Home > Reviews > Album Reviews > Yo La Tengo- Fade
私が高校時代のUSインディのイメージってのはもう本当にダサいもんでして。土臭くて、眼鏡かけちゃって、天然パーマで、帰宅一直線で、ネルシャツとジーパンでしょ、パンパンすると埃出ちゃうような。......にくらべて、キュアとかスミスとかスタイル・カウンシルとかジーザス&メリー・チェインとかアズテック・カメラとか、まあ! 輝いてましたわ! これぞスター! 最先端! ビバ英国! だったわけです。
結局その頃はアメリカのインディ・シーンの情報がまったく日本に入って来てなかっただけの話でして、実際にはソニック・ユースもスワンズもダイナソーJRも、さらにはバッド・ブレインズ、ブラック・フラッグ、マイナー・スレット、ミニットメンなどのハードコア勢も、その後訪れるオルタネイティヴ・ムーヴメントの源として地下でモシャモシャと動きはじめていたのですが、なのに地方のレコード屋で手に入る物と言ったらR,E.M.やらキャンパー・ヴァン・ベートーベンやらドリーム・シンジケートやらスミザリーンズやらレッツ・アクティヴや......って、もう! 全然前向きになんかなれない! 女の子にダビングするなんてこともちろん皆無だったわけです。そんなダメダメ・チームの若頭がヨ・ラ・テンゴでした。
名前も損してましたねぇ。英語じゃないし、テンゴって何だよ......って感じで。もちろん完全無視だったわけですが、のちのオルタナ爆発によってUSインディの歴史とか奥深さを知っていくうちにとんでもないことが起こっていたんだと。地下でがっちり育って繋がっていたんだと。本当にヤバかったのは帰宅部チーム。「普通の顔、普通の格好した人がいちばん怖い」......誰だったかの名言ですが、まさに等身大の音で、そのまんまの格好で、リスクなんて考えずに己の素を全部さらけ出す。やりたいことをやる。裸になる。その潔さ、馬鹿正直さ、そして確実に勘違いからも生まれた奇跡のセンスに溢れまくったアメリカ人に完全にノックアウトされちゃったんですね。だから成人式にも出なかったッスよ。プロム・パーティに出なかったであろうパイセンたちに習って......。
なーんてことを思い出しました。テンゴの新作を聴いてたら。あの頃のまんまー。全裸ですよ。4年ぶり14枚目の作品はジョン・マッケンタイア・プロデュースのソーマ・スタジオ録音。ロブ・マズレク、ジェフ・パーカーといったお馴染みのシカゴ勢も参加しており、ホーンとかストリングスが彩りを添えております。もちノイズ・ギターもガン! とかね。たしかにジョンマケっぽいなぁ〜と。質感はシー&ケイクとかアルミナム・グループとか、あとティーンエイジ・ファンクラブの『マン-メイド』とかね。透明感溢れながらタイト&クール。蒼い夜空から星屑がカリコリとぶつかりながら舞い降りては、優しく柔らかく足下に積もっていって。3人のハーモニーによるオープニング曲「ohm」だけでもうニンマリ。
また、前作では15分を越えるナンバーも収められていましたが、今作は全体的にコンパクトな内容で(10曲45分!)、雰囲気は大好きな『アンド・ゼン・ナッシング・ターンド・イットセルフ・インサイド-アウト』に近いでしょうか。だからどっちかというと地味なサイドになるのかな。でももちろん彼らはそれらを意図的にやっているのでなくて、そのとき、その場の彼らにとっていちばんナチュラルな音、演りたい音、そして聴きたい音を作っているだけ。それが毎度のことなんだけれど、私たちはいつも新しい彼らの音楽、つまりは彼らがいま考えていること、楽しんでいること、感じていることを一緒に味わいたいと思っていると。テンゴは安定じゃなくて安心です。いまを一緒に呼吸しているだけでこんな素敵な気持ちになれちゃう。裸をさらけ出した続けた結果、なんとも奇妙でおかしなアーティストとリスナーの関係が生まれちゃったなァ〜とつくづく思って、嬉しくって、ねぇ。
もう15年も前にインタヴューさせてもらったんですが、ジョージアはニヤニヤと赤ら顔でずっと缶ビールを手放さなくて、ありゃ、完全に帰ってくれない親戚のババアだな......とチョッと怖かったんですが、2年ほど前に会ったときもまったく同じでした。ちょっとシワは増えてたけど、それはこっちもおんなじ。これからもどうぞよろしくお願いします。私もフルチンでずっと御一緒します。
小林英樹