「UR」と一致するもの

Kid Cudi - ele-king

 「Cause Day n Nite / the Lonely Stoner Seems to Free His Mind at Nite / He's All Alone Through the Day n Nite / the Lonely Loner Seems to Free His Mind at Nite / at at at Nite(そう、昼も夜も/孤独なストーナーは夜に解き放たれる/いつだって独りぼっち、昼も夜も/孤独な狼は夜に解き放たれる/夜に、夜に、夜に)」("Day n Nite"より)。ダンス・ポップとアーバン・ミュージックの結び付きがより一層強くなった09年、その最悪の結果がThe Black Eyed Peasの"I Gotta Feeling"だとしたら、最高の成果はKid Cudiの"Day n Nite"だと言えるだろう。そのヒットに続き、Cudiが自身のレーベル〈Dream On〉とKanye Westの〈G.O.O.D.〉とのダブル・ネームでリリースするファースト・フルレンス『Man on The Moon:The End of Day』は、キッズが、ナンパでもしようとクラブに出かけたはいいが、爆音でかかり続けるイーブン・キックとEしか持ち合わせていないプッシャーにうんざりして、ひとり部屋に帰ってジョイントを吸いながら自己嫌悪と自己憐憫に浸って聴くのにぴったりのアルバムだ。そのサウンドは、彼がナイーヴな心をタイトなファッションで包んでいるように、エレクトロを取り入れてはいるものの、リリックは至ってコンシャスである。しかし、それはレイト80sの外向きなそれではなく、レイト00s仕様の内向きなコンシャスネスだ。

 Kid CudiことScott Ramon Seguro Mescudiは84年、オハイオ州はクリーヴランドで生まれた。子供の頃から変わり者と呼ばれ、地元に馴染めず、20歳で大学をドロップ・アウトした後は、当時、00年代のソーホーと呼ばれ盛り上がりはじめていたブルックリンに移住、本格的に音楽活動を開始した。08年夏、A BATHING APEニューヨーク店のスタッフとして働きながら制作したミックス・テープ『A Kid Named Cudi』が、OutcastやN.E.R.D.、J-Dillaのビートを使ったスタイリッシュさで評判を呼び、Kanye『 target="_blank"』やJAY-Z『Blue Print 3』に参加、『GQ』誌ではLil WayneがサポートするDrakeやMark RonsonがサポートするWaleと共に09年度版「Men of the Year」に選出され、新たなコンシャス・ラップ・ムーヴメントを起こすに至った。こうして満を持してリリースされる『Man on The Moon』は、COMMONを水先案内人として、幼い頃に体験した父の死をきっかけに、月=自室に籠もってストーンしながら地球=世界をぼんやりと眺めているだけになってしまった内気な青年が、ゆっくりと重い腰を上げるまでを、"日没""恐怖""幻覚""躓き""出発"の5部に渡って描いている。
 Kanyeは勿論、ホーム・グラウンドのブルックリンからあのギター・デュオ、RATATATまでが参加、彼等が手掛けたシンセサイザーが渦を巻くビートの上で、サイケデリックなライムを歌も交えながら紡いでいくこの作品は、USでは「ヒップホップ・ヴァージョンの『Tommy』、あるいは『The Dark Side of the Moon』」と称されており、それは、約10年前にANTICON等がアンダーグラウンドで試していたことが、長い時間をかけてゆっくりとポップ・フィールドにまで辿り着いた事を思わせる、来る10年代のヒップホップである。

intervew with 2562 - ele-king

正直言うけど、ミニマル・テクノにはいっさい肩入れしたことはないんだ。それよりも僕はソウルフルなデトロイト、あるいは生でディープなハウスを好む。

 去る11月17日、代田橋の〈FEVER〉に七尾旅人のライヴを聴きに行ったとき、偶然にも中原昌也と会って、その雑談の途中、なぜか話が2562のセカンド・アルバムに......。そうです、いまではすっかりオランダのダブステッパーとして認知されてしまったデイヴ・ハイスマンスによるダブステップ・プロジェクト、2562のセカンド・アルバム『アンバランス(Unbalance)』が本当に面白い。

 1年前の、2562名義によるファースト・アルバム『エイリエル(Aerial)』は、欧米でも日本でも「ダブステップとミニマル・テクノとの出会い」と評価されたものだけど、どうやらこのオランダ人はそれが気にくわなかったらしい。以下、簡単ではあるけれど、来日前に彼にメール・インタヴューを試みて、いろいろわかった。あー、そうか、それで今回の新作『アンバランス』は、解釈の仕方によっては、音に酔うことを拒んでいるようにさえ聴こえるのだ。

 それはファーストとは全然違うし、同じオランダ人で、同じようにハウス/テクノからの影響をダブステップに混ぜるマーティンの、今年出たファースト・アルバムとも全然違う。マーティンの耳障りの良いダブステップ・ハウスと比較して、2562のほうはまさにバランスを失っているようだ。が、それは際どいところでデトロイティシュなファンクとして成立している。ダンス・ミュージックとして踊れるけれど、関節を逆に曲げてしまいそうである。

 とにかく、シングルとして先行リリースされた「Love In Outer Space」が象徴している。人はこのトラックを聴いて、まさかこれがダブステップだとは思わないだろう。強いてジャンル分けするなら、テクノが妥当だ。僕ならモデル500あたりのエレクトロの近くに並べる。とはいえ、それでもこのグルーヴ――ややつんのめるような、もたついたビート感覚は確実にダブステップ以降のものではある。そしてそれはクラウトロックのように真っ直ぐ進んでいく感覚ではなく、やたら曲がりくねったりしうながら進んでいるのか戻っているのかよくわからない感覚......、関節を逆に曲げて踊ってしまいそうな......。
 手短に言えばエレクトロ・スペース・ファンク、ただしものすごくユニークなそれ......である。

こんにちわ、このメール取材を受け入れてくれたありがとう。最近はDJで忙しい?

秋はホントに忙しかったよ。数週間前にオーストラリア・ツアーから戻ってきたばかりなんだ。その前は、イギリスでもずいぶんとプレイしたな。こんど日本でやるギグが今年最後になる予定だ(注:取材は来日前にしている)。12月は家でリラックスしながら、新しい作品を作りたいと思っている。

僕は一度だけデンハーグに行ったことがあるよ。クリーンな町だったという印象を持っているんだけど。

ホント? きっと天気が良かったんだね(注:実際に良かった)。僕はあの町が好きだけど、同時に、ちょっと退屈で灰色な感じにも思うんだ。でもそれが良いことでもある。あまり面白味のない町だから、自分のことに集中できるんだよ。

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そもそもあなたはどうやって音楽のシーンに入ったの?

基本的に、ダンス・ミュージックが好きなんだ。ひとつの種類の音楽だけを聴いてきたわけじゃないけどね、ダンス・ミュージックは10代の頃からずっと好きだった。90年代初頭にハウスにハマって......だけどプロダクションを覚えたのはずいぶん遅くて、わずか6年前さ。僕は心底音楽を作りたいって思っている、それも以前にはないような新しいものをね。で、ダブステップにもその過程で出会ったんだよ。とても興味を抱いた、2005年ぐらいだったかな、シーンのなかに多くの実験が繰り広げられていたんだ。でもね、ハウスとテクノがいまでも僕のホームだ、自分ではそう思っている。

何歳ですか?

30歳。

2562って名義は......?

ハーグで昔住んでいた僕のエリアコード。もう引っ越してしまったけど、その家の部屋でずいぶんと音楽を作った。アルバム(Unbalance)に収録した"Narita(成田)"がその家で仕上げた最後のトラックだったな。1年前に日本に来たときに作りはじめた曲なんだよ。

A Made Up Sound名義とDogdaze名義について教えて。

A Made Up Soundは僕のなかでもっとも長いプロジェクト。僕にとってまさにハウスやテクノといったエレクトロニック・オリエンティッドな音楽をやるときの名義だ。2562はベース・ミュージック。このふたつの名義の作品はたまに近づくことがある、だけど僕のなかでは明白に分けて考えている。Dogdaze名義はサンプル主体のプロジェクトだったけど、もうこの名前は使わない。2562の新しいアルバムのなかでその名残りが聴けるよ。

ブリストルの〈テクトニック〉からリリースすることになった経緯を教えてください。

〈テクトニック〉が、僕が最初に2562の音源を送ったレーベルなんだ。何故かと言えば、僕は彼らの音が大好きだから。ここ2年、2562は〈テクトニック〉から出している。レーベルをやってるピンチも最高のヤツだし、他のレーベルを探すなんて考えられないね。

2562が出てきたときダブステップとミニマル・テクノの混合だってみんな評価したよね、そのあたりのバックグラウンドについて話してください。

正直に言うけど、ミニマル・テクノにはいっさい肩入れしたことはないんだ。それよりも僕はソウルフルなデトロイト、あるいは生でディープなハウスを好む。90年代半ば以降はドラムンベースやブロークンビーツも好きだった。〈メタルヘッズ〉や〈リーンフォースド〉......というかそのシーンのすべてが。

あなたのシングル「Love In Outer Space」がホントに好きでね、この音楽からはデトロイティッシュなフィーリングを感じましたよ。モデル500、UR、カール・クレイグ......。

それは、ありがとう。実際のところ、このトラックは2年前にエレクトロ/テクノのトラックとして作りはじめたんだよ。しばらく放っておいて、こないだの夏に完成させた。デトロイト・テクノは大好きだ。90年代、僕はまだ若過ぎて、それをリアルタイムで聴いていなかった。だから、追体験したんだよ。デトロイトはテクノのルーツだ。だから、テクノに影響される――それはデトロイトに影響されるってことを意味するんじゃないのかな。

セカンド・アルバム『Unbalance』のコンセプトについて訊きたいんだけど。

アルバムは『Aerial』が出る前から作りはじめている。あのアルバムが出たとき、実はまったく嬉しくなくて、もうとにかく新しいことをやりたかっただけなんだよ。正直言って、作りはじめたときはコンセプトはなかった。わかっていたことと言えば、自分が何か違うことをやりたがっていたこと。そのひとつの例が、昔自分がやっていたサンプル主体の音作りだったりするんだ。

タイトルを『Unbalance』としたのは?

最初にそのタイトルの曲ができたんだ。アルバムの多くのトラックは僕に落ち着きのなさを与え、その言葉がアルバムのタイトルにするに相応しいと思った。自分の音楽について心理学的な説明をするのは好きじゃないけど、たとえばの話をしよう。ある日突然自分の作品が世間から注目されて、毎週末ギグ(DJ)のために飛行機に乗るような生活になってしまう。それはその人の人生にものすごいインパクを与えてしまうものなんだよ......。

マーティン(Martyn)は古い友だち?

彼の音楽は大好きだよ。

ふたりとも似ていると思うんだけど。つまり、ハウス/テクノからの影響をダブステップに混ぜているという点が。

知り合ったのはこの2年。音楽を通じて知り合ったんだよ。彼の音楽は本当によく聴いている。人が僕たちふたりを比べたがるのはわかるよ。同じオランダ人だし、同じようにハウスとテクノが好きだし、似ていると感じるのはわかるんだけど、僕自身はまったく別物だと思っているんだ。だいたい彼のほうが僕なんかよりもメロディアスだし、キャッチーなフックがあるでしょ。ハハハハ。

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あなたの音楽でもっとも大切なものは?

作った音楽による。クラブ・トラックならグルーヴとエナジーをもっとも大切にする。アルバムにおいては物語性を重視するよ。音楽が語り出して、聴き手を最後まで惹きつけていく、それが僕の目指すところだ。おそらく緊張感はそのために必要なんだ。ただし、リスナーに感情を押しつけるようなことはしたくない。むしろ自由に解釈できる余白を残しておきたい。

おそらく人は、いまでもダブステップを内向的でダークな音楽だと思っています。しかし、現実的にはダブステップは加速的に多様化しています。ダブステップの将来に関するあなたの意見を聞かせてください。

僕は最近は、ダブステップに関してはそれほど注意を払っていないんだ。だから将来については何とも言えないな。ただ、最近はとても多くの興味深いベース・ミュージックが出ているように思う。それらはどんなカテゴリーにも当てはまらない類のものだ。それは実に健康的なことだよ。そしてそこには多くの実験が繰り広げられている。本当に早く、再び、ことが動いているんだ。

 2562のセカンド・アルバム『アンバランス』を聴いていると、いちど売れてしまったことでなおさら彼のなかの欲望が増幅したことを感じる。今年彼がA Made Up Sound名義で出したシングルも良さそうなんだよな~。本当は、僕はシングル「Love In Outer Space」のB面が好きなのだ。アルバム未収録のその曲"Third Wave"は、はっきり言ってデトロイト・テクノそのもの、実に格好良く決まっている。

Jason Urick - ele-king

 エレクトロニカの〈カー・パーク〉から意外にもドローン系のエントリーだったWZTハーツからザムーンスティーリングプロジェクトの名義でもMP3などのリリースがあるリーダー格が解散後に初ソロ(オン・フィルモアと同じく、アナログ・オンリーかつパスワードでディジタル音源もゲットのパターン)。このタイトルでジョンとヨーコのジャケットをパロってるということは、やはりあれなのかなー......というのはともかく、どっちにしろ音には関係ないだろうし(?)、ゆらりふわりだらりなアンビエント・ドローンが4パターン。エマ・ウォルターズのハーモニカをフィーチャーした"ストライズ"は穏やかなうねりを基本に導入はなんとも甘美なブルーズ・ドローン。続く"レット・ゼア・ビー・ラヴ"はラ・モンテ・ヤングとヴァージン・プルーンズが合体したようなミニマル・ラーガの変り種で、実験性だけに落とし込まれない多様な効果を(スルメのように)内包している。Bサイドに移って、優美かつモーンフルな"ナショナル・トレジャー"は内省的なムードを物静かに促し(これがとにかく長い)、再びハーモニカを加えた"ジ・イターナル・リターン"では、かつてだったらジーザス&メリー・チェイン、いまだったらファック・ボタンズに匹敵するフィードバック・ノイズの乱反射がマイ・ブラッディ・ヴァレンタインをとことん弛緩させたような境地へと誘い出す。このイメージの壮大さはなかなかだし、タイトルもなるほどという感じ。もしかしてこの気迫で90'sを呼び寄せ、観念的な音楽のあり方を再びリヴァイヴァルさせてしまうかも? イエー。ボルチモアから。

Dinky - ele-king

  チリ出身(で、現在はNY在)のディンキーことアレハンドラ・イグレシアスの4作目。手法や雰囲気がどんどん変化していて、マシュー・ジョンスンのレーベルからはミニマルをメインにしつつ、南米の高地を思わせる乾いた民族音楽の破片が(南アのポータブルと同様)そこはかとなく、あるいはあからさまに散りばめられている。その処理の仕方に象徴的に顕れているように、彼女の音楽は非常に洗練され、新しい服に袖を通すような気分でさらさらと耳に入ってくる。潜水で泳いでいるような"ロマニクス"にはじまり、アルバム・タイトル曲ではデリック・メイを思わせる細かい音のループが冴え、ベイシック・チャンネルとカール・クレイグに影響されたというセンスもそのまま健在。ヴォーカルにアップデイツをフィーチャーした"ウエストイド"では頽廃的なムードを漂わせた『ブラック・キャバレー』(03)も鮮やかに甦る(音楽性に変化はあってもスタイリッシュという意味では一貫していたといえる)。元々、微妙な感性に訴えかけてきた人だけに、破片と破片が手を取り合って曲のイメージを押し上げている時にはその効果は無限大の威力を発揮する。ミニマルには、そして、ダパイク&パドバーグやトウアネなどファッショナブルなデザインの作品が多くなっている。それらはゲットーやそれに関心を持つ人たちではなく、明らかにスノッブな層を惹きつけようとしているし、実際、この辺りの音はクラブの外部にもじわじわと波及しているのだろう。リスニング・ミュージックとしても楽しまれてしかるべきというか。曲数がたくさん聴きたい人はCD、おっぱいの谷間が気になる人はアナログがお奨め(つーか、デザイン的には圧倒的に後者ですよね。トリミングが違うだけなんだけど、シャンデリアーズのセカンドとかついついデザイン・ワークで買ってしまいます......)

King Midas Sound - ele-king

 これは、ダブ好きには避けては通れない1枚。いつまでもルーツにしがみついているダブ好きではなく、時代とともに更新されていくダブを積極的に受け入れていくことができる、耳と心が広く開かれたリスナーにとってのマストな1枚である......とはいってもデッドビートなんかに比べればそれなりにルーツに敬意を払っているのだが......。
 キング・ミダス・サウンド(英語読みすれば、キング・マイダス・サウンド)はケヴィン・マーティン(ザ・バグ)と、作家であり詩人のロジャー・ロビンソンによるプロジェクトだ。作家といってもロジャー・ロビンソンのことなぞ僕は知らなかったけれど、調べてみるとなかなか興味深い男で、彼はロンドン在住のトリニダード系イギリス人で、詩人であり、作家であり、音楽家であり、パフォーマーで、イギリスのブックアワードにて「影響を与えた黒いイギリス人作家の50人」のひとりに選出されている。2001年に『Adventures in 3D』、2004年に『Suitcase』といった本を発表している。いわばディアスポラである。彼はシンガーとして、詩人として、アッティカ・ブルースのアルバムに参加したり、あるいはビーンズ(アンチ・ポップ・コンソーシアム)をゲストに迎えて自費でレコードを制作したりとか、地道に音楽活動を続けている。2001年にはテクノ・アニマルのシングルにも参加しているし、〈リフレックス〉から出たザ・バグのセカンド・アルバムにも参加している。2007年の『Box Of Dub』でキング・ミダス・サウンドを名乗る以前から、マーティンとはすでに顔見知りなのだ。
 そしてマーティンは、昨年のザ・バグの『ロンドン・ズー』によってこの20年の苦労が報われたというか、ようやく初めて大々的に評価された人で、だから彼のこのダブ・プロジェクトであるKMSを出すにはいまが最高に良い時期でもある。幸先の良いことに、KMSは昨年の最初のシングル「Cool Out」によってすでに好き者たちのあいだで評判となっていた。今年の夏前は〈ハイパーダブ〉からの2枚目のシングル「Dub Heavy ― Hearts & Ghosts」を発表して、ファンの期待をさらに煽っている。何よりもその重量級ベースラインの震動によって(挑戦してるんだろう、どこまで出せるか)。
 ヒット・シングルのタイトル曲"Cool Out"ではじまる待望のアルバムは、その立派なプロジェクト名とは裏腹に、亡霊のような音楽だ。風が吹き、霧雨が立ちこめるとき、真っ暗闇を歩いているような気分にさせてくれる。すべての輪郭がぼやけ、重低音が響いている。眼鏡を外して夜の散歩をしているような感覚だ。タイトル曲の"Waiting For You"はベストトラックのひとつで、いわば電子ノイズのシャワーが降り注ぐマッシヴ・アタックである。〈ハイパーダブ〉のコンピの1曲目に選ばれた"M eltdown"や"I Man"もキラーだ。アンドリュー・ウェザオールのゴシック趣味が暗い雨の日のカリブ海の路上で再現されたかのようである。"Goodbye Girl"ではトリッキーのパラノイヤが憑依したかのように、不気味なスペース・ダブを展開する。"Outer Space"は強烈なアフロビートが響くダンサブルな曲だが、最後から2番目のこの曲が流れる頃には、リスナーはすっかり動けなくなっているかもしれない。
 もしこのアルバムでひとつ大きな不満があるとしたら、ロビンソンの言葉が僕の英語力では理解できないということである。わかったらものっとハマれるんだろう。

Beak> - ele-king

 はははは、最高。1曲目の"Backwell"、思わず笑ってしまう、これはまったく......カンだ! 2曲目の"Pill"もカン。アルバムにヤッキ・リベツァイトが参加しているんじゃないか、と疑ってしまうほどだ。クラウトロックのポスト・パンク的解釈といえばPILが有名だが、3曲目の"Ham Green"や10曲目の"The Cornubia"はまさにそれ。4曲目の"I Know"はカンの"マザー・スカイ"そのもの......そしてこうしたクラウトロック・スタイルが見事に格好いいから始末が悪い。ザ・ホラーズのプロデュースもそうだったし、ポーティスヘッドの『サード』にもその影響を取り入れていたけど、ジェフ・バーロウによるソロ・プロジェクト、ビーク>は彼のクラウトロック趣味が爆発している。
 この3人組のバンドの他のメンバーは、ベーシストのビリー・フラー(Team Brick)、マルチ演奏家のマット・ウィリアムス(Fuzz Against Funk)。僕は彼らについてまったく知識がないけれど、とてもセンス良く、このミニマル・ロックの重要なパートとなっている。7分以上にもおよぶ"Battery Point"はアルバムのなかでもずば抜けて美しい曲で、厄介なほどドラマチックな曲でもある。ポーティスヘッドの面影を感じることもできるが、それもほんのわずか。次の曲"Iron Acton"になると、こんどはカンのベースラインにノイ!のモータリック・サウンドのお目見えとくる。電子ノイズが流れ、クラウス・ディンガーばりのドラムが疾走する。ザ・ホラーズの"Sea Within A Sea"で試みたことの焼き直しだが、こちらのほうが言葉はより不明瞭で、ぼんやりとしていて、大人っぽいと言えば大人っぽく......しかし、"Barrow Gurney"なんかは初期のクラスター(エレクトロニック・ドローン・ノイズ)だし......いったいバーロウという人は......。
 彼がポーティスヘッドの『サード』でやろうとしたことは、マッシヴ・アタックが『メザニーン』でやろうとしたこととある意味似ている。そこ意地悪いほど、時代の恐怖が描かれているのだ。最後から2番目の"Dundry Hill"や最後の曲"Flax Bourton"のドローンめいたダーク・アンビエントを聴いていると、昨年、『SNOOZER』でやらせてもらったバーロウに取材を思い出す。
 彼は反戦活動など個人的な政治活動を通して、むしろ孤独を感じているようだった。「僕が言いたいのは、『政府を粉々になるまでぶち壊してしまえ』ってこと。できればそうして、またはじめたほうがいい。現代社会ではもう何もかも、ちょっと手遅れなのかもしれない、もう行き過ぎてしまったのかもしれない、と思う。僕らは本当に慣らされてしまってる」――これがバーロウという人なのだろう。そういう意味で、ビーク>の異様な暗さとクラウトロックのアイデアを借りた疾走感との奇妙なバランスは、僕にはなかなか興味深いものに思える。とはいえ、僕のようにカンのカタログをすべて揃えているリスナーを困惑させるのは、冗談じゃないかと思えるほど、ベースとドラムがベタであるということ。繰り返すが、それがしかも見事に決まっているのである。
 そして、彼はそのときの取材でこうも言った。「もしブリストルから非商業的で、反逆的で、エクストリームなものが出てきたとしたら、僕は基本的に100%支持する。たとえ好きじゃなくても支持するね」、はい、ビーク>がまさにそれです。

RUMI - ele-king

 『Hell Me Tight』『Hell Me Why?』に続く、Hell Me三部作の最終章だという。ポップになった前作は踏襲され、詩の内容は、周囲から社会全体への批評性に富んだ前作をさらに深化させている。テーマはそうした批評性に加え、表題のNATONを冠した「RUMINATION」というタイトルがほのめかすとおり、MC、RUMIのアイデンティティ宣言が印象深い。
 はじめに急いで言っておきたいのだけれど、"RUM"Iだのヒップホップというカテゴリーやイメージを越えるようなものすごい名曲も複数含まれている!(詳しくはまたあとで)

 トラックはKaoru Miura、YOUICHI、DJ MARTIN、SKYFISHらが作り、SHINGO☆西成、MACDDY、漢をフィーチャーしたものもあり、スタンダードなヒップホップが中心だがバラエティに富んでいる。が、どの曲も、とくに歌詞がすばらしい。高校時代に音楽キャリアをスタートさせ、"OL生活"をしながら音楽活動をしてきたRUMIも三十路を越え(というフレーズもちゃんと出てくる)た。というわけでいま一度、音楽で生きて行くことを選びなおし、そういう自分はどんな人間であるのかを、シリアスさと茶目っ気の絶妙なバランスで告白している。

 前作がリリースされた04年というのは、終わったといわれた戦争が泥沼への一歩を踏み出し、国内では集団ヒステリーのような小泉フィーヴァー収まりやまず、戦場で誘拐された若者たちの"非国民ぶり"を政府もマスコミもあげて攻撃していたころだ。合言葉は「空気を呼んで勝ち馬に乗ろうぜ!」で、それが「熱意と能力」の必須条件だった。しかし時は過ぎ。
 当時のすべてが否定的評価を受けていよいよ政権交代が起きた"チェンジの秋"に新作をリリースする(制作はそれ以前である)ということはある種のリスクが伴うかもしれない。この数年、30代を中心に批判してきた日本社会のある面と、40代後半以降の逃げ切り世代が懐古し始めた社会像とのギャップが切なくも微妙な瞬間的共闘を結んだ結果にも見えるこの政権交代は、中期的にはともかく短期的には、昨年までの常套的な批判的言説を陳腐に感じさせるだろうから。
 けれども、RUMIの社会批評はその陳腐化をまったく免れた。
 「成果には報酬を」を一つ覚えにした小泉政権が確信犯的に推進した政策に疲弊した社会では、「真面目に働く人に人間らしい生活を!」という"要求"が最大の項目に成り果てている。ずいぶん謙虚な願いだ。「真面目に働かない人間にも人間らしい生活を! 真面目に働いたらそれ以上を!」と、それが20世紀の"先進国"がようやく到達したシュプレヒコールだったというのに。
 RUMIの宣言は、ある意味で00年代の"要求"を超えている。ハローワークの窓口で啖呵切ってるような「公共職業安定所」という曲では、「年齢制限越えてるけど心は19」だのと求人条件不適合の自分を売り込みながら、「ツアーに出るから長期休暇が必要」などとこっちから条件を突きつけはじめ、ついには「職安にないわ、私の職業」という結論にたどり着く。安定も儲けもない、未来なんて何も見えないけど、「限りない自由」だけを求めて、あたしはマイクを選ぶんだと宣言する。
 自己責任? そうじゃない。RUMIは社会にたくさんのことを要求する。社会が、自分のやり方、生き方で生き易いところになるようにたくさんのことを提案して、社会(の人たち)に変われば?、とアジってる。自由と引き換えに不安は引き受けるけど、それ以上のこと――たとえば空気を読んではみ出さないようにすることや他人の価値観を素直に受け入れることなんか――を強要されるのははっきりと拒絶する。それどころか、そんな生き方つまんないよと、「生きづらい」と縮こまる人たちを鼓舞して、巻き込んでいく。
 けれども彼女の煽りが素朴な「励ましソング」にはならないのは、彼女の自意識のクールさゆえだろう。「RUMINATION」というアルバム・テーマでもある自己認識、自意識への距離感がとても成熟している。

 子どもは生まれる場所、生きる場所を選ぶことは出来ない。どんな子どもも与えられた場所から生来的に生まれる苦痛を訴える。おとなになるということは、自分の立ち位置を自分で選びなおすことができるようになるということだ。経済的階層のことではなく、価値観というものを自分の意思で選んだという意識が人を大人にしていくのだと思う。自意識との対峙はその過程で試行錯誤され、自分にとっても周囲にとっても適正な距離感をとることができていくのではないか。その意味でRUMIの成熟はその可愛らしさにもかかわらず大人びている。分別ぶったり正論に屈したりするわけではなく、ポップと茶目っ気と他者への思いやりあるまなざしを発揮することで、結果的に自身を最大限に主張するといった巧妙さといえばいいのか。
 どの曲も捨てがたくリピートしたいが、「傑作!」と唸らされたのは"ゆけむり風呂ダクション"。妙齢の女が、妙齢ならではの疲れを癒しに行った風呂屋の大きな鏡の前でお腹をへこませたり、体重計に乗ったり、癒されたり文句言ったりしているんだが、スチャダラパーもかくやの多層なイマジネーションを喚起させる。
 もう字数制限を越えてるぞ、もう一つだけ、といわれたら"迷子"を挙げようと思う。自分で選んだ道でだって人は迷子になることがある。むしろ自分で選んだ道だからこそ迷うんだ。弱気にもなるし、引き受けたはずの不安や孤独だって放り出したくなることもある。そんな覚えのある女の子なら泣いちゃうよね。

Yo La Tengo - ele-king

 ele-kingにヨ・ラ・テンゴ。どうなんだという声がしそうだけど、まあ聴いてみてくれ。とくに10曲目から12曲目(オリジナル・アルバムのラスト3曲。日本盤にはそのあとにキャロル・キングのカヴァーを1曲収録)。

 ヨ・ラ・テンゴは1984年にアメリカはニュージャージーのホーボーケンで、現在は夫婦となったアイラ・カプラン(ギター、ヴォーカル)とジョージア・ハブレイ(ドラムス、ヴォーカル)によって結成されたバンド。途中でジェイムズ・マクニュー(ベース、ヴォーカル)が参加して現在に至る。不思議なバンド名はスペイン語で、英語だと「I got it」。

 1986年に『Ride The Tiger』でデビュー以来、本作で12作目となるオリジナル・アルバムは、まずはそのストレートなアルバム・タイトルが印象的だが――。

 ホーボーケンといえばdB'sを嚆矢とするパワーポップ・バンドの聖地として知られているが、ヨ・ラ・テンゴもその系統から大きく外れることはない。事実そういう曲がメインとなっている。が、しかしそれよりもむしろ当初からギター・ロック的な曲のフォーミュラを意識的に崩していこうとする意思を感じさせていたことのほうが僕には気になっていた。1993年に米インディの名門マタドールに移籍して発表した6枚目『Painful』からはその感覚はより露になり、ギターを中心としながらも、エレクトロを加味したことによる幻視的なサウンドを聴かせるようになる。そして1997年の『I Can Hear the Heart Beating as One』からはとくにその傾向が強くなり、以降のアルバムには必ず10分以上におよぶ幻想的な実験的トラックを収録してきた。前作である『I Am Not Afraid of You and I Will Beat Your Ass』(2006)では、長尺の「Pass The Hatchet...」は、なんとアルバムの冒頭に置かれているのだから恐れ入る。

 しかし、である。この新作『ポピュラー・ソングス』における後半3曲のトビぐあいは、これまでの彼らの試みと比べても、想像を絶するほどの展開を遂げている。この3年間に彼らに何があったのか?と訝ってしまうほど、この3曲(トータルで40分近い!!)の存在は奇跡としかいいようがない。この壮大なトリップ・アンビエント・シンフォニーは、彼らの集大成であると同時に、いきなりハイジャンプを決めてしまったようにも思える。エレクトロニクスかギターかという論議すらここでは無用だし、なによりここで鳴っているサウンドは、聴き手のココロに揺さぶりをかける。それは常に微笑みと等価だ。なんて幸福な音楽なんだろう。この素敵な音楽には、意外にもこんな普遍的なタイトルがふさわしいのかもね。もちろんこの3曲以外もいいです。ストリングスが入った曲とか特に。でもやっぱり最後の3曲が素晴らしすぎて......。

The XX - ele-king

 いま、UKで話題となっているティーンエイジャー(19歳だって?)4人組The XX(ザ・エックス・エックス)のデビュー・アルバムである。先行シングル(2枚)は聴いてないので、実はこれがぼくにとっての初XX体験。

 My Spaceなどから集めた情報を先に開陳しておこう。結成は2005年。ロミー・メイドリー・クロフト(ギター、ヴォーカル)とオリヴァー・シム(ベース、ヴォーカル)が、ホット・チップやフォー・テットを輩出したロンドンの高校でバンドを結成。ライヴを行うためにバリア・クレシ(キーボード)とジェイミー・スミス(トラックメイカー)が加わって現在の形に。もともと4人とも小学生からの知り合いだという。ドラマーがおらず、エンジニアとサンプル操作を担当するメンバーがいるところは現代的。

 レーベルはXL傘下の〈Young Turks〉で、今年になって2枚のシングル(「Crystalized」「Basic Space」......どちらもナイスなタイトル!)を発表。その後アルバムの制作に入るが、なんとここで当初起用されたというプロデューサーの名前を見て驚愕。ディプロ(M.I.A.など)とKwes.だって? それだけでもこのバンドにレーベルがかける情熱が感じられると思うが、しかし彼らはいち度はバンドとの作業に着手するものの、バンド側の納得いくものとならなかったというのだ。そこでこのアルバムは、バンドによるセルフ・プロデュースで完成されている。
 まずは隙間だらけの(よく言えば空間をうまく生かした)トラックが異様だが、このスペース感こそがこのバンドのカラーを決めている。リズムはサンプルっぽく、ギターとベースはあるけど一般的なクリシェっぽいフレーズはあまり感じられず、ギターにいたってはほとんど単音弾きで、むしろ効果音だ。そしてそこに、あまり抑揚のない男女のヴォーカルが絡む。

 直感的に連想されるのはヤング・マーブル・ジャイアンツとか「Faith」の頃のキュアとかで、暗くひんやりとした肌触りのサイケデリアではあるのだが、そこはたとえばディプロなどとの共同作業の経験も手伝っていることもあると思うけど、サウンドそのものにヒップホップやテクノ、ダブステップなどを存分に呼吸していることを感じさせるものがあって、彼らが現代のバンドであることを意識させる瞬間がいくつも用意されている。しかもそこには――誤解を恐れずに言えば――作り手の年齢を感じさせない成熟がある。が、さらに彼らをユニークな存在としているのはロミーとオリヴァーによる歌詞の内容かもしれない。「僕たちはスーパースターだ」(「VCR」)と嘯いてみたり、「君はさよならも言わずに去って行ったけれど/ぼくは君の瞳にそれを聞いたよ」(「Infinity」)とか「最初のデートで一線を引くけど/それを超えてもいいのよ/もう少し遅い時間になったら」(「Stars」)など――ティーンエイジャーらしい誇大妄想と甘さ! スカしたサウンドと軽く乖離しているところが、他のバンドにはない魅力のひとつなのではないかと思ったりもする。そこには80年代のサイケデリアには普遍的にあった「死」への幻想はない。しかし、だからといって手放しの陽性をひけらかすポジティヴィティとも違う。真昼間のぎらつく太陽と凍てつく深夜の月光の時の狭間にあって聴き手を篭絡する幻のような存在、次の瞬間にはおそらくまったく別の姿になってしまうような気がするけど、このアルバムの価値は変わらないだろう。

Flying Lotus - ele-king

 スティーヴ・エリソン、フライング・ロータスの名で知られるロスのトラックメイカーは、往々にしてJ・ディラ以降と位置づけられる(『ピッチフォーク』を参照)。が、本人がそれを歓迎している様子はない。たしかにエリソンは、神話化されはじめたデトロイトのトラックメイカーと違って、ダブステップやアンダーグラウンド・シーンとの太いパイプを持ち、その向こう側には広大なエレクトロニックな荒野も見渡せる。彼にとっての最高の影響がスヌープ・ドギー・ドッグの『ドギー・スタイル』(1993年)であろうと、彼の音楽は旧来のエクスペリメンタル・ヒップホップの領域のみならず、ダブステップはおろか、たとえばオウテカのアンビエントにまで拡張されているように思える。まずはこの幅広いアプローチにおいて、その活動領域において、彼はインスト・ヒップホップの最先端にいる。

 そして、その奇妙なハイブリッド感は、少なからず彼の育った環境によるものだと思える。「俺がヒッピーだって? そうさ、俺の連れの多くがビートニクのヴァイブを持ったヒッピーなんだよ」、エリソン、すなわちアリス・コルトレーンの甥は、『ガーディアン』がノー・エイジなど新しいLAシーンをレポートした記事のなかでこう語っている(2008年9月6日)。エリソンは続ける。「俺らはいま、経済と戦争の奇妙な移行期の真っ直中にいる。みんなが石けん箱を投げつけて、世間に向かって叫びたくなる時代なんだよ」

 彼の音楽が「世間に向かって叫ぶ」類のようなものかはわからないけれど、しかし、ロス・アンゲルスという街における独特の空気を彼が表現しようとしているのは、昨年のセカンド・アルバムのタイトルからもわかる。耳障りなビートが加速するかと思えば、それは空間に吸い込まれ、ゆったりとする。彼の特徴は、まるで静電気のようにパチパチと耳元で聴こえるノイズとスライドしてずれていくような、あるいは腐敗していくようなビートにあるが、それはラップトップの使い手とBボーイのあいだを往復するかのような感覚によって操られる。サイケデリックで実験的だが、しかしソウルフルでもある。そしてこれは、およそ10年前に同じ街でマッドリブがリサイクルしたソウルやファンクのループとは異なる、いまの時代における新たなムーヴメントの最良の部分なのだ。

 昨年の本当に素晴らしいアルバム、『ロス・アンジェルス』を発表後、スティーヴ・エリソンは、UKのダブステップ・シーンにおいていくつかの作品を発表している。ブリストルの〈テクトニック〉、ロンドンの〈ハイパーダブ〉や〈プラネット・ミュー〉、いまシーンでそれなりの力を持っているレーベルから、ファンの高まる期待に応える内容のトラックを提供している。そして『L.A. EP CD』は、昨年からこの夏にかけて彼が〈ワープ〉から発表した3枚のシングル(リミックスを含む)をまとめたものとなる。さすがに『ロス・アンジェルス』ほどの緊張感はないものの、リミキサーの人選もさることながら、このシーンの面白さがよくわかり、このジャンルの可能性を感じることができる好盤となった。リミキサーに関しては、まず彼の周辺で言えば、ラス・G、ノサジ・シング、サムアイヤ、イグザイルといった連中、ダブステップ系で言えば、ブレイケイジ、マーティン、クアトラ330......等々で、興味深いのはそれらリミックスがこのアンダーグラウンド・ミュージックをそれぞれの方向で拡張しようとしていることだ。例えば、マーティンはハウシーなダブステップに転換して、イグザイルのリミックスは〈プラグ・リサーチ〉流の歪んだ空間を創出するように。今年の夏にリリースされた3枚目「EP 3 X 3」の1曲目を飾ったディミライト――〈ソナー・コレクティヴ〉で作品を出している――によるポスト・ソウルのダウンテンポも相当面白かったけれど、そのシングルの最後を飾ったレベカー・ラフ(ビルド・アン・アーク:LAを拠点とするスピリチュアル・ジャズ集団)による美しいリミックスも印象的だった。ハープの音色を使って、アリス・コルトレーンへのオマージュとして"Auntie's Harp"を作りかえている。
 そういう意味で『L.A. EP CD』は、フライング・ロータス関係の15アーティストが参加したコンピレーションとしても楽しめる。新しいものに臆病にならなければ、やがて訪れる未来の兆候が聴こえるかもしれない。

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