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Binker and Moses

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Live At Total Refreshment Centre

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小川充   Aug 10,2018 UP

 南ロンドンのジャズ・シーンや周辺のアーティストたちの間で、よく名前が挙がるライヴハウス兼ラボにトータル・リフレッシュメント・センターがある。ロンドン北東部のダルストンという町にあるのだが、南ロンドンのミュージシャンもよく利用しており、箱側としても彼らの活動をサポートしている。リハーサル・スタジオなどの設備も完備しており、比較的安価な料金で誰でも利用できるという点がポイントで、通常のライヴ営業時間の後にフリーで飛び入り参加できるアフター・アワーズ・セッションがある。このセッションでミュージシャンたちは腕を競い、お互いの技術向上を図り、横の繋がりが生まれていく。こうした環境が南ロンドンのジャズ・シーンが発達していく要因のひとつでもあるのだ。トータル・リフレッシュメント・センターはレーベル運営もおこない、ヴェルズ・トリオがEPを出しているほか、サンズ・オブ・ケメット、ザ・コメット・イズ・カミング、トライフォースなどが録音スタジオとして用いている。今回紹介するビンカー・アンド・モーゼス、イル・コンシダードのアルバムは、共にこのトータル・リフレッシュメント・センターでのライヴ録音だ。

 ビンカー・アンド・モーゼスはテナー・サックス奏者のビンカー・ゴールディングとドラマーのモーゼス・ボイドによるユニットで、これまでに『デム・ワンズ』(2014年10月録音)、『ジャーニー・トゥ・ザ・マウンテン・オブ・フォーエヴァー』(2016年7月録音)という2枚のアルバムをリリースしている。また、ビンカーはモーゼスのソロ・ユニットであるエクソダスにも参加することがあるほか、モーゼスがプロデュースするザラ・マクファーレンの『アライズ』(2017年)でも演奏しており、お互いに重要なパートナーとなっている。ビンカーはそもそもフリー・インプロヴィゼイション畑出身で、英国フリー・ジャズ界の重鎮サックス奏者であるエヴァン・パーカーあたりからの影響が見られる。実際に『ジャーニー・トゥ・ザ・マウンテン・オブ・フォーエヴァー』にはエヴァン・パーカーがゲスト参加したほか、バイロン・ウォーレン、ユセフ・デイズ、サラシー・コルワルらも加わってのセッションを展開している。モーゼス・ボイドは南ロンドンのジャズ・シーンを牽引するドラマーで、ジョー・アーモン・ジョーンズ、ヌビア・ガルシア、テオン・クロスなど数多くのセッションに参加している。トニー・アレンからアフロ・ビートを伝授され、自身のエクソダスではヒップホップからジュークなどクラブ・ミュージックに接近する一方、ピーター・エドワーズのトリオでは正統的なジャズ・ドラミングも見せ、ザラ・マクファーレンの『アライズ』ではジャマイカ音楽へのアプローチを見せるなど、非常に柔軟でレンジの広いミュージシャンである。ビンカー・アンド・モーゼスではビンカーのプレイに対応して即興的でフリー・フォームなプレイを見せ、ライフタイムを率いていた頃のトニー・ウィリアムスを彷彿とさせるような、スリリングで激しいドラミングを展開している。

 最新作の『アライヴ・イン・ジ・イースト?』は、こうしたビンカー・アンド・モーゼスの活動を総括するもので、前述のとおりトータル・リフレッシュメント・センターで観客も交えてのライヴ(2017年6月録音)となっている。ただし、『デム・ワンズ』と『ジャーニー・トゥ・ザ・マウンテン・オブ・フォーエヴァー』との曲の被りはなく、すべて新曲で構成されている。ゲスト参加者は『ジャーニー・トゥ・ザ・マウンテン・オブ・フォーエヴァー』のときと同様に、エヴァン・パーカー(テナー&ソプラノ・サックス)、ユセフ・デイズ(ドラムス)、バイロン・ウォーレン(トランペット)、トリ・ヘンズレイ(ハープ)。モーゼスとユセフのツイン・ドラムは強烈極まりなく、彼らのリズム上でビンカー、エヴァン、バイロンがソロのバトルを繰り広げ、観客も交えたトータル・リフレッシュメント・センターの熱気がそのまま真空パックされている。

 イル・コンシダードの『ライヴ・アット・トータル・リフレッシュメント・センター』も同様に、ジャズのライヴの興奮をそのまま凝縮したものだ。彼らはそもそもライヴ活動に主軸を置くグループで、デビュー・アルバムもロンドンのカンバーウェルにあるザ・クリプトという会場でのライヴ盤(2017年7月録音)だった。メンバーはアイドリス・ラーマン(サックス、クラリネット)、レオン・ブリチャード(ベース)、エムレ・ラマザノグル(ドラムス)、サテン・シン(パーカッション)で、自主で『ライヴ・アット・ザ・クリプト』、『イル・コンシダード』(2017年)、『イル・コンシダード3』(2018年)をリリースしている(『イル・コンシダード』のみパーカッションはヤエル・カマラ・オノノが担当)。アイドリス・ラーマンはイギリス生まれだが、父親がベンガル(バングラデシュ)系で、スースセイヤーズ、ワイルドフラワー、ユナイティング・オブ・オポジッツでも演奏する。レオン・ブリチャードはアイドリスとトム・スキナーと共にワイルドフラワーを組むほか、イビオ・サウンド・マシーン、メルト・ユアセルフ・ダウン、タイ、ロンドン・アフロビート・コレクティヴなどのセッションに参加してきた。エムレ・ラマザノグルはトニー・ウィリアムスとレッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムの影響を受け、ノエル・ギャラガー、リリー・アレン、デヴィッド・ホルムズ、マーク・ロンソンなどさまざまなセッションに参加している。サテン・シンは在英インド系で、メルト・ユアセルフ・ダウン、リール・ピープル、バー・サンバなどでも演奏している。イル・コンシダードもビンカー・アンド・モーゼス同様にフリー・インプロヴィゼイションを志向しているが、インドやバングラデシュ系のメンバーがいる点、パーカッションも交えたより有機的なリズム構築がポイントで、楽曲によってインドや中近東から、エチオピアなどアフリカの民俗音楽のエッセンスを取り入れたジャズやジャズ・ファンクを演奏する。

 『ライヴ・アット・トータル・リフレッシュメント・センター』は2018年3月の録音で、これまでの3枚のアルバムでやってきた曲を選りすぐって演奏している。“デルージョン”を筆頭に、これまでのスタジオ録音に比べてテンションの高いパーカッシヴな演奏を披露する。後半にいくにつれてどんどんエキサイトしていき、“サンフラワー”や“アンリトゥン・ルール”で盛り上がりはピークに達する。後者でのベース、ドラム、パーカッションによる立体的なリズムの出し入れと、それに対するサックスのインタープレイの応酬は、これぞジャズの醍醐味と言えるだろう。一方で“ナダ・ブラーマ”における瞑想的でミステリアスな光景も、またイル・コンシダードの魅力のひとつでもある。

 2作品とも非商業的なジャズで、USの新世代ジャズと比較しても非常にアンダーグラウンドな部類に属するものだが、現在の南ロンドン・ジャズ・シーンの現場の風景、その盛り上がりを体感することができるアルバムと言えるだろう。また、ジャズはあくまでライヴ・ミュージックであり、スタジオ録音では生み出せないテンションやエネルギーがそこに存在していることを教えてくれる。

小川充

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