ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Columns エイフェックス・ツイン『セレクテッド・アンビエント・ワークス・ヴォリューム2』をめぐる往復書簡 杉田元一 × 野田努
  2. Columns Squarepusher 蘇る00年代スクエアプッシャーの代表作、その魅力とは | ──『ウルトラヴィジター』をめぐる対話
  3. Columns Squarepusher 蘇る00年代スクエアプッシャーの代表作、その魅力とは──『ウルトラヴィジター』をめぐる対話 渡辺健吾×小林拓音 | ──『ウルトラヴィジター』をめぐる対話
  4. 音楽学のホットな異論 [特別編] アメリカの政治:2024年に「善人」はいない
  5. Tomoyoshi Date - Piano Triology | 伊達伯欣
  6. Jabu - A Soft and Gatherable Star | ジャブー
  7. 寺尾紗穂、マヒトゥ・ザ・ピーポー、七尾旅人 ──「WWW presents “Heritage 3000” Farewell series」の追加公演が決定
  8. People Like Us - Copia | ピープル・ライク・アス、ヴィッキー・ベネット
  9. 野田 努
  10. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定
  11. Columns 11月のジャズ Jazz in November 2024
  12. talking about Aphex Twin エイフェックス・ツイン対談 vol.2
  13. エイフェックス・ツイン、自分だけのチルアウト・ルーム──セレクテッド・アンビエント・ワークス・ヴォリューム2
  14. Fishmans ——フィッシュマンズの未発表音源を収録した豪華ボックスセット登場
  15. Alessandro Cortini - Nati Infiniti | アレッサンドロ・コルティーニ
  16. Columns 10月のジャズ Jazz in October 2024
  17. interview with Kelly Lee Owens ケリー・リー・オーウェンスがダンスフロアの多幸感を追求する理由
  18. Wool & The Pants ——新作を出したウール&ザ・パンツが、年明けの2月には初のワンマン・ライヴを新代田FEVERにて開催
  19. JULY TREE ——映像監督でもあるラッパー、Ole/Takeru Shibuyaによる展覧会
  20. Columns 攻めの姿勢を見せるスクエアプッシャー ──4年ぶりの新作『Dostrotime』を聴いて | Squarepusher

Home >  Reviews >  Live Reviews > Leftfield

Leftfield

Leftfield

@ グラスゴー O2 Academy
November 21st 2010
与田太郎   Dec 02,2010 UP

 今年の夏に彼らがライヴ活動を再開したことは知っていたけど、まさかこんなに早くツアーをするとは思ってなかったのでレフトフィールドはまったくノーチェックだった。「スクリーマデリカ・ライヴ」が目的の渡英だったけど、もし見ることができるならレフトフィールドも絶対見たかった、来日公演なんて実現しないだろうし。それにしてもなぜ日本では彼らの復活ツアーがほとんどニュースにもならないんだろう。

 ダンスビートが希望と目眩に溢れた混沌のなかから大きなうねりを作りオーディエンスの心に革命をおこしていた90年代前半、レフトフィールドはまさにその名の通りのシーンのエッジにいた。彼らはまだヒップホップもレゲエそしてテクノまでもミックスして新しいビートとしてハイブリットできた、ほんのわずかな時代のタイミングに奇跡的なトラックを連発してダンスビートを大きく進化させた数少ないアーティストのなかのひとつだった。

 今回のツアーにオリジナル・メンバーであるポール・デイリーは参加していない、脱退したわけでなくこの先のプロジェクトでは合流するということらしい。
 自分の日程に合うのがグラスゴーでのライヴだけだったので、出発1週間前にライヴとフライトのチケットを押さえ、グラスゴーへ飛んだ。会場はグラスゴーの中心から2~3キロはなれた幹線道路沿いにポツンと立つ〈O2 アカデミー〉、ちょうどゼップの天井を高くしたような感じ。開場から30分ぐらいでなかにはいるとまだ人はほとんどいない、しばらくして前座のブレイケージがスタート、それにしても人は入ってこないし音は小さいし、ちょっと不安になりながら広い場内に響くシリアスなダブステップを聴いていていると、早く会場に来た人たちはガンガンにビールをあおっている、イギリス人はほんとにビールが好きだ。
 スタートから40分ぐらいで場内はいい感じに埋まってきた、50ぐらいのヒッピーのようなおじさんからまだ10代の若者まで幅広い層のお客さんがきているけど、中心はやはり30代から40代のレイヴ/パーティー世代。ブレイケージの終盤にハッピー・マンデーズの"ハレルヤ"のサンプリングが飛び出すと場内から歓声が......。やっぱり年齢層高いかも! 

 ブレイケージによる1時間のDJが終わる頃には場内は超満員に、DJ終了と同時にいい感じで拍手、そしてステージ全面のLEDスクリーンが点灯すると"ソング・オブ・ライフ"のイントロが鳴り響く。ドラムセットにドラマーが座り、ニール・バーンズがシンセの前にくると爆音ベースが響く......。まず驚いたのはブレイケージとの音量差、ここまで前座とヴォリュームに差があるとは!
 かつてライヴで爆音を出し過ぎて〈ブリクストン・アカデミー〉の天井に亀裂を入れただけのことはある。この時点で場内はもう沸騰寸前だ、そして"ソング・オブ・ライフ"のビートがブレイクスから4つ打ちになった瞬間に場内は完全にスパーク、つづいて"アフロ・レフト"で完全にパーティ状態へ突入!
 "オリジナル"では女性ヴォーカルが登場、ニールがベースギターを持って、重たいビートが強調される。それから"ブラック・フルート"へ。そしてついに"リリース・ザ・プレッシャー"のイントロからラガMCが登場、ここで場内は最高の盛り上がりを見せて、いわばパーティの午前3時状態、まさにレイヴ。隣で踊ってるヤツの踊りがあまりにも懐かしい動きだったので、フラッシュバックしてしまう。こんな光景を見るのほんとに久しぶりだ。続いて"インフェクション・チェック・ワン"、この頃には僕も完全に飛ばされてしまった。シンプルなビートが、突き刺さるように響いてくる。

 レフトフィールドの曲はDJのとき、どうも使いずらいことが多かった、その使いずらさはビートや曲の構成の問題ではなく、音のタッチの問題としてそう感じていた。もちろん『リズム・アンド・ステルス』は当然そういう作りなのだけれど、『レフティズム』のシンプルな4つ打ちの曲でもそうだった。
 このライヴを見てその理由が理解できた、というよりも思い知らされた。レフトフィールドは楽曲をDJツールとして作ってはいないのだろう。 DJに使ってもらうことを前提としてトラックを作ることも、ビートをフォーマットとして捉えていることもしていない。単純なビートですら自分たちの刻印を刻みつけるようにして作っている。それがマッシヴ・アタックと同様に、オリジネイターとしての凄みであり、メッセージだ。ブレイケージを前座に起用したところにもレフトフィールドの意思を感じる。ダブステップが現在彼らの意思を正しく受け継いでいるというメッセージでもある。
 アンコールでは"メルト"、美しいシンセの眩暈だが、夢よりも現実が迫っていること感じさせる音色だ、しかしオーディエンスはそこに信じるべき明日を予感する、これこそ夢を見ながら現実を飛び越える瞬間の表現。ラスト・ナンバーは音圧で割れるようなベースの"ファット・プラネット"、最高のドラマの締めくくりに相応しい名曲だ。"オープン・アップ"をやらなかったのは残念だったけど、彼らが現役であることを証明する、気迫充分のライヴだった。このハードコアなビートのフィロソフィーに最大の歓声を持って応えているオーディエンスも最高! イギリス人はなんて音楽好きなんだろう。

与田太郎