Home > Reviews > Album Reviews > Georgia Anne Muldrow- Overload
ジャズ・ギタリストの父を持ち、さらにマッドリブと同じくオックスナード出身で、デクレイムというラッパー名で90年代からアンダーグラウンド・シーンにて活躍してきたダドリー・パーキンスが実の夫という、実に濃厚なファミリー・ツリーを持つジョージア・アン・マルドロウ。自身も2006年リリースのアルバム『Olesi: Fragments Of An Earth』で〈ストーンズ・スロウ〉からデビューを果たし、以降、〈ユビキティ〉、〈メロー・ミュージック・グループ〉といった名門インディ・レーベルや自主レーベルから、ソロあるいはダドリー・パーキンス/デクレイムとの共作という形で、これまで実に10枚以上のアルバムをリリースしている。
自ら歌とラップ、さらにプロデュースも手がけ、ソウル、ファンク、ジャズ、ヒップホップがミックスされたオーガニックなスタイルはデビュー以降一貫しており、LAアンダーグラウンド・シーンの中で常に高い評価を得てきたジョージア。そんな彼女の実力は、エリカ・バドゥ、モス・デフ、プラチナム・パイド・パイパーズ、サーラーといった名だたるアーティストの作品にゲスト参加していることでも、証明されている。ただ一方で、マッドリブが全曲プロデュースを手がけた『Seeds』や、ジョージア・アン・マルドロウ&ダドリー・パーキンス名義でのアルバム『Lighthouse』(余談だが、この作品のアルバム・カヴァーは日本人アーティストの青山トキオ氏が担当)、アイルランドのプロデューサー、クリス・キーズがプロデュースを手がけた前作『A Thoughtiverse Unmarred』など、一部で話題を呼んだ作品はいくつかあるものの、確固たる代表作がこれまでなかったというのも事実である。そんな彼女にとって、〈ブレインフィーダー〉移籍第一弾となるこの『Overload』は、ようやく代表作と呼べることになるであろう作品になるに違いない。
エグゼクティヴ・プロデューサーとしてフライング・ロータスとダドリー・パーキンスに加えて、アロー・ブラックの名前がクレジットされていることは少々意外でもあるが、それだけの期待が本作およびジョージア自身に込められているということだろう。そして、おそらく彼らがエグゼクティヴ・プロデューサーを務めたことで、ジョージア自身の他に、共にアンダーグラウンドからメジャーまで幅広く手がけているDJカリルやマイク&キーズ、さらにオランダからムードというプロデューサーが起用されるなど、音楽面での広がりが試みられている。とはいえ、本作においても彼女の軸はこれまで同様に、一切ブレていない。例えば、マイク&キーズがトラックを手がけたタイトル曲“Overload”は本作のリード曲でもあるが、フューチャーソウルにも通じる華やかさや透明感を伴いながら、力強い存在感を放つヴォーカルが曲全体を支配し、見事なグルーヴが描き出されている。本作にはダドリー・パーキンスを除いて、際立ったゲスト・アーティストが参加しているわけでもなければ、派手なダンス・チューンが仕込まれているわけでもない。しかし、彼女自身のデビュー作から変わらない圧倒的なヴォーカル力が柱となって、ときおりサラッと挟み込まれる、いい意味での“今っぽさ”が絶妙なスパイスとなって、アルバム全体をより洗練させたものに仕上げている。
アーティスト同士の人間関係が非常にタイトなLAのシーンの中で、ジョージアが〈ブレインフィーダー〉と繋がるのはごく自然なことではあるが、LAビート・シーンを牽引する〈ブレインフィーダー〉にとって、彼女のソウルフルなサウンドは多少異色にも感じる人も少なくないだろう。今回の成功をきっかけに、〈ブレインフィーダー〉が今後、さらに様々なタイプのアーティストを吸収していくことになれば、LAの音楽シーンがよりエキサイティングなものになっていくに違いない。
大前至