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Home >  Reviews >  Album Reviews > Moses Boyd Exodus- Displaced Diaspora

Moses Boyd Exodus

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Moses Boyd Exodus

Displaced Diaspora

Exodus / OCTAVE-LAB

Tower HMV Amazon iTunes

小川充   Oct 18,2018 UP

 今年後半も次々と重要なリリースが放たれるサウス・ロンドンのジャズ・シーンにあって、本作はもっとも待ち望まれていた一枚と言えるだろう。若き天才ドラマーの名をほしいままにするモーゼス・ボイドの初リーダー・アルバムである。2015年のMOBOアワーズにおけるベスト・ジャズ・アクトに選出され、ジョン・ピールやジャイルス・ピーターソンが主宰するアワーズなど数々の賞を受賞するなど、ここ数年でもっとも注目されてきた若手ドラマーのモーゼス・ボイドは、ザラ・マクファーレン、ジョー・アーモン・ジョーンズ、ヌビア・ガルシアなど南ロンドンのアーティストたちの重要な作品やセッションに参加し、サックス奏者のビンカー・ゴールディングとのユニットであるビンカー・アンド・モーゼスでも活動してきた。ほかに自身のプロジェクトであるエクソダスでもEPやシングルのリリースは行っているが、アルバムはビンカー・アンド・モーゼスでのリリースがあるのみだったので、本作はようやく発表されたソロ・アルバムである。

 本作は基本的にモーゼス・ボイド・エクソダスとしての活動の延長上にあるもので、彼の名を一気に高めた2016年のシングル曲“ライ・レーン・シャッフル”(ライ・レーンは南ロンドンのペッカムにあるストリートの名前で、この曲はいまや南ロンドンのアンセムでもある)と“ドラム・ダンス”も収録されている。この“ドラム・ダンス”はトニー・アレンとジェフ・ミルズのコラボのようなジャズ・ミーツ・テクノ的な楽曲だが(ちなみに、モーゼスはトニー・アレンのアフロ・ビートのレクチャーも受けている)、このようにエクソダスはモーゼス・ボイドのジャズ・ミュージシャンとしての側面に加え、エレクトロニック・プロデューサーとしての側面を融合したプロジェクトである。ただし、本作でエレクトロニック色が前面に出ているのは“ドラム・ダンス”や、ヒップホップやネオ・ソウル的な要素を持つ“ウェイティング・オン・ザ・ナイト・バス”くらいで、アルバム全体で見るとアコースティックなジャズ演奏が基軸となっている。その演奏の中心にあるのが『ディスプレースド・ディアスポラ』というアルバム・タイトルである。ディアスポラとは祖国を離れて異国で暮らす民族の意味で、古くはパレスチナ外のユダヤ人のことを指し、近年ではチカーノやインド系移民などにまで解釈が拡大している。この中でブラック・ディアスポラはアフロ・アメリカンやカリブの黒人、ヨーロッパの黒人移民などに渡り、アフリカ系移民の子孫やカリブ系黒人が多く暮らすペッカム周辺は、ロンドンにおけるディアスポラの象徴的な地区でもある。南ロンドンにはシャバカ・ハッチングスやザラ・マクファーレンはじめ、こうしたディアスポラの意識を強く持つ黒人ミュージシャンが多く、本作はモーゼス・ボイドの自身の中にあるルーツに迫ったものでもある。

 ディアスポラの意識の表れとして、本作には多くの楽曲にケヴィン・ヘインズ・グルッポ・エレグアというグループが参加している。このグループはアルト・サックス奏者のケヴィン・ヘインズ率いるバンドで、ナイジェリアを発祥とするヨルバ民謡とアフロ・キューバン音楽にフォーカスした活動を行っている。ケヴィンはサックスのほかにヨルバ語のヴォーカルや民族楽器のバタ・ドラムを演奏し、またバンドにはジョー・アーモン・ジョーンズもピアノで参加している。シャバカ・ハッチングスがバンド名にも用いた“アンセスターズ”は「祖先」という意味で、土着的なドラムとヨルバ語の歌がモーゼスたちの中に流れる血を強く喚起している。この曲や“ラッシュ・アワー/エレグア”では、そうしたフォークロアなサウンドのバックに薄くエレクトロニクスが用いられているのも特徴で、単に伝統的な演奏をなぞるだけでない新しさも見せる。こうした古いもの、伝統的なものと、新しいもの、実験的なものとの融合が、本作のテーマのひとつとも言えるだろう。“フロントライン”や“マルーンド・イン・S.E.6”にはケヴィン・ヘインズのサックスのほかに、ギターやチューバの演奏が印象に残る。クレジットはないが、恐らくチューバはサンズ・オブ・ケメットでも演奏するテオン・クロスで、ギターはマンスール・ブラウンかシャーリー・テテあたりではないだろうか。特に“マルーンド・イン・S.E.6”はレイドバックしたカリビアン風味が心地よく、カマシ・ワシントンの『ヘヴン・アンド・アース』にも通じる部分があるとともに、サン・ラーとファラオ・サンダースが共演したような雰囲気さえ抱かせる。そして、ザラ・マクファーレンが歌う“シティ・ノクターン”は、まさに「夜想曲」というタイトルがふさわしいムーディーなバラード。ザラのジャズ・シンガーとしての才能を改めて知らしめる美しい曲だ。ザラやジョー・アーモン・ジョーンズなど参加ミュージシャンのクレジットは一部に留まっているが、恐らくテオン・クロスやピーター・エドワーズなど、南ロンドンのジャズ・ミュージシャンの多くが参加していると推測される。モーゼス・ボイドのソロ作で、もちろん彼のドラムの凄さも隅々から感じられるが、『ウィー・アウト・ヒア』のように南ロンドンのジャズ・シーン全体の熱い息吹が伝わってくるアルバムでもある。

小川充