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interview with Animal Collective (Panda Bear)

interview with Animal Collective (Panda Bear)

21世紀初頭の最も重要なサイケデリック・ロック・バンドは、結成およそ20年後のいま何を思うのか

──アニマル・コレクティヴ、インタヴュー

質問・文:天野龍太郎    通訳:中村明子 Photo by Hisham Bharoocha   Feb 09,2022 UP

「リモートでやって繋ぎ合わせても大丈夫なくらいに熟知している曲はどれか」っていう決め方になっていたような気がするね。このアルバムの制作は、曲がりくねった川を進んでいくような感覚だった。

 2021年10月、アニマル・コレクティヴのニュー・アルバム『タイム・スキフズ』からファースト・シングルとして切られた “プレスター・ジョン”。思わせぶりなタイトルのその曲を聴いたときに驚いたのは、伸びやかなアンビエンスをたっぷりと含んだドラムの響きを中心としたバンド・アンサンブル、そしてパンダ・ベアとディーキンとエイヴィ・テアが歌声を重ねて織り上げたメロディに、生き生きとしたよろこびのようなものが備わっていたことだった。バンド・アンサンブルのよろこび! そんなものをアニマル・コレクティヴに期待したことなんて、一度もなかったからだ。20年近いキャリアにおいて、彼らがバンド然としていたことなんて、ほとんどなかった。それほどの変化、これまでにない試みを、その曲に感じた。

 今回、パンダ・ベアことノア・レノックスに、『タイム・スキフズ』についてインタヴューをするにあたって最初にやったのは、このアルバムがどこからはじまっているのかを探ることだった。新作に至るまでの道のりを、少し振り返ってみよう。
 2016年の前作『ペインティング・ウィズ』は、ディーキンは不在で、パンダ・ベア、エイヴィ・テア、ジオロジストの3人がつくったアルバムだった。その後、2018年の『タンジェリン・リーフ』はパンダ・ベア以外の3人がつくったもので、これはコーラル・モルフォロジック(海洋学者のコリン・フォードとミュージシャンのJ.D.・マッキーからなるアート・サイエンスのデュオで、危機に瀕している珊瑚礁の美しさ、その保護などを映像作品やイヴェントを通して伝えている)とのコラボレーション、そして「国際珊瑚礁年」を祝すことを主眼にした映像作品だった。そして、2020年には『ブリッジ・トゥ・クワイエット』という、2019年から2020年にかけてのインプロヴィゼーションを編集した、抽象的なEPを発表している(もちろん、この間、メンバーはそれぞれにソロでの活動もしている)。
 2019年のライヴ動画を YouTube で見て気づいたのは、パンダ・ベアがドラム・セットを叩き、ディーキンを加えた4人でライヴをしていたことだった。そこには、いかにも「バンド」といったふうの並びで、新曲を集中してプレイする4人がいた。どうやら、『タイム・スキフズ』は、このあたりからスタートしているらしい。とはいえ、『タイム・スキフズ』という作品を、アニマル・コレクティヴがふつうのロック・カルテットとしての演奏を試みただけのアルバムだとしてしまうのは早計だ。

 プレス・リリースには、「成長した4 人の人間関係や子育て、大人としての心配事に対するメッセージを集めたものでもある」と綴られている。ひたすら音の遊びを続けていた4人の少年たちは、2022年のいま、誰がどう見ても「大人」の男たちである。言うなれば、『タイム・スキフズ』は、彼らが「成熟」という難儀なものをぎこちなく受け入れて、それをなんとか音に定着させたレコードとして聴くことができるだろう。
 子ども部屋のようなスタジオのラボで音に遊んでいたアニマル・コレクティヴのメンバーは、いま、それぞれの活動拠点で、その地に根づいた市民社会や共同体、家族のなかで生きている。そんなことを象徴し、『タイム・スキフズ』を予見させた出来事として、彼らがあるアルバムのタイトルを変更したことが挙げられる。『ブリッジ・トゥ・クワイエット』と過去のカタログを Bandcamp でリリースするにあたって、バンドは、“Here Comes the Indian(インディアンがやってきたぞ)” という2003年のデビュー作の題を “Ark(箱舟)” へと改めた。なぜなら、彼らは、当初のタイトルを「レイシスト・ステレオタイプ」だとみなしたからだ。
 今回のインタヴューでパンダ・ベアは、「アメリカのバンドであることについて、昨今それが自分たちにとって何を意味しているのかについて」バンド内で意見をシェアしたと語った。それは前記のことと直接的に関係しているだろうし、現にこのアルバムには “チェロキー” というネイティヴ・アメリカンの部族、および彼らの文化が残る土地に由来する曲が収められている。
 4人の「元少年たち」が、極彩色のサイケデリックな夢を描いていたインディ・ロック・バンドが、なぜいま「アメリカのバンドであること」について考えなければいけなかったのか。それは、パリ協定からの離脱を断行し、議会襲撃事件を煽り、ツイッターから締め出されたあの男のことを思い出さなくても、じゅうぶんに理解できる。

 だからといって、身構える必要もない。最初に書いたとおり、『タイム・スキフズ』は、バンド・アンサンブルの自由で清々しいよろこびが詰まったLPである。ぼくにとっては、あの素晴らしい『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』や『ストロベリー・ジャム』に次ぐフェイヴァリットだ。
 さて。前置きはこれくらいにして、パンダ・ベアの言葉を聞こう。

ドラムを音色の楽器だと考えるようになり、どう叩くとどういう音色になるかとかじっくり考えて。感触やスウィングがどう曲にフィットするかを考えたんだ。ロックのヘヴィなサウンドではなくて、すごく軽くしたかったというか、静かに演奏したいと思ったんだよね、ほとんどメカニカルと言えるくらいに。

いま、どちらにお住まいですか? そちらは、パンデミックの影響はどんな感じでしょうか?

パンダ・ベア(PB):リスボンだよ。コロナはオミクロンの波が来て2、3週間感染拡大が続いていたけれど、ようやく終わりに近づいてきたところなんだ。感染者数は激増しても入院や死亡者数がかなり抑えられていたから、それなりにうまくいったと言えるんじゃないかな。(編集部註:取材は1月中旬)

まずはディーキンがバンドに戻って、4人で再び演奏や作曲をするようになった過程や理由を教えてください。

PB:10代でバンドをはじめたときにもともとのアイディアとしてあったのが、緩くつながる集団というか、必ずしも毎回4人全員が参加するというものではなかったんだよ。それぞれがいろんなことをやる、っていう考え方が気に入っていたんだ。その時々で呼び名も変えていいかもしれないし、ジャズのミュージシャンがよくやっているみたいに、その時参加している演奏者の名前がバンド名になる、みたいな。たとえば、トリオとして集まって5年くらいライヴやレコーディングを精力的にやる。でも、それぞれが他の人とも組む。そうやって常に変化し続けるというのが、グループの最初のアイディアだった。でも一時期はそのアイディアから遠ざかっていたような気がするんだよね。2006年頃の4年間くらいは従来的なバンドの周期だったというか、レコーディングして、ツアーをして、というのをひたすら繰り返していて。でもこの7、8年くらいはもともと持っていたエネルギーを取り戻した感じがあって、僕としてはすごく気に入っているんだよ。それによって新鮮味を保つことができると思うし、次がどうなるか予測できないのがいいと思う。お互いが柔軟に、自由に、いろんなことができるようにしたいんだ。そして、今回はこれを作るということに関して、全員が一致していたんだよ。

なるほど。2019年に4人が演奏しているライヴ動画をいくつか見たら、セットリストは新曲ばかりでした。『タイム・スキフズ』 の作曲や制作がはじまったのは、2019年頃でしょうか? 制作プロセスについて教えてください。

PB:最初の曲作りからアルバムのリリースまでの期間は、たぶん今回が最長だと思う。もちろん、パンデミックが事態をさらに悪化させたわけだけど、たぶん、たとえパンデミックがなかったとしても、僕たちにとっては構想期間がかなり長かったと思う。曲ができるまでのサイクルは、普段はもっと短いからね。その(2018年の)ニューオリンズのミュージック・ボックス(・ヴィレッジ)という場所でやったライヴは全部新しい曲で構成していて、その多くが最終的に『タイム・スキフズ』の曲になったんだよ。とにかくそれが制作の初期段階で、たしか2019年の前半にそれがあって、ナッシュヴィルの郊外の一軒家に全員で集まったのが2019年8月。そこからさらに僕も曲を書いて、ジョシュ(・ディブ、ディーキン)も曲を持ち込んで、デイヴ(デイヴィッド・ポーター、エイヴィ・テア)もさらに数曲を持ってきて、3週間くらい、曲をアレンジしながらうまくいくものとそうじゃないものを仕分けて、そのあと9月、10月頃にアメリカ西海岸の短いツアーがあって、12月にはコロナが中国を襲って、クリスマス後、1月初頭にまた集まって、最終的なアレンジをしたり曲を仕上げたりといったセッションをして、そのあとすぐにレコーディングをするつもりだった。そうしたら、知ってのとおりコロナの波が来て、2020年3月にスタジオ入りする予定だったんだけど、でも2月にはそれが叶わないことがはっきりしてきた。それからは、「じゃあ、どうするか」という話になって、「リモートでやるならどうするか」といったことを諸々話しあって、結局、2020年夏の終わり頃にリモートで作業を開始したんだ。だから、選曲はどことなく、「リモートでやって繋ぎ合わせても大丈夫なくらいに熟知している曲はどれか」っていう決め方になっていたような気がするね。このアルバムの制作は、曲がりくねった川を進んでいくような感覚だった。でも、かなりいいものに仕上がったと思うよ。

実際、『タイム・スキフズ』は、本当に素晴らしいアルバムです。長いキャリアにおける最高傑作だとすら思います。さて、本作をレコーディングした場所は、アシュヴィル、ボルティモア、ワシントン、リスボンと4か所が記されています。それは、いまおっしゃったように、4人がリモートでレコーディングした場所ということですよね。

PB:そう。一度も同じ場所に集まることなくレコーディングしたからね。

それぞれの場所でどんなレコーディングをしたのか、それらをどう組み合わせていったのかを教えてください。

PB:ジョシュはキーボードをメインにやって、あとは自分が担当するヴォーカル・パートを録って、ブライアンが電子系、モジュラー・シンセ、サウンド・デザインといった感じのものを、デイヴはベースで、それは僕らにとっては新しいことで、あとは歌だね。それから、他にもクロマチック・パーカッションとか細々したもの。それで、僕は最初、自分のところでドラムを録ったんだけど、その録音がいまひとつで、それでリスボンのちゃんとしたスタジオに2日ほど入って、今度はしっかりマイクも何本も使って再度ドラム・トラックを全部やって。それで、自分たちでミックスしたものをロンドンのマルタ・サローニのところに送ったんだ。

ミキシングを担当したマルタ・サローニと仕事をすることになった経緯や、彼女のミキシングがどうだったのかを教えてください。彼女は、ブラック・ミディからボン・イヴェール、ホリー・ハーンダン、ビョーク、トレイシー・ソーン、デイヴィッド・バーンなど、幅広いミュージシャンと仕事をしていますよね。

PB:彼女のミキシングには大満足だよ。素晴らしい仕事をしてくれたと思う。きっかけが思い出せないけど……ケイト・ル・ボンの曲かな……いや、ちがうかも。ビョークのミックスをやったのはわかってるんだけど(『Utopia』、2017年)。とにかく、彼女の手がけたいくつかの作品がすごくよくて、それでお願いしたい人のリストに入れてあったんだ。そして、最初に何人かにミックスをお願いしたなかで、彼女のものがこのアルバムに合っていて。もちろん他の人のものもすべて素晴らしかったんだけど、彼女の視点が今回の音楽に適していたんだ。

最近のライヴでは、あなたがドラム・セットを叩いていて驚きました。このアルバムでも全曲で叩いていますね。近年のアニマル・コレクティヴにおいて、これは珍しいことでは?

PB:ドラムが自分の第一楽器であるとは言わないけど、アニマル・コレクティヴにおいては、まあ、僕が「ドラムの人」だね。ドラムが必要となったら、デフォルトで僕がやる感じになっているよ。ある意味、今回、これまでとはぜんぜんちがったドラムの演奏方法を考えたというのが、曲作り以外での僕のいちばん大きな貢献だったと思う。まず、いろんなドラマーの YouTube の動画を見まくったんだよ。ジェイムズ・ブラウンのドラマーのクライド・スタブルフィールドだったり、ロイド・ニブ、バーナード・パーディ、カレン・カーペンターだったり。そして僕はドラムを音色の楽器だと考えるようになり、どう叩くとどういう音色になるかとか、そういったドラムのサウンドについてじっくり考えて。演奏のパターンについて考えるよりも、感触やスウィングがどう曲にフィットするかを考えたんだ。ロックのヘヴィなサウンドではなくて、すごく軽くしたかったというか、静かに演奏したいと思ったんだよね、ほとんどメカニカルと言えるくらいに。だから、そういった演奏をするために、毎日練習して、それまで自分が達していなかったレヴェルを目指した。考えてみたら、そもそもそれが昔ながらのアプローチなのかもしれないけど、自分にとってはまったく新しいことだったんだよ。

質問・文:天野龍太郎(2022年2月09日)

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Profile

天野龍太郎天野龍太郎
1989年生まれ。東京都出身。音楽についての編集、ライティング。

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