ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Actress - Grey Interiors / Actress - Tranzkript 1 | アクトレス
  2. Columns R.I.P. Max Romeo 追悼マックス・ロミオ
  3. 別冊ele-king VINYL GOES AROUND presents RECORD――レコード復権の時代に
  4. interview with Nate Chinen 21世紀のジャズから広がる鮮やかな物語の数々 | 『変わりゆくものを奏でる』著者ネイト・チネン、インタヴュー(前編)
  5. Twine - New Old Horse | トゥワイン
  6. interview with Black Country, New Road ブラック・カントリー・ニュー・ロード、3枚目の挑戦
  7. Jefre Cantu-Ledesma - Gift Songs | ジェフリー・キャントゥ=レデスマ
  8. Seefeel - Quique (Redux) | シーフィール
  9. Shinichiro Watanabe ──渡辺信一郎監督最新作『LAZARUS ラザロ』いよいよ4月6日より放送開始
  10. Black Country, New Road - Forever Howlong | ブラック・カントリー、ニュー・ロード
  11. Shintaro Sakamoto ——すでにご存じかと思いますが、大根仁監督による坂本慎太郎のライヴ映像がNetflixにて配信されます
  12. Conrad Pack - Commandments | コンラッド・パック
  13. Cosey Fanni Tutti ——世界はコージーを待っている
  14. Eyed Jay - Strangeland | イアン・ジックリング
  15. Columns Special Conversation 伊藤ガビン×タナカカツキ
  16. あたらしい散歩──専門家の目で東京を歩く
  17. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  18. Bon Iver ──ボン・イヴェール、6年ぶりのアルバムがリリース
  19. Jane Remover ──ハイパーポップの外側を目指して邁進する彼女の最新作『Revengeseekerz』をチェックしよう | ジェーン・リムーヴァー
  20. つくって食べる日々の話

Home >  Reviews >  Album Reviews > Varisou Artists- DIGGIN' GREENSLEEVES mixed by MU…

Varisou Artists

DancehallDeejayDubReggaeRoots

Varisou Artists

DIGGIN' GREENSLEEVES mixed by MURO

AWDR/LR2

Amazon

野田 努   Sep 26,2013 UP

 〈グリーンスリーヴス〉といえば、オーガスタス・パブロの『オリジナル・ロッカーズ』(1979年)、ドクター・アリマンタドの『ベスト・ドレスド・チキン・イン・タウン』(1978年)といった70年代末の名作もあれば、ヒュー・マンデルの『アフリカ・マスト・ビー・フリー』のようなルーツの名盤の再発も手がけている。ジョン・ホルトの『ポリス・イン・ヘリコプター』(1983年)のような隠れ名盤もある。と同時に〈グリーンスリーヴス〉は、80年代のダンスホール時代を代表するプロデューサー、ヘンリー・ジュンジョ・ロウズと彼の〈ヴォルケーノ〉レーベルの諸作を世界に広めたレーベルとしても知られている。12インチ/45回転のディスコ・シングルのリリースも有名だ。
 後に拠点をニューヨークに移し、近年でも商業的なヒットを出しているレーベルだが、古くからのファンにとって〈グリーンスリーヴス〉らしさが滲み出ているのは、ルーツとダブからダンスホールとディージェイの80年代初頭へと展開した時期の諸作だろう。80年代前半のレゲエ界のスターだったイエローマンの『ミスター・イエローマン』(1982年)、レーベルの看板のひとりバーリントン・リーヴィの『ロビンフッド』(1980年)、ディージェイの系譜ではトーヤンの『ハウ・ザ・ウェスト・ワズ・ボーン』(1981年)、トーヤンとニコデマスの『DJクラッシュ』(1981年)、クリント・イーストウッド&ジェネラル・セイント『トゥー・バッド・DJ』(1981年)、政治から性(スラックネス)へと主題が変わった時代を物語るクリント・イーストウッドの『セックス・エディケーション』(1980年)などなど、この時代だけに絞っても多くの名作が思い付く。そして、重要なのは、〈グリーンスリーヴス〉、あるいは〈ジャミーズ〉のようなレーベルの躍進が、日本でレゲエが大衆化されていった時代に重なっていることだ。いよいよ街のちんぴらの元にレゲエが届くようになるのだ。
 当時の〈グリーンスリーヴス〉の多くのヒット作のリディムはルーツ・ラディックスによるもので、多くの名作でエンジニアを担当したのはサイエンティストを名乗るホープトン・オーヴァートン・ブラウンだった。当時『FINE』を読んでいたようなサーファーは〈グリーンスリーヴス〉を通じてスタイル・スコットのドラミングを聴いて、サイエンティストのダブにしびれていたのである。

 本作は、稀代のレコード蒐集家MUROによる〈グリーンスリーヴス〉音源のミックスCDである。〈グリーンスリーヴス〉がライセンスした、80年代前半のジャマイカを代表する〈ボルケーノ〉や〈ジャミーズ〉をはじめとする音源が30曲収録されている。今回のCDのためにあらたに声を乗せたダブプレートも混じっているようだ。昔、マッドリブが〈トロージャン〉音源を使ってミックスCDを出したことがあるが、あれが70年代ならこちらは80年代、ジャマイカにおけるアメリカ支配がはじまり、経済的により厳しさの増した時代に大衆化受けしたダンスオールにスポットを当てている。
 サイエンティストのナンセンスなダブから内省的でシリアスなものまで幅広いことをやっているレーベルだが、MUROが選んだのは後者だ。前半はテンションの高いディージェイで盛り上げつつ、中盤ではウェイリング・ソウルのような深いコーラス隊へと突入し、ジュニア・マーヴィンやシュガー・マイノット、殺害されたヒュー・マンデルの美しいソウルを経ながら、後半のブラック・ウルフの勇ましいルーツ・サウンドへと繋がれている。物語性のあるミックスで、80年代前半のこのレーベルの魅力を押さえつつも、ミックスの後半ではメロウかつメランコリックなフィーリングを際立たせている。そのあいだ、あなたはいくつもの美しい瞬間を耳にするでしょう。スリーヴのイラストは、ルーツ時代の作品、ランキン・ジョーの『ウィークハート・フェイドアウェイ』(1978年)のアートワークを引用している。

野田 努