Home > Reviews > Album Reviews > Whitearmor- In the Abyss: Music for Weddings
今年の3月に「オウムが終わったんだなあ」と書いたら7月になってニューエイジの本丸たる統一教会(現なんちゃら家庭連合)が急浮上し、昔はよくTVで観た合同結婚式の映像がまたTVで流れるようになった。久しぶりに目にしても相変わらずのインパクトで、見渡す限りの花婿と花嫁の列また列。白と黒しかないマス・ゲームのようで、合同結婚式で結婚したカップルはどんな体位でセックスするかも決められているらしく、その夜もマス・ゲームが続くというか。(ここからはジョーク)いま観ると自民党がこの儀式をもっと広範囲に推し進めれば少子化対策に有効だったかもとさえ思ったり(ジョークはここまで)。そういえば少し前に『結婚式のための音楽』というアンビエント調のアルバムが出ていたなと思って、ちゃんとクレジットを確認してみたら、なんとホワイトアーマーのデビュー・アルバムだった! マジか! 改めて聴き直す。
ホワイトアーマーはDJカナビス(笑)の名義で2011年にデビューしたスヴェンスキャ・ラップ(スウェディッシュ・ヒップホップ)のプロデューサー。本名はルーードヴィッヒ・ローゼンバーグで、2020年に手掛けたブレイディーやヤング・リーン(『アンビエント・ディフィニティヴ増補改訂版』P245)といったクラウド・ラップの諸作が予想を超えてアメリカでも受けまくり、一気に知名度を上げたトラックメイカー。あまりにもダラダラとした作風が、そして、そのままデビュー・アルバムに発展していく過程で、ヒップホップではなく、アンビエント方向へと振り切れる結果になったと思われる。どうして結婚式をテーマにしたのかは不明だけれど、「白い鎧」を名乗ることと関係があるのか、日本の少女マンガからトレースしたようなジャケット・デザインには純白のウェディング・ドレスが描かれている(ウェディング・ドレスが白いのは家制度の名残で死装束の意)。
幻想的な始まりは同じスウェーデンの大御所、ラルフ・ルンゼンの後期作を彷彿。流麗でチープなメロディを畳み掛ける“Could Be Us”から“Kisses And Hugs”へと夢見心地は途切れず、あくまでも現実感のない世界を旅し続ける。坂本龍一“Self Portrait”なんかを思い出しながら、バッハを混ぜ込んだような“Eternal Hills Highest Crest”へ橋渡し。モーション・グラフィックス『Motion Graphics』(16)を筆頭に、近作では方向性を変えたヴェルーム・ブレイク『Bench Manoeuvres』(19)やトランス系のネイキッド・フレイムス『Miracle In Transit』(22)など、このところ日本で80年代に流行った「テクノ・ポップ」にがっつりとインスピレーションを得たのかなと思わせる作品は多く、そのなかでは北欧風のフレイヴァーが染みわたっていて最もオリジナリティを感じさせる。とくに“Smile (Reprise)”は、オプティモのJ・D・トゥイッチが昨年、日本のテクノ・ポップをミックスした『Polyphonic Cosmos』にも収録していたテストパターン“Hope”に迫る楽天性を感じさせ、ひとしきり明るい気持ちにさせてもらった(続けて『アポジー&ペリジー』も聴きたくなるというか)。再びバロック調の“Tar Feathers”もよくて、“Slow Dance”~“Gåvor”と、後半は落ち着いた曲を並べ、着地はとても滑らか。
『結婚式のための音楽』というタイトルの前には「In the Abyss」という設定も付け加えられている。ゼクシーの結婚式は山の頂上で行われていたけれど、こちらは「the Abyss」と大文字で表記されているのでジェームズ・キャメロン監督『アビス』(89)に端を発する「深淵」のイメージなのだろう(小文字だと「地獄」という意も)。すべては海底で行われた結婚式の風景。エソテリックで、なんというか、ニューエイジぎりぎり(笑)。23世紀には地球の表面温度が150度まで上がるという試算もあるので、人類はこの先、海底で暮らさなければいけなくなるという警告……ではなさそう。
三田格