「Dom」と一致するもの

Detroit Report - ele-king

 UR/タイムラインのメンバー、ジョン・ディクソンのインタヴューはサブマージでおこなわれた。ソファーに座り、出されたコーヒーを飲みながら展示物の書籍や機材を眺めていると、エントランスの扉が閉開する音が幾度となく聞こえてくる。アーティストやその家族などさまざまな人が出入りしている。この日も上映されていた"Protecting My Hiv"のPVに混じって、子供のはしゃぐ声が聞こえてきた。
 サブマージの内部は小さな博物館のようになっている。そこにはデトロイト・テクノの歴史が展示されている(そのなかには、『ele-king』と『ブラック・マシン・ミュージック』も!)。マイク・バンクスは日本から来た私に片っ端から話してくれた。エレクトリック・ファイン・モジョにはじまり、ケン・コリアーのDJがデラーノ・スミス、ジェフ・ミルズやデリック・メイに与えた影響がどれほどのものだったのか。建物のなかには、URが深い影響を与えたインディアンのジェロニモやとブルー・スリーの写真もある。マイク・バンクスが資金集めのためやっていた路上カーレースの写真、TR-808、TR-909などの機材なども飾られている。
 マイク・バンクスはガラスの向こうにある、レコードのカッティング・マシンの前で立ち止まり、故「ロン・マーフィー」について説明する。周知のように、デトロイト・テクノにおけるカッティング技師だ。マーフィーは、2001年の『デトロイト・メトロ・タイムズ』で、「カッティングっていうのは音楽というよりも、レコードへの愛だよ」とその想いを語っている。マーフィーが自身で改造を繰り返し使用していたこのマシンは、彼以外誰も扱うことができない。主人を亡くした寂しげなグルーヴ・マシンはまた溝を刻める日を待ちわびているようだった。

 タイムラインは7年前にリリースした「Return of the Dragons」を最後に、当時のライムライトを残しつつ息を潜めていた。しかし、2011年にメンバーも入れ変わり、新生タイムラインとして「The Greystone Ballroom」をリリース。4曲収録されたそのEPではジャズやフュージョン、エレクトロなどの要素が交ざり合い、次のステージのはじまりを予感させてくれる。それから約2年の時を経て、この秋に新しいEPがリリースされる。
 わたしが知る限り、デトロイトのアーティストは「怒って」いた。世の中にだったり、音楽業界にだったり、理由はそれぞれだが、感情が剥き出しの自身と合わせ鏡のようなそのサウンドは、言葉よりも強烈に問いかけてきた。そんななかでジョン・ディクソンは、まるで清流のようだった。ただただ音楽を楽しんでいる。前作ではタイムラインfeat.ジョン・ディクソン&デシャーン・ジョーンズとなっていたが、今作はそんな若手ふたりが中心メンバーとなっている。新しい世代の彼らは、これからどんな時間の軸を紡いでいくのだろうか。

 今回「デトロイト・レポート」として、ジェイ・ダニエル、バックパック・ミュージック・フェスティヴァルのオーガナイザー、ジョン・ディクソンへのインタヴューをおこなったが、共通して言えこと事は、彼らが意識的に次の世代への繋がりをつくっているということだ。この業界の年齢層が全体的に上がってきているいま、この先も音楽を楽しみたいなら、こうした行動を「意識的」にやることは、無意識に自分を助けることになるのかもしれない。

 この日、ジョン・ディクソンとデシャーン・ジョーンズは、平日のランチタイムに音楽を聞こうというコンセプトの元、Campus Martius Parkで開かれたライヴに出演して、サブマージに戻ってきたところだった。

マイク・バンクスから電話がきて、「世界中を廻って音楽をしたいなら、月曜の16時に来い。もしその気がないなら他をあたるけど、どうする?」って言われたんだ。「月曜16時に訪ねるよ」って答えたんだ。約束の日にマイク・バンクスを訪ねていくと、キーボードの前に座らせられて「なんか弾いてみろ」って言われてキーボードを弾いた。

生まれはデトロイトですか?

ジョン・ディクソン(JD):生まれも育ちもデトロイトだよ。デトロイト西部、シティ空港の近くで育ったんだ。現在はプライヴェート機用の空港になっているところだね。学校もデトロイトだったよ。

あなたの音楽のルーツは何ですか? 

JD:音楽の影響というのが、どれほど凄いものか多くの人が理解しきれていないと思うほど、僕のルーツにとって、いままで体験してきた音楽の影響が重要なものだと考えてるんだ。僕の両親はどちらも楽器を演奏しているし、彼らの膨大なレコードのコレクションは最高なんだ。いろんな音楽が詰まっていて、ジャズ、ハービー・ハンコックからマーヴィン・ゲイら多くのヴォーカリスト、モータウンなどを持ってた。僕が生まれる前からすでに音楽の影響を受けてたんだと思う。他にもいろんなジャンルを聴いて、自分が音楽をはじめるずっと前から、いつも周りに音楽が溢れている環境で育った。すべてがいまの僕の音楽の土台になってると思う。

昔からテクノは好きでしたか?

JD:昔はあまりテクノのことは知らなかったんだ。テクノと出会ったのは1996~1997年の中学校の時代だね。毎週金曜にラジオでよくデトロイト・テクノが流れてて、その頃自分の持ってた小さなラジオとテープレコーダーでラジオを録音しては自分のミックステープを作ってたりしたんだ。他には、「Detroit Jit」って番組があって、それを録音しては翌日友だちとお互いのミックステープを聴かせ合ったりしてたよ。テクノに出会ったのはその時期だね。当時はよくローラースケートもしてたね。ホアン・アトキンスやサイボトロンを聴いて、その流れを感じながらローラースケートしてたんだ。自分にとってのテクノ・ミュージックとの出会いのなかでも大きな存在だった。

初めてテクノを聴いたときの印象はどうでしたか?

JD:とっても気分がよかったんだ。サウンドはさらに良かった。心地が良くて、いいサウンドのパーフェクトなコンビネーションで、最高の気分でローラースケートをしてたのを覚えてるよ。デトロイト出身のミュージシャンはたくさんいるんだけど、彼らの音楽のサウンドの良さと、彼らがサウンドに込めるエモーションで、聴いている僕らの気分も最高にしてくれる。

あなたは子供の頃から楽器を弾いていたのでしょうか?

JD:4歳から弾いてたよ。初めてのキーボードを持ったのが4歳のとき。父親は仕事に出ていて、家では母親が洗濯、家事をしているときにレコードをかけてたんだ。キーボードをレコードの側でよく弾いてたよ。レコードにあわせて弾こうとしたりね。それを見ていた父親がヤマハのキーボードを買ってくれたんだ。それからはドラム、トランペットも弾いてたころもあるよ。いろんな楽器を弾いてたね。

どうやってURに出会ったのでしょうか?

JD:サックスのデシャーン・ジョーンズとは兄弟みないた仲なんだ。彼がある日ダウンタウンのジャズ・クラブでサックスを演奏するのを観に行ったことがあった。その日、URのコーネリアス・ハリスがデシャーン・ジョーンズに、あるバンドで演奏しないかってアプローチしてきて。そのときはそのバンドの詳細はあまり聞かなかったらしくて、デシャーン・ジョーンズが僕に「おまえ、アンダーグラウンド・レジスタンスって知ってるか? ギャラクシー2ギャラクシーって知ってるか?」って尋ねてきたんだ。僕もそのときはバンドのことを知らなくて。デシャーン・ジョーンズが言うには、そのバンドが公演を前にキーボード奏者も探していると。それで、じゃあ僕に連絡をとるように彼に話したんだ。
 そうしたら翌日マイク・バンクスから電話がきて、「世界中を廻って音楽をしたいなら、月曜の16時に来い。もしその気がないなら他をあたるけど、どうする?」って言われたんだ。「月曜16時に訪ねるよ」って答えたんだ。約束の日にマイク・バンクスを訪ねていくと、キーボードの前に座らせられて「なんか弾いてみろ」って言われてキーボードを弾いた。それでマイクが「マネジャーに、おまえのパスポート申請するように言っといた」って返事をもらって。2週間後にはスイスのモントルーにバンドと一緒にいたね。人生が変わった瞬間だったよ 2007年のことだったね。

サックスのデシャーン・ジョーンズとは同世代?

JD:デシャーン・ジョーンズは僕より4歳年下なんだ。僕はいま29歳、彼は25歳だね。とても気が合うんだ。彼との出会いは2003年。僕の友人が「ラスベガスから新しい子が街に来たらしいんだけど、高校生でサックス吹いてて、すごい上手いんだよ。絶対彼のサックスを聴きにいかなきゃ!」って話してたんだ。「高校生のサックスを聴きにいくのか?」って最初思ってたんだけど、彼の演奏をきいて、すぐに彼の才能を感じとったよ。彼のポテンシャルはとても大きいものだったけど、彼には彼の先生となる存在がいなかった。才能を開花させ、導びいてくれる人がいなかったんだ。だからその後僕らは──彼が高校、僕が大学だったんだけど、学校が終わったら、僕の家で何時間も演奏した。音楽のアイディアを交換し合ったり、音楽へのアプローチ、とにかくいろいろ語りあったんだ。こうしてお互い築いた関係から、一緒に演奏するときは彼が演奏をはじめれば、彼が何をしようとしてるのか、求めてるのか、言われなくても想像がつくようになった。僕らの相性、言葉を交わさなくてもお互いのことが感じ取れる仲になった。ライヴ中も言葉を交わさずにお互いの音が引き合ってひとつのものになってくのをオーディエンスは感じ取れると思うよ。僕にとっては弟みたいな存在なんだ。

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いまはタイムラインに集中しているよ。新しいEPもリリースするから。それともうひとつは、自分自身のレーベル〈Forever Forward〉。このレーベルはジャズやエレクトロニックミュージックが主なんだけど、それと同時に僕自身の音楽的なものが凄く表れていると思うよ。

URとタイムラインではキーボードを担当していますが、他の楽器を演奏したりもしますか?

JD:演奏するよ。タイムラインの体制は僕自身がまずキーボード、デシャーン・ジョーンズがサックスとイーウィと小さいキーボード、マイク・バンクスもキーボード、DJ CONSPIRACY、彼はDJとサンプリングも担当している。僕らのタイムラインのライヴは回ごとに違うんだ。デシャーン・ジョーンズと僕のバックグラウンドの音、ジャズやフュージョンの生音を取り込んだり、マイクも生演奏するからその音を取込んでDJのプレイとひとつのものを作り上げてくんだ。DJプレイだけではなくてライヴを体感してもらえるようなセットだ。即興的なものも多くて、金曜のライヴと、次の日の土曜のライヴとは全く違うものになってるんだ。それはオーディエンスのエナジーが僕らのライブの一要素だからふたつと同じものにならない。東京のオーディエンスからのエナジーをもらったライヴと、神戸のオーディエンスのエナジーでのライヴが違うものになるようにね。ひとつひとつの演奏がユニークなんだ。

学生相手に音楽の授業をしていたと思うのですが、あれは大学生相手でしょうか?

JD:そう、授業をしてたよ。最年少は9歳の子供たちから最年長は86歳。自分のスタジオで、プライヴェート・レッスンもしている。一学期に50人から60人の生徒に教えてるよ。クラシックからジャズ、R&B、ブルース、エレクトロニック・ミュージックを制作している生徒は自分の曲を持ってきて、僕がそのアプローチや、僕の意見などを話したりするんだ。ハープを演奏する生徒もいるんだ。彼女はいろんなアプローチを学びたくてレッスンを受けにきているよ。

なぜ音楽を教えているの?

JD:その質問をきいてもらえて嬉しいよ。僕自身の先生となる人はマークとマイク。双方から言われたのは、学んだことを教えることのできる存在になれと。音楽を通して出会うことできる喜びや発見した道を、今度は他の人たち(生徒)に標してあげるんだと。こうして自分が音楽のなかに見つけた人生の喜びを生徒に教えることがとても嬉しい。毎学期、生徒は音楽のなかにいろんなものを発見して、喜びを感じるといってくるんだ。音楽をはじめるには年齢は関係ないと思うんだ。もうはじめるのには遅いなんでことは決して無いと思うんだよ。マイクがデシャーン・ジョーンズや僕らを導いてくれたように、次世代を僕らが導く、この繰り返しが続いていくんだ。デトロイトはメンターシップがとても強いんだ。次世代に教えるため、多くの人が自分の経験や学んだことを惜しまずにすべて与えようとする精神がとても強い場所なんだ。

音楽の授業ってベーシックな授業しかないから、さまざまなジャンルに触れ合える授業があればいいのになと思っていました。

JD:ここデトロイトは、ミュージシャンも人びとも音楽に対して寛容なんだ。将来僕がやりたいのはもっとワークショップを開くこと。もっと若者がエレクトロニック・ミュージックに出会える機会を増やすこと。マイク・ハッカビーがある機関のワークショップで音楽制作を教えていた。カイル・ホールも生徒のひとりだった。マイクがカイル・ホールの先生でもあるんだよ。カイル・ホールは僕の気が合う友人のひとりで、僕も彼に教えていたこともあるんだ。こうして音楽に対しておのおの道を拓いていって、また次世代に教える。こうしてデトロイトでは引き継がれてゆくんだ。生徒たちが音楽に対して寛容で、さまざまなことを受け入れて感じ取れる視野を身につけてゆく。身につけた広い視野で、さらに新しい発見をしたり学んだりしていくんだ。

学生にはどのジャンルの音楽が人気なのでしょうか?

JD:デトロイトは、とっても音楽が溢れてる街だ。僕自身もそのときの気分でジャズを聴いたり、テクノを聴いたりする。ブルースを聴いたり、ロックを聴いたり、ヒップホップを聴いたり。デトロイトの魅力のひとつにひとつのジャンルだけではなく、どのジャンルもとってもいいものが生まれてるということ。新しい〈Forever Forward〉というHi-Tech Jazzのレーベルも近年立ち上げる。自分のジャズのルーツにエレクトロニック・ミュージックを融合させていこうと思っているんだ。

あなたの目から見て、デトロイトの子供たちの音楽に対する状況はどうですか?

JD:現状は決していいものとは言えないね。公立の学校では音楽の授業が廃止になって音楽に接する機会がなくなったり。だけど、校外で受けられる音楽のクラスがデトロイトにあるのはとてもデトロイトにとってポジティヴなものだとおもう。学校で授業がなくても、こうして音楽のプログラムに参加する生徒が毎年増えているんだ。音楽がどれだけデトロイトでは大きな存在なのかを再認識させられたよ。子供たちが音楽をもっと学びたいときに学べる環境を与えられるようになってほしい。

子供たちにテクノは人気なの?

JD:正直にいうと、、それはどうかなと思う。でも将来は人気になる可能性はあるよ。いろいろな学校で音楽を教えてるし、僕とデシャーン・ジョーンズなんかはワークショップをするときに自分たちの自己紹介をするんだけど、僕たちの起源はジャズにあって、そこからはじまっていまURで試みていることとか、ホアン・アトキンスやデリック・メイなんかが成し得たことなんかも話したりしているしね。

URやタイムラインのライヴで演奏するとき、大切にしていることがあれば教えてください。

JD:まず第一には、僕たちはみんなに踊ってもらうことをとても大切に考えてるよ。ときどきそのことを忘れちゃうこともあるけど、基本はみんなが踊って楽しめるダンス・ミュージックだってことをいちばんに考えてるね。そしてふたつめは、僕たち自身がステージの上で楽しむこと。みんなが踊り続けて、僕たちも楽しみながら演奏する。そして、僕たちはそこに何か新しいアイデアを盛り込んでいけるようにする。毎回毎回が新しく新鮮であるように、いろいろな方法を試したり、何か違うことにトライしている。キーターを使ったり、ライヴがもっともっとよくなってみんなに楽しんでもらえるように、これからも新しいことに挑戦し続けていきたいね。

今後自分の曲をリリースしたりすることも考えている? 他にもこれからやりたいこととか目標とかあれば聞かせてください。

JD:いまはタイムラインに集中しているよ。新しいEPもリリースするから。それともうひとつは、自分自身のレーベル〈Forever Forward〉。このレーベルはジャズやエレクトロニックミュージックが主なんだけど、それと同時に僕自身の音楽的なものが凄く表れていると思うよ。時が進むなかで僕の感じたことだったり、振り返ったり、前をみたり、現在僕のなかで起こってるいろいろなことを含んでいる気がするね。あとはやっぱり、若い子に限らずだけど、デトロイトで音楽がもっとみんなに身近なものになってほしいと思う。もちろんデトロイトには多くのネガティヴな問題があるけど、それでも音楽のシーンは絶対に死なないと僕は思う。いまでも力強くたくさんの才能ある人たちがデトロイトから生まれてきているし、これからも僕は年齢問わず多くの人に音楽を教えて、みんなにきっかけを与えていけたらと思っている。マークやマイクが僕にそうしてくれたようにね。間違った道に進みそうなとき、「君なら出来るって」、そんなふうに少しでもいい方向へ道しるべが出来たらなって思う。これからもUR、タイムラインとしていい音楽を世界中に発信していくのはもちろんだけど、こういった活動もずっと続けていきたいね。

新しく出るEPについて詳細を教えていただけますか?

JD:次に出るEPは3曲収録される予定なんだけど、メインは"new step forward"って曲だね。今回はとりわけ僕とデシャーン・ジョーンズが多くの責任を与えられて取り組んだんだけど、エレクロニック・ミュージックのネクストレベルっていうか、全体を通して、何か新しい次の段階っていうのを意識しているかな。"High Tech Jazz" の未来形って表現するとわかりやすいと思うんだけど、他とは異なった、先の考えみたいなものを表現したいと思っている。今回は僕にとってのタイムラインとしての二番目のEPになるんだけど、前回とはまた少し違った作品に仕上がってるんじゃないかな。
 日本のみんなはいつも本当にすばらしくて、音楽に対してもとても寛容でいてくれてる気がする。僕に限らずデトロイトのアーティストはみんな本当に日本が大好きで、僕もまた早く日本でライヴをしたいと思っているよ。とっても日本が恋しいね。次のEPもみんなが楽しんでくれることを願っているよ。

Disclosure / AlunaGeorge - ele-king

 「ヤバい、ヤバい」と、うしろの女の子グループが興奮しているのが聴こえる。隣の男の子は、最初から体を激しく揺さぶったままだ。僕も負けじと体を動かす。ちょっと前の方に、XXYYXXのトートバッグをぶら下げた男の子がブチ上がってるのが見える。そのうしろの、上品にめかし込んだシティ・ガールも控えめながらも体でビートを感じている。いい感じだ。
 ディスクロージャーがハウス色に染め上げた空間に、再びアルーナが登場する。"White Noise"だ。当然、プレイが期待され、また予期もされていたナンバーだが、フロアはこの夜の最高潮を迎えた。ジャスト・ノイズ、ホワイト・ノイズ、ジャスト・ノイズ、ホワイト・ノイズ......、本当にいい夜だった。特にディスクロージャーのパフォーマンスは、〈FUJI ROCK FESTIVAL '13〉におけるThe XXとともに、いま、UKのポップ界で何が起きているかを見せつける素晴らしい内容だったのではないだろうか。

 思えば大学時代、仙台市の図書館で『ブラック・マシン・ミュージック』(河出書房新社)を読んだ僕は、以来、ハウスという音楽を、どこか秘密の地下帝国にのみ存在する架空の音楽としてそのイメージを闇雲に膨らませてきた。同時期に手に取ったフランキー・ナックルズの偉大なるクラシックスに魅了されなかったわけではない。この本──言うまでもなく、ポスト・ファンク期においてディスコがいかに嫌われ、笑われ、軽蔑され、そしてそれがハウス・ミュージックへと「潜る」ことによってアンダーグラウンドでいかに延命したかを、緻密なリファレンスとロマン主義的な筆致で描いた古典──のなかで前景化される、若き黒人たち──主に同性愛者たち──の物語は、意識のレベルで僕を排除するにはあまりにディープ過ぎたのだ。
 一方のこの日、恵比寿の〈LIQUIDROOM〉には、なにか特定のフィルタリングを施される前の、所属クラスターの異なる人たちの奇妙な融和があった。ひと言で、ちょっとしたカオスだったと言ってもいい。開演を待つあいだ、どこからか「ディスクロージャーを聴いてるのがどういう人たちか、まったく想像できないんだよねー」という声が聞こえ、そこで「たしかに」と思ったのは、実際、フロアに集まった人たちに統一感というものがなかったからで、みんなめかし込んでハウスとR&Bを渇望してきたのか、と思えば、すぐ前の男の子グループはなぜか血気盛んにラモーンズの話をしているし、予定を20分押してアルーナジョージが登場すると、ギャル風のグループから「カワイイー!」の声が上がる。僕はいい場所に来たな、と思った。

 アルーナジョージのライヴは"Just A Touch"で幕を開けた。〈トライ・アングル〉からのEP「You Know You Like It」のB面に収録された、ファンにとってはずいぶん思い入れのあるナンバーだ。アルーナは、ハイスクールものの海外ドラマから出てきたヒロイン(の親友)のような奔放さと無邪気さを残しつつも、人を誘うような、挑発するような眼差しを振りまいていて大変に危険だった。頭部の容積はおそろしく小さく、ウエスト周辺には怪しい曲線が走っている。ジョージは終始クールだ。サポートでドラムとベースが入っている。が、ベースが少し物足りない(終盤、"Lost And Found"でもう一歩、盛り上がっていなかったのはそのせいだろうか)。
 遅すぎず速すぎず、『Body Music』で披露したミドル・テンポのR&Bでフロアを揺らし続けた。セットリストとしては、中盤を"You Know You Like It"で盛り上げ、ラストを"Your Drums Your Love"で締める、という、フロアの期待に正面から応える、サービス精神旺盛な40分程度の内容だった。目立った変調操作もなく、アルーナの声が地であの甘ったるさを持っているのには驚いたが、インターネット・インディ出身だけあり、ライヴでの空間の使い方にはまだまだ向上の余地があるように思えた。

 ディスクロージャーは、転換のイントロダクションを経て、準備運動もなく"F For You"をドロップ。ライブのセッティングもこの曲のヴィデオそのまんまで、左右対称に構えたふたりの手からは、4/4で刻まれるイーブンなキック、そこにまとわりつくベースライン、細かく刻まれるハイハット、乱舞するパーカッション、スペーシーなシンセの音色、、、が放たれた。このふたりは、じらしたり勿体ぶるといったことをしなかった。BPMを落としたのも、ラストの"Latch"に繋ぐ流れくらいで、あとはほとんど上げっぱなし。
 それもそうか、と言うのは、いまやインターネット世代であれば、フランキー・ナックルズや、ケリー・チャンドラーのような大御所からジェイミー・XX、ジェイムス・ブレイク、ローレル・ヘイローまでもが出演経験のあるストリーミング・パーティ・サイト、「BOILER ROOM」なんかで手軽にクラブ気分を味わえるわけだから、その手軽さと皮膚感覚的に同期していた、というか、持ち時間の都合もあったのだろうが、1分でいかに人を魅了できるか、という時間感覚のなかでハウスをやっていたような気がする。
 それがいいことか悪いことかはわからない。少なくとも、「2013年、我が家のコレクションが流行の最先端になってしまった......」などと言ってとぼけていた『ブラック・マシン・ミュージック』の著者であれば、小言のひとつやふたつ、残したことだろう。それは、歴史のトレースがポップの最前線に躍り出るようになった、ゼロ年代以降のひとつのヴァリエーションとして見ることもできる。おそらく、現象としてはそれ以上でも以下でもない......。ところが、ディスクロージャーときたら、何の躊躇もなくそこに全乗りするのだ。彼らのホワイト・マシン・ミュージックは実に浮ついていて、洒落っ気があって、セクシーであると同時に、とても清潔だ。そこには、良くも悪くも、音楽しかない。

 では、今日のUKインディ界は、ハウス・ミュージックで何をどうセレブレートしているか? あの日、〈LIQUIDROOM〉にいた人ならば、多くの人がこう答えるだろうのではないか。「ハウスという音楽がこの世に存在していること、そのものを」と。「ははは、それはあまりにベタというか、阿呆やねえ」と、あなたは笑うだろうか。いずれにしても、選択肢は最初からふたつしかないのだから。そこにハウスのビートがあったときに、あなたは踊るのか、それとも踊らないのか、それだけだ。しかしまあ、我ながら、まさか自分がこんなことを言うようになるとは思わなかった。しかしたしかに、そういう夜だったのだ、9月24日という日は。

Juan Atkins & Moritz von Oswald - ele-king

 お店でCDで買おうとしたら、「何でアナログ盤じゃないんですか」と、先日デトロイトに行って来たmeiさんに「ダメでしょう、そんなじゃあ」と、厳しい口調で言われたが、彼女の突っ込みは一理ある。ダブプレート&マスタリングは、いまや世界的にもっとも優れたカッティング技術を保有している。どこにでもあるアナログ盤ではない。アートワークも渋いしな。
 が、結果的に自分はCDで良かった。夏前のリリースだから3か月遅れのレヴューになるが、夏のあいだ僕はこの繰り返しの音楽を繰り返し聴いた。CDは再生が楽だからという怠惰な理由も否めないのだが、繰り返し聴ける新譜に出会えることは素晴らしい。
 20年前からのリスナー諸氏と同様、僕も20年前の、ベルリンとデトロイトのふたりの巨匠(+トーマス・フェルマン)が作り、同じくベルリンの〈トレゾア〉からリリースされた『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』を聴き返した。『ボーダーランド』とどちらが好きかと問われれば、迷うことなく『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』を挙げるが、『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』がホアン・アトキンスにとってのベストかと問われればそうは思わないと答える。それでは『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』が凡作かと問われれば、違うと即答する。そして、『ボーダーランド』が凡作かと訊かれれば、いや、これもやはり良い作品だと言う。
 『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』には、テクノは次にどこに進めばいいのかという議論における明快な回答があった。「ジャズ」とはメタファーである。それは、快楽主義に支配された当時としては、実に思い切った、時代の大きな流れに逆らうメタファーとして機能した。その後に続いたのが"ハイテック・ジャズ"で、つまり『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』は、気持ち良いこと(4/4キックドラム)以上に大切なことがこの世にはあるんだという声明でもあった。

 ところが、『ボーダーランド』は気持ち良すぎる。アルバムにおける最高のトラックは"Electric Garden"だが、コズミックな質感の、流れるように滑らかなシンセのリフは、間違いなくホアン・アトキンスによるものだろうし、空間に広がる音響とダブのベースラインはモーリッツ・フォン・オズワルドによるものだろう。リズムはシンプルで、『ジャズ・イズ・ア・ティーチャー』時代に比べてずいぶんと大人しい。シャカシャカ鳴っていたハットやスネアはなりを潜め、柔らかい音色のメトロノーミックなリズムが淡々と刻まれている。20年分のソフィスティケイション。彼らも僕も20年、歳を重ねたのである。
 "Electric Dub"も"Footprints"も、リズミックで、控え目ながらキラーな低周波が唸っているが、やかましさというものがない。音量をいくら上げても、Kポップのようにうるさくない。押しつけがましさがない。グルーヴはあっても、アゲアゲにならない。そこが、20年分の人生がもたらすソフィスティケイションの素晴らしさだ。"Mars Garden"のリズムは、ホアン・アトキンスだろう。いわゆるエレクトロ・ファンクのリズムだ。が、この響きはマントロニクスよりもイーノの側に近い。聴いているとうっかり寝てしまう。そして起きたら、今度はモーリッツ・フォン・オズワルド・トリオの新作がロンドンの〈オネスト・ジョンズ〉からリリースされていた。この12インチにもホアン・アトキンスは参加している。『ボーダーランド』のいわばダブ・ヴァージョンで、その続編以外の何ものでもない。

 竹内正太郎がハウスで踊っているのは、僕にとってグッド・ニュースだ。あの、北関東の堅物が......、そういえば先日は僕も〈プラネット・E〉から出たテレンス・パーカーの12インチ(しかもリミックスはルイ・ヴェガ)を「何も変わってないナー」と思いながら買ってしまった。「ハウス来てんナー」と思いながら。とはいえ、20年以上も前から僕はUKのメインストリームのダンス・カルチャーがどうにも口に合わない。80年代のUKでは「あー、気持ちいい、やっぱ気持ちいいのが最高だよね~」と踊った子供たちのことをサッチャー・チルドレンと呼んだものだが、少なからず自分にもそういうところがあったので、竹内正太郎をまったく責められないよな......。

interview with SHO (Plasticzooms) - ele-king


PLASTICZOOMS
CRITICAL FACTOR

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 プラスティックズームスのフロントマン、SHOには大きな借りがある。出会いは2010年。大学を中退したばかりの僕は、気分を晴らすためにますます音楽に没頭していた。失ったものの穴を埋めるために必死だったし、いろんなライヴハウスに通った。しかし、やりたいことは定まらず、時間だけが過ぎていった。ライヴハウスに知り合いはいなかったし、常に不安で、孤独だった。
 そんなときに唯一話しかけてくれたのがプラスティックズームスのSHOだった。スタイル・バンド・トーキョーのイヴェントでDJを終えた彼に、僕は自分がライヴ・イヴェントをやりたいことや音楽に関わりたい気持ちなどを素直に話した。彼は純粋な笑顔で、僕に「絶対に出来るよ。なんでも力になるし、僕でよければ手伝うからさ」と言ってくれた。
 あれから3年が経った。僕は去年、初めて自分のイヴェントを開いた。少しずつだが音楽の現場に関わる機会も増えてきた。そして今回は、取材という形で、SHOへの感謝を伝える機会も得た
 3枚目のニュー・アルバム、『クリティカル・ファクター』がリリースされる。レーベルは七尾旅人や前野健太、やけのはらや快速東京などのリリースで知られる〈フェリシティ〉。
 プラスティックズームスのダークウェイブを参照したスタイリッシュでアグレッシヴなサウンドは、ボー・ニンゲンやサヴェージズとも通じるところがある。いまっぽい音なのだ。が、とはいえ、このバンドにはロマン主義があって、それは、1枚目のアルバム『チャーム』の頃から、SHOの優しさのように変わらない。

 高校時代、僕は教師にどうして髮を染めてはいけないのかきちんと説明して欲しいと詰め寄ったことがある。教師は「それが決りだから」とだけ言い残して、教室から出て行った......そして僕はジョイ・ディヴィジョンの『アンノウン・プレジャー』をTシャツを着るようになった。
 ゴシックは、たとえば19世紀末、西欧が近代化を果たしたときに盛り上がっている。電気と機械が生活のなかで普及し、店の照明や街灯によって夜でも世界は明るくなった。そうした変化に違和感を覚えた人は、暗闇や不合理な世界のほうを向いた。ゴシックは、新しい技術や明るさの氾濫のなかで息詰まる人たちの逃げ場だった。ポストパンク時代にゴシックが流行ったことも、インターネットと明るさに翻弄されている現代にゴスの妖しい炎が燃えることも理解しがたい話ではない。ファッショは、マルコム・マクラレンが言うように、つまはじき者たちが変身するための術なのだ。真っ黒な服装に身を包んで、取材場所にもばっちりメイクをして登場したSHOに、彼のゴシック精神について訊いた。

いやもうボコボコだし、ヤンキーのバイクに敷かれたりしましたね(笑)。そういうのは余裕でありました。自分が好きなファッションをしたりパンクを聴くっていうのはある種自分を守ることでもあったんです。

えー、なぜいまゴスなのかっていうところからお話を伺いたいんですけども。

SHO:なるほど、そこですか。

野田:僕なんかはゴス、リアル・タイムだったんだけど、かれこれ30年も昔の話で、だからなんでいまゴスなの? 僕もそこがすごく気になるんですよね。

SHO:はじまりはゴスじゃなくって70's パンクだったんですけどね。中学のときに70's パンクに触れて、80'sハード・コアだったり、ニューウェイヴにハマってゴシックにたどり着きました。でもいまはゴシックも通り越したと僕は思ってます。
 ファッションに関してはそのトータルが黒に繋がったっていう感じです。実際その質問よくされるんですけど、ゴシックのあの雰囲気が自分の性格に合うんです。ファッションにしてもデザイン性が高いし、そういう繊細な部分が自分にフィットするんですよね。

どういうきっかけで70's パンクに出会ったんですか?

SHO:これに関しては親ですね。僕の親がレコードで、ビートルズとかキンクスとかプレスリーなど、いわゆるオールディーズと呼ばれるものもよく家で流れていたんです。他にもクラシックだったりジャズだったり。その反発でもないんですけど、小学生のときにバスケットボールをやってた影響で80~90年代のヒップホップを聴きはじめたんです。で、それのまた反発でパンクに目覚めました(笑)。

一同:(笑)。

野田:でも、オッド・フューチャーとかも、ちょっとゴスっぽいしな。

ちなみにヒップ・ホップってなにを聴かれてたんですか?

SHO:なんでも聴いてましたよ。ランDMCも聴いたし、ビースティー・ボーイズとか。バスケットボールの選手とかがラップをやってたりもしたんで、シャキール・オニールとか。

サウンドもスタイルも全然違うじゃないですか?

SHO:全っ然違う。

パンクに関してはどこにいちばん魅力を感じましたか? サウンドですか? スタイルですか?

SHO:どっちもですね。

野田:いちばん好きなバンドってなんですか?

SHO:うーん、いちばん好きなのか......

野田:じゃあ3つで(笑)。

SHO:えっと、バズコックス、あとは......、たくさんいるんだよなー(笑)

野田:バズコックスはどの時代が好き? ピート・シェリー? それともハワード・デヴォード?

SHO:『シングルズ・ゴーイング・ステディ』が好きで。ピート・シェリーも好きなんですけど、"テレフォン・オペレーター"が特別好きって感じです。ネオン・ハーツとかザ・マッドとかも好きですね。ザ・マッドはスクリーミンング・マッド・ジョージっていうニューヨークで特殊メイクやってる人がやってたバンドなんですけど。でも、音楽とファッションを一緒に考えるきっかけを与えてくれたのはセックス・ピストルズ。マルコム・マクラレンの仕掛けかたとか。ヤバいなと思いました。

野田:ピストルズっていろんなものが詰め込まれていたからね......。彼らのなかで、いちばんピンときたファッションってなに?

SHO:デストロイのガーゼ・シャツですね。基本的に76年のセディショナリーズが好きです。

それって何年の話ですか?

SHO:何年だろ? 中1だから......

野田:完全に変な人だよね。

SHO:僕それで町追い出されたんですよ。

野田:それは追い出す町が間違ってるよ。

SHO:町で問題になってるって母親から聞かされたときはびっくりしましたね。子供に悪影響だからって理由で追い出されたんですよ。

野田:どこですか?

SHO:水戸の下のほうの町です。中学のときはずっとそういう格好をしてましたね。でも高校は転入して通信行ってたので服装も自由だったんでやりたい放題やってました。安全ピンたくさんつけたり、メイクもして。キャット・ウーマンの髪型したり。西暦でいったら2000年の頃とかですかね。

友だちはいました?

SHO:中学の頃はほぼいないです。ひとり暮らしをはじめてからは水戸のパンク軍団と知り合いましたけれど。でもそんな友だちのこと考えたことないです。実際、つい2~3年まえまで誰も信用してませんでしたからね。
 自分は独りで死んでいくんだって思ってました。作るっていう作業を死ぬ準備だと思ってましたね。やっぱり作品を作っていくと同時にいろんな人が集まってくるじゃないですか、自分を必要としてくれる人だったり。でも僕は必要としてくれるっていうところに意識がなかなかいかなくて、むしろそこに偽善みたいなものを見いだしてしまっていたんですけど、今回のアルバムは初めてそこがクリアになった状態で作れた作品なんです。

野田:音楽性なんかは全然違うけど、アウサイダーっていう点では、君は下津君(踊ってばかりの国)のゴシック・ヴァージョンだね!

SHO:ああ!

野田:そんなの格好で地元を歩いてたらオラオラ系とかヤンキーに絡まれたでしょ?

SHO:いやもうボコボコだし、ヤンキーのバイクに敷かれたりしましたね(笑)。そういうのは余裕でありました。

でもそんなことされて、なおさらそこにとどまることって難しいですよね?

SHO:自分が好きなファッションをしたりパンクを聴くっていうのはある種自分を守ることでもあったんです。僕、自分にジンクスを作る癖があったんですよ。とにかくこうじゃないとダメとか、自分はこれじゃないと自分じゃないみたいなものを作りやすい人間だったんで、たぶんそれが自分を変えない理由で、ここまでこういう風にきた理由なんだと思います。でもひとりで追求するのが好きだったんで、レコード掘ったり、画を描いたりしてました。でもそれはいまも変わらないかな。

ずっと洋楽を聴かれていたんですか?

SHO:ずっと洋楽なんですよね。スーパーとかでかかってたJ-POPとかは自然に耳に入って来てしまいますけれど(笑)。

日本でいま自分たちと似てるなぁと思ったり、なにかしらシンパシーを感じるバンドっていますか?

SHO:ザ・ノーヴェンバーズとリリーズ・アンド・リメインズですね。あとはもう解散してしまったんですけどサイサリアサイサリスサイケとか。あとパープル。サイサリアサイサリスサイケのトオル君とかはいまでも注目してます。あとボー・ニンゲン。ボー・ニンゲンのメンバーもかっこいいなと思います。それこそさっき名前が出た踊ってばかりの国の下津君だったりとかね。

いま挙げてくださった人たちのどういう部分にいちばん惹かれますか?

SHO:まっすぐなところ。そこでしかないです。自分もそうでしかないと思っているし、見ためというよりはその人の目、ですね。僕絶対に人の目を見るようにしてるんですけど、実際ファッションってごまかせるじゃないですか、でもファッショに見合う目をしてたらそれは本物だと思うし、それに似合う音楽をやって、トータルでバランスをとれてる人に魅力を感じるし、僕はそういう人が好きです。いま挙げた人たちは全員そういう人たちだと思います。日本人にはあんまりいないなって思いますけどね。僕そういう意味で安全地帯とかすごい好きですけどね(笑)。

野田:いまのは聞かなかったことにしとこう(笑)。

一同:(笑)

SHO:初めて聴いたときとか超ニューウェイヴじゃん! って思いましたけどね。あとウィンクとか、カイリー・ミノーグのカヴァーですし。リリーズのケント君とそういう会話良くします。

野田:日本の音楽が聴けないんじゃなくて、日本の文化のある部分がすごい嫌で遠ざけてしまうみたいな感じはわかるけどね。自分もそうだったから。

SHO:いまは理解していますよ。プラスティックズームスが英詞な理由なんかも日本人のコンプレックスとかじゃなくて、ただ自分が作った曲に合うのが英語だっただけで、とくにそこに理由なんてないんです。

これから作っていく曲で、日本語に合うサウンドが出来たら詞は日本語っていう場合もありますか?

SHO:かもしれないですね。僕やっぱりほとんどのJ-POPはかっこいいと思えないし、かっこいいと思えるもの以外はやらないですけどね。

野田:だけど、白い人たちの多くはこういうことを言うのね、「黄色い人がロックな服装で英語で歌うのだけはやめてくれ」って。俺らが歌舞伎をやってたらお前らもおかしいと思うだろ? って。そういうことを言われても英語で歌う?

SHO:歌う。僕の価値観でいうと、逆に外人が歌舞伎やってたら美しいと思うもん。

野田:それはいい見解だね(笑)。

SHO:僕は黒人が歌舞伎やってても美しいと思いますけどね。それがたとえ下手でも、その人が好きな気持ちを表現したいものであれば美しいと思います。まぁでもそれをお金とか汚い誘惑のためにやったらダメですけどね。

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実は僕ビーナス・エキセントリックっていうブランドを持ってるんですけど、テーマがブリクサなんですよ。僕、ニック・ケイヴも好きだし、バースデイ・パーティのギターのローランド・S・ハワードも大好きです。スージー・スーとかはファッション的にも影響受けてますね。


PLASTICZOOMS
CRITICAL FACTOR

felicity

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プラスティックズームスとしては、リスナーにどんなことを提示したいですか?

SHO:これは最近ようやく人と交わるなかで見つけたことなんですけど、とにかく自分を持って欲しいなって思います。自分が良いって思えばそれでいいじゃんっていう。日本人は流されやすすぎると思うんです。

流されるっていうのは具体的にどういうことですか?

SHO:誰かがやったからやる、だったり、誰かが良いって言ってたから良い、みたいな。自分で確認はしたの? っていう。そこを明確に生きて欲しいですけどね。僕はプラスティックズームスをパイオニアだと思ってて、音楽とファッションを同列で捉えてこんなことやってる人って実際いないから。まぁでも実際ものすごく孤独ですけどね(笑)。

SHOさんにとってのファッションっていうものを言葉で説明するとしたらそれはなんですか?

SHO:僕です(笑)。

一同:(笑)。

野田:電車とか乗ってたらみんなから見られるでしょ?

SHO:もうすごいですよ。だからいつもサングラスしてるんです。絡まれるので。実はこの下にもメイクしてるんですけどね(サングラスを外してメイクを見せる)

野田:ああ、本当だ!

SHO:出かけるときは必ずメイクしますね。

野田:70年代や80年代って、いまだったら白い目で見られるようなファッション、みんな平気でしていたけど、最近は、バンドやってる子も当たり障りのないファッションをしてるからね。目立っちゃいけないみたいなね。その点、ゴスやコスプレとか、がんばってるよ(笑)。めちゃくちゃ気合いの入ったB-BOYとかね。

SHO:かっこいいし、すごいって思いますよね。それこそボー・ニンゲンのメンバー全員を見たときに「マジでかっこいいな!!」って思いましたからね!

ハハハハ。

SHO:だって普通じゃ考えられない髮の長さじゃないですか。 だから逆にヴィジュアル系とかって言われると本当に嫌ですけどね。そう見えてしまう意味がわからない。最悪な気分です。

野田:ヴィジュアル系もあの姿のままで街を歩いてるんだったらかっこいいと思うんんだけどな。

SHO:でも基本的に違いますよ(笑)。普段ギャル男みたいな人多いじゃないですか。

野田:SHO君はゴスだったら何がいちばん好き?

SHO:実は僕ビーナス・エキセントリックっていうブランドを持ってるんですけど、テーマがブリクサなんですよ(アイテムを見せる)。

野田:ブリクサって、若い頃、ほとんどアイドルだったんだよ。女の子が「キャー! ブリクサ!」みたいな感じで。

SHO:イケメンすぎますよね。僕、ニック・ケイヴも好きだし、バースデイ・パーティのギターのローランド・S・ハワードも大好きです。スージー・スーとかはファッション的にも影響受けてますね。

最近ではサヴェージズも好きなんですよね?

SHO:大好き! 7インチが出たときすぐにファイル・アンダー(名古屋のレコード・ショップ)に連絡しましたもん! それ、ちなみにいま額に入れて部屋に飾ってます(笑)。IPSO FACTOと並べて。

最近聴いたバンドのなかでいちばんのお気に入りってなんですか?

SHO:なんだろうなぁ~......。

野田:遮ってごめん。ねぇマリリン・マンソンはどう?

SHO:嫌い。

野田:なんで?

SHO:嘘くさい。

野田:『シザー・ハンズ』は好きでしょ?

SHO:大好き! 観ると絶対泣いちゃいます。

野田:あれは誰でも泣くよ(笑)。

SHO:最初のシーンからやばいですもん!

野田:ウィノナ・ライダーが『ビートル・ジュース』で黒い服で出てくるじゃない? あれなんかまさにゴスだよね。

SHO:僕あれに憧れて女優帽被ってます。『キス』っていう漫画知ってます?

野田:ごめん、それは知らないな。

SHO:楠本まきさんっていう漫画家さんが描いてらっしゃる漫画なんですけど、男の子がストロベリー・スウィッチブレイドみたいな格好してるし(漫画をみせる)、キュアーとかが漫画のなかでかかってるんですよ。このあいだこの漫画のヴィデオを手に入れたんですけど、割礼とかさかなが音楽を担当してたり本当にすごいんですよ!

野田:ホントにストロベリー・スウィッチブレイドだ(笑)!

SHO:この漫画に出てくるバンドの名前でこのまえイヴェントを開いたんですが、そしたら作家の楠本まきさんとコンタクトがとれて。感動です。

今日、SHOさんの話を聞いていろんな経験をされてることを初めて知りました。このインタヴューを読む人のなかに、同じとまでは言いませんが、似たような境遇のなかを生きてる人もいるかもしれません。そんな人にこの場を借りて言いたいことなどがあれば是非お願いします。

SHO:生きてるってことは独りじゃないってことですね。あと自分から外に出ること、それと......

野田:...... ねぇ、また遮ってしまって申し訳ないんだけど、ボーイ・ジョージは好き?

SHO:あ、はい(笑)

野田:キュアーは?

SHO:大好き。

野田:ゴスじゃないんだけど、アソシエイツは?

SHO:それは知りません。

野田:聴いたほうがいい。

SHO:帰ったらすぐ聴きます!

野田:えっとごめん、続きをどうぞ(笑)。

SHO:はい(笑)。これは自分への言葉でもあるんですけど、逃げちゃだめで、とにかく自分の道を自分で切り開く勇気を持つことですね。勇気を持つには努力が必要ですよね。努力を惜しまないことが重要だと思います。絶対逃げちゃ駄目です。

新しいアルバム『クリティカル・ファクター』のサウンドにも、SHOさんの堅固な"ブレない姿勢"みたいなものを感じたのですが、実際に、今作はどんなところにいちばんフォーカスしましたか?

SHO:感情的っていうところをとにかく意識しました。ありのままの自分を音に落とし込んだり、それはリリックもそうなんですけど、実際、こんなに感情的になった作品はないです。理性よりも本能で作りました。

5曲めの"SAKURA"と、7曲めの"AV△W"が所謂インストですが、それはそうした曲作りからの影響だったりしますか?

SHO:僕は歌だと思って出来上がりをレーベルに持ってたんですけど、インストですか? って言われて、そこではじめて気がつきました(笑)。このふたつはいろんなバランスを考えて入れましたね。全部言葉だと疲れちゃうんで。

もちろん全部の曲に思い入れがあると思いますが、今作における、SHOさんが思う重要な曲をひとつだけ選ぶとしたらそれはなんですか?

SHO:"PARADE"ですかね。

それはどうしてですか?

SHO:PLASTICZOOMSの今後に繋がる曲だからです。作ったときの達成感もコレ迄でいちばん大きかったです。あともうひとつ、"CRACK"っていう曲もかな。これは自分で抱えてたジンクスみたいなものを全て取っ払えた曲なので。無になれたというか、この曲が出来てすべてがクリアになった気がします。

アルバムのタイトルにはどんな意味を込めましたか?

SHO:喜怒哀楽ですかね。それがもっとも重要な要素です。

今後試してみたいサウンドとか、やってみたいことって具体的にありますか?

SHO:サウンドはいまも今後も自分を越えて進化していくと思います。音楽の他には画を描いたり、映像を撮ったりとかいろいろですね。実は"PARADE""CRACK"のMVは僕が編集したんです。

SHOさんにとって音楽はひとつの表現で、他との差みたいなものってありますか?

SHO:ありませんね。全部同じ。僕はとにかく頭のなかにあるものを外に出して表現したいんです。自分が出来ることすべてで自分が生きてるってことを表現したいですね。

野田:普通の仕事とかってしたことあります?

SHO:高校生の頃は早朝のファミレスで働いてました。あとお花屋さん。理由は髮の色を明るくてもよかったからと店の前にレコード屋さんがあったから(笑)。東京に来てからは専門学校に入ったり、バンドをはじめたりでやってないんですけど。そもそもプラスティックズームスを結成したきっかけが、ANNA SUIが学校に来て、「自分がいちばん得意なことを仕事にしろ」って話たんです。その言葉に感銘を受けましたね。

バンドを続けるのも大変じゃないですか?

SHO:大変です。バンドは大変なんだなってつくづく思いました(笑)。

野田:昔の自分みたいな子たちがライヴに集まってきたりしますか?

SHO:ライヴに来た子で僕を見てバンドをはじめたって子がいたんです。凄く嬉しかったです。ファッションに関しては、女の子が真似てくれているのかなって感じはします。自分にもそういうアイコンがいたんで素直に嬉しいですよね。ジョニー・ロットンとかスージー・スーとか。

野田:SHO君に集まってくる子とかけっこうな異端児でしょう?

SHO:だと思います。だからなんか似てると思うし、繋がりみたいなものをすごく感じますけどね。メンバーもスタッフも。

野田:80年代は流行だったからみんな黒かったけど、いまは違うからね。黒い人は珍しいじゃない。

SHO:もう宿命ですよね。体験したかったですけどね、80年代!

野田:いや、そんな良いものでもないよ(笑)。だいたい、いまゴスやってるほうがよほど勇気いるでしょう。がんばってね。

SHO:はい、サブカルで終わらせないようにがんばります。

野田:ハハハハ。

(このあたりで、菊地、SHOとの間の思い出が蘇り、感極まって、涙腺ゆるんでしまう)

SHO:大丈夫?

......は、はい......

野田:なんか、いろいろ思い出しちゃったんだね。

昔、すごく励まされたことがあって......この場をお借りしてSHO君にあのときのお礼を言いたいんです。あのときSHO君が声を掛けてくれて僕本当に救われました。今日こうしてお会い出来たことが本当に嬉しいです...。

SHO:僕も嬉しいよ。インタヴュアーが決まったとき「やった!」って思ったし、あのとき話したこととかちゃんと覚えてるよ。お互いとにかく必死だったもんね。こういう瞬間はさっきの話じゃないけど、生きててよかったって思える。今日は本当にありがとうね。

こちらこそありがとうございました......

野田:なんか、いろいろあったんだね。

SHO:そうなんですよね......

なんか急にすいませんでした。では、最後に、SHOさんの最大の目標をお聞かせください。

SHO:自分がやってることを世界に発信して、とにかくそれを受け入れてくれる人を増やすってことですね。だからこそまずは日本から。僕は日本で暮らしているので。

目印はtofubeatsのいい顔 - ele-king

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第一特集 ディストピア世界で笑おう

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☆飯田一史×海猫沢めろん
☆ディストピア・ディスクガイド 40
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第二特集 ポップ↔アート↔ミュージック

インタヴュー
☆オノ・ヨーコ
☆卯城竜太(Chim↑Pom)
☆蓮沼執太

巻頭フォトギャラリー
☆塩田正幸

特別対談
☆保坂和志×湯浅学

第三特集
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「光と闇がそなわり最強に見えるレヴューV2 ~どうやってベストセラーだって証拠だよ!~」
第二回 70年後の君へ 『進撃の巨人 Before the fall』

☆人気の連載陣
西村ツチカ、磯部涼、山本精一、二木信、tomad


interview with Austra - ele-king

 ケイティとマヤ。アウストラにおいてはふたりの女性が曲作りとバンド自体のコアを成している。男女比1:2で6人の男女が絡まるアーティスト写真には艶っぽい魅力があるが、もともとギャラクシーというライオットガール・バンドに在籍していたという彼女らは、どちらかといえば硬派、ゴリゴリの女系グループである("ホーム"のMVにおいては、ライアン・ウォンシアクが女装させられている)。そのことは、彼女たちの音楽を理解する上で大事な要素のひとつだ。バンド名も「光の女神」に由来しているくらいである。


Austra
Olympia

Domino / ホステス

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 先月セカンド・アルバムを発表したエレクトロポップ・バンド、アウストラは、トロントで結成され、そもそもはケイティとマヤがベースにドリアンを迎えるかたちの3人組としてスタートしている。2011年のデビュー・アルバム『フィール・イット・ブレイク』で脚光を浴び、活動の幅をワールド・ワイドに広げた。
 折しも同郷のグライムスがブレイクするタイミングであり、クラシック・ミュージックの高度な専門教育をバックボーンに持つような女性トラック・メイカーたちが、奔放に斬新にポップ・ソングをデザインし、どんどんと存在感を増していった時期だ。ジュリア・ホルターやジュリアナ・バーウィックのようにハイカルチャーへと突き抜けるような個性もあれば、ゾラ・ジーザスなどのようにゴシックな世界観やオペラ的な方法を展開するウイッチたち、マリア・ミネルヴァやローレル・ヘイローなど秀才型のIDM、そしてグライムスやグラッサーなどウィスパリングなドリーム・ポップなどなどが競い咲くシーンのなかで、アウストラのデビュー作はゾラ・ジーザス寄りのグライムスとでもいうべき象限に浮上してきた作品だった。ダークウェイヴのムードにも合流し、サイケデリックなジャケットのイメージも相俟って、わりととんがった女性ユニット/バンドとして存在感を放っていたように記憶している。

 セカンド・アルバムは装いも新たにリリースされた。ファーストの性格を良く言って「実験的」、悪く言って「生硬」だとするならば、今作は両者がするっと取れたグラマラスなポップ・アルバムになっている。これは、バンドにとって歓迎すべき変化ではないかと思う。エイティーズ・マナーなディスコ・ナンバーを中心にプロダクションも格段に洗練され、愛聴できる曲が増えた。バック・コーラスとキーボードを加えた6人編成となったことで安定感とダイナミズムも生まれている。確実にステージを上げ、良質なポップスとしてキリっとした輪郭が備わったと言えるだろう。それに、総じてのびのびと制作されているように見える。『フィール・イット・ブレイク』において奇妙なピアノやヴォーカリゼーションとなってポップスの枠を逸脱していこうとするケイティの情熱。その勢いを削ぐことなく、かつ曲の理性として働いているマヤのドラミング。それらがやっとしっくりと自らを収めるべきフォームに収まったという印象だ。この変化はジャケットのアートワークにも象徴的に表れている。

 一方で彼女たちのストレートでこそあれスマートではない表現欲求も減速していない。「彼女をあたためる代わりに/わたしたちは火を起こす/火そのものになる」("ファイア")......聴く者に効率よく快楽を与えるよりは、自らが快となり楽となること自体に意義を見出す、そう読み替えたくなるような熱源の思考が、彼女の風変わりなフレージングによく表れている。その熱はたとえばミューズに捧げられ("アニー(オー・ミューズ、ユー)")、あるいはアウストラ――光の女神へと捧げられているのだろう。思いは過剰にあふれて楽曲に凹凸を作ってしまう。ジョルジオ・モロダーからシカゴ・ハウスまで意識されているようだが、どこかそうした凹凸のためにダンス・ミュージックとしてはビートがおぼこくなるのが感じられるだろう。それが彼女たちの音楽の特質であり愛すべきところでもある。
 また、エレクトロ・ポップ・アルバムという性格を持ちつつも、トム・エルムハースト(ファックト・アップなど)をプロデューサーに起用したり、何かといえば生楽器とバンド編成にこだわるところなどは、彼女たちのロック・バンドとして出自やそれへの矜持とともに、火や光へ寄せる彼女ら独特の敬意の示し方を表しているのかもしれない。

 今回メール・インタヴューに応じてくれたのはマヤ・ポステップスキー。当初ケイティに宛てた質問だったこともあり回答を得られなかった質問が多いのは少し悔やまれる。

ティーンエイジャーのときはスパイス・ガールズにハマっていたの。それがわたしのポップ・カルチャーにおけるいちばんの冒険だったかも。でもすぐに飽きちゃった。あ、あとアンジェリーナ・ジョリーが大好きだったわ。

子どものころはポップスにあまり興味がなかったのですか?

マヤ:あったわよ、毎日ウォークマンで聴いてたわ。当時のわたしの持ち物のなかでいちばん重要な財産だったわ。いまでも持ってるけど少し壊れちゃった。わたしのお気に入りの音楽は、両親がディナー・パーティーを開くときにお父さんが作ってたミックス・テープで、ティナ・ターナー、ブライアン・フェリー、デヴィッド・ボウイ、クイーン、グレース・ジョーンズ、レッド・ツェッペリン、ロキシー・ミュージックとか入ってたわ。未だにどのアーティストも大好きだし、わたしの音楽性は彼らから強く影響されているわ。

テレビやポップ・カルチャー全般への興味はどうでしょう?

マヤ:小さいころ長時間テレビを観ることを禁止されてたの。でもピングーにかなりハマっていたわ。いまでも朝食の時間にたまに見るのよ。ティーンエイジャーのときはスパイス・ガールズにハマっていたの。それがわたしのポップ・カルチャーにおけるいちばんの冒険だったかも。でもすぐに飽きちゃった。あ、あとアンジェリーナ・ジョリーが大好きだったわ。

学校で専門に音楽教育を受けておられるのですか? 学校ではどのような分野を修められたのか、どのような学校生活を送られたのか、教えてください。

マヤ:小さいころからずっと音楽を演奏していたわ。4歳からピアノをはじめて、ずっと勉強しながらテストを受けたりコンペに出てたわ。
パーカッションと出会ったのは9歳のときで、美術学校に通っていて専攻を決めなきゃいけなかったの。ダンスも演劇もアートも好きじゃなかったから、そのときはまったくパーカッションがなんなのかわからないまま消去法で選んだの。けれど、自分のドラム・スティックをもらった瞬間に完全に心を奪われたわ。それからオーケストラでパーカッションを演奏したいと真剣に思いはじめてきて、すごい勉強してトロント大学に入ったの。そこでパーカッションの学士をとったのよ。
学校ではクラシック・パーカッションを学んだわ、それでオーケストラに入りたかったの。でも他にも世界のパーカッションを勉強したわ、バリのガムランや和太鼓、ガーナのドラムやダンスもね。とくに和太鼓がいちばんわたしに影響を与えたわ。いまだに好きだし、ドラムの演奏の仕方やドラムの音についての考え方が本当に変わったの。

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フェミニストだからとか必ずしも政治的であるからという理由では音楽はつくらないけど、そういう考えはいつでもわたしたちのなかにあるし、内面の深いところの一部なのよ。

クラシックの素養があり、先鋭的なエレクトロニック・ミュージックを制作する宅録型の女性アーティストがとても活躍していますね。 ジュリア・ホルターやマリア・ミネルヴァ、ゾラ・ジーザス、ジュリアナ・バーウィックなどのアーティストをどう思いますか?

マヤ:彼女たちがいてくれて本当に幸せに思うわ! とても大切で美しい音楽を作っているに違いないわ。ジャンルやスタイルをミックスすることに興味を持っていて、かつ才能に溢れている若いアーティストがたくさんいて本当にすばらしいことだと思うわ。そのほうがおもしろいでしょ!

『オリンピア』は前作に比べてもかなり明確にダンス・アルバムとして仕上がっていると思います。ダンス・ミュージックとの出会いは、いつごろ何を通してだったのでしょう? また、参照点としてはジョルジオ・モロダーが体現したようなディスコ・ミュージックが挙げられるかと思いますが、そのように一種のレイドバックに向かうのはなぜなのでしょうか?

マヤ:小さいときからずっとディスコ、ダンス・ミュージックが聴いてきたわ。完全にハマってて、毎週末新譜を自分のためにご褒美で買ってた。毎回エレクトロニックのセクションにいて、そこのお店のお兄さんが、10歳くらいのわたしがプロディジーやケミカル・ブラザーズを買ってるのを見てクールだと思ってたらしいのよね。変な音や激しいドラム音が大好きだったの。友だちの家でテレビゲームしているときに爆音で流すのが最高だったわ。

あなたはギャラクシーというライオットガール・バンドにいたそうですが、クラシック音楽とライオットガール文化という振れ幅に驚きました。「運命」という言葉や戦いの象徴があなたの曲ではよく使われていたり、「たくましく前に進む」というような雰囲気があなたの曲にはありますが、これは一貫性のあるテーマなのですか?

マヤ:わたしたちは長い間音楽をつくることに飢えていたんだと思う。わたしたちの音楽を作ることに対するエネルギーや興奮は尽きないように感じるの。すべての曲やプロジェクトがわたしにとってはエネルギーの爆発のようだし、よりたくさんの作品を作ることに夢中なのよ。ライオットガールの戦う精神はいつでもわたしたちのやることの一部だし、わたしたちってフェミニストなの。フェミニストだからとか必ずしも政治的であるからという理由では音楽はつくらないけど、そういう考えはいつでもわたしたちのなかにあるし、内面の深いところの一部なのよ。

前作『フィール・イット・ブレイク』には"ザ・ビースト"などじっくりとピアノを聴かせる弾き語りが収録されていたりとかなり個性的で、あなたの音楽遍歴をよりダイレクトに表すものだったかと思います。前作と今作とでは人々の反応も少し違うのではないかと思いますが、いかがでしょう?

マヤ:わたしが思うに、みんなまだそれに慣れようとしているところなんじゃないかしら。『オリンピア』はヒット曲満載っていうレコードではないの。より瞑想的だし、たくさんの感情や音が混在しているのよ。ソングライティングや音楽的美学の成長を聴いてもらうためにみんながこのアルバムを何回も聴く忍耐力を持っていてくれればいいんだけど。わたしたちはアルバムが厳選された質のよいものになるように、できるだけたくさんのアナログでアコースティックな楽器を使って、すべての音をおもいやりがあって特別なものにするようにしたのよ。

あなたはご自身について、よりどちらの性質が強いと捉えていますか? ヴォーカリスト? トラックメイカー? それとも?

マヤ:このバンドでは、わたしは自分のことをどちらかというとプロデューサーやビートメイカ―だと捉えてる。ケイティはすばらしいソングライターだし、わたしとドリアンに楽器のチョイスを通してこのバンドの美学を作り上げさせてくれるの。わたしはキーボードのパートを書いて曲のアレンジを形づくる手伝いもするけど、リズム・セクションを請け負って、それぞれの曲に命や魂を吹き込むのが楽しいのよ。

Varisou Artists - ele-king

 〈グリーンスリーヴス〉といえば、オーガスタス・パブロの『オリジナル・ロッカーズ』(1979年)、ドクター・アリマンタドの『ベスト・ドレスド・チキン・イン・タウン』(1978年)といった70年代末の名作もあれば、ヒュー・マンデルの『アフリカ・マスト・ビー・フリー』のようなルーツの名盤の再発も手がけている。ジョン・ホルトの『ポリス・イン・ヘリコプター』(1983年)のような隠れ名盤もある。と同時に〈グリーンスリーヴス〉は、80年代のダンスホール時代を代表するプロデューサー、ヘンリー・ジュンジョ・ロウズと彼の〈ヴォルケーノ〉レーベルの諸作を世界に広めたレーベルとしても知られている。12インチ/45回転のディスコ・シングルのリリースも有名だ。
 後に拠点をニューヨークに移し、近年でも商業的なヒットを出しているレーベルだが、古くからのファンにとって〈グリーンスリーヴス〉らしさが滲み出ているのは、ルーツとダブからダンスホールとディージェイの80年代初頭へと展開した時期の諸作だろう。80年代前半のレゲエ界のスターだったイエローマンの『ミスター・イエローマン』(1982年)、レーベルの看板のひとりバーリントン・リーヴィの『ロビンフッド』(1980年)、ディージェイの系譜ではトーヤンの『ハウ・ザ・ウェスト・ワズ・ボーン』(1981年)、トーヤンとニコデマスの『DJクラッシュ』(1981年)、クリント・イーストウッド&ジェネラル・セイント『トゥー・バッド・DJ』(1981年)、政治から性(スラックネス)へと主題が変わった時代を物語るクリント・イーストウッドの『セックス・エディケーション』(1980年)などなど、この時代だけに絞っても多くの名作が思い付く。そして、重要なのは、〈グリーンスリーヴス〉、あるいは〈ジャミーズ〉のようなレーベルの躍進が、日本でレゲエが大衆化されていった時代に重なっていることだ。いよいよ街のちんぴらの元にレゲエが届くようになるのだ。
 当時の〈グリーンスリーヴス〉の多くのヒット作のリディムはルーツ・ラディックスによるもので、多くの名作でエンジニアを担当したのはサイエンティストを名乗るホープトン・オーヴァートン・ブラウンだった。当時『FINE』を読んでいたようなサーファーは〈グリーンスリーヴス〉を通じてスタイル・スコットのドラミングを聴いて、サイエンティストのダブにしびれていたのである。

 本作は、稀代のレコード蒐集家MUROによる〈グリーンスリーヴス〉音源のミックスCDである。〈グリーンスリーヴス〉がライセンスした、80年代前半のジャマイカを代表する〈ボルケーノ〉や〈ジャミーズ〉をはじめとする音源が30曲収録されている。今回のCDのためにあらたに声を乗せたダブプレートも混じっているようだ。昔、マッドリブが〈トロージャン〉音源を使ってミックスCDを出したことがあるが、あれが70年代ならこちらは80年代、ジャマイカにおけるアメリカ支配がはじまり、経済的により厳しさの増した時代に大衆化受けしたダンスオールにスポットを当てている。
 サイエンティストのナンセンスなダブから内省的でシリアスなものまで幅広いことをやっているレーベルだが、MUROが選んだのは後者だ。前半はテンションの高いディージェイで盛り上げつつ、中盤ではウェイリング・ソウルのような深いコーラス隊へと突入し、ジュニア・マーヴィンやシュガー・マイノット、殺害されたヒュー・マンデルの美しいソウルを経ながら、後半のブラック・ウルフの勇ましいルーツ・サウンドへと繋がれている。物語性のあるミックスで、80年代前半のこのレーベルの魅力を押さえつつも、ミックスの後半ではメロウかつメランコリックなフィーリングを際立たせている。そのあいだ、あなたはいくつもの美しい瞬間を耳にするでしょう。スリーヴのイラストは、ルーツ時代の作品、ランキン・ジョーの『ウィークハート・フェイドアウェイ』(1978年)のアートワークを引用している。

vol.55:素晴らしき新生ディアハンター - ele-king

 ディアハンターは、ジョージア州、アトランタのバンドなのだが、何かとニューヨークのイメージがある。ニューヨークでレコーディングしたり、レコード・レーベルがニューヨークだからだろうが、その第二の故郷で9月の半ば、3日連続ショー(全てソールドアウト)をおこなった。
 ジョージア州に縁のある著者なので、軽い気持ちで、1日目(ミュージック・ホール・オブ・ウィリアムスバーグ)を見にいったが、余りにも印象に残ったので、最終日(ウエブスター・ホールも見にいった。
 1日目はノイズ/エクスペリメンタル、最終日は歌もの中心で、最新アルバム「モノマニア」だけでなく昔のアルバム、EPからのヒット曲をミックスした。バンドの多様性がうかがえる。ブラッドフォード・コックスは、1日目はパンク少年、3日目はヒョウ柄のワンピース(黒髪ウイッグ付き)。以前は、ジョーイ・ラモーンの格好で登場したり、指に包帯を巻いたり、彼のコスプレも期待を裏切らない。
 ディアハンターから想像できるプレゼンテーション(ライトショー、ノイズフリーク)他に、驚いたのは超自然なバンド演奏。メンバー・チェンジを経て5人組になったのだが、レコードをそのまま演奏するのではなく、曲と曲との転換、繋がり、間、フェイドアウト/インなどで全ての曲に新しい命が吹き込まれていた。
 ほとんどMCはない。毎日セットは違うが、バンド演奏力のタイトさは極まっている。ブラッドフォードの、フリーキーなヴォーカルと対象に、ギタリストのロッケットがヴォーカルを取る"デザイヤー・ラインズ"では、バンドの温度を良い具合に下げ、"モノマニア"のノイズ・フリークが続いた後に来る"トワイライト・アット・カーボンレイク"のドラマチックな導入など、全体バランスも美しい。後半は、ブラッドフォードが観客にギターを渡し、ステージで居眠りしたり、被っていたウィッグをとってみたり(!)、ショーの間は、目と耳をフル回転させられっぱなしだった。
 ショーの終盤、ブラッドフォードは、ソールドアウトの会場を見回すと、故郷アトランタでは受け入れられなかったが、ニューヨークのみんながサポートしてくれたからいまがあると、観客ひとりひとりへ感謝を表し、拍手喝采を誘った。

photo via Brooklyn Vegan

 ブラッドフォードは、パンクだ、予測不可能だと言われる。自分たちを、インディ・バンドではないと言ったり、モリッシーへの感情をぶつけたり現在の社会経済状況への不満などを言及している。それでも、故郷のアトランタで、黙々と音楽を作る、彼のモンクな生活のほうが容易に想像出来てしまう。彼は究極にデリケートで、手助けが音楽だ。ショーのバックステージには、子供のような、はつらつとした彼の顔があった。「このアルバムで若返った」と言う、彼の言葉通りだった。

 知り合いが、ファーザー(元グレイトフル・デッドのメンバー)のショーを9日連続で、キャピタル・シアターに見にいくと興奮していたのを思い出した。彼らは9日間、1度も同じ曲を演奏しない。「9日も同じバンドを見に行くの?」と訝しがったが、今回のショーを見て、彼の言ってる意味がわかった気がする。裏切られたり、予想に反したりもするが、毎日でも見たいと思わせる中毒性を持っている。日本には12月に行くそうだ。新生ディアハンターに期待して良いと思う。





以下、3日間のセットリスト

Deerhunter at Music Hall of Williamsburg - 9/17/13 Setlist: (via)
Earthquake
Neon Junkyard
Don't Cry
Revival
Desire Lines
Blue Agent
The Missing
Hazel St.
Helicopter
T.H.M.
Nothing Ever Happened
Sleepwalking
Back to the Middle
Monomania
Encore:
Cover Me (Slowly)
Agoraphobia
Fluorescent Grey
--
Deerhuneter at Webster Hall - 9/18/13 Setlist: (via)
Sailing
Cryptograms
Lake Somerset
Desire Lines
Dream Captain
Never Stops
Little Kids
T.H.M.
The Missing
Spring Hall Convert
Saved By Old Times
Revival
Helicopter
Nothing Ever Happened
Encore:
Sleepwalking
Back to the Middle
Monomania
--
Deerhunter at Webster Hall - 9/19/13 Setlist:
Octet
Neon Junkyard
Don't Cry
Revival
Like New
Desire Lines
Hazel St.
T.H.M.
Rainwater Cassette Exchange
The Missing
Helicopter
Sleepwalking
Back to the Middle
Monomania
Twilight at Carbon Lake
Encore:
Cover Me (Slowly)
Agoraphobia
He Would Have Laughed


https://www.brooklynvegan.com/archives/2013/09/deerhunter_play_11.html

interview with Primal - ele-king

草食系代表でも遊ぼう本当は誰かと居たい男
欲をいえばGender Free だがなりたくないSex Machine
かなりイカれた本心矛盾を暴露してDis覚悟
女装して闊歩するなら悪と戦えクソハーコー
巷で言う正義は薄れ今まで信じたものは捨て
暴かれる勝手気ままのGame 俺はゲイなのに男ぶってる"性の容疑者"

コツコツ働いて有意義なものに投資をするぜ
負けたくねぇぜProletariat
中流階級とはバチバチのブス
後づけ管理職は似合わないPass
哀愁漂わせるが職人通 "Proletariat"

 9月8日、渋谷でプライマルのライヴを観た。MCバトル〈罵倒〉のショーケースだった。小一時間前にステージにいたのは、若きラップ・スター、KOHHとLIL KOHHとやんちゃな仲間たちだった。LIL KOHHはバットを持って登場した。KOHHは、豪奢なブランドに身を包み、腕のタトゥーをのぞかせ、人を食ったような身振りで、軽やかに何度もこうくり返した。「他人は気にしない生き方/適当な男♪」。僕はその刹那的な人生観、怖いもの知らずの態度に恐怖と不安と羨望を感じた。文句なしにスワッグだった。時代は変わった。歳もとった。プライマルは彼らと180度違うライヴをやった。迷いを振りはらうように、カラカラになった喉を酷使しながら、曲間も絶え間なく必死の形相でフリースタイルを続けた。その姿は、素晴らしくイルだった。


PRIMAL
プロレタリアート

Pヴァイン

Amazon (通常盤) Amazon (初回特典ミックスCD付き限定盤) iTunes Review

 プライマルの6年ぶりとなる最新作のタイトルは『Proletariat』だ。80年代の日本のパンクかオルタナ・ロックのプロテストを思わせる。ECDを連想する人もいるだろう。それはある意味で間違いではない。プライマルは性と家族と労働、憂国について赤裸々にラップしている。労働者の心情を歌っている。大胆で、勇敢な性の告白をしている。そして、頑強なニッポンの男性社会の矛盾を捨て身で暴露している。20代にワイルドサイドのど真ん中を闊歩し奔放に生きたラッパーは、いま30代中盤となり、どう生きるかを模索している。新たなワイルドサイドを歩くのか? ワイルドサイドとは別の道を探すのか? いくつもの問いがあふれ出しては、彷徨っている。そのことばの放浪が、プライマルのフロウの核心ではないかと思う。プライマルはアクセルとブレーキをせわしなく交互にかけ、ぐるりと迂回しながら、見えない目的地を目指して道なき道をガタガタと進んでいるようだ。停止と急発進をくり返し、たったいま自分が吐き出したことばを次のラインで否定し、さらにその次のラインで肯定してみせたりする。脳内で延々とループする矛盾と逡巡が、オン・ビートとオフ・ビートの狭間でグルーヴを生み出し、独特のリズムを前進させる。目的地を定めないがゆえのリズムのダイナミズムがある。MSCとして精力的に活動していた00年代前半から中盤、そして前作『眠る男』のころに比べれば、殺気立ったラップは鳴りを潜めているように思う。MSCのファースト・アルバムにして、歴史的傑作である『Matador』に、プライマルは"支離滅裂"という名曲を残しているが、いまだ彼は正気と狂気のど真ん中を歩いている。

 『Proletariat』には、多くのトラックメイカーやラッパーらが参加している。盟友のDJ BAKUをはじめ、T.TANAKA、O9、HIROnyc、OMSB、Rhythm Jones、MALIK、DJ TAIKI、DJ MARTIN、琥珀、SKE、The Anticipation Illicit Tsuboi、そして先日他界したMAKI THE MAGIC。スクラッチでOMORO、ビートボクサーの太華、MASTER、Sharleeもいる。ジャズ・ヒップホップ・バンド、WATASHIとの曲もある。PONY、MESS(メシア・ザ・フライ)、SATELLITE、そしてTABOO1と漢とRUMIとの"岐路"がラストを飾る。

 目の前に、純朴な佇まいをしたイルなラッパーがいる。プライマルは、いま何と闘っているのだろうか。一時間半じっくり語ってもらった。

いちばんの闘い、苦しみっていうのは、孤独感が芽生えたことですね。

アルバムを聴いて、プライマルさんがいま何と闘っているのかということに興味がわいたんです。今日は、そのあたりのことを訊きたいと思ってやってきました。

プライマル:そうですね。具体的な、目に見える敵っていうのはもう無数にあり過ぎて、否定できないですよね。で、自分のなかの悪っていうか、ダメなところをどう抹殺するかっていうよりも、ホスピスじゃないですけど、どう癌を良くするかっていう、ある意味そういう諦め的な部分もあるとは思うんですよね。

ファースト『眠る男』から6年経ったじゃないですか。病んだり、いろいろ道草もしたり、大変だったっていう話も聞いてて(笑)。

プライマル:ははははは。

どういう6年でした?

プライマル:うーん、まあ、1枚目のアルバムのときからずっと抱えてた自分の闇っていうんですかね、性癖とか。そういうものを清算できない自分が口惜しくて、そういうのを曝け出すことによって、外からの救いを求めてるのかもしれないですね。何か言ってもらいたいっていうのもある。いちばんの闘い、苦しみっていうのは、孤独感が芽生えたことですね。

でも、結婚もされて、お子さんも生まれたんですよね。

プライマル:そうですね。そういう部分ではやる気になるんですけど、でも、根本的なところで孤独っていうのを思い知らされましたね。

最近はMSCも再始動しそうな気配がありますけど、MSCとしてのグループの活動はここ5、6年は順風満帆とは言えなかったじゃないですか。そういうことも影響してますか?

プライマル:そういうのもありますよね。逆にそれを知ることによって、人との繋がりは大事なんだなと思い知らされました。だから、いまどん底ってわけではないですけど、どん底にいたほうが上がりやすいんじゃないかなって。

どん底を実感したのはどんなときですか?

プライマル:単純にお金とかでもありますし、ラッパーとしてスターダムというか、そういうのを目指してやってたのに、辞めるか辞めないかのところまで落ち込んだ辛さですよね。

MSCは00年代中盤までに一時代を築いたと思うんですよ。その後のラップ・シーンにも大きな影響を与えたし、実際MSCを聴いてラップを聴きはじめたとか、ラップをはじめたっていう人は本当に多いじゃないですか。アンダーグラウンドのヒップホップが、これからスターダムに上がって行く準備期間というか、そういう希望がまだ持てた時代だと思うんですよね。でも、いま、あの世代のラッパーで厳しい現実にぶち当たってる人が多いのも事実じゃないですか。

プライマル:うんうんうん、そうですね。

わかりやすい形での成り上がりはなかったというか、そういう現実があるじゃないですか。プライマルさんは、そのあたりについてどういう感想を持ってますか?

プライマル:新宿STREET LIFE』を作ってる時点でその未来はかなり見えてましたね。けっきょく自分たちで何かを作って行かなきゃいけないんですけど、あまりにもいろんな人が関わってきて、イニシアチブもすごいグジャグジャになったりして、ただの商品として扱われてるのがすごいイヤだった。だから、いずれネタが切れた瞬間に、使えない商品にされるんだろうなあっていうか、必然的にそうなったと思うんですよね。漢がソロ(『導―みちしるべ―』)を出した時点で、商品化されてなくなるな、みたいな感じはしたんですよね。でも、俺もあいつに影響受けてるんで、真似する感じで自分のソロを出して。でも、そこであまり金銭的に芳しくなかったりしました。

......ギャラがなかった?

プライマル:いや、なかったわけじゃないんですよ。それだけ最初にお金かけてくれて、面倒も見てくれたんで、一概にはそうは言いたくないんです。ただ、レーベルが自分の未来まで、俺を養ってくれるっていうのは幻想でしたよね。自分でやんなきゃいけない部分を疎かにしてたっていうことですよね。だから、いまゼロからはじめるために、漢だったら、鎖(鎖グループ。漢が主宰のインディ・レーベル)をやってるんじゃないですか。TABOO1は昔からブレないっていうか、自分のスタンスを維持しつつ、作品を作っていくっていう部分ではいちばんクレバーだと思うんですけどね。自分にとってゼロからやるっていうのが、今回のアルバムなんですよ。

MSCはとくに代表作の『Matador』と『新宿STREET LIFE』で、世の中や社会や内面のダークサイドをラップして、あれだけ売れて、評価されて、支持を得たことに、多くの音楽ファンが興奮したと思うんですよね。

プライマル:なるほどね。いまもそういうラップする人はたくさんいるし、どんどんがんばってくださいって思うんですよ。生き方は人それぞれだと思いますし。でも、自分はまあ、そういうラップに共感はありますけど、ちょっと生き方を変えなきゃいけないと思ってますね。真面目に......っていうか、前向きに働かなきゃいけない。

MSCのメンバーが『Matador』や『新宿STREET LIFE』を出したころのハードなライフスタイルやあの時期にやっていた表現を、30代、40代とリアルに続けていくのはなかなかシビアじゃないですか。

プライマル:そうですね。でも、できる人もいるんじゃないですか。俺はできなかったっていうだけの話ですね。そういう気合いはなかった。

今回のアルバムにはそのあたりの葛藤もかなり表現されてると感じたんですよね。

プライマル:うーん、葛藤はかなりあったと思いますね。自分が昔作った歌詞に対しての責任ってわけじゃないですけど、そういうのを全部捨てていく感じで作ってると思うんで。

昔書いた歌詞のリアリズムから自分が遠ざかっているというか、変わったという部分で、ということですか?

プライマル:そこはありますね。今回いっしょにやってるフィーチャリングのラッパーにもテーマがわかりづらいとかってけっこう反発されて。俺のイメージっていうのがあると思うんですけど、それと違くねーか、みたいに言われて。でも、ごまかすって言うか相手をだまして(笑)、いや、まぁ、こんな感じで、ってやってもらいましたね。

ははは。

プライマル:PONYとの曲があるじゃないですか。

"Proletariat"ですよね。プライマルさんとPONYはテーマをちゃんと共有して曲を作ってる感じがしましたよ。

プライマル:PONYに関しては受け入れてくれる感じだったんですよ。

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日本ではブルジョア的なイメージが好きな人は、頑張れば自然にブルジョアになっていくと思うんです。ただ、自分は人を使うこととかがやり辛かったりするという意味で、プロレタリアート気質だなって思うんです。それだったら、そのなかでの勝ち方を探さないと負けちゃうと思うんですよ。人間の尊厳も考えた上で勝ち方を探したい。

プロレタリアートは労働者って意味ですよね。このタイトルにしようと思ったのはなぜですか? むちゃくちゃ直球じゃないですか。

プライマル:はははは。言い方が難しいんですけど、日本にはもちろん貧富の差はあると思うんですけど、どちらかと言うと、"意識階級"なのかなって思うんですよ。

意識階級?

プライマル:日本ではブルジョア的なイメージが好きな人は、頑張れば自然にブルジョアになっていくと思うんです。ただ、自分は人を使うこととかがやり辛かったりするという意味で、プロレタリアート気質だなって思うんです。それだったら、そのなかでの勝ち方を探さないと負けちゃうと思うんですよ。人間の尊厳も考えた上で勝ち方を探したい。だから、その部分で自分はかなり共産的だと思いますね。

1曲目の"MY HOME"のフックで、いきなり「コミュニスト」というリリックが出てきますよね。

プライマル:そうですね。サビは、コミュニストになるのか、自分の家族を選ぶのかっていうことをラップしてるんですよ。その曲のなかでマイホーム主義って言葉も使ってるんですけど、家族との生活を優先させて、革命をできないやつという意味で自分はマイホーム主義者だと思うんですよ。

でもプライマルさんは、自分がラッパーとして成功したり、家族が幸せに暮らせるだけでは満足できないというか、社会の幸せやより良い理想の国や社会のあり方についてどうしても考えちゃう人だと思うんですよ。

プライマル:別に政治家になるとかではないんですけど、そういうのはありますね。逆にそういうトピックしかないから、つまんない人はつまんないと思う。まあ、バランスを取って、人が気になるようなところ探してやってる感じではあるんですけどね。ただ、どうなんすかね、ラップとしてはそういうのはやっぱり無いほうがいいと思うんですけどね。

でも、そこがプライマルさんの個性のひとつだと思うんですけど。

プライマル:ただ、(キエる)マキュウとかとやると、「そういうのはあんまり面白くない」ってクリ(CQ)さんがはっきり言ってきてくれたりもしたんで。

それこそMAKI THE MAGICさんは自分の政治思想を強く持っていた人だと思いますけど、音楽には反映させないというのを、信念にしていたところがありましたよね。

プライマル:そうですね。ラッパーとしてそういうところはすごい影響されてますね。でも、俺の場合、出ちゃってますけど。

MAKIさんとはどういう関係だったんですか? 前作の"SHADOW"と"My Way"はマキさんのトラックですし、今作でも"武闘宣言2.0"を作ってますよね。

プライマル:『新宿STREET LIFE』ではじめて仕事させてもらって、MAKIさんの作った"矛盾"っていう曲のヴァースを褒めてくれていたという話を人伝てに聞いて、嬉しかったですね。『新宿STREET LIFE』に関していえば、俺はプロデュースはまったくしていないアルバムなんですよ。漢と〈ライブラ〉の社長と目崎くん(『Proletariat』のデザイナーのDirty MezA)がコンセプト考えて、トラックを決めて、という感じで。だから、俺の政治的な部分は反映されていないですね。だから、二木くんは逆に良いんじゃないですか、ははははは。

いやいやいや、そんなことないですよ(笑)。プライマルさんのソロも僕は大好きですよ。MAKIさんとはけっこう密な関係だったんですか?

プライマル:そうですね。マキュウの飲み会とかイヴェントにちょくちょく顔出すようになって、「このトラック、どう?」みたいなことを言われるようになって。

けっこう飲んだりはしてたんですか?

プライマル:かなり飲んでましたね。ある時期は月イチぐらいのペースで飲んでましたね。ソロをちょこちょこ作りはじめるのと、同時進行で「SS」っていうグループもやろうぜ、みたいな話にもなってて。

「SS」って何ですか?

プライマル:「シークレット・サービス」ってことなんですけど(笑)。まあ、ナチスの親衛隊とか、は冗談ですがいろんな意味があったんです。

はははは。プライマルさんがMAKIさんと波長というか、ヴァイブスが合ったポイントはどこだったんですか?

プライマル:なんですかね、やっぱ優しかったですね。気さくっていうか、受け入れてくれるっていうか、フツーに楽しかったですね、MAKIさんといっしょにいるのが......。

MAKIさんは、上の世代で早い段階でMSCを評価して、トラックも提供した人でしたよね。

プライマル:そうですよね。もちろん、〈ライブラ〉の人たちと仲良いというのもあって、そういう流れもあったと思うんですけど、運命的に出会った感じですかね。

"子供とママと家庭"っていう曲がありますけど、家族ができたのはやっぱり大きいんじゃないですか?

プライマル:回帰した感じですよね。自分の家族は家によくいたんで、昔は家がイヤでしたね。でも、親父が10代の終わりごろに亡くなって、引きずってた部分はあったんですけど、20代は好き勝手に生きて。でも、自分が家庭を持ったことで、また家族を意識するようになったんじゃないですかね。

それにしても、"子供とママと家庭"というタイトルもまた直球ですね(笑)。

プライマル:へへへへへ。俺、歌謡曲とかフォークが好きなんで、そういう感じで行きたいっていうのはあったんですよね。歌謡曲やフォーク系の人のリリックってかっこいいじゃないですか。今回は誰にも文句言われないし(笑)。

フォーク系というと、たとえば岡林信康とか?

プライマル:あー、そこまで濃くないと思いますね。吉田拓郎とか。

泉谷しげるとかは?

プライマル:泉谷しげるとかも好きですね。でも、やっぱり、女々しいっていうか、昔のアイドルの曲も好きですね。松田聖子とか好きですね。

松田聖子!? へー、それはやっぱり歌詞の部分?

プライマル:歌詞も好きなんですけど、なんか共感がありますね。俺は昔からあまり男臭い歌詞が書けないんですよね。

"性の容疑者"のリリックの内容は衝撃的ですよね。

プライマル:そうですね。

これは実体験というか、ゲイになりきってラップしているということですか?

プライマル:いや、もう......俺はゲイだから、といったら勘違いされるので、バイみたいになっちゃって。

それはプライマルさん自身が?

プライマル:そうですね。

え!?

プライマル:はい。だけど、二丁目にいるようなゲイにもなりたくねぇなっていうのもあって。

自分がゲイっぽいって感じるときがあるんですか。

プライマル:「ゲイっぽいって感じる」っていうか、まあ、男遊びとかしちゃいましたよ(笑)。

マジっすか(笑)。それは書いてもいいですか?

プライマル:いいっすよ。だって、この曲はそういう歌詞ですから。

僕はこの曲はフィクションかメタファーだと思ってたんですよ。

プライマル:いや、フィクションは書かないすね。だから、この曲はディスられる覚悟で作ったんですけど。

最近はフランク・オーシャンがカミング・アウトしたり、アメリカでは変化もありますけど、とくにヒップホップはゲイに厳しい文化ですよね。この曲を発表するのには、迷いもかなりあったんじゃないですか?

プライマル:そうですね。だから、ちょっとどうなるかはわかりません。

漢さんはなんか言ってました?

プライマル:この曲に関してはわからないですけど、そういう話はしたりするんで、「しょうがねーヤツだなー」みたいな感じなんじゃないすか。

そのおおらかな感じがMC漢らしくてすごくいいですね(笑)

プライマル:いや、でも、そこまでは優しく言われてないですけど(笑)。

挑戦的というか、攻めの曲ですね。

プライマル:リスクはあるんですけど、やっぱり攻めないとダメだなというのはありますよね。

リスクも大きいですけど、得るものも大きいと思います。反響はありました?

プライマル:みんな、この曲に関しては訊きたがってますね。だけど、まあ遠慮して訊いてこない人もいるし。

じゃあ、もう少し詳しく訊いてもいいですか(笑)?

プライマル:ははは。まあ、たいしたことではないんですけど......小っちゃいころから自分が男臭い部分に向き合うのを避けてたんですよ。ぜんぜん大事にしてこなかったんですけど、突如、逃げてきたその部分に感情的に囚われて、自分が見知らぬ人っていうんですか、そういうところに行ってしまう感じがあって。

自分のなかの見知らぬ人という意味ですか?

プライマル:そうですね。それって要はビッチじゃないですか。

それは、男に対してビッチだってことですか?

プライマル:そうですね。そういうのを訂正しないと自分がダメになるなぁって思って。

「容疑者」と付けたのはなぜですか?

プライマル:人と俺が繋がってる世界のなかで違反者であるっていう意味ですね。同性愛は否定しないですけど、ただ、性に奔放だから、"性の容疑者"なんです。自分のその部分は完全には否定できないんですけど、避けられない弱さでもあると思うんですよ。その部分をあえて出したかった。この曲に対してのアンサー・ソングもじつは作ったんですよ。"M男の運命"っていう曲があったんです。

"M男の運命"がもし収録されたとしたら、プライマルさんの自分の性に対しての考えが、リスナーに対してもう少し明確にわかりやすく伝わりましたか?

プライマル:わかりやすいってわけじゃないですけど、「こいつは、そういうヤツなんだ」みたいのはもう少し伝わったと思います。まあ、でも、そこまでは言う必要はねぇかなと思いましたし、その曲を入れて自己肯定になってしまうのも逆に良くないと思ったんで、入れませんでしたね。まあ家庭もありますし、自分の子供が曲を聴いて食らって、「はぁ!?」とかなっちゃうのもあれなんで。"M男の運命"を入れなかったから、謎になっちゃったのかもしれないですね。

なるほどー。

プライマル:でも、"性の容疑者"はどうしても入れたかったですね。アルバムは、"血"と"性の容疑者"、"御江戸のエリア"とかが最初に完成して、そこから改善策を探っていくっていう感じで曲を作ってたんですよね。最低のライン、最低のヴァイブスです、っていうところから、ちょっと頑張ってみます、みたいな感じでアルバムを作っていったんですよ。

"性の容疑者"を作ったのは結婚する前ですか?

プライマル:結婚してましたね。

そう考えると、"性の容疑者"から"子供とママと家庭"、 "Proletariat"、それから最後の "岐路"まで一貫した流れがありますね。

プライマル:どうしようもないですけどね、ほんと。奥さん、子供には申し訳ない。

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漢が一時期いっつもライヴで言うセリフがあったんですよ。「勉強ができなくてもいいから普通でいてくれって親によく言われた」って。「俺に言ってんなぁ」ってその言葉がやけに響いちゃって。

闘いっていう意味ではほんとにいろんな側面の闘いがありますね。性、家族、労働、あと憂国もありますよね。

プライマル:"性の容疑者"の闘いがいちばん最大かもしれないですね。そこが起点で、どうバランス良く生きて行けるかっていう闘いがあるんで。働くことはできるようになった、だけど、なにかフツーじゃないぞ、みたいな。二丁目にいるような人たちを全否定するつもりはないんですよ。ただ、自分はそうはなりたいと思わなかったですね。

それはどうしてですか?

プライマル:もちろん二丁目だけじゃないと思うんですけど、人間愛で行けばそういう方向性も間違ってはいないと思うんですよ。ただ、政治や闘争っていう部分で、まったく意見ができなくなると思ったんですよ。そういう選択を迫られたときに、自分はそうじゃないようにやるしかないと考えましたね。もちろん、簡単に人を判断するのは良くないと思いますけど、自分はだから、そういう意味でもプロレタリアートなんだと思いましたね。

ああ、なるほど。それは男性社会のなかで闘いたいということですかね。

プライマル:いや、いまのはちょっとテキトーに言い過ぎたところもありますね。まあ、一般的な考えのところで頑張りたいって思ったんですよ。でも、それだけじゃ、やっぱり変わっていかない世界がすごく見えた6年でもありましたね。

「変えたい」というのは、個人的なものですか? それとも社会的なものですか? 両方ですか?

プライマル:すごい個人的なものですね、変わって行きたいっていうのは。社会はどこにでも存在しているし、けっきょくどこのコミュニティに入り込むかだと思うんですよ。それを自分で作るほど、自分はデカくないですし。最低限、家庭をなんとか成立させて、子供がでかくなれば、その後自由にやるんでもいいのかもしれないんですけどね。なにを言いたいのか、まったくわかんなくなってきましたね。ぐちゃぐちゃになってきました(笑)。

いや、大丈夫です。一貫してますよ。

プライマル:漢が一時期いっつもライヴで言うセリフがあったんですよ。「勉強ができなくてもいいから普通でいてくれって親によく言われた」って。「俺に言ってんなぁ」ってその言葉がやけに響いちゃって。そういう部分じゃないですかね。

MSCのなかでTABOO1さんは正統派のBボーイという感じがするんですけど、プライマルさん、漢さん、O2さんってかなりイルというか、変態的な側面が強いじゃないですか。変わり者って言ったらあれですけど、なんでそんなメンツが集まったんですかね。

プライマル:間違いないですね。でも、なんで集まっちゃったのかはまったくわからないですね(笑)。

はははは。

プライマル:でもイルは役立たないですよ、社会で。ほんとに(笑)。ただの自分勝手な人だと思うんすよね。

いやいや、でも、イルなラッパーが新しい価値とスタイルを生み出して、イルであってもいいんだって思えるラッパーとか人とか社会を作るんじゃないですか。

プライマル:ああ、なるほど。そういうのは、まあわかりますけど、あんまり自己肯定したくないすよね。でも、そう考える時点でけっこうイルですよね。

そうですね(笑)。

プライマル:ふふふふふ。あと、本読んだりするのも好きですけど、それだけだと不安になりますね。働けば、安いけど、お金をもらえる充実感があるじゃないですか。でも、そこで満足しちゃって安住しちゃうのがプロレタリアート的な考えですよね。自分はそういう気質だなって思って、タイトルにしたんですよ。でも、やっぱりそれだけじゃダメなんですよね。

ということは、労働者であるというところに100%プライドを持ちたいわけではないんですね?

プライマル:そうではないですね。働いて頑張ってる人には申し訳ないんですけど、その意味で軽く使ってしまっているかもしれないですね。

となると、プライマルさんはどうありたいと思いますか?

プライマル:世間が許さないかもしれないですけど、ラッパーとしていまのやり方で裾野を広げていって、お金も貯めて、表現者でありつつ、投資もできるようになりたいですね。やっぱり「脱プロ」は目指したいですね。

脱プロ?

プライマル:"Proletariat"のポニーのリリックで「脱プロレタリアート」ってあるじゃないですか。脱プロはやっぱ目指すべき道だとは思うんですよね。でも、ブルジョアになりたいのかと言ったら、それも違う気もする。そもそも日本でのブルジョアの概念は難しいと思うんですよね。別に社長だったら全員がブルジョアでもないわけですし。だから、自分自身まだまだ矛盾していて、思想が完成してないと思うんですよ。

ラップで経済的自立することは脱プロですか?

プライマル:それができたら、ひとつの脱プロだと思いますよ。そうはなりたいですよね。

じゃあ、僕はそこを少し勘違いしてました。労働者である自分に誇りを持つ、という側面もかなりあると思ってたので。

プライマル:ぶっちゃけそういうふうに言われると思いましたね。「また、プロレタリアートとかそういう言葉を軽く使ってんだ」って。

いやいやいや、そうは思ってないです。

プライマル:でも、学生運動やってた人は悲壮感が強いですよね。絶対に闘うっていう決意があるじゃないですか。プロレタリアートから抜け出すこともなく闘い続けるんだっていう。俺はそこまでは行ってませんっていうアンサー・ソングが1曲目の"MY HOME"なんです。

なるほど。ところで、MSCは、O2さんは沖縄にいていなかったですけど、先日恵比寿の〈KATA〉で久々にライヴをして、9月20日の〈KAIKOO〉でもライヴしますよね。再始動と考えていいんですか?

プライマル:まだ再始動っていうほどではないですね。完璧に決まってはいないですけど、けっきょくMSCの繋がりが深いんで。それだけ繋がりが強いから、ひとりでも欠けると崩れていったんでしょうし。でも、新宿でやってる以上、MSCをやらなきゃ意味ないっていうのはすごいありますよね。そのために新宿に住んでる。そこで家庭もできて、子供も生まれた。それで『眠る男』と今回のアルバムの違いっていうのも出てきたと思うんですよ。最近ネットで見たら、「プライマルのリリックから画が見えない」みたいなことは書かれちゃってましたけど(笑)。いちおう褒めてはくれてるんですけど、前よりは下がってるな、みたいなことを書かれて。

どの曲ですか?

プライマル:"大久保ストリート"って曲ですね。歌舞伎町にいるキャッチの方とか新宿の街にいるヘンなヤツのこととか、まぁそれは自分かもしれませんが、そういうのを描写して画が見えるっていうのはわかるんですけど、俺は別にいまそこには絡んでいないし希望していないんですよね。無機質な大久保通りが、いまの俺の現実なんで。通勤のためにチャリンコで、ただ通う道なんです。そういう現実をラップしてるから、「画が見えない」って書かれたのかなって、強引に考えてみましたね。

でも、その解釈は当たってると思います。MSCにセンセーショナルなラップを求めるリスナーは多いでしょうし、新宿の夜の街、危険な新宿を描くのがMSCというのは、みんなどうしても頭にありますから。

プライマル:そうですよね。でもいまはそっちよりも、どっちかって言うと、新宿区民としてやってますよって感じですね。

そういう形で新宿の地域に根づきはじめてるということですよね。

プライマル:結果的にそうなっていったらいいですけどね。でも、そのなかにもまた矛盾がありますよね。

Wake Up 仕事精出す Entertainerの夢を追うけど
その前に世間に演じてる俺をみな
"おむつがとれるまで"

London Grammar - ele-king

 今年、The XXが主催するフェス、「night + day」はリスボン、ベルリンそしてロンドンでおこなわれた。ロンドンの「night + day」に出演していたのが先週デビュー・アルバムをリリースしたばかりのロンドン・グラマーだ。彼等の名前はジョン・ホプキンスやマウント・キンビー等と一緒にクレジットされていた。

 まずは「night + day」の模様を3分にまとめた映像見て欲しい。
 ロンドン:https://www.youtube.com/watch?v=qNZxx01fpqA
 ベルリン:https://www.youtube.com/watch?v=ceYuM10VPAE
 リスボン:https://www.youtube.com/watch?v=EDT8et79gfU

 新しい世代が自分たちの目線で、理想のパーティを創りたいという気持ちが伝わってくる。出演者もオーディエンスもほんとにいい顔だ。過剰に盛り上がることなく、自分たちにとってしっくりくる音楽を好きに楽しんでいるし、なによりも踊ることと音楽を聴くことのバランスがうまくとれているようだ。静かに、新しい世代によるムーヴメントが進行していることが、たったこれだけの情報でも伝わってくる。
 ロンドン・グラマーについてはまったく知らなかったが、 The XXやジェイムス・ブレイクと同じように、彼らの音楽のベースにはダンス・ビートがある。歌は、不安のなかでつかみ処のない風景に現れる奇跡的に美しい瞬間を切り取っている、信じるべき未来があると言葉には言わず、伝えている。"Hey Now"も"Strong"も気持ちが動こうとする瞬間を封じこめているようだ。

 「night + day」に集まる世代が自分たちの明日を信じていることは意味深い。ダンス・ミュージックがかつて持っていたピュアネスがかろうじて生き残っているようにも感じる。
 ロンドン・グラマーやザ・XX、ジェイムス・ブレイク、キング・クルールら若い世代を取り巻く状況は、僕がトレイシー・ソーンの『遠い渚』やベン・ワットの『ノース・マリン・ドライブ』を聴いた1982年と似ているのではないだろうか。パンクの後の、静かでリアルな決意表明、シンプルな編成の、ギターの弾き語りを選んだ若者たち。彼らは、注意深く、同じ気持ちを抱えている仲間を探しながら、少しづつ向かい合う。

 ロンドン・グラマーのデビュー・アルバムはイギリスで初登場2位を記録した。そして、申し合わせたようにベン・ワットは、30年ぶりにソロ・アルバム・リリースすると発表した。

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