「!K7」と一致するもの

2022年の騒乱を乗り越えて、希望をもって生きるにはどうしたらいいのか?
日本を診断し、処方箋を提供する!

青木理、柄谷行人、ダースレイダー、望月衣塑子
雨宮処凛、岸本聡子、酒井隆史、篠原雅武、土田修、永井玲衣、二木信、本田由紀、水越真紀、三田格

菊判/192ページ

目次

序文 いまなぜ羅針盤が必要なのか(水越真紀)

インタヴュー
青木理 この10年で社会はどのように変質してしまったのか (土田修)
ダースレイダー 日本にないものをもう一度考えてから始める (水越真紀)
望月衣塑子 安倍元首相の銃撃事件以降、メディアはどう変わったか (土田修)
岸本聡子 オランダ帰りの政治家が日本を明るく照らす (二木信)
本田由紀 私たちにできることは、怒り続けることです。あらゆる手段を使って、怒り続けることですね。 (水越真紀)
柄谷行人 希望がないように見える時にこそ、「中断された未成のもの」として希望が、向こうからやって来るんです。 (土田修)

エッセイ
酒井隆史 暴力の時代の「知識人」たち
三田格 ぼっち・ざ・すていとおぶまいんど
雨宮処凛 必要なのは「死なないためのノウハウ」──2023年を生き延びるための知恵
篠原雅武 山上徹也は何を見つめていたのか
永井玲衣 一緒に座っている

コラム
二木信 再開発に反対するカルチャーの街・高円寺

表紙写真 小原泰広

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
Yahoo!ショッピング
HMV
TOWER RECORDS
紀伊國屋書店
honto
e-hon
Honya Club
mibon本の通販(未来屋書店)

P-VINE OFFICIAL SHOP
◇SPECIAL DELIVERY *

全国実店舗の在庫状況
紀伊國屋書店
三省堂書店
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
旭屋書店
有隣堂
くまざわ書店
TSUTAYA
未来屋書店/アシーネ

* 発売日以降にリンク先を追加予定。

Ben Frost - ele-king

 ベン・フロストの新作『Broken Spectre』を繰り返し聴いている。うごめく環境音のなかに身を投じるように浸っていると、世界と音の遠近法が刷新されていくような感覚を覚えた。音と世界が溶け合っていく。
 フィールド・レコーディング音が交錯していく実験的な作風だ。強烈なノイズとビートは姿を消し、どこかフランシスコ・ロペスを思わせる本格的なフィールド・レコーディング作品に仕上がっている。
 〈MUTE〉からのソロ・アルバム『Aurora』(2014)や『The Centre Cannot Hold』(2017)の系譜というよりは、『Dark』(2019〜2020)、『1899』(2022)などのサウンドトラックに近い作風ともいえる。しかしここでは「メロディ」はない。ここまで環境録音を全面化した彼のアルバムは初めてではないか。
 あえていえば、2003年に〈Room40〉からリリースされたアンビエント・ドローン作品『Steel Wound』の「トーン」に共通項を感じることができるかもしれない。じっさい『Steel Wound』の静謐な音のムードやトーンは確かに本作『Broken Spectre』にどこか似ている。その意味で、彼は19年の月日を経てもう一度、原点に回帰したのだろうか。
 いずれにせよフロストの根底にある「ノイズ」は、この『Broken Spectre』にも確かに横溢している。彼の作風はもとより音の実験性を追求しているものだが、本作ではそれが全面化したとすべきかもしれない。

 なぜそうなったのか。それにはアルバムの成立過程もある。音響作品『Broken Spectre』は、フロストとは長年仕事をしているフォトグラファー/アーティストのリチャード・モッセの同名映像作品『Broken Spectre』の音響なのだ。
 リチャード・モッセとフロストはこれでもMVなどでコラボレーションをおこなってきたし、コンゴの紛争地帯を赤外線フィルムで収めた『The Enclave』という映像作品でもともに作品を作ってきた(ちなみに『The Enclave』は7インチ・シングルとして2012年にリリースされた。フロストの作品系譜としては、この『The Enclave』の流れにあるとするのが正確かもしれない)。
 映像作品『Broken Spectre』はリチャード・モッセと撮影監督トレヴァー・トゥウィーテン、音響監督ベン・フロストの3人で制作された。映像版では衛星画像技術を用いたマルチスペクトル・カメラや熱に敏感なアナログのフォルムが用いられ、破壊されていくアマゾンの大自然を劣化していく映像で捉えているのだ。ジャーナルとアートとドキュメンタリーが交錯するコンセプチュアルな作品である。
 フロストの音響も同様にコンセプチュアルだ。「4分の1インチのアナログテープと、人間の耳には聞こえない超高周波音をとらえるために設計された、非音波録音システムの組み合わせを用いて音を取りこんだ」という。そして「この周波数スペクトルは、人にも聞こえるよう数オクターヴ低く再調整され、コウモリや鳥、昆虫の隠された通信を明らかにしている」ともいうのだ。
 つまりこのアルバム『Broken Spectre』では人の耳では察知できない森の音を抽出しようとしているわけである(ちなみにこの緻密な環境作品は、アビー・ロード・スタジオのでクリスチャン・ライトによってマスタリングされた)。
 じじつ『Broken Spectre』を聴いていると、音の生々しさと何か音響が拡張されていくようなふたつの感覚を得ることができる。不思議な感覚だ。聴いていると時間・空間感覚が変化していくとでもいうべきか。フィールド・レコーディング作品でありながら、サイケデリックな感覚の拡張がある。

 アルバムは全12トラックに別れている。どれも環境録音を全面に押し出した実験的な作風だが、トラックが進むにつれアマゾンの環境音の向こうにある「ノイズ」のような音が聴こえてくる。これが電子音なのか自然の発する音なのかは私には判別がつかないが、大切なことは、「自然の音の中にあってすべての音が融解している」ということにあるはずだ。世界の音は、多様であり、不思議であり、そして驚きに満ちている。『Broken Spectre』を聴き込むとよくわかる。
 とはいえただ「聴く」だけではこのアルバムの本質はみえてはこない。燃やされ、切り落とされ、破壊されゆくアマゾンの悲劇的な環境音を遠く離れたこの国で聴くためには、その表現や文脈を理解する必要がある。『Broken Spectre』は写真集という形でもリリースされているからそれを手にとってみるのもいいし、まずはバンドキャンプでのアナウンスを読み込むのも良いだろう
 このアナウンスでフロストは本作を「失敗の記録」と語っている。確かに大自然の破壊をおこなうことで文明を維持していくわれわれの社会は地球環境に対して「失敗」をしている。フロストは、アマゾンの環境音とともに問う。なぜわれわれは「失敗」(=環境破壊)し続けているのかと。この問題はとても重い。
 しかしそれでもなお、私はフロストによって録音された音たちを無心に聴き込むことが大切ではないかと思っている。アマゾンの自然の発する驚きに満ちた音たちは、どんな電子音響にもノイズ・ミュージックにもない驚きに満ちた音空間を生成しているのだから。驚きに満ちたサウンドスケープがここにある。

Sun Ra - ele-king

 そう、サン・ラーは、歴史上もっとも特異なジャズ・アーティストです。なにしろ自らの過去を消去し、生涯をかけてひとつの寓話を作り上げ、自身も最後までその物語の人物であることを演じきったのですから。地球を変えるために生まれ変わったとか、黒人の夢のなかで土星からテレポートされたとか、自らの出自からしていろんな説を唱えている彼は、同時に自らの奇観も磨き、パスポートもサン・ラーとして登録していました。〈インパルス〉が契約書を見せたとき、項目のなかに「地球での契約に限る」という一文を添えるよう要請したほどです。彼が音楽シーンに登場したとき、いや、登場してから何十年ものあいだ、ほとんどの地球人はその姿を侮蔑するか無視するか、敵視しました。こうした無理解やよくて奇異なるものをみつめる視線のなかでも、サン・ラーは動じる色をいっさい見せず、「地球人でない」「土星から送り込まれた」「黒人ではない」「存在さえしてない」という自分の物語をまげませんでした。
 面白いことに、21世紀も20年以上が過ぎた現在——、彼が地球での息を引き取ったのが1993年ですから、今年でちょうど地球脱出30年の現在、サン・ラーはしぶとい、いや、驚嘆すべき影響力をほこるジャズ・ミュージシャンのひとりとして認識されるようになっています。フライング・ロータスやムーア・マザー、セオ・パリッシュといった人たちの作品のなかにはサン・ラーが見えるし、ヤン富田やヨ・ラ・テンゴ、コンピュータ・マジックやエズラ・コレクティヴといった人たちはサン・ラーの楽曲をカヴァーしています。あのレディー・ガガもサン・ラーの代表曲のひとつ “Rocket Number 9” を借用しているのです。ますます価格が上昇する〈サターン〉盤を蒐集しているコレクターも世界中にいるでしょう。なかばポップアイコン化もしているようで、海賊版と思わしきサン・ラーTシャツが巷に増殖していたりもします。世代もリスナー層も超越し、これほど幅広くカルト的な人気を高め、地球上の生命体としては存在していないのにもかかわらず、年を追うごとに露出を増やしているミュージシャンは控えめに言ってもかなり稀だと思われます。

 現在、あるいはわりと最近の過去において、こうしたサン・ラー人気の広さ、根強さは、マイルスやコルトレーンに匹敵するという声があります。たしかにそうかもしれませんが、サン・ラーの音楽は、強烈な独奏者によるものではなかった。大所帯のアーケストラであること、集団で演奏することに彼はこだわった。集団で生活をともにすることにも意味を見出していた。それ自体がひとつのコンセプトだった、と言っていいくらいに。
 音楽家であり哲学者であり、勉強家であり、考古学者であり、童話の天文学者であり、学校の先生であり、無邪気な厭世家かつ夢想家であり、オリジナル・アフロフューチャリストであるサン・ラーは、およそ40年のあいだにじつに膨大な数のアルバムを録音しています。私たちは限りあるこの先の人生で、まだしっかり聴けていないサン・ラー作品があることを幸せに思ったりもします。……おっと、アーケストラはまだ活動中でしたね。
 
 ジョン・F・スウェッドによる『宇宙こそ帰る場所 ——新訳サン・ラー伝』は、世界で唯一のサン・ラーの評伝、サン・ラーが隠してきた彼の人生のおおよそすべてが描かれている本で、1997年に出版されて以来、世界で読まれ続けている名著と言える一冊です。サン・ラーの評伝とは、彼が消去した人生を物語ることにほかなりませんが、著者は、サン・ラーの難解な思想の糸(古代エジプト学、科学と考古学、黒人の民間伝承、オカルト学、象形文字など)を解きほぐしてもいます。本の虫だったサン・ラーは片っ端から書物を読んでいますが、それは生と死、空間と時間といった地球上の概念を超えて、調和を再統合するため、愛のためでした。 
 自己神話化の軌跡と、生々しい人間としてのサン・ラーを描いた400ページ以上の原書を、鈴木孝弥氏がおよそ1年半をかけて言葉を慎重に選び、日本語に変換することに成功しました。情熱的かつ読者に親切な氏は、多くの訳者註を加えています。また、原書に掲載された写真も、今後の研究においても重要な、本書の情報源や養分となった重要な文献類もすべて掲載してあります。日本語版は512ページになりました。大作なので、ゆっくり読めば1ヶ月は楽しめます。さらにもっとゆっくり読めば2ヶ月は宇宙遊泳できるし、迷っても大丈夫。宇宙こそ帰る場所(Space is the place)です。発売は1月31日。

ジョン・F・スウェッド(著)鈴木孝弥(訳)
宇宙こそ帰る場所──新訳サン・ラー伝

ジョン・F・スウェッド(John F. Szwed)
1936年生まれ。イェール大学名誉教授(人類学、アフリカン・アメリカン研究、映画学)、コロンビア大学名誉教授(同大学ジャズ研究センター教授、センター長を歴任し、現在非常勤上級研究員。グッゲンハイムおよびロックフェラー財団フェロウシップ。マイルズ・デイヴィス、ビリー・ホリデイ、アラン・ローマックス等々に関する著作が多数あり、その代表的なジャズ研究書『Jazz 101: A Complete Guide to Learning and Loving Jazz』(2000)は、『ジャズ・ヒストリー』として邦訳されている(諸岡敏行訳 青土社/2004)。また、CDセット『Jelly Roll Morton: The Complete Library of Congress Recordings by Alan Lomax』《ラウンダー・レコーズ/2005》のブックレット「Doctor Jazz」で、同年のグラミー/ベスト・アルバム・ノート賞を受賞している。

鈴木孝弥(すずき・こうや)
1966年生まれ。音楽ライター、翻訳家(仏・英)。主な著書・監著書に『REGGAE definitive』(Pヴァイン、2021年)、ディスク・ガイド&クロニクル・シリーズ『ルーツ・ロック・レゲエ』(シンコー・ミュージック、2002/2004年)、『定本リー “スクラッチ” ペリー』(リットー・ミュージック、2005年)など。翻訳書にボリス・ヴィアン『ボリス・ヴィアンのジャズ入門』(シンコー・ミュージック、2009年)、フランソワ・ダンベルトン『セルジュ・ゲンズブール バンド・デシネで読むその人生と女たち』(DU BOOKS、2016年)、パノニカ・ドゥ・コーニグズウォーター『ジャズ・ミュージシャン3つの願い』(スペースシャワーネットワーク、2009年)、アレクサンドル・グロンドー『レゲエ・アンバサダーズ 現代のロッカーズ』(DU BOOKS、2017年)、ステファン・ジェルクン『超プロテスト・ミュージック・ガイド』(Pヴァイン、2018年)ほか多数。
 

Sama' Abdulhadi - ele-king

 音楽は境界を越える──グローバリゼイションを大企業のみに独占させる必要はない。アンダーグラウンドなエレクトロニック・ミュージックのシーンでも、それは起こりつづけている。
 ヨルダンに生まれ、パレスチナのラマッラーでクラシック音楽を学びつつ、ヒップホップに親しんだサマ・アブドゥルハーディー。その後サウンド・エンジニアリングを学び、サトシ・トミイエのDJセットをきっかけにテクノを知った彼女は、今日ではDJとして世界各地を飛びまわっている。彼女こそ、パレスチナにテクノを持ちこむことに成功したパイオニア的存在だ。プロデューサーとしても活躍していて、ガザでの戦闘などを録音したコラージュ作品 “The Beating Wound” を残したりもしている。現在はパリを拠点にしている模様。
 2018年の Boiler Room への出演が大きな話題を呼び、一昨年、宗教上よろしくないとのことでパレスチナ自治政府が彼女を拘束した際には、釈放を求める署名が10万筆以上も集まったという。昨年はドキュメンタリー映像も公開。今年に入ってからはガーディアン紙がインタヴュー記事を掲載したりRAが特集記事を組んだりと破竹の勢いだ。ここ日本での公演はまだ実現していないが、じわじわと知名度は上がってきているにちがいない。
 越境するテクノDJに注目しよう。

Thomas Bangalter - ele-king

 ダフト・パンクの解散以来、トーマ・バンガルテルにとって初となるソロ・アルバム(通算2枚目)のリリースが先日発表された。題名は『Mythologies』。これがなかなか面白そうな内容なので、ニュースにします。
 トーマといえば「Spinal Scratch」を思い出すベテラン・リスナーもいることでしょうが、今回のアルバムは、ディスコでもハウスでもロボットでもありません、ボルドー国立歌劇場でのバレエ上演のために依頼されて制作したもので、音楽はボルドー・アキテーヌ国立管弦楽団によって演奏されている。全23曲、収録された楽曲はおもにバロック音楽とアメリカのミニマリズムに影響を受けているとのことのようで、エレクトロニクスはいっさい使われていない。詳しくは、ワーナークラシックのホームページをチェックしよう。予約は1月27日から、発売は4月7日です。


Thomas Bangalter
Mythologies
Warner Classics

 


Marcel Dettmann - ele-king

 清々しさすらもある真っ正面からストレートに突っ走るテクノ・アルバムであります。マルセル・デットマンのソロ・オリジナル・アルバムとしてはひさびさ、シングル群はさておき、大きな作品としては2017年の2作品、インダストリアルでダーク・アンビエントな、写真家と複数アーティストとのコラボ・プロジェクト『Rauch』、または同じくベルクハインのレジデントDJ、ベン・クロックとのコラボによるほぼアルバム大のEP「Phantom Studies」はありますが、2013年のセカンド『II』以来、およそ10年近く間が空いてのサード・アルバムが本作。
 リリースはお膝元の〈Ostgut〉ではなく、オランダの〈Dekmantel〉より。〈Dekmantel〉とマルセルの関わりと言えば、フェスはもちろんですがディガー・コンピ・シリーズの『Selectors 003』も手がけ、プレ・テクノでカルトなEBMやインダストリアル・エレクトロ方面の楽曲をコンパイルし好きモノを唸らせるということもありました。
 上記のリリース以外のアルバム間の大きな出来事としては、〈Marcel Dettmann Records〉(こちらは休止中?)とは別に、自身のレーベル〈Bad Manners〉の設立もあります。そちらは新たな才能も発掘しつつ、デトロイトのベテラン、アンソニー・シェイカーとのコラボやオーランド・ヴーンの作品、〈FAX〉などリリースで知られるドイツのベテラン、アンソニー・ロザー(Anthony Rother)、さらには本アルバムと同じ頃、フィンランドのこちらもベテラン、モノ・ジャンクの作品をリリースするなど、このベテラン勢のラインナップからもわかるように、なんというか「この人は本当にテクノが好きなんだな」という、素朴すぎるにもほどがある感慨も浮かんでしまう、そんなレーベル運営をしています。ちなみにサウンド的にもテクノ、もしくは『Selectors 003』の延長戦にあるようなエレクトロ~EBM的な方向性の楽曲をストイックに、といった印象です。

 さて話は戻って本作。おそらくコロナ禍の修養ということでしょうか、1日でアルバム1枚作れるぐらい楽曲を作るという、なんというかスポ根的な圧を自らに課して作りあげたのが本作だそうで、そうして生まれた膨大な楽曲群から選ばれたのがこの11曲ということなんでしょう。冒頭に書いたようにいやこれがまた寄り道一切なしのストレートにかっこいいテクノのアルバムです。
 イントロ的なダーク・アンビエント “Coral” からスタートしつつ、EBM的なベースラインがスウィングする “Suffice to Predict”、ヒプノティックな “Renewal Theory” の冒頭、それこそキックのひとつ、ドラム・キットの打ち込みだけでテクノにおける語彙力の高さが鋭く伝わってくるストレートなサウンド。
 インタールード的なコズミック・アンビエント “Transport” をはさんでの、同じく〈ベルクハイン〉で活躍するライアン・エリオットをポエトリー・リーディング的にフィーチャーしたチルな雰囲気の “Water” やもしくは後半の “(Batteries Not Included)” “Picture 2020” といった楽曲の抑制したムードもぐっとアルバム全体の流れへと聴く者を引き込みます。
 良い音響のフロアで聴いたらひたすら気持ち良さそうな “x12”、さらには痙攣するサイケデリックな電子音が旋回する “Pxls”、パーティのエンディングを予期させる “Reverse Dreams” などなど、アルバムの流れも含めて、一聴はモノトーンで淡泊な印象ですが、そこにはテクノの滋味とでも言えるような美学で、そぎ落とされたミニマルな構成でシンプルにアルバムとして聴かすサウンドを展開しています。

 わりと中庸というか、さまざまな要素を組み込むことで型を崩し続けるDJカルチャー、一方でDJミックスというある種のルールのなかでフォーマットの美学を貫くのもDJカルチャー。なんというかここ数年は前者のなかから出てきたサウンドにめざましい動きもありますが、本作は後者のタイプのなかで、とにかくハイクオリティの、特にストレートなテクノというカテゴリーにおいてなかなかに魅力ある音楽性で、2022年の最後によく聴いたアルバムとなりました。ずっしりと積層したアンダーグラウンドのテクノのカルチャーの上に、まさに質実剛健なスタイルで新たなハイクオリティーな層を重ねていく、そんな作品。ある種のマルセルの、自らが属するコミニティや歴史への愛を感じることもできるのではないでしょうか。

LEX - ele-king

 初めて発表した曲は XXXテンタシオンのリミックス。それが14歳のときだというから早熟だ。2019年に16歳で初のアルバムを送り出した若き湘南出身のラッパー、LEX はその後〈Mary Joy〉とサインし、この4年ですでに4枚ものアルバムを送り出している。近年の日本のラップ・シーンを牽引する代表的プレイヤーのひとりだ。
 彼はラップをメッセージをこめることのできるアートフォームとして大いに活用してもいる。たとえば1年前に発表された “Japan”。ニルヴァーナ風のトラックをバックに、抽象的な発声で「若者金ない 大人も病んでいる/なのにこの国はシカトをかます/大胆な演説をカマして何度も嘘をつく」「不満がある奴は俺と叫んでくれ」とラップされている。あるいはセカンド収録の “GUESS WHAT?” のMVには国会答弁中の安倍元首相が映し出されていたり。「若者の政治離れ」なんて言ったのはだれだ? すくなくとも LEX はまったく萎縮していない。
 というわけでエレキング注目のラッパーが本日、5枚目のアルバム『King Of Everything』をリリースしている。今回の新作にも “大金持ちのあなたと貧乏な私” なる、ロミオとジュリエット的な格差社会を思わせる曲が収録されている。ぜひチェックしてほしい。

LEXが最新アルバム『King Of Everything』をリリース!
LEXをフィーチャーしたAmazon MusicとGQ JAPANのコラボドキュメンタリー「RPZN Stories」が配信開始。

湘南出身のアーティストLEXのニューアルバム「King Of Everything」が本日リリースされた。

客演にJP THE WAVY、Young Coco、Young Dalu、Leon Fanourakis、Only U、ShowyVICTOR、UKのBEXEY、USのMatt OxやKid Trunksなど国内外のアーティストを迎え、LEXらしいレパートリーに富んだ17曲を収録している。

また、アルバムの制作中に撮影されたAmazon MusicとGQ JAPANとのコラボレーションドキュメンタリー「RPZN Stories」が、GQ JAPANのYouTubeチャンネルにて配信開始された。ドキュメンタリーの中で、LEXは自身のキャリアにおける葛藤やメンタルヘルスにまつわるパーソナルなエピソードを赤裸々に語っており、家族や仲間からの証言を交えて、普段のSNSやライブでは知れないLEXの意外な一面を見せている。

LEX - King Of Everything
https://lexzx.lnk.to/KingOfEverything

Tracklist:
01. GOD (produced by 1bula)
02. King Of Everything (produced by VLOT, MrOffbeat, kaaj & evanmoitoso)
03. Killer Queen (produced by Trippop)
04. Busy, Busy, Busy (feat. Only U) (produced by june)
05. 金パンパンのジーンズ (feat. Young Coco & JP THE WAVY)
06. READYMADE (feat. Leon Fanourakis) (produced by k4stet)
07. 1/3 (feat. Kid Trunks)
08. Hertz (feat. Matt Ox)
09. Move (feat. ShowyVICTOR) (produced by DJ JAM)
10. LOVE PISTOL (feat. Young Dalu) (produced by FOUX)
11. Strength blindness (feat. Only U) (produced by Dee B)
12. Come To My World (feat. BEXEY)
13. This is me
14. 大金持ちのあなたと貧乏な私 (produced by In Bloom)
15. If You Forget Me (produced by eeryskies & Arcane)
16. Need It (produced by Kevin Jacoutot)
17. 庭の花 (produced by prodkult)

Artwork by Anton Reva, Photography by Uran Sakaguchi, Motion Cover by FROMKIERAN
Mix & mastering by KM, except #2 “King Of Everything” by VLOT. Contributors: KM, VLOT, DJ JAM & STEELO

「RPZN Stories」
GQ JAPAN YouTube チャンネル 【1月25日(水)9時30分より「RPZN Stories」配信】
https://www.youtube.com/watch?v=e0uB-_IRgC4

LEX (レックス) Profile:
湘南出身、2002年生まれのヒップホップ・アーティスト。天性のメロウボイスと、攻撃的な楽曲とのギャップ、感情むき出しのリリックがユース世代を中心に熱狂的な支持を得ている。14歳からSoundCloudに楽曲をアップロードしはじめ、2019年4月、16歳のときにファースト・アルバム『LEX DAY GAMES 4』で衝撃的なデビューを果たす。2019年12月にセカンド・アルバム『!!!』、2020年8月にサード・アルバム『LiFE』を次々と発表。2021年にはBAD HOPやJP THE WAVYらの作品に客演参加し、ロンドンのBEXEYとのコラボEP「LEXBEX」、横浜のOnly U & Yung sticky womとのコラボEP「COSMO WORLD」を発表するなど、勢いは更に加速。8月にJP THE WAVYを客演に迎えたシングル “なんでも言っちゃって”、9月には4枚目となるアルバム『LOGIC』を発表し、同年GQ Men Of The YearのBest Breakthrough Artistを受賞するなどその活動が高い評価を受けた。

2022年3月にSoundCloud初期音源と未発表曲をコンパイルした『20 (Complete Mixtape)』を発表。4月には10代最後となるシングル “大金持ちのあなたと貧乏な私” をリリースし、8月からはZepp Yokohama、なんばHatch他6都市を周る “With U Tour” を成功させた。メンタルヘルスの問題も抱えながらプレッシャーや葛藤と向き合い、2023年1月に満を持して5枚目のアルバム『King Of Everything』を発表する。

2021 GQ Men Of The Year Best Breakthrough Artist
2022 Space Shower Music Awards Best Hip Hop Artist

Personal Trainer - ele-king

 ある日、Canshaker Pi のギタリストであるウィレム・シュミットの頭にひとつのアイデアが浮かんだ。オランダ東部の街ヘンゲロのライヴ・ハウスのステージの上、新しく組んだバンド、パーソナル・トレイナーの2回目か3回目のライヴで彼は次の出番に向けて退場せずにこのままステージに残ってギターを弾き続けたらどうなるだろうと考えたのだ。それは利便性と好奇心から来るアイデアだった。自分はこの日に出演するスティーヴ・フレンチでもギターを弾いているし、バンドの他のメンバーはこの後に出るテディーズ・ヒットのメンバーでもあって、どのバンドもメンバーが重なっていたし、友だちでもあるんだからとウィレムはこの考えをさらに推し進めた。そして彼とその仲間たちは3回に分けてステージに登場するのではなく、そのまま続けて次のバンドに接続して、3つのバンドでひとつのステージを作り上げることに決めたのだ。「それがめちゃくちゃ興奮したし楽しかったんだよね。だから他の人とも同じようにできたら最高だって思ったんだ」。後にウィレム・シュミットはこの日のことをそう語っているが、これがアムステルダムを拠点に活動する、出入り自由、ルールがないことがルールのコレクティヴ、パーソナル・トレイナーの始まりだった。
 そうしてパーソナル・トレイナーの活動は勢いを増す。ウィレムの頭に次々とわき出てくるアイデア、スコット・ピルグリムみたいなスリーピースのスタイル、ヒップホップのバックトラック、ピアノのバラッド、ついにはメンバーが入れ替わり立ち替わり演奏する24時間の配信ライヴまで。好奇心とユーモアに突き動かされて行動するウィレム・シュミットのこの姿勢はピップ・ブロム、キィテンズ、グローバル・チャーミング、ア・フンガスといったオランダのシーンを形作るバンドを巻き込みそのエネルギーを音楽に変えていった。自分以外の他の誰かとの接続、他の感性との接続、他のバンド、シーンとの接続、それらがこの集団を勢いづかせ、その度に皆で集まり大きな音を鳴らすという根源的な喜びを思い出させてくれた。そうしてそれは国を飛び出しヨークのブルやブリストルのホーム・カウンティーズなどのUKのバンドをもメンバーに加えるまでになった。それは現代的で、奇妙で、そしてとても魅力的なプロセスだった。世界は遠くて近く、共通するものに憧れる感性を接続ポイントにして、あっという間に結びついてしまうのだ。

 たとえば彼らのアンセムにもなっていて、この1stアルバムにも収められている “The Lazer” という曲についてこんなエピソードがある。2019年にヨーロッパ・ツアーを回っていたスポーツ・チームが、アムステルダムでパーソナル・トレイナーのこの曲を聞いて興奮し、メンバー同士で向き合い「俺たちこのバンドとサインすべきだよな」とその場で自身のレーベルからリリースすることを決めたというのだ(その後実際にスポーツ・チームを主宰するレーベル〈Holm Front〉から7インチのシングルと10インチのEPがリリースされた)。このときのスポーツ・チームの言葉を借りれば「俺たちよりもペイヴメントに似ているバンド」、パーソナル・トレイナーはそんな風に人を惹きつけその活動に接続させるそんな魅力を持っている。

 そこから少し時間が経ち、ラインナップのコア・メンバーが確立されメンバーの出入りが少なくなったものの(それは少しフットボールのチームができる過程にも似ているのかもしれない)パーソナル・トレイナーは変わぬ衝動と楽しみむ心を持ち続けている。そうしてリリースされたこの1stアルバム『Big Love Blanket』にはストレートでひねくれた実験的な曲たちが詰め込められている。これまでの過程で得た感性が混ぜ合わされながら、揺らめき動き、再び自身の原点に返ってくるみたいなそんな曲たちの連なり。ウィレム・シュミットの独唱ではじまり、そこに少しずつ音が重ねられ、メンバーの声が集まってくるタイトル・トラック “Big Love Blanket” は仲間を集めながら形を変えて活動していったパーソナル・トレイナーのここまでで旅路の縮図のように思えるし、そこからライヴで何百回と演奏された “The Lazer” に流れて込んでいくのはなんとも気分が高揚する(この曲はつまり他の誰かと接続するために作られた曲だ。だからあっという間に心が沸き立つ)。
 ひねくれつつユーモアたっぷりにすすむ “Rug Busters” に “Key Of Ego”、ストリングスを交え静かに情感に訴えかけてくる “Milk” はLCDサウンドシステムの “New York, I Love You but You're Bringing Me Down” を彷彿とさせるし、“Texas In The Kitchen” では違った形(メランコリックなインディ・ギター)でより直接的に心を揺さぶる。「もっとオアシスみたいな音にしたい」という思いのもとギターのオーヴァーダブを重ねた “Former Puppy” は黄金の90年代への憧憬を抱え、かえってその当時の曲よりもずっとノスタルジックに響く(そのせいでふとした瞬間に、オアシスのギターにスティーヴン・マルクマスのメロディが乗ったらというような妄想を抱かせる)。ウィレムの言うようにそれは「偽のノスタルジア」なのかもしれないが、実際に存在しなかったものだからこそ現実の壁を越えて頭の中で広がっていくものなのかもしれない。パーソナル・トレイナーの音楽の中に存在する、共通の思い出(90年代・00年代の優れた音楽たち)、それにまつわる出来事が心の奥底に眠る感情を喚起させ、そしてそれが愛おしさを連れてくるのだ。

 愛とユーモア、アイデアと実行、喜びに楽しみ、そしてわずかな孤独、それらが入り交じり生み出された音楽がパーソナル・トレイナーを「俺たちのバンド」たらしめる。ステージの上の憧れではなく、日常と接続可能な俺たちのバンド。その日常の鈍く輝くきらめきが何度も胸を締め付ける。こうした音楽を愛おしく感じるのは、きっとこれから先の未来の世界でも変わらないのかもしれない。それはコミュニティの中、生活の中に潜む日常の愛おしさで、その何気ない日々の中に過去と未来が息づいている。

Jeff Mills - ele-king

 ジェフ・ミルズが『メトロポリス』をリリースしたのは2000年のこと。ダンスフロアに近しいテクノ・アーティストが “コンセプト・アルバム” をリリースすることがまだ珍しかった時代で、その後立て続けにアルバムを発表するジェフ・ミルズだが、じつは4枚目のアルバムだった。またそれは、1927年のドイツで制作されたSF映画の古典に新たな音楽を加えるという、じつに大胆な試みでもあった。
 リリース当時、ジェフの音楽付きの上映会が青山CAYで行われたことを思い出す。テクノロジーとロボット、メトロポリスの支配者、そして上流階級と労働者たちに階層化された社会を描いたこの映画にジェフのエレクトロニック・サウンドが重なると、それはたしかに現代のメタファーとなりうる。 
 2000年にリリースされ、2010年にいちどリイシューされたこの『メトロポリス』が、この度『メトロポリス・メトロポリス』としてまったく新しく制作され、3月3日に〈アクシス〉よりリリースされる。
 『メトロポリス』は、オリジナルは147分の大作だったが、フリッツ・ラングの意思とは関係なく、商業的な理由でこれまで勝手に縮められて(エディットされて)、上映されてきている。が、しかし、2010年に失われたフィルムが見つかり、完全復刻したのだった。それで、シネミックスのイベントを依頼されたことをきっかけに、ジェフがあらたに作り直すことになったという。なので、じっさいに制作した音源は147分あるそうだが、リリース用に収録曲は編集されている。それでもアナログ盤で3枚組だが。また、ブックレットではTerry Matthewというシカゴのジャーナリストが素晴らしい文章を寄せている。いま混乱し、階層化され、映画のようにいつ労働者たちの反乱が起きてもおかしくないこの世界で、なぜ『メトロポリス』なのかを、みごとに理論づけている。そう、これは注目のリリースなのだ。
(ちなみに同古典SF映画はテクノ・アーティストに人気で、ジョルジオ・モロダーはリメイク版『メトロポリス』の音楽を手がけ、クラフトワークは “Metropolis” 、クラスターのメビウスは『Musik für Metropolis』を作っている)


Jeff Mills
Metropolis Metropolis
Axis Records

日本のレコード店には、3月下旬にアナログ盤、CDが発売される


ShowyRENZO - ele-king

 死が迫ってくるような作品だ。
 Lit した炎が消えるまでの時限爆弾のように、死が襲ってくる。

 ShowyRENZO はペルーの血をひく茨城出身のMC。そのコールするような刻んだラップはプレイボーイ・カーティ以降、いわゆるケン・カーソンやコチースといった気鋭のラッパーのモードを踏襲しているように見えるし、日本語/英語の単語の並びを独自に入れ替え、意味より音を重視するように区切っていくスタイルは LEX 的とも言える。ヒップホップ・コミュニティにおいては『ラップスタア誕生!2021』のファイナルで鮮烈な印象を残したことで一気に知名度を高めた彼だが、2022年には勢いそのままに傑作アルバム『2022』をリリース。本作『FIRE WILL RAIN』は、止まらない ShowyRENZO 節を知らしめるだめ押しの一枚である。

 たとえば、90分の間に決着をつけなければならないフットボールというスポーツの焦燥感をメッシ経由で持ち込んだ “Pink Messi” において、彼は「好きなだけ俺の愚痴いいな/それで満たされるならいいな/I’m sorryあんまり時間がないな/死神が迎えにきた」とリズミカルに歌う。死へのカウントダウンが始まっているかのような焦りは、前作『2022』収録の “シナリオ” でも弾むようなステップでこう披露されていた──「俺は楽しんでる/死神、死を操ってる/俺は毎晩楽しんでる/いつ死んでも良いわけじゃないけど/いつでも俺は準備できてる」

 金を稼ぐ、成長する、俺は凄い、俺はまだまだ昇りつめる。現代における多くのラッパーがそうであるように、ShowyRENZO もまたネオリベラリズム社会における果てしない成り上がりを目論む。彼がゲームへと新たに持ち込んだのは、〈時間〉という概念だった。「I just今smoke I just今smoke」と忙しなく連呼する “Smoke Sports” や「マジで/マジで/マジで」と威勢よい声を小刻みに発する “Stress by” といった曲では、とにかく〈今〉が大事なのだ、悠長にセンテンスを作りラップなんてしている時間はないのだ、と言わんばかりに瞬間の一フレーズに賭ける態度が迫ってくる。もはやリリックと呼ぶことを憚られるかのような、ワードのつぎはぎとしてのラップ。そのスタイルについては、『ラップスタア誕生!2021』での審査員コメントで「雰囲気だけになっちゃう可能性がある」と指摘されていたこともある。

 前作『2022』に収録され、彼の中にある政治性が顕在化した “死と税金” という曲はとりわけ重要だ。ここでもまた、細かく刻むようなラップで彼は次のように吐露する。「ソファに座ってチルしてる/相変わらず目が空いたまま夢を見てる/Like夜神月/Deathnote世界を変える/俺が選ばれてる俺が選ばれてる/死神が見える死神が見える/死か生きる賭ける/likeこれイカゲーム/逃れ逃れない/逃れ逃れない/死と税金/逃れない」。彼が唐突に引き合わせる〈死〉と〈税金〉は一見遠いもののようにも思えるが、ハスリングやゲットーを通じ資本主義を描いてきたヒップホップにおいて、それはむしろ並べ提示されて然るべきテーマであり、あたかも並列なものとして配置する批評眼にこそ ShowyRENZO のヒップホップ的な神髄が宿っていると言ってよいだろう。だからこそ、彼が走り抜けるように死と税金についてラップする様子は、つまり国家の規制に対し「好き放題自由に稼がせろ」と主張しているようにも見えるし、同時に「(たくさん税金とられるくらい)こんなに稼いだぜ」というボースティングにもなっている。

 ただ本作は、その権力への反抗や成り上がりへの自己言及が、徹底して軽さを極めていく技術とともに表現されている点が重要だ。近年、いつしかヒップホップにおけるセルフボースティングは〈型〉となり〈ルール〉となり、突き詰められていった結果重量感を失いますます〈自らに対する励まし〉に転化しつつ、時にユーモアすらも内包するようになった。事実、“APOLLO” はリリックとラップの相乗効果によって、破綻/破滅と紙一重のユーモラスさが浮き上がっているではないか。「Gotta go hard/ステージの上で/カッコつけ/恥とかねぇ/恥があるならもうやめ」から「紙神紙神」と受け(薄っぺらな紙と重々しい神との対比!)、「Picasso/Picasso/Picasso/Picasso」と連呼したうえで「I’m ok/そのcase/kkk ok we ok」と自らを肯定し励ますようひたすら繰り返す「OK」。それはまさにアルバート・バンデューラ的な自己効力の作用に近いものがあり、いつしか素朴な自己啓発の標語のごとき軽さへと接近する。

 軽いワードをリズミカルに発し、ただただ並べ、ユーモアとぎりぎり紙一重の「俺はできる」を貫徹すること。その浮遊するような重力のなさは、かつて加速するネオリベラリズム下における資本主義社会の様相を鋭く綴った SCARS の〈重さ〉とは隔世の感がある。彼らは “I STEP 2 STEP” で「悩めるこの街で稼ぐだけだから/日々重さを増す体/日々重さを増す責任」とラップした。ShowyRENZO は本作のハイライトである見事なナンバー “火をつける” で、ジャージー・クラブの軽やかなリズムに乗せて軽薄にワードを連ねる。「火をつけるLit/早く起きてburning/息を吐くよmorning/結局のところ今がやばい/果てしない終わらない/時間より早い/軽くてやばい/増やしてマニー」と。

 ShowyRENZO の魅力とは、「雰囲気だけになっちゃう可能性がある」というスタイルに対し、むしろそこに宿る価値観を逆手に取り突き詰めていくことで、ある種の軽妙さを獲得しながら死へと向かっていく点にこそあるのだ。ゆえにその徹底した軽さは、これもまたユーモアすれすれなほどドラマティックにサンプリングされる “火をつける” での一幕で、次のような歌詞とともに結ばれる。「私が生きている他に何もない/たった一人のものだから/どんな明日もこわくない」

 私が生きている他に、何もない。
 生きている他に、何もない!
 あぁ、この〈死〉を前提とした軽さ!

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972 973 974 975 976 977 978 979 980 981 982 983 984 985 986 987 988 989 990 991 992 993 994 995 996 997 998 999 1000 1001 1002 1003 1004 1005 1006 1007 1008 1009 1010 1011 1012 1013 1014 1015 1016 1017 1018 1019 1020 1021 1022 1023 1024 1025 1026 1027 1028 1029 1030 1031 1032 1033 1034 1035 1036 1037 1038 1039 1040 1041 1042 1043 1044 1045 1046 1047 1048 1049 1050 1051 1052 1053 1054 1055 1056 1057 1058 1059 1060 1061 1062 1063 1064 1065 1066 1067 1068 1069 1070 1071 1072 1073 1074 1075 1076 1077 1078 1079 1080 1081 1082 1083 1084 1085 1086 1087 1088 1089 1090 1091 1092 1093 1094 1095 1096 1097 1098 1099 1100 1101 1102 1103 1104 1105 1106 1107 1108 1109 1110 1111 1112 1113 1114 1115 1116 1117 1118 1119 1120 1121 1122