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ele-kingにヨ・ラ・テンゴ。どうなんだという声がしそうだけど、まあ聴いてみてくれ。とくに10曲目から12曲目(オリジナル・アルバムのラスト3曲。日本盤にはそのあとにキャロル・キングのカヴァーを1曲収録)。
ヨ・ラ・テンゴは1984年にアメリカはニュージャージーのホーボーケンで、現在は夫婦となったアイラ・カプラン(ギター、ヴォーカル)とジョージア・ハブレイ(ドラムス、ヴォーカル)によって結成されたバンド。途中でジェイムズ・マクニュー(ベース、ヴォーカル)が参加して現在に至る。不思議なバンド名はスペイン語で、英語だと「I got it」。
1986年に『Ride The Tiger』でデビュー以来、本作で12作目となるオリジナル・アルバムは、まずはそのストレートなアルバム・タイトルが印象的だが――。
ホーボーケンといえばdB'sを嚆矢とするパワーポップ・バンドの聖地として知られているが、ヨ・ラ・テンゴもその系統から大きく外れることはない。事実そういう曲がメインとなっている。が、しかしそれよりもむしろ当初からギター・ロック的な曲のフォーミュラを意識的に崩していこうとする意思を感じさせていたことのほうが僕には気になっていた。1993年に米インディの名門マタドールに移籍して発表した6枚目『Painful』からはその感覚はより露になり、ギターを中心としながらも、エレクトロを加味したことによる幻視的なサウンドを聴かせるようになる。そして1997年の『I Can Hear the Heart Beating as One』からはとくにその傾向が強くなり、以降のアルバムには必ず10分以上におよぶ幻想的な実験的トラックを収録してきた。前作である『I Am Not Afraid of You and I Will Beat Your Ass』(2006)では、長尺の「Pass The Hatchet...」は、なんとアルバムの冒頭に置かれているのだから恐れ入る。
しかし、である。この新作『ポピュラー・ソングス』における後半3曲のトビぐあいは、これまでの彼らの試みと比べても、想像を絶するほどの展開を遂げている。この3年間に彼らに何があったのか?と訝ってしまうほど、この3曲(トータルで40分近い!!)の存在は奇跡としかいいようがない。この壮大なトリップ・アンビエント・シンフォニーは、彼らの集大成であると同時に、いきなりハイジャンプを決めてしまったようにも思える。エレクトロニクスかギターかという論議すらここでは無用だし、なによりここで鳴っているサウンドは、聴き手のココロに揺さぶりをかける。それは常に微笑みと等価だ。なんて幸福な音楽なんだろう。この素敵な音楽には、意外にもこんな普遍的なタイトルがふさわしいのかもね。もちろんこの3曲以外もいいです。ストリングスが入った曲とか特に。でもやっぱり最後の3曲が素晴らしすぎて......。
國枝志郎