそ多少違えど、みんなリスペクトし合っている仲間なのだ。デリック・メイはハッカビーの死について長いコメントを寄せている。子どもの頃ハッカビーからミキサーを借りていっしょに演奏したときのことを述懐しつつ、「彼は想像しうるかぎりの最高に素敵な人だった。とても寂しい」と。〈レコード・タイム〉の経営者によれば、「彼はとにかく音楽が大好きで、それを誰かと共有することも大好きな人だった」というが、ほかにも彼の死に、たとえばヴァンクーバーの〈ゴーストリー・インターナショナル〉は「先生であり、師であり、マスターであり、DJであり、プロデューサーであり、デトロイト・ミュージックの崇高なる部分の一部だった」と敬意を表し、UKのディスクロージャーはツイッターでこう述べている。「どうか安からに。あなたの音楽はいつまでもぼくたちのインスピレーションであり続けます」
 マイク・ハッカビー、デトロイト・ディープ・ハウスのリジェンド──ご冥福を祈ります。
 


Mike Huckaby Best 5

1. Mike Huckaby ‎– Deep Transportation Vol. 1 〈Harmonie Park〉(1995)
2. Roland King ‎– The Versatility E.P. 〈M3〉(1997)
3. DeepChord ‎– Electromagnetic Dowsing (Remixed By Mike Huckaby) 〈S Y N T H〉(2006)
4. Sun Ra ‎– The Mike Huckaby Reel-To-Reel Edits Vol. 1 〈Kindred Spirits〉(2011)
5. Mike Huckaby ‎– The Tresor EP 〈Tresor〉(2012)

Selected By M87 a.k.a everywhereman
(私が最後にマイク・ハッカビーのDJプレイを聴いたのは、2016年5月メモリアルデイの早朝、デトロイトmarble barでの野外パーティにて、DJ Harveyで盛り上がった後でした。ハッカビーからバトンタッチしたAnthony Shakirのプレイ中にブラックガールから「Dance with me?」と声を掛けられて一緒に踊ったことは人生最高の思い出です)

野田努 + M87

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