「坂本龍一」と一致するもの

音楽、人生、坂本龍一 - ele-king


photos:『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』©2022 KAB Inc.

 2022年12月11日に坂本龍一の、「この形式での演奏を見ていただくのは、これが最後になるかもしれない」といわれる「Playing the Piano 2022」が配信された。コンサートを通しての演奏をすることが体力的に困難ということもあり、1日に数曲ずつ丁寧に演奏し、収録をしていったという映像だ。
 しかしながらそこにあったのは、まさに現在進行形の「坂本龍一の音楽」だった。坂本の演奏は、これまでのどのピアノ演奏とも違う、新しいピアノの響きを放っていたように思えた。音が、結晶のように、そこに「ある」ような感覚とでもいうべきか。
 それはまるで「もの派」の思想をピアノ演奏で実現するようなものであった。聴き慣れたはずの “Merry Christmas Mr. Lawrence” や “The Last Emperor” のみならず、ドリームキャストのソフト『L.O.L.』からの曲をピアノ・アレンジという意外な曲まで、どの曲もピアノの音がそこに「ある」かのような新しい存在感を放っていた。ピアノの音が結晶のようにそこにあった。
 鑑賞者はピアノの音がそこに「ある」かのように向かい合うことになる。不意に「もの派/ピアニズム」。そんな言葉が脳裏をよぎった。

 もちろん私が「もの派」を連想したのは、坂本龍一が文芸雑誌『新潮』に連載中の「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」で「もの派」に対する思い入れを語っていたことを知っていたからである。加えて2023年1月にリリースされるニュー・アルバムのアートワークを「もの派」を代表す美術家、李禹煥が手掛けることを事前情報として得ていたからでもある。
 しかしそれでもまさかピアノ演奏に「もの派」を感じるとは思わなかった。坂本龍一はいつもそうだ。彼のピアノ曲/演奏を通じてドビュッシーを知った人も多いだろう。彼は音楽と芸術をつなぐハブのような存在でもあった。坂本は演奏や音楽を通じて私たちにさまざまな芸術や文化をさりげなく紹介してくれる。

 そう、私にとって坂本龍一とは、唯一無二の音楽家であると同時に、文化・芸術の優れたキュレーターでもあった。
 坂本龍一は未知の音楽、未知の芸術、未知の思想をそのつど的確な言葉で表現してくれる人だ。じっさいドビュッシーからゴダール、タルコフスキーからもの派に至るまで、坂本龍一から「教わった」音楽、芸術、芸術は数知れない。
 なかでも村上龍とホストをつとめた『EV. Café』(1985)という本の存在が大きかった。吉本隆明、浅田彰、柄谷行人、蓮實重彦、山口昌男らとの刺激的な鼎談が納められたこの本によってニューアカデミズム/ポストモダンの巨人たちの思想のとばくちに触れ、坂本龍一という音楽家の音楽的背景を理解できた(気になった)。
 これは私のような遅れてきた「ニューアカ/ポストモダン」世代には共通する「体験」だったのではないかと思う。いわば10代の頃の私にとって「聖典」のような本だった。
 90年代以降、後藤繁雄が編集した『skmt: 坂本龍一』や『skmt2: 坂本龍一』も愛読したし、ICCが刊行していた「インターコミュニケーション」に折に触れて掲載される対談やインタヴューなども追いかけてきた。同誌では浅田彰との往復書間に知的な刺激を受けたものだ。

 だが「教わった」という言葉は正確ではない。じっさい坂本は、「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」の第6回でも、教えることが不向きだと語ってもいる。
 坂本龍一はただ自分の知性と興味の赴くままに、文化や芸術を探究してきた。私たちは(とあえて書くが)、遊牧民のように世界地図を移動を続ける坂本龍一の背中を必死に追いかけてきただけともいえる。
 そんな坂本龍一の「移動」を「旅」と言い換えてもいいかもしれない。むろん坂本龍一は「観光嫌い」を兼ねてから公言しているので、物見雄山の「旅行」ではない。そこには明確に興味の対象があり、唐突な驚きへの感性の柔軟性があり、あくなき知への好奇心がある。そして何より(当たり前だが)音楽家という職業は、ツアーやレコーディング、プロモーションなどつねに「移動」が伴うものでもある。移動を重ね、音楽を演奏し、音楽家と出会い、聴衆の前に立つ。


photos:『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』©2022 KAB Inc.

 坂本龍一の「移動」=「旅」はつねに知と芸術と世界の諸問題を浮き彫りにし、わたしたちの知的好奇心を満たす不思議な力がある。ご本人にはおそらくそんな意図などないにもかかわらず。
 「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」は、「旅」を続けながらなんの先入観もない視線で世界のありようを探求し認識をし続ける坂本龍一の思考を追体験するような読後感に満ちていた。同時に病気やご両親のこと、これまでの人生のことも語られており、2009年に刊行された『音楽は自由にする』以降の彼の「自伝」のように読むこともできる。
 じっさい、この連載では2009年から現在までの坂本龍一の活動や行動がほぼ時系列に語れていく。だが単にリニアな時間軸で順を追って語られるのではなく、ときに語り手である坂本の現在の出来事や考えが挿入され、過去に現在が、現在に過去が反射されるように語れている。
 ご自身の辛い闘病の生々しい記録、両親の死、アルバムのこと、「時間」をめぐる考察、自然をめぐる感性の記録がノンリニアに語られ、さながらこの10年の坂本龍一の「断想的記録」を追うような非常に刺激的な内容なのである。
 先に書いたように時期的には以前の自伝的著書の『音楽は自由にする』以降の出来事になるわけで、それはいわば2009年のソロ・アルバム『アウト・オブ・ノイズ』以降の活動ということになる。この『アウト・オブ・ノイズ』は、いわば五線譜にとらわれない「音」で音楽をする要素を持つことで、坂本龍一の活動のなかでも重要なターニング・ポイントとなったアルバムである。そして近年のターニング・ポイントになった作品はもう1枚ある。『async』である。

 電子音響、アンビエント作品との濃厚な関連性を持っているのが、この2作品の特徴だ。2004年の『キャズム』からその傾向が出ているが、このふたつのアルバムには不思議な連続性があるように思う。そう、『アウト・オブ・ノイズ』、と坂本龍一みずから「とても大切な作品」と語る『async』は明確につながっているように私には聴こえるのだ。これも00年代以降の電子音響やアンビエント/ドローン作品への坂本から回答と考えれば納得がいくのではないか。
 そう考えると、00年代以降、カールステン・ニコライやクリスチャン・フェネスなどとのコラボレーションをはじめたことも大きな意味を持ってくる。
 特にカールステン・ニコライとの交流はとても重要だ。「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」のなかでも何度も登場するこのドイツ人の電子音楽家/アーティストは、坂本龍一みずから「友人」と呼ぶ存在である。
 カールステンは、00年代の共作以降、坂本の仕事に並走しつつ、ひとりの人間として、とても尊敬できる振る舞いを重ねていった。映画『レヴェナント:蘇えりし者』のサウンドトラック制作時、坂本は、2014年の中咽頭がん治療直後であり、抗がん剤の影響もあり、本調子ではなかった。しかし監督の要望は容赦ない。悪夢をみるほどまで追いこまれていくなか、坂本はカールステン・ニコライに共作を求める。すると彼はラップトップひとつ持ってロスまで即座に駆けつけてくれたという。
 また、手術前の不安な日、坂本は思わずカールステンに電話をしたらしい。そして病気で辛い坂本にアート作品とテキストを届けてくれたこともあるという。人として、友人がとても辛い状況のとき、どう振る舞うのか。彼はまず態度と行動で示す。まさに素晴らしい人柄として言いようがない。私はアルヴァ・ノトの音楽が大好きなのだが、長年の彼の作品を愛好してきたよかった(となぜか)思ってしまった。

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photos:『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』©2022 KAB Inc.

 さて、「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」での坂本は世界中へと旅に出ている。2008年のグリーンランド(北極圏)への旅にはじまり、日本国内ツアーで新潟市から富山市へ行ったときに出会った山桜、ヨーロッパ・ツアー、高谷史郎との共作インスタレーションの展示をおこなったローマ、ソウルでのコンサート、カールステンとのヨーロッパ・ツアーである「s tour」、そしてカールステンが暮らしているベルリン、リスボン、アイスランド、アラブ首長国連邦、ワシントンDC、イタリア、奈良、山口、札幌。
 2009年以降、坂本の「旅=移動」を、断ち切らせる体験が二度あった。ひとつは2011年の東日本震災、もうひとつは2014年にみつかった最初の癌であろう。
 2011年3月11日。あの日、坂本は海外ではなく、日本にいた。どうやら映画『一命』の音楽を東京のスタジオで録音していたらしい。
 重要なことは、ニューヨークに住み、世界中への旅を繰り返していた坂本が「あの日」は日本の東京にいたという事実に思える。私はそこに坂本龍一という人間の「運命」を強く感じてしまった。坂本は2001年9月11日その日もニューヨークで遭遇している。彼は世界の「激変」に近い出来事に二度も遭遇したのだ。
 ともあれ3月11日のあの途方もない震災とそれに続く原子力発電所の事故をその国で体感したということで、彼は自分が何をするべきかという意識をより明確に持つようになったのではないか。
 じじつ「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」でも県陸前高田への訪問、住田町への寄付などが語れる。宮城県名取市にある津波によって泥水を被ってしまって調律の狂ってしまったピアノをひきとったともいう。そしてデモへの参加。

 坂本龍一は震災以降、ともすれば分断しかねない社会をつなぎ止めるように、人と社会にコミットメントしていった。
 この過程のなかで、その言葉の一部だけが切りとられ、激しい批判にさらされた「たかが電気」発言があった。この「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」第3回で、坂本は、そのような批判に対して、当時の発言を全文掲載し、いまでも撤回する気がないとはっきりと断言している。ここでは詳しくは書かないが、気になる方がぜひ「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」を読んでみてほしい。少なくとも自分は納得できるものがあった(そもそも何が問題であったのか理解できないのだが)。
 坂本龍一にとって3.11、9.11を経てより強くなったのは社会への意識に加えて、環境への配慮だろう。00年代も雑誌「ソトコト」にコミットするなど、環境意識をどう持つかということを伝えていたが、3.11以降はより具体的な「環境」そのものにつながっていくようになったと思う。
 そこにあるのは「自然」と「地球」意識ではないかと思う。「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」には「月」という言葉が出てくるが、そこで対になるのはやはり「地球」だろう。2011年以前からモア・トゥリーズなどの環境活動をしてきた坂本だが、自分にはそこに音楽家としての本能のようなものが強く働いているような気がしてならない。
 地球という重力があり、空気がある環境でしか音楽はならない。少なくとも空気の振動によって伝わる「音楽」ではなくなってしまう。だからこそ環境=音楽の源泉としての意識が強く働いているのではないかと勝手に想像してしまう。


photos:『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』©2022 KAB Inc.

 『async』には水の音や足音、さまざまな環境音が使われているが、これは「音」へのあくなき好奇心ゆえだろう。音は「ここ」でしか鳴らないという想い。だからこそ「月」という言葉が入った “fullmoon” という曲がアルバム全体のムードを相対化するような、あえていえば「黄泉の世界」からの音のように響いてくる。
 “fullmoon” は、「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」でも語られているが、ベルトルッチ監督の「声」を最後に録音したものが用いられている曲でもある。
 生と死。そんなムードが濃厚な “fullmoon” には不思議とこの世界から浮遊するような感覚が横溢している。
 『async』全体はドローン、アンビント作品なので非常に抽象的なムードのアルバムだが、“fullmoon” にはどこか重力から解き放たれようとしているようなムードが感じられたのだ。
 月と地球。重力と生。音楽と消失。声と音響。“fullmoon” には環境と意識と生と死が淡い霧のように音響空間に溶け込んでいる。
 これはアルバム『async』全体にいえることかもしれない。そこに「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」というタイトルを重ね合わせると、70歳を迎えた坂本龍一の現在の人生観を強く感じ取ることができるような気がする。
 『アウト・オブ・ノイズ』は北極圏で坂本が体感したことが、音に具体的に反映されている。『async』は、3.11以降の世界で、地球と自然と人間と感性を音として表現した作品でもあった。私はこれらの音楽に、そして90年代以降の坂本龍一の音楽に「地球意識」とでもいうような真にワールドワイドな感性が息づいているように感じている。
 それは1989年の『ビューティー』、1991年の『ハートビート』あたりからはじまり、1999年のオペラ『LIFE』で一度「歴史的」に総括された。そして00年代以降は、それ以降の世界を見据えるように、よりミクロな世界からマクロな世界を巡っていくのだ。


photos:『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』©2022 KAB Inc.

 加えてこの連載では、00年代以降の若い世代の音楽家との「出会い」「交流」も語れている。2023年1月号掲載の連載第7回ではフライング・ロータスサンダーキャットOPN、Se So Neon らとの交流が述べられている。坂本の彼らへの目線はとても優しい。
 何よりフライング・ロータス、サンダーキャット、OPN、Se So Neon を知らない読者は、坂本を通じて彼らの音楽との出会いを果たすのだろう。坂本の「旅」と「出会い」は、それを読む(知る)人たちにも「出会い」をもたらすのだ。

 世界への旅も、交流も、出会いも、ミクロ/マクロを往復するような活動だった。音楽的にはよりミニマルになり、しかし行動的には、マクロに=俯瞰的になる。そうやって坂本龍一の音楽と思考はより深まりを見せていったのかもしれない。
 そして2014年以降の癌と2021年の再発というあまりに大変な闘病については赤の他人でしかない自分に語ることはできないので、とにかく「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」を連載1回目から読んでほしいとしかいいようがない。癌という病にどう向かうか。自分にとっても、他の誰かにとっても重要な事柄が淡々と、しかしある大きな感情とともに語られていく。
 私も、おそらくは他のどなたかも、いずれは病に伏すときが必ずくる。だからこれは他人事ではない。坂本龍一は重病を超えて生きることの意味を示してくれる。
 3.11の震災、原発事故、自身の闘病によってミクロ/マクロの視点に自然と肉体と科学という三つの柱も加わったように思える。「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」は、そんな坂本龍一の10年代が包括されている貴重な記録だ。
 言い換えれば坂本龍一の思考を追体験するようなキュレーションの体験であり、坂本龍一が10年代の電子音楽にどうコミットしていったかを示すコンポジションの記録でもあるのだ。
 来年1月17日、坂本龍一の6年ぶりのニュー・アルバム『12』がリリースされる。このアルバムにもまた彼の「音」が追求されているだろう。そのリリースを心待ちにしつつ、「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」を読み返すことにしたい。


Photo by zakkubalan ©2022 Kab Inc.

大規模なフェスティバルはなぜ消えたのか。
その後の音楽フェスの原型となったフェスティバルが遺したものとは?

たくさんの困難を乗り越えて、世界の音楽を紹介してくれたのが「ウォーマッド横浜」だった。 ──ピーター・バラカン(ブロードキャスター)
現在、日本で隆盛をきわめる「フェス」の、その実質的な原点が「ウォーマッド横浜」だった。だがあれだけの巨大イベントも、今は語られることはない。そのナゼ、隠された秘密を、企画立案者だった横浜市の担当者が紐解いてみせた書籍。日本の地方行政のあり方にも踏み込んだ、相当にユニークな日本芸能史・そのエピック。 ──藤田正(音楽評論家、プロデューサー)

1991年から1996年にかけて、横浜博覧会跡地(現・臨港パーク)ほかで開催された国際的文化イベント「WOMAD横浜」の内実を、当時、横浜市の担当者だった著者が生々しく語る。未発表写真多数。

特別寄稿:ピーター・バラカン、布袋泰博(スキヤキ・ミーツ・ワールド実行委員長)ほか

写真:菅原光博、石田昌隆、菊地昇

未発表の貴重な写真を網羅:都はるみ、坂本龍一、スザンヌ・ヴェガ、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーン、パパ・ウェンバ、ユッスー・ンドゥール、デティ・クルニア、照屋林助、りんけんバンド、ほか

四六判 256ページ

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Ryuichi Sakamoto - ele-king

 来る12月2日、〈Milan〉より坂本龍一のトリビュート・アルバムが発売される。題して『To the Moon and Back』。彼の70歳の誕生日を祝してのリリースだ。アルヴァ・ノトフェネスデヴィッド・シルヴィアンコーネリアスに大友良英といったおなじみの顔ぶれに加え、ザ・シネマティック・オーケストラなどが参加しているのだけれど、目玉はやはりサンダーキャットだろう。なんと坂本78年のソロ・デビュー作収録曲 “千のナイフ” をカヴァー。大胆に彼流のサウンドにアレンジしています。要チェックです。

title: To the Moon and Back - A Tribute to Ryuichi Sakamoto
label: Milan
release: December 2nd

Tracklist:

A1. Grains (Sweet Paulownia Wood) - David Sylvian Remodel
A2. Thousand Knives - Thundercat Remodel
A3. Merry Christmas Mr. Lawrence - Electric Youth Remodel

B1. Thatness and Thereness - Cornelius Remodel
B2. World Citizen I Won't Be Disappointed - Hildur Guðnadóttir Remodel
B3. The Sheltering Sky - Alva Noto Remodel
B4. Amore - Fennesz Remodel

C1. Choral No. 1 - Devonté Hynes Remodel (Featuring Emily Schubert)
C2. DNA - The Cinematic Orchestra Remodel
C3. Forbidden Colours - Gabrial Wek Remodel
C4. The Revenant Main Theme - 404.zero Remodel

D1. Walker - Lim Giong Follow the Steps Remodel
D2. With Snow and Moonlight - snow, silence, partially sunny - Yoshihide Otomo Remodel

ryuichisakamoto.lnk.to/tothemoon/

Taylor Deupree - ele-king

 つねに尖ったエレクトロニック・ミュージックを送り出しつづけてきたNYのレーベル〈12k〉が25周年を迎える。このアニヴァーサリーを祝しレーベル・ショウケースが開催、主宰のテイラー・デュプリーの来日公演が決定した。今年同レーベルより新作を出した Minamo & Asuna に加え、おなじく〈12k〉から作品を発表している Moskitoo も出演。11月13日(日)@SHIBAURA HOUSE、この貴重な機会を逃すなかれ。

12k主宰、テイラー・デュプリーの来日公演が決定。共演にMinamo &
Asuna、オープニングでMoskitooが出演。

ミニマル、エクスペリメンタル、アンビエント・ミュージックシーンにおける最重要レーベル12kを主宰し、坂本龍一氏とのコラボレーションでも知られるTaylor Deupree(テイラー・デュプリー)の5年振りの来日公演が決定。今年で25周年を迎える12kのアニバーサリーショウケースとして、6月に同レーベルより新作を発表したMinamo & Asunaが共演、 またオープニングアクトとしてMoskitooが出演します。会場はルーヴル美術館ランス別館や金沢21世紀美術館などの設計で知られる建築家、妹島和世氏が手掛けたガラス張りのコミュニティスペースSHIBAURA HOUSE。12kアーティスト3組による一夜限りのスペシャルなライブをお楽しみください。

12k 25th Anniversary - Taylor Deupree / Minamo & Asuna

イベントURL:ttp://12k25th.cubicmusic.com/
チケット予約:https://12k25th.peatix.com/

■日時:11月13日(日) OPEN 15:00 / START 15:30
■会場:SHIBAURA HOUSE 東京都港区芝浦3-15-4
(JR田町駅 芝浦口より徒歩7分、地下鉄都営三田線・浅草線 三田駅A4出口より徒歩10分)

■出演:
Taylor Deupree
Minano & Asuna
opening act:Moskitoo

■料金:前売 3,800円 / 当日4,500円

■チケット予約:https://12k25th.peatix.com/
 ※ 定員に達した場合は受付を終了いたします。
■音響:Flysound Co. 
■運営協力・照明:小柳淳嗣(アリオト)
■宣伝美術:Moskitoo
■協力:p*dis、安永哲郎事務室
■主催:株式会社FUMUF
 文化庁「ARTS for the future!2」補助対象事業

■ウェブサイト:https://12k25th.cubicmusic.com/

◆Taylor Deupree プロフィール
テイラー・デュプリー(1971年生)は米NY在住のサウンド・アーティスト、デザイナー、写真家。世界中のレーベルからコンスタントに作品を発表する傍ら1997年にはデジタルミニマリズムに焦点をあてた音楽レーベル〈12K〉を設立し、マイクロスコピックサウンドと呼ばれる電子音響シーンを築く。自身の音楽以外にも、他者とのコラボレーションも大切にしており、坂本龍一やデヴィッド・シルヴィアン、ステファン・マシューなど数々のアーティストと作品を制作。また、YCAMやICCなどの場所でサウンド・インスタレーションや数々の写真展も行っている。アコースティックな音源や最先端の技術を用いながらも、その作品の根底にあるものは自然の不完全さや、エラー、空間性の美学である。

◆Taylor Deupree サイト
https://www.taylordeupree.com/
◆12kレーベル サイト
https://www.12k.com/

◆Minamo プロフィール
1999年、杉本佳一と安永哲郎により結成。これまでに12KやRoom40など多数のレーベルからオリジナル・アルバムを発表するほか、TapeやLawrence Englishとのコラボレーション作品をリリースしてきた。東京を中心に20年に渡り活動を続けながら、アメリカやヨーロッパ、オーストラリアの各
都市でもツアーを行っている。2022年6月にAsunaとのコラボレーションアルバム「Minamo & Asuna - Tail of Diffraction」を発売。minamoとしての活動の他、杉本はFourColor、FilFla、Vegpherとしてソロ活動、劇判、広告音楽等を制作。安永は「安永哲郎事務室」として多方面の企画製作プロジェクトに参画している。

◆Minamo (杉本佳一)サイト
https://frolicfon.com/
◆Minamo(安永哲郎)サイト
https://www.jimushitsu.com/

◆Minamo & Asuna作品ページ
https://www.12k.com/releases/tail-of-diffraction/

◆Asuna プロフィール
石川県出身の日本の電子音楽家。語源から省みる事物の概念とその再考察を主題として「organ」の語源からその原義である「機関・器官」としてオルガンを省みた代表作『Each Organ』(2002)にてデビュー。近年は、干渉音の複雑な分布とモアレ共鳴に着目した作品『100 Keyboards』で、海外の国際芸術祭や現代音楽祭に多数出演、昨年も米ニューヨークの名門・BAM(ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック)からの招待を受け単独公演を行う。並行した音楽制作では、10代の頃から東京の実験音楽/即興/音響シーンに関わり、様々なアコースティック楽器や大量のオモチャ楽器、PCベースによる作曲作品から即興演奏まで行いつつ、録音作品では毎回多岐に渡るコンセプトながらも一貫した作品制作を行う。これまで海外25カ国以上で演奏/展示、CDやレコードなどをリリース。

◆Asuna サイト
https://sites.google.com/site/aotoao3inch/

◆Moskitoo プロフィール
2007年ニューヨークのレーベル『12k』より『DRAPE』でソロデビュー。倍音のような広がりを持つ自身の歌声を基点に、様々なオブジェクトや楽器の音、電子音とを交錯させながら、幻想的でアブストラクトな独自のサウンドスケープを構築している。一音一音の音の探求に始まり、歌唱、トラックメイキング、アートワークまで全て彼女自身によって制作されている。作品は世界中から評判を集めこれまでにフランス、オランダなどのヨーロッパ、北米、オーストラリア、デンマーク、韓国のイベントに招待され、各地で海外ツアーや公演を重ねている。最新作はデジタルシングル『nunc』、minamoとの12インチLP、minamo & moskitoo『superstition』。

◆Moskitoo サイト
https://moskitoo.com/

Vladislav Delay - ele-king


Ripatti Deluxe - Tambourine Love Hat (video by RuffMercy) from Vladislav Delay on Vimeo.

 精力的な活動を続けるフィンランドのプロデューサー、ヴラディスラフ・ディレイ(本名:サス・リパッティ)による新名義、Ripatti Deluxe(リパッティ・デラックス)のアルバム『Speed Demon』が10月28日に 新レーベル〈Rajaton〉からリリースされる。

 「国境という概念を意識しないとき、我々の心はどう動くのだろう?」——これが作品のひとつのモチベーションになっているようだが、もっとも大きなコンセプトは「速度」になる。アルバムには、「時間、時間に対する概念、時間に対する意識、時間に対する隷属、欲望などについて」の考察が反映されており、音楽的には「いままで聴いたことのない初期のレイヴやハッピー・ハードコアなどをランダムに見つけて、今度はそれらを大量のエフェクトを通してループさせたり、ひっくり返したりしたり」したことがヒントになっている。

■新レーベル〈Rajaton〉
〈Rajaton〉は、孤立、所有権、戦争が国境を強化するとき、物理的および精神的な境界の非存在を意味する。〈Rajaton〉の音楽のアウトプットとそれを積極的に聴くことは、私たちを再び無限にし、思考を広げるきっかけとなる。ヒエラルキーとジャッジメントを劣化させ、誠実な解釈と新しい形の完全な理解を得るための、多数の万物の存在。〈Rajaton〉は、Ripattiの前身である〈Huume Recordings〉と〈Ripatti〉に続くレーベルである。

■サス・リパッティ
90年代後半から00年代初頭にかけて、グリッチ、テクノ、アンビエント、フットワークといったエレクトロニック・ミュージック・シーンにおける重要人物。「Entain」、「Multila」、「Anima」といったカルト・クラシックや、Vladislav Delay, Uusitalo, Luomo, Conoco, Sistolとして20以上のアルバムをリリース、マイクロ・ハウスといったジャンルの先駆的な存在である。彼の音楽は〈Planet Mu〉, 〈Raster-Noton〉, 〈Chain Reaction〉, 〈Mille Plateaux〉, 〈Honest Jon's〉 などからリリースされている。また、過去には坂本龍一、シザー・シスターズ、AGF、ブラック・ダイス、マッシヴ・アタック、モーリッツ・フォン・オズワルド、ミカ・ヴァイニオ、クレイグ・アームストロング、ジャマイカの伝説的アーティスト、スライ&ロビー等とコラボレートしている。彼の音楽は、洗練された質感、セミランダムな要素、破砕とシンコペーションのパーカッション、そして脱構築で有名。

Alva Noto + Ryuichi Sakamoto - ele-king

 『Vrioon』(2002)を皮切りに、先日は『Insen』(2005)もリマスター再発された、アルヴァ・ノトと坂本龍一のコラボレーション、〈V.I.R.U.S.〉シリーズ、9月9日にはその第三弾として2006年にリリースされた『revep』が登場。前2作よりも坂本龍一のピアノがフィーチャーされた本作には、“Merry Christmas Mr.Lawrence”のリミックス・ヴァージョンとも言えそうな“ Ax Mr.L.”も収録。
 なお、今回はオリジナル盤にボーナストラック3曲を追加してのリリース。


◆ボーナストラックとして収録された「City Radieuse」が使用されているカールステン・ニコライ(アルヴァ・ノト)の2012年の映像作品『future past perfect pt.02 -cité radieuse』 



Alva Noto + Ryuichi Sakamoto
Revep (reMASTER)

NOTON
流通:p*dis / Inpartmaint Inc.

David Sylvian - ele-king

 デイヴィッド・シルヴィアンが2010年にリリースした『Sleepwalkers』が、新装版となって蘇る。同作は彼が00年代に制作したコラボ楽曲などを集めた編集盤で、坂本龍一高木正勝フェネス渡邊琢磨藤倉大などが名を連ねているが、このたび2022年リマスター盤として、あらためてCDとLPで発売される運びとなった。未発表曲 “Modern Interior” も収録とのことで、要注目です。

孤高の音楽家デイヴィッド・シルヴィアンの00年代におけるコラボレーションやサイド・プロジェクト作品で構成されたコンピレーション、『スリープウォーカーズ』の改訂&リマスター版がCDおよび2枚組LPでリイシュー。未発表曲追加収録。

『ブレミッシュ』(2003年)と『マナフォン』(2009年)という二枚の強力きわまるソロ・アルバムを2000年代に発表したデイヴィッド・シルヴィアン。彼が同時期にクリエイトしたコラボレーションやサイド・プロジェクト作品のなかから最上のものを厳選した、2010年にリリースされて好評を博したコンピレーション『スリープウォーカーズ』に改訂、およびリマスターを施した新装版が登場。坂本龍一や高木正勝、クリスチャン・フェネス、渡邊琢磨、藤倉大といったアーティストとの作品、バーント・フリードマンとのプロジェクト、ナイン・ホーセスの作品等の16曲に加え、新たな未発表曲「Modern Interior」を追加収録。コンピレーションだからこそ、あらためてヴォーカリスト、デイヴィッド・シルヴィアンの圧倒的な存在感が際立っている。世界を一変させる唯一無二の歌声が、このコンピレーションに不思議な統一感をもたらしている。

《リリース情報》
ARTIST: DAVID SYLVIAN
Title: Sleepwalkers
アーティスト:デイヴィッド・シルヴィアン
タイトル:スリープウォーカーズ


[SHM-CD]
商品番号:PCD-27062
フォーマット:SHM-CD
価格:定価:¥2,970(税抜¥2,700)
発売日:2022年7月13日(水)
解説/歌詞・対訳付
2022年リマスター盤


[2枚組LP]
商品番号:PLP-7874/5
フォーマット:2枚組LP
価格:定価:¥6,050(税抜¥5,500)
発売日:2022年8月10日(水)
2022年リマスター盤
完全限定生産
輸入盤国内仕様

収録曲
01. Sleepwalkers
02. Money For All
03. Do You Know Me Now?
04. Angels
05. World Citizen - I Won’t Be Disappointed
06. Five Lines
07. The Day The Earth Stole Heaven
08. Modern Interior
09. Exit / Delete
10. Pure Genius
11. Wonderful World
12. Transit
13. World Citizen
14. The World Is Everything
15. Thermal
16. Sugarfuel
17. Trauma

Whitearmor - ele-king

 今年の3月に「オウムが終わったんだなあ」と書いたら7月になってニューエイジの本丸たる統一教会(現なんちゃら家庭連合)が急浮上し、昔はよくTVで観た合同結婚式の映像がまたTVで流れるようになった。久しぶりに目にしても相変わらずのインパクトで、見渡す限りの花婿と花嫁の列また列。白と黒しかないマス・ゲームのようで、合同結婚式で結婚したカップルはどんな体位でセックスするかも決められているらしく、その夜もマス・ゲームが続くというか。(ここからはジョーク)いま観ると自民党がこの儀式をもっと広範囲に推し進めれば少子化対策に有効だったかもとさえ思ったり(ジョークはここまで)。そういえば少し前に『結婚式のための音楽』というアンビエント調のアルバムが出ていたなと思って、ちゃんとクレジットを確認してみたら、なんとホワイトアーマーのデビュー・アルバムだった! マジか! 改めて聴き直す。

 ホワイトアーマーはDJカナビス(笑)の名義で2011年にデビューしたスヴェンスキャ・ラップ(スウェディッシュ・ヒップホップ)のプロデューサー。本名はルーードヴィッヒ・ローゼンバーグで、2020年に手掛けたブレイディーやヤング・リーン(『アンビエント・ディフィニティヴ増補改訂版』P245)といったクラウド・ラップの諸作が予想を超えてアメリカでも受けまくり、一気に知名度を上げたトラックメイカー。あまりにもダラダラとした作風が、そして、そのままデビュー・アルバムに発展していく過程で、ヒップホップではなく、アンビエント方向へと振り切れる結果になったと思われる。どうして結婚式をテーマにしたのかは不明だけれど、「白い鎧」を名乗ることと関係があるのか、日本の少女マンガからトレースしたようなジャケット・デザインには純白のウェディング・ドレスが描かれている(ウェディング・ドレスが白いのは家制度の名残で死装束の意)。

 幻想的な始まりは同じスウェーデンの大御所、ラルフ・ルンゼンの後期作を彷彿。流麗でチープなメロディを畳み掛ける“Could Be Us”から“Kisses And Hugs”へと夢見心地は途切れず、あくまでも現実感のない世界を旅し続ける。坂本龍一“Self Portrait”なんかを思い出しながら、バッハを混ぜ込んだような“Eternal Hills Highest Crest”へ橋渡し。モーション・グラフィックス『Motion Graphics』(16)を筆頭に、近作では方向性を変えたヴェルーム・ブレイク『Bench Manoeuvres』(19)やトランス系のネイキッド・フレイムス『Miracle In Transit』(22)など、このところ日本で80年代に流行った「テクノ・ポップ」にがっつりとインスピレーションを得たのかなと思わせる作品は多く、そのなかでは北欧風のフレイヴァーが染みわたっていて最もオリジナリティを感じさせる。とくに“Smile (Reprise)”は、オプティモのJ・D・トゥイッチが昨年、日本のテクノ・ポップをミックスした『Polyphonic Cosmos』にも収録していたテストパターン“Hope”に迫る楽天性を感じさせ、ひとしきり明るい気持ちにさせてもらった(続けて『アポジー&ペリジー』も聴きたくなるというか)。再びバロック調の“Tar Feathers”もよくて、“Slow Dance”~“Gåvor”と、後半は落ち着いた曲を並べ、着地はとても滑らか。

『結婚式のための音楽』というタイトルの前には「In the Abyss」という設定も付け加えられている。ゼクシーの結婚式は山の頂上で行われていたけれど、こちらは「the Abyss」と大文字で表記されているのでジェームズ・キャメロン監督『アビス』(89)に端を発する「深淵」のイメージなのだろう(小文字だと「地獄」という意も)。すべては海底で行われた結婚式の風景。エソテリックで、なんというか、ニューエイジぎりぎり(笑)。23世紀には地球の表面温度が150度まで上がるという試算もあるので、人類はこの先、海底で暮らさなければいけなくなるという警告……ではなさそう。

Alva Noto + Ryuichi Sakamoto - ele-king

 ジョージ・ルーカス監督のデビュー作『THX 1138』(71)は『1984』と並ぶディストピアの古典『すばらしい新世界』を下敷きにしたSF映画で、いまでは普通の演出だけれど、人工性を際立たせたセットにブイ~ンとかヒュウウウ~とかカチカチカチとかクリンクリンといったSEを流し続けることで観客を不安な気持ちに陥れ、機械文明に批判的な視点を与える作品だった。タルコフスキーなどのSF映画に大きな影響を受けたというカールステン・ニコライがとりわけ音楽との関連で言及する映画がこの『THX 1138』で、6Aus49名義のバンドが解散した後、96年からソロでリリースし始めたノト名義や00年から使い始めたアルヴァ・ノト名義の作品はまったくもって『THX 1138』の効果音をそのまま再現したものか、これにリズムを足した作品といえる。タイトルもそのことを指し示しているかのような『Prototypes』(00)から試しに何曲か聴いてみると、“Prototype 10”は不気味なトーンの持続、“Prototype 2”は不安が身体に染み込んでくるようで、“Prototype 6”は感情を表現することが許されない未来人の内面を描写しているといった感じだろうか(『Prototypes』は各曲にタイトルがなく、19年の再発盤で初めてナンバリングが施された。ちなみにルーカスの2作目は『アメリカン・グラフィティ』で、自動車のナンバーがTHX、3作目は『スター・ウォーズ』で、同シリーズの設定には1138という数字が随所で使われている)。


 僕がノト名義の曲を聴いたのは〈ミル・プラトー〉のコンピレーション『Modulation & Transformation 4』(99)が最初だった。これは同レーベルがドイツを中心に質が変わり始めた「エレクトロニカ」をいち早く包括的に紹介した編集盤で、マイク・インクのガス、ピーター・レーバーグ、マウス・オン・マース、テクノ・アニマル、トーマス・ケナーなど新たな時代の波に乗りきれた中堅やニューフェイスたちが36組も集められ、ドイツ以外では池田亮司の名前もあった。「エレクトロニカ」という呼称は一時期のもので、リスニング・テクノやラウンジ・リヴァイヴァル、あるいはグリッチやファウンド・サウンド(注)といったダンスフロアを意識しない電子音楽がいわば一本化されて、このタイミングで篩にかけられ、安直にいえばミュジーク・コンクレート・リヴァイヴァルがスタートを切った瞬間だと考えればいいだろう。そして、ここからマーク・フェル(SND)やミカ・ファイニオらが次の時代を切り開き、アルヴァ・ノトはフェネスやヤン・イエリネクと並んでシーンの代表格となっていく。01年にリリースされた『Transform』が早くも傑作である。シンプルなパルス音だけで構成された同作は『Prototypes』とは異なり、既成のリズムから波形をコピーして、そのパターンにグリッチを当てはめたものらしい。そう、“Module 4”や“Module 6”の音数の少なさときたら! これで腰が動いてしまうのだから最初は驚くしかなかった。“Module 7”などはヘッド・バンギングすら誘発しかねなかった(『Transform』の各曲も再発時のタイトル)。


 東京で初めてアルヴァ・ノトのライヴを観た坂本龍一はシュトックハウゼンを思い出したと語っている。90年代のテクノには少し距離を感じていたらしい坂本はニコライのサウンドにはすぐに親近感を感じ、池田亮司にニコライを紹介してもらったと同じインタヴューで続けている(池田亮司とニコライは当時、サイクロ.というユニットを組んでいた)そして、リミックスをオファーし、ニコライがこれに快く応じたことがすべての始まりとなる。この当時、坂本は「エレクトロニカ」を大量に買い込んでいる。どんな人でも1年に1日だけ卸売価格でCDを買うことができる店があり、僕も何度か利用させてもらったけれど、そこで「坂本さんが倉庫にあったCDを端から端まで買っていったんですよ」ということだった。レゲエが理解できず、坂本が諦めずに2年間もレゲエを聴き続け、ついに「わかった!」というエピソードが示す通り、坂本は熱心な勉強家で、自分への投資を怠らないタイプの音楽家なのである。僕が知っているミュージシャンの多くは人付き合いや音楽以外のことにお金を使い、「新しい音楽」を聴かない人が多い。どういうわけかブレイクした時点で「止まってしまう」のである。アルヴァ・ノトの周辺で何が起きつつあるのか。それを坂本が本気で知ろうとしていたことがこの話からは伝わってくる。90年代の坂本龍一は映画音楽家であり、オーケストラの指揮者であり、どちらかというとモダン・クラシカルの系譜に位置していた。そこから見える未来に坂本は大きく軌道修正を加えた。しかも、アルヴァ・ノトと坂本龍一による最初のコラボレーションは早くも『Transform』の翌年にリリースされている。『Modulation & Transformation 4』から数えても3年しか経っていない。

 ニコライは最初、坂本から渡された音素材のうちピアノの演奏に惹かれたという(坂本いわく、「ピアノの演奏は2%ぐらいで、残り98%のエレクトロニクス・ミュージックにはぜんぜん興味がもたれなかった(笑)」)。「坂本のピアノになかなか手を加えられなかったニコライは何度かツアーを重ねるうちに打ち解け、大胆にプロセッシングを加えられるようになった(大意)」という発言もあるので(前掲)、『Vrioon』では主にニコライがプロセッシングを担当し、それを土台にして2人で作業を進めるという過程を経たと思われる。『Transform』と較べると、同じくミニマリズム(音数が少ないこと)でありながら躍動感は極力抑えられ、アンビエント表現の比重が高い。リヴァーブをかけたピアノもレイヤーを重ねるよりはひとつの音が現れては消えるまでをじっくりと観察しているようで、間隔を長く取り、音が空間に染み渡るプロセスを強く意識させる。主観と客観を並走させているというのか、見事にスキゾフレニックというのか、ニコライによる機能的なグリッチと坂本のメランコリックなピアノは将棋の試合のようにお互いに間を詰め合い、離れては近づき、近づいては離れ、混じり合ってしまうことなく、静かなテンションを維持し続ける。冒頭に引いた『THX 1138』に喩えるとニコライが映像を担当し、坂本が役者の演技に相当するというか。これまでに何度も書いたことだけれど、『Vrioon』はなかなかの傑作である。京都の石庭で聴いたらどんな感じがするだろうと何度も想像してしまった。

 『Vrioon』を皮切りに『Insen』『Revep』『Utp_』『Summvs』と、5部作がすべてリマスターを施されて年内に再発される予定(タイトルの最初の文字を繋げると「V・I・R・U・S(ウイルス)」になる!)。奇しくも今年、プラスティックマンのエレクトロニクスとチリー・ゴンザレスのピアノという同じ組み合わせのコラボレート・アルバム『Consumed in Key』がリリースされている。リッチーもゴンザレスもパラノイアックなアプローチを取り、強迫的な展開が頻出するので、時代も違うし、方向性はまったく異なるものの、『Vrioon』とはあまりにも対照的で、続けて聴くと音数が圧倒的に少ない『Vrioon』の方が緊張感は高く、最初の音が鳴ると同時に透き通った景色の向こうに連れ去られていたことがよくわかる。『Consumed in Key』にあるのはコロナ禍の濁った感じや俗っぽさを諦めきれない猥雑さといったところで、そう考えると『Vrioon』には浮き世と憂き世を入れ替えたような形而上学的なセンスがあり、それこそシュトックハウゼンが抱いた「普遍への夢」が含められていると考えたくなってしまう。少年が歌う断片的なメロディにカチャカチャと電子音が絡みつく“Gesang Der Jünglinge”と同じとは言わないけれど、音がしない瞬間が多く、透き通るような感触には似通ったものがあることは確かだろう。アルヴァ・ノトのライヴを観てシュトックハウゼンを思い出したという坂本龍一の直観は、たぶん、正しかったのである。

*『Vrioon』のリマスター盤にはスペインの美術雑誌「MATADOR I: ORIENTE」に付けられたCD用に録音された「Landscape Skizze」がボーナス・トラックとして追加されている。

(注)「ファウンド・サウンド」とはフィールド録音のように楽器の演奏ではない音が音楽に使われていること、あるいはその音を出す物体(ファウンド・オブジェクト)のことで、「具体音」と意味は同じ。ジョン・ケージやシュトックハウゼンが手法として確立し、ピエール・アンリやブライアン・イーノがあまたの応用例を展開したのち、イーミュレイターやサンプラーの普及によって80年代以降はダンス・ミュージックでも広く応用されるようになった。「エレクトロニカ」の時期にはこれをダンス・ミュージックとは異なる文脈に戻す傾向が増え、とくにフェン・オバーグ(フェネス+ジム・オルーク+ピーター・レーバーグ)がその先頭に立った。

 〈Optimo Music〉で知られるグラスゴーの重鎮、JD Twitchが日本の80年代のレフトフィールドな音源を集めたコンピレーションをリリースする。タイトルは『Polyphonic Cosmos: Sonic Innovations In Japan (1980-1986)』で、収録されているのは、World Standard、原マスミ、難波弘之、Normal Brain、EP-4、芸能山城組、D-Day、坂本龍一、清水靖晃、Earthling、Pecker。
 JD Twitchはこれらの楽曲を8年かかって蒐集したそうで、初めて日本に来たときからずっと調査していたとのこと。原マスミの“Your Dream”などは彼のDJセットで長年愛されている曲。コンピレーションのリリースは7月1日です。
 

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