「S」と一致するもの

Dorrough - ele-king

 テキサス・ヒップホップから2枚。

 ドローの2作目にはかなり期待していたんだけど、出来は微妙。サウス・マナーを華やかに展開するオープニングはちょっといいし、続くタイトル曲もパラノイアックなフックがなかなか効いている。一転してメロウに流れる3曲目の"M.I.A."から少しずつどうかなー......という感じが増えはじめ、ファンタジックなムードに遊ばせるなどまったく持ち直さないわけでもないものの......。スリム・サグやジム・ジョーンズなどゲストも多すぎず少なすぎず("ロッキーのテーマ"を最初にサンプリングしたんじゃないかと思う)ジュブナイルをエンディングに起用し、終わり方もけして悪くない。とはいえ、全体にどうもクリシェに堕しているというか、後半は特にどこかで聴いたことがあるというか、冒頭のインパクトを置き去りにしたまま最後まで逝ってしまう......と、思わず2ちゃん用語を使ってしまうほど惜しい感じが。
 
 一方は、2ヶ月前ぐらい前のリリースだけど、すでに中堅といえるスイシャハウスの中心人物によるソロ4作目(いわゆるHタウンことヒューストンから。ドローはダラス)。当初はカミリオネアと組んで(いたけれど、例によってケンカして、そのうち仲直りして)いたホワイト・トラッシュで、メジャー・デビュー作『ピープルズ・チャンプ』のジャケットでむき出しにしていた銀歯の並びを今度は手で覆い隠している(つーか、考える人のポーズ)。そのようなアグレッシヴなジャケット・デザインやサウス全般のイメージとは違ってサウンドは初めから飾り気がなく、07年にリリースした『ゲット・マニー、ステイ・トゥルー』ではほとんどのトラックをミスター・リーが手掛けた簡素なミニマル・ビートが埋め尽くし、そのような美意識は新作でも踏襲されている。あるいは"ショウイン・スキルズ"の潰れたビートや随所で単調なSEが効果的に配されるなど感覚的にはテクノに親和性を感じるトラックが多く、"ポケット・フラ・プレジデント"ではまさにその線を狙っているとしか思えないテキサスの古典、MC900フィート・ジーザス・ウイズ・DJゼロほどではないにせよ("UFOズ・アー・リアル"最高!)、80年代末のバリアリック・ビートを彷彿とする瞬間も少なくない(タイトなブラスをループさせた"アイマ・ゲット・イット"はリズム感のよくなったリニゲイド・サウンドウェイヴかボム・ザ・ベースか)。
 後半はだんだん感情の振幅も激しくなり、サウンドもサウス・マナーを屈託なく使い始める(構成的にはそれで正解)。充実した仕上げリではないかと(野田編集長には"スモーク・エヴリデイ"がオススメ)。

Deerhunter - ele-king

ディアハンターの4枚目のアルバム『ハルシオン・ダイジェスト』が都内のレコード店でも好調なセールスを見せている。2年前の『マイクロキャッスル』によってサイケデリック・ポップ・バンドとしての才能を見せつけたアトランタ出身のディアハンターは、いよいよ魅力たっぷりなその毒を日本にも撒き散らそうとしているようだ......。

彼の少年性、そして「性別がない」音楽文:橋元優歩


Deerhunter / Halcyon Digest
E王 4AD/Hostess

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 「僕には性別がない」、あるインタヴューでブラッドフォード・コックスはそのように述べている。マルファン症候群という先天性の疾患のためとも言われる驚くばかりの痩身、長すぎる四肢、窪んだ眼窩にぎらぎらと眼球、たたずまい自体が非常に喚起的なディアハンターの中心人物だ。ドストエフスキー『悪霊』に登場するインテリ革命家の誰それを思わせる。あるいは鋭く不穏な知性を湛えたベッドルームの隠遁者。
 ゲイだという噂もある。それに応答する意味だろうか、キャミソール・ドレスを着用した攻撃的なショウの模様も確認できる。ゲイ情報に関する真偽はきわめて曖昧だが、ブラッドフォードの身体には、たしかにそうした様々な物語を収容し得る何かがある。少年のようにも老人のようにも、聖人のようにも悪魔のようにも見える。私には宗教画がイメージされるが、一方でどことなくポップなポテンシャルも感じさせる。
 アトラス・サウンド(ブラッドフォードのソロ名義)の『ロゴス』や、この『ハルシオン・ダイジェスト』のジャケットを並べてみれば、常ならざる形をしたものへのまなざしがはっきりと感じられる。本作ジャケットの被写体については、悲劇的なゲイ青年の物語が付記されてもいる。
 
 「性別がない」ということを、ブラッドフォードはバイセクシュアルだという意味では語っていない。アセクシュアル、つまり自分はセクシャルな存在ではないという言い方をする。セクシャルな存在になる前段階の少年性のようなものを指しているのだろう。彼が好む雑誌に『ボーイズ・ライフ』が挙げられるが、これがどんなものかというのはアマゾン等で検索すれば瞭然である。日本で言えば『学研』みたいなものだろうか、思春期前の少年が携える、ホビーと冒険のバイブル。ちょっとした科学実験や虫取り、子どもが喜ぶジョークやまめ知識がまとまった、男子児童ライフをめぐるトータルな情報誌で、大人の読むものではない。少年性というある種のファンタジーが、彼自身にオブセッシヴに機能していると仮定するのは的外れではないだろう。未分化であるがゆえに何ものでもあり得るというような性に、彼は追慕と理想とを抱いているのではないだろうか。成人男性の身体を持った人間に、そのような「アセクシュアル」が本当に可能かどうかわからないが、そうありたいと思う人がいるのは理解できる。まして彼の場合はかなり特殊な身体だ。世界に対するスタンスとして、自らを異物、あるいは周辺的・外部的なものであると捉えていたとしてもおかしくない。それは彼の音楽のスタンスでもある。
 
 ブラッドフォードの音楽は、翳りがあり退廃的であるとさえ評されるが、ダーティではない。むしろ汚れたものにたいしてうぶでさえある。"ドント・クライ"では少年が雨のなかでなにかを洗っている。"リヴァイヴァル"では、暗い廊下が「来るな!」と呼びかける。"セイリング"で描かれる世界はダークかもしれないが、ダーティではない。いずれの曲もディアハンターらしいリヴァーブに包まれている。夢をみるためのリヴァーブではない。魔除けのためのリヴァーブ。スローな曲でもリズムはよく締まっていて、清潔さを感じる。また、アニマル・コレクティヴの近作のような打ち込みの要素も前作に増して目立っている。それがよく表れている"ヘリコプター"は名曲である。"ベースメント・シーン"では、年をとりたくないという主体が、年をとりたいと考えるまでの過程が描かれている。年をとらずに夢を見つづけることは、人に忘れられ、自らの終わりを意味するからだ。
 
 『ボーイズ・ライフ』が、その他たくさんの書籍とともに雑然と置かれているというブラッドフォードの部屋の壁には、パティ・スミスやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのLPが掛けられているそうだ。パティ・スミス......そう、彼は少年性に居直っているわけではない。理想を大事に扱っているだけなのだ。"ベースメント・シーン"では、年をとりたくないという主体が、年をとりたいと考えるまでの過程が描かれる。年をとらずに夢を見つづけることは、人に忘れられ、自らの終わりを意味するからだ、と詞はつづく。これほど自覚的な彼の音楽を安直にドリーミー・ポップなどと呼べるだろうか。覚醒的で孤独なブラッドフォードの心のふるえを、大雑把にシューゲイズなどと呼んでしまうことは、私にはほとんどナンセンスに思われる。
 ブラッドフォードの作家性に終始してしまった。実際には、ロータス・プラザとしてソロでも作品を出しているロケットの役割も無視できないのだが、本作はやはりブラッドフォードのアルバムだと感じる。アトラス・サウンドが、前作『マイクロキャッスル』の方法に無理なく溶かし込まれた印象である。

文:橋元優歩

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一緒にハイになろう、僕は年をとりたくないんだ文:野田 努


Deerhunter / Halcyon Digest
E王 4AD/Hostess

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 2008年のディアハンターによる『マイクロキャッスル/ウィアード・エラ・コンティニュード』、2009年のアトラス・サウンド名義による『ロゴス』、これらはここ数年のUSインディ・アンダーグラウンドの野心――IDMスタイルからノイズ、ヴィンテージ・スタイル等々――と接続しながら、明日のポップ・サウンドを模索するアルバムだ。サウンド面での工夫があるというのはもちろん大きいが、それだけがトピックではない。それら2枚はアニマル・コレクティヴと並ぶ、ゼロ年代におけるネオ・サイケデリアを代表する作品でもある。個人的な遍歴を言わせてもらえれば、『サング・タングス』(2004年)から『クリプトグラムス』(2007年)へ――というのがおおまかな流れとしてあって、その地下水脈における最初のポップ・ヴァージョンが『マイクロキャッスル』だったと記憶している。
 ポップ・サウンドとはいえ、アニマル・コレクティヴにはない妖艶なメロウネスがそこには詰まっている。ブラッドフォード・コックスが関わる音楽には、昔ながらのジャンキーの、役立たず人間のみが発することのできる香気というものがある。弱者であるがゆえの色気があり、彼にはルーザー・ロッカーとしての十二分な資質がある。いまどき珍しく、頽廃的な光沢がある。それがゆえにだろうか、ブラッドフォード・コックスにはアニマル・コレクティヴほどのピーターパン的な印象はない。
  
 CD2枚に25曲を収録した『マイクロキャッスル/ウィアード・エラ・コンティニュード』においてキャッチーな曲も書ける才能を証明したバンドは、この新作では、CD1枚46分のなかに11曲を収録している。厳選された11曲なのだろう。また、いくつかの作曲にはギタリストのロケット・プントが関わっているそうで、ディアハンターがコックスのワンマン・バンドではないことを暗に主張しているようだ(しかし、いまとなってはディアハンターとアトラス・サウンドにそれほど違いがあるとは思えないのだけれど......)。
 
 子供への自己投影を主題にした"ドント・クライ"はヴェルヴェッツ直系のロック・ソングで、"リヴァイヴァル"とともに口ずさみたくなるタイプの曲だ。恐怖をテーマにした"セイリング"はスローテンポの美しいブルース・ロックで、"メモリー・ボーイ"はテレヴィジョン・パーソナリティーズを彷彿させるキャッチーなサイケデリック・ポップ。"ベースメント・シーン"は夢見るガレージ・ポップ・ソングで、シングル・カットされた"ヘリコプター"はメロウなエレクトロニカ系ポップ・ソング、それに続く"ファウンテン・ステアーズ"はバーズ......というかより深いトリップに夢中なストーン・ローゼズといったところ。まあ要するにアルバムは多彩で、捨て曲なしの引き締まった内容になっている。『マイクロキャッスル』のとの大きな違いはそこで、ポップ・バンドとしてのディアハンターの才能がスマートに発揮されている。
  
 まあ......とはいえ、僕の場合は、間章の啓蒙主義めいた言葉で描かれたコックスの夢想を共有するにはもういい歳なのだ、という事実もある。「年をとりたくない」と歌われても、年をとってしまっている。「目を覚ましたくない」と歌われても、毎朝7時に起こされる。困ったものだ......。「一緒にハイになろう/僕は年をとりたくないんだ」、そのいっぽうでコックスは「それは僕の終わりを意味するのかもしれない/年をとりたい」と、彼の分裂した思いを打ち明ける。その曲、"ベースメント・シーン"の歌い出しはこうだ。「少しでいいから夢を見よう/地下の世界についての夢を」――リヴァーブをかけられ茫洋と響く彼の言葉と歌は、そして成長(大人)を拒否する『ハルシオン・ダイジェスト』は、"終わりなき夏"をひたすら夢想するチルウェイヴと、その他方では過去に惑溺するヴィンテージ・ポップスと、いずれにせよそれほど遠くはないどこかで混じりながら、USインディに拡がるネオ・サイケデリアをよりいっそう強固なものにしている......ように聴こえるのだ。

文:野田 努

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Digital Mystikz - ele-king

 澱みがかったロンドンの冬の空のように暗く重い音楽がまたここに生み出さた。DMZとしては久しぶりの帰還であるそれは......デジタル・ミスティックズ(マーラとコーキのデュオによる)、待望のデビュー・アルバムだ。

 DMZ=マーラ、コーキ、ローファーの3人が目指したベースサウンドは、セレブリティー・カルチャーへの拒絶、そしてクロイドンにおける彼らの音楽体験を基礎としたピュアかつオーガニックな、サブベースがメインのいわばアンチ・トレブル・サウンドである。生まれるべくして生まれた彼らオリジネーターの妙技の産物だ。
 つまり、UKアンダーグラウンドがジャングル、ドラムンベース、UKガラージ全盛だだった頃、彼らは遊び仲間とともにビッグ・アップル・レコーズでヴァイナルを漁り、数々のジャングル・レイヴやクラブ・パーティに通い詰める日々を送っている。そうしたなかで研磨された感性がレーベル・ポリシーへと結びつき、DMZはFWD>>と並ぶ重要なパーティへと発展したのである。ダーク・ガラージを発展させたハーフ・ステップ・ウォブリー・サウンドの生みの親であるローファー、力強いメロディラインと野太くダビーなベースラインをフォーカスとしたオールドスクール・ステップを基調とするデジタル・ミスティックズ......、〈DMZ〉からのリリースは、2004年の「Twisup」以来いくつもの名曲をシーンに残している。

 おそらくマーラが主体となったであろうこのアルバムは、音楽シーンがデジタル=MP3に支配されているなか、時代にそぐわないフォーマットを選んでいる。さすがマーラというか、デジタル・ミスティックズのデビューアルバムなのに......セールス上、大丈夫なのか? と心配してしまう、アナログ盤のみのリリースである......。
 レゲエやダブにもひと際インスパイヤーされているマーラが、レゲエ・セレクターの象徴であり、いまや消えつつあるダブプレート文化を守ろうとするのは当然のことかもしれない。いずれにしても、DMZの強固なアナログ主義というポリシーが伝わってくる。たしかに、ジャー・シャカや名だたるレゲエ・セレクターがパソコンやデータでDJをする姿を見たら誰もがドン引きするだろう。そうした伝説的なレゲエのセレクターに近い雰囲気をマーラは持っている。そのDJプレイは何度も見たことがあるし、筆者もDBSで共演したことがあるが、マーラのレゲエ・スピリッツを受け継いだDJスタイルにいつも驚嘆させらる。

 ミドルレンジの広がり方がアナログに最適な音質にミックスされている。なるほど、音を聴けばヴァイナルのみで出した理由がわかる。ヴァイナルに最適な中和のとれた音色ヴァランスだ。
 また、タイトルの『Return II Space』の通り、秀逸なジャケットのデザインそのままのブラックホールに吸い込まれるかのような深いスペーシーなムードがあり、灰色のコンクリートのような無機質な感覚がある。ダブ志向の彼が、新たな到達点として発表するスペース・オデッセイとでも言えばいいのか。ジェフ・ミルズやLTJブケムとはまた別の、新しい宇宙観がダブステップと言うフィルターを通して具現化されている。これもダブステップの副産物であり、その変異体のひとつである。

Dorian - ele-king

 この、山下達郎の代表作『フォー・ユー』などのジャケットでもお馴染みの、80年代を代表するイラストレーター、鈴木英人のイラスト・タッチを模したドリアンのアルバム・ジャケットを初めて見たときは、これは往年のシティ・ポップへの憧れの情景を描いているのか、それとも彼らの世代による彼らなりのシティ・ポップを新たに獲得したという宣言なのか、そのどちらかなのではないかと、アルバムの内容に期待と不安を入り交じらせた。往年のシティ・ポップといえば、読んでその名の如し、土臭い生活感が滲み出るローカル・コミュニティを基盤とする60~70年代のフォークに相反する形で80年代に拡大した、都会的な享楽を描く歌謡音楽である。戦後の高度経済成長を経てきたことで生まれたこのジャンルは、プロダクションや演奏技術の洗練を背景に、和製AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)とも呼ばれ、高年齢層へと目配せをした結果、現実の写実よりも、空想に耽ることを主としたリリックも目立っていた。

 しかし、ドリアンといえば横浜を拠点とするクルー〈パン・パシフィック・プレイヤ〉周辺とも親交が深く、それこそ、「粗大ゴミをお宝に変える醍醐味」と路上の煌めきを掬い取ってラップするやけのはらとも多くの共同作業を重ねている。グローバリズムに浸食されるこの国のポップ・ミュージック・シーンに於いて、ローカルなコミュニティで活動するアーティストの代表格として知られている存在とも言える。多くのローカル・パーティの現場で、甘くメロウでトロピカルなディスコ・サウンドを鳴らし、幾度もの高揚を生み出している。そして、そこに集まったユースたちは週末の開放感を噛み締めている。だからこそ、ドリアンがシティ・ポップの世界観へ全面的に傾倒してしまったのであれば、自分を含め、彼の音楽をナイトクラビングのサウンドトラックとして楽しんでいたうだつの上がらないユースたちは戸惑うのではないかと。これが最初に書いた「期待と不安」のうちの「不安」である。

 ところどころベタなピアノ・ハウスがあり、全体的にウェルメイドな作りではある。が、洗練された都会の音楽というよりも、裕福ではない郊外の悪ガキたちが気心知れた仲間たちと夜の海岸線へと車で繰り出ような、一時の享楽を描いたミッドナイト・クルージングといった印象を感じる。シティ・ポップの享楽性とは違っている。代わり映えのない埃っぽい日常のなか、彼らはそれが一時的なものであることも十二分に理解しているのだろう。家に辿り着いた瞬間には、散らかった部屋を見て、一気に現実の世界に戻されることもままある。そんな灰色の現実からの脱出という逃避も、都会での生活への憧れも全て内包した上で、夢見心地なディスコの世界へと放り込んでしまう彼の音楽は、ナイトクラビングの醍醐味を伝えるパワフルさがある。
 アルバムの終盤のハイライト、七尾旅人とやけのはらが参加した"シューティング・スター"という曲では、「この一瞬のキラメキを/そう/永遠に信じよう」とやけのはらはラップしている。そう、これはたしかに、一瞬でも構わない、キラメキを獲得する為の音楽なのだ。これこそが、やけのはらのラップする「鳴り響くアーバン・ソウル」であり、この日本で生き辛さを感じながら生活する現代のユースによって刷新された、新たなシティ・ポップともいえるのだ。アルバムを聴き終えると、このジャケットが妙にしっくり来るのである。

 アルバムのベスト・トラックは、中盤に配された、70~80年代に活躍したアメリカの女性ソウル・シンガー、デニース・ウィリアムスの代表曲"フリー"のインスト・カヴァー。原曲で描かれている、開放感を謳歌するリリックはないけれど、シンセサイザーのレイヤーを重ねてダイナミックに描いたこのインスト・ヴァージョンを聴いているだけでも、穏やかな自由の歓喜を感じることができる。この曲を聴いて、今宵も一瞬のキラメキを獲得しに、夜の街へと繰り出そう。

Chart by JETSET 2010.10.04 - ele-king

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TRAKS BOYS

TRAKS BOYS STARBURST / YELLOWBIRDS »COMMENT GET MUSIC
遂に我らがTraks BoysがPrins Thomas主宰Internasjonalから海外デヴュー!!2nd.アルバム『Bring The Noise』収録の煌くトランシー・ロマンティック・ディスコ"Starburst"をオリジナル+Prins Thomasリミックスで、そして完全未発表曲"Yellowbirds"のオリジナル+TBDリミックスという豪華すぎる内容です!!

2

MICHEL CLEIS

MICHEL CLEIS UN DOLCE »COMMENT GET MUSIC
これはもう鉄板でしょう!!待望の新作が遂に出ました。テクノ~ハウス・シーンを横断した名曲"La Mezcla"の大ヒットで人気のMichel Cleisによる待望の新作が到着!!

3

ALOE BLACC

ALOE BLACC GOOD THINGS (DELUXE EDITION) »COMMENT GET MUSIC
先行シングルで世界中を虜にしたAloe Blacc、待望のニューアルバム・リリース!!Mayer Hawthorneと並ぶStones Throwを代表する本格ソウル・シンガーAloe Blacc。大ヒット・シングルを携えて、遂に新作リリース!!※こちらはインスト収録ボーナス盤付デラックス・エディション。

4

DYNOOO & CUPP CAVE

DYNOOO & CUPP CAVE MICK VACKEY II / SCI-FI CREAM »COMMENT GET MUSIC
ベルギーから気鋭ビートメイカー二人によるスプリット12"!また新たなベルギーのレーベル"Surf Kill"から届いた要注目の一枚。素晴らしいアートワークにSamiyam、Paul White辺りが好きな人には見逃せない内容となっています。今のところ国内ではJET SETのみの入荷です!

5

HYPE WILLIAMS

HYPE WILLIAMS DO ROIDS AND KILL E'RYTING »COMMENT GET MUSIC
GamesとSampsとsalemが出会ったような衝撃。謎のインディ・クランク・シンセ・デュオの激ヤバ盤!!DrakeをスクリュードさせたA-1、Sade"The Sweetest Taboo"をシンセ・エコー化したB面。何が起こっているのかまだ理解できませんが、、、とにかく激オススメです!

6

V.A.

V.A. LUCKY NUMBER 13 »COMMENT GET MUSIC
洒落過ぎのフィメール・ヴォーカル入りスウィング・ハウス大傑作A1を搭載です!!デンマークの大人気レフトフィールド・ミニマル・レーベルTarteletからの強力コンピが到着。ダーティ・ビーツからディープ・テックDJにも大推薦のボムB2もっ!!

7

ACKKY

ACKKY COMPOSITION »COMMENT GET MUSIC
Ackkyの自身初となるソロ名義でのオリジナル・アルバムが完成!Larry Heardをはじめ、Kenji Hasegawa (gallery)、DJ Nori、高橋透など著名アーティスト、DJが賛辞を送る珠玉の1枚です。

8

NOAIPRE

NOAIPRE ANXIETY SQUARE »COMMENT GET MUSIC
Machinedrumファンも卒倒必至のエディットが炸裂するUKベース傑作デビュー10"!!ご存知グラスゴウの怪物Rustieが自らのプレイ・リストに忍ばせ当店ヒットを記録したBFlechaに続く、スパニッシュ要注目レーベルからの第2弾!!

9

EMMANUEL JAL

EMMANUEL JAL KUAR EP »COMMENT GET MUSIC
Henrik Schwarz、Olof Dreijer(Oni Ayhun)リミックス収録。Innervisionsから最高の一枚が到着!!2011年初頭に開催される南部スーダンの独立の是非を巡る選挙に世界の注目を集める意図で組織されたSudan Votes Music Hopesの企画を元に製作されたシリアスな楽曲のリミクシーズ。それにしても素晴らしい仕上がりです。

10

AERA

AERA CONTINENTAL DRIFT »COMMENT GET MUSIC
やっぱり間違いなかった、Aera待望の第2弾シングル!!Francois K、DJ Nori両氏にもお買い上げ頂いた前作"Infinite Space EP"で一躍脚光を浴びた、GoldwillメンバーRalph Schmidtによるソロ・ユニットAeraの新作が到着。更に深度を増した音響処理がエクセレント!!

interview with Kikuchi Naruyoshi - ele-king


菊地成孔00年代未完全集『闘争のエチカ』(上下巻)
イーストワークス

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 「瓢箪から駒」というか「バタフライ効果」というか、3年前に活動休止したデート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデン(以下デート・コース)の突然の復活劇に私の提案が一役買っていたのは、眩暈のする気分だった。70年代のマイルス・バンドのベーシスト、マイケル・ヘンダーソンが往時のマイルス・バンドを再結成し日本に来たがっているという話をあるひとから聞いて高見氏の耳にいれたのは私だったからだ。もう2~3年前の話だから、すっかり忘れてしまって、まあ立ち消えたのだろうと思っていた私は、ゼロ年代全集『闘争のエチカ』を出し、10月9日に日比谷野外音楽堂でのライヴを控えた菊地成孔の口からその話を聞くにおよび、不思議な感慨をおぼえた。
 
 ともあれ話は動き出しており、それはあの10年とはちがうこの10年に波風を立たせないはずはなく、私は3年ぶりの活動再開は休止というにはスパンが短いとも当初思っていたが、いまは考えをかえた。非常にたのしみになった。私は菊地成孔とちがい、運命論はほとんど信じない。決定論から逸れるのがおもしろいと思っている。決定論へのすききらいは別にして、全集に--これはあくまで全集の「構え」をしたものと断ったうえで--闘争のエチカ(倫理)とつけた菊地成孔にはゼロ年代からつづく運命とも公理とも正義とも道徳ともいえるものへの諧謔がありいささかも衰えていない。

「マイケル・ヘンダーソンがあのときのエレクトリック・マイルスのメンバーを招集してライヴして、そのフロント・アクトでデート・コースもリユニオンして一回だけ演りませんか?」と高見くんに訊ねられ、「だったら演る」と答えたのね。

デート・コースが復活したいきさつを教えてください。

菊地成孔:(プロデューサーの)高見(一樹)くんにだまされたというのが本当のところです(笑)。

そんなこと書けませんよ。

菊地:いいよ書いて。2年くらい前、アメリカでマイケル・ヘンダーソンがエレクトリック・マイルスのリユニオン・バンドを作った。ついては日本公演がしたいと第一報があったのね。そのとき僕は『オン・ザ・コーナー』のバンドでのリユニオンだともうちょっと細かい話を聞いていたんだけど、「マイケル・ヘンダーソンがあのときのエレクトリック・マイルスのメンバーを招集してライヴして、そのフロント・アクトでデート・コースもリユニオンして一回だけ演りませんか?」と高見くんに訊ねられ、「だったら演る」と答えたのね。リユニオンといっても一度だけだし、旧メンバー集めて演奏して「よかったね」で終わると思って一年くらい交渉を待っていたの。だけど、待てど暮らせど......というか、よくある話なんだけど二転三転して、最終的にその話自体がなくなったはいいが、途中経過で野音を押さえてしまっていた、と。
 マイケル・ヘンダーソンの話は黒人にありがちなブラフで、結局エレクトリック・マイルス・バンドの来日公演というこっちがワクワクするようなものじゃなくドサまわりだとわかってきたんだけど、ギリギリまで粘ったんですよ。じゃないと、デート・コースが単体で活動再開ってことになりかねないから。僕はそれはイヤだといったわけ。というのは、野音がデート・コースが活動を再開するからっていっぱいになるわけないと思っていたから(笑)。もう誰も憶えてないよって。

「誰も憶えていない」は極論だと思いますが。

菊地:だとしても野音は規模がちがう。マイケル・ヘンダーソンに興味をもったひとが「そういえば昔デート・コースってバンドがあったな」って、久しぶりに見るのも悪くないというかね。だから高見くんには、一所懸命頼んで、最終的には「マイケル・ヘンダーソンひとりでもいいから旅費払って呼べ」っていったの(笑)。「デート・コースにマイケル・ヘンダーソンが入るのでもいいから、単独で活動再開っていうのはやめてくんない」って(笑)。だけど彼はそんなこと聞くひとじゃないから、僕の望みなんかたいがい叶わない。で、自分たちだけで野音やるはめになった(笑)。「だったら」ってこっちも降りる目もあったんだけど、そのころには再開に向けてマイケルの話とは別に気持ちが高まっていったところもあったから、彼の来日がなくなったのはたまらないものはあったけど、「でもまあ、やるか」って感じにはなってきていた。どうせ活動再開を謳うなら、懐かしいメンバー中心ではなく、僕以外は若いメンバーで--マイルスのスタイルですが--再構築しようと考えたんです。アルバムのリリースやライヴの頻度は別にして、まずは野音とボロ・フェスタで(新生)デート・コースをたちあげるのに、全体の計画がシフトしてきたわけ。シンシアにいうと、なにもない状態から「デート・コースをもう一回やるべきだ」というモチベーションが生まれてきたわけではない。

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若手にはデート・コースのチルドレンみたいなヤツがいるんだよね。僕の教えている生徒にはティポグラフィカのライヴにはとうとう行けなかったけど、音源を全部もっていて、「楽譜みせてください」とか「自分で採りました」って子がいっぱいいるわけ。


菊地成孔00年代未完全集『闘争のエチカ』(上下巻)
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活動休止から3年の期間をどう見るかですね。しかしそれは瓢箪から駒かもしれないですね。

菊地:そうであってほしいけれども。ただエレクトリック・バンド、デート・コースと名乗るかどうかは別として、ここのところフル・アコースティックのバンド活動に傾いていたから、そろそろファンキーなもの、5~6人のスモール・コンボでポリリズムを主題にしたエレクトリック・バンドはやろうとずっと思ってはいたの。

メンバーは事後的に考えたわけですね。

菊地:そう。旧メンバーで「こいつだけはどうしても」っていうひとには残ってもらって。

それはどなたですか?

菊地:坪口(昌恭)と大儀見(元)と(津上)研太。それと僕を加えた4人が残る。あとは全員変える。

新デート・コースのパーソネルを可能な範囲で教えてください。

菊地:千住(宗臣)くんとJ・A・Mとかソイル&ピンプ・セッションズのピアノの丈青くんはわかるだろうけど、ほかは生徒とかアマチュアからハントしたひととか、名前を知られていないひとたち。厳密にいうとニコニコ動画のテクニック系動画マニアの間では有名とか(笑)、そういう名声あるけど、一般的には無名ですね。

リハーサルはもうはじったんですか?

菊地:明日(取材日は2010年9月15日)が初日。

期待と不安半々ですね。

菊地:僕にとっては千住くんや丈青くんの方がむしろ未知数ですよ。彼らの場合いろんなツテを頼ったけど、ほかのメンバーは自分で選んだからポテンシャルがだいたいわかる。若手にはデート・コースのチルドレンみたいなヤツがいるんだよね。僕の教えている生徒にはティポグラフィカのライヴにはとうとう行けなかったけど、音源を全部もっていて、「楽譜みせてください」とか「自分で(音を)採りました」って子がいっぱいいるわけ。彼らはそこからデート・コースに進んで......なんというかな、種はまいたというかね。いま20代でデート・コースのライヴにギリギリ間に合ったくらいのプレイヤーがでてきた。そういったひとたちからもらったデモ・テープを聴くと、彼らは最初からデート・コースを聴いて育っているから血肉化されているんですよ。ロックンロールのパイオニアに対する第二世代というか、下の世代が育っていることに気づいたんですよ。

デート・コース的な言語でしゃべるネイティヴですね。

菊地:そうそう。彼らは若いし、前のデート・コースの最大のネックだったスケジュールや活動資金の問題もクリアできる。さらに彼らはリズムに対するリテラシーが高い。メンバーがあらかじめ曲を全部知っていれば、マイルス・スタイルを採用しても対応可能であり、現にそういったひとたちが複数名いたというのが活動再開の契機でもありましたね。

ミュージシャンに技術があってもコンセプトを飲みこめないと演奏できないでしょうからね。

菊地:上手いということは結局万能ではないからね。

菊地さんは教鞭をとられてもいるわけですが、この10年の菊地さんの活動によって、若いリスナー一般のリズムのリテラシーが高まったということですか?

菊地:全体はなにも変わってない。むしろ退化している。というのはいいすぎにしても、ほとんど変わってないですよ。いまいったひとたちは好事家であって、アメリカのどの州にも何人かはザッパが死ぬほど好きなマニアがいる、というような意味です。

テープを擦り切れるほど聴いてコピーして、ザッパ・バンドに入りたいひとたちですね。

菊地:オーディション待っているひとたちね。じっさいザッパ・バンドってそうやって長い時間かけてまわっているわけでしょ。いまはザッパの時代とちがうから、YouTubeがあって音源も共有ソフトでとれるし、はいりこむ回路はいくらでもある。新生デート・コースのメンバーは東京にいて、デモ・テープをもらった数人の直接コンタクトできる子たちから選んだけど、時間があればオーディションしたかったですよ。

菊地さんの活動に啓蒙されてリズムのリテラシーが変わったひとは少数であったとしてもいた、ということですね。

菊地:僕がこの10年やってきたことは、ゼロからはじめることだったんです。リテラシーがゼロなのを、友人である優れたミュージシャンたちにやらせてきたのをファースト・インパクトだとすると、それを聴いて育ってひとがでてきて刈りとるセカンド・インパクトが当然うまれるわけ。あらゆる音楽史にとってそれは必然です。僕のゼロ年代にやったことは全部同じで、頭のなかでコンセプトを作り、それをすでにキャリアがある友だちたちにやらせて、結果的にうまくいった、その繰り返し。だから第二世代がでてきたこと自体がすごく新鮮なんですよ。ロックンロールや、レゲエやヒップホップみたいなジャンルではもっと短いスパンでそういった現象が起こるわけで、うちらにもそういったタームに入ったか、と驚いたところもある。それがマイケル・ヘンダーソン不在にも関わらずモチベーションがあがった大きな要因ですよね。

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リテラシーを高くとることで賞味期限を伸ばそうという戦略があったわけではないけど、結果としていまの日本人全体にはポリリズムとか複合リズムはリテラシーは高いものになってしまっている。だからいつまで経っても消費されない感じがある。

『闘争のエチカ』はベスト盤......というか総括とも全集ともいえるものですが、菊地さんのいうゼロ年代は『闘争のエチカ』に集約されたと考えていいですか?


菊地成孔00年代未完全集『闘争のエチカ』(上下巻)
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菊地:『闘争のエチカ』は最初、〈イーストワークス〉のワークスをCDボックスで出そうというありきたりな話で進んでいたんですよ。〈イーストワークス〉の仕事というのは、ゼロ年代というディケイドを前半と後半にわけると、後半なの。00年から05年はスパンク・ハッピー、デート・コース、『スペインの宇宙食』で、後半は歌舞伎町でジャズ。2005年に『情熱大陸』に出演しているから、ちょうどカードの裏表みたいにバチッとわかれる。ディケイドは半分に割れるものだから。その考えで、〈イーストワークス〉ワークスを出すとなるとカードの裏面、後ろ側の5年の全集が出ることになる。それで高見くんにムリは承知で「デート・コースとスパンクスも入れた、この10年の前半も入れた全集が出せたらいいね」っていったんですよ。そうしたら高見くんはもちまえの行動力でそれを実現したわけ。「全部いけますよ」となったときに「じゃあ徹底的にいこう」と。「CDの何枚組っていうのはやめて、4ギガのUSBメモリに全部入れる」となった。僕はご存じの通り、ハードは全然知らないから、「おもしろいね、これ」といっただけなんだけど、いずれにせよ、商品形態としては一個人の10年間の活動を動画と静止画とテキストをあわせて4ギガバイトのメモリに収録して1万円というのは世界初だからね。値段の設定もよくわからなかった(笑)。「安すぎ」だっていう声もあるし、「高くて買えない」っていう若い子もいるという。その意味ではすごく現代的で、昔みたいに鶴の一声で価格をいえば国民のコンセンサスが得られる時代じゃないから値段つけるところから楽しくやったわけだけど、仕事の総括ということとニュー・メディア、新しいプロダクトを出す喜びが重なってきた。デート・コースの活動再開とは時期がダブったのは偶然(笑)。デート・コースは映像がでかくて、夏目(現)くんが撮影した映像が膨大に残っているんだけど、初心者はもちろん、マニアでも見たことのない〈みるく〉でのライヴ映像なんかを入れたらちょっとしたプロモーションにはなるかな、と大急ぎでこれが野音前夜に向けて制作されたという事の次第です(笑)。

〈みるく〉ももうないですからね。菊地さんはコンテンツを確認されたんですか?

菊地:もちろん。高見くんとふたりで全部確認して写真も全部選んで、ライヴ音源も山ほどあるもののこの部分を使おうと指示して、相当な難事業でした。最初は新録がいらないから楽だと思っていたんだけど(いままでで)一番キツかった(笑)。2004年の仙台でやったライヴとか、「ひょっとしたらいいテイクがあるかもしれない」って見るんだけど、全部"ヘイ・ジョー"とか"キャッチ22"なの(笑)。

気が狂いそうですね(笑)。

菊地:狂うよ(笑)。それを乗り越えて、厳選に厳選を重ねました。

キツかったのは過去の自分に対峙するのがキツかったわけではなくて?

菊地:いや、過去の自分の対峙するのは誰でもそうであるように僕だってキツかったですよ。10年前の映像を見るのなんてイヤなものじゃない。でもそのキツさは最初だけで、自分史を補強したというか、精神的なつらさはそれほどでもなくなった。

そのうえで自己分析するとどうなります?

菊地:「多岐にわたる活動」といわれてきたけど、僕のこの10年やってきたのは構造レベルに還元すればひとつだなと思った。全部ポリリズムとポリグルーヴだよね。そういうことも頭では理解していたけど、目のあたりにすると「なるほどな」と思いました。

「なるほど」というのは過去あるいは表現への所有感ですか? 

菊地:音楽の衝動っていうのは個人から出ているとはいえ、もっと共有的なものだと思うよね。だから所有感というより、ともすれば忘れてしまうちょっと前のことだとか、「いろんなことをやっている」といわれるうちに自分でも「いろんなことをやっている」と思いがちだけど、つまるところストーンズみたいな金太郎飴状態ではなくても同根感はあるということです。YMOとかソロとか、坂本龍一さんの音楽はいろんな要素を孕んでいそうだけど、結局のところ、ドビュッシー風の和音がポップスに乗っかってくるというそれだけをつづけている側面があるのと同じで、結局僕はブラック・ミュージック発のダンス・ミュージックの新しい形を模索し、ジャズをどうレコンキスタさせるかを模索しているだけです。

それはこの10年のテーマですか? それとも通史的な?

菊地:10年間を総括して、掛け値なしでよかったと思ったのは消費されきってないということなんですよ。リテラシーを高くとることで賞味期限を伸ばそうという戦略があったわけではないけど、結果としていまの日本人全体にはポリリズムとか複合リズムはリテラシーは高いものになってしまっている。だからいつまで経っても消費されない感じがある。スパンク・ハッピーみたいに例外はありますけどね。あれはポップスだったから、即消費され即分析され、ネットで書かれたり二次制作にまわされたけど、ほかのものにはミスティフィケーションが生きているんですよ。

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いま感じているのは社会単位といっても個人単位といってもいいけど、またリテラシーが下がっているということ。90年代は音楽に対するリテラシーが極限までいって、ちょっとした大学生もレア盤に詳しかったじゃない(笑)。いまのちょっとした大学生はレア盤にくわしくない(笑)。


菊地成孔00年代未完全集『闘争のエチカ』(上下巻)
イーストワークス

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リテラシーという言葉には難解なものを理解するという意味をこめてます?

菊地:難解さの定義は明快さの定義と表と裏で、フランス語に対して日本語が難解かという図式であって、難易度ではないよ。よくイタリア語にRの発音がないから日本人にやさしいとかアフリカの言葉には複雑な拗音や促音があるから日本人にはむずかしいとはいうけど、それは極大値の話であって、平均値をとったら、なにが難解かという話ではなくてただの文化的な差異でしょ。
 10年間やったことでもうひとつわかったことがあるんだよ。大友(良英)なんかと比べるとよくわかるんだけど、海外にもっていって外国人がどう反応するかというテストは僕はしなかったのね。大友は作品を作って、外国に売りにいく。そうすると、エキゾチシズムを含めて外国に市場があることがわかって、それは彼の90年代の経験がそうさせていると思う。これからやっていこうと思っているもののひとつはそれで、じっさい、キップ(・ハンラハン)とかマルタン・メソニエだとかそういったひとには、日本人の音楽評論家や音楽家よりもはるかにストレートに通じて大喜びするわけよ。ドメスティックでやっていくのを自分に課していたわけではないけど、この10年ドメスティックでいたよね。デート・コースをアメリカにもっていこうとか、ダブ・セクステットでどこかにいこうとか、そういった話はあったけど、神の見えざる手でことごとく潰れていくわけ。そういう意味では僕の音楽にとって難解さは程度でしかなく、文化的な差異、つまりリテラシーといういい方がいちばん正しく、日本人にとってはリテラシーの高い音楽になってしまったけど、コスモポリタンにとってはどうかなという思いはありますよね。このあいだ、(エルメート・)パスコアールがきたとき、〈ジャズ・ドミューン〉でティポグラフィカとぺぺ(・トルメント・アスカラール)を聴かせたら、「メチャメチャいい」とかいっているわけ、普通に。

大友さんはエキゾチシズムを輸出した側面があったとしたら、菊地さんのおっしゃっているのは翻訳可能性というか、普遍言語としてのリズムで向こうのフィールドに割っていく感じですよね?

菊地:そうそう。だからある種のイグザイルというか、国内においては一種の不適合ではあるよね。

ディアスポラともいえる?

菊地:それは重要かもしれないし、海外でいざやってみると意外と簡単に消費されるかもしれないからね。不適応を抱えたひとがずっと東京の新宿にいることのほうがおもしろいかもしれないわけだから。

2010年代にそこにあえて乗りだしていこうという気が芽生えつつある?

菊地:うーん。ゼロ年代の総括として、複合的なファクターでそれをやらなかったことはたしかで、ゼロ年代の積み残しとして2010年代にそれをやってみようかなと思う部分もあるということだよね。ゼロ年代もトライはしていたんだけど、僕は極端な運命論で、ダメなときはどんなにがんばってもダメで、うまくいくときは放っておいてもうまくいくと思っているから(笑)。今回のデート・コースの野音のフロント・アクトもリッチー・フローレスとペドロ・マルチネスの〈アメリカン・クラーヴェ〉の連中だしさ。(デート・コースの)解散コンサートにキップいたんだよね。キップはデート・コースを大好きだし、僕の旧譜もだいたい聴いて大好きだと。それはヒップホップでいうシンジケートみたいなもので、外国とのネットワークは模索しつつある。

菊地さんはゼロ年代と10年代の空気のちがいをどこに感じます、現時点で?

菊地:歴史は線的に発展しつづけるんだという、いわゆる20世紀的な近代史観というものがあるよね。音楽でもそこに寄与したひとはマイルスをふくめていっぱいいるけど、20世紀のなかば過ぎにそういった考えはダメだ、もしくはまちがいだと主張するひとたちが出てきた。そういう解釈の柔構造として出てきたのがビーガンとかロハスで、彼らは近代を止めろといっているわけだよね。僕はそういったひとたちを批判はしないけど、考えは足りないとは思う。このままいったら破滅するから破滅しないために近代化を止めようといっても止まらないわけで、彼のいっていることは志は高いけどムダな抵抗だと思うわけ。そんなことしなくても、人類史には波みたいなね、行き過ぎたあとの空白みたいな部分がかならずあって、ゼロからやりなおすポイントがある。「マヤ文明は科学が発達したのに一夜にして消えました」とかね(笑)。

ずいぶん遡りましたね(笑)。

菊地:そういうのも喧しくいわれてきたし、レヴィ=ストロースに代表される「インディオの時間は円環している」というような反近代的な時間感覚とか反近代的な文明史も唱えられていたけど、僕はどれもピンとこなかった。というのは、iPadにしろiPhoneにしろ、じっさいにモノは発達しつづけているわけで、たった20年前にはケータイもないわけじゃない。一方でこんなに発達しているものを抱えつつ発達を止めろといってもムリだという気持ちを抱きながらゼロ年代はずっとやってきんだけど、いま感じているのは社会単位といっても個人単位といってもいいけど、またリテラシーが下がっているということ。90年代は音楽に対するリテラシーが極限までいって、ちょっとした大学生もレア盤に詳しかったじゃない(笑)。いまのちょっとした大学生はレア盤にくわしくない(笑)。90年代は音盤的知識がユースに行き渡って、ゼロ年代には構造分析が主流になって、ユースのポピュラー・ミュージックへの解像度がどんどんあがっていくんだと、すくなくとも20世紀的な見地ではいいたかったわけだよね。でもまったく上がってない、どころか下がっている気が、いましています。それが白紙に戻って、10年代はもう1回トライするイメージがありますよね。

そこで必要なのが倫理(エチカ)だと?

菊地:そういうこと。エチケット、エチカがないからどこまでずるずると動物化したわけで、それによって身体性をかなり喪ったと思うんだよね。音楽はどうしても身体的なものだから、それに引きずられるようにして、音楽の身体的なリテラシーが下がってしまった。〈ジャズ・ドミューン〉のあとに〈クラブ・ドミューン〉になるじゃない。Twitterで〈ジャズ・ドミューン〉の間のリプライを全部読むじゃない。読んでいるうちにDJが登場して、TLは「このDJヤバい」ってコメントで埋まるんだよね。それをみていると、ある意味ものすごいリテラシーが高いんだけど、音楽そのものの構造に対するリテラシーはなきに等しいというかね。それは悪い意味ではなくて、そういう状況なんだな、ということですよね。しかもそういったひとたちも数すくないストリーミングでクラブ・ミュージックを聴きたい一部の帰属層っていうかさ、ユース全体ではなくて、アッパー・ユースというか、かつてよくクラブにいったひとたちかもしれない。だからまあ、自分と同じ年配や上のひとたちがどう思っているかは、自分も中年になったからわかってきたけど、いつでも若いひとに刺激を与えるにはどうしたらいいかつねに考えています。50になったら、「いやー、もう若いひとの考えはわからないしねー」って精神的な「引退」をしてもいいわけだけど(笑)、まだそれは考えてますよね。昔のひとはまだ、頭でっかちだといわれながらわざわざクラブに行って「あのDJがヤバい」とかいっていたわけじゃない。いまはそんなことしなくても音楽を聴ける状況ができあがってしまった。音楽の意義がだんだん変わってきていて、レイヴに行くひとなんかはユース全体っていう括りじゃなくて、「レイヴに行くひと」っていう括りに変わっていきつつあるなかで、ユース全体に刺激があると思わせる感覚をもっと研ぎ澄ましてやっていきたい。ゼロ年代もそれはやってきたことだけど、2010年代の展望があるとするとそれですよね。

(2010年9月15日、新宿で)

ライヴ情報 : 菊地成孔presents DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN

出演:DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN
Opening Act: Richie Flores & Yosvany Terry Cabrera
2010年10月9日(土)  開場16:00 開演17:00
会場:日比谷野外大音楽堂
入場料:¥6,500(税込み)
お問い合わせ:0570-00-3337(サンライズプロモーション東京)

『闘争のエチカ』(イーストワークス)

10月30日上下巻同時発売
"ewe special products store" https://eastworks.shop-pro.jp/

Lee Perry & the Upsetters - ele-king

 リー・ペリーが自宅の裏庭に計画したブラック・アーク・スタジオが完成したのは、1973年の終わりだった。配線を考えたのはキング・タビーで、実際に配線を施したのはエロール・トンプソンだったという。当初は4トラックしかなかったそのスタジオで録音された曲のなかで、商業的に成功した初めての曲が、ジュニア・バイルスの"カリー・ロックス"(1973年)である。本作の1曲目のリディムが、まさに"カリー・ロックス"であると、鈴木孝弥さんによる恐ろしく詳細な各曲解説(https://bit.ly/a9Nna7)に記されている。
 
 ダブと呼ばれるスタイルにおいて、ブラック・アーク時代のリー・ペリーの音源はキング・タビーやエロール・トンプソンら同時代のオリジネイターたちとは確実に一線を画している。"X線音楽"と呼ばれるような骨組み(ドラム&ベース)が強調されたシンプルなものではなく、ディレイやエコーを使ったよくあるアレでもない。それは音の断片化とその再結合の、流動的な試みである。何かカタチあるモノをいちどぶっ壊して、その無数の破片をいろいろくっつけては面白がる、完成型を目指すのではなく、そのときどきのカタチを流動的に楽しむ、それがブラック・アーク時代のペリーのミキシングだ。音のリサイクルという意味では、実に過剰なリサイクルをしているのがペリーで、それはかの有名な『スーパー・エイプ』によく表れている。そう、あれは既発の音源の使い回しだが、しかし"オリジナル"に対する"ヴァージョン"ではない。ペリーは音の断片の廃墟のなかからそれらを再結合し、明らかに新しい音を創造しているのだ。
 
 ブラック・アークは1970年代末から、ペリーの精神バランスの不安定さと比例するように荒廃していき、1983年の火事によって破壊されている。そのあいだに録音されたレア音源は、すでに多くの編集盤によって紹介されている。驚くのは、そうした秘蔵作のどれもがユニークで、魅力的であるということだ。そして、それら編集盤によって、ジャマイカ国内よりも海外で評価されてしまった当時のペリーの強い実験精神をあたらてめ窺い知ることができる。ペリーの多彩なミキシングは、"ヴァージョン"を目指すものではなく、創造を目指していたのだ。だいたいレア音源や未発表音源などというと、多くの場合は"オリジナル"盤の副産物であり、熱心なファンか研究者でもなければそうそう面白がれるものではない。が、ペリーの場合は違う。リアルタイムで広く知られている作品よりも明らかにユニークな作品だって少なくない。
 
 『サウンド・システム・スクラッチ』はブラック・アーク時代のダブプレート音源を編集したものだという。ダブプレートというのは、多くの場合はサウンドシステム(野外ディスコ)のために作られるもので、だからペリーのダブプレート音源という情報を最初に知ったとき意外に思った。キング・タビーは自分のサウンドシステムを所有していたほど、その大衆文化に深く関わっていたひとりとして知られるが(というか、ダンサーたちの興奮とともにタビーのダブ・ミキシングは開発されている)、しかし、もともとアート志向の強いペリーはこのブラック・アーク時代、むしろそうした大衆性とは距離を置き、ひたすらスタジオに籠もってはつまみをいじりながら石を叩いたり、テープを土に埋めたり、機材に小便をかけたり......とにかく音の実験を繰り返していた......とモノの本はよく記されているからだ。たんに僕の知識不足かもしれないが、まあ、こうした編集盤が出ているわけだから、タビーほどではないにせよ、実は関わりがあったということなのだろう。ダブプレートとはミキシング・アートにおける流動性の極みであり、だから『サウンド・システム・スクラッチ』は当時のブラック・アークの自由な発想のドキュメントでもある。
 まあ、なんにせよ、ブラック・アーク時代のペリーがあらたに掘り起こされて、こうして聴けるのは幸せなことだ。ペリーとは、救いようのないほどの実験主義者だったのだとあらためて感心する。網羅している時代も幅広く、1973年から狂気の時代へと突入する70年代末まである。CDには実に20曲も収録されているが、すべてがいちいち面白い。

Chart by STRADA RECORDS 2010.10.01 - ele-king

Shop Chart


1

KEM

KEM WHY WOULD YOU STAY -TIMMY REGISFORD & ADAM RIOS REMIXES RESTRICTED ACCESS/SHELTER (US) / »COMMENT GET MUSIC
近代MOTOWNレーベルを代表するシンガーKEMの3rdアルバム「Intimacy」に収録されている極上バラードがTIMMY REGISFORD & ADAM RIOSコンビの手によってハウス・リミックスされました!シルキーなオリジナルが、タフなビートやオルガンで完全フロア仕様に。。。!右肩上がりの展開も最高で、これは感動的に盛り上る!インストも収録!

2

TODD OMOTANI

TODD OMOTANI I LEFT MY ...-CHARLES WEBSTER REMIXES AMENTI(US) / »COMMENT GET MUSIC
OSUNLADEやDANNY KRIVIT、JIMPSTER、RALF GUM、NICK HOLDER、MASTER KEVらが絶賛!CHARLES WEBSTERが幻想的且つディープなミックスを施した女性ヴォーカルもので、硬質なようで柔らかいCHARLES WEBSTERならではの何とも言えない質感がたまりません!ダブ・ヴァージョンが3曲も収録されているのがミソ!

3

VA

VA LATIN SOUL BROTHERS REMIXES WHITE (US) / »COMMENT GET MUSIC
【限定プレスのホワイト盤!】VEGA RECORDSなどからのリリースで知られるRICARDO MIRANDAがLATIN SOUL BROTHERS名義にてエディット/リミックス盤をリリース!B面のSANTANAのエディットがキラーで、スリリングなドラムやベース、パーカッションが渾然一体となって展開する怒涛のラテン・インスト!これはJOE CLAUSSELL系のファンにもオススメ!A面には以前LOUIE VEGAもリミックスして自分のレーベルVEGAからリリースしていたHECTOR LAVOE「MI GENTE」のリミックスを収録!こちらはメロウで浮遊感溢れる心地良い仕上がりです!

4

SESSION VICTIM

SESSION VICTIM MLLION DOLLAR FEELING DELUSIONS OF GRANDEUR(UK) / »COMMENT GET MUSIC
そのクオリティーの高さに加えハイ・ペースなリリースで早くも誰もが認めるトップ・レーベルのとなった感のあるUKのDELUSIONS OF GRANDEURからSESSION VICTIMが再登場!往年のディープ・ハウスを彷彿とさせるエレピ系のコード・サンプルが優しく包みこむタイトル曲が超オススメ!この音だけで買ってしまう人も多いはず!

5

VA

VA TESSERA REMIXES SUSHITECH(GER)l: / »COMMENT GET MUSIC
【売れています!】KERRI CHANDLERによるリミックスを2ヴァージョン収録!初期ケリチャン・サウンド全開のズンドコ系トラックにヤラれるB1、そして打って変わって洗練された音作りのB2のミックスと、彼の魅力が2度楽しめるオイシイ内容!さらにA面に収録されているMR.Gによるリミックスもかなりイイので見逃し厳禁です!

6

THE HEELS OF LOVE

THE HEELS OF LOVE CRAZY-WALTER JONES REMIX UNDER THE SHADE(UK) / »COMMENT GET MUSIC
Bearfunkからのリリースでも知られるMichele Tessadriと、Tirkからのリリースでお馴染みのLove SupremeのメンバーLuca "Sapo" Saponaraによるスペシャル・プロジェクトThe Heels Of Loveによる12インチ!ナント体重150KGを超える実力派巨漢シンガーHard Tonをフィーチャーしたブギー・ディスコで、特にWalter Jonesによるディープで心地良いミックスがグッド!

7

CRAZY P

CRAZY P STAR WAR-GREG WILSON EDIT PAPER(UK) / »COMMENT GET MUSIC
CRAZY Pの楽曲を豪華なメンツがリエディットした強力EP!グルーヴ感満点で洗練されたファンク・ディスコのA面はGREG WILSON、そしてドープでぶっ飛んだダブ・ディスコのB面はRAY MANGが手掛けております!

8

VAKULA

VAKULA RING OF NIGHT EP BEST WORKS(GER) / »COMMENT GET MUSIC
UZURIやFIRECRACKERなどからリリースのあるウクライナ人アーティスト・VAKULAがドイツのBEST WORKSから登場!ディープ&ジャジーなだけでなく幻想的でどこかしら異国感を漂わせるオーガニックで深みのある響きが魅力!テック・ハウスからビート・ダウンまで幅広くアピールする質の高さとオリジナリティーにやられます!

9

BLACKLODGE

BLACKLODGE LAY IT ON THE LINE(feat.GUESTS OF NATURE) LAZY DAYS(FR) / »COMMENT GET MUSIC
Danny Krivit、Tortured Soul、Franck Roger、Lovebirdsらがプッシュ!メロウでグルーヴィーなトラックにマッタリとした男性ヴォーカルがフィーチャーされた極上のミッド・テンポもの!シンセがタップリ入った気持ちの良いサウンドが◎!

10

VA

VA DEVELOPED INCONSISTENCIES:AKAPELLA 2 SLOW TO SPEAK (US) / »COMMENT GET MUSIC
SLOW TO SPEAKからのアカペラ集第2弾!ニュースや映画などから使えるセリフやフレーズを大量に収録しております!DJバックに是非入れておきたい1枚!

Susumu Yokota - ele-king

 万華鏡を回しながら覗いてみれば、変化する美しい図形のさまざまな鏡像が見える。横田進にとって32枚目となるオリジナル・アルバムは音による万華鏡だ。さまざまな音の断片、さまざまなテクスチャー――アコースティック・ギター、鐘の音、ピアノ、声、ストリングス、ポップ・ミュージック、雑音、などなど――がループして、そして変化していく。ゆっくりと催眠状態を誘うという点で言えば、昨今のチルウェイヴ/グローファイともリンクしそうだが、しかしここにディスコビートはない。ビートそのものがない。スティーヴ・ライヒめいたミニマル・ミュージックのアシッド・ハウス・ヴァージョンというか、ごくごく初期のポポル・ヴーに見られるロマン主義的風景のIDMスタイル的展開というか、アンダーグラウンドなクラブ系としてはこの国で最初に国際的な成功をおさめた横田進による『カレイドスコープ』は、作者にとって久しぶりのアンビエント作品となった。
 
 それはこの20年の、横田進の不変的な資質がよく出ている、とも言える。結局のところ......彼の初期の作品のトランス・テクノにしても、90年代半ばのディープ・ハウスの作品にしても、彼の自主レーベル〈スキントーン〉における実験作にしても、3拍子のテクノにしても、そしてこうしたアンビエントの作品にしても、横田の音楽を特徴づけているのはヒプノティックである種ドラッギーな......要するにまあ、ハンパない強度を持ったエスケイピズムにある。反復とその変化は意識と睡眠のあいだをうまく潜り抜けて、長い距離を走っていくようだ。やがて意識は茫洋として、そしてどんどん遠くなる......。
 これは明らかにトランスを誘発する仕掛けを持った音楽で、作者は立川市にある自宅のベッドルームに佇みながら、世界中にいる彼のリスナーがこのアルバムでうっとりと夢を見ている姿を想像してはほくそ笑んでいるに違いないのである。ヘッドフォンやイヤフォンで聴きながら外を歩けば、見慣れた景色も変色し、歪んで、うまい具合に迷子になれるだろう。このところ"愛""母"といった象徴的なテーマの作品が続いていた横田進だが、『カレイドスコープ』は20年に渡って彼が手掛けてきたトリップ・サウンドの最新版として楽しめるわけだ。
 
 リリース元はここ5年、彼の作品をリリースしているロンドンの〈ロー・レコーディングス〉。アンビエント作品といってもアルバムには短い曲ばかりが16曲収録されている。すべてが3~4分程度の曲で、この手の音楽が陥りがちな冗長さはなく、次から次へと曲が変わる。インストゥルメンタルの曲において曲名はリスナーにとってひとつの重要な手がかりだし、せっかくなのでいくつかの曲名の(僕の勝手な)訳も記しておこう。"あなたの煌めく目""彼女の女らしさ""9枚の花びら""発芽シンフォニー""光合成""ユリは嫉妬をかぎつける""私が目を閉じたとき""二回落ちたあとに""ふたつの空""破壊の寸前の小石""赤い月"......などなど。10曲目の"ユリは嫉妬をかぎつける"では突然「あとで気づいた......」という日本語の声がする。
 「あとで気づいた......」、いったい何に?

Boris Gardiner - ele-king

 ボリス・ガーディナーといえば......、かの『スーパー・エイプ』でぶっといベースを鳴らしている男で、要するにあの時代(70年代後半)のジ・アップセッターズのベーシストである。コンゴスの歴史的な『ハート・オブ・コンゴス』もそうだし、ブラック・アーク時代の最後の傑作『ロースト・フィッシュ、コリー・ウィード&コーン・ブレッド』もそう。それ以前は、ジャッキー・ミットゥー率いるソウル・ディメンジョンにも参加しているし、ジ・アグロヴェイターズにも参加したこともあった......という話だ。ベーシストとしてのそうした勇ましい経歴とともに、ガーディナーにはラウンジ・ミュージッシャンのとしての側面がある。ジュニア・マーヴィンの"ポリスとこそ泥"であれほど攻撃的なベースを弾いたかと思えば、腰をくねらせながら甘ったるいソウルを演奏するのだ。
 初期の代表曲の"ハピネス・イズ・ア・ウォーム・プシン"を収録した1970年の『ア・ソウル・イクスペリエンス・イズ・ハプニング』、ガーディナーのエレピが冴えるグルーヴィーな1973年の『イズ・ホワッツ・ハプニング』、ハンマーを打ち砕くジャケットの写真とは裏腹にメロウなレゲエが展開される1975年の『スレッジハンマー』......90年代以降に再発されたこれらのアルバムはDJやレアグルーヴのファンのあいだで好評となったおかげで、いまではボリス・ガーディナーといえば、ヴィンテージなメロウ・グルーヴを代表するひとりとして知られている。もちろん僕もヴィンテージなメロウ・グルーヴの流れでそれらのアルバムを聴いたひとりである。なにせここに挙げた3枚すべてが何度も繰り返し聴いてしまうほどに温かく、そして上機嫌なのだ。
 
 この度〈ジャズマン〉から再発されるのは、1973年に映画のサウンドトラックとして制作された『エヴリ・ニガ・イズ・ア・スター』で、中古でも滅多に見かけない幻の代物である。ジャケットのイラストは同時代のアメリカの黒人文化からの影響で、ブラックスプロイテーションそのものとなっている。映画自体はジャマイカの自主制作映画として企画され、ビッグ・ユースが主演したラスタファリズムのドキュメンタリー調の映画だったというが、そうしたジャマイカ人による自主制作という画期的な試みにも関わらず、興行的にはまったくの失敗作となった。ジャマイカの映画史上もっとも短い上映期間を記録したばかりか、返金を要求する客によって暴動まで起きたという。いずれにしても、それだけ映画が悪評を高めれば、人びとが好んで音楽にアプローチするはずがない。『エヴリ・ニガ・イズ・ア・スター』は映画とともに葬り去られ、のちのクラブ・カルチャーにおけるガーディナーの再発見がなければ、この素晴らしい音楽は歴史の闇のなかに佇んでいたままだったのかもしれない。
 
 アルバム・タイトルをはじめ"ラフ&タフ・イン・ザ・ゲットー"や"ファンキー・ニガー"、"ゲットー・ファンク"といったシリアスで挑発的な曲名からは、音楽の主題が同時代の『ハーダー・ゼイ・カム』(1971年)と同じようにゲットー・リアリズムを背景にしていることがわかる。が、『ハーダー・ゼイ・カム』と違ってガーディナーの音楽にはマーヴィン・ゲイや『スーパー・フライ』からの影響が滲み出ている。欧米諸国でレゲエが注目を集めはじめた当時のジャマイカ音楽シーンにおいては、ソウル/ファンク色があまりにも目立つ。アルバムがリアルタイムで埋もれてしまったもうひとつの理由はそれだろう。いま聴くとUSソウル/ファンクとの混合具合が面白いというのに、つくづく音楽の価値とは時代によって相対的である。
 
 ほとんどの曲をガーディナー自身が歌っている。彼の魅力たっぷりのソウル・ヴォーカルが聴ける"エヴリ・ニガ・イズ・ア・スター"や"ホーム・アゲイン"は言うまでもなく、ジャッキー・バーナードが歌う甘いバラード"ユー・ジャスト・ガット・トゥー・ビー・イン・ラヴ"も胸がいっぱいになる。グルーヴィーな"ゲットー・ファンク"、緊張感みなぎる"ファンキー・ニガー"、そしてアーリー・レゲエ・スタイルの"デッドリー・シティング"の格好良さと来たら......。
 
 ボリス・ガーディナーは、1980年代以降は、シングル「アイ・ウォント・トゥ・ウェイク・アップ・ウィズ・ユー」でUKのナショナル・チャートの1位になり、ポップのメジャー・フィールドでの成功も収めている。

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