「UR」と一致するもの

Sculpture - ele-king

 イギリスのVJで、アニメイション作家のルーベン・サザーランドがカメラのズームを使いながら「見る」ためのピクチャー・レコードをリリース(それがどのような映像効果をもたらすかはまだ試していない)。そのサウンドトラックとしてヴァイナルに刻まれている11曲が、しかし、そのような補助要素として終わらせてしまうにはあまりにもよくできていて、これをフライング・リザーズやエイフェックス・ツインの系譜に位置付けてみたいかなと。実験音楽といえば実験音楽だし、ポップスとはさすがにいえないものの、ファニーで思わず笑ってしまうセンスはポップ・ミュージックへと至る道程のどこかに位置し、さらなる発展を夢見ている途中だと思ってみたくなる。あるいは、そのように聴く誘惑から逃れられないとも。

 ライブラリー・ミュージックのイミテイションをつくるというローウェル・ブラームス『ミュージック・フォー・インソムニア』に一脈で通じるものがありつつ、そこで展開されている多様性とはまったく異なる意味で雑食性が強く、簡単にいえば音楽のジャンルというものが「ジャンルにとらわれない」という以上に整合性を持っていない。そこが実験音楽のように聴こえる理由ともいえるんだろうけれど、実験のための実験音楽ではないことが、そのための着地点からこれらの音楽を逸らしてしまうために、これらの音楽が音楽的な袋小路に陥る可能性を回避し、おそらくはアニメイションのための音楽という設定がこれらの音楽にポップ・ミュージックのような響きを帯びさせる要因をもたらしたのだろう。なんだか佐々木敦みたいな文章になってしまったけれど、実験的なロックや実験的なテクノが実験的な実験音楽とは共有するものがあっても、様式化された実験音楽とは重なるところがまったくないということを理解してもらうには最良のアルバムであり、新しい音楽をつくりたいという動機が音楽以外のところにあった方が新しい音楽は生まれやすいという(こともある)サンプルではないかと。
 そして、その結果が、この場合はある種のスラップスティック的な感覚を強く持った音楽になったということであり、それ自体は作家の個人史から自然と滲み出たものなんだろうと推測するだけである(それを目的としている音楽だとは、また、思えないからである)。

 昨年、『アンビエント・ミュージック 1969-2009』が思ったよりも売れた後で、その次に好き勝手なテーマでレコード・カタログがつくれるとしたら、ギャグやスラップスティックを基調としたそれがつくりたいなと考えていた時期がある。ディーヴォやパレ・シャンブール、ジャックオフィサーズやクイントロンといった辺りに無理やり道筋をつけて、またしても好きなようにアーカイヴを横断してみようと。ゼロ年代はとりわけそういうものが多く、ボーデンシュタンディッヒ2000やディック・エル・ディマシアドーのようにわかりやすいポイントにいた人はいいけれど、GCTTCATTであれ、ブレイン・サッキング・ピーニュナンナーズであれ、ジャンル分けという考え方のなかでは溺れてしまうものも多く、これは絶対に商品価値があるぞ......と思ったものの、もちろん5分で却下。『アンビエント・ミュージック』が売れたんだから、次は『裏アンビエント・ミュージック』をつくれという流れになってしまった。おかげでその反動はさらに膨れ上がり......いや。

Leftfield - ele-king

 今年の夏に彼らがライヴ活動を再開したことは知っていたけど、まさかこんなに早くツアーをするとは思ってなかったのでレフトフィールドはまったくノーチェックだった。「スクリーマデリカ・ライヴ」が目的の渡英だったけど、もし見ることができるならレフトフィールドも絶対見たかった、来日公演なんて実現しないだろうし。それにしてもなぜ日本では彼らの復活ツアーがほとんどニュースにもならないんだろう。

 ダンスビートが希望と目眩に溢れた混沌のなかから大きなうねりを作りオーディエンスの心に革命をおこしていた90年代前半、レフトフィールドはまさにその名の通りのシーンのエッジにいた。彼らはまだヒップホップもレゲエそしてテクノまでもミックスして新しいビートとしてハイブリットできた、ほんのわずかな時代のタイミングに奇跡的なトラックを連発してダンスビートを大きく進化させた数少ないアーティストのなかのひとつだった。

 今回のツアーにオリジナル・メンバーであるポール・デイリーは参加していない、脱退したわけでなくこの先のプロジェクトでは合流するということらしい。
 自分の日程に合うのがグラスゴーでのライヴだけだったので、出発1週間前にライヴとフライトのチケットを押さえ、グラスゴーへ飛んだ。会場はグラスゴーの中心から2~3キロはなれた幹線道路沿いにポツンと立つ〈O2 アカデミー〉、ちょうどゼップの天井を高くしたような感じ。開場から30分ぐらいでなかにはいるとまだ人はほとんどいない、しばらくして前座のブレイケージがスタート、それにしても人は入ってこないし音は小さいし、ちょっと不安になりながら広い場内に響くシリアスなダブステップを聴いていていると、早く会場に来た人たちはガンガンにビールをあおっている、イギリス人はほんとにビールが好きだ。
 スタートから40分ぐらいで場内はいい感じに埋まってきた、50ぐらいのヒッピーのようなおじさんからまだ10代の若者まで幅広い層のお客さんがきているけど、中心はやはり30代から40代のレイヴ/パーティー世代。ブレイケージの終盤にハッピー・マンデーズの"ハレルヤ"のサンプリングが飛び出すと場内から歓声が......。やっぱり年齢層高いかも! 

 ブレイケージによる1時間のDJが終わる頃には場内は超満員に、DJ終了と同時にいい感じで拍手、そしてステージ全面のLEDスクリーンが点灯すると"ソング・オブ・ライフ"のイントロが鳴り響く。ドラムセットにドラマーが座り、ニール・バーンズがシンセの前にくると爆音ベースが響く......。まず驚いたのはブレイケージとの音量差、ここまで前座とヴォリュームに差があるとは!
 かつてライヴで爆音を出し過ぎて〈ブリクストン・アカデミー〉の天井に亀裂を入れただけのことはある。この時点で場内はもう沸騰寸前だ、そして"ソング・オブ・ライフ"のビートがブレイクスから4つ打ちになった瞬間に場内は完全にスパーク、つづいて"アフロ・レフト"で完全にパーティ状態へ突入!
 "オリジナル"では女性ヴォーカルが登場、ニールがベースギターを持って、重たいビートが強調される。それから"ブラック・フルート"へ。そしてついに"リリース・ザ・プレッシャー"のイントロからラガMCが登場、ここで場内は最高の盛り上がりを見せて、いわばパーティの午前3時状態、まさにレイヴ。隣で踊ってるヤツの踊りがあまりにも懐かしい動きだったので、フラッシュバックしてしまう。こんな光景を見るのほんとに久しぶりだ。続いて"インフェクション・チェック・ワン"、この頃には僕も完全に飛ばされてしまった。シンプルなビートが、突き刺さるように響いてくる。

 レフトフィールドの曲はDJのとき、どうも使いずらいことが多かった、その使いずらさはビートや曲の構成の問題ではなく、音のタッチの問題としてそう感じていた。もちろん『リズム・アンド・ステルス』は当然そういう作りなのだけれど、『レフティズム』のシンプルな4つ打ちの曲でもそうだった。
 このライヴを見てその理由が理解できた、というよりも思い知らされた。レフトフィールドは楽曲をDJツールとして作ってはいないのだろう。 DJに使ってもらうことを前提としてトラックを作ることも、ビートをフォーマットとして捉えていることもしていない。単純なビートですら自分たちの刻印を刻みつけるようにして作っている。それがマッシヴ・アタックと同様に、オリジネイターとしての凄みであり、メッセージだ。ブレイケージを前座に起用したところにもレフトフィールドの意思を感じる。ダブステップが現在彼らの意思を正しく受け継いでいるというメッセージでもある。
 アンコールでは"メルト"、美しいシンセの眩暈だが、夢よりも現実が迫っていること感じさせる音色だ、しかしオーディエンスはそこに信じるべき明日を予感する、これこそ夢を見ながら現実を飛び越える瞬間の表現。ラスト・ナンバーは音圧で割れるようなベースの"ファット・プラネット"、最高のドラマの締めくくりに相応しい名曲だ。"オープン・アップ"をやらなかったのは残念だったけど、彼らが現役であることを証明する、気迫充分のライヴだった。このハードコアなビートのフィロソフィーに最大の歓声を持って応えているオーディエンスも最高! イギリス人はなんて音楽好きなんだろう。

G.Rina - ele-king

 現在のUKを中心とした、ダブステップから派生した最新鋭のビート・ミュージック――より多様に拡大するポスト・ダブステップをはじめとした、UKファンキー、ウォンキー、スクウィーなどなど――は、いま最大の隆盛を迎えつつあるわけで、最新の12インチを追いかけている熱心なビート・ジャンキーな方々(僕も含む)にとっては、懐を心配しながら過ごす毎日かと思う。そんな未曾有の活況を見せる欧米のシーンに対して、「日本からのリアクションはどうなのよ?」という素朴な疑問をお持ちの方にこそ、G.Rinaの2年振りとなる新作『マッシュト・ピーシーズ#2』を是非とも手に取ってもらいたいわけです。

 2010年の彼女はエクシィ率いる〈スライ・レコーズ〉のパーティ、Dommuneでの「ダブステップ会議」後でプレイしているように、UKのクラブ・カルチャーと明らかなシンクロをみせている。いまもっとも旬のクラブ・トラックを華麗にミックスする彼女のプレイを聴いて、僕はすっかり打ちのめされてしまったわけだが、そんな彼女の冒険心から生まれたのが『マッシュト・ピーシーズ#2』である。これは昨年末にブートとして限定リリースされた『#1』の続編で、『#1』では欧米のダブステップのトラックをリディムとして捉え、そこに彼女が歌を加えてマッシュアップするといった手法をとっている。『#2』では、『#1』で録音した彼女のアカペラを使って、国内のトラックメイカーが新たにリディムを加えるという斬新な試みが展開されている。
 そして本作は、国内の新進トラックメイカーのショウケースでもある。前述したエクシィをはじめ、スカイ・フィッシュ(彼はベース・ミュージックのトラックメイカーとして本当に素晴らしくて、昨年のアルバム『ロウ・プライス・ミュージック』は、自分にとって昨年のベスト・アルバムの1枚)、ラヴロウ&BTB、ラバダブ・マーケットのE-MURAら、現行のビート・ミュージック・シーンと共振する個性派たちが揃っている。
 そしてトーフビーツ、今年最大の話題の1枚、インターネット・レーベル〈マルチネ〉の『MP3キルド・ザ・CDスター?』への参加も記憶に新しい平成生まれのトラックメイカーも名を連ねている。いまから2年前、彼がまだ17歳の頃にリリースしていた自主制作盤『ハイスクール・オブ・リミックス』を聴いてから、彼のトラックに夢中になっていた僕にとっては、彼が参加しているという事実だけで、このアルバムを購入するには十分な理由だったわけで......。

 E-MURAのリディムによウォブリーなベースラインが強烈な変化球なファンキー"スロウ・アウェイ"でアルバムは幕を開ける。プレイヤのカトクンリーとG.Rina本人によって結成されたユニット「(dub)y」による"ファースト・テイスト"、続くエクシィによる"L.Y.D."は、どちらもコズミックなシンセサイザーが特徴的だが、現場で揉まれたグルーヴを持っている。スカイフィッシュによる"シーズンズ"は、スティールパンの響きが心地良いトロピカルなダンスホールで、ラストを飾るTNDによる"キープ・オン"は、クワイトのリズム・パターンを取り入れながらジョイ・オービソンとも似たエレガントさをも匂わせている。
 『マッシュト・ピーシーズ#2』は、素晴らしい同時代性を持っている。国内のシーンの生気に満ちたカッティング・エッジな音を確実に伝えている。アイコニカ以降さらに顕著になったロウビット、サブトラクトやファルティDLらが盛り上げるフューチャー・ガラージ、これら新しい波とも共振する。マグネッティック・メンのヒットによってポップ志向のヴォーカル・トラックもだいぶ注目されているが、その点でもこのアルバムは応えている。彼女の歌声はトリッキーなビートに乗ることで、地下室の艶やかさを孕みながらいっそうとメロディアスに輝いている。アルバムの終盤では、ラヴロウ&BTBによる"国道1号線"、ベータ・パナマによる"ワーキング・ハード・シンス......"のような、艶かしいエレクトロ・ファンクが収録されている。

 僕にとってのこのアルバムのベスト・トラックは、トーフビーツによる"ディドゥ・イット・アゲイン"。今年のベスト・トラックのひとつに挙げたいほどのこの曲は、ロウビット経由のカラフルなダブステップでありながら、バグの発生したTVゲームの画面のごとく、狂ったほどにスクリューのかかった、スクウィーじみたエフェクトがクレイジーだ。間違いなく彼は日本のトラックメイカーたちのなかでも強烈な個性を放っているひとりだが、まだ20歳になったばかりだ。先日、代官山UNITで開催された〈マルチネ〉によるパーティ「THE☆荒川智則」も大盛況だったというが、この『マッシュト・ピーシーズ#2』もしかり、新しい感覚をもったこの国のビート・ミュージックは、大人たちが知らないあいだに、すでに未来へと向かっている。時代とシンクロしながら独自の発展を遂げている国内のシーンの、2010年のドキュメンタリーのひとつとして、このアルバムを聴いてみるのもいいんじゃないでしょうか?

Chart by UNION 2010.11.30 - ele-king

Shop Chart


1

THEO PARRISH

THEO PARRISH Stop Bajon &COMMENT GET MUSIC
以前から自身のDJセットでもプレイしていたクラシックTULLIO DE PISCOPO"Stop Bajon"をTheo Parrishがリミックスした話題の1枚が遂に入荷!分解されたドラムパート、微かに聴こえるギターリフを覆い隠すかのようなアシッドベースと不穏なシンセが、まるでバレアリックと逆行するようなドープな仕上がりへ。午前3時過ぎのフロアをイメージさせる16分にも及ぶ地下世界。

2

BEN KLOCK / ベン・クロック

BEN KLOCK / ベン・クロック Compression Session OSTGUT TON / GER / &COMMENT GET MUSIC
BERGHAINのレジデントDJとしても活躍するベルリン・アンダーグラウンド・シーンの要の1人、BEN KLOCKの最新ミックスCD「Berghain 04」に」収録され、かねてより話題を呼んでいた"Compress Session 1"が遂にシングル・カット&ヴァイナル化!!

3

SHACKLETON

SHACKLETON Man On A String Part 1 & 2 WOE TO THE SEPTIC HEART / GER / &COMMENT GET MUSIC
SKULL DISCOでの出世作を皮切りにPERLON、SCAPEと活動の粋を益々広げるシーン最大のダーク・ヒーローSHACKLETONの新レーベル???『WOE TO THE SEPTIC HEART!』の第一弾リリース!!

4

URBAN TRIBE

URBAN TRIBE Untitled MAHOGANI / US / &COMMENT GET MUSIC
突如としてリリースされたUrban Tribeによる4 Tracks EP!! Sherard Ingramが織り成す黒いエレクトロリックソウル、その随所に伺えるKenny Dixon Jrによるコラージュやサンプリングのアレンジ、また自らのヴォーカルをも落とし込んだデトロイトの新たな化学変化。1,000枚完全限定、ワンショットプレス。

5

MODESELEKTOR PROUDLY PRESENTS

MODESELEKTOR PROUDLY PRESENTS Modeselektion Vol.1 MONKEYTOWN / JPN / &COMMENT GET MUSIC
THOM YORKE、BJORK、MAXIMO PARK、MISS KITTIN、ROOTS MANUVAといったアーティストとコラボ及びリミックスを手掛けてきた、ジャンルを越境する人気者MODESELEKTORが自ら始動させたレーベル・MONKEYTOWNから超強力コンピをドロップ!

6

A.MOCHI

A.MOCHI Primordial Soup III FIGURE / GER / &COMMENT GET MUSIC
アルバムリリースが待ち遠しいばかりの(リリースはあのLEN FAKI主宰FIGUREです!!)大注目日本人アーティストA.MOCHI、その最新アルバムからのシングル・カット第3弾が到着!!!

7

ERNESTO FERREYRA

ERNESTO FERREYRA El Paraiso De Las Tortugas CADENZA / JPN / &COMMENT GET MUSIC
LUCIANOを筆頭にVILLALOBOS、LOCO DICE、MIRKO LOKOなど錚々たるメンツが作品を残してきた、紛れもないミニマル・シーンのトップ・レーベル"CADENZA"。そのCADENZAがREBOOT「SHUNYATA」に続き放つのは、南米コネクション・アルゼンチンから飛び出した超新星・ERNESTO FERREYRA!

8

TATSUO SUNAGA / 須永辰緒

TATSUO SUNAGA / 須永辰緒 Organ b.suite No.5 WHITE / JPN / &COMMENT GET MUSIC
DJ MIXブームの雛形を作った伝説のミックステープ「Organ b.SUITE」シリーズが各方面からの熱いリクエストに応える形で「リ・マスタリング」を経てついにCD化。

9

RICARDO VILLALOBOS

RICARDO VILLALOBOS Au Harem D'archimede PERLON / JPN / &COMMENT GET MUSIC
ミニマル・シーンに留まらずクラブミュージック全般において、もはや別格といえる存在へと昇り詰めたカリスマ・RICARDO VILLALOBOSの2ndアルバム。実験的なトラックとフロアライクなトラックが絶妙に混ざり合ったVILLALOBOSの真骨頂が存分に味わえる。モダン・ミニマルの基本とも言えるマスターピース、待望の再発である。

10

MARK ERNESTUS VS. KONONO NO 1

MARK ERNESTUS VS. KONONO NO 1 Masikulu Dub CONGOTRONICS / GER / &COMMENT GET MUSIC
'04年リリースのアルバム収録曲"Masikulu"を、MORITZ VON OSWALDの片腕としてBASIC CHANNEL、RHYTHM & SOUND、MAURIZIO、CYRUS、QUADRANT等等等、数々のプロジェクトを手がけるMARK ERNESTUSがミックスを手がけるというその概要だけでもヤバすぎる1枚!

BLACKTERROR - ele-king

 仮眠を取って21時過ぎに起きると、雨が降っていた。失礼な話だけれど、正直ちょっと嬉しくなった。なぜなら、〈BLACK SMOKER〉が渋谷の〈asia〉で開催するパーティはだいたいいつも混むからだ。焼き鳥屋あたりでいい具合になってから深夜に遊びに行くと、観たいライヴを見逃してしまう。この国でいまもっともアヴァンギャルドなヒップホップ・ポッセのパーティは、とにかくちゃんとライヴを観たい、踊りたいと思わせる。大それた言い方をすれば、時代の音の行く末を目撃したい。そう、そんな気持ちにさせる。ベロベロに酔っぱらって、記憶を飛ばしているだけではあまりにもったいないのだ。僕はオープンの12時過ぎにはクラブに入った。その頃には雨は止みかけていた。

 今回は、DJ NOBUを擁する千葉のハードコアなテクノ・パーティ〈FUTURE TERROR〉と〈BLACK SMOKER〉主催のパーティ〈EL NINO〉のサウンドクラッシュである。界隈では誰もがこの喜ぶべきアンダーグラウンドの邂逅に注目していた。なにより〈BLACKTERROR〉ってパーティのタイトルがまずカッコイイ! そう思わない? 僕はビールを買って、さっそく真っ暗闇のメインフロアに向かった。パキッとした空気の振動が頭のてっぺんから足の爪先までを激しく刺激する。強力なサウンドシステムを導入したのではないだろうかと思わせる凄みのある出音だ。今日のパーティにたいする気合いというものが伝わってくる。THINK TANKのDJ YAZIと〈FUTURE TERROR〉のHARUKAによるユニット、TWIN PEAKSはミニマル・テクノとダビーなハウスのSFホラー・ショーを展開していた。ちなみに僕はDJ YAZIの『DUBS CRAZINESS』というミックスCDが大好きでよく聴いているが、これをウォークマンにセットして新宿のネオン街をサイクリングすれば、一瞬で『ブレード・ランナー』の世界にトリップしてしまう。さあ、黒いテロリストたちの宇宙船に乗って旅に出よう! 

 気づくとまだ1時前だというのに、フロアは身動きするのに苦労するほど人でいっぱいになっていた。僕は人をかき分けて、焼酎の水割りをゲットしに行った。1階のバーカウンターでCIA ZOOのHI-DEFから、12月15日に出すというファースト・ソロのサンプルをもらった。おー、ありがとう! じっくり聴かせてもらうよ! TWIN PEAKSはテンションを保ちながら、フロアの空気をコントロールし、次のTHE SEXORCISTのライヴへとバトンタッチした。

 THE SEXORCISTとは、"ヘンタイのヘンタイによるヘンタイの為のヒップホップ"を合言葉に活動する不定形なヒップホップ・ポッセである。なんと言っても、元ブッダ・ブランドのNIPPSが在籍していることで有名だ。彼曰く、池袋のクラブ〈bed〉を拠点とした「パーティ野郎の集い」だそうだ。代わったDJが一気にBPMを落とし、ジャズ・ファンクからメロウなコズミック・ソウルをスピンする。巨大スクリーンにはモンド映画のような映像が映し出される。ROKAPENISのお馴染みのVJは、アブストラクトな映像に疎い僕みたいな人間でさえ視覚的に楽しませくれる仕掛けがふんだんに盛り込まれている。それまで激しく体を揺らしていたダンサーはその場を離れない。

 そして、チェックのシャツを着たNIPPSと迫力のある風貌のB.D. The Brobusがステージに登場すると、彼らの代表曲"BLACK TAR"がはじまる。「うおおおぉぉ!」、僕の後方にいたヘッズが雄叫びを上げながら、足元に酒をひっかけてきた。でも、そんなことを気にしている余裕はない。「......黒いダイヤ、黒澤明、黒いジーザス、ブラックマニア、黒いジャガー、シャフトのサントラ、黒い文学、黒い音楽......」、ほんとに黒がお好きですね。NIPPSのリリックは相変わらず意味不明で、どこか可笑しみがある。意味もなく笑いがこみ上げてきた。途中から、TETRAD THE GANG OF FOURのラッパー、VIKNとSPERBが加わる。
 NIPPSはステージの後方で横を向きながら、控え目に、ときおりビールを飲みつつ佇んでいた。最初は悪ふざけをしているのかと思ったけれど、自分のヴァースが来ると不自然なほど真摯にダーティなリリックをスピットしていた。4人は必要以上にお互いに干渉せず、淡々と熱のあるハードボイルドなヒップホップ・ライヴを展開した。「あれ、NIPPS大丈夫かな?」と不安になる瞬間もあったが、近年、第二の黄金期に突入しているベテラン・ラッパーの異形の存在感を体感できたことは嬉しかった。

 その頃、僕の膀胱はなかなか危険な状態だった。だが、次はTHINK TANKだ。急いでトイレに行こうとするが、人だらけでうまく前に進めない。2階のラウンジでは〈BLACK SMOKER〉のアートワークなどを手掛けるアーティスト、Kleptomaniacが一心不乱にライヴ・ペインティングをしている。相変わらず彼女の集中力は凄い。「ドスン、ドスン」という四つ打ちやレイヴィーなライティングに合わせて、いまにも動き出しそうな極彩色の地球外生命体のようなアートに視線を奪われる。ん? 階段の踊り場には奇妙なオブジェまで......、いや、こうしてはいられない。あああぁぁぁ、トイレには長蛇の列ができているじゃないですか。僕はトイレをひとまず諦めて、2階のVJブースにお邪魔してじっくりライヴを観ることにした。「頼む、もってくれよ」、僕は祈った。

 DJ YAZIとサックス奏者/エンジニアのCHI CHI CHI CHEE、そして客演のoptrumの伊東篤宏のフリーキーなインプロヴィゼーションからライヴは幕を開けた。CHI CHI CHI CHEEがソプラノ・サックスを切れ味鋭く吹くと、伊東篤宏が蛍光灯を使って自作した楽器オプトロンが「ビリビリビリッ」と暗闇で激しく点滅し、音の火花を散らす。ビートは変幻自在に伸縮をくり返している。そこにまずJUBEが切り込み、闇を切り裂く。続いて筋肉隆々のBABAがロッキンに乗り込む。そして最後に、ジャングル・ドレッドにサングラス姿のK-BOMBがケダモノのような野太い声にカオス・パッドで目一杯エフェクトをかけた。この渦巻きのようなカオスはいったいなんだ?! フロアのオーディエンスは波打ち、むちゃくちゃに盛り上がっている。彼らは、ロッキンな"EAT ONE"やファンクの感性がうねる"Bbq Style"をやり、いくつもの曲の断片をルーディーに再構築してみせた。

 THINK TANKのライヴは、自らの音楽を含めた既存のアートの脱構築である。まあ、ここでダラダラと分析するのもウザイが少々お付き合い下さい。THINK TANKにおけるジャズやファンクやレゲエやロックは、単なる意匠や装飾として使われているのではない。それらは衒学趣味などではなく、肉体的欲望の結果として引きずり出され、精神の解放をうながす破壊と再生のお祭りをぶち上げる。ヒップホップにお決まりの自己中心主義からは遠く離れている。「これこそアウトサイダー・ミュージックである」と紋切り型を言うのは容易いが、そういう形容には違和感もある。RZAの脱構築の美学とクール・キースの道化趣味の結合と言えるだろうか。あるいは、マイク・ラッドやアンチ・ポップ・コンソーシアムとも異なる前衛の領域へと踏み込もうとしているのではないだろうか。THE LEFTY (KILLER-BONG&JUBE)が山川冬樹と、KILLER-BONGはFLYING RHYTHMSのドラマー、久下恵生やダモ鈴木と刺激的なセッションを行なっていることも記しておく。いや、とりあえずいまはただひとつの事実を言おう、THINK TANKのライヴはいまもっとも注目すべきアヴァン・ヒップホップの極北であると――。

 ああ、膀胱がまずいぞ、しかしこれを見逃すほうがよっぽどまずい。とにかく、僕はトイレを必死に我慢してライヴに集中していた。たまたま来日中で遊びに来ていた、MITのイアン・コンドリー教授は「あれはカオスの美学だね」と流暢な日本語で評した。「たしかに、そうとも言えますね」と僕は頷いた。いっしょに行った吉増剛造と中原昌也を敬愛する友人は、「これを観れば、もう他のヒップホップはいいや」とまで興奮していた。同意はできないけど、言いたいことはわかるよ。

 しかし、まだまだパーティは終わらないのだ! 2時半ぐらいだっただろうか。10年ぶりの復活を遂げた、七尾DRY茂大と秋元HEAVY武士によるDRY&HEAVYのライヴがあった。この日のひとつの目玉だ。無骨で重厚なリズム・セクションとK-BOMBの地面をのたうち回るようなラップの掛け合いを観ながら、僕はダークなブリストル・サウンドを想起していた。そしてライヴのセッティングがばらされると、いよいよDJ NOBUがブースに入った。その時点ですでにけっこうな深い時間だった。あれだけ濃いライヴが続けば、クラウドもさすがに少しは疲労しているのではないだろうかと思ったが、いやいや僕の考えは甘かった。メインフロアの人はまったく減らない。DJ NOBUが鉛のように重い音をズドンと放ち、ジャブ代わりにEQをいじる。手を頭上でパンパンパンと叩き、クラウドを煽るとクレイジーなダンス・ミュージックによる第二ラウンドのゴングが鳴らされた。あとは書かなくても、みなさんだったらわかるでしょ?

 ティム・ローレンスは「『アンダーグラウンド』という言葉は急進的で秘密めいた響きを持つ」と書いているが、それは〈BLACKTERROR〉にもまったく当てはまる。ただ、創作の独自性を保つために世間の主流から離れた〈BLACK SMOKER〉が、一周回って世間から評価されはじめているとも感じている。〈BLACKTERROR〉は社会的反逆者や変態だらけのお祭り騒ぎと思えるかもしれない。まあ、そういう側面は大いにある。ただ、怒鳴り声や凄む声がパーティを支配しているわけではない。

 実際のところ、フレッシュな音やライヴやアートを求めに来ている人たちが多い。ナンパ目的の客もいる。手に負えない快楽主義と急進的な前衛主義と渋谷の猥雑な夜の文化が、これほどうまく同居した素晴らしいパーティもそうそうないのではないだろうか。いくら渋谷の他のクラブにちょっとしたトラブルがあったとはいえ、あんなドープなパーティに700人近くも集まるなんて! いつかK-BOMBは「オレらのライヴにズボンの細いヤツらが増えたよ」と言っていたけど、ハハハハハ、たしかにそうだ。ちなみに中原昌也は自身初の、素晴らしく狂ったミックスCDを〈BLACK SMOKER〉から近くリリースする。

 この日はほんとにいろんな人たちに会った。ライターの大石始や物販を担当していた〈wenod records〉の面々、RUMIもいたらしいね。それだけこのパーティが注目されていたということだろう。朝方、1階のバーカウンターで心地良く流れるダブに身をまかせ、ロックの氷を溶かしながら友だちとのお喋りに興じていた。〈ワッキーズ〉かホレス・アンディがかかっていたような気がした。結局僕は、DJ HIKARUがはじまってから少ししてリタイアしてしまった。聞くところによると、そのあとがまた凄かったという。それについては、最後まで踊り狂っていたハードコアなパーティ・ピープルが証言してくれることだろう。

KAZUHIRO ABO - ele-king

最近の"いいっすねぇ"もしくは"やべぇっすねぇ"10選(順不同)


1
HUMANDRONE - ACID IN THIS TOWN (original mix) - Canaria Schallplatten

2
BD1982 - Trails ( Gunhead remix ) - Seclusiasis

3
BOY 8 BIT - Suspense is Killing Me (Philipe De Boyar Remix) - MAD DECENT

4
GOTAN PROJECT - Rayuela (Man Recordings Disco Mix) - YA BASTA

5
Makam - You Might Lose It (Kerri Chandler Kaoz 6:23 Again Mix) - Sushitech Purple

6
AERA - Daidalus - ALEPH MUSIC

7
AERA - Week of Fear - ALEPH MUSIC

8
AWANTO 3 - Get That BDB - Rush Hour

9
JAY HAZE - After Hours Breaking - FINALE SESSIONS

10
BRAWTHER - LE VOVAGE - BALANCE PROMO

Chart by JETSET 2010.11.29 - ele-king

Shop Chart


1

ホテルニュートーキョー

ホテルニュートーキョー トーキョー アブストラクト スケーター EP »COMMENT GET MUSIC
都会の喧騒を華やかに彩る、ホテルニュートーキョーの真骨頂ともいえる1枚がアナログ化決定!話題のElliott Smithの"The White Lady Loves You More"のカヴァーをはじめ、既発曲のリミックスやライブ・テイク、新曲を含めた渾身のトラック全8曲を収録 !

2

JEBSKI

JEBSKI STILL / HAKUBA »COMMENT GET MUSIC
Los HermanosのGerald Mitchell(UR)が参加したJebskiの新作12インチ!「美麗と狂乱」この言葉が妙にシックリくるような、両極端でありながらもJebskiの世界感がタップリ凝縮された渾身の1枚です。

3

N.E.R.D.

N.E.R.D. NOTHING »COMMENT GET MUSIC
約2年振り、遂に完成した4thアルバムが到着!Daft Punkがプロデュースを手がけ話題沸騰の"Hypnotize U"、先行シングル"Hot-N-Fun"含む全10曲。ボーナス・トラック4曲を加えたデラックス・アナログ・エディション!

4

MAXXI & ZEUS

MAXXI & ZEUS AMERICAN DREAMER / MZ MEDLEY »COMMENT GET MUSIC
Maxxi & Zeus名義でのウルトラ・ディープ・チルアウト2作目も相当ヤバい!!前作"The Struggle / The Cell"に引き続きドープ・サイケデリアを掘り下げたQuiet Villageの変名プロジェクト"Maxxi & Zeus"による、Francois K, Thomas Bullock, Prins Thomas, Soft Rocks, Tim Sweeney, Ronny & Renzo等、絶賛の声多数のグレイト過ぎる新作です!!

5

THEO PARRISH / ISOUL8 & MARK DE CLIVE-LOWE

THEO PARRISH / ISOUL8 & MARK DE CLIVE-LOWE STOP BAJON »COMMENT GET MUSIC
Theo Parrishらによるバレアリック古典"Stop Bajon"カヴァ大作!!Theo Parrish自身もヘヴィ・プレイ&DJ Harveyらもフェイバリットに挙げるイタリアン・バレアリック古典Tullio De Piscopo"Stop Bajon"。リリース以前から話題となっていた話題のカヴァ・トラックが遂に解禁!!

6

CHICO MANN

CHICO MANN YA YO SE »COMMENT GET MUSIC
Kindred Spiritsフックアップで勢いに乗るChico Mannの2ndアルバムからシングル・カット!!NYのアフロ・ビート・オーケストラAntibalasのギターを担うMarcos J. GarciaによるChico Mann名義での2ndアルバム"Analog Drift"から、スペーシー・エレクトロ・ファンク"Ya Yo Se"をシングル・カット。B-SideにはScratch Live用のコントロールコードをカットしたユニークな企画です。

7

BLACK EYED PEAS

BLACK EYED PEAS THE BEGINNING »COMMENT GET MUSIC
さらに進化を遂げたエレクトロ・サウンド! 待望の6thアルバムが到着!大ヒット・アルバム『the E.N.D.』から約一年半振りとなる通算6作目スタジオ・アルバムがボーナス・トラック3曲を収録した180gヴァイナル仕様、デラックス・ヴァージョン2LPで入荷!

8

NORAH JONES

NORAH JONES ...FEATURING NORAH JONES »COMMENT GET MUSIC
Norah Jonesによる話題沸騰のコラボレーション・アルバム。アナログもリリースされます!!Ray Charles、Herbie Hancock、Talib Kweli、Q-Tip、Outkast、Belle and Sebastian等、'02年のデビューから残されてきた共演楽曲を彼女自身が選曲した話題のコラボ・アルバム!!

9

SCOTT GROOVES

SCOTT GROOVES LOT 1210 »COMMENT GET MUSIC
Alton Millerに続くSuperbの新作は、同じくデトロイトの重要人物、Scott Grooves!過去にリリースされた作品は、Francois K.やDerrick May、Theo Parrishなどトップ・クラスのDJがこぞってプレイする信頼のSuperb Entertainmentの18番!

10

IAN DURY

IAN DURY THE PUB SKA EP »COMMENT GET MUSIC
人気の7インチ・シリーズに、ロンドン下町パブ・ロック・シーンの顔Ian Duryが登場です!!Pogues「ニューヨークの夢」的なトラッド色濃い前半からワルツ調にスウィングするA-1、スティール・パン使いのカリビアン・ニューウェイヴ・スカB-1、そして哀愁溢れる初期音源B-2の全3曲を収録!!

tomad (Maltine Records) - ele-king

2010年の冬はこんな感じな10曲


1
Submerse - Full Metal - Maltine Records

2
Lone - Raptured - Werk Discs

3
Girl Unit - Wut - Night Slugs

4
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Girls - ele-king

 彼らのユーモラスな、少々ふざけたレトロなサンシャイン・ポップスが詰め込まれたデビュー・アルバムは、英米でも大きな評判を呼んで、わが国のロックの専門家たちからも拍手された。ローファイのビーチ・ボーイズとかなんとか、ヴィンテージ・ポップスとかなんとか......が、そのいっぽうでは、2009年7月17日付けの『ガーディアン』では、例によってドラッグ談義に花を咲かせ、いかにもロックな、そのいかれっぷりを披露している。いまでもロック・バンドはいろんな場所でもてなされ、もてはやされ、そしてぶっ飛んでいるのかと。「モルヒネ持ってる?」......「いや、ごめん、冗談」......こんな会話がまだあるのかと思うと......羨ましいというか......(いや、ちっとも羨ましくない。ただそういう記事が『ガーディアン』という大新聞に掲載されていることはちょっと羨ましい)。
 が、これが僕には、ロックのクリシェに対するシニカルな態度に思えたものだった。極端に言えば演じていると、いや......あるいは、もし仮に、クリストファー・オウェンスがいかれていようとも、彼らのデビュー・アルバムが『ガーディアン』が言うように「無視できないほど美しい」のは事実である。そしてそれがリハーサル・スタジオにあるしょぼい機材によるローファイ録音だったこと、というかオウェンスが悪名高いカルト教団からの脱走者であったこと(それはヒッピーに組織されたカルト教団で、母親は売春を強制され、聴くことが許された音楽は宗教音楽以外では幹部=ヒッピーが好きな音楽、ビートルズやエルヴィス・プレスリーなどに限られていた)、まあ、とにかくそうしたインパクトのある物語がガールズの神話性を高めたのも事実だ。ゆえにガールズの通俗性(女の子、恋、青春と太陽、あるいはドラッグ)は、自身の幼少期を支配した歴史への強烈な否定であるように僕には思える。まあ、とにかく、ガールズのサンシャイン・ポップスが21世紀初頭において複雑な意味をはらんでいるという考えには田中宗一郎も賛同してくれるだろう。

 新作「ブロークン・ドリーム・クラブEP」にはそして、サンシャイン・ポップスのクリシェはない。が、それはある意味では真っ直ぐな作品だとも言える。カリフォルニアの絵はがきはないけれど、クリストファー・オウェンスは親しみやすいメロディにのって、しかし悲しみや失意について歌っている。要するに演じていない。それは......お決まりの海、女の子、恋......といった青春物語を目の当たりにするたびに気力を失うリスナーにとっては感動的な音楽である。
 実は僕はこのミニアルバムを、この2ヶ月、すでに何十回と聴いているのだけれど、いまさら昨年のアルバムを聴き直そうとは思わないほど「ブロークン・ドリーム・クラブEP」とは、いわば薄っぺらな昼の眩しさを剥がしたあとの孤独な夜の力強さを持っている......というか、ガールズはザ・ドラムスやモーニング・ベンダーといったいまをときめくヴィンテージ・ポップスの人気者たちと自分たちは別物であることを暗に、そして強く主張しているのかもしれない。海、女の子、恋......オウェンスは、そんな絵に描いたような青春物語が虚構であることをよく知っているのだろう(まあ、そんなの虚構に決まってる!)。
 ガールズは先回りしているのかもしれない。今作における唯一の、前作からの連続性をもったレトロ・ポップス"ジ・オー・ソー・プロテクティヴ・ワン"からして、歌詞は大きく向きを変えている。「彼らはわかっちゃいないんだ/君が心にどれほどの重荷を抱えてるのかなんてわかっちゃいないんだよ、君の怯える気持ちも、君の好きな人たちや、君が気に入っているさまざまな物のことも、誇示してみせる必要などないんだ/失礼スレスレの会話/いい加減ウンザリしてきたら、愛する相手にはどうやって伝えるんだい?/君があの音楽を聴いて涙してたときのことなど、彼にはわかりっこない」
 この、誰の耳にも疑いようもなく伝わってくるメランコリーは、「ブロークン・ドリーム・クラブEP」という作品のその後の展開の道しるべである(理解されない"君"とはオウェンス自身のことでもあろう)。とくに印象的な曲のひとつ、"ブロークン・ドリームズ・クラブ"は、オウェンスのひどくくたびれた心を歌った曲で、そしてもっとも美しい曲だ。「独りぼっちになるだけで辛いのにそのまま長い時を過ごすのはもっと辛い/幸せを探し求めながら/焦れったさに苛立ちながら/君も僕と同じ気持ちなんだろ」
 この曲は、2010年に僕が聴いたロック・ソングにおいて最高の1曲だが、嬉しいことに「ブロークン・ドリーム・クラブEP」にはさらに印象深いキラー・チューンが最後に控えている。サイケデリックの彼方からその曲"カロライナ"ははじまる。オウェンスは、彼の商標でもあるエルヴィス・コステロめいた声を使わずに、無感情な声で、意味ありげな言葉を低く歌いはじめる。「いますぐに音速で結びつき合おう /いますぐに音速で /満足できないんだ/いますぐ手に入れよう」、ガールズが発表してきた曲のなかで、もっとも長い(8分近くある)これは、曲の途中でいっきにドライヴする。オウェンスは抑えていた感情をいっきに噴出するように歌い上げる。「君を抱え上げて、ベイビー、肩に担いで行こう /君をさらって、家に連れて行こう/カロライナへ、カロライナへ/南部カロライナまで/そしたら二度と君を離さないよ」

 この2年にリリースされたもロック・バンドのアルバムで、結局のところいまでも何回も繰り返し聴き続けているのは、ザ・XXとガールズと......えーと他に何があったかな......(アトラス・サウンドは、まあ、よく聴いたか)。もちろんガールズにはザ・XXのような目新しさはない。古典的ではあるが、この音楽はオウェンスが歌うように「誰にも理解されずベッドルームで泣いている」人たちの心の奥深いところに入り込む。そういう力をもっている音楽だと思う。と同時にガールズは、かつてロックのみに夢中になっていた頃の自分を思い出させてくる数少ないひとつである。大切に聴こう。君があの音楽を聴いて涙してたときのことなど、彼にはわかりっこない。

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