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interview with Joe Armon-Jones

interview with Joe Armon-Jones

深化するUKジャズの躍動

──ジョー・アーモン・ジョーンズ、インタヴュー

質問・文:島 晃一(Soul Matters / CHAMP)    通訳:青木絵美   Sep 19,2019 UP

 サウス・ロンドンを主な拠点としたUKジャズ・シーンはますます注目を集めている。今年だけを見ても、フジロックでの演奏も記憶に新しいザ・コメット・イズ・カミングの『Trust In The Lifeforce Of The Deep Mystery』をはじめ、ココロコのEP「KOKOROKO」、ヌビヤン・ツイスト『Jungle Run』、そしてエズラ・コレクティヴのデビュー・アルバム『You Can't Steal My Joy』といった話題作が、次々とリリースされた。

 そのエズラ・コレクティヴのメンバーとしても知られるキーボーディスト、ジョー・アーモン・ジョーンズは、アフロビート、ダブ、ブロークンビーツなどの要素が混ぜ込まれた昨年のデビュー・アルバム『Starting Today』が高い評価を得て、シーンの中心人物となった。そんな彼が満を持して放つセカンド・ソロ・アルバムが、この『Turn To Clear View』だ。
 前作同様、〈Brownswood Recording〉からのリリースとなった本作は、サックスのヌビア・ガルシア、ドラムのモーゼス・ボイド、ココロコのベーシストのミュタレ・チャシといった、ヴォーカル以外の参加ミュージシャンも全く同じだが、“Yellow Dandelion”など、ヒップホップ色の強い曲が前作以上に多くなっている。また、驚くべきはその“Yellow Dandelion”へのジョージア・アン・マルドロウの参加だろう。これまで、サウス・ロンドンという地域と関連づけて語られることが多かったジョー・アーモン・ジョーンズが、LAのシーンに接近したのは意外だった。UKジャズ・シーンの深化と広がりが同時に見出せるこのアルバムについて、彼に話を聞いた。

僕が好きなサン・ラーの音楽が嫌いな人もいれば、僕が嫌いなサン・ラーの曲に感動する人もいる。サン・ラーの不思議なところは、各々が楽しめる曲があるということなんだ。そこから入って、徐々に、他のものへの理解を深めていき、その底にある意味を理解していく。

まず、“Yellow Dandelion”にジョージア・アン・マルドロウが参加した経緯を教えてください。

ジョー・アーモン・ジョーンズ(Joe Armon-Jones、以下JAJ):僕は長い間、彼女のファンだった。世界で最も好きなミュージシャンのひとりに入るくらいにね。だから、彼女がロンドンの Bleep Records という所で小さなインストア・ライヴをやったときに観にいって、『Starting Today』を彼女に渡し、何か一緒にできたら嬉しいと伝えたんだ。その1、2日後、ロサンゼルスから連絡をくれて、一緒に何かやりたいと言ってくれたから、彼女にトラックを送った。このトラックは元々、彼女を念頭に置いて作ってあったからね。彼女が参加できなかったら他の人に歌ってもらおうと考えていたけど、トラックを気に入ってくれたから一緒に作業できたんだ。

トラックのファイルを送った後はどのように曲を仕上げていったのですか?

JAJ:僕がセッションを先にやっていたから、曲は録音されていて、僕がミックスした最終版ができていた。だから曲はもうプロダクション過程にあったんだ。彼女には何も撮り直してもらう必要がなかったよ。最初彼女が送ってくれたのはハーモニーとリードラインだったけど、僕が頼んだ通りにやってくれて、必要なものは全て揃っていたから完璧だった。その後から仕上げるのに時間はかからなかったね。

ジョージア・アン・マルドロウの作品、そして、〈Brainfeeder〉をはじめとしたLAのビート・シーンの曲も、普段からよく聴いていますか? 彼女たちや彼らの魅力はなんでしょうか?

JAJ:あのシーンは最高だと思うよ。それに、あのシーンやコミュニティーに対しては強いリスペクトと憧れを感じている。ラス・Gが亡くなったのはとても悲しい出来事だったけれど、あのときにみんなが集まって、彼の家族をサポートして、ラス・Gへの愛情や尊敬の念を表している姿を見ると、どれだけシーンの結束が強く、コミュニティーを基盤としているか分かるよね。アメリカで、そういう繋がりを見ることができて嬉しい。どの国でも、なかなかあそこまでの結束は起きないと思う。友達同士で一緒に仕事をして、お互いを大切に思い合える関係は貴重だ。自分も、それと似たようなロンドンのコミュニティーに属していることを嬉しく思う。

エズラ・コレクティヴでは“Space Is the Place”を二度もカヴァーしていますし、あなたのアルバムのアートワークは2枚とも宇宙的で、スピリチュアルなデザインですね。以前、ele-king のインタヴューでチック・コリアからの影響を語っていただきましたが、サン・ラーについてはいかがですか? 

JAJ:サン・ラーが作ったものが全て好きというわけじゃないよ。サン・ラーのレコーディングで、僕が深く感動するものはいくつかあるけど、聴くに耐えられないものもある。でも、そこがサン・ラーの音楽の良いところだと僕はちゃんと認識している。友人の中には、僕が好きなサン・ラーの音楽が嫌いな人もいれば、僕が嫌いなサン・ラーの曲に感動する人もいる。サン・ラーの不思議なところは、各々が楽しめる曲があるということなんだ。そこから入って、徐々に、他のものへの理解を深めていき、その底にある意味を理解していく。それは旅路であって、後になってから、自分が好きなバンドやその他に与えたサン・ラーの影響に気づいていく。先ほど話していたラス・Gも、音楽だけでなくアーティスティックな部分でサン・ラーに影響を受けていたよね。エジブト神話の側面などは、例えば、アース・ウィンド・アンド・ファイアーも影響を受けていた。それは音楽的な影響だけではない。その背景にあるアートワークや世界観などにも影響しているんだ。

前作と合わせて見ると、アートワークはとてもコンセプチュアルに感じられますが、アルバムの曲作りに関しては、全体としてのコンセプトはありましたか?

JAJ:とても曖昧なコンセプトはあったけど、具体的なものはないよ。アルバムが録音されて、曲順が決まってから、アートワークがどのようなものになるかというのが見えてくるからね。

アルバムの最後の曲はアフロビートだけど、そこからヒップホップな感じになる。曲が行きたい方向に自由に向かわせるのさ。例えば、最初から、これはファンクの曲だ、と考えて作曲すると、曲が行きたい方向に行けなくなってしまうかもしれないだろ?

このアルバムの制作期間中、よく聴いていたアーティストや曲があれば教えてください。

JAJ:ジャズやヒップホップシーンの新しい音楽はチェックしている。あとは、キング・タビー、サイエンティスト、ザ・レヴォリューショナリーズやハービー・ハンコックとか、比較的昔のレゲエやファンクをレコードで聴いたり。それと、ブラジルのミルトン・ナシメントも最近よく聴いてるよ。

以前までは、ブロークンビーツとのつながりを指摘するメディアが多かったですが、今作はブロークンビーツの色が前作よりも薄く、ファンクやヒップホップの要素が強いと感じました。また、これまで以上に、全体的にチルアウトな雰囲気もありますよね。それは意識して曲を作りましたか?

JAJ:いまではそう思うけど、作曲しているときは、ひとつのフィーリングに制限されないようにしている。アルバムの最後の曲はアフロビートだけど、そこからヒップホップな感じになる。曲が行きたい方向に自由に向かわせるのさ。例えば、最初から、これはファンクの曲だ、と考えて作曲すると、曲が行きたい方向に行けなくなってしまうかもしれないだろ? だから、そういうジャンルについての言葉は意識しないようにしている。

前作同様、このアルバムでもモーゼス・ボイドとクエイク・ベースのふたりがドラムを担当していますが、シングルになった“Icy Roads (Stacked)”をはじめとして、前作以上にクエイクの存在感が増しているように思います。ですが、日本では、まだ十分に紹介されているとは言い難いです。彼はどんな人物ですか? 

JAJ:日本はまだクエイクに目覚めていないな(笑)。彼は僕がいままで会ったミュージシャンの中で最もすごい人のひとりだ。クエイクのようにドラムを演奏できる奴はいないし、見たことがない。“Icy Roads (Stacked)”ではいくつものドラムのレイヤーが聴こえると思うんだけど、分かるかな? ドラムにエフェクトがかかっていたり、サンプルされたドラムの音も入っている。それは全てクエイクが生でやっているんだ。だから録音セッションのとき、部屋からはドラムしか聴こえないけれど、ブースに入って何が録音されているのかを聴くと、全く違ったものが聴こえてくる。言葉で説明するのは難しいから見てもらうのが一番だけど、カオスパッドやトリガーなどの機材が配置されていて、それが彼独自の音を生んでいる。彼もソロ・プロジェクトをやっていて、サンプルやトリガーやドラムを使った作品を出している。クレイジーだよ。クエイクの音楽は素晴らしいから、日本のみんなにもチェックしてもらいたいな。

ジャイルスはほとんどの場合、自分の好みでない音楽はかけないんだ。好きならかける。嫌いならかけない。すごく単純に聞こえるけれど、忘れがちなことだよ。全てのミュージシャンがそうであるべきだと思う。

そのモーゼス・ボイドとクエイク・ベースはちょうどアルバムの半分ずつドラムを担当していますが、リズム隊が変わると、意識的に変化はありますか?

JAJ:録音には2日間しか使わなかった。スタジオでの作業は2日間だったから。1日目はドラムにクエイク、ベースにミュタレ・チャシで、2日目はドラムにモーゼス・ボイド、ベースにデヴィッド・ムラクポルだった。僕の意識も少しは違ったけど、それはドラマーとベーシストが違うからというだけだよ。そうなるとサウンドも変わってくるからね。だから意識が変わるというよりも、サウンドが変わるという方が正しいと思う。それ以外の参加者はみんな一緒だったし、ラインアップが変わってから2回目の録音をしたときもあったから、同じ曲を演奏したときもあった。

アルバムの最後の曲、“Self Love”には、ナイジェリア出身のオーボンジェイアーが参加しています。彼はどんなシンガーですか?

JAJ:彼はエモーショナルなシンガーだよ。全てのシンガーがそうあるべきなように、彼は感情を音楽に注いでいる。多少陳腐な言い方だけど、彼は音楽の世界に入って没頭することができる。それは実際には難しいことなんだ。自分の意識が妨げになってしまうことが多い。でも、彼はそれができるからすごい。それに、他の人とは違う、彼独自のサウンドも持っているしね。それが素晴らしいところだよね。

“Self Love”の前半は、前作の曲以上にアフロビート感が強い印象ですが、これはオーボンジェイアーの存在が大きいのでしょうか?

JAJ:僕とオーボンジェイアーがこの曲を一緒に作っていたら、そう答えられるけど、この曲とビートは僕が作って、オーボンジェイアーに参加してもらう前に録音もしていたんだ。他の曲が録音されたのと同じ日にこの曲も録音された。また、この曲はアフロビートでもあるけど、4分の3拍子だからアフロビートの変わった演奏方法なんだ。そして曲の中盤以降からはヒップホップのようになる。そういうスタイルなんだ。モーゼスが4分の3拍子のアフロビートを演奏できるか試させたかった。曲が録音された後、僕は曲を聴き返していて、ちょうどその頃にオーボンジェイアーと他のプロジェクトで一緒に作業していたから、彼にヴォーカルを加えてもらおうと考えた。彼も曲を気に入ってくれたから、そこからはふたりで作業した。

4月にリリースされたエズラ・コレクティヴのアルバムではロイル・カーナーが、このアルバムの“The Leo & Aquarius”ではジェストがラップを披露しています。今年はラッパーとのコラボレーションも目立っている印象ですが、彼らとの作業はいかがでしたか?

JAJ:最高だったよ。ジェストもロイル・カーナーもいい奴だから大好きだし、付き合いも長いんだ。だから一緒に音楽を作るのは自然な流れだった。特にジェストとは、何年も前から知っているし、彼と僕は偶然出会うきっかけが何度もあって、今回のアルバムの参加者と同様、僕が知っているミュージシャンとも様々な形で繋がっている。そこで僕は彼にトラックを送ったら、すぐにラップを入れて返してくれたよ。ジェストはイギリスでナンバーワンのラッパーだと思うから、彼が曲に参加してくれたのは、僕にとってものすごく光栄なことだった。

ジェストの〈YNR Productions〉のようなUKのヒップホップは以前から聴いていましたか?

JAJ:ああ、UKヒップホップ全般を以前から聴いていたよ。UKヒップホップからは数々のインスピレーションを受けてきた。特に若い頃はね。スキニー・マン、ルーツ・マヌーヴァ、ロドニー・Pなど、UKヒップホップにはレジェンドがたくさんいるからね。

以前からダブへの影響を公言していますが、普段の曲作りの際に、クラブでの鳴りを意識していますか? 

JAJ:もちろんだよ。特にミキシングの過程ではね。作曲のときも意識するけど、このミックスがクラブやサウンドシステムでどう響くかっていうのを考えて試してから、最終版のミキシングをしている。

「Starting Today in Dub」のように、このアルバムの曲のダブ・ヴァージョンを作る予定はありますか? 

JAJ:もしかしたら作るかもしれないけど、あれは自然にできたものだったからね。曲をいじって遊んでいたら、あの作品ができた。同じことをやろうとは思わないけど、アルバムの曲の別ヴァージョンは作るかもしれない。ダブ・ヴァージョンとは呼ばないかもしれないけれど、誰かにラップを載せてもらってヴォーカル・ヴァージョンと呼ぶとかね。まあこれから様子を見ていくよ。

昨年はマカヤ・マクレイヴンの『Where We Come From (Chicago X London Mixtape)』にも参加しましたね。マカヤとの共演はいかがでしたか?

JAJ:とても素敵な体験だったな。彼と初めて会ったのが、あのギグで彼がロンドンに来たときだった。大勢の前で演奏して即興をしなければいけなかったから、違和感のあるギグになる可能性もあったのに、彼はとても良い姿勢で臨んでいて、雰囲気も素晴らしいものとなった。それ以来、彼とはツアー中にしょっちゅう出くわすんだ(笑)。

あなたはサウス・ロンドンという地域で括られることが多いかと思いますが、UK以外の、LAやシカゴといったアメリカのミュージシャンとの交流も、以前より深まっているのでしょうか? 

JAJ:それは間違いないね。シーンがロンドンという地域を超えて大きくなるにつれ、より多くの人が交流して共演していくのは自然なことだと思う。それと、外国に行きやすくなったから、他の国へ演奏しに行くアーティストも増えている。多くの人が海外へ出て、交流を深めて、ネットワークを作っている。

そういった他の地域のミュージシャンとは、お互いにどのような影響を与え合っていると考えていますか?

JAJ:インスピレーションや労働倫理だね。高い職業倫理を持つ人たちからはインスピレーションを受ける。

今作も〈Brownswood Recording〉からのリリースですが、あなたにとって、レーベル主宰のジャイルス・ピーターソンはどのような存在ですか?

JAJ:ジャイルスのことはとても尊敬しているよ。彼は音楽の領域を、良い意味で広めているからね。彼にはDJの必須要素が備わっている。それは、「気に入らない音楽はかけない」ということだ。DJの中には、人気の曲だからとか、キッズが好きだからという理由で、自分が好きでもない曲を無理にかけている人がいる。でも、ジャイルスはほとんどの場合、自分の好みでない音楽はかけないんだ。好きならかける。嫌いならかけない。すごく単純に聞こえるけれど、忘れがちなことだよ。全てのミュージシャンがそうであるべきだと思う。

最後に、今後の予定を教えてください。

JAJ:『Turn To Clear View』を9月20日に出してからツアーをやる。その後は……また音楽を作っていると思うよ(笑)。

質問・文:島 晃一(Soul Matters / CHAMP)(2019年9月19日)

Profile

島 晃一島 晃一(Soul Matters / CHAMP)
DJ、ライター。2013年よりDJ活動開始。ディープなディスコ、ハウス、レアグルーヴを軸とした「Soul Matters」を主宰。渋谷The Roomを代表するFunky Jazzyパーティ「CHAMP」のレギュラーDJ。ライターとしては音楽と映画を中心に執筆。CDのライナーノーツをはじめ、『キネマ旬報』、『ラティーナ』などに寄稿。2019年には、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」の「ペデストリアンデッキは"都市のDJ"」特集に出演し、大きな話題となる。
https://twitter.com/shimasoulmatter
https://note.mu/mercy0101

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