「K Á R Y Y N」と一致するもの

dj honda × ill-bosstino - ele-king

 2021年の日本のヒップホップ・シーンの中でも、かなり攻めたリリースを行なってきた THA BLUE HERB 率いるレーベル、〈THA BLUE HERB RECORDINGS〉(以下、〈TBHR〉)。そのひとつが5月に発表された O.N.O の全曲プロデュースによる YOU THE ROCK★のアルバム『WILL NEVER DIE』で、YOU THE ROCK★と THA BLUE HERB との過去の歴史を知る人びとにとっては大きなサプライズであり、かつ内容的にも非常に充実した素晴らしい作品であった。その半年後にリリースされたのが、dj honda と ILL-BOSSTINO (以下、BOSS)という、世代を超えた2大巨頭のコラボーレーション・アルバム『KINGS CROSS』であり、個人的には『WILL NEVER DIE』以上のインパクトを与えてくれた作品となった。

 現在、共に札幌を拠点に活動している dj honda と BOSS であるが、それぞれ通ってきた道は全く異なる。80年代からDJとして活動を開始し、90年代半ばから2000年代にかけてはNYを拠点にメジャー・レーベルのもとでUSヒップホップの最前線にいた dj honda。一方で BOSS は O.N.O と共に結成した THA BLUE HERB の一員として、90年代の東京中心であった日本のヒップホップ・シーンの中で孤軍奮闘し、作品のリリースやライヴを重ねながら、いまやシーンの中で確固たる地位を確立している。それぞれ世界と日本を相手に戦ってきた彼らであるが、同じヒップホップというカテゴリーでありながら、これまでほとんど重なる部分がなかったというのが紛れもない事実だろう。正直なところ彼らのコラボレーションがどのような形になるのか個人的にも全く想像がつかなかったが、このアルバムを聞けば、そんな心配は一発で吹っ飛ばされる。90年代のUSのヒップホップを聞いて衝撃を受けた BOSS のラップと、90年代のUSヒップホップ・シーンのど真ん中にいた dj honda のサウンドの相性の良さというのは、冷静に考えれば当然のことなのかもしれないが、良い意味での驚きが本作には詰まっている。

 誤解を恐れずに言えば、dj honda は間違いなくヒップホップ・シーンのレジェンドであるが、彼のいまの活躍を知らない人にとってはすでに過去の人となっている。しかし、例えば2015年リリースの B.I.G. JOE とのジョイント・アルバム『UNFINISHED CONNECTION』や2018年リリースの紅桜とのジョイント・アルバム『DARK SIDE』を聞けば、プロデューサーとして彼がいまだに現役であることは明白だ。サンプリングによる90年代と同じプロダクション・スタイルを用いながら、サウンドのクオリティは完全にアップデートされており、何よりも彼のトラックに漂うどこか昭和を思わせるような空気感は B.I.G. JOE や紅桜、そして、もちろん BOSS のようなタイプの日本語ラップには見事なまでにハマる。いま現在も毎日スタジオにこもってトラックを作り続けているという dj honda であるが、バラエティに富んだ本作全16曲のトラックを耳にすれば、いまが彼にとっての全盛期にすら思える。

 そんな dj honda に対しての尊敬の念とある種の緊張感が BOSS のラップからは強く感じられる。dj honda のこれまでの活動の歴史を綴った “A.S.A.P.” などはその筆頭であるが、さらに BOSS 自身の過去にもリンクして、まるで初心に戻ったかのようにも感じられる瞬間も多々ある。かと思えば、“GOOD VIBES ONLY” のようなポジティヴなマインドを全開にした曲もあったりと、dj honda のトラックに誘発されるかのように、THA BLUE HERB や BOSS 自身のソロ・アルバムとも異なる視点や感情が存分に引き出されている。個人的には “REAL DEAL” のようなどストレートなヒップホップ・トラックであったり、逆に “'CAUSE I'M BLACK” や “SEE YOU THERE” のようなノスタルジー漂うトラックに乗った BOSS のラップも最高に痺れる。

 『WILL NEVER DIE』と同様に本作もサブスクでのリリースを一切行なっていないというのがまた〈TBHR〉らしいが、こんな最高なアルバムを聞き逃すのは本当に勿体ないと思う。

Billy Wooten - ele-king

 今回Pヴァインの「VINYL GOES AROUND」が手掛けるのは、かつてマッドリブを魅了した70年代インディアナポリスのヴィブラフォン奏者、ビリー・ウッテンのTシャツ。〈Stones Throw〉の名コンピ『The Funky 16 Corners』(2001)に収録されたことでも知られる代表曲 “In The Rain” と “Day Dreaming” をカップリングした7インチ付きセットも限定発売される。カラーリングやサイズなど詳細は下記より。

ジャズ・ファンからソウル/レアグルーヴ・ファンまで魅了するBilly Wooten率いる、The Wooden GrassのTシャツをVINYL GOES AROUND限定で販売。「In The Rain」の7インチもセットも。

ジャズ・ファンからソウル/レアグルーヴ・ファンまで魅了するBilly Wooten率いる、The Wooden Grassのライヴ・アルバムのジャケットのデザインを使用したTシャツを株式会社Pヴァインの新規事業・VINYL GOES AROUNDにて販売することが決定しました。

Billy WootenはGrant Greenの"Visions"や、Richard Evansの"Dealing With Hard Times"のレコーディングにも参加しているヴィブラフォン奏者であり、自身でもいくつかの名盤を残したインディアナポリスのアーティスト。ライヴ・アルバムの他にも貴重な彼の演奏写真もT シャツにして同時販売。また、彼の代表的曲、「In The Rain」の7インチを限定生産でセット販売いたします。

哀愁のあるヴィブラフォンの演奏と、歪んだオルガン、マシーンの様に一定に刻む強烈なビートが奏でるザ・ドラマティックスのカヴァー「In The Rain」はかつてMADLIBも自身の作品で使用した曲。中盤以降の盛り上がりと、後半の繰り返されるフレーズがまるでHIP HOP的なサウンドで、多くの人を虜にした70年代のジャズの名曲です。カップリングにはソウルの女王、アレサ・フランクリンの名曲、「Day Dreaming」を収録。疾走感ある曲で、激しく演奏するヴィブラフォンが強烈なジャズファンク。本作はスペシャル・エディットを加えて45回転での収録となります。

・BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS with IN THE RAIN 7inch 販売ページ
https://vga.p-vine.jp/exclusive

[商品情報①]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS A
カラー:BLACK / CHARCOAL / NAVY
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1012
価格:¥4,800(税抜)(税込:¥5,280)

[商品情報②]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS A with 7inch
カラー:BLACK / CHARCOAL / NAVY
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1013
価格:¥6,400(税抜)(税込:¥7,040)

[商品情報③]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS B
カラー:BLACK / WHITE / STONE BLUE
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1014
価格:¥4,800(税抜)(税込:¥5,280)

[商品情報④]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS B with 7inch
カラー:BLACK / WHITE / STONE BLUE
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1015
価格:¥6,400(税抜)(税込:¥7,040)

[商品情報⑤]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS C
カラー:BLACK / WHITE / MILITARY GREEN
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1016
価格:¥4,800(税抜)(税込:¥5,280)

[商品情報⑥]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS C with 7inch
カラー:BLACK / WHITE / MILITARY GREEN
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1017
価格:¥6,400(税抜)(税込:¥7,040)

※期間限定受注生産(~2022年2月7日まで)
※商品の発送は 2022年3月上旬ごろを予定しています。
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
※Tシャツのボディは ギルダン2000 6.0 オンス ウルトラコットン Tシャツになります。

DJ NOBU - ele-king

 パンデミック以降、海外のDJやアーティストの入国が困難になっているが、逆に言えば、国内の良いDJやアーティストのライヴを見れたりもする。コロナがなければ世界を飛び回っていたであろうDJ NOBUもそのひとり。1月の毎週金曜日はDJ NOBUのスペシャルな夜が待っています。

1/14(金)
Trilogies - DJ NOBU - episode 1
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Open 10PM
¥1000 Under 23 / Before 11PM ¥2000 Advance ¥3000 Door
【前売】 https://contacttokyo.zaiko.io/_buy/1rWT:Rx:70e21
【お得な3日通し券】https://eplus.jp/sf/detail/3555380001-P0030001P021001?P1=1221
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Studio:
DJ Nobu (Future Terror | Bitta)
Occa (Archive)

Contact:
Tasoko (DRED Records)
Yuzo Iwata (Butter Sessions | Sound Metaphors)
machìna
Qmico (QUALIA)
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『盟友との相乗効果が誘う次の深淵』

DJ Nobuが自身のパーティFuture TerrorやGONG、NTS Radioのプログラムで度々招いていたOccaがシリーズ第1回、Studio Xでの共演に決定した。札幌に拠点を置くOccaからも、自身のPrecious HallでのパーティArchivにDJ Nobuを招致しており、お互いに音楽の交差を重要視する関係にある。その相乗効果は、互いの刺激を深化から深化へと発展させる、エレクトロニックミュージックの更新と最深部の模索であり、オーディエンスの観点からみると、最高から次の最高への移行の連続が起こる狂気的なまでの高揚を目の当たりにすることになる。Contactフロアでも電子音楽の深化は絶え間なく、昨年、同じく沖縄をルーツにもつIORIが立ち上げた〈VISIONARY〉からのEPや、John Osbornが主宰する〈DRED Records〉からのアルバムなど制作面でも注目されるTasokoや、ベルリンでの滞在や海外レーベルからのリリース、Cocktail d’Amore等の著名なヴェニューに出演してきたYuzo Iwata。さらに、Bicepのトラック「Hawk」への参加や〈Tresor〉のコンピレーションへの楽曲提供をする、世界的なプロデューサーとなったmachìna、QUALIAを主催するQmicoなど、クリエイター気質のラインナップがメインフロアとは異なる色鮮やかさと疾走感をともなう緻密さでデザインされる。
Trilogies DJ Nobuは、モダンなサウンドと、アーバンなグルーヴが交錯する、ハイクオリティのダンスで開幕される。

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1/21(金)
Trilogies - DJ NOBU - episode 2
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Open 10PM
¥1000 Under 23 / Before 11PM ¥2000 Advance ¥3000 Door
【前売】 https://contacttokyo.zaiko.io/_item/345829
【お得な3日通し券】https://eplus.jp/sf/detail/3555380001-P0030001P021001?P1=1221
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Studio:
DJ Nobu (Future Terror | Bitta)
YAMA

Contact:
悪魔の沼
AKIRAM EN
0120
Torei (Set Fire To Me)
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『ダンスミュージックの理想郷の幻影』

第2夜の共演は、BOREDOMSの∈Y∋とともに伝説パーティeepのオーガナイズや、語り継がれるレジェンダリーパーティFLOWER OF LIFEへの出演、大阪のクラブ、聖地MACAOのクロージングパーティのトリを務めるなど、拠点の大阪はもちろん全国のパーティフリークスに、カルト的な人気を博すYAMAの登壇が決まった。Future Terrorを始め、CDリリース時のコメントの提供などDJ Nobuとは度々活動を共にしている。DJ Nobuとともにハウスセットでの共演というまたとない今回の機会は、紛れもなく何かが起こる儀式的なまでの危険で甘美な予感をほのめかしている。そのカルティックなフロアメイクはもう一方のフロアでも徹底されており、Contactに久しぶりの登場となる悪魔の沼や、AKIRAM ENによる、知覚とダンスの活性を誘う深いリスニング・デバイス。AI.UとEMARLE、双方の高い音楽性が深層で交わるDJユニット0120、そして、ビートや展開に対して他とは全く異なるイマジネーションを持つToreiなど、高い次元でのエクレクティックなサウンドの交錯が、アヴァンギャルドな情景を描く。
Trilogies DJ Nobu episode2はシリーズで最も現実から離れ、ダンスミュージック・ファンの理想に最も近づく可能性を秘めている。

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1/28(金)
Trilogies - DJ NOBU - episode 3
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Open 10PM
¥1000 Under 23 / Before 11PM ¥2000 Advance ¥3000 Door
【前売】 https://contacttokyo.zaiko.io/_item/345828
【お得な3日通し券】https://eplus.jp/sf/detail/3555380001-P0030001P021001?P1=1221
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Studio:
DJ Nobu (Future Terror | Bitta)
Kotsu (CYK | UNTITILED)

Contact:
Kabuto (DAZE OF PHAZE)
k_yam
Akie
discopants
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『DJ Nobuによる音楽の歓喜の解放』

シリーズ最終章、ワンフロア、ツーマンでは初となるCYK Kotsuとの共演は音楽の快楽を余すことなく味わう祝宴になりそうだ。2020年、拠点を京都に移してからもその活躍は全国に響いており、昨年末までに国内14都市からの招致を受けている。本来主体としていたハウスを概念として膨らませながらオーディエンスのハートに確実にヒットさせる卓越したスキルと発想は、DJ Nobuとのどのような化学反応を起こすか期待を抱かざるをえない。
Contactフロアには、スペシャリストKabutoを筆頭に繰り広げられる、国内テクノ/ハウスの、進化形でシーンの現到達点とも呼べるフロアデザインが施された。さらに、自身のパーティのREMEDYの卓越したキュレーションや、トラックのクオリティの高さ、DJでのイマジネーションの飛躍など層の厚い世代の中でも際立つk_yamがラインナップ。discopantsのハウスとエレクトロニクスの刺激的なクロスオーバーや、Akieのオルタナティブなハウスサウンドも、大阪の聖地newtone recordsの出身を感じさせる情感とエレクトロニクスの複層的な交わりをみせる。人の熱をもったファンクネスやUKマナーを独自のイメージで鳴らしてきたオリジナリティが、ダンスミュージックのハードリスナーをもノンストップで踊らせうるエレクトロニック・ジャーニーを展開させる。
Trilogies DJ Nobu 最終章は、episode 1, 2とはさらに違う面でのDJ Nobuの解放を味わう、音楽桃源郷で幕を閉じる。

どんぐりず - ele-king

 いまどんどん注目を集めている群馬は桐生の2人組、どんぐりず。その独創的な音楽を堪能する絶好の機会がやってきた。
 1月27日(木)東京・恵比寿 LIQUIDROOM と2月5日(土)大阪・味園ユニバースにて、「どんぐりず Presents "COME ON"」と題したライヴ・イヴェントが開催。福岡の新世代バンド yonawo と 神戸のラップ・デュオ Neibiss も出演する。これはマッチョな現行ラップ・シーンに風穴を開けるイヴェントになるかも!? 期待大です。

■東京
2022/1/27(木)
恵比寿LIQUIDROOM
OPEN 18:00 / START 19:00
出演:どんぐりず / yonawo / Neibiss

■大阪
2022/2/5(土)
味園ユニバース
OPEN 17:00 / START 18:00
どんぐりず / yonawo / Neibiss

TICKET INFORMATION
https://www.creativeman.co.jp/event/dongurizu_2022/



どんぐりず
ラッパー森、トラックメイカー・プロデューサーのチョモからなる二人組ユニット。音源、映像、アートワークに至るまでセルフプロデュースを一貫。ウィットにあふれるグルーヴとディープなサウンドで中毒者を続出させている。



yonawo
荒谷翔大(Vo)、田中慧(Ba)、斉藤雄哉(Gt)、野元喬文(Dr)による福岡で結成された新世代バンド。
2018年に自主制作した2枚のEP「ijo」、「SHRIMP」はCDパッケージが入荷即完売。地元のカレッジチャートにもランクインし、早耳リスナーの間で謎の新アーティストとして話題に。2019年11月にAtlantic Japanよりメジャーデビュー。
2020年4月に初の全国流通盤となる6曲入りのミニアルバム「LOBSTER」をリリース。
そして、11月には、Paraviオリジナルドラマ「love⇄distance」主題歌オープニング曲「トキメキ」や、史上初となる福岡FM3局で同時パワープレイを獲得した「天神」を収録した待望の1stフルアルバム「明日は当然来ないでしょ」をリリース、全国5都市で開催された初のワンマンツアーは全公演チケット即完売。
2021年1月に配信シングル「ごきげんよう さようなら」、3月に配信シングル「浪漫」、5月に冨田恵一(冨田ラボ)プロデュースによる配信シングル「哀してる」を、7月に亀田誠治プロデュースによる「闇燦々」をリリース。そして、8月11日(水)には2ndフルアルバム「遙かいま」をリリースし、直後に「FUJI ROCK FESTIVAL ‘21」へ出演。また、メガネブランド「Zoff」の「Zoff CLASSIC Summer Collection」のモデルも務める。



Neibiss
兵庫・神戸を中心に活動するラッパー・hyunis1000とビートメイカー / DJ / ラッパー・ratiffによるヒップホップユニット

Makaya McCraven - ele-king

 〈ブルーノート〉はジャズの名門レーベルであるが、まだサンプリングが社会的に認知の薄かった時代からサンプリングを認め、またそれを自社音源のPRにも積極的に利用してきたレーベルだ。最初に〈ブルーノート〉が音源の使用を許可してアルバム制作をおこなったのがUs3(アス・スリー)の『ハンド・オン・ザ・トーチ』(1993年)で、当時は『ブルー・ブレイク・ビーツ』などDJ向けのサンプリングに特化したコンピも多数リリースしていた。その後もいろいろなアーティストたちによって〈ブルーノート〉音源のリミックスも作られ、その中でも傑作に挙げられるのがマッドリブの『シェイズ・オブ・ブルー』(2003年)である。これなどはまさに『ブルー・ブレイク・ビーツ』に収められた楽曲が多数使われているのだが、マッドリブの場合は単にビートなどをサンプリングするのではなく、そこに自身で演奏した素材をミックスし、一種のカヴァーやリメイクのようにしていたことも評価を高めた要因である。また、その中にはアンドリュー・ヒルの “イルージョン” を用いた “アンドリュー・ヒル・ブレイクス” という楽曲があって、そこでは〈ブルーノート〉創始者であるアルフレッド・ライオンの夫人のルースのインタヴューも交えていた。マッドリブはたびたびこうした試みをおこなっているが、それはサンプリングに込められた彼のジャズに対する造詣の深さや愛情を物語る。

 マカヤ・マクレイヴンによる『ディサイファリング・ザ・メッセージ』も、マッドリブの『シェイズ・オブ・ブルー』に近い形でのリミックス/カヴァー・アルバムだ。『メッセージの解読』というタイトルどおりマカヤ・マクレイヴンが〈ブルーノート〉音源を読み解いたもので、単純に素材としてサンプリングするのではなく、自身で過去の〈ブルーノート〉の楽曲を研究し、それを自身の解釈を交えながら現在に再構築したものとなっている。
 マカヤと言えばギル・スコット・ヘロンをリミックス/リコンストラクトした『ウィ・アー・ニュー・アゲイン』(2020年)があるが、これはギル・スコット・ヘロンのヴォーカル・パートや元々の演奏などのテープ素材をもとに、サンプリングやエレクトロニック処理と自身によるインプロヴィゼイションを交えて再構築していったもので、ある意味でギル・スコット・ヘロン以上にギル・スコット・ヘロンらしい楽曲もあった。単なる楽曲のカヴァーやサンプリングを超え、ギル・スコット・ヘロンの精神性や世界観を表現した素晴らしい作品集であったが、『ディサイファリング・ザ・メッセージ』はそれを〈ブルーノート〉に置き換えたものとなっている。
 今回はマカヤひとりではなく、ジェフ・パーカー(ギター)を筆頭にジョエル・ロス(ビブラフォン)、マーキス・ヒル(トランペット)、グレッグ・ワード(アルト・サックス)、マット・ゴールド(ギター)、ジュニアス・ポール(ベース)、デシーン・ジョーンズ(テナー・サックス、フルート)が参加し、ときにバンド演奏に近い形で新たに弾き直したパートも交えている。マカヤはドラムのほかキーボード、ギター、ベース、パーカッションを演奏し、そしてサンプリングやビート・メイクをおこなう。

 タイトルにメッセージがあるように、アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの作品もやっていて、それに代表されるように1950年代後半から1960年代半ばくらいまでのハード・バップが中心となる構成だ。この時代はジャズ、そして〈ブルーノート〉にとっても黄金時代で、ホレス・シルヴァー、クリフォード・ブラウン、ケニー・ドーハム、ハンク・モブレー、デクスター・ゴードンといったスター・プレーヤーが活躍し、彼らの楽曲をマカヤは再構築している。主に1970年代のジャズ・ファンクが中心となっていたマッドリブの『シェイズ・オブ・ブルー』に対し、マカヤの『ディサイファリング・ザ・メッセージ』の相違性はこのあたりにあるだろう。ジャズ・ファンクはグルーヴ感のあるファンク・ビートを軸に、楽曲そのものが既にサンプリング向けの素材であるのだが、ハード・バップはプレイヤーのアドリブがより多く、インプロヴィゼイションやインタープレイに演奏の焦点があり、どちらかと言えばサンプリング向けの素材ではない。こうしたところからも、マカヤがありきたりの〈ブルーノート〉のカヴァー/リミックス・アルバムを作ろうとするのではなく、1950年代後半から1960年代半ば頃のジャズ・ミュージシャンの立場となり、当時彼らが何を想い、どのように感じて演奏していたか、それを自身に置き換えて表現したアルバムになっていると言える。

 たとえばアルバムの冒頭を飾る “ア・スライス・オブ・ザ・トップ” はもともとハンク・モブレーの音源なのだが、サンプリングや演奏そのものは比較的原曲に忠実で、音のバランスやミキシングを変えてエッジを際立たせている。そして、カフェ・ボヘミアでのアート・ブレイキーのMCをピッチを上げてサンプリングし、ライヴ感を創出している。マカヤならではの現代ジャズ的なセンスが感じられると共に、ハンク・モブレーやアート・ブレイキーの息吹がそのまま伝わってくるような楽曲で、そしてハード・バップの時代のジャズが持つライヴ感が込められている。観客の拍手が交えられたケニー・ドーハムの “サンセット” にしてもそうだが、当時のジャズの主流な鑑賞はジャズ・クラブで聴くもので、実際にレコードもそのライヴを実況録音したものが多かった。時代は変わって、いまのジャズのアルバムはスタジオに入って録音することが主流となっているが、こうしたライヴ仕立ての仕掛けも当時の時代背景を反映しており、細かなところも練り込んで作られていることがわかる。

Ian Wellman - ele-king

 イアン・ウェルマンは、カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点とするサウンド・アーティスト、プロダクション・サウンド・ミキサー、フィールド・レコーディング・アーティストである。
 この『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は、2021年12月に〈Room40〉からリリースされたウェルマンの新作だ。同レーベルからリリースされたロバート・ジェラルド・ピエトルスコ『Elegiya』と同じく薄暗い空気と微かな光のようなアンビエント・ドローン作品に仕上がっている。
 もちろん『Elegiya』と『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は異なる作品だ。シネマティックなムードは共通しているが、『Elegiya』は幽玄な質感のドローンであり、『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は、ノイズ音楽や生体音響学などに影響を受けたというイアン・ウェルマンらしいノイジーなうごめきに満ちたアンビエント/ドローンである。
 ウェルマン本人のライナーによると「怒り、不安、希望の間で揺れ動き、通常はディストーションやノイズに変化し」「世界中で起きている出来事に意味を見出そうとする試み」であったという。加えて「行き詰まった人生に対する私自身のフラストレーションを癒す方法」でもあったとも書いている(https://ianwellman.bandcamp.com/album/on-the-darkest-day-you-took-my-hand-and-swore-it-will-be-okay)。不穏な社会や不安定な個人を反映するかのようなサウンドであるのはこういった背景があるからだろうか。
 インターネットや現実で引き起こされる多くの社会問題や社会情勢はアンビエント・ドローン作品のような抽象的な音楽にも深く影響を与える。つまり時代が暗ければサウンドの質感にダークなものが増えるというわけだ(反対に過剰に癒しを放つものも増えてくる)。社会の無意識を写す鏡のような現代アンビエントだ。ちなみに現代アンビエント・ドローンの名手とはいえばヤン・ノヴァクであり、彼の霧のような美麗ドローンをまず思い出すが(彼の音響は本当に美しい。まるで空気を浄化するようなアンビエントなのだ)、イアン・ウェルマンの諸作品は、ヤン・ノヴァクのアンビエントとは異なる魅力を発している。
 イアン・ウェルマンのアルバムを聴いていると、世界の不安や不穏をスキャンしたサウンズの波を感じてしまうのだ。彼は社会/世界、世界の変化や状況にとても敏感かつ鋭敏な感性を持っている音楽家なのだ。尖っていて不安定な感覚があるのだ。音もセンシティヴである。この感覚は精神の沈静を追求するアンビエントの音楽家の中では稀だ。不意にリリース・レーベル〈Room40〉を主宰するローレンス・イングリッシュの音楽性を思わせもする。
 2018年にヤン・ノヴァクが主宰する現代アンビエント・レーベルの名門〈Dragon's Eye Recordings〉からリリースした『Susan's Last Breath Became the Chill in the Air and the Fog Over the City's Night Sky』、2019年に同じく〈Room40〉からリリースした『Bioaccumulation』もそのような世界の不穏さを反映していたように思う。
 2021年にリリースした本作『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』では、これまで以上に、不穏なアンビエンスに聴こえた。やはりコロナ以降の世界の反映だからだろうか。

 アルバムには全13曲が収録されている。どの曲も微かなノイズが刺すように鳴り、一方で溶け合っていくような持続音を聴かせてくれる。しかもトラックには4分台の曲多い(1分ほどの曲もある)。この種のアンビエント作品は一曲が長いものが多いのだが、その点からしても異質な作風である。
 本作は長い音の持続にじっくりと耳を澄ますタイプの作品はなく、ノイズのフラグメンツ(断片の数々)を摂取するようなアルバムなのだ。この断片性は聴く物に独特の不安感(と心地よさ)を与えてくれる。
 じじつ、このアルバムを聴くと気候変化や社会問題、事件、事故などが混じり合った、いまこの時代特有の集合的無意識を聴取するような独特の不安感があるのだ。ほぼ同時期にリリースされた『I Watched The World Burn Without Leaving My Home』と合わせて聴くと、さらなる孤立感や時代の無意識を感じることができる。いわば「社会」「世界」に抵抗しつつ溶け合っていくような聴取体験があるのだ(『I Watched The World Burn Without Leaving My Home』はどうやら世界各地の火災問題を扱っているようだ)。ノイズという厳しい現実と平穏というアンビエントが交錯し、彼の音楽として総体を形作っている、とでもいうべきか。
 そう、『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は、まさに心と体と世界の境界が融解/溶解するようなアンビエント/ドローンなのだ。1年のはじまりに(でなくとも良いのだが)心身を調律するように聴き込みたい。

Trilogies - Mars89 episode 1 - ele-king

 レコード店「Disc Shop Zero」の店主、飯島直樹氏が永眠してはや2年、今年の2月で3回忌を迎える。彼の功績に敬意を表しつつ、彼が志した低音の美学とその広大なヴィジョンを継承すべく、2月11日(金)渋谷のContact Tokyoにて、飯島氏がオーガナイーザーでもあったポッセ〈BS0〉がパーティを企画する。「Disc Shop Zero」に行ったことがない人も、ぜんぜんウェルカム。足を運んで、力強いベースを感じて欲しい。

年明けのダンス・ミュージック5枚 - ele-king

 新年あけましておめでとうございます! 2022年も音楽についてたくさん書いていきたいと思います。2021年は、僕の力量不足ゆえ(単に怠けている日もある)に書けなかった作品がいくつもあった。今年は全て書く勢いでやるということで、そこを抱負に精進します。ということで新年一発目のサウンドパトロール、よろしくお願いします。


SW2 & Friends - Hither Green Glide / For The People | GD4YA

 EL-B の運営する〈GD4YA〉は、UKガラージのダークな側面を好む人ならチェックすべきレーベル。彼自身、90年代からいくつかのレーベル(Not On Label のホワイト盤も多数)からアングラでダークなUKガラージを提供してきたDJ。もちろん、〈GD4YA〉のサウンドはその焼き回しではなく、現代版へきちんとアップデートされており、さらにハズレもあまりないときた。今作は、〈Rhythm Section International〉などからリリースを重ねる FYIクリス、エズラ・コレクティヴの鍵盤奏者として知られるジョー・アーモン=ジョーンズなどが参加。あのダークなUKガラージの音(〈Tempa〉の『The Roots Of Dubstep』を聴くと良し)を踏襲しつつ、南ロンドンにおけるハウスとジャズの視点も加えている。かなり面白い。

Instinct – PAUSE LP | Instinct

 「UKガラージのダークな側面」なんて書いたので、こっちも紹介しないわけにはいかない。バーンスキ(Burnski)による、UKガラージ専用のインスティンクト名義でリリースされたフルレングス。連番でいくつかの12インチを出しており、それらをまとめたのが『PAUSE LP』。5番に当たる「Pstolwhip」は最高にオシャレなUKガラージで大好きだけど、今作には未収録……。流行り(?)の音数少なめでカラッと乾いた質感のUKガラージ・ビートがずっと続く、素敵な10曲入りLP。ベースは効いていてダークさはあるけど、なぜか凄くオシャレに聴こえる。個人的ベスト・トラックの “Apache” はサンプリングかと思うが、実弟によるヴォーカルのピッチをいじったもの。12インチの集成なのでそれぞれのツール感は否めないが、それでも聴きやすくまとまっていると感じた。

WILFY D & K–LONE - VITD004 | Vitamin D Records

 K-ローンといえば、ファクタと運営するロンドンは〈Wisdom Teeth〉でよく知られている。が、Wilfy D とコラボレーションした今作は、言ってしまえばらしくない、スイートでソウルフルなUKガラージに仕上がっている。“Str8 Up” なんて最高なチャラ系UKガラージでかなりのお気に入り。そもそも、90年代におけるUKガラージというジャンルにはかなり売れ線の曲もあって、そこそこチャラい側面があることを思い出させられる。ちなみに Wilfy D のほうは、自身の〈Vitamin D Records〉や〈Dansu Discs〉などでリリースしつつ、ブリストルのレコード店&レーベルの〈Idle Hands〉のスタッフとしても働いている模様。いま挙がったのは全てUKにおける現行のレーベルで、全てかっこいいので合わせてチェックしよう。

Joy Orbison - red velve7 | TOSS PORTAL

 2021年の個人的なハイライトのひとつ、それはジョイ・オービソンの『Still Slipping Vol.1』だった。本当にカッコ良かった。サウンドがカッコ良いのは当たり前だけど、何よりも「そこにい続けて……、もちろんいまもそこにいる」その姿勢がカッコ良いのだ。この曲は、ジョイ・Oによって突如ドロップされた未発表曲のうちのひとつ。ジャケは彼の祖母で、西ロンドンで音楽系のパブを祖父とふたりで経営していた方なのだそう。曲のリリースに際したインスタのポストによれば、「まだ始まったばかり」だと。これからも彼の動向には目が離せない。

Blawan - Woke Up Right Handed | XL Recordings

 相変わらず、〈XL〉のこのシリーズは良いリリースが多い。去年は LSDXOXO による猥雑なゲットー・ハウス「Dedicated 2 Disrespect」が最高だったし、その前だとジョンFMの「American Spirit EP」も良かった。そしてブラワンからの「Woke Up Right Handed」も、これまた半端じゃない一撃だった。数あるフライト(2019年は340回もあったそう!)に嫌気がさし、いまは拠点とするドイツで酪農により多くの時間を割いているそう。このEPから出てくる音がそんな生活から生み出されたものなんて……。“Under Belly” のホラーめいた異様なサウンドが酪農生活によるものだとは、にわかには信じかたいよね。

Ross From Friends - ele-king

 ローファイ・ハウス(≒ロウ・ハウス)なるタームが隆盛したのが 2010 年代。ハウスの四つ打ちは有しているものの、それはクラブでの使用を念頭に置いたものではなく、主なテリトリーはインターネット──とりわけ YouTube であった。そのメランコリックかつノスタルジックな雰囲気を携えた音楽は、どちらかといえばクラブに通いつめるパーティ・アニマルよりも、ベッドルームでひとり夜な夜な音楽をディグるナードたちを喜ばせた(そのどちらの属性にも当てはまる変わり者は別として)。90 年代におけるIDMがそうであったように、ローファイ・ハウスもダンスを契機としながら、機能性のみを追求したジャンルではなかったのだ。やがてときは経ち、そこに括られていた才能溢れる面々も、近年では、YouTube の縦横1280×720のサムネイル画像なんかには収まらない躍動を見せている。

 USの人気シットコム『フレンズ』の主要キャラクターからネーミングを拝借した、エセックス生まれのロス・フロム・フレンズことフェリックス・クラリー・ウェザオールもまた、そのひとりだろう。「ダーク、ムーディ、ノスタルジック&ヴァイヴスなクラブ・マテリアル」(実にローファイ・ハウスらしいワードが並ぶ、レーベル説明文による)に焦点を当てた、〈Lobster Thermin〉のサブ・レーベル〈Distant Hawaii〉からの “Talk To Me, You’ll Understand” の YouTube 再生回数はすでに800万を超える。聴けばおわかりの通り、背後にはノイズが流れ、ハイハットやスネアにはわずかな歪みが掛かり、そしてチョップされたヴォーカル・サンプルを主体とする、反復的な四つ打ちを有する構造……まさにローファイ・ハウスのお手本のような曲である。いやしかし同時に、このリリースからすでに何年もの月日が流れてもいるのだ。その間、彼はいくつかのEPをリリースしているし、フライング・ロータスと出会い〈Brainfeeder〉と契約し、1枚目のフルレングス・アルバム『Family Portrait』をドロップ。そしてブレイクした “Talk To Me, You’ll Understand” から数えておよそ5年。めくるめく変化し続け、それが今作の『Tread』に結実した。

 〈Brainfeeder〉からの2枚目のアルバムということもあり、過去にあったあのローファイ・ハウスの感触はすでに影を潜めている。まず感じたのは圧倒的に音が良い。もはや、ローファイではなくハイファイになっている。オープナーの “The Daisy” から早くもベスト・トラックと言いたくなってしまうクオリティで、近年のトレンドといえるUKガラージを拝借したサウンドに、ロス・フロム・フレンズによる複雑かつ緻密なアレンジメントが冴え渡る好トラックに。続く “Love Divide” や “Revellers” を聴けばより明らかに感じるが、リズム面ではダンス/クラブの作法を感じさせるものの、明らかに空間が広く感じられる奥行きと立体感を伴ったサウンド・デザインが施されており、これはゴリゴリの低音が効いたクラブのサウンドシステムよりも、質の良いスピーカーないしは細部まで聴き取れるヘッドホンで、じっくりゆっくり味わいたくなるような音楽だ。

 また、マッドリブにインスパイアされたという “A Brand New Start” は、クラシックなソウル/ジャズとモダンなエレクトロニックの邂逅といったところで、過去のサンプリングに新たな息吹がもたらされるこの上ない好例に思える。“Life In A Mind” は、パティ・レベルのヴォーカルをサンプリングした一発勝負かつアイデア勝利の面白い曲で、こちらも同様に彼の緻密なサウンドの調理が施されている。前者に関しては、一聴したとき、ふとカリブーの “Home” なんかを思い出した。そういう意味でも『Tread』において、彼の作る音楽はそれらUKのヴェテランたちにすら迫りつつあるとも感じさせる瞬間がある。

 ロス・フロム・フレンズは録音物としてのクオリティにとことんこだわり続けたのだろう。その絶え間ないプロセスの大きな一助となったのが、彼お手製の「Thresho」というプラグインで、これによって彼は Ableton 上で演奏したあらゆるものを簡単に保存できるようになり、より自由に音楽制作に没頭できたと語る。そのプラグインは無料で公開(https://thresho.rossfromfriends.net/)されており、それと合わせて、『Tread』の制作中に彼自身が録音した50GB(!)にも及ぶ使われなかった音の素材もダウンロード可能になっている。使われなかったものだけでも2000以上もの音の素材があるのだ。その事実だけで、彼が『Tread』を制作するべく、どれだけのスタジオ・ワークを積み重ねたのかは想像に難しくない。

 『Tread』はロス・フロム・フレンズの次の段階を示している。彼がローファイ・ハウスとタグ付けされたあの頃から比べると、その鳴っている音をはじめとしてあらゆることが変わっている(ちなみに、彼は父親になったそうです)。しかし彼が YouTube のサムネイルから飛び出そうとも、音がとんでもなくハイファイになろうとも、ヒップホップばりのサンプル・ヘヴィーな音楽を作ろうとも……色々なことが変わろうとも、あの頃、ロス・フロム・フレンズの音楽に興奮できたひとなら、このアルバムは必ず楽しめるに違いない。

You'll Never Get To Heaven - ele-king

 なぜ私たちが来たのか
 いつだってうまく思い出せない
 わからない
 私たちはなぜ来たのだろう
ブライアン・イーノ“バイ・ディス・リヴァー”

 “バイ・ディス・リヴァー”は、曲もいいが歌詞もいい。人生の真理だ。イーノが1977年にリリースした『ビフォア・アンド・アフター・サイエンス』の収録曲で、ドイツの電子音楽デュオ、クラスターとの共作としても知られているこの名曲をカヴァーしていのがアルヴァ・ノト&坂本龍一、マーティン・ゴア(デペッシュ・モード)、それからエレキングでお馴染みのイアン・F・マーティンと、ユール・ネヴァー・ゲット・トゥ・ヘヴン(以下、YNGTH)というシニカルな名前で活動するカナダの電子音楽デュオである。
 YNGTHは、2012年にデビューして以来、2014年にくだんのカヴァーをふくむシングルを1枚、それから2017年にセカンド・アルバムを出しているだけで、だからこの10年で本作を入れてわずか4作品しかないのだが寡作家というわけではない。メンバーのチャック・ブレイゼヴィックは、ドリームスプロテイション、スロー・アタック・アンサンブルというふたつのプロジェクトでも活動している。前者はエレクトロニック、後者はクラシカルで、両者ともに音数は少なく、ともに空間があり、とにかくドリーミーだ。要するにサウンドの指向性は、YNGTHとさほど変わらなかったりする。スタイルがアンビエントであろうとシンセポップであろうとクラシカルであろうと、彼らの音楽は蒸気であり、綿であり、夢のなか。「You'll Never Get To Heaven=決して天国へは行けない」というバンド名は、反語なのである。
 
 あてどなく歩き、ふと気がついたら川辺にいる。前に進めず立ち止まり、空を仰いで、どうしてここに来たのか理由が思い出せないことをそのとき知る——カフカめいた人生観を彷彿させるこれがイーノによるオリジナル版“バイ・ディス・リヴァー”だと言うのなら、YNGTHによるカヴァーは、川辺で立ち往生しながら別次元に入って気持ちよくなってしまっている。思い出せないことは快楽とでも言うかのように。そう、天国にしか行けない。
 もっとも、ドリーミーではあるが潔癖症的で、なるほど日本の「環境音楽」に影響を受けたという話も頷けなくもないのだが、かつては、彼らのサウンドからレイランド・カービー(ケアテイカー)めいた“幽霊たちのボールルーム”を引き出した人もいたのだった。たしかに、少し手を伸ばせばボーズ・オブ・カナダやブロードキャストにも届くのかもしれない。が、他方ではエリック・サティのカヴァーもしている彼らのアンビエントには上品な静寂があり、癒やしもあり、滲むように広がるアリス・ハンセンのささやき声は、彼らの美しい空間を演出する一要素として機能している。『降雪列車にあなたの月光帽子を振る』というタイトルはノスタルジーというよりはシュールであって、じっさいこれは詩的な音楽でもある。
 まあ、好きなように解釈すればいいだけの話だ。1年の終わりというのはとかく感傷的になりがちで、ひとりでこの音楽に浸るにはもってこいの時期だったりもする。いやー、なにかと疲れました。我々はyahooニュースやそのコメント欄や新聞の見出しのなかに生きているのではない。ときには休息、川辺に佇むことが必要なのだ。

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