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a fungus

Indie Rock

a fungus

It Already Does That

Subroutine

Casanova S.   Jul 06,2022 UP

 何かがはじまる瞬間はいつだってワクワクするものだ。たとえばそれはブラック・ミディの “bmbmbm” を初めて聞いたあの瞬間だったりブラック・カントリー・ニュー・ロードのライヴの映像を見たときのドキドキだったりで、そこに漂っている空気が何より先に心をとらえて放さない(それに惹かれる理由はたいてい後からでっち上げられる)。それが単発でももちろんいいけれど、続けざまに起こるようなら最高だ。爆発が導火線に火をつけてさらなる爆発を引き起こす、心の中で巻き起こる爆風が目の前のそれをシーンと認識する、そのドキドキを覚えているからこそ新しい音楽を聞いてここから何かがはじまるのではとその可能性に思いをはせてついついワクワクしてしまう。

 だからいまオランダから出てくるバンドたちに対して心が躍るのは当然なのかもしれない。イングランドのレーベルからリリースするピップ・ブロムやパーソナル・トレーナー周辺のバンドが頻繁にUKツアーをおこない地元のバンドと友好を深める。そうやってオランダのバンドの情報がイングランドに渡り、UKの各地を回ったバンドがその空気を持ち帰りそれが伝播していく。〈Speedy Wunderground〉からヴェルヴェット・アンダーグラウンドの影響を強く受けたロッテルダムのバンド(リューズバーグ)がリリースされて『ソー・ヤング・マガジン』を通してそれが知らされる。そんなふうにしてオランダのバンドたちはUKのバンドと共鳴する。数年前から続くこの流れが22年になってさらに加速しているようにも思える。それをいま、このア・フンガスの『It Already Does That』が確信に変えるのだ。

「アムステルダムを拠点に活動するア・フンガスは明確な方向性なしにノイジーなティーン・ロックを奏でている」。そんな短い一文のみで紹介されているこの謎多き4人組についてはっきりとわかるのはこのバンドが刺激を受けたり影響を受けたであろうバンドたちだけだ。初期のもっとポストパンク然としていたブラック・ミディにスリント、ブラック・カントリー・ニュー・ロード、そして90年代USのオルタナティヴ・バンドたち。マス・ロック、ノイズの要素をそれらに加えア・フンガスは何かがはじまる瞬間のあの匂いをこのアルバムの中に封じ込めている。“Mark's Bag” はブラック・ミディの爆発にペイヴメントのメロディを載せたかのように響き、“Slip and Slide” は “Speedway”(ブラック・ミディの〈Rough Trade〉所属発表と同時に公開されたあの曲だ)と同じようなところから出発して長いインストを経由し最終的に柔らかな切なさに包まれた90年代USの輝くメロディに回帰する。“Is this The Right Structur?” そしてそれに続く最終曲 “Pull Out” はもっと直接的にスティーヴン・マルクマスに影響を受けたような曲で、ギターはもとよりヴォーカル・メロディにその影響が強く出ていることがよくわかる。そしてこれこそがこのオランダのバンドを最大限に特徴付けているものだと僕は思う(喋るように唄うことは決してしなく、この歌メロがあるためにそれらよりもっとずっと明るく響く)。サウス・ロンドンのバンドと共鳴し同じ音楽的遺伝子を共有しながらもそこに違う文化が混ざりアウトプットが変わっていく、それは世界に広がったサラブレッドの血統にも似ていて、それがなんとも面白い(同じ父を持つ競走馬でも母系でその特徴ががらりと変わり、代を経るごとに別物になっていく)。

『It Already Does That(それは実現されていること)』というタイトルをつけられたこのアルバムは昔の音楽への憧憬といまの世界への情熱が入り交じっている(ひょっとしたらそれは自分たちのデビュー・アルバムを『Versions Of Modern Performance(現代的なパフォーマンスのヴァージョン)』と名付けたシカゴのホースガールも同じなのかもしれない)。時間と場所と空間が交差する解釈の時代に生きる僕たちは、だからこそその空気をことさら重要なものだと感じるのだろう。未来に起こることはすでに過去に起こったことかもしれないが、これから何かがはじまるのではないかという期待感は何度でも心を躍らせる。ア・フンガスのこのアルバムにはこれから何かが起きるのではないかというそんな空気が漂っていて、それが胸を高鳴らせるのだ。

Casanova S.