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野田 努 Jan 10,2011 UP
2010年のクラブ・シーンにおける大きな出来事のひとつにフライング・ロータスの『コスモグランマ』があった。『Resident Advisor』は年間ベストの2位に、礼儀正しい『TINY MIXTAPES』は"好きなアルバム50枚"の4位に、日本のインディ・ロック・キッズにもカニエ・ウェストを買わせたであろう『PITCHFORK』は14位に......、『FACT』にいたってはトップ40枚にも入らないという極端に低い扱いだが(曲がりなりにもクラブ・メディアがJJのようなアコギ系ソフト・ロックを褒めておいてあれは酷い)、僕自身も『コスモグランマ』を初めて聴いたときにはとても興奮したし、2010年のハイライトに違いないと思ったけれど、結局自分の"好きなアルバム10枚"には入らなかった。15位以内には入るけれど、たったいま聴き返してみたいという衝動には駆られない。
理由はいくつかある。ある時期からエレクトロニック・ミュージックへの興味がジェームス・ブレイクに注がれたこと、あるいはエメラルズやOPNのコズミック・ミュージックに強く魅入られてしまったこと......等々。発表された当時はよく聴いたものだが、夏以降は聴かなくなってしまった。宇宙に行きたければエメラルズを聴いたし、ビートを楽しみたければダブステップを聴いた。『コスモグランマ』は良くも悪くも古典的で、スティーヴン・エリソンに何度か取材した経験で言えば、彼はおおよそ古典主義者的な人だった。彼には良くも悪くも厳格的なところがある。そういう彼の属性を考えれば『コスモグランマ』は完璧で、エリソンの芸術的な高みに違いないとは思うのだが、実際のところ『ロサンジェルス』のラフな感覚のほうが好きなファンも多いではないのだろうか。
ティーブスとトキモンスタ、この2枚とも2010年のリリースであり、フライング・ロータスの〈ブレインフィーダー〉まわりのトラックメイカーであり、どちらも好きなアルバムだ。2枚ともドリーミーで、際だったトゲのない穏やかな音楽と言えるし、ファンタジーめいているとも言える。ノサジ・シングといいゴンジャスフィーといい、あるいは〈ロウ&セオリー〉周辺にはサイケデリックな感性が横溢しているように思える。これに関してはトラックメイカーのみならず、〈ノット・ノット・ファン〉のようなインディ・レーベルからベスト・コーストないしはノー・エイジのような連中にいたるまでの最近の西海岸の"傾向"でもあるけれど、その基本は酩酊のための音楽だと思っている。もっとも酩酊の感覚は大衆音楽にとっては重要な要素で、Pファンクからチルウェイヴ、レゲエからアンビエント、ジャズからハウスにいたるまで銀河のように広がっている。スティーヴン・エリソンのなかの厳格さも、こうした音楽の快楽原則に逆らっているわけではない。ゆえに『コスモグランマ』も好かれたのだろう......が、同時に僕は『ミッドナイト・メニュー』と『アーダー』も気に入っている。かたや韓国系アメリカ人女性、かたや元画家によるヒップホップの夢想である。
野田 努