Home > Reviews > Album Reviews > Kid Cudi- Man on The Moon:The End of Day
「Cause Day n Nite / the Lonely Stoner Seems to Free His Mind at Nite / He's All Alone Through the Day n Nite / the Lonely Loner Seems to Free His Mind at Nite / at at at Nite(そう、昼も夜も/孤独なストーナーは夜に解き放たれる/いつだって独りぼっち、昼も夜も/孤独な狼は夜に解き放たれる/夜に、夜に、夜に)」("Day n Nite"より)。ダンス・ポップとアーバン・ミュージックの結び付きがより一層強くなった09年、その最悪の結果がThe Black Eyed Peasの"I Gotta Feeling"だとしたら、最高の成果はKid Cudiの"Day n Nite"だと言えるだろう。そのヒットに続き、Cudiが自身のレーベル〈Dream On〉とKanye Westの〈G.O.O.D.〉とのダブル・ネームでリリースするファースト・フルレンス『Man on The Moon:The End of Day』は、キッズが、ナンパでもしようとクラブに出かけたはいいが、爆音でかかり続けるイーブン・キックとEしか持ち合わせていないプッシャーにうんざりして、ひとり部屋に帰ってジョイントを吸いながら自己嫌悪と自己憐憫に浸って聴くのにぴったりのアルバムだ。そのサウンドは、彼がナイーヴな心をタイトなファッションで包んでいるように、エレクトロを取り入れてはいるものの、リリックは至ってコンシャスである。しかし、それはレイト80sの外向きなそれではなく、レイト00s仕様の内向きなコンシャスネスだ。
Kid CudiことScott Ramon Seguro Mescudiは84年、オハイオ州はクリーヴランドで生まれた。子供の頃から変わり者と呼ばれ、地元に馴染めず、20歳で大学をドロップ・アウトした後は、当時、00年代のソーホーと呼ばれ盛り上がりはじめていたブルックリンに移住、本格的に音楽活動を開始した。08年夏、A BATHING APEニューヨーク店のスタッフとして働きながら制作したミックス・テープ『A Kid Named Cudi』が、OutcastやN.E.R.D.、J-Dillaのビートを使ったスタイリッシュさで評判を呼び、Kanye『 target="_blank"』やJAY-Z『Blue Print 3』に参加、『GQ』誌ではLil WayneがサポートするDrakeやMark RonsonがサポートするWaleと共に09年度版「Men of the Year」に選出され、新たなコンシャス・ラップ・ムーヴメントを起こすに至った。こうして満を持してリリースされる『Man on The Moon』は、COMMONを水先案内人として、幼い頃に体験した父の死をきっかけに、月=自室に籠もってストーンしながら地球=世界をぼんやりと眺めているだけになってしまった内気な青年が、ゆっくりと重い腰を上げるまでを、"日没""恐怖""幻覚""躓き""出発"の5部に渡って描いている。
Kanyeは勿論、ホーム・グラウンドのブルックリンからあのギター・デュオ、RATATATまでが参加、彼等が手掛けたシンセサイザーが渦を巻くビートの上で、サイケデリックなライムを歌も交えながら紡いでいくこの作品は、USでは「ヒップホップ・ヴァージョンの『Tommy』、あるいは『The Dark Side of the Moon』」と称されており、それは、約10年前にANTICON等がアンダーグラウンドで試していたことが、長い時間をかけてゆっくりとポップ・フィールドにまで辿り着いた事を思わせる、来る10年代のヒップホップである。
磯部 涼