「深海居住人(Deep Sea Dweller)」として、1992年にドレクシアは初めて世界にその存在を知らしめた。翌年には「あぶくのメトロポリス」(93)、そして「分子によるエンハンスメント(強化)」(94)、「未知なる水域」(94)、「水のなかの侵入」(95)、「帰路への旅」(95)、「ドレクシアの帰還」(96)、「探索」(97)……すべて12インチ・シングルだが、それの音楽においては、水歩行人、ロードッサ、波跳ね人、ダートホウヴェン魚人、ブロウフィン博士……といったキャラクターが登場する。16世紀の奴隷船において、海に落とされた病人たちが水中生物として変異し、生き延び、繁栄し、そこにユートピアを築いていたというのがドレクシアがレコードと音楽によって繰り広げた物語である。
デトロイトのゲットーの地下室で変異したクラフトワーク直系のエレクトロによってファンタジーは語られ、主要な作者であるジェイムス・スティントンがこの世から消えてからはなおのこと、生前よりもいっそう広く、そしてむしろリアルタイムで知らなかった世代によって語り継がれている。ドレクシアほど、後からそしてまた後からと評価が高まっていったアーティストは珍しい。
長年にわたってデトロイト・テクノのヴィジュアル面をになってきたアブドゥール・ハック(最近、アブカディム・ハックと改名)が、5年の歳月をかけて描き上げたのが、このたびベルリンの〈Tresor〉から刊行されたグラフィック・ノベル版『The Book of Drexciya Vol.』だ。編集部小林がなけなしの大枚をはたいて〈Tresor〉から直接購入したこの本は、いまなら多額の送料不要でディスクユニオンで購入できる。メデタシである。
そんなわけで、日本のファンにはすっかりおなじみのハックの声をお届けしましょう。通訳を手伝ってくれたのは、日本のTVゲームやジャズ喫茶のドキュメンタリー映像作品を制作しているニック・ドワイヤー。14歳のときに聴いたジェフ・ミルズのミックスCDがきっかけてエレクトロニック・ミュージックを好きになった彼にとっても、ハックはヒーローです。
ドレクシアの深い部分をもっと表現したいという気持ちが強かった。ジェイムス・スティントンは他にもプロジェクトがあったけど、僕と彼とが一緒にやったほうがより彼の世界を描けるんじゃないかと思った。
■ハック、グッモーニン(笑)。
ハック:ヘイ! グッドイヴィニング(笑)!
■いまそっちは何時?
ハック:朝の6時。
■早いね。
ハック:オールウェイズ!
■今日、通訳を手伝ってくれる友人のニック・ドワイヤーを紹介するよ。
ニック:お会いできて嬉しいです。いま東京に住んでいるけど、生まれはニュージーランドです。※この取材の1週間後にはビザの関係で帰国。
ハック:クール。
ニック:最後に東京に来たのはいつ?
ハック:2017年だね。
■もう何回も来ているよね。ハックは日本に多くの友だちがいるから。
ハック:ハッハハハ、イエス。

■じゃあ、質問しますね。このプロジェクトはいつ、どのように発展したんですか?
ハック:5~6年前に、キャラクター……まずは水中のキャラクターを使ってストーリーを考えはじめたんだよ。ドレクシアの王様というのが話の原点でね。
■じゃあ、これはあなたのオリジナル作品とみていいですよね?
ハック:イエス。ドレクシアのコンセプトを元にした僕のオリジナルだよ。
■これはシリーズになるんですよね?
ハック:ハイ。
■では、もうすでにこの後の脚本もあるんだ?
ハック:いま2作目のシナリオを思案中。
■ドレクシアはミステリアスで、ファンはそれぞれが自分のドレクシアのイメージを持っているでしょ? だからドレクシアの世界を具象化するのってリスキーでもあるわけだけど、そこはどう思う?
ハック:いや、そこまでリスキーだとは思わなかったな。むしろ、ドレクシアの深い部分をもっと表現したいという気持ちが強かった。ジェイムス・スティントンは他にもプロジェクトがあったけど、僕と彼とが一緒にやったほうがより彼の世界を描けるんじゃないかと思った。
■たくさんのキャラクターがいるけど、ハックのお気に入りは?
ハック:ドクター・ブローフィン(Dr. Blowfin/アルバム『The Quest』に登場)だね。
ニック:それはなんで?
ハック:知的で、ドレクシア文明を作ったひとりでもある。話を作っているうちにどんどん好きになったキャラクターだね。

ジェイムス・スティントンはとても頭が切れる人で、でも笑顔もステキで、礼儀正しくていい人だった。僕は彼の音楽が大好きで、天才だと思っていたよ。よくサイエンス・フィクションや自分のコンセプトについて話をしていたよ。
ハック:ところで、いま(ZOOM画面に)新しい訪問者がいるけど誰?
■編集部のコバヤシ。彼が〈TRESOR〉から直接本を買ったんだよ。
ハック:Arigatogozaimashita!
■ニックは憶えてる? かつて君を取材したミスター・コバヤシ。
ニック:おー、コバヤシさん!
小林:イエス。
ニック:ハウ・アー・ユー!?
小林:アイム・ファイン。
■じゃ、次の質問。ジェイムス・スティントンと初めて会ったのはいつ?
ハック:90年代初頭。いちばん最初のサブマージのオフィスで会った。あの建物はいまは駐車場になっているけど。そのときはあまり話さなかったね。挨拶したぐらいだった。
■彼はどんな人だったの?
ハック:とても頭が切れる人で、でも笑顔もステキで、礼儀正しくていい人だった。僕は彼の音楽が大好きで、天才だと思っていたよ。よくサイエンス・フィクションや自分のコンセプトについて話をしていたよ。 ニック:どういうSF?
ハック:(ハックがアートワークを手掛けた)『Neptune's Lair』のときは『スター・ウォーズ』の話をしたのを憶えているよ。ちょうどシリーズが再スタートして『ファントム・メナス』が公開されたタイミングだったんだよ。あとは『スタートレック』とか。
■ハック、その昔のサブマージの建物の駐車場の壁に、大きなタギングでドレクシアが描いた「ファック・メジャー・カンパニー」っていう言葉をよく憶えているよ。
ハック:おー、そうだったね。
■彼にはすごく反抗心があったよね。
ハック:イエス。
■『Neptune's Lair』のとき、アートワークについて彼となんか話しましたか?
ハック:あのアートワークを描く前に彼が僕に言ったのは、フューチャリスティックな乗り物が欲しいってことだったね。それと戦士のキャラクターも欲しいって言われた。あとは、彼らが住む場所、バブル・メトロポリスがどういうところか、“Aqua Worm Hole”(「Bubble Metropolis」収録)はどうするかとか、細かい話もしたよ。
■ハックが描いたイカが好きなんだけど、あれはどこから来たの?
ハック:あれが(ドレクシアの)乗り物だよ。あの頃はよくディスカバリー・チャンネルを見ていて深海の番組があったんだけど、そこで泳いでいるイカを見ながら「これだ」と思ったね。

小林:佐藤大さんとはどういうやり取りで進めていったんですか?
ハック:とにかくストーリーを作るのに手伝ってもらった。僕が絵を描いて、彼が言葉を載せてくれて。基本的にはEメールのやりとりで進めていったね。
ニック:いつからの知り合い?
ハック:2000年代初頭、かれこれ15年以上は経つね。
■ハックが考えるドレクシアとは?
ハック:音楽があり、コンセプトがある。そのコンセプトにはアフリカから連れ出されていった人たちが、困難を乗り越えて、新たに文明を作るという物語がある。そのためによりよい自分に変えていくっていうことが僕にとってのドレクシアだよ。
小林:あなたの描いたドレクシアの物語を見ていると、絵から古代を感じるし、過去と未来が両方混ざっていると思ったんですが、そこは意識したんですか。
ハック:おっしゃる通り。古代と未来を繋げるのはコンセプトになっている。武器もそうだし、いろんなものが古代や神話を参照しているんだよ。
ニック:日本のアニメは好き?
ハック:もちろん。
ニック:とくに好きなのは?
ハック:新しい『攻殻機動隊』のシリーズ。
ニック:今回のプロジェクトでなにがいちばん楽しかったですか?
ハック:完成させたことだね。ハッハハハ。いや、本当に時間がかかったし、何人も関わっているから、完成させるのにはけっこう努力が必要だったんだよ。
■じゃあ、最後の質問です。あなたはなぜアイアン・メイデンが好きなんですか(笑)?
ハック:ギャッハハハ! 高校時代、僕はすごいオタクであまり音楽は聴いてなかったんだよ。ある日友だちがカセットテープをくれたんだけど、全曲ヘヴィーメタルだった。で、そのなかでいちばん気に入ったのがアイアン・メイデンだったんだ。いまでも大ファンです(笑)!
(7月8日、zoomにて取材)










