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interview with ZORN

interview with ZORN

労働者階級のアンチ・ヒーロー

──ゾーン、インタヴュー

取材・文:山田文大    Dec 14,2016 UP

ZORN - 生活日和
昭和レコード

Hip Hop

WENOD Amazon

 10月末に発売されたZORNの6枚目となるアルバム『生活日和』(昭和レコード)は、2016年にリリースされた日本のヒップホップ・アルバムのなかでも、かなりの名盤だと思っている。元々評価されているラッパーだろうし、筆者がここであえてそう書くまでもないかもしれない。いざZORNをインタヴューできることになり、一聴してみると、印象に残ったのは何よりその地味さだ。ヒップホップは目立ってなんぼみたいな側面が強いし(ショウビズでもあるわけだから当然だが)、グリルやブリンブリンなどに見られる個性もひとつの楽しみ方だったりする。
 だが、ZORNの新しいアルバムはそういった世界から遥か遠くで鳴らされているものだ。アー写には子供たちが渡る横断歩道で、旗を持って立っているZORNが写っている(そう作ったわけではなく、本当にZORNの日常を写したらしい)。地味だからこそ印象に強く残った。
 こう書くと、これだけ多様化した日本のラップのなかで、自分の世界観をそれに見合うやり方で表現しているラッパーは他にもたくさんいると思われそうだが、そういう次元の話ではない。ZORNは地味な表現のなかで、本当に大切な言葉を丁寧に選んで歌っている。それが聴いていてよくわかる。むしろ、これだけ生々しいトピックを選びながら、派手な激情に流されていないことがZORNの特異な点だ。日々インスタにアップされるどこかのお高い店の美味そうなメシより、長く食べ続けたいのは、身近な人間が作る毎日当たり前のように食べているメシの方だろう。ZORNが作ったのは、そういうアルバムだった。
 なお、2016年の締めくくりに12月18日渋谷のWWWXにて、ZORNの『生活日和』リリース記念のワンマンライヴが開催される(すでにSOLD OUTしたとのこと)。充実のZORNに話を聞いた。

現場の仕事も面倒くさいし、マジで大嫌いだった。いまは全然、楽しいし、ずっとやりたいなぁくらいに思っています。このまま音楽をやっていって、アルバムもたくさん売れるようなアーティストになりたいけど、どっちでもいいやみたいな。そうならなくても別にもう全部持っている。

かなりパーソナルな内容ですが、普段はどんな生活を送っているんですか?

ZORN:月曜から土曜まで働いて。現場で仕事して、毎日帰ってきたら、家族で夕飯食べて風呂入って寝る。子供は日常に常にいるんで、日常となればそこになるわけです。で、週末ライヴがあるときは、土曜の夜なり日曜のデイなり全国各地に行くって感じです。リリックを書くのは仕事中か雨の日。雨だと僕は仕事が休みになるので、雨の日に書いています。仕事中には頭で書いてるっていうか。ずっとその……常にこう……1曲ずつ作るんですけど、そのビートがずっと朝起きてから寝るまで頭のなかでかかってるんで。仕事中に作業しながら、ひたすらライムを考える。

そうして作業中に浮かんだライムって覚えていられるものなんですか?

ZORN:覚えてますね。あとはiPhoneにメモしたりとか。この作り方はずっとそうかもしれないです。仕事中に頭で書くっていうか。トラックを聴いて、これだとなったら、そのトラックがずっと鳴っている。僕はドラムとかはほとんど聞いてなくて、上音のメロディだけ聞いて、そのBPMに合わせて頭で書いている。

このアルバムにコンセプトはありますか?

ZORN:やっぱりいちばんは「等身大」。それがいちばん大きなテーマで。とりあえずもういまの日常をひたすら切り取っていこうみたいな感じだったと思うんですけど、派手さとかは全然いらなくて。サウンドとか雰囲気とかを全部込みで、等身大の日常を歌うっていうコンセプト。普遍的なものにしたかったんですね。その普遍性みたいなものも結構自分のなかでテーマでした。別に僕は音楽も服も流行っているものは全然好きなので、そこに否定的なものは何もないんですけど、自分でやるなら、ずっと残るような変わらないもの、全然色褪せないみたいなものが作りたかった。

すごい地味な内容ですよね。

ZORN:言っていることも限りなくもう小さい世界のことなんで。

そうして、自分の身の回りの小さな世界を切り取ることにおいて、ならではの苦労があったりしますか?

ZORN:リリック書くのは楽しいんですけど、でも、それはやっぱりありますよね。昭和レコードは、「いつまで」みたいにレーベルに縛られるという感じはないんですけど、自分のなかで曲を作りはじめて「来週録ろう」と思ったら、それまでに仕上げようと思って進んでいく。それで時間が近づいていくにつれて、書けてなかったりするとだいぶ苦しみます。

今回のアルバムで特にどの曲が、そういった曲なのですか?

ZORN:どの曲も楽しみつつ苦しみつつだったと思うので、総じてって感じですね。等身大だからといって、それでもやっぱり言葉は最大限のこだわりを持って選んでいくので、ただ等身大だからパッという感じではないというか。そう言いたいんですけど、実質そうはいかなかったみたいな感じですかね。時間をかけたり、苦しんだり、そういうものじゃないと、自分で自分の曲に愛着をあまり持てないということもあります。ライヴもこだわっていきたいと思っていますし、同じ曲でも1曲をずっとやっていきたい。もちろんヒップホップって、パッとスタジオに行って、その場でビートを聞いて、その場でパッとリリックを書いて、その場で録るみたいなカッコ良さもあると思うんですけど、僕の場合は、それとは正反対のスタイルです。それもできますけどね。こうやって時間をかけて丁寧にやった方が、いいものだと自分も思えるというか。

「等身大」とか「ありのままの自分」ということを、自分の表現についていう人は少なくない印象があります。ただそういうものに触れた時、必ずしも本当にそうだと思えるわけではありません。AをA’やA’’に歌って等身大と言っている風に感じるというか。もちろん、それが作品のクオリティのすべてを決定すると僕は思いませんが、それでもZORNさんの、とくに今回の作品に関しては、本当に等身大であることが素晴らしいと思いました。Aという現実に対して、Aという言葉、表現で対峙している。

ZORN:本当に細かい歌だと思うんですよね、一個一個が。僕はアルバムを6枚出していて、まだ「現場で働いてます」と言っているわけなんで。それを『My Life』という曲で見せて、そこからですよね。この曲でほぼほぼ見せたので、逆にそこを強みにするというか。みんなもたぶん聴くとき、今回のアルバムに関してもそうですけど、容易に僕の生活が想像できると思うんです。だからすごい楽ですよ、マインド的に。もう、ただ自分でいればいいだけというか。

すごいことを言いますね。「ただ自分でいればいいだけ」とは、なかなか言えないですよ。

ZORN:本当に勇気がいるのは最初だけですね。昔は現場の仕事も面倒くさいし、マジで大嫌いだった。いまは全然、楽しいし、ずっとやりたいなぁくらいに思っています。このまま音楽をやっていって、アルバムもたくさん売れるようなアーティストになりたいけど、どっちでもいいやみたいな。そうならなくても別にもう全部持っている。それが自分の強みだと思っています。音楽の……ラップの活動と自分の家族と仕事と、それを全部一緒にしちゃうっていうか。いちいち分けるのがもう面倒くさくて、全部一緒でいいやみたいな。全部見せようという感じです。

うーん。このアルバムが重要な作品だと思った理由が、少しわかった気がしました。

ZORN:僕のなかでもめっちゃ重要です。久しぶりに真面目に作品を作ろうと思って、作品として臨みました。(前作の)『The Downtown』はラップしようという感じのアルバムで、そこが微妙に異なるというか。今回は残るものを作りたいなという感じだった。「Letter」とかもすごい気に入っています。

僕も「Letter」がいちばん好きです。この曲の話が出たので伺いたいのですが、その……この歌で歌われていることというのは、どういうことなんですか……

ZORN:どういうことというのは……?

はい……

ZORN:自分の子供が嫁の連れ子ということですね。

はい。曲を聴けばそのことが歌われているのはわかるのですが……。

ZORN:たぶん、こんなことを歌っているやついないし。(自分の子供は)連れ子でという……そこまで踏み込まないと届けられないと思います。自分がまずこう裸になって、ガッて踏み込んでいかないとって感じですね。

だからこそ、広く届く作品になっているのだと思います。いいアルバムをありがとうございました。




取材・文:山田文大(2016年12月14日)

Profile

山田文大山田文大/Bundai Yamada
東京都出身。編集者・週刊誌記者を経て、現在はフリーのノンフィクションライター兼書籍編集者。また違う筆名で漫画原作なども手がける。実話誌編集者時代には愛聴する日本人のラッパーの生い立ちにフォーカスし、全国のラッパーのフッドを巡り取材していた。最近は興味の矛先が歌舞伎や演劇に向いているが、それでも日常的に聴きたいラップがあり、そうしたラッパーを気の向くまま取材している。皆様にはお世話になっとります。

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