「F」と一致するもの

interview with Hiatus Kaiyote (Simon Marvin & Perrin Moss) - ele-king

 オーストラリアのメルボルンから飛び出したハイエイタス・カイヨーテ。2011年に結成された彼らは、ネイ・パーム(ヴォーカル、ギター)、ポール・ベンダー(ベース)、サイモン・マーヴィン(キーボード)、ペリン・モス(ドラムス)という個性的で優れた才能を持つミュージシャンからなる4人組バンドで、2012年のデビュー・アルバム『Tawk Tomahawk』以降、つねにエネルギッシュな話題を振りまいてきた。デビュー当時はネオ・ソウルやR&Bの文脈からスポットが当てられ、フューチャー・ソウル・バンドといった形容が為されてきた彼らだが、その音楽的な振り幅は我々の予想の斜め上を行くもので、ジャズやヒップホップ、ファンクなどからオペラやアフリカ音楽をはじめとした世界の民族音楽など、さまざまな要素から成り立っている。そうしたどのジャンルにも縛られない自由さを持ち、複雑で先の読めない楽曲展開とそれを可能にする演奏技術や高度な音楽性を有し、まさにスーパー・バンドと呼ぶにふさわしい存在へと成長していった。ライヴでの圧倒的なパフォーマンスにも定評があり、世界中のさまざまなフェスで人気アクトとして引っ張りだこだ。

 これまでグラミー賞に3度もノミネートされてきたハイエイタス・カイヨーテだが、アルバム・リリースは多くなく、『Tawk Tomahawk』と『Choose Your Weapon』(2015年)、『Mood Valiant』(2021年)と3作のみだ。ツアーやライヴに長期的なスケジュールを割き、メンバーはハイエイタス・カイヨーテ以外にもいろいろなプロジェクトや活動をおこなっていて、なかなかアルバム制作の時間が取れないということもあるが、彼らのアルバムはそれぞれ内容と密度、完成度が非常に高いため、簡単に作れるものではない。『Mood Valiant』からは〈ブレインフィーダー〉に所属し、フライング・ロータスやPファンクなどが持つハイパーな世界観にもリンクしはじめた彼らが、待望のニュー・アルバム『Love Heart Cheat Code』を完成させた。アルバム・ジャケットはこれまでのイメージから一新したもので、作品内容も新たなハイエイタス・カイヨーテの一面を見せる場面ありと、彼らの新しいスタートを印象づける『Love Heart Cheat Code』について、ペリン・モスとサイモン・マーヴィンに語ってもらった。

いちばんわかりやすい変化としては、外部のプロデューサー兼エンジニアのマリオ・カルダート・ジュニアと一緒に仕事をしたことだね。すごく良い経験だったし、興味深かったよ。(マーヴィン)

ニュー・アルバムの『Love Heart Cheat Code』がリリースとなります。前作『Mood Valiant』から3年ぶりのアルバムですが、セカンド・アルバムの『Choose Your Weapon』から6年も空いた『Mood Valiant』に対し、今回は比較的短いインターバルになったとはいえ、それでもいろいろあった3年間だったと思います。『Love Heart Cheat Code』について、どのような準備を進めてきたのですか?

ペリン・モス(以下、PM):『Choose Your Weapon』はすごく壮大で、たくさんの曲を詰め込んだアルバムだったからね。それでも何曲か余っていて、すべてをレコーディングしたわけではなかったんだけど、なるべくたくさんの曲を1枚のレコードに詰め込みたいという感じで作ったんだ。その次の『Mood Valiant』はまた一から曲作りをするために、長い時間を掛けて作り上げたアルバムだったね。あのアルバムを制作していた時期は世界中でいろいろな出来事が起こっていたし、僕たち個人個人にとってもさまざまな変化を経験した時期だった。だから、『Choose Your Weapon』とは全く違ったものを作りたいということになって……レイヤーを分厚く重ねていくような制作方法ではなくて、スタジオでプレイしたサウンドそのものにもっとフォーカスするような、スタジオという箱にきっちりと収まるような、そんなアルバムを作りたいと考えたんだよね。自分たちが気持ち良いと思える音を出して、レイヤーを重ねるようなプロダクションを加えたり加工したりせずに、それをそのまま出すような。もちろん、『Choose Your Weapon』のサウンド自体はかなり生っぽい感じだったけど、それを自分たちが気持ち良いと思えるところまで重ねていったんだよね。『Mood Valiant』はそこまで手を加えていないんだ。もっとサウンドそのものにフォーカスしてレコーディングした感じ。その経験が僕たちにとても多くのことを学ばせてくれたと思う。それに、そのときに収録しなかった曲がたくさん残っていたから、それを今回のアルバムに入れようということになっていたしね。『Mood Valiant』以降、未発表曲のカタログが充実していたのもあって状況的には良かったと思うよ。そういった曲のストックがあったから、レコーディング自体も前回の方法を引き継いでいくことになった感じだった。だから、『Mood Valiant』の次のアルバムはより短いスパンでリリースできる気がしていたし、実際に『Mood Valiant』を制作しているときからすでに、『Love Heart Cheat Code』の曲作りがはじまっていたとも言えるね。でも、そこから実際に制作に入ろうという時期に世界の全ての活動が2年もの間ストップしてしまって、それに巻き込まれる形で中断を余儀なくされてしまっていたんだ。

サイモン・マーヴィン(以下、SM):そうだね。『Mood Valiant』でライヴ・レコーディングした曲は、外部のスタジオで外部のエンジニアに助けてもらいながら録音したものだけど、今回はほとんどの曲を自分たちのスタジオでレコーディングしたんだ。“Cinnamon Temple” 以外はすべて自分たちのスタジオで録ったんじゃなかったかな。

PM:そうだね。“Cinnamon Temple” だけが唯一別のスタジオでレコーディングした曲だね。この曲は『Mood Valiant』のレコーディングを開始するよりも前に制作したものだからね。

SM:そうそう、早い時期にできた曲だよね。

PM:当初は『Choose Your Weapon』に収録しようと考えていたくらいだから。

SM:『Mood Valiant』に入れようという案も出ていたよね。とにかく、僕たちのレコーディングのプロセスは流動的というか。まずは自分たちでエンジニアを担当して曲作りをしてから、外部のエンジニアを招いて一緒に仕事をすることで、学ぶところも多かったし。新しいことをいろいろとやってみて、ときにはそれがうまく機能することもあるし、そうでないときもある。そうやっていろいろ試してみるのが僕たちのやり方なんだ。

ネイ・パームは『Love Heart Cheat Code』について、いままでのハイエイタス・カイヨーテに特徴的だった複雑な曲構成から、今回はよりシンプルな曲作りを意識したというような内容のコメントを残しています。これについて、いかがですか?

PM:それに関しては彼女の真意とは思えないというか、ちょっと曲解されてしまった気がするんだよね。このアルバムは実際に複雑な要素もたくさんあって、それが少し隠されているというか……隠されているというより、よりあからさまではない、なめらかな感じで表現されていると思うんだよね。複雑さがよりスムーズなものだった、とでも言うのかな。僕も改めて『Choose Your Weapon』やほかの過去の作品と今作を較べて振り返ってみたんだよ。『Choose Your Weapon』が今作に対してより複雑に聞こえるのは、特にプロダクションの面において自分たちで個々に制作をしたことも大きかったと思うんだ。その時期にどんなふうに作品作りをしていたのか、それを改めて認識できたのは面白かったけどね。そのときから比べると、今作はよりヒップホップの影響が強く出ているし、あえてバランスを欠くことでインパクトを与えるような作り方もしている。その上で、すべてがよりスムーズというか、なめらかになっていると思うんだ。聴いていてひっかかるような、不穏な要素は以前よりも控え目で、周波数的にも全てのレイヤーが粒立たない作りになっている。複雑な要素は多々あるけれど、ひとつひとつのレイヤーは意識して聴かなければわからないほどスムーズになっていると思うんだよね。

SM:そのとおりだね。それに、曲にもよるんじゃないかな。“How To Meet Yourself” では、たしか僕は一切オーヴァーダブを使わなかった気がするよ。

PM:そうだね。僕は少しだけサンプルを使ったけど、それも絶妙な感じでね。

SM:そうそう、刈り取って休耕地みたいな余白を設けることにしたんだよね。まあこれはひとつの例だけど、この曲に関してはよりシンプルなアプローチを採用したんだ。でも、ほかの曲はもっと深い作りになっているよ。とても真剣に、一生懸命作ったアルバムだからね。だから、ネイの発言に関しては少し引用違いだったんじゃないかと思うよ。

たとえばビートルズはソーシャル・メディアに出て行って、ファンに向かって話をしたり、自分たちの作品のプロモーションをすることはなかったんだからさ。(モス)

わかりました。“How To Meet Yourself” の話が出ましたが、この曲には中国の胡弓のような弦の音色が登場します。実際に胡弓を使っていたりするのですか? ハイエイタス・カイヨーテの場合、こうした民族楽器などを用いることもあると思うのですが。

PM:あの曲に使われているのはフレロという楽器だよ。

SM:テイラー・クロフォードという、メルボルン在住のすごく才能のあるミュージシャンがいるんだけど、彼は自分で楽器を発明して、それをフレロと名付けたんだ。フレロはフレットを取り付けたチェロみたいなもので、彼はフレロを自作するだけじゃなくて、本当に上手に演奏するんだ。それで、彼にこの曲でフレロを弾いて貰ったんだよ。僕たちのとても親しい友人なんだ。

なるほど。参加ミュージシャンはいま仰ったテイラー・クロフォードのほかに、トム・マーティン、ニコデモスなど、地元メルボルンのアーティストたちです。これまでもハイエイタス・カイヨーテ以外のプロジェクトやバンドなどで一緒にやってきたこともある人たちですが、どんな人たちなのか紹介してもらえますか?

SM:もちろん。トム・マーティンはギタリストで、プットバックスというほかのバンドで一緒にやっているメンバーだよ。彼は本当に才能のあるギタリストで、素晴らしいミュージシャンだから、ハイエイタスがはじまって以来、ずっと一緒に仕事をしてきたんだ。ニコデモスは僕たちの親しい友人だけど、コラボレーションするのは今回が初めてなんじゃないかな。彼自身も素晴らしいミュージシャンだよ。ハープ奏者のメリーナ・ファン・ルーウェンは、去年メルボルンでやったオーケストラとのパフォーマンスのときに一緒にステージに立ってくれた人だよ。あとは誰が参加してたっけ……思い出せない(笑)。

PM:君の友だちのヴァイオリンは?

SM:ああ、そうそう。フィル・ヒーリーは僕のすごく古い友だちで、何曲かでヴァイオリンを弾いてくれたんだ。このアルバムで、メルボルンのミュージシャン軍団と一緒にやれたのはすごく楽しかったよ。

PM:間違いないね。

では、今回の曲作りはどのようにおこなっていますか? いままでのようにメンバーのアイデアを広げたり、いくつかのアイデアを組み合わせたり、ブラッシュアップしたりという具合なのでしょうか? また、制作過程においていままでと何か変化があったりした部分はありますか?

SM:うん、変化はあったと思う。どのアルバムについても、全員が違うアプローチをしているからね。制作過程においていちばんわかりやすい変化としては、外部のプロデューサー兼エンジニアのマリオ・カルダート・ジュニアと一緒に仕事をしたことだね。すごく良い経験だったし、興味深かったよ。それに、このアルバムを早くリリースできたのは間違いなく彼がいたからだと思う。期間を決めて制作しなければいけなかったから、すごく一生懸命取り組んで、期間中に仕上げることに注力したからね。もちろん、みんなが聴いている完成版は僕たち自身で仕上げたものだけどね。レコーディング中に少し隙間を空けておいて、それを持ち帰ってレコーディングし直したりしたから。他のメンバーに訊いたら違う答えが返ってくるかもしれないけど、バンドを代表して言うと、そこがこれまでともっとも違う変化だと思う。これまでのアルバムほど手探りの感じはなかったかもしれない。というのも、どのアルバムに関しても最後の10パーセントは気が狂うような作業だったから。ミックスも自分たちでやるし、一緒にスタジオに入るのと同じくらい、別々のスタジオで作業したりもするしね。ときには脱線して、僕がパーカッションや変なサウンドを足したり、メロディアスなものを足したりする人もいれば、ポール・ベンダーが同じようにいろいろ付け足して、ネイがそこに入ってきて、ベンダーとハーモニーを奏でたりする。すごく細かいディテイルや磨き上げるためのアイデアがいろいろあって、最後の10パーセントで実験に実験を重ねて、金脈を探り当てようとする感じだよ。僕自身はセッションの中で、実際には聞こえないようなレイヤーをたくさん重ねて。レイヤーのアイデアはたくさんあるけど、もしかしたらその中のわずか3秒だけが、ひとつの部分で機能するかもしれないから、とにかく実験をしまくるんだ。今回ロサンゼルスでマリオと一緒にやったときは、そういうことは何ひとつしなかったよ。全曲の80パーセントはそこで仕上げたから。制作のプロセスはこれまでとは何もかも違っていたね。普段僕たちはその曲でどんなものを聴きたいか明確にわかっているから、録音ボタンを押して慌てて所定の位置に戻って演奏して、録音停止ボタンを押せばよかった。一方、誰かほかの人と一緒に制作するということは、自分がこれから何をやろうとしているのかを説明する必要があったんだ。そこにはコミュニケーションの壁が介在している。僕たちは長い間ずっと一緒にやってきたから、お互いの言語を理解していて特に説明する必要もなかったからね。でも、誰か他の人と一緒にやるのはすごく良い経験だったよ。少なくとも、僕たちに外部の人と共に制作することがどんなことなのか理解させてくれたから。それと、僕たちがいかにおかしなバンドで、いろいろなことをやっているけれど、いかにピンポイントなものを求めているのか、ってところに光を当ててくれたしね(笑)。

僕は自分たちの作品を素描画や絵画のように感じているし、「この作品の真意は?」と訊かれても、「わからない」としか言えないんだ。(モス)

それでは、その『Love Heart Cheat Code』全体のコンセプトやテーマをどのように表現しますか? 

PM:君が答える?

SM:えぇー。全体のコンセプトか……。

通訳:難しい質問だと思うんですけど。

SM:すごく難しいね(笑)。というのも、一曲一曲についてどんなテーマの曲にするかということに集中していたから。

PM:言ってみれば、このアルバムは曲の集合体という感じだからね。

SM:そうなんだよ。全体というよりも曲そのものという感じなんだ。でも、このアルバムを最初から最後まで通して聴いてみると、とても柔らかで明るくてポジティヴなエネルギーに溢れている感じがするんだよね。ほかのアルバムではそういう風に感じなかったけど、いくつかの曲には柔らかな手触りがあって、終わりに向かってかなりヘヴィなサウンドになっていくという。この数年間、そうしたサウンドからの影響ももう少し前面に出していくことを学んだんだ。でもまあ、全体を通して柔らかで優しい、ポジティヴな光に溢れたアルバムだと思うよ。表現するのがとても難しいけれどね。さっきも言ったけど、それぞれの曲によるからさ。スタジオではできる限りそれぞれの曲の作曲に敬意を払って制作したから、まとめるのはとても難しいね。

そうですよね。一方で、“Everything’s Beautiful” についてはYouTubeでポールとサイモンが制作過程を説明していますね。18分に渡ってかなり詳細に説明していますが、こうして内側を明かすのはかなり珍しいことではないかと思いますが、いかがですか?

PM:なぜ秘密を明かしたりしたんだ!(笑)。

SM:(笑)最近のテクノロジーのせいで、こうしたオンライン・コンテンツに駆り出されることが多くなってきてね。アーティストにもプレッシャーが掛かるようになってきたから、段々と慣れてはきたけれど。もちろん、そういうコンテンツで話すことが苦痛だとは言わないよ。曲の制作に関して、いくつかのポイントについて話をできるのはとても素晴らしことだと思うし。たとえば僕だったら、キーボードを使ってどんな部分をどんなふうに表現したのか聞いてみたいし、特定の楽器の周波数やシグナルのこととか、そうしたことについての理解を深めることができるのはすごく良いと思うから。どうやってあの重みのあるサウンドを実現したのか、それを知ることができるのは最高だよ。実際にそのアーティストと一緒にスタジオに入らなければ、そこまでの深い部分は知りようがないし、そんな機会は滅多にないからね。これは僕たちについても言えることで、僕たちは約15年も音楽をやってきて、言ってみれば古いバンドだよね。だからこそファンととても良い関係を築けてきたわけだし、僕たちの音楽を聴いてくれるオタクみたいな人たちもたくさんいる。そういう人たちに向けて、このレベルでの深い話をできるのはとてもありがたいことなんだ。

PM:クリエイティヴな人たちというのはとても興味深いよね。ファンの人たちが自分たちの聴いているアーティストとどういう形で繋がりたいのか、自分たちが聴いている音楽をどんなふうに分解してみたいのか。でも、アーティストというのは、音楽を作ることやステージでパフォーマンスを披露することには長けていても、ときとしてカメラに向かって自分のことを語るのに抵抗があったりもする。ある意味、とても怖いことだから(笑)。でも昨今では、そうしたことは多くのアーティストにとって当たり前のことにもなりつつあるよね。とはいえ、そういうことをアーティストに求めるのはまあ不自然なことかなぁと思うこともあるよ。これまでは、そんなことをする必要がなかったわけだから。もちろん、あちこちでインタヴューを受けるというのはこれまでもあったけど、たとえばビートルズはソーシャル・メディアに出て行って、ファンに向かって話をしたり、自分たちの作品のプロモーションをすることはなかったんだからさ。なかなかハードルの高いことだと思うけど、時代は変わっているからね。だから、アーティスト自身もそういう場所に行って話をすることに慣れていかなきゃいけない時代なんだよね。僕たちはまだそういうのにあまり慣れていなくて得意じゃないからさ、ファンにとっても僕たちにとってもまだ試行錯誤の段階という感じではあるよ。でも、けして悪いことじゃないと思うけどね。

SM:それは僕たちが歳を取ってるからだよ(笑)。

通訳:(笑)でも一ファンとしては、あの動画はとても興味深くて面白かったので、すべての曲について解説動画を出していただきたいと思いましたけど。

SM:ああ、それは良かった(笑)。ありがとう。

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気がついたら、自分自身でもその曲のはじまりとはまったく違った世界にいるわけで、それこそがバンドとしての美徳だと思うし、正しいことだと思うんだ。複雑なアルゴリズムであり、僕たちはできればその正解には辿り着きたくないとさえ思っているんだ。(マーヴィン)

ところで、“Make Friends” のように人間関係について描いた作品があります。一方、“How To Meet Yourself” は自己について掘り下げたと思われる作品で、そうした自他の意識が『Love Heart Cheat Code』にはさまざまな形で表現されているのではないかと類推しますが、いかがでしょう?

PM:その質問は僕たち向けではないな~、歌詞はネイが書いているからね。でも、わかる部分だけで話すね。先週ネイと一緒にインタヴューを受けたんだけど、そのときに彼女が言っていたことに合点がいったんだ。これまでの彼女は、どうやって言葉に落とし込めばいいかわからないものを抱いていたんだけど、いまの彼女は自分自身について以前よりもリラックスしていて、自分自身と向き合うことや、さまざまなことに対して心地良く感じているそうなんだ。前作は、ネイがこれまでに経験してきたよりパーソナルな事象を歌っていたから、歌詞には彼女が感じた痛みが色濃く投影されていた。彼女がいかにしてその痛みを克服する術を学んだかということもね。今作は、サイモンもそうだと思うけど、僕たちみんながそういうものをすくい上げて昇華させた感じになっていると思うんだ。バンド自体がより軽やかになっていったことで、歌詞自体もより軽やかになったとでも言うのかな。彼女自身も軽さや明るさを感じていたと思う。彼女の言葉を肩代わりするつもりも、彼女が言わんとしていたことを誤解したくもないんだけど……つまりはそういうことを言っていたんだじゃないかと思うよ。結局は、違うフェーズに入ったということなんじゃないかな。時期が違えば、歌詞は違うものに感じるだろうし、感傷的に感じる部分も違ってくるだろうから。このアルバムは、僕には感覚的にはちょっと『Choose Your Weapon』とか、『Tawk Tomahawk』に近い感じがするんだ。そうだね、ファースト・アルバムの『Tawk Tomahawk』により近い感じかな。どのアルバムも違ったテイストの曲が収録されているけど、全体を通してまとまりのある雰囲気に仕上がっていると思うんだ。でも、今作はその点においてファーストにより近くて。『Mood Valiant』はいろんなテイストの曲が1枚のレコードに収められているけど、全体を通してひとつのテイストにまとめることに重きを置いたレコードだった。一方、『Choose Your Weapon』はとにかく何でもかんでも詰め込んだ感じの作りになっている。今作との共通点を感じるよ。今作はとても短いアルバムになっているけど、その中にヘヴィなものがあったり、ソフトなものがあったり、すごく振り幅の大きい作品になっているからね。サウンド的には、どの曲も全部違う雰囲気になっていると思うんだ。まあ、ネイに成り代わって話をするのは気が引けるからさ。僕が言えるのはそんなところだね。

わかりました。歌詞の世界観については改めてネイに訊くチャンスを待つことにしますね。では、先ほど“Cinnamon Temple”の話が出ましたが、この曲のタイトルはなかなか変わっていますよね。これはどういった曲なのでしょう? ライヴなどでも昔から演奏していますね。

PM:うん、長いこと演奏しているね。

SM:なぜこのタイトルになったかというと……おそらく、アシッドが見せた幻影みたいなイメージなんじゃないかな。演奏しているときに、そういうイメージが頭の中に浮かんだんだ。ベンダーが強烈なリード・ラインを思いついて、それに突き動かされるようにひとつの楽曲として形づくられた曲なんだよね。最初はインストゥルメンタルだったんだけど、後からそこにネイが歌詞を乗せて完成した曲だね。まあ、説明するのが難しい曲ではあるよ。というのも、この曲はもう6年くらい必ずライヴのレパートリーに加えられてきたから、それこそかなりの回数に渡って演奏しているし。他に言うこともないくらい(笑)。

彼(ショスタコーヴィチ)は戦争に従軍したことがあるんだけど、そのときに頭に弾片を浴びたらしいんだ。戦争から戻って来たら、頭の中で無調性のメロディが聞こえるようになったらしいんだよ。頭を傾けるとメロディが聞こえていたという伝説なんだけど。(マーヴィン)

そうなんですね。では、“White Rabbit”はジェファーソン・エアプレーンのカヴァーですよね。アメリカ西海岸のサイケデリック・カルチャー時代の1966年に作られた古い曲で、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』をモチーフにしていて、映画やフィルム作品などでも用いられたり、いろいろなアーティストによってカヴァーされてきた名曲でもあるのですが、今回はどうしてカヴァーしたのですか? また、エアプレーンのリード・シンガーだったグレース・スリックが作詞・作曲をしているのですが、それに対してネイ・パームはどのようなイメージで臨んだのでしょうか?

PM:この曲はジャム・セッションの中から生まれたものだったよね。サイモンとベンダーの昔のスタジオで。

SM:スタジオにはアリスとかっていう名前のミキシング・デスクがあって、そこに小さな白いウサギが乗っていて。ベンダーが曲の土台のようなものを作っているときにデスクを見たら小さな白いウサギがいて、それでこの土台を基に “White Rabbit” の歌を乗せたんだ。それで、突然曲ができたという感じ。その土台を基に組み立てていったら、ひとつの曲に仕上がったんだ。

PM:この曲にハーモニー的なリファレンスは存在しないということだね。この曲は導入部分がすべてで、そこからすべてがはじまっているとでも言うのかな。風変わりなディストーションのサウンドがあって、ネイがそれに合わせて歌うことで、この曲が組み立てられていったという感じだから、ハーモニーの面から引用したわけじゃないというか。デモがあって、たまたまそれに合わせて “White Rabbit” を歌って、その骨組みを支える部分を作ったりしてひとつの曲になったんだ。すごくゆっくり、少しずつピースを足したり、手を入れたり放っておいたりしながら時間をかけて完成した曲なんだけど。でも突然曲として成立したから、じゃあこの曲もアルバムに入れようということになって。そこから僕がさらに少し何か足したりして、完成させたんだよ。で、いまのこの形になったというわけ。

SM:そうだね。形になりはじめたのは、ハーモニー的な部分にサビを入れた頃じゃなかったかな。なんというか、ドビュッシー的な進行というか、なんかプレイしているうちにそういう感じになっていって、バラバラだったものをひとつにまとめたら、「おぉ、なんかやっと全体像が見えてきたぞ」という。最初の頃は野性味溢れるというか非常に荒削りというか、それでいてすごく良い感じのもので、それが段々と曲としてのまとまりを見せて行ったんだよね。この曲はアルバムの中でも僕のお気に入りのひとつなんだ。普段僕たちがやっていることとはかなりかけ離れているけれどね。加算を重ねていくうちに最終的に形を成していったん曲なんだ。

仰ったように “Cinnamon Temple” はかなりヘヴィなギターがフィーチャーされ、いままでになくロックのイメージが強い楽曲です。また、同じく “White Rabbit” にもかなりハードコアで混沌としたフレーズがあります。出世曲の “Nakamarra” などはネオ・ソウル的でポップなイメージが強かったわけですが、それとはかなり異なるタイプの曲で、あなたたちのイメージを覆すものと言えます。どうしてこうしたタイプの曲を入れたのですか? 意図的にこうしたタイプの曲を入れたのでしょうか。

PM:そのとおりだよ。それが僕たちだから。僕たちは膨大な量のインスピレーションを本当にいろいろなところから得ているからね。言ってみれば僕たちの作品はアートだから、そこに過剰な意味合いを持たせるつもりはないよ。アートスクールではひとつの絵画を細かく分析しようとするけど、僕にしてみたら「ただこの色たちを組み合わせたかっただけなんだけどな」って感じ。だから、僕は自分たちの作品を素描画や絵画のように感じているし、「この作品の真意は?」と訊かれても、「わからない」としか言えないんだ。分析して翻訳できるようなものではないからね。音楽は主観的なものだから、これを聴いた人が好きに受け取ってくれたらいいし。

SM:そのとおりだね。聴き手が考えるよりも、もっとずっとシンプルなものだと思うよ。僕たちが好きかどうか、基本的にはその感覚だけでやっているから。

PM:それだね。僕たちは自分たちが好きではないものを取り入れたことは一度もないから。もちろん、メンバーのひとりがちょっと目立たない後方に回るようなことはあるけど、基本的にはみんなで一緒になって楽しんで作る感じだよ。それと、ハイエイタスにはもうひとつとても重要な要素があって、それがライヴでのパフォーマンスなんだ。ライヴで演奏すると最高の気分になれるのに、いざレコーディングするとライヴほどのエネルギーを感じなくなってしまう曲もあったりするけど、それでもずっとライヴでやってきた曲をレコーディングしてみんなに届けたいという思いもあるし。その逆もまたしかりでね。レコーディングしたものもとても良かったけど、ライヴで演奏してみたらレコーディングしたときには想像もしなかったほど良くなったりする曲もあるんだ。そのどちらもがお互いに良い作用をもたらすと思う。もしリリースする前に演奏したとすると、これからどんなふうにプロデュースして完成させればいいか、その方向性を示してくれることもある。一方で、最近ではリリース前に演奏することはしないようにもしているんだよね。興味深いいきさつではあるんだけど、ここのところはそういうことにしていて。レコーディングしたものをどんなふうに演奏するかすごく考えるし、僕たちにとってはまたレコーディングとは違った大きな挑戦だけど、すごく楽しいよ。バンドにとってとても重要な要素のひとつだし、そのことについて僕たちは本当に真剣に向き合っているんだ。レコードとパフォーマンスを同列に並べることは良いことだと思っているからね。それと同時に、それぞれを異なるものとしても扱っているんだ。実際のところ違う感覚もあるしね。ただ、その背後にある実際の思考というものは、残念ながらそれほど深い意味を持っていないんだよ。

SM:そうだね。僕たちはこれまで、好んでジャンルに縛られようと思ったことは一度もないからね。

PM:「どんな音楽をプレイしているんだ?」と訊かれても答えに窮するよね。すべてが僕たちのサウンドで、僕たちはあらゆるジャンルからいろいろなものを採り入れているんだ。それって本当に大事なことだと思うし、僕たち全員が音楽的に頑固……良い意味でとても頑固なんだ。個々それぞれが自分たちのアイデアを主張しつつも、バンドとしてひとつのまとまりあるサウンドを創ろうとしているんだよ。そうすることをお互いに許し合っている関係なんだ。僕がとある曲を思いついて作りはじめたとしても、最終的にでき上がったものは僕が自分の頭の中で聴いていたものとけして同じにはならない。必ず違ったものになる。それは誰にとっても同じで、僕たちがほかのメンバーに100パーセントのクリエイティヴな自由を与え合っているからなんだよ。もし僕が「これはさすがにやり過ぎじゃないか?」と感じたら、誰かが「オーケー、少し引き算をしよう」ってうまくまとめてくれる。「これはどう?」「こうしたらいいんじゃない?」って、僕のアイデアに寄り添うような案をいろいろ出して、当初のアイデアを最大限に活かしてくれる。どの曲についても、誰もが自分の意見をためらわずに言える環境だからこそ、でき上がった曲は伝えたいメッセージを届けることができるものになるんだ。

SM:それだけたくさんの声が入ってきて、もともとの作曲の道筋を変えてしまうんだから、ジャンルを定義するのはとても難しいよね。気がついたら、自分自身でもその曲のはじまりとはまったく違った世界にいるわけで、それこそがバンドとしての美徳だと思うし、正しいことだと思うんだ。複雑なアルゴリズムであり、僕たちはできればその正解には辿り着きたくないとさえ思っているんだ。

PM:そのとおりだよ。その瞬間こそが最大であり最高のものだと思う。『Choose Your Weapon』は僕たちにとっても重要な時期だった。僕たちはまだまだ一緒に曲作りをすることに慣れていなかったから、たとえばサイモンやベンダーが何かフレーズを弾いたとして、僕にはそれが彼らの聴いているものとは全く違ったものに聞こえていたんだ。そこで僕がすごくソリッドでハードなビートを刻んだら、意味がわからないという顔をするわけだよ。それで、「ああ、これは彼らが意図していたものじゃないんだな」って知ることになる。それで、慌てて「こんな感じかな? これだったらどうかな?」っていろいろやってみるんだけど、彼らは「いやいや、好きなように続けて。ただ好きなようにやってみればいいんだよ。後でどういうふうにまとめられるか考えるからさ」ってね。で、結局めちゃくちゃロッキンなサウンドの曲になったりして。最初にイメージしていたものとはまったく違うものになるわけだけど、みんなが同じ考え方をして、同じ方向に向かっていたらつまらないサウンドしか生まれないと思う。だからこそ、僕たちはお互いの背中を押し合って切磋琢磨しているんだ。ただ、僕たちはそれぞれ違う人間だけど、そこには絶対的なスピリットがあって、似通った感じ方や感性を共有していると思う。誰かを型にはめるようなことはしたくないけど、特に僕とネイは同じような感性を持っていると思うな。僕たちの作るものは、ちょっと荒削りというか。これは僕個人の意見に過ぎないけど、逆にサイモンとベンダーはなめらかな手触りに仕上げてくれるような気がする。スムーズに全体をまとめてくれて、すごく心地好いものにしてくれるんだ。ネイと僕は散らかったアイデアが四方八方から湧いてくる感じなんだけど、それをみんなは理解しようと努めてくれて、最終的にひとつの曲にきちんとまとめてくれるんだよね。そうだね。僕たちはただ、気持ち良いと思えるものを演っているだけなんだ。おかしな話だけど、とても素敵なことなんじゃないかと思ってるよ。

愛というものは容易に、人生における隠しコマンドになる可能性があるという受け取り方もあるかもね。愛があれば、その愛と共に人生を前進させることができる。そこから、その隠しコマンドが人生における成功や幸福をもたらしてくれるんだ。(モス)

よくわかりました。では、他の楽曲についても訊かせてください。“Dreamboat” には美しいオーケストレーションがフィーチャーされます。このアレンジは『Choose Your Weapon』で共演したミゲル・アットウッド・ファーガソン、もしくは『Mood Valiant』で共演したアルトゥール・ヴェロカイによるものですか?

SM:ええ……覚えてないな(笑)。

PM:(爆笑)僕も覚えてないよ。サイモンかベンダーが覚えてるはずだろ。

SM:いや。全部自分たちでやったんじゃないかな。最近は以前に比べてベンダーがチェロを弾くこともかなり増えたし、チェロをいろいろな部分に散りばめているんだ。素晴らしいトランペット奏者……とてもクリエイティヴな、ジミー・ボウマンというメルボルンのミュージシャンが参加してくれて、管楽器のセクションがとても充実したしね。僕はメロトロンやシンセを弾いて、ハープ奏者のメリーナに参加してもらって……というふうに、自分たちで素材を作ってそれをひとつにまとめた感じだね。もともとはオーケストラと一緒にライヴ演奏するためのアレンジがあったけど、このアルバムに向けて自分たちで全部やることにしたんだよね。

PM:この曲はもともとサイモンが書いた曲で、オーケストラ向けに作曲したものなんだ。オリジナルもすごくクールだけど、このアルバムに収録されているものほどグラマラスな感じではないというか……でも、オーケストラで演奏するのにぴったりのヴァージョンだったんだ。

SM:僕はこの曲がハイエイタスの曲になることは全然想定していなかったんだよ。よくあることなんだけどね。『Mood Valiant』の “Stone Or Lavender” にしてもそうだったよ。曲を書いた時点ではハイエイタスの曲になることは考えていなかったんだ。ただこの曲をプレイしたら、ネイが「それ何?」って興味を示して、次の日に歌詞を書いてきたんだよ(笑)。それで、「ああ、オーケー、これはハイエイタスの曲になるんだね」って。そういう面白いことがときどき起きるんだよね。でもすごく新鮮な感じだった。

他にも “Dimitri” や “BMO is Beautiful” などは注釈が必要な曲に思いますが、どんな曲ですか?

SM:たぶん合ってると思うけど、“Dimitri” はショスタコーヴィチについての曲だよね? 彼はロシアの作曲家でありピアニストである人物なんだけど、彼に関する伝説みたいな話があってね。彼は戦争に従軍したことがあるんだけど、そのときに頭に弾片を浴びたらしいんだ。戦争から戻って来たら、頭の中で無調性のメロディが聞こえるようになったらしいんだよ。頭を傾けるとメロディが聞こえていたという伝説なんだけど。この曲はベンダーが土台の部分を書いたから、全編を通してベース・コードが鳴っているんだけど、そこからベンダーとネイが曲に仕上げていったんだ。ネイは曲を書くのが本当に速くて。異常なくらいひとつの曲として成立させるのが速いんだよね。それが彼女の持つたくさんの才能のひとつでもあるんだけど。僕が知らないうちに素晴らしい “Dimitri” の基礎ができ上がっていたから、僕とペリンは自分たちのパートをそれに乗せれば良かったという感じだよ。この曲では僕がベースを弾いているんだけど、ペリンがコードのある楽器を弾きたがっていたから、そっちのパートをお願いして……「君にコードはお願いして、僕はベースを弾こうかな」ってね(笑)。まあそれはそれで良かったんだけど。

PM:(笑)次のアルバムでは、ドラムを叩きながら歌でも歌おうかな。

SM:一方、“BMO is Beautiful” では僕はベースを弾いていなくて、ベンダーがベースを弾いている曲だよ。この曲は次の “Everything’s Beautiful” へのイントロみたいな曲で、僕たちのお気に入りのアニメ・キャラクターがフィーチャーされているんだ。『Adventure Time』のビーモだよ。実はビーモ役の女優のニキ・ヤングがレコーディングに参加してくれて、とてもラッキーだったね。ちょっとキュートな間奏曲という感じで、楽しんで制作したよ。

“Longcat” についてはいかがでしょうか? ネットで話題になった日本の白い猫のことを指しているのですか?

SM:ベンダーがベースのヘッドに小さなぬいぐるみをぶら下げてて、そこから取ったタイトルなんだ。多分日本で買ったもので細長い猫だから、きっとその日本の猫と同じものかもしれないね。

では、「Love Heart Cheat Code」というタイトルについてお訊きします。「Cheat Code」はゲーム用語の隠しコマンドのようですが、そうしたゲームとかメタバース的なものも関係しているのでしょうか?

PM:そのタイトルについての解釈は自由だよ。アルバムのタイトルとしても、曲のタイトルとしてもね。受け手に自由に解釈してもらえたらと思ってるんだ。ただ、愛というものは容易に、人生における隠しコマンドになる可能性があるという受け取り方もあるかもね。愛があれば、その愛と共に人生を前進させることができる。そこから、その隠しコマンドが人生における成功や幸福をもたらしてくれるんだ。もちろん、いろいろな解釈や見方があると思うけどね。もし君がゲーマーで、ゲーム的な受け取り方をするんだったらそれはそれで良いと思うし。人生の頂点に達することが何を意味するのか? そこまで掘り下げてもいいんだ。とにかく、解釈はいつだって自由なものなのさ。

わかりました。それでは、毎回個性的で面白いアートワークをフィーチャーしたアルバム・ジャケットで、それもまたハイエイタス・カイヨーテの魅力のひとつになっているのですが、今回のアートワークについて説明してもらえますか?

PM:ネイの友だちのアーティストだったよね? ラジニ・ペレラというアーティストが書いた絵画だけど、ある晩にこのアートワークを見せてもらって、僕たち全員がすごく深く共鳴した感じがしたよ。このアートワークをアルバム・ジャケットにしようと決めるのは、本当に簡単だった。以前の作品のときは、それこそジャケットを決めるのに本当に苦心したんだけど、今回はすごくスムーズに決まったね。とても良い作品だと思ったし、このアルバムにぴったりだと思ったよ。

SM:そうだね。完璧な作品だと思う。

では最後に、『Love Heart Cheat Code』についてリスナーへのメッセージをお願いします。

SM:このニュー・アルバムを聴いてくれる人たちが楽しんでくれることを心から願っているよ。このアルバムを作るのは本当に楽しかったし、11月に来日するときにはライヴで演奏できるのをとても楽しみにしているよ。2公演が予定されているんだけど、それまでにしっかり仕上げておくからね。日本公演は世界ツアーの最後の方だから、それまでにはかなりウォーミングアップされているはずだよ。

PM:めちゃくちゃ演奏がうまくなって、全部の曲を2倍速でプレイするかもね(笑)。

通訳:時間的には短いけれど、濃厚なショーになりそうですね(笑)。

PM:20分くらいのショーになったりして(笑)。

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John Cale - ele-king

 痛くて眠れないので睡眠薬を欲しいと医師に言った。就寝前にそれを飲んで、布団のうえに痛みをこらえながら横たわる。目を閉じてしばらくすると、薬が効いてレム睡眠状態に入った。身体は寝ているのだが、頭は働いている。悪いことばかりに思いがめぐる。目を閉じているのに、自分の人生の暗い側面が断片的に昔のフィルム映画のように見える。ジョン・ケイルのことを考えよう。
 ちょうどイアン・マーティンによるインタヴュー記事をポストしたばかりだった。ぼくもあのオンライン取材に立ち会った。ケイルはヴィデオ機能をオフにしていたので、黒い画面があって、彼の声だけが聞こえた。その声は、老境に入ったアーティストらしい深みのある声で、彼の話し言葉はじつに抑揚があり、ときに激しく、ときに枯れた声で、しかも大声で笑った。それはぼくに、丘の上の古城でひとり暮らしをしている老芸術家を思わせた。
 これはもちろん、一方的かつ身勝手な空想に過ぎないのだが、ついついぼくはジョン・ケイルをそうしたゴシック的な風景のなかにおいてしまう。ヴェルヴェッツのファーストには(じつに先駆的な)ゴシック的な要素があったし、彼はゴシック・ロックの先駆的作品、ニコの『The Marble Index』(もうひとりのゴシック・ロックの先祖、ジム・モリソン登場の1年後のアルバム)の共同制作者だし、彼のソロ作品『Fear』のジャケットからは『カリガリ博士』や『ノスフェラトゥ』めいた世界を連想してしまうのだった。まあ、もちろんそれらはまったくの別物なのだが、こうした自分の勝手な夢想は、ヴェルヴェッツにおけるケイルの陰鬱なヴィオラが耳にこびりついてしまったのがきっかけだ。遊び心あふれる新作を出したばかりの彼なら、許してくれるだろう。

 ジョン・ケイルの新作は、神経をすり減らすような前作『Mercy』における実験性とは打って変わって、彼流のポップ・ソング集である。ケイルがお茶目でユーモアのセンスを持つ人間であること、そして、18歳でピアノの神童となった彼が高度な専門教育を受けたヴィルトゥオーソであることはよく知られている。イーノの評伝『On Some Faraway Beach』にある回想によれば、「1日に7つの新聞を取り寄せ、テレビをつけ、電話をそばに置く」人間でもあったそうだ。ブレヒトやディラン・トマスを主題にする芸術家でありながらも、市民的な関心事に積極的なのだ。
 ケイルのこうした、陽の部分が今回のアルバムに広がっていることは、レーベルが用意した写真からもうかがえる。全曲メロディアスだ。モノクロームではない、カラフルで軽快な曲調。彼が言うように、作中に怒りが込められていることなど、曲をただ聴いている限りでは、ことに日本人リスナーにはわかろうはずもない。
 その曲からウェールズという土地のことまで連想することはないが、“Davies And Wales”は好きな曲のひとつだ。まるでこれは、ドリーム・ポップだと言いたくなる。続く“Calling You Out”もいい。ラウンジーなこの曲を聴いているとやさしい気持ちになれるからだ。人類への失望を主題に、機械でビートが刻まれる“Edge Of Reason”にしても、曲が進行するといつしか聖歌隊の歌のように思えてくる。“I’m Angry”という曲名の曲にしてもそうだ。怒りを歌っているというのに、あたかも切ないライヴ・ソングじゃないか。
 “How We See the Light”は今作のなかでもっとも愛される曲になるのだろうが、それに続く本人お気に入りの歌詞「右翼が図書館を焼き払っている」のある“Company Commander”は、滑らかな作中にあってとげとげしい残響を残している。ただし、彼のパンクな一面がもっとも格好良く表現されているのは“Shark-Shark”で間違いない。ここでのギザギザなギター演奏は、アルバムでもっともヴェルヴェッツに接近しているパートだ。“Funkball the Brewster”の静的な広がりも、「地獄に堕ちろと言っておくれ/全力でそうするよ」とひねくれた歌詞も、本作を特徴付けるポップと実験性という点においてすばらしい。

 アート・ロックというジャンル用語をたどると、ヴェルヴェッツや初期ロキシー・ミュージック、マジック・バンドらに行き着く。こうしたバンドには、その内部において異なるもの同士の衝突があった。ロックらしかぬものをロックに落とし込むのではなく、衝突によって生じた割れ目をぐいっと拡げてそこに新たなスペースをつくる。20世紀のそうした音楽をアート・ロックと呼んだのであれば、ロックはロック以上のものになろうとしているという当時の熱量を推し量ってわからなくはない。

 ケイルが前作と違ってほとんどひとりで作ったアルバム(そういう意味では今回のほうが“ソロ”と言える)の、サウンドの多彩さ、複雑さに焦点を当ててみる。心地よさと気色悪さを併走させている緻密なアレンジのなかにはサンプリングやノイズも含まれている。そしてこの老芸術家は怒っている。その感情をわからせないために、言葉とサウンドの微妙なニュアンスを駆使している。
 『POPtical Illusion』は安心させはしないことで安心させるアルバムだ。アルバムの題名はある種のギャグで、神経をすり減らすことはないし、陰鬱な要素はない。ぼくのなかの丘の上の古城の老芸術家が、クスクス笑いながら床一面に玩具を並べている。うまく眠れない夜にはちょうど良いのだ。

Aphex Twin - ele-king

 問答無用。昨年は趣向を凝らしたシングル「Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760」でわれわれをわくわくさせてくれたエイフェックス・ツインだけれど、新たな朗報の到着だ。この3月に30周年を迎えた1994年の問題作にして名作『Selected Ambient Works Volume II』が新装版となって蘇ることになった。
 CD3枚組、LP4枚組に再編された同作には、これまでLPでしか聴けなかった “#19”、フィジカルではリリースされていなかった “th1 [evnslower]”、今回初の公式リリースとなる “Rhubarb Orc. 19.53 Rev” が追加音源として収録される。発売は10月4日。というわけで、稀代のアルバムをあらためていま大いに楽しもうではないか。

 ちなみにele-kig booksからは『Selected Ambient Works Volume II』の秘密をさぐる書籍『エイフェックス・ツイン、自分だけのチルアウト・ルーム』を刊行しています。ぜひそちらもチェックしてみてください。

エイフェックス・ツイン
〈WARP〉第一弾アルバムにして
音楽史に残るアンビエントの大名盤
『Selected Ambient Works Volume II』

30周年記念新装エクスパンデッド・エディション発売決定!
・日本限定3枚組CDボックスセット
・日本語帯付き4枚組LP
・Tシャツ付セット
予約受付スタート!

これまでLP盤のみでしか聴けなかったレア音源
「#19」公開!

エイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムスが、1994年に若干22歳で発表した音楽史に残るアンビエントの大名盤『Selected Ambient Works Volume II』。エイフェックス・ツインにとっては〈WARP〉移籍後第一弾アルバムでもある記念碑的作品が、リリースから30周年を迎え、追加音源を加えた新装エクスパンデッド・エディションでリリースされることが発表された。

今回の30周年記念新装エクスパンデッド・エディションは、日本限定3枚組CDボックスセット、日本語帯付き4枚組LP、輸入盤3枚組CD、輸入盤4枚組LP、そしてTシャツ付セット(日本限定3枚組CDボックスセット/日本語帯付き4枚組LP)の形態でリリースされる。また、これまでLP盤のみでしか聴けなかった「#19」、初めてフィジカル・フォーマットでリリースされる「th1 [evnslower]」、今回初めて公式リリースされる「Rhubarb Orc. 19.53 Rev」が追加音源として収録される。また今回の発表に合わせて「#19」が公開された。

日本限定3枚組CDボックスセット

輸入盤3枚組CD

輸入盤4枚組LP

日本限定3枚組CDボックス+Tシャツセット

日本語帯付き4枚組LP+Tシャツセット

Aphex Twin - #19
https://youtu.be/iHzuygQd3do

新装盤となったエクスパンデッド・エディションのデザインは、オリジナルのアートワークを手がけ、エイフェックス・ツインの代名詞でもあるロゴもデザインしたポール・ニコルソンが担当している。

[3CD Tracklist』
CD01 - 1. #1
CD01 - 2. #2
CD01 - 3. #3
CD01 - 4. #4
CD01 - 5. #5
CD01 - 6. #6
CD01 - 7. #7
CD01 - 8. #8
CD01 - 9. #9

CD02 - 1. #10
CD02 - 2. #11
CD02 - 3. #12
CD02 - 4. Blue Calx
CD02 - 5. #14
CD02 - 6. #15
CD02 - 7. #16
CD02 - 8. #17
CD02 - 9. #18
CD02 - 10. #19 

CD03 - 1. #20
CD03 - 2. #21
CD03 - 3. #22
CD03 - 4. #23
CD03 - 5. #24
CD03 - 6. #25
CD03 - 7. th1 [evnslower]
CD03 - 8. Rhubarb Orc. 19.53 Rev

[4LP Tracklist]
A1. #1
A2. #2
A3. #3

B1. #4
B2. #5
B3. #6
B4. #7

C1. #8
C2. #9
C3. #10

D1. #11
D2. #12
D3. Blue Calx
D4. #14

E1. #15
E2. #16
E3. #17
E4. #18

F1. #19
F2. #20
F3. #21

G1. #22
G2. #23
G3. #24

H1. #25
H2. th1 [evnslower]
H3. Rhubarb Orc. 19.53 Rev

label: Warp Records
artist: Aphex Twin
title: Selected Ambient Works Volume II (Expanded Edition)
release: 2024.10.4

日本限定3枚組CDボックスセット:¥6,000+tax
日本語帯付き4枚組LP:¥10,400+tax
輸入盤3枚組CD:¥3,800+tax
輸入盤4枚組LP:¥10,000+tax
日本限定3枚組CDボックスセット+Tシャツ:¥11,000+tax
日本語帯付き4枚組LP+Tシャツ:¥15,200+tax
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14189

Jeff Mills - ele-king

 去る4月、戸川純をフィーチャーした舞台作品およびそのサウンドトラックで注目を集めたジェフ・ミルズ。早くもニュー・アルバムの登場だ。題して『The Eyewitness(目撃者、証人)』、発売は7月5日。いかにしてメンタル・ヘルスの状態を良好に保つか、その対処法を示すためにつくられたアルバムだという。
 先行シングルとして、“Those Who Worked Against U” が昨日6月18日にリリースされている。ジミ・ヘンドリックスの “星条旗” にインスパイアされたこの曲は、わたしたち自身について、わたしたちの世界について、わたしたちが未来に向かう道筋について再考するときがあらためて訪れているのではないかという、その目覚めのコール、警鐘なのだそうだ。

 アルバムに寄せられたミルズのメッセージは下記より。


トラウマとその衝撃効果、つまり厳しい現実の残滓はあまりに影響力が強いため、自分をとりまくみんなやあらゆることについて、想像をめぐらせたり、いいことを思い描いたり、そのなかでみずからの立場を見定めたりする方法を固めてしまいます。新しいタイプの心理的な輪が発達し、境界が強化され、人間関係は後退、傷ついたちっぽけなシステムはあてもなく漂うことになります。価値ある目的を連想させるいかなるものに対しても脆弱に、また、そうしたものによってこそ脆弱になります。事実についての真実は嘲笑的な独白に、批判的な調整を欠いた行き場のない表現になります。わたしたちはみな、以前そうなってしまっただれか、もしくはこれからそうなるだろうだれかを知っているはずです。
──ジェフ・ミルズ

Artist: Jeff Mills
Title: The Eyewitness
Format: Double vinyl / Digital album
Label: Axis Records
Release date: 05.07.24

Single ‘Those Who Worked Against Us’
out 18.06.24

Tracklist:
A1. In A Traumatized World
A2. Menticide
B1. Those Who Work Against Us
B2. Surge Complex
C1. Indoctrination
C2. Wonderous Butterfly
D1. Menticide (Repeat Victimization)
D2. No Safe Place
D3. Mass Hypnosis

Burial / Kode9 - ele-king

 ベリアルとコード9からサプライズです。両者によるスプリット・シングル「Phoneglow / Eyes Go Blank」が本日6月18日、ディジタルでリリースされています(MP3/WAV/FLAC)。〈Hyperdub〉のページによると、夏には12インチも控えているようです。ふたりのタッグは昨年の『Fabriclive 100』のEP以来。今年初頭、〈XL〉からのリリースで話題をさらったベリアルですが、ちゃんと〈Hyperdub〉とも関係が続いているようですね。しかし、ジャングルを独自進化させるコード9に対し、ベリアルのこのビートは……ぜひ自分の耳で確かめてください。

https://hyperdub.net/products/burial-kode9-phoneglow-eyes-go-blank

Larry Levan 70th Birthday Bash - ele-king

 まごうことなきレジェンド。1977年からNYのクラブ《パラダイス・ガラージ》のDJとして活躍、そこでかかっていた音楽がガラージと呼ばれるようになったわけだが、後世のダンス・ミュージックに多大な影響を与えたこのラリー・レヴァン(92年没)の生誕70周年を祝し、新宿ブリッジにて記念パーティが開かれることになった。
 7月5日(金)にはフランスからディミトリ・フロム・パリが来日、MURO、discoSARAとともに副都心の夜を彩る。7月14日(日)にはラリー・レヴァンから後継者に指名されたヴィクター・ロサドがロング・セットを披露。そしてラリー・レヴァンの誕生日7月20日(土)には、彼と親交のあった高橋透とDJ Noriが愛とリスペクトを込めたプレイを堪能させてくれる予定だ。なんとも豪華な3連打、この7月は新宿でアツい夜を過ごしたい。

日本のクラブシーンの黎明期に多大な影響を与えたニューヨークの聖地Paradise Garage。世界中にガラージサウンドの信奉者を生み出した伝説のDJ、Larry Levanの誕生日は7月20日、もし彼が生きていれば70歳である。

DJ BAR Bridge SHINJUKUでは、7月5日(金)数々の傑作リミックスワークをリリースしているKing of Disco Dimitri from Parisが登場しKing of Diggin’ Muroと共演。7月14日(日)には生前のLarryが自らの後継者に指名したVictor Rosadoがオープンtoクローズのロングセットを披露。そしてLarryの誕生日当日である7月20日(土)は東京の伝説的なクラブGoldにてレジデントDJを務めたTohru TakahashiとDJ Noriの2人が出演する。

Larry Levan live at Paradise Garage 1985
https://youtu.be/luAx0xKWiRo?si=kzYt599ad20kS5NV

7月5日(金)
World Connection - Dimitri from Paris -

Lineup:
Dimitri from Paris
MURO
discoSARA

Open: 20:00 Start: 21:00
Door ¥2000

昨年7月にもダンスフロアを大いに沸かせたフランスからの刺客、Dimitri from Parisが今年も新宿Bridgeに帰ってくる。昨年のDJ NORIに続きCAPTAIN VINYLからMUROとの共演が決定、ハッピーヴァイブス全開のdiscoSARAもデッキに立ち、心と体を解放してくれる一夜となるだろう。

Glitterbox Radio Show 364: Dimitri From Paris Takeover
https://soundcloud.com/glitterboxibiza/glitterbox-radio-show-364-dimitri-from-paris-takeover

7月14日(日/祝前日)
World Connection - Victor Rosado all night long -

Lineup:
Victor Rosado

Open: 20:00 Start: 22:00
Door: ¥2000

1987年惜しまれながらクローズしたNYのクラブParadise GarageのレジデントDJ、Larry Levanに唯一、次のLarryになる素質を見込まれ寵愛されたVictor Rosadoが7時間セットを聴かせてくれる。
今回は、REY AUDIO製ロータリーミキサーDJM-1、レコードプレイヤーには、Space Lab YELLOWでも使用していたTHORENS TD521 + SME トーンアーム309 + MCカードリッジのセッティングで音源本来の力を引き出す。最高な音とNYの黄金時代が生んだレジェンドDJの技術とセンスが生み出すサイケデリック空間を体験してほしい。

Victor Rosado fabric Promo Mix
https://www.mixcloud.com/fabric_London/victor-rosado-fabric-promo-mix/

7月20日(土)
Larry Levan 70th Birthday Bash!!

Lineup:
Tohru Takahashi
DJ NORI

Open: 20:00 Start: 22:00
Door: ¥1500

NYの伝説のクラブ、Paradise GarageでGarage soundと呼ばれるスタイルを確立した真の伝説のDJ、Larry Levan。生きていれば今年70歳になる7月20日、珍しくTohru Takahashiから「ラリーのバースデイバッシュをやろう!」とDJ NORIに声がかかった。Paradise Garageを体験し、Larryとも親交のあった2人の想いは計り知れず、偉大な先駆者への愛とリスペクトを込めた貴重な音楽体験になるだろう。

Amen Dunes - ele-king

 声以上に発声、ソングライティング以上に歌唱の揺らぎでデイモン・マクマホンは聴き手を魅了してきた。歌が彼の喉を通過するとき、それは微妙に曲がり、ひしゃげ、不定形なものへと姿を変えて現れる。僕にはそれが世間の定型にはまらない(はまれない)人間から生まれるもの、あるいはそういう類の人間のためのものに聞こえたし、その音楽は「アヴァン・ポップ」、「サイケデリック・フォーク」といった形容からも居心地悪そうにはみ出すように感じられらた。彼のプロジェクトであるエーメン・デューンズは〈セイクリッド・ボーンズ〉からリリースした『Love』(2014)と『Freedom』(2018)でクラシック・ロックのソングライティングに接近したとして批評的な成功をおさめたが、それもまた、マクマホンの世間ずれしたイメージに依拠したものではなかったか。なにしろ「愛」と「自由」である。彼のカウンター・カルチャーの時代への憧憬は、荒んだ現代におけるレイドバックした逃避として聴く者を癒していたかもしれない。僕だって、『Freedom』に収録されたヒプノティックなフォーク・ロック・チューン “Believe” を何度も何度も聴きながら、立ちあがる酩酊に身体と精神を預けていたのだった。

 スリーフォード・モッズとコラボレーションしたニヒリスティックなシングル “Feel Nothing” (2021)を挟み、〈Sub Pop〉からのリリースとなった6作め『Death Jokes』(邦題『死をネタに』)は、ここ2作で深めた内省の先でより曖昧な領域に踏みこんでいる。まず変わったのはサウンドだ。生音主体のフォーク・ロック色が強かった前作とは異なり、乾いた音のドラムマシンの上でサンプリングとストリングスやシンセの断片が入り乱れるサウンド・コラージュの趣が強くなっている。アルバム前半、“What I Want” などを聴くとマクマホンらしい脱力しつつもメランコリックに光るメロディを感じられるのだが、たとえば “Rugby Child” は打ちこみのビートのズレが平衡感覚を失わせ、そちらのほうに気を取られる。サイケデリック……と言っていいのかもしれないが、そこでは激しさとゆるさがぶつかり合って撹拌されている。リード・ナンバー “Purple Land” のフワフワしたサイケ・ポップは2000年代なかば辺りのアニマル・コレクティヴを連想させるかもしれない。いずれにせよ締まりのない音楽で、つねにルーズな感覚を持った彼の声……いや発声もあり、エレクトロニックな要素を高めて過去作以上に浮遊感に包まれた一枚になっている。
 この淡いトリップとともに現代社会のカオスが現れては消えていく。“Rugby Child” はロックダウンを背景とした孤立のなかのオーヴァードーズをモチーフにしているというし、叙情的なギターが聞こえる “Boys” は暴力が連鎖する様を描写しているように思える(「子どもたちが殺しにやって来る/なぜならあなたがしたことはすべて、あなたがされたことだから」)。ウディ・アレンとレニー・ブルースの死にまつわるジョークがサンプリングされているように、このアルバムはどこか死そのものを夢想するようなところがある。現実社会を厭い、この世ではない場所を思うことで発生する酔いなのだ。
 しかしながら、本作でもっとも弾き語りフォーク色が強い “Mary Anne” はマクマホンが幼いときに女性から受けた性的虐待をテーマとし、同じような経験を持つ者たちで精神的なつながりを生み出しうることを歌っている。マクマホンは過去に「女性とコレボレーションはできない」と発言したことが切り抜かれて批判され、その背景に虐待のトラウマがあったことを説明せざるをえない状況に陥ったのだが、歌のなかではそうしたソーシャル・メディア上での騒ぎと異なる次元での内省が親密に共有される。そして、9分にわたって正気を失っていくような “Round the World” では自分の内側で起こっている混乱と世界の混沌が混ざり合った状態で示され、ふと子どもに向けて「世界はだいじょうぶだ」とつぶやくのである。それはもう理性的な言葉とは言えないかもしれないが、破滅的な世界を見つめてなお何かしらの希望を持つためのトリップがそこには存在する。
 正気を保って生活を送ることすら困難な毎日だ。恐ろしいことがありとあらゆる場所で起き、その情報の断片が次々に入ってくる。自身の内面の混乱そのものに耽溺するという意味でエーメン・デューンズは間違いなく逃避的な音楽だが、逆説的にその時間は世界で起きていることと向き合い、どうにか日々の暮らしをやり過ごすための力を蓄えさせてくれる。

書店は文化である。今、本屋が熱い!

出版不況が叫ばれる中、独立書店と呼ばれる「新しい形の町の本屋」が次々と開店している。今日も日本中で個性的な魅力のある空間が生み出されている。
そこで本書では18人の書店主たちの貴重な体験の証言により、不況でも情熱とアイデアで本屋を始められる時代に生まれた、現代の “本屋のかたち” を探る。

(登場書店 全18店名)
フラヌール書店/なタ書/本屋ルヌガンガ/シカク/ON READING/BOOKSHOP本と羊/機械書房/mountain bookcase/そぞろ書房/twililight/アルスクモノイ/本屋象の旅/FOLK old book store/READAN DEAT/YATO/ひるねこBOOKS/WARP HOLE BOOKS/BOOKSHOP TRAVELLER

四六判並製/192ページ

目次

まえがき

巻頭
BOOKSHOP TRAVELLER
狭さにこそ価値がある 和氣正幸

第一章 町で本屋をやってます 様々な本屋経営を知る

フラヌール書店 久禮亮太
なタ書 藤井佳之
本屋ルヌガンガ 中村勇亮
シカク 竹重みゆき

独立書店の勃興~本屋ライターの個人史①~和氣正幸

第二章 私が本屋を開くまで 準備から継続まで

BOOKSHOP本と羊/機械書房/mountain bookcase/そぞろ書房/twililight/アルスクモノイ/本屋象の旅/FOLK old book store/READAN DEAT/YATO/ひるねこBOOKS/WARP HOLE BOOKS

あたらしい本屋の形~本屋ライターの個人史②~和氣正幸

第三章 本から本屋を考える 本屋をめぐる状況を知ろう 和氣正幸

街の本屋の生存探究、あるいは本の生態系について

本を読む、あるいは読まなくなった理由について

棚貸し本屋の現在

本屋をはじめたいと思ったら

[監修者プロフィール]
和氣正幸(わき・まさゆき)
本屋ライター。東京・祖師ヶ谷にある本屋のアンテナショップBOOKSHOP TRAVELLERの店主でもある。2010年よりサラリーマンを続ける傍らインデペンデントな本屋をレポートするブログ「本と私の世界」を開設。現在は独立して、「本屋をもっと楽しむポータルサイトBOOKSHOP LOVER」の運営を中心に、“本屋入門”などのイベントも開催。そのほか東京新聞での連載「BOOKS」など各種媒体への寄稿、電子図書館メルマガの編集人など本屋と本に関する活動を多岐にわたり行う。

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
Yahoo!ショッピング
HMV
TOWER RECORDS
紀伊國屋書店
e-hon
Honya Club
キャラアニ・ドットコム

P-VINE OFFICIAL SHOP
SPECIAL DELIVERY

全国実店舗の在庫状況
紀伊國屋書店
三省堂書店
有隣堂
くまざわ書店
TSUTAYA
大垣書店
未来屋書店/アシーネ

お詫びと訂正

このたびは弊社商品をご購入いただきまして誠にありがとうございます。
『さあ、本屋をはじめよう 町の書店の新しい可能性』に誤りがありました。
謹んで訂正いたしますとともに、お客様および関係者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

P137

ネイバーフッドを大切に。


ネイバーフッドを大切に。
 と言いながら本日、出したかったものが一つ締切に間に合いませんでした。
 現実と理想はかくも距離があるものです……。

P137~138

インターネットで本を買うという行為が浸透している現在では、体験としての書店空間に価値を見出すには、違いがある方が豊かだと思うので。
 と言いながら本日、出したかったものが一つ締切に間に合いませんでした。
 現実と理想はかくも距離があるものです……。


インターネットで本を買うという行為が浸透している現在では、体験としての書店空間に価値を見出すには、違いがある方が豊かだと思うので。

K-PUNK 自分の武器を選べ──音楽・政治 - ele-king

「グラム・ロックこそパンクである──歴史的にもコンセプトにおいても」

彼を一躍人気作家にしたブログ「K-PUNK」から選集されたマーク・フィッシャーの原点にして最終作

21世紀初頭において、もっとも影響力のある
労働者階級出身の批評家によるエッセイ/論考集の「音楽・政治」編
資本主義の向こう側に突き抜けるための思考の記録

思想家/批評家、マーク・フィッシャーの人気を決定づけたブログ「K-PUNK」からのベスト・セレクションの第二弾。著書『資本主義リアリズム』で広く知られるフィッシャーだが、彼の批評活動の原点にあるのは音楽だ。その音楽批評には彼の政治思想が共鳴している。グラム・ロックやポスト・パンクからサッチャーにトランプまで。資本主義にも、音楽のレトロ化にも、頭でっかちなアカデミックな考えにも、左翼の高級化にも反対し続けた批評の数々。

本書で言及される音楽:
ロキシー・ミュージック、ブライアン・フェリー、デイヴィッド・ボウイ、グレイス・ジョーンズ、ケイト・ブッシュ、スージー・アンド・ザ・バンシーズ、ジョイ・ディヴィジョン、マーク・スチュワート、ザ・フォール、ザ・バースデー・パーティ、ギャング・オブ・フォー、スクリッティ・ポリッティ、テスト・デパートメント、ザ・キュアー、アンダーグラウンド・レジスタンス、モロコ/ロイシン・マーフィ、カニエ・ウェスト、ジェイムス・ブレイク、ドレイク、ダークスター、DJラシャド、スリーフォード・モッズ、ほか。

本書で扱われるテーマなど:
ポスト・フォーディズム、新自由主義、サッチャー、9・11と監視社会、ブレアと新しい労働党、テロリズム、メンタル・ヘルス、トランプとブレグジット、「コミュニスト・リアリズム」、ほか。

四六判/648頁

目次

日本語版編者序文

第三部
自分の武器を選べ:音楽関連の著述 (坂本麻里子+髙橋勇人訳)

今や恒例、グラストンベリーに対する暴言
アート・ポップ、いや、これは本物のそれの話
k‐パンク、あるいはグラムパンクなアート・ポップの非連続体
反資本としてのノイズ──『アズ・ザ・ヴィニア・オブ・デモクラシー・スターツ・トゥ・フェイド(民主主義の虚飾が消え薄れはじめるにつれて)』
うたた寝から目覚めたライオン、あるいは今日における昇華とは?
今におけるすべての外部
あなたの不快楽のために──ゴスの尊大なオートクチュール
僕たちみんな死んでしまおうが構わない──ザ・キュアーの不浄なる三位一体
光を眺めてごらん
ポップは不死身なのか?
クラーケンのメモレックス──ザ・フォールのパルプ・モダニズム パート1~3
スクリッティの甘美な病い
病理としてのポストモダン主義、パート2
自分の武器を選べ
あるテーマの変奏
ランニング・オン・エンプティ
ユー・リマインド・ミー・オブ・ゴールド──マーク・フィッシャーとサイモン・レイノルズとの対話
戦闘的傾向は音楽を養う
オートノミー・イン・ザ・UK
二一世紀の隠れた悲しみ──ジェイムス・ブレイクの『オーヴァーグロウン』
デイヴィッド・ボウイ、『ザ・ネクスト・デイ』評
すべてを持っている男──ドレイクの『ナッシング・ワズ・ザ・セイム』
ブレイク・イット・ダウン――DJラシャドの『ダブル・カップ』
自分のナンセンスを始めろ!──イーエムエムプレックズとドリー・ドリーについて
スリーフォード・モッズの『ディヴァイド・アンド・イグジット』と『チャブド・アップ:ザ・シングルズ・コレクション』評
テスト・デパートメント──左派理想主義と大衆モダニズムが出会う場
融資なしじゃロマンスはあり得ない

第四部
今のところ、我々の欲望には名前がない:政治に関する文章 (五井健太郎訳)

投票するな、奴らをその気にさせるな
一九七九年十月六日──資本主義と双極性障害
彼らが抗議して、皆が参加したからといって、いったいそれで何になるというのか
ヒドラを退治すること
テロリズムの顔なき顔
衒示的武力と害虫化
私の人生、私のカード──アメックス・レッド・キャンペーンについての注解
グレート・ブリンドン・クラブ・スウィンドル
ストレスの民営化
囲い込み(ケトル)の論理
不満の冬2.0――戦闘性の一ヶ月に関するメモ
フットボール/資本主義リアリズム/ユートピア
ゲームは変化した
創造的資本主義
現実の管理経営(マネジメント)
UKタブロイド
未来はいまだ我々のもの――オートノミーとポスト資本主義
美学的な貧困
確実なのは死と資本だけ
メンタル・ヘルスはなぜ政治の問題なのか
ロンドン版ハンガー・ゲーム
時間戦争──新資本主義時代のオルタナティヴに向けて
上手く負けるのではなく、勝つために戦うこと
マーガレット・サッチャーの幸福
微笑みとともに苦しむこと
ゾンビの殺し方──新自由主義の終わりを戦略化する
殺人罪を逃れ切ること
誰も退屈していない、すべてが退屈させる
影のための時間
未決状態は終わった
コミュニスト・リアリズム
今こそ痛みを
希望を棄てろ(夏がやって来る)
今のところ、我々の欲望には名前がない
アンチ・セラピー
民主主義とは喜びである
サイバーゴシック対スチームパンク
マネキン・チャレンジ

索引

[著者]
マーク・フィッシャー(Mark Fisher)
1968年生まれ。ハル大学で哲学の学士課程、ウォーリック大学で博士課程修了。ゴールドスミス大学で教鞭をとりながら自身のブログ「K-PUNK」で音楽論、文化論、社会批評を展開する一方、『ガーディアン』や『ワイアー』などに寄稿。2009年に『資本主義リアリズム』を、2014年に『わが人生の幽霊たち』を、2016年に『奇妙なものとぞっとするもの』を上梓。2017年1月、48歳のときに自殺。邦訳にはほかに講義録『ポスト資本主義の欲望』、ブログからの選集第一弾『K-PUNK 夢想のメソッド──本・映画・ドラマ』がある。

[訳者]
坂本麻里子(さかもと・まりこ)
1970年東京生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。ライター/通訳/翻訳者として活動。ロンドン在住。訳書にコージー・ファニ・トゥッティ『アート セックス ミュージック』、ジョン・サヴェージ『この灼けるほどの光、この太陽、そしてそれ以外の何もかも』、マシュー・コリン『レイヴ・カルチャー』、マーク・フィッシャー『K-PUNK 夢想のメソッド』ほか多数。

髙橋勇人(たかはし・はやと)
1990年、静岡県浜松市出身。ロンドン在住。早稲田大学国際教養学部卒業後、ロンドン大学ゴールドスミス校で社会学修士課程と文化研究博士課程を修了。ウィンチェスター美術学校でメディア論を教える。音楽ライターとして、ハイパーダブの日本版ライナーノーツを執筆し、DJなどの音楽活動も行っている。

五井健太郎(ごい・けんたろう)
1984年生まれ。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はシュルレアリスム研究。訳書にマーク・フィッシャー『わが人生の幽霊たち』『奇妙なものとぞっとするもの』、ニック・ランド『暗黒の啓蒙書』『絶滅への渇望』、共著に『統べるもの/叛くもの』『ヒップホップ・アナムネーシス』など。

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