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Home >  Interviews > interview with Black Midi - ロンドンの新世代ロック・バンド、クラシックについて語る

interview with Black Midi

interview with Black Midi

ロンドンの新世代ロック・バンド、クラシックについて語る

──ブラック・ミディ、インタヴュー

序文・質問:天野龍太郎    通訳:青木絵美   Jun 16,2021 UP

 ブラック・ミディの存在は、2018年からロンドンより漏れ伝わってきていたものの、情報は少ないし、レコードも聴けないし、彼らを知るすべといえば、おもにルー・スミス(Lou Smith)が撮影したウィンドミルでのライヴ映像だった。そして、2019年、2つのシングル(アルバムには収録されていないけれど、ラフ・トレードからのファースト・シングル「Crow’s Perch」にはほんとうに興奮した)とデビュー・アルバム『Schlagenheim』で、彼らはじぶんたちがどんなバンドなのかを、ようやくはっきりと示した。聴き手の前にぬっと現れた、奇妙でいびつなかたちをしたその音楽は、まるでキング・クリムゾンが1969年が1984年までの間にリリースしたレコードをぎゅっとひとまとめに固形化したような、あるいはジョン・ゾーンが指揮を執ってポップ・グループとシェラックがいちどきに演奏しているような、とにかく強烈なものだった。つまり、破格の存在感を放っていたのだ。

 ブラック・ミディの演奏は常に性急で、なにかから追われているかのように切迫した感覚があるのがよかった。それでいて、どんなポスト・パンク・バンドよりもうまく、タイトで、おまけに自由に伸び縮みするプレイを聴かせていた(その様子を知るには、彼らを一躍有名にしたKEXPでのパフォーマンスを観るのが手っ取り早い)。それに、セッションがベースにある彼らのライブとレコードには、ロック・コンボで演奏するよろこびが宿っていた。ブラック・ミディの音楽を聴いていると、4人の人間が手足と喉と4つの楽器を使って、音によるコミュニケーションをしている様子がありありと伝わってくる。だからこそ、演奏のなかに、なんとなく予感や余白、可能性が残されているように感じられるところもよかった。

 ただ、ブラック・ミディの4人は、居心地のよいところに安住せずに、定型化や様式化を忌避して、早くも新しい表現を模索している。というのも、このセカンド・アルバム『Cavalcade』は、セッションではなくコンポジションとアレンジメントによる孤独な作業を深く追求して、それをバンドに持ち寄って演奏したことで完成された。ギタリストのマット・クワシニエフスキー・ケルヴィンはメンタル・ヘルスの問題によって現在バンドから離れているため、作曲のみの参加に留まるが、サポート・メンバーのサクソフォニストであるカイディ・アキニビ(Kaidi Akinnibi)とキーボーディストのセス・エヴァンズ(Seth Evans)らの助力によって、音はかなり厚みを増した。そのあたりの内情やプロセスは、次のジョーディ・グリープへのインタヴューでたっぷりと語られている。とくに、クラシカル・ミュージックについての情熱的な語りには、『Cavalcade』が纏っているエレガンスの出どころが見えてくるんじゃないだろうか。

 2019年に日本でインタヴューした時のジョーディ・グリープは、移動や取材が重なっていたためか、ちょっとナーバスなムードを醸し出していた(そのときの記事は、インディペンデント・ファッション・マガジン『STUDY7』で読める)。でも、今回はかなりリラックスして話してくれたみたいだ。この見慣れない「隊列」がどうやって組まれ、どこからやってきて、さらに次(サード・アルバム)はどこへ向かって行くのか。『Cavalcade』がどうやらバンドにとって通過点でしかないことが、さまざまな固有名詞やエピソードに彩られたジョーディの語りから伝わってくる。

子供のころからポピュラー・ミュージック、ロック、ジャズとかに加えて、常にクラシックを聴いていた。だから、自分の音楽にもクラシック音楽からのインスピレーションをいつも取り入れるようにしている。

以前インタヴューした際、ジョーディさんがゲームの『ギターヒーロー』で演奏を学んだと楽しそうに語っていたことをよく覚えています。『Stereogum』のインタヴューでは、インスパイアされたものとして『タンタンの冒険』を挙げていましたが、そういった子どものころに触れたもので現在もバンドに活かされているものはありますか?

ジョーディ・グリープ(以下、GG):子どものころは『ルーニー・テューンズ』や『トムとジェリー』が大好きで、そういうアニメをたくさん観ていたよ。番組で流れるドタバタ感のある音楽が大好きだったんだ。ブラック・ミディの音楽をやるときも、それに似たような、直感的な衝撃やエネルギーを音楽に持たせたいと思っている。
 それから映画もたくさん観ていたね。(アルフレッド・)ヒッチコックの映画とか、ウディ・アレンの映画とか。かなり前に、そのあたりの映画をたくさん観ていた。特に、『ウディ・アレンのバナナ』(1971)や『スリーパー』(1973)といったウディ・アレンの初期の作品なんかをね。

そういう経験は、いまも音楽に反映されていますか?

GG:そう思うよ。俺たちが長年好きだったもののすべてが、いまの音楽に反映されていると思う。

新作『Cavalcade』では、インプロビゼーションやジャム・セッションで作曲された前作『Schlagenheim』とは対照的に、メロディやコード・プログレッションの妙など、コンポジションに重きが置かれているそうですね。作曲の段階ではメンバー個々の孤独な作業になるのでしょうか? それとも、作曲中にも意見交換をするのでしょうか?

GG:どちらのパターンもあるけれど、最近多いのは、個々で曲をすべて完成させるほうだね。少なくとも、俺は曲を全部完成させてから他のメンバーに聴いてもらうほうを好む。その理由は、自分の曲を自分でコントロールしたいからかもしれないし、完璧主義だからなのかもしれない。それに、そのほうが曲に継続性があるんだ。曲の終盤が、曲の序盤と合っていなかったり、曲のある部分が残りの部分と調和したりしていなかったら、よくないだろう? でも、曲の、音楽の部分だけを完成させて、それを他のメンバーに紹介して、他のメンバーが歌詞を書いたり、ヴォーカルを加えたりするという共同作業はあるよ。

なるほど。では前作と比べて、もっとも対照的な作りかたになった曲は?

GG:“Marlene Dietrich”と“Hogwash and Balderdash”とアルバム最後の曲“Ascending Forth”、それからアルバムには収録されていない“Despair”(国内盤にボーナス・トラックとして収録)という曲は、俺が自宅で作曲したから全部俺が作って、「これができた曲だよ」とみんなに紹介したものだよ。“Diamond Stuff”も同様に、(ベーシスト、ボーカリストの)キャメロン(・ピクトン)がすべて自宅で作った曲だ。だからいま挙げた曲はすべて、ファースト・アルバムの大部分の曲とはまったく対照的な作り方になっているね。

リズムやグルーヴに対する考えかたは変化しましたか?

GG:とくに変化していないと思うけど、今回作った曲の方が複雑になっているし、従来の構造に倣って作られているからリズム・セクションに関してもやりがいがあったんじゃないかな。つまり、(ドラマーの)モーガン(・シンプソン)が曲を聴いて、どういうリズムを加えるのかを考える際に、今回のアルバムの曲には様々な要素が既にあったから、いろいろな可能性を感じられたと思う。おもしろく聴こえるような曲にするために、その曲の流れに合わせてクレイジーなおもしろいリズムを加えたというわけではなくて、今回の曲にはリズムが既に存在していた。だから、そこにあった自然のリズムを活かして、それを前面に出していった、という感じ。

アルバムに全面的に参加しているサクソフォニストのカイディ・アキニビ、キーボーディストのセス・エヴァンズについて、どんなミュージシャンなのか教えてください。

GG:カイディと俺たちは同じ学校(ブリット・スクール)だったからもう8年の付き合いになるんだ。セスはロンドンでライブをやっているときに知り合った。俺たちが当時やっていた他のバンドでセスも一緒にやっていたんだよ。

 俺とカイディは、もう何年もいろいろな音楽を一緒にやってきている。だから、サックス・プレイヤーを入れようとなったときに、カイディに頼むのは自然な選択肢だった。カイディのいいところは、熟練した演奏者であると同時に、俺たちがやろうとしているどんな種類の音楽に対してもオープンだし、クレイジーな音楽に対してもオープンだというところだ。彼もクレイジーな音楽を色々と聴いているからね。一緒に音楽をやるには最高だよ。
 キーボード・プレイヤーのセスも、演奏者として素晴らしい。あまりやり過ぎないというか、派手すぎないし、そういうすごい演奏ももちろんできるんだけど、曲に最適な演奏をしてくれる。
 カイディもセスも俺たちの仲のいい友だちなんだ。みんなで楽しく作業ができるし、カイディとセスの相性も良い。だから最初は去年のツアーに参加してもらって、ライブに出てもらおうという話になった。それがすごくいい結果になったから、アルバムに参加してもらうのも自然な流れだった。すごく楽しかったよ。今年の秋からはじまるツアーにも彼らに参加してもらおうと思っている。それに、サード・アルバムにもね。

へえ! サード・アルバム、楽しみです。今回はアレンジも構築的になっていて、とくにギター・ロックと管弦楽の融合が印象的でした。管弦楽やパーカッションなどのライブ・インストゥルメントによって音楽性を拡張した理由は?

GG:ブラック・ミディ関連の音楽以外だと俺はほとんどクラシック音楽しか聴かないんだ。子供のころからポピュラー・ミュージック、ロック、ジャズとかに加えて、常にクラシックを聴いていた。だから、自分の音楽にもクラシック音楽からのインスピレーションをいつも取り入れるようにしている。クラシック音楽という領域のなかから、自分が好きなものを選んで活用しているんだ。
 クラシック音楽やオーケストラ音楽からインスピレーションを得るなんてレベルが高過ぎて無理だろう、それは思い上がりだ、高望みしている、という考えもあるけれど、俺に言わせれば、人生は長くないし、自分が情熱を感じている大好きな音楽があって、それを自分の音楽に取り入れたいなら、そうすればいい。時間は限られている。明日死ぬかもしれないんだぜ? だから、そういう音楽の影響を今回のアルバムにも取り入れた。
 アルバムの曲にはクラシック音楽の影響が入っているものがいくつかあって、クラシック音楽に使われているテクニックは、ほとんどそのままブラック・ミディの音楽にも使えるんだ。俺が好きなクラシック音楽と同じくらいにすばらしくはできないかもしれないけど(笑)。インストゥルメンテーションにおいてクラシックで使われているテクニックを今回のアルバムの曲にも使ってみたんだ。

たしかに、クラシカルで荘厳な音を構築しているアプローチだと思いました。ライヴ・インストゥルメントではなく、エレクトロニクスを取り入れるアプローチも考えていますか?

GG:可能性としてはあるよ。俺はあまりエレクトロニクスには精通していなくて、そういうのはキャメロンが全部やっている。キャメロンはDJもやっていて、曲のリミックスもやっているんだ。だから、キャメロンはすごいよ。今後はいつか、そういうアプローチで曲作りをしたり、ブラック・ミディの音楽を作っていったりすると思うよ。

序文・質問:天野龍太郎(2021年6月16日)

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Profile

天野龍太郎天野龍太郎
1989年生まれ。東京都出身。音楽についての編集、ライティング。

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