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Boris Gardiner

Boris Gardiner

Every Nigger Is a Star

Jazzman/P-Vine

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野田 努   Sep 30,2010 UP

 ボリス・ガーディナーといえば......、かの『スーパー・エイプ』でぶっといベースを鳴らしている男で、要するにあの時代(70年代後半)のジ・アップセッターズのベーシストである。コンゴスの歴史的な『ハート・オブ・コンゴス』もそうだし、ブラック・アーク時代の最後の傑作『ロースト・フィッシュ、コリー・ウィード&コーン・ブレッド』もそう。それ以前は、ジャッキー・ミットゥー率いるソウル・ディメンジョンにも参加しているし、ジ・アグロヴェイターズにも参加したこともあった......という話だ。ベーシストとしてのそうした勇ましい経歴とともに、ガーディナーにはラウンジ・ミュージッシャンのとしての側面がある。ジュニア・マーヴィンの"ポリスとこそ泥"であれほど攻撃的なベースを弾いたかと思えば、腰をくねらせながら甘ったるいソウルを演奏するのだ。
 初期の代表曲の"ハピネス・イズ・ア・ウォーム・プシン"を収録した1970年の『ア・ソウル・イクスペリエンス・イズ・ハプニング』、ガーディナーのエレピが冴えるグルーヴィーな1973年の『イズ・ホワッツ・ハプニング』、ハンマーを打ち砕くジャケットの写真とは裏腹にメロウなレゲエが展開される1975年の『スレッジハンマー』......90年代以降に再発されたこれらのアルバムはDJやレアグルーヴのファンのあいだで好評となったおかげで、いまではボリス・ガーディナーといえば、ヴィンテージなメロウ・グルーヴを代表するひとりとして知られている。もちろん僕もヴィンテージなメロウ・グルーヴの流れでそれらのアルバムを聴いたひとりである。なにせここに挙げた3枚すべてが何度も繰り返し聴いてしまうほどに温かく、そして上機嫌なのだ。
 
 この度〈ジャズマン〉から再発されるのは、1973年に映画のサウンドトラックとして制作された『エヴリ・ニガ・イズ・ア・スター』で、中古でも滅多に見かけない幻の代物である。ジャケットのイラストは同時代のアメリカの黒人文化からの影響で、ブラックスプロイテーションそのものとなっている。映画自体はジャマイカの自主制作映画として企画され、ビッグ・ユースが主演したラスタファリズムのドキュメンタリー調の映画だったというが、そうしたジャマイカ人による自主制作という画期的な試みにも関わらず、興行的にはまったくの失敗作となった。ジャマイカの映画史上もっとも短い上映期間を記録したばかりか、返金を要求する客によって暴動まで起きたという。いずれにしても、それだけ映画が悪評を高めれば、人びとが好んで音楽にアプローチするはずがない。『エヴリ・ニガ・イズ・ア・スター』は映画とともに葬り去られ、のちのクラブ・カルチャーにおけるガーディナーの再発見がなければ、この素晴らしい音楽は歴史の闇のなかに佇んでいたままだったのかもしれない。
 
 アルバム・タイトルをはじめ"ラフ&タフ・イン・ザ・ゲットー"や"ファンキー・ニガー"、"ゲットー・ファンク"といったシリアスで挑発的な曲名からは、音楽の主題が同時代の『ハーダー・ゼイ・カム』(1971年)と同じようにゲットー・リアリズムを背景にしていることがわかる。が、『ハーダー・ゼイ・カム』と違ってガーディナーの音楽にはマーヴィン・ゲイや『スーパー・フライ』からの影響が滲み出ている。欧米諸国でレゲエが注目を集めはじめた当時のジャマイカ音楽シーンにおいては、ソウル/ファンク色があまりにも目立つ。アルバムがリアルタイムで埋もれてしまったもうひとつの理由はそれだろう。いま聴くとUSソウル/ファンクとの混合具合が面白いというのに、つくづく音楽の価値とは時代によって相対的である。
 
 ほとんどの曲をガーディナー自身が歌っている。彼の魅力たっぷりのソウル・ヴォーカルが聴ける"エヴリ・ニガ・イズ・ア・スター"や"ホーム・アゲイン"は言うまでもなく、ジャッキー・バーナードが歌う甘いバラード"ユー・ジャスト・ガット・トゥー・ビー・イン・ラヴ"も胸がいっぱいになる。グルーヴィーな"ゲットー・ファンク"、緊張感みなぎる"ファンキー・ニガー"、そしてアーリー・レゲエ・スタイルの"デッドリー・シティング"の格好良さと来たら......。
 
 ボリス・ガーディナーは、1980年代以降は、シングル「アイ・ウォント・トゥ・ウェイク・アップ・ウィズ・ユー」でUKのナショナル・チャートの1位になり、ポップのメジャー・フィールドでの成功も収めている。

野田 努