音楽がなしうる最良なことはなんでしょう? という質問をぼくはミュージシャン相手によくする。自分の意識を変える、気づきに契機になる……いろいろな人がいろいろな意見を述べる。どれも正しいと思うけれど、いまぼく自身がその質問に答えるなら、まずそれは酔えるからと言うだろう。生産的ではないし、それでは変革など起こらない。だが、ぼくが音楽を好きになったのは、陶酔できるからだった。学校や家のこともすべて忘れることができる。パンク・ロックも何かをしでかそうと、政治的な関心から聴いたわけではない。最初のうちは、ハマっていたかっただけ。音楽は最高のシェルターである。
ホープ・サンドヴァルはそういうシンガーだ。彼女が歌えば景色は変わる。部屋は違う世界になる。すべてを忘れ、音のなかに沈むことができる。サンドヴァルは90年代にマジー・スターとして過ごした後、ザ・ウォーム・インヴェンションズの力を借りて、2001年に『Bavarian Fruit Bread』という名盤を発表している。ぼくはこのアルバムの素晴らしさをいつでも簡単に説明できる。これほど黄昏が似合う音楽はないと。知らない人は“On The Low”という曲を聴いてくれればいい。
それから彼女は2009年にもアルバムを出しているだけれど、残念なことに前作ほど印象的なものではなかった。彼女の気体めいた声は変わらずも、決定的な旋律に乏しく、黄昏どきには『Bavarian Fruit Bread』をふたたび訪ねるしかなかった。
なので、7年ぶりの3枚目『Until The Hunter』にも疑念がなかったわけではない。しかしCD購入にはなんの迷いはなかった。ホープ・サンドヴァルの新作なのだから。
話は変わるが、サンドヴァルは、ここ数年、地味に作品を出している。たとえばマジー・スターとしてのシングルは2014年に出したり、2016年にはマッシヴ・アタックの新曲にもフィーチャーされていた。マッシヴ・アタックはこれで2回目の起用。彼女とマッシヴ・アタックが組むとはそれはもう黄昏どころではない。インクのように黒い真夜中になる。生きていれば、そのぐらいのほうが相応しい夜もある。
結果からいえば『Bavarian Fruit Bread』にはおよばないものの、『Until The Hunter』には前作よりも佳曲が揃っている。良いアルバムだし、もし君がまだ彼女の音楽を知らないという、じつにもったいない人生を歩んでいるなら、最初の1枚として聴くのもアリだ。この、歌とギターのアルバムを──
2曲目の“ The Peasant”におけるアコースティック・ギターとスライドギターの序奏を聴いたとき、たぶん、ほとんどのファンは嬉しかったはずだ。特筆すべき曲は、ほかに4曲目の“Let Me Get There”。カート・ヴァイルとのデュエット曲で、ふたりがハモるメロディはアルバム中もっとも滑らかで、キャッチーだと言える。それはひとりでとことん悦にいる類の光沢だ。
アルバムで最高の曲は、“The Hiking Song”。間違いない。アコースティック・ギターのアルペジオは完璧なファンタジーを用意して、サンドヴァルの美しい歌声を迎え入れる。さあ丘に登って──と彼女は歌っている。何もかも忘れて丘に登ろうじゃないか。
「KINGã€ã¨ä¸€è‡´ã™ã‚‹ã‚‚ã®
パラダイス銀河3000
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BILY PAUL - Let's Make a Baby - Philadelphia Int'l もうタイトルからキテる!男と女、恥ずかしがらずに全てを解放、高鳴る鼓動、一緒に踊れば最高だね! https://www.youtube.com/watch?v=_CLbFtGn5Fk |
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MICHAEL JACKSON - Rock With You - Epic やっぱマイケルに間違いなし!終わらないグルーヴ。朝まであの娘を独り占め!ポゥッ! https://www.youtube.com/watch?v=5X-Mrc2l1d0 |
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DELEGATION - Oh Honey - State Records 気分は夢の中。大ネタとか関係無しにこの浮遊感はみんな好きだと思う。この曲をサンプリングしたBeenie ManのMemoriesのリミックスもかけたりします https://www.youtube.com/watch?v=BbMzoSVKp1Q |
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GEORGE DUKE - Just For You - Epic もう君しか見えない!揺れて、揺れて、揺れて。甘甘感全開120% https://www.youtube.com/watch?v=1CCErnrLK1A |
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ART WILSON - Unbelievable - Alexander Street デート中に街中からふと流れる音に反応しちゃう2人。今夜は何か起こるかも https://www.youtube.com/watch?v=Yl7m3BdZ9kQ |
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THE MANHATTANS - Shining Star - Columbia 止められない自分の気持ち全てを捧げよう!いつだって彼女はシャイニングスター。4人のダンスもツボです https://www.youtube.com/watch?v=C_VpjSv_4QM |
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KWICK - Let This Moment Be Forever - EMI 歌にコーラス、演奏がバッチリはまっててずっと聴いていたい曲。こういう80年代感あるソウル大好きです! https://www.youtube.com/watch?v=cRFCjzuth1A |
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EXECUTIVE SUITE - Your Love Is Paradice - Babylon Recording 出会った瞬間から全てが始まった!そんな気分にさせられる1曲です。裏面はインストの別曲なんだけどこれも使える! https://www.youtube.com/watch?v=zCWu_d3MyEo |
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CONTINENTAL FOUR - Loving You - Master Five やっぱファルセットボイスがソウルには欠かせない!メロメロ。手前味噌ですが自分の最新作"SUGAR M70"にも収録されてます https://www.youtube.com/watch?v=figp_AuH_ME |
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NATALIE COLE - Heaven Is With You - Capital 邦題"幸せの夜"から想像できるような最高な気分にさせてくれるナタリーはNat King Coleの娘。昇天確実 https://www.youtube.com/watch?v=aVaXdmN8EEU |
気づけば10回目の投稿、元気しか取り柄がないウホホ、ほぼゴリラのOGです。ウホッ!
今回のチャートは"パラダイス銀河3000"と題し大好きなソウルミュージック特集です。
有名、無名関係なしにこの時代の黒人音楽は素晴らしいものばかりで、レコードを見つけ出した時いつもドキドキが止まりません。
そんな俺が選んだ冬らしいソウル10曲をみんなと共有できたら嬉しいです。
そして早いもので今年も残りあと僅か。
今年は各地多くのパーティーに参加できたことや、夏には久々のMix TAPE!!!を出したりと非常に充実した1年でした。
まあ今年1年を振り返ることよりも前しか見てない俺が何を言いたいかと言うと、、、
12/5にBrand New Mix CD"SUGAR M70"をリリースしました!はい!宣伝です!
今回は初の、レゲエのミックスではなくここで挙げたような至極のソウルナンバーを集めました。
CDは全て手作りで、俺が出演する会場と自分のレーベルBad Man Wagonのweb shopのみの限定販売になっているので気になった人は是非よろしくお願いします。
最後に、今年出会えた最高の人たち、一緒にDJしてワッショイした人、パーティーに来て乾杯した人、色んなアドバイスをくれた人、本当に多くの人に支えられ駆け抜けることができた2016年。
本当に感謝しかありません。いつもありがとう!そして2017年は更にぶっ飛ばしていっちゃうんでよろしく!俺は止まらない!踊り続けよう!
それではみなさん良いお年を~
12/16 吉祥寺cheeky "FORMATION"
12/18 表参道wall&wall "TO BE CONTINUED"
12/19 六本木varit "東京ハウスパーティー"
12/20 dommune "MASTERED HISSNOISE broad DJ"
12/22 渋谷7th floor "86BABIES"
12/30 吉祥寺cheeky "弁天DANCE"
1/6 三軒茶屋orbit
1/11 新宿open "DISCO SHOOTER"
1/20 吉祥寺cheeky "FORMATION"
BMW dealer
https://badmanwagon.com/
12月16日、KOHHの新作音源がタイトーの携帯アプリ「GROOVE COASTER」内で無料リリースされた。オリジナル・ヴァージョンとリミックス・ヴァージョン2曲が同時リリースされ、リミックス・ヴァージョンの「KOHH - 働かずに食う(IA Ver.)」をゲーム内でクリアするとオリジナル・ヴァージョンが現れ、アプリ内で聴くことができるといった仕組みになっている。

フランク・オーシャンや宇多田ヒカルのアルバムへの参加後の動きに注目が集まるKOHHだが、次の共演者としてボーカロイドのIAを起用するという動きは誰もが予想しなかったことだろう。
とはいえ、お互いに世界各国でツアーを行うなど、日本国内にとどまらず世界的な活躍をしている二者だけに、このコラボレーションは案外、納得できるのものなのかもしれない。一聴すればその親和性は明らかだ。
リミックスヴァージョンの楽曲プロデュースは、KOHHやIAの数々の楽曲を手がけるTeddyloid氏が担当し、同曲はアーケード版のGROOVE COASTERにも2017年1月6日(金)より追加予定とのこと。
タイトー「GROOVE COASTER」ダウンロードリンク
https://groovecoaster.com/apps/
関連リンク
KOHH オフィシャルサイト
https://やばいっす.com
IA オフィシャルサイト
https://1stplace.co.jp/ia/
IA オフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/user/IAPROJECT
TeddyLoid オフィシャルサイト
https://www.teddyloid.com/

待つことのない時代は幸せなのだろうか。アマゾンも翌日届くし、情報にいたっては瞬時に広まり、その多くは、ほどなくして忘却される。webメディアをやっていながら言うのもナンだが、この速度には正直疲れる。歳のせいだろうか、毎日どころか毎時間、毎分、我先にとばかりに情報がアップされるさまはP.K.ディック的な悪い夢を見ているんじゃないかという気になる(歳を取るとP.K.ディック的悪夢にさいなまれ、朝起きると自分が虫けらのように感じるというカフカ的な悪夢をも実感する。嫌なモノだ)
戻そう。たとえそれが悪夢だとしても、時代はつねに新しい言葉とメディアを欲する。『Rhetorica#03』は、インターネット普及とともに育った世代(トーフビーツなんかと同じ世代)が作る紙メディアで、米澤慎太朗くんによればゼロ年代批評の影響のもと2012年に創刊、本書はその3号目である。音楽誌ではなく、ジンでもなく、デザインや印刷に注力した立派な衣装の紙メディアだが、ISBNコードは偽物で、バーコードはダミー、書店の流通の紙メディアのパロディとも解釈できるだろう。
なんにせよコンセプチュアルな紙メディアで、その特集タイトルは「FICTION AS NON-FICTION」。世界中のニュースが毎分更新され、ドラッグ逮捕とシリア内戦はフラットに並ぶ。情報は果てしなくリンクしつづけ、ともすれば真実が他人事(虚構)のように感じても不思議ではない今日のメディア環境に切り込むかのように、ここではその逆説的な用語=“ストリート”ないしは現場体験談がたびたび弄されている。全体の1/3以上を費やしている特集記事=スケプタ/UKグライムの論考、そしてマルチネのUSツアー/ロンドン・レポートがそれで、熱の入れ方、問題意識、“シーン”と呼びうるものについての言葉には当事者(アクチュアルなシーンの一部であるという感覚)ならではの迫力がある。
横山純氏との対話で案内するUKグライムの記事は熱くほとばしり、音楽性や歌詞のみならず彼らを取り巻く政治的情況ないしはそのねじくれた歴史にいたるまでが語られ、考察されている。と同時に、同じ誌面からは、そのルックス、音楽性、おそらくは階級もふくめ、UKグライムの対岸にあると思わしきロンドンのPCミュージックやKero Kero Bonitoといったele-kingが得意ではない人たちの現場(シーン)、アティチュードも伝達されると。欧米における「クールジャパン」なるエキゾチズムも重々わかったうえで、が、しかし、じつはその商用タームをはね除けている彼ら内面および批評精神が読めるのが嬉しい。海外コンプレックスを持つインディ・バンドにありがちな、オレら海外でもウケてます的なレポートとはまったく別モノ。
スケプタとtomadoが雑誌の2トップのように並列していることじたいが斬新で、同時代性ということもあるのだろうけれど、特集の大きなサブジェクトのひとつ、今日のもろもろの環境/状況(グローバリゼーションから音楽市場の冷え込みなど)において“インディペンデント”であることを強く意識している点では共通しており、その手段のひとつとしてネットがある。と、が、しかし、ネットは目的ではなく手段であるからこそ、彼らは現場をつくり、ツアーをし、言葉が醸成され、それを“より欲している読者に確実に伝えるために”紙メディアを刊行しているのだろうとぼくは受け取った。
『Rhetorica#03』がもうひとつ良いのは、自由に好き放題やっている編集にある。当たり前といえば当たり前だが、そんな雑誌(紙エレキングは除く)ってじつは……ないでしょ。コラムがとにかく脈絡なく雑多で、料理から美術、哲学、SF、散歩、旅行、小説……自分たちが興味あることを好きなように書いていて、いちいち誰かの視線を気にしない──。これ、基本ですよね。
ちなみにですが、コラムのひとつにアシッド・ハウス/セカンド・サマー・オブ・ラヴ回顧展のレポートがある。間違いなくあのムーヴメントは大衆音楽の分水嶺だった。スター不在、過去(サンプリング)を使い、いろんなところのいろんな連中が勝手に音源を発表し、いろんなところで勝手にパーティがはじまった時代──三田格は当時それを「自分たちの“側”に豊かさをもたらす」と書き表していたものだったが、実際の現場はただただよりぶっ飛びたいだけだったという(これもまた基本)、本書ではそれが“内輪”という言葉で表現されている。このニュアンスの違いは、別の文脈から紙エレキング年末号の座談会でも、「瞬時に人と繫がることが良いのか悪いのか」という、ちょっとした問題提起(というほどではないけれど、微妙な提起)になっている。うーむ、そういえば、95年〜96年のele-kingを見ると、近い将来パソコン通信で海外との交流がリアルタイムでできるようになるかも、すげーとか、URやベルリンのレーベルなどにもぼくたちは嬉々としながらFAXという通信テクノロジーでやり取りしていたのである、はははは、まさに隔世の感ですな。
それでこの原稿の冒頭を反復すれば、ネットで素速くやればいいものを、いま彼らがわざわざ紙メディア=伝達の遅いメディアに着手することにぼくは関心を寄せている。それは記念にアナログ盤を、物販としてカセットテープを、ということではない。書を出し、町に出よう。ぼくもがんばらねば。──とはいえ、もう飽き飽きするほど知っていることもある。悪夢を払拭するには、1985年にホアン・アトキンスが自らのレコードに吹き込んだように、「飛ぶ(fly)」のがいちばんなのだ。
最新号はpaypalで入手可。https://rhetorica.jp/rhetorica-03/
なんということだ。先日お伝えしたように、ブライアン・イーノは2017年1月1日に新作『Reflection』をリリースするのだけれど、その『Reflection』が「プレミアム・エディション」としてアプリでもリリースされることが発表された。
たしかに、どれほど一回性を追求して作品を制作しようとも、それがヴァイナルやCDという形で発表される限り、イーノの求めるジェネレイティヴ(=自動生成的)な音楽が真の姿を現すことはない。おそらくイーノは長きにわたり葛藤してきたのだろう。彼はこれまでもピーター・チルヴァースとともに『Bloom』や『Trope』といったアプリでジェネレイティヴな音楽のあり方を探究してきたが、ついに今回、アルバムそれ自体のアプリ化に踏み切ったわけである。
一体どんなアプリになっているのだろう? アルバムのリリースまでおよそ半月。首を長くして待っていようではないか。
巨匠ブライアン・イーノが贈る
アンビエント・シリーズ最新作『REFLECTION』
プレミアム・エディションとして
iOS、Apple TV対応アプリのリリースが決定

App images by Nick Robertson
『REFLECTION』は、長きに渡って取り組んできたシリーズの最新作である。あくまでもリリース作品という観点で言えば、その起源は1975年の『Discreet Music』にまで遡るだろう。――ブライアン・イーノ
ブライアン・イーノが、アンビエント・シリーズ最新作『REFLECTION』を、2017年1月1日(日)に高音質UHQCD仕様でリリースすることは既に発表されているが、今作のプレミアム・エディションとして、iOS、Apple TV対応アプリでもリリースされることが明らかになった。本アプリ版は、これまでにイーノが手がけた『Bloom』や『Trope』といった革新的アプリ同様、音楽家でありプログラマーのピーター・チルヴァースと共同開発されたもので、『77 Million Paintings』や『The Ship』といった代表作を生んだソフトウェア・プロジェクトのコンセプトを拡張させ、ジェネレイティヴ(=自動生成的)な音楽や画像を楽しめるアプリとなっている。
『REFLECTION』は、私にとって最新のアンビエント実験作で、これまでのところ最も精巧な作品となっている。私がアンビエント・ミュージックを手掛けることになった当初の意図は、エンドレスな(=無限の)音楽、すなわち、聴き手が望む限りずっとそこに流れている音楽を作ることであった。そしてその音楽が流れている間ずっと、常に異なる展開を生み出し続けることも求めていた。「流れる川のほとりに座っている時のように」だ。つまり、そこにあるのは同じ川だが、流れる水は常に変わり続けているということ。しかし録音作品は、アナログ盤であれカセットであれCDであれ、その長さが限られており、再生する度に毎回、全く同一の内容を聴くことになる。そのため私は従来、音楽を作り出すシステムを開発しても、その後30分もしくは1時間の音源を録音し、それをリリースしなければならないという制限を受けてきた。アルバム形式での『REFLECTION』は、アナログ盤もCDも、そのようなものとなっている。しかし『REFLECTION』の制作に用いた本アプリには、そういった制限がない。本アプリによって、『REFLECTION』という音楽作品の、エンドレスかつ無限に変化し続けるヴァージョ ンを生み出すことが出来るのである。
こういった種類の曲の制作は、3つの段階に分けられる。まず第1の段階が、音の素材及び旋法(モード)の選択、つまり一連の音程関係の選定である。これらは次の段階で、アルゴリズムのシステムによりパターン化され、探査が行われる。そのアルゴリズムのシステムは変動し、最初に私がそこに入力する要素を並べ替えながら、絶えず変容を続ける音楽の流れ(もしくは川)を生じさせる。第3の段階が、試聴だ。一旦システムを作動させると、実際、何週間にも及ぶ長い時間を費やして、私はその作用を確かめ、素材やアルゴリズムを実行する一連の規則を微調整する。それはガーデニングと実によく似ている。つまり、種を蒔き、その後、好みの庭に育つまで、世話をし続けるのだ。
- Brian Eno
コンポジション(作品)をソフトウェアに取り込むことにより、ある特別な機会を得ることができた。1日の時間帯によって、規則自体を変更することが可能になったのだ。午前中にはハーモ ニーがより明るく、それが午後にかけて徐々に変化し、夕刻までには本来のキーに到達。明け方には、新たに導入された条件によって音がまばらになり、全体の速度が落ちる。
- Peter Chilvers
ブライアン・イーノ最新作『REFLECTION』は、CD、アナログ、デジタル配信、iOS、Apple TV対応アプリのフォーマットで、2017年1月1日(日)世界同時でリリース。国内盤CDは、高音質UHQCD(Ultimate High Quality CD)仕様で、セルフライナーノーツと解説書が封入され、初回生産盤は特殊パッケージとなる。

Labels: Warp Records / Beat Records
artist: BRIAN ENO
title: Reflection
release date: 2017/01/01 SUN ON SALE
国内盤CD: ¥2,400+tax
BRC-538 初回生産特殊パッケージ
商品情報はこちら:https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Brian-Eno/BRC-538
ご予約はこちら:
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002121
amazon: https://amzn.asia/iWse0UP
tower records: https://tower.jp/item/4412246
hmv: https://www.hmv.co.jp/artist_Brian-Eno_000000000000144/item_Reflection_7456079
iTunes Store: https://apple.co/2f015Xf
去る11月18日におこなわれたバッドバッドノットグッド(以下、BBNG)の単独来日公演は、音楽性はまったく異なるけれど、先日のフローティング・ポインツの来日公演に次いで今年最も注目を集めたライヴだったのではないだろうか。BBNGという「ジャズ」・バンドが持つ最大の武器は、その飾り気のなさであり、あるいはその素朴さである。今回のかれらの公演は、そのことを証明するとても陽気なショウであった。

学生ノリ、と言えばいいのだろうか。とにかく煽る、煽る。アレックス・ソウィンスキーはドラムをタカタカと叩きながら、折に触れて言葉を発していた。彼は何度も「スクリーム!」とスクリームし、最初は戸惑っていたオーディエンスも徐々にその意図を察して、「オー!」とレスポンスを返しはじめる。その後も彼は聴衆に手拍子を求めたりジャンプを求めたり、最後にはステージ上から会場のみんなと記念撮影をおこなったりと、ライヴはさながら学芸会の様相を呈していた。いや、たしかに事前に、一緒に行ったガースーこと菅澤捷太郎から「BBNGはライヴでけっこう煽るんですよ」という話は聞いていた。しかし、これほどとは……演奏が崩れる瞬間も何度かあったものの、バンドはそんなことなど一向に気にする気配もなく、ノリだけでずんずんずんずんショウを進めていく。

一緒に行ったガースーもレヴューで書いていたように、BBNGの最新アルバム『IV』ではドラムのサウンドにきめ細やかな配慮が施されていた。しかし、実際に会場で耳にしたアレックス・ソウィンスキーのドラムは予想以上にロック系のそれで、シンプルな8ビートが刻まれることも多く、ときおりドラムンベース的なリズムが挿入される場面もありはしたものの、少なくともジャズ系のドラムではまったくなかったように思う。そのドラムが彼自身による煽りのMCと相乗効果を生んで、より一層今回のライヴの雰囲気を学芸会的なものに仕立て上げていたのではないだろうか。

と、そんな風に僕は感じていたのだけれど、一緒に行ったガースーの感想は違った。「シンバルの扱いはたしかにロックだったけれど、基本的にはジャズ寄りの演奏だった」とガースーは言う。「たしかに盛り上げっぱなしでダイナミクスに欠けるライヴだったけど、ドラムの音色というか、その響かせ方は良かったと思う」。なるほど。「でも、リズムはやっぱり単調だったよね?」と問うてみると、「バスドラがリズム・キープを放棄してシンバルが代わりにそれをやる、という昨今のソリッドなドラム・スタイルではなく、きちんとバスドラが根幹にあるふくよかな演奏で、その上でタムを回して遊んでいたんじゃないか」との答えが返ってきた。だからぱっと聴いた感じは単調に聴こえてしまうんだそうで、でもそれはおそらくアレックス・ソウィンスキーが最近のドラマーではなく70年代のジャズ・ドラマーを手本にしているからなのではないか、と一緒に行ったガースーは分析していた。さすが、現役のドラマーである。

ともあれ、ドラマーではない僕は終始アレックス・ソウィンスキーの叩くドラムと煽りに圧倒されていたわけだが、リーランド・ウッティーによるサックスはなかなかどうして、目を見張るものがあった。ライヴ序盤はあまりにも音量が埋もれていたので心配していたのだけれど、曲目が進むにつれ他のパートと遜色のない音量が出るようになり、ソロ・パートではとても興味深いリズムが吹き鳴らされていた。その豊かなサックスのリズムを「単調」なドラムが相殺してしまっているように聴こえる瞬間もあったけれど、そういう高音と低音の間のバトル=特別な揺らぎを発生させることこそがBBNGの狙いだったのだとしたら、今回のライヴは大成功だったと言えるだろう。『IV』からバンドに加入したリーランド・ウッティーこそがBBNGの未来を握っているのかもしれない。

![]() ZORN - 生活日和 昭和レコード |
10月末に発売されたZORNの6枚目となるアルバム『生活日和』(昭和レコード)は、2016年にリリースされた日本のヒップホップ・アルバムのなかでも、かなりの名盤だと思っている。元々評価されているラッパーだろうし、筆者がここであえてそう書くまでもないかもしれない。いざZORNをインタヴューできることになり、一聴してみると、印象に残ったのは何よりその地味さだ。ヒップホップは目立ってなんぼみたいな側面が強いし(ショウビズでもあるわけだから当然だが)、グリルやブリンブリンなどに見られる個性もひとつの楽しみ方だったりする。
だが、ZORNの新しいアルバムはそういった世界から遥か遠くで鳴らされているものだ。アー写には子供たちが渡る横断歩道で、旗を持って立っているZORNが写っている(そう作ったわけではなく、本当にZORNの日常を写したらしい)。地味だからこそ印象に強く残った。
こう書くと、これだけ多様化した日本のラップのなかで、自分の世界観をそれに見合うやり方で表現しているラッパーは他にもたくさんいると思われそうだが、そういう次元の話ではない。ZORNは地味な表現のなかで、本当に大切な言葉を丁寧に選んで歌っている。それが聴いていてよくわかる。むしろ、これだけ生々しいトピックを選びながら、派手な激情に流されていないことがZORNの特異な点だ。日々インスタにアップされるどこかのお高い店の美味そうなメシより、長く食べ続けたいのは、身近な人間が作る毎日当たり前のように食べているメシの方だろう。ZORNが作ったのは、そういうアルバムだった。
なお、2016年の締めくくりに12月18日渋谷のWWWXにて、ZORNの『生活日和』リリース記念のワンマンライヴが開催される(すでにSOLD OUTしたとのこと)。充実のZORNに話を聞いた。
現場の仕事も面倒くさいし、マジで大嫌いだった。いまは全然、楽しいし、ずっとやりたいなぁくらいに思っています。このまま音楽をやっていって、アルバムもたくさん売れるようなアーティストになりたいけど、どっちでもいいやみたいな。そうならなくても別にもう全部持っている。
■かなりパーソナルな内容ですが、普段はどんな生活を送っているんですか?
ZORN:月曜から土曜まで働いて。現場で仕事して、毎日帰ってきたら、家族で夕飯食べて風呂入って寝る。子供は日常に常にいるんで、日常となればそこになるわけです。で、週末ライヴがあるときは、土曜の夜なり日曜のデイなり全国各地に行くって感じです。リリックを書くのは仕事中か雨の日。雨だと僕は仕事が休みになるので、雨の日に書いています。仕事中には頭で書いてるっていうか。ずっとその……常にこう……1曲ずつ作るんですけど、そのビートがずっと朝起きてから寝るまで頭のなかでかかってるんで。仕事中に作業しながら、ひたすらライムを考える。
■そうして作業中に浮かんだライムって覚えていられるものなんですか?
ZORN:覚えてますね。あとはiPhoneにメモしたりとか。この作り方はずっとそうかもしれないです。仕事中に頭で書くっていうか。トラックを聴いて、これだとなったら、そのトラックがずっと鳴っている。僕はドラムとかはほとんど聞いてなくて、上音のメロディだけ聞いて、そのBPMに合わせて頭で書いている。
■このアルバムにコンセプトはありますか?
ZORN:やっぱりいちばんは「等身大」。それがいちばん大きなテーマで。とりあえずもういまの日常をひたすら切り取っていこうみたいな感じだったと思うんですけど、派手さとかは全然いらなくて。サウンドとか雰囲気とかを全部込みで、等身大の日常を歌うっていうコンセプト。普遍的なものにしたかったんですね。その普遍性みたいなものも結構自分のなかでテーマでした。別に僕は音楽も服も流行っているものは全然好きなので、そこに否定的なものは何もないんですけど、自分でやるなら、ずっと残るような変わらないもの、全然色褪せないみたいなものが作りたかった。
■すごい地味な内容ですよね。
ZORN:言っていることも限りなくもう小さい世界のことなんで。
■そうして、自分の身の回りの小さな世界を切り取ることにおいて、ならではの苦労があったりしますか?
ZORN:リリック書くのは楽しいんですけど、でも、それはやっぱりありますよね。昭和レコードは、「いつまで」みたいにレーベルに縛られるという感じはないんですけど、自分のなかで曲を作りはじめて「来週録ろう」と思ったら、それまでに仕上げようと思って進んでいく。それで時間が近づいていくにつれて、書けてなかったりするとだいぶ苦しみます。
■今回のアルバムで特にどの曲が、そういった曲なのですか?
ZORN:どの曲も楽しみつつ苦しみつつだったと思うので、総じてって感じですね。等身大だからといって、それでもやっぱり言葉は最大限のこだわりを持って選んでいくので、ただ等身大だからパッという感じではないというか。そう言いたいんですけど、実質そうはいかなかったみたいな感じですかね。時間をかけたり、苦しんだり、そういうものじゃないと、自分で自分の曲に愛着をあまり持てないということもあります。ライヴもこだわっていきたいと思っていますし、同じ曲でも1曲をずっとやっていきたい。もちろんヒップホップって、パッとスタジオに行って、その場でビートを聞いて、その場でパッとリリックを書いて、その場で録るみたいなカッコ良さもあると思うんですけど、僕の場合は、それとは正反対のスタイルです。それもできますけどね。こうやって時間をかけて丁寧にやった方が、いいものだと自分も思えるというか。
■「等身大」とか「ありのままの自分」ということを、自分の表現についていう人は少なくない印象があります。ただそういうものに触れた時、必ずしも本当にそうだと思えるわけではありません。AをA’やA’’に歌って等身大と言っている風に感じるというか。もちろん、それが作品のクオリティのすべてを決定すると僕は思いませんが、それでもZORNさんの、とくに今回の作品に関しては、本当に等身大であることが素晴らしいと思いました。Aという現実に対して、Aという言葉、表現で対峙している。
ZORN:本当に細かい歌だと思うんですよね、一個一個が。僕はアルバムを6枚出していて、まだ「現場で働いてます」と言っているわけなんで。それを『My Life』という曲で見せて、そこからですよね。この曲でほぼほぼ見せたので、逆にそこを強みにするというか。みんなもたぶん聴くとき、今回のアルバムに関してもそうですけど、容易に僕の生活が想像できると思うんです。だからすごい楽ですよ、マインド的に。もう、ただ自分でいればいいだけというか。
■すごいことを言いますね。「ただ自分でいればいいだけ」とは、なかなか言えないですよ。
ZORN:本当に勇気がいるのは最初だけですね。昔は現場の仕事も面倒くさいし、マジで大嫌いだった。いまは全然、楽しいし、ずっとやりたいなぁくらいに思っています。このまま音楽をやっていって、アルバムもたくさん売れるようなアーティストになりたいけど、どっちでもいいやみたいな。そうならなくても別にもう全部持っている。それが自分の強みだと思っています。音楽の……ラップの活動と自分の家族と仕事と、それを全部一緒にしちゃうっていうか。いちいち分けるのがもう面倒くさくて、全部一緒でいいやみたいな。全部見せようという感じです。
■うーん。このアルバムが重要な作品だと思った理由が、少しわかった気がしました。
ZORN:僕のなかでもめっちゃ重要です。久しぶりに真面目に作品を作ろうと思って、作品として臨みました。(前作の)『The Downtown』はラップしようという感じのアルバムで、そこが微妙に異なるというか。今回は残るものを作りたいなという感じだった。「Letter」とかもすごい気に入っています。
■僕も「Letter」がいちばん好きです。この曲の話が出たので伺いたいのですが、その……この歌で歌われていることというのは、どういうことなんですか……
ZORN:どういうことというのは……?
■はい……
ZORN:自分の子供が嫁の連れ子ということですね。
■はい。曲を聴けばそのことが歌われているのはわかるのですが……。
ZORN:たぶん、こんなことを歌っているやついないし。(自分の子供は)連れ子でという……そこまで踏み込まないと届けられないと思います。自分がまずこう裸になって、ガッて踏み込んでいかないとって感じですね。
■だからこそ、広く届く作品になっているのだと思います。いいアルバムをありがとうございました。

『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』や『70年代シティ・ポップ・クロニクル』が好評の音楽評論家・萩原健太が、新著『アメリカン・グラフィティから始まった』を12月7日に上梓しました。ジョージ・ルーカスが『スターウォーズ』を撮る前に手がけた最初の商業映画『アメリカン・グラフィティ』を読み解きながら、アメリカのポップ・ミュージックの原点を紐解いていく、ほろ苦くも心温まるエッセイです。
その『アメリカン・グラフィティから始まった』の刊行を記念して、萩原健太と長門芳郎によるトークショウが開催されます。当日はサイン会も実施されるとのことで、これは見逃せないイベントです。きたる12月22日は、忘年会へ行く前にタワレコ渋谷店に立ち寄りましょう。
萩原健太12/7新刊『アメリカン・グラフィティから始まった』発売記念、
パイド・パイパー・ハウスpresents
萩原健太+長門芳郎トーク&サイン会決定!
これは見逃せないスペシャルイベント!!
萩原健太新刊『アメリカン・グラフィティから始まった』発売を記念してタワーレコード渋谷店5Fに期間限定OPEN中のパイド・パイパー・ハウスpresentsとして萩原健太と長門芳郎によるスペシャルなイベントが決定。これは見逃せないスペシャルな組み合わせのイベント。当日はサイン会も実施。

Pied Piper House Presents
萩原健太『アメリカン・グラフィティから始まった』書籍発売記念
萩原健太 + 長門芳郎 トークショー&サイン会
開催日時:
2016年12月22日(木) 19:30
場所:
タワーレコード渋谷店5F
PIED PIPER HOUSE in TOWER RECORDS SHIBUYA 前特設スペース
出演:
萩原健太
長門芳郎
内容:
トークショウ&萩原健太によるサイン会
参加方法:
観覧フリー。ご予約者優先で12月7日(水)発売 萩原健太『アメリカン・グラフィティから始まった』書籍をご購入いただいた方に先着で「サイン会参加券」を差し上げます。サイン会参加券をお持ちのお客様はトークショー終了後、サイン会にご参加いただけます。当日はサイン会参加券とあわせ、ご購入の書籍を忘れずにお持ちください。
サイン会参加券配布対象店舗:
タワーレコード渋谷店・新宿店・池袋店
サイン会参加券配布対象商品:
12月7日(水)発売
萩原健太著『アメリカン・グラフィティから始まった』
ISBN:978-4-907276-74-4
注意事項:
※対象商品のご予約はお電話とタワーレコード・ホームページ (https://tower.jp/) の店舗予約サービスでも承っております。
※【サイン会参加券】の配布は定員に達し次第終了いたします。終了後にご予約(ご購入)いただいてもお付けできませんのでご注意ください。
※トークショー終了後、サイン会を実施いたします。
※サイン会参加券1枚で1名様ご参加いただけます。
※当日は必ずサイン会参加券とサイン対象の新刊書籍をお持ちください。盗難・紛失等による再発行はいたしません。
※当日の混雑具合により入場規制をかけさせていただく場合がございます。
※イベント対象商品は不良品以外での返品をお受けいたしません。
※カメラ及び録音機器等によるイベント模様の撮影及び収録は固くお断りいたします。
※都合によりイベントの内容変更や中止がある場合がございます。あらかじめご了承ください。
※イベント当日は係員の指示に必ず従ってください。係員の指示に従っていただけない場合、イベントへのご参加をお断りすることがございます。

![]() KANDYTOWN KANDYTOWN ワーナー |
太平洋の両岸で社会的な動乱が続く2010年代なかば、日米はトラップの時代にあると言っていい。一方で現在の東京の地下では本当にさまざまな音が鳴っている。パーティ・オリエンテッドなトラップから本格的なギャングスタ・ラップ、けして懐古主義になることのない職人肌のブーン・バップ…。そんな中でも、KANDYTOWNのメジャー・デビュー・アルバム『KANDYTOWN』は、日本のヒップホップ生誕の地、東京のインナーシティに受け継がれる音楽文化のクールネスを結晶化したマスターピースと呼ぶに相応しい。もともと幼なじみでもある世田谷区喜多見を拠点とする総勢16名のこのクルーは、中心人物だったYUSHIを昨年2月に不慮の事故によって失いつつも、けしてその歩みを止めることはなかった。12月22日にはリキッド・ルームでのフリー・クリスマス・ライヴの開催も告知されている。
ハイプに盛り上がる周囲の喧噪をよそに、KANDYTOWNはあくまで寡黙でマイペースだ。彼らはテレビ番組をきっかけにしたラップ・ブームとも、いまやメイン・ストリームを担いつつあるトラップとも、一定の距離感をキープしている。5年前に震災の暗闇を経験し、いまは4年後のオリンピックにむけてバブリーにざわめく2016年の東京のストリート。マシン・ビートによるトラップの赤裸々なリアリティ・ラップが注目を集める中、KANDYTOWNは1990年代以来の日本のヒップホップの蓄積を正統に継承するサンプリング・サウンドにのせて、強烈なロマンティシズムを描いている。2000年代以降の日本語ラップのリアリズムがつねに時代を切り取ろうと腐心してきたとすれば、彼らに感じるのは、むしろシネマティックな想像力で時代を塗り替えようとする野心だ。考えようによっては、彼らはとても反時代的な存在でもある。
現在のラップ・ブームの火付け役となった〈フリースタイル・ダンジョン〉は、日本語ラップの「ダディ」であるZEEBRAをオーガナイザーに据え、いとうせいこうという先駆者をキャスティングすることで、黎明期から現在にいたるまでの日本のヒップホップの歴史をうまくパッケージしている。しかし、この10年の冬の時代にアンダーグラウンドなハスリング・ラップの台頭を経験し、震災後にはトラップの本格流入を経由した現在の日本のシーンは、より複雑で多層的だ。断片化と呼んでもいいかもしれない。今回のインタヴューでは、コレクティヴ名義での初オフィシャル・アルバムの制作プロセス、そしてほかでもない2016年にこのアルバムがリリースされた意味を探った。参加したのは、IO、YOUNG JUJU、KIKUMARU、GOTTZ、Ryohu、Neetz、そしてA&RとしてクレジットされたOKAMOTO’Sのオカモトレイジだ。
──アルバム『KANDYTOWN』について
本当にいままでどおりライヴが終わったあとに誰かの家に行って曲を書くみたいな、遊びの延長線上で作ったのがこれですね。(Neetz)
最初で最後かもしれないのでお聴き頂ければと思います。(Ryohu)
■まずはアルバムのリリースおめでとうございます。今年2月のYUSHIさんの一周忌にリリースされたIOさんのアルバムを皮切りに、それぞれのソロ・ワークも順調に出していって…ついにKANDYTOWNとしてオフィシャルなデビュー盤ということで。メジャーでのレコーディングにあたって、なにかこれまでとの違いはありましたか?
Neetz:いや、そんなことはまったくなかったですね。
■じゃあレコーディングの日程は順調に進んだ感じですか?
Neetz:わりとスムーズにいったとは思います。
■Illicit Tsuboiさんのところで合宿的なことをしたと耳にしたのですが。
IO:合宿というほどでもないと思います。
JUJU:でも2、3日連続でスタジオを空けておいてもらって、行けるメンバーがその間に行って、途中で家帰ったりするヤツもいればまた来るヤツもいるみたいな、そういう状態だったと思います。
■インディでリリースした『KOLD TAPE』や『BLAKK MOTEL』、『KRUISE』は基本的にNeetzさんの991スタジオですよね?
Neetz:そうですね。基本は991スタジオでやっていました。
■Illicit Tsuboiさんといえば名だたるプロデューサーですが、作業環境が変わったことでの新鮮味はありましたか? 具体的にどういったところが変わりましたか?
GOTTZ:やっぱり全然違いましたね。やっぱり機材が違いますし、Neetzのはベッドルームを開けてやっているスタジオなので宅録という感じなんですけど。全然違ったよね?
KIKUMARU:もう最初初めて声を出したときの録り音が違いましたね。
Ryohu:Tsuboiさんが一人ひとりRECしているときにもうそれぞれのバランスを調整して、EQとかコンプとか全部一人ひとり弄ったりしていて細かいところから違いましたね。
■新たなステージでどんなアルバムになるのかなと思っていたのですが、とくに構成がよく練られていると思いました。まずは派手なパーティ・チューンでスタートして、心地よい横ノリの曲で引っ張って、インタールードでブレイク・ダウンした後はメロウに、そして最後はまたドラマティックに盛り上げていく。こうした構成は最初から頭にあったんですか?
Neetz:最初はなくて、とりあえず曲をめっちゃ録っておこうというところから始まって、最終的にできたものを曲順に並べてああなったという感じですかね。でも最初はできた曲を録りまくろうという話で、カッコいい曲を録ろうという意識でしたね。
■自分で作った作品は完成後に聴くほうですか? 今回のアルバムを客観的に聴いてみて思うところがあれば。
Neetz:普段はあんまり聴かないですね。
GOTTZ:いまはまだ聴いている最中、という感じですね。
Neetz:作るときからあまり意識はしていないので、いまできたものがこれなんだなという感じですね。
■飄々としてますね。
Neetz:これからもそのスタンスは変わらないですね。だから意外とこのアルバムに熱意をこめてというわけでもなく、『BLAKK MOTEL』もそうだったし『Kruise』もそうだったし、本当にいままでどおりライヴが終わったあとに誰かの家に行って曲を書くみたいな、遊びの延長線上で作ったのがこれですね。
■事実上のリード・トラックの “R.T.N.”にはYUSHIさんの名前がクレジットされてます。IOさんのファースト・アルバムの一曲目の“Check My Leadge”でもYUSHIさんのラップがフィーチャーされてたし…すごく象徴的に感じました。
JUJU:あの曲はYUSHIがメインで作って、MIKIが軽く足したくらいだと思うんですけど。二人が留学中に作っていた曲ですね。
レイジ:でもほぼほぼYUSHIって感じがするよね。
JUJU:うん、音的にYUSHIだしね。4年前くらいにはあった曲で、多分覚えていないと思うけど当時IOくんとかが録っていましたね。でも当時からバンクロールでやろうとしていて楽しみだねと話していたんだけど、みんなそのビートのこと忘れていて、アルバムを作り始めようというときにMIKIが「このビートあるよ」と聴かせて、ワーッという感じになりましたね。
■ほかに序盤で印象的なのは、“Twentyfive”はI.N.Iの有名な曲と同じネタで、ただハットの打ち方が今っぽいですね。
Neetz:そうですね。ピート・ロックが使っているやつ。けっこう使われていたので、叩き方を新しくして新しい感じの音にしようかなと思ってああなりましたね。
JUJU:あれはNeetzがフックを作るのに困っていましたね。
Neetz:そうですね。フックがけっこういい感じで決まったというのが大きいし、みんなもラップをカッコよくカマしてくれましたね。
■Neetzさんはいつもどんな風にビート・メイクしてますか? キャンディのトラックは、ビートというよりは上ネタのメロウネスが強く印象に残るイメージなんですが。
Neetz:そうですね。まずは上ネタからですね。まず上ネタを探して、ループしたりチョップしたりして、だいたいそのあとにドラムを付け足してという感じですね。このアルバムではとくに、元の素材を活かす曲が多かったかもしれないですね。
■それは意識して?
Neetz:けっこう意識的かも。
■影響を受けたトラック・メイカーはいますか? このまえレイジくんから、一時期はみんなプリモのビートでしかラップしなかったといういい話を聞いて(笑)。
Neetz:うーん、俺はジャスト・ブレイズとかドクター・ドレーとかけっこう王道なところですね。
■どこかでDJ ダヒがフェイヴァリットだと目にしたのですが。
Neetz:DJ ダヒはそのときにちょうどハマっていたので(笑)。基本はさっき言ったような王道のヤツです。
■日米のいわゆる90’Sサウンドは聴いたりしますか? ニューヨークならプロエラとかビースト・コースト周辺だったり、日本だとたとえばIOさんのアルバムが出たとき、どこかのショップの限定の特典で“DIG 2 ME”のISSUGIさんリミックスがあったと思うのですが。
Neetz:プロ・エラは聴いているけど僕らはそんなに影響を受けたりしてないですね。ISSUGIさんのリミックスは聴いたことないな。
上の世代の人たちとは、俺らはあまり交流はないですね。IOくんはブート・ストリートのときからJASHWONさんたちにはお世話になっていて。(JUJU)
IOがブートで働いていたというのが意外だよね。いいよね。(レイジ)
■言ってしまえば、キャンディはブーン・バップ的な90’sヒップホップの新世代として位置づけられていると思うのですが、いわゆる上の世代の人たちと繋がっているわけではない?
IO:Fla$shBackSのKID FRESINOだったり、FebbとjjjはJUJUのアルバムで一緒にやっていたりしますね。
■ほぼ同世代のFla$shBackSのほうとはつながりがありますね。
JUJU:上の世代の人たちとは、俺らはあまり交流はないですね。IOくんはブート・ストリートのときからJASHWONさんたちにはお世話になっていて。
レイジ:IOがブートで働いていたというのが意外だよね。いいよね。
一同:(笑)
JUJU:めっちゃいい。
■高校を辞めて働いてたんでしたっけ?
IO:はい。
JUJU:グロウ・アラウンドで働いているヤツもいて、そういう宇田川の繋がりがあるんですけどそこくらいだよね。
■じゃあラップについてお伺いします。キャンディといえばワードチョイスが独特だと言われていますが、今回この曲の作詞は苦労したということや、これはこういうトピックに挑戦してみたということはありますか?
JUJU:一切ないですね。
一同:(笑)
JUJU:メジャーに行ってどうだったということは多分みんなないし、トピックをどうしようとかもKANDYTOWNにはほとんどないし、この人に向けて歌おうとかそういうことも言わないから……あんまりないよね?
Ryohu:でも幻のバースとかありますよ。
■カットされたりもするということで。ひとつのビートでラップをするメンバーはどうやって決めてますか?
JUJU:挙手制と推薦制がありますね。バランス制もある。
■そのバランスを判断するのは誰?
JUJU:みんなですね。
GOTTZ:でも基本的にラップに関してはビート・メイカー・チームじゃないですか。
■なるほど。今回のアルバムはビートはNeetzさんにくわえてMIKIさんとRyohuさんがクレジットされてますね。
Ryohu:はい。
GOTTZ:あとはミネソタとか。わりとそっち側で話し合っていたんじゃないですかね。
■Ryohuさんは今回トラック・メイカーとして二曲担当していますが、Ryohuさんといえばやはりシンガーとしての役回りもあります。メンバーのなかにこれだけうまく歌える人がいるのは特色のひとつだと思うのですが。
Ryohu:うーん、欲をいえば、俺は本当は女性シンガーが欲しいですね(笑)。
■Ryohuさんの歌声はフェミニンなやわらかさがあって、これだけバランスよく歌がハマっているのはそのおかげかなと考えてました。
Ryohu:でもJUJUもいいフックを作るし、「ペーパー・チェイス、福沢諭吉」のラインなんて考えつかないし(笑)。IOもフック作ったりできるし、僕はそんなに意識してはいないしあんまり考えていないですけどね。できないことはできないし、できるヤツにやってもらってというのはなんとなくあります。
■みんなソロ活動を活発に行なってますが、KANDYTOWNとして集まったときに自然に出てくるムードみたいなものはありますか?
Ryohu:KANDYTOWNとおのおののソロはまたちょっと違うはずで、それこそJUJU新しいアルバムも違うし。
JUJU:俺のは全然違いますね。多分ショッキングな感じだと思います。
Ryohu:はは!(笑)
■MASSHOLEさんプロデュースの先行シングル“THE WAY”からしてダークでドスのきいた感じで。
JUJU:ああいう系もあるし、ちょっとトラップっぽいのもあるしいろいろあるっす。このあいだ改めてキャンディのほうを聴いて、全然違うと思ってびっくりしましたね。集まるとみんなにとってああいうビートのチョイスが程良いというか、Neetzのビートはみんな出すぎず下がりすぎずという感じが保てますね。
■Neetzさんは他のラッパーに曲を提供する機会は増えてきました?
Neetz:いまのところほとんどないですね。本当キャンディ内だけなんで、これからやっていこうという感じですかね。ただ黙々と作っているというか。
■この1年くらいでいろんなイベントに出演することも増えて、全然スタイルの違うアーティストと一緒になることもあると思います。そのことの影響はありますか?
JUJU:同い年で頑張っているヤツもいるし、ポジティヴに制作を頑張ろうという影響は受けますけど、あんまり具体的な影響はないよね。
Neetz:あんまり影響されないですね。どちらかというと例えばRyohuが4月にアルバムを出して、WWWとかでかいところでライヴをやったりして、そういうところに刺激を受けますね。
[[SplitPage]]──2016年のシーンについて
むこうにいるキッズは、常にヤバいものが更新されていくわけじゃないですか。だからあいつらの世代のスターはリル・ウェインやT.I.だし、ビギーや2パックを追う前に小学生くらいから自分の世代のスターが目の前にいるから、別に追う必要がないというか。(GOTTZ)
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■いま日米問わずトラップの時代みたいなところがあるじゃないですか。アメリカだとそれに対してケンドリック・ラマーやアンダーソン・パークといった90年代回帰の流れもある。このまえ、アトランタのリル・ヨッティというトラップのラッパーが、2パックとビギーなんて5曲も知らねえよ、みたいな発言をして、それがちょっとした議論になって…。
Ryohu:ヨッティが「そんなの知らなくてもいいじゃん」って言ったヤツですよね。
JUJU:それにアンダーソン・パークが噛みついたんですよね。
GOTTZ:「知らないことをいばるな」って(笑)。
一同:(笑)
GOTTZ:日本に住んでいても俺らは日本語のラップをそんなに聴かないから。ようはむこう(アメリカ)のものを掘っているじゃないですか。でもむこうにいるキッズは、常にヤバいものが更新されていくわけじゃないですか。だからあいつらの世代のスターはリル・ウェインやT.I.だし、ビギーや2パックを追う前に小学生くらいから自分の世代のスターが目の前にいるから、別に追う必要がないというか。そのナウだけを聴いていたらそうなるんじゃないですか。
■じゃあどちらかというとヨッティ派?(笑)
GOTTZ:いや、俺はもちろんアンダーソン・パークの言っていることもわかりますよ(笑)。
JUJU:kiLLaとか日本の若い子もきっとそうなんですよ。一緒に遊んで2パックの曲とかをかけてても知らなかったりするし、いまの若い子は本当にそうなんだと思う。別になんとも思わないけど、知ってたほうがいいとは思うし「カッコいいのになんで?」と思うだけ(笑)。
GOTTZ:ヨッティのあれは、元々チーフ・キーフが言った言葉に対してなんじゃないですか? あれはチーフ・キーフが最初に「俺はビギーも2パックもほとんど知らねえよ」と言ってたんですよ、たしか。
■まあことさらトラップとヒップホップを対立的にとらえる必要もないとは思うんですが、オーセンティックなヒップホップが過去のブラック・ミュージックから続く歴史性を背負っている部分が強いのに対して、たとえばヨッティなんかは韓国のBIG BANGの大ファンだったり、ネット時代というか、グローバル時代ならではのポスト・モダン的な側面がより強く出てる印象があります。日本だとBCDMGは宇田川を拠点として、トラップもやればブーン・バップもやる、ようは断片化したシーンをきちんと俯瞰する王道的な仕事を意識的にやってる。KANDYTOWNは世田谷ローカルの仲間たちで好き勝手にやってきた部分もあるけれど、言ってみれば昔ながらの東京のインナーシティのヒップホップのクールネスをオーセンティックに継承しているところもあって。
IO:俺とJUJUとDONYがBCDMGに所属してプレイヤーとしてやっていて、ああいうところにキャンディがあるというよりは、どちらかというとキャンディは帰ってくる場所というか。
やっぱり地元から愛されているヤツは間違いないと思うから、そういうところを見て俺もやろうと思ったし……(JUJU)
■日本の同時代のトラップ・アーティストを聴いてフィールすることはありますか?
JUJU:そんなに聴いてるわけじゃないですけど、俺は会ったら喋るし普通に仲いいです。曲を作ろうという話はしますし、YDIZZYとかkiLLa組は「曲聴いてください」といって送ってくるからそういうときは聴きますね。(KANDYTOWNの)みんなが聴くというのは聞いたことないし見たこともないですね。みんなが自発的に誰か他のアーティストの曲をかけてるのはないです。
Neetz:俺は日本語ラップだとKANDYTOWNしか聴いてないです。
一同:(笑)
JUJU:そういう感じなんで、そこに関してはみんなリル・ヨッティって感じですね。
GOTTZ:あ、でもRYUGO ISHIDAの“YRB”(ヤング・リッチ・ボーイ)はけっこう聴いてたけどね。中毒性がある感じ(笑)。
JUJU:まあ別にトラップをそんなに意識して聴かないですね。
IO:ポジティヴなことを言うといろんな色があって、聴く人にとってもいろんな選択肢があるなかで俺らにフィールしたら聴いてくれればいいと思う。ただいまヒップホップ・ブームと言われているじゃないですか? それがブームで終わらないで根づいていければカルチャーになるし、先の世代がラッパーになったらリッチになれるという本当にアメリカみたいな文化になればいいと思うっすね。
■BCDMGのコンピレーションではSWEET WILLIAM さん、唾奇さんとジョインした”SAME AS”が印象に残ってます。オデッセイの“ウィークエンド・ラヴァー”のネタで唾奇さんが「時給700と800」ってぶっちゃける感じのラップを最初にかまして、フックで「fameじゃ満ちないpainとliving」とJUJUさんが応えてて…IOさんが時どき使う「チープ・シャンペン」ってワードじゃないけど、単にきらびやかなだけじゃないKANDYTOWNの魅力が引き出されてる感じがしました。
JUJU:唾奇とかはすごくいいと思うというか、いまの時代だとお金があるように見せがちだと思うんですよ。でもああいう感じで来るじゃないですか。沖縄にライヴをしに行ったときに沖縄の人たちの唾奇に対するプロップスがハンパなくて、みんな歌ってたし「おい! 唾奇ぃ!」みたいな感じになっていて、それがすごくいいなと思ったんですよ。やっぱり地元から愛されているヤツは間違いないと思うから、そういうところを見て俺もやろうと思ったし、なによりIOくんが「唾奇とやるからやろうぜ」と言ってきてくれて、IOくんが言ってるならと思って、一緒にやったんですよ。
IO:唾奇は単純にカッコいいんです。俺のスタイルとは違うけど、俺にないものを持ってるし、やろうと思ってもできないスタイルでやっていて、そこにカッコいいと思う部分がある。だからシンプルに一緒に曲をやってみたいと思いました。
■じゃああのコラボレーションはIOさんから持ち込んだ感じですか?
IO:ですね。
レイジ:あとそうだ。シーンとのつながりで言うと、あまり明かされていないんですけど、意外とSIMI LABと仲いいんですよね。いまはもう影響を受けたりしていないと思うし一緒にやっていないけど、俺から聞きたいんだけど、昔一緒につるんでたときは、オムスとかQNから影響受けたりしたの?
JUJU:俺はラップを始めたときにYUSHIとQNくんが一番近くにいてくれたからね。
レイジ:QNが最初にヤング・ジュジュをプロデュースしようとしてたのも、もう5、6年前だよね。
JUJU:そのときは本当に恵まれていたというか、周りの人がスゲえと言っている2人がいつも遊びに連れて行ってくれて、リリック書けとか一言も言われたことないけど、あの人たちは「やる」となったら15分でビートを作って、10分でリリックを書いて、5分で録って、(そのペースで)1日5曲録るみたいな人たちだったからそれに付いてやっていて、音楽への姿勢はあの2人から影響を受けましたね。フラフラしてるんだけど、レコ屋に入ってビートを選んだら家に帰って作り出すまでがすごく早いというか。「バン!」となったらしっかりやるという感じだったり、当時はすごく影響を受けたと思いますね。
レイジ:ちゃんと盤になった音源で、一番最初に世に出たYOUNG JUJUのラップって“Ghost”だっけ?
JUJU:うーん、IOくんたちともやってた曲があったと思うけど、ちゃんと流通されたのはそうかもしれない。
レイジ:QNのサード・アルバムに入っている曲だよね。そこの繋がりはみんな知らないだろうけどけっこう古いもんね。
Ryohu:意外とね。でも感覚的にはKANDYTOWNと同じというか。
レイジ:そうとう近いし、ずっと一緒にやってたもんね。中山フェスタとか一緒に出てたし。
JUJU:YUSHIの家に泊まるときも、オムスくんがいてIOくんがいてRyohuくんがいてみたいに意味わかんない感じだったもんね。
レイジ:オムスとQNが遊ぶのもYUSHIの家だったしなあ。
■黎明期のその時期、相模原と喜多見のコネクションがあったということですか?
JUJU:SIMI LABのマイスペースかなにかに「ウィード・カット」(YUSHIの別名義。ドカット)って入ってたのを俺が見つけて、「YUSHI、SIMI LAB入ってんだ。名前入ってたよ」と言ったら、「絶対入ってねえ。いまから電話する」と言って電話して「俺入ってねえから!」とずっと言っていたことがあったりしましたね。
レイジ:SIMI LABの結成前からつるんでるんだよね?
Ryohu:いまの感じになる前からだね。
JUJU:QNくんがずっとYUSHIをSIMI LABに入れたがっていて「名前だけでもいいから入ってくれ」と言っているのを俺は見てたけど、YUSHIは「俺はBANKROLLだから無理」みたいなことをずっと言ってましたね。
■それはYUSHIさんはBANKROLLでバンといきたいから、ということで?
レイジ:いや、BANKROLLはもうKANDYTOWN内でバーンと行ってたっす(笑)。
JUJU:俺はBANKROLLを見て好きになっていってラップやったり、周りの同い年のヤツや年下のヤツがBANKROLLを好きになっていった雰囲気がKANDYTOWNの流れとすごく似ている気がしているから、みんな(KANDYTOWNを)好きになるんじゃねえかなとほんのり感じてますね。あのとき俺がヒップホップを好きになっていった感じとこの流れの感覚が近いというか、いまこうやってBAKROLLと曲を出したりしているのがなにかあるといいなと俺は信じてますね。
■聞いていると、なにかヒップホップよりも先に出会いや絆がある感じですね。
Ryohu:そうですね。だから表現がヒップホップだったというだけで、というかそれしかできないということもあるんだけど(笑)。いまさらギターとか弾けないし。
■ニューヨークでもクイーンズとブロンクス、ハーレムとかでそれぞれ色があるじゃないですか。東京もそんな感じになってきたと思います。
JUJU:日本はそれがまだすこしできていない部分があるというか、認め合うことがないというか、出てきた人をどうしても蹴落としちゃうような風潮があるんじゃないかなと感じますね。でもやっぱり下から人は出てくるものだし、それは認めなきゃいけないし、それに勝る色を持ってなければいけないし、人のことをとやかく言うよりも自分の色をしっかり持って、いろんな色があるのがヒップホップなんだということを世間の人がわかってくれれば、もっと面白くなると思いますね。
──ラップ・ブームについて
結局自分たちがカッコいいと思うことをやっているので、別にどう解釈されてもいいんですね。リリックにも出てくるんですけど「ホント気にしない」って感じですね。(KIKUMARU)
■いまヒップホップ・シーンを考えると〈フリースタイル・ダンジョン〉という番組の影響はかなり大きいと思うのですが、この前KIKUMARUさんとBSCさんとディアンさんで出演されていましたよね。あれはどういう経緯で?
KIKUMARU:話が来て、3人での出演にルールが変わったと言われたんで、それでやるんだったらあの3人でやるよ、という感じでした。
Ryohu:それこそKIKUMARUはBボーイ・パークで優勝してるんで、キャンディでは一番バトルをしっかりやって成績も残ってるし、ちゃんと実力もあるかなという。
Neetz:シーンに名前が出たのはKIKUMARUが一番早かったですね。
KIKUMARU:5年前くらいですね。
IO:(小声で)それ知らないですね。
一同:(笑)
■いまのバトル・ブームについてなにかあれば。
Neetz:俺はポジティヴだと思うんですけどね。それがヒップホップかと言われればわかんないですけど、そこが入り口になって自分の好きなところに行き当たってくれればいいと思うし、実際みんなフリースタイルしててすごいなと思うし。自分がクールだと思っていることがそこにあるかと言ったらないですけど、あれはあれで俺はすごいなと思う。
JUJU:ある種のスポーツですよね。
IO:俺にはできないことだと思う。それが日本のテレビに映ってて、いままでになかったことだし、色んな捉え方はあると思うけどポジティヴなことだと思う。ブームで終わらずに、根づいていって、ラッパーで成功すれば、リッチになれるというのが当たり前の文化になればいいなと思います。
■レイジくんはどうですか?
レイジ:バトルっすか? あれはラップであってヒップホップではないかなというか、べつにあそこの勝ち負けには興味ないんじゃない。ヒップホップというよりかは、あれはとにかくラップという歌唱法が流行っている感じがする。
■スタイルとしてのヒップホップと歌唱法としてのラップを分けて、だけどいまはそういうヒップホップという言葉の重みが嫌で、意識的にラップって言葉を使う人たちもいますね。
JUJU:うーん、でも、みんなやることやろうって感じですね。
レイジ:俺が見ているとKANDYTOWNというもの自体がシーンみたいな感じなんですよね。ここのメンバー同士で影響を受けあってるし、メンバー同士で盛り上がって成長していってるシーンという感じだから、メンバーが増えたり減ったりすることはないだろうけど、他のひとになに言われても全部「ああ、まあいいんじゃないですか」って感じだと思う。
■たとえばひと昔まえのアーティストがメジャー・シーンに切り込んでいくときには、良くも悪くもヒップホップとか日本語ラップのシーンをレプリゼントしているような感覚があったと思います。だけどシーン自体がこれだけ多様化しているいま、どれだけそういう感覚があるのか。KANDYTOWNはどうですか?
JUJU:全然ないっすよね。
Neetz:喜多見って感じするよね。
レイジ:KANDYTOWNをレペゼンしているという感じですよね。
KIKUMARU:他人を見てなにか思うところがあっても、いざビートがかかっているところでリリックを書くとなったら、そういうのはみんな関係してないと思いますね。良くも悪くも周りじゃないっていうか。ブームがどうとかもとくに考えてないですね。
レイジ:でもこの人たちはずっとこの人たちだけで生活しているから(笑)、周りの影響は生まれないっすよ。誰々がどうでとかもほとんどなくて、違う世界の人たちだと思うんですよね。
JUJU:うまく説明できないけど、俺らはカッコつけるところが独特というか。でもほかの日本語ラップのヤツに会えば「みんないいヤツじゃん」と思うし、「お互い頑張ろう」ってポジティヴな気持ちになるだけっすね。
■今回のアルバムだと”GET LIGHT”のヴィデオはリーボックのCMもかねたタイアップになってます。最近はラッパーがCMに出る機会も増えてるけれど、あれはそういうブームには関係ない感じというか。
レイジ:あれはマジでヒップホップですよね。
JUJU:でも俺らはあれがそんなに超カッコいいとか、特別だとかは思ってない(笑)。そのへんからちょっと違ってると思いますね。
■そのズレが面白いというか、自分たちは全然シーンを背負っているつもりはないのだけれど、結果的にバトル・ブームとは関係のないところで王道的なスタイルを引き継いで、メジャーなフィールドで勝負してるっていう。そのズレについてはどう思いますか?
![]() KANDYTOWN KANDYTOWN ワーナー |
レイジ:メジャー・デビューっていっても、ただ単にメジャーのレーベルから1枚リリースしたというだけだと思うんですよ。
JUJU:アルバム作ってても、メジャーだからどうこうってのは一切ないですね。言っちゃいけないこととかダメだとか言われたことないし、全然なかったよね?
レイジ:気を使ってリリックを変えるとか全然なかった。
JUJU:みんないつも一緒にいるから緊張とかわかんないし、仕事が多くなったとかはあるかもしれないけど変わったことはそんなにないよね。
■ある意味でコミュニティ・ミュージック?
JUJU:そうだと思うけどなあ。RyohuくんやIOくんの新曲のほうが100倍気になるし、俺らは元々世に出さない人たちだから。
レイジ:そうね(笑)。世の中では誰も知らないけど、KANDYTOWN内ではマジでアンセムみたいなヒップホップ・クラシックがいっぱいあるんですよ。この惑星の人たちって感じですよね(笑)。ここは外国ですよ(笑)。
JUJU:「Neetzがこういうビート作ったってよ」というほうが「ヤベえ!」と思うし。
Ryohu:NeetzからのGmailが一番アガるよね。
レイジ:それ最高だね。
Ryohu:あんなにワクワクしてメールを開けることはないかもしれない。
一同:(笑)
レイジ:俺はそこが東京っぽい感じがしますけどね。東京のローカル。東京っていろんなところからいろんな人が来てずっとソワソワしているイメージだけど、そんな東京でもローカルはある。だっていわゆる田舎でも、イケてる人ってその地元に根づいてるじゃないですか。結局東京が都会で地方が田舎ということじゃなくて、場所がどこだろうがイケてるやつはイケてるし、自分のローカルをちゃんと持って、そのなかで周りを気にせずやれているヤツはいる。だからKANDYTOWNが周りのシーンを気にしないというのも別にカッコつけているわけじゃなくて、近場に気になる人がいてそっちにしか興味がないから、NeetzからのGmailがブチあがるとか、そういうのはこの世界があるからなんだ、という。だから江戸っ子ってうのかな。本当の意味で東京の雰囲気でやれている感じがしましたね。
■世田谷の喜多見からKANDYTOWNが出てきて、それはそこにYUSHIさんという人間が1人いたからということがあるじゃないですか。街って、たんに物理的な場所というんじゃなくて、人と人のつながりがつくってる。
レイジ:そうかもしれないっすね。
■通常版のジャケットがYUSHIさんの描いた絵になってます。メジャーで勝負するアルバムの中心に、とてもパーソナルな歴史を置いているということが、そのローカル感の象徴かなと思います。
KIKUMARU:そのジャケはめっちゃ派手だと思いますけどね。そういうジャケってなくないですか(笑)?
JUJU:YUSHIの絵にするアイデアは元からあったと思います。
IO:MIKIと話していてジャケットを絵にしようということになって、YUSHIの家に行ったときに絵を見ていて、ほかにもいっぱいあるんですけど、とりあえずこの絵のインパクトが強くて。アルバムが出来たら、結局それになってました。
IO:たしかレコーディングが終わったくらいかな。
Ryohu:レコーディングが終わってすぐくらいですね。ミックスしている合間に同時進行でアートワークも決めました。
レイジ:通常版はペラペラの紙一枚で、メジャーから出てるのにストリート・アルバム感がハンパないっすよね(笑)。
■今回は豪華版、通常版ともに歌詞カードが入ってません。これはポリシーというか、明確な意志があるんですか?
JUJU:そこはポリシーですね。
レイジ:なんて言ってるんだろうなというワクワクがあるもんね。
Ryohu:聴いてもらえばいいかなと。
Neetz:別に読んでもらえなくてもね。
■YUSHIさんの存在を意識して聴いてみると“GOOD DIE YOUNG”や“THE MAN WHO KEW TOO MUCH”などドキッとするようなタイトルもある。でも別にシャウトアウトしているわけでもないし、このバランスも自然にこうなったんですか?
Ryohu:自然にですね。こういう曲を書こうということも決めていないので、1人が書いてきて「じゃあ俺も(書く)」という感じでしたね。あとはトラックが上がってきてこの曲はこういう風に書こうというのも、例えばNeetzが作ってきたトラックに“Dejavu”と書いてあったら、なんでそう名づけたかはわからないですけどみんな“Dejavu”について書こうみたいな感じでしたね。いままでそういう風に作ってきたのでいままで通りですね。
■YUSHIさんを連想させるといえば、Ryohuさんのソロでいえば“Forever”という曲もありますね。
Ryohu:あれは一応YUSHIについてだけではないですけど、(YUSHIの)命日の日に書いたんですよね。直接的に言うのは嫌だったんで含めながら書きましたけど、(YUSHIが)中心にはいましたね。KANDYTOWNのそれぞれのメンバーにとっても、YUSHIはデカい存在だということですね。絶対出したくないでしょうけど、メンバー全員がそれぞれ思うYUSHIを書く曲があったら面白そうですよね。
■豪華版のほうの写真はレイジくんが撮影したもので…最初のほうの扉に「PLAY LIKE 80’S」という言葉があって。リリックにもよく出てくる印象的で謎めいたワードですが、誰の言葉ですか?
Neetz:これはIOくんじゃない?
IO:これは俺がたまに言ってたやつですね。
■その心は?
IO: PLAY LIKE 80’S。
レイジ:バブリーなギラギラ感だね。
IO:わかんないけど、なんか調子いい。
■みんな90年代生まれですよね?
IO:はい。本当は「Like 80’sのように弾くシティ」と言っていて……。
Ryohu:それもおのおの感じ取ってもらってほしいですね。
KIKUMARU:結局自分たちがカッコいいと思うことをやっているので、別にどう解釈されてもいいんですね。リリックにも出てくるんですけど「ホント気にしない」って感じですね。
■90年代生まれだったら物心ついたときは00年代だったと思うんですが、ようはあまり明るい時代じゃないというか、10年代の始まりは震災もあったし、いまは若者の貧困がどうこうとか言われちゃう時代じゃないですか。だけど、そんな中でも自分たちの楽しみ方というか、遊び方を持って、最高にカッコつけて、きらびやかに歌舞いてみせる。その感じが東京ネイティヴのクールネスの2016年の最新形なのかなと思います。ああ、俺の意見言っちゃった(笑)。なにかあればどうぞ(笑)。
Neetz:ありがとうございます(笑)
Ryohu:でもまたいまからアルバムを作ることになったら、同じものは出来上がらないだろうなと思います。
■みんなスタイルが変わっていく?
IO:それはわかんないっす。そのときカッコいいと思ったものをやるし、もしかしたらいきなりトラップを始めるかもしれないし(笑)
Neetz:俺は(アルバムが)もっと続いている感覚があるんですよね。
■70分でもまだ足りなかったということですか?
Neetz:いや、気持ち的にはもっとこのアルバムは続くと思っていて、今回のはそのなかの一部というか、最初の部分がファースト・アルバムになっている感覚ですね。これがKANDYTOWNのすべてというわけではないですね。
Ryohu:みんなソロでは違う感じで出すんじゃないの?
KIKUMARU:良くも悪くも変わりはすると思います。
Ryohu:きっといい方向に変化するんじゃないですか。
KIKUMARU:でもみんなまだあんまりソロを出してないから変化がわかんないっすよ。
IO:俺はキャンディでやっているときもソロでやっているときも、あまり意識は変わらないんですよ。
■今後はソロ作に集中する感じですか? たとえばセカンドについて考えたりはしますか?
IO:キャンディのセカンドがどうなるかはタイミングですね。
JUJU:キャンディのセカンドは10年後くらいでいいんじゃな~い。
IO:とりあえずDONYやMUDもみんなソロ出しますね。
レイジ:MUDのソロも作るの?
JUJU:これから。
IO:俺らみたいなのを「ちゃんと出せよ」と言って動かしてくれる人がいないとちゃんとした形では出さないと思うけど、いつも通りみんなで遊んでいるときに曲を作るとは思いますね。あとはなにを出すにしろ、音の色は変わるかもしれないですけどKANDYTOWNのままだと思う。コンセプトを決めてこういうアルバムを作ろうということはないと思いますね。
■最後に一言ずつもらってもよろしいですか?
Ryohu:最初で最後かもしれないのでお聴き頂ければと思います。
Neetz:本当にドープなアルバムができたと思うので(笑)、チェックしてほしいです。
IO:よかったら聴いてください。
KIKUMARU:いま作ったものが俺たちのいまなんで次出せるかわかんないですけど、おのおののソロやミックスCDがこれから出ると思うので、KANDYTOWN全体をチェックしてもらえたらと思います。
Ryohu:はい、頂きました~。
一同:(笑)
GOTTZ:アルバムのテーマは「KANDYTOWNのファースト・アルバム」です。
JUJU:ヤバい、俺まで早かった。よかったら聴いてください、っすね(笑)。
レイジ:ええ!? それだけ?
Ryohu:これが公開される頃には自分のアルバムも出るんじゃないの?
JUJU:11月23日にも俺のソロ・アルバムが出るから、そっちも聴いてください。このメンバーで作れて本当によかったなと思うんで、いまの若いキッズたちはこれからそういうのを目指して頑張ってほしいし、ラップを続ければいいことがあるよというのがアルバムのテーマじゃないですけど、俺はいまラップ続けていてよかったと思いますね。
GOTTZ:「間違いないヤツらと仲間になれ」ってDONY JOINTが言っていたけどまさにそれですね。
レイジ:俺は携われてよかったですよ。
■今回レイジくんが音楽的にもディレクションに関わるのかと思ったのですが、そうではなく、あくまでまとめ役だったそうで。
レイジ:まとめ役というか、簡単に説明するとKANDYTOWN側のスポークスマンという感じなんですよ。レーベルと細かいことをやりとりしていただけなんで。
■制作で一番印象深かったのは遅刻がとにかく多かったこと聞きましたが(笑)。
レイジ:遅刻はつきものですけど、こないだのワンマン見てて、ラップがカッコよければなんでもいいやと思いましたね(笑)
一同:(笑)
レイジ:どんどん遅刻していいよ! と思いました。遅刻しないでラップがカッコよくなくなるくらいだったら、遅刻しまくってラップカッコいいほうがいいですよ。
■なるほど。ありがとうございました。
キャンディタウン:ありがとうございました!
紙エレキングの年間ベスト号で、坂本慎太郎に取材したんですけど、そのときの彼いわく「本当は、夏休みの初日のようなアルバムを作りたかった」と、「60年代のアメリカン・ポップスや初期のロックンロールとかにあるキラキラして甘酸っぱい感じを自分でもやりたい」と思っていたと。しかしそれでもまあ、作ってみたら『できれば愛を』だったという話なんですけど、その「キラキラして甘酸っぱい感じ」が映画『アメリカン・グラフィティ』には凝縮されている。
『アメリカン・グラフィティ』は、ジョージ・ルーカス監督が『スター・ウォーズ』という大ヒット作を世に出す前の、最初の商業映画で、本国アメリカでは1973年に公開されている。この映画は、高校を卒業したばかりの4人の若者が揃って過ごせる夏の最後の一夜を描いたもので、時代は1962年、つまりアメリカがベトナム戦争に向かうその直前の(きわめて象徴的な)最後の夏の一夜のできごとである。そして、映画では、ひっきりなしに「キラキラして甘酸っぱい」オールディーズがかかる。
ぼく(=野田)がこの映画を観たのは高校時代で、『スターウォーズ』の監督の前作として、地元の映画館でリヴァイヴァル上映したときだった。もちろんLP2枚組のサウンドトラックも購入した。レコードはいまでも家にあるが、そこに収められているロッンロール、ドゥーワップ、ポップスは、なにをどういう風に聴覚と精神をねじ曲げたら嫌いになれるのかわからないというくらいに、素晴らしい。だいたい、ぼくと健太さんと坂本慎太郎が共通して好きという点においても、『アメリカン・グラフィティ』にどれだけ普遍性があるかという話だ。評論家のジョン・サヴェージが描いたパンク評伝の傑作『イングランズ・ドリーミング』のなかで、サヴェージはこのサントラを取りあげ、すべてはここからはじまったみたいなことを書いているが、それは、「俺たちは大人とは違ったやり方でできるんだ」という、ユース・カルチャーなるものの黄金時代の幕開けだったからでもある。
萩原健太の新刊『アメリカン・グラフィティから始まった』は、映画のストーリーを追いながら、1曲1曲を丁寧に紹介しつつ、その映画の切なさを読み解いていく。夏の一夜に集約された少年から大人になる、大人にならざるえない、その覚悟を決める瞬間の物語としての『アメリカン・グラフィティ』。また、アメリカンに最初の陰りが見えてくるその直前のアメリカの物語。そして何よりもその時代のポップスのあまりにも胸きゅんな感覚。
こんなかったるい時代だからこそ、ぜひいまいちど、再訪して欲しい。

萩原健太
アメリカン・グラフィティから始まった
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