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Sun Ra Arkestra

Cosmic JazzSpace Orchestra

Sun Ra Arkestra

Living Sky

Omni Sound

小川充 Oct 27,2022 UP

 サン・ラーとその相棒であったサックス奏者のジョン・ギルモア亡き後(それぞれ1993年、1995年に没)、彼らの楽団のアーケストラはサックス奏者のマーシャル・アレンによって引き継がれている。マーシャル・アレンは1958年にアーケストラに加入し、ジョン・ギルモアとともに楽団の柱としてサン・ラーを支えてきた。当時の彼らはシカゴを拠点としていて、その後ニューヨーク、フィラデルフィア、カリフォルニアと拠点を移すとともに、ヨーロッパやエジプトなどでもツアーをおこなっている。そんなマーシャル・アレンは1924年生まれの現在98歳。間もなく100歳を迎えようという彼が、現役で音楽活動をおこなっていることにまず驚かされるが、個人の演奏のみならずアーケストラという総勢20名ほどの大楽団を束ね、世界中をツアーし(2014年に来日公演をおこなっている)、そして新作まで発表してしまうのだから恐れ入る。

 マーシャル・アレン率いるアーケストラとしての最初のアルバムは、1999年リリースの『ア・ソング・フォー・ザ・サン』となる。〈ストラタ・イースト〉などの仕事で知られるジミー・ホップスやディック・グリフィンも加わったこのアルバムで、アレンは作曲家としてほとんどの楽曲を書いた。その後はフェスなどのライヴ音源や昔の録音物を発表することはあったものの、基本的にライヴ活動が主である彼らのスタジオ録音盤はずっと途絶え、2020年に発表された『スウィアリング』が20年ぶりの新録アルバムとして話題を呼んだ。
 『スウィアリング』の楽曲は表題曲を除いてすべてサン・ラーが書いたもので、すなわち過去半世紀にも及ぶアーケストラの代表的なレパートリーを新しく再演したものであった。演劇ではシェイクスピアやチェーホフなどの古典がいまも新たな解釈を交えて再演され続けているが、サン・ラーの音楽もそれと同じで、時を超え、演奏者を超えてずっと演奏され続けている。コール・ポーターやグレン・ミラーなどジャズには多くのスタンダードの作曲家がいるが、一見すると前衛音楽家に見られがちなサン・ラーが書く楽曲も、対極にあるようでじつはそうしたジャズ・スタンダードと同じなのである。

 この度発表された『リヴィング・スカイ』は、『スウィアリング』から2年ぶりとなるアーケストラの新録だ。録音は2021年の6月、フィラデルフィアにあるスタジオでおこなわれた。演奏メンバーは『スウィアリング』を基本的に継承し、1970年代に加入したノエル・スコット、マイケル・レイ、ヴィンセント・チャンセイ、1980年代加入のタイラー・ミッチェル、カッシュ・キリオン、1990年代加入のデイヴ・デイヴィス、エルソン・ナシメント、2000年代加入のデイヴ・ホテップといった具合に、さまざまな年代や人種のミュージシャンが参加している。逆に『スウィアリング』に参加していたダニー・レイ・トンプソンやアタカチューンは録音後に他界していて、アーケストラのメンバーの変遷もある。そのように時代によってミュージシャンの入れ替わりがあっても、サン・ラーが提唱した音楽や思想を継承していくのがアーケストラである。
 なお、このアルバムはサン・ラーのほか、サン・ラーとの共演経験があるドイツの前衛音楽家/作家/劇作家/映像作家のハルトムート・ゲールケン、サン・ラーのツアーにも関わっていたトルコの音楽プロデューサー/プロモーターで、今回のリリース元である〈オムニ・サウンド〉の設立者であるメフメッツ・ウルグという3名の故人に捧げられている。また、アルバムのアートワークを手がけるのはシカゴを拠点に活動する音楽家/プロデューサー/ヴィジュアル・アーティストのデイモン・ロックスで、彼はかつてサン・ラーの未発表音源を用いたサウンド・アニメーションを制作したり、ブラック・モニュメント・アンサンブルというグループを率いてアルバムをリリースすることでも知られる。

 収録曲はこれまでのアーケストラのレパートリーと、マーシャル・アレンが新たに書き起こした楽曲、そしてショパンやスタンダードのカヴァーが織り交ぜられた構成となっている。リズム・セクションやホーン・セクションなどは『スウィアリング』と大差ないものの、今回はストリングスとパーカッションの人数が増えた点が特徴である。
 そうしたなかでまず目を引くのは、サン・ラーの名作のひとつである “サムバディ・エルシーズ・ワールド” のインスト版となる “サムバディーズ・エルシーズ・アイディア”。原曲は1955年初演で、アルバムとしては1971年の『マイ・ブラザー・ザ・ウィンド・ヴォリュームII』に収録されており、ジューン・タイソンによるクラシックの声楽的なヴォーカルが印象的だった。このエキゾティシズムに富む楽曲を、今回はゆったりと神秘的なムードで演奏する。パーカッションによるアフロ・キューバン的なモチーフと、ピアノとワードレス・ヴォイスによる宗教的な雰囲気は、たとえばキューバのサンテリアを連想させるものだ。
 “デイ・オブ・ザ・リヴィング・スカイ” でマーシャル・アレンはコラを演奏しており、アフリカの民族音楽のモチーフが大きく表われている。ストリングスとホーンによる土着性に富む演奏はとても瞑想的だ。“ナイト・オブ・ザ・リヴィング・スカイ” もミステリアスでエキゾティックなムードに包まれ、コズミックなパーカッションとシンセサイザー使いが随所で見られる。1950~60年代のマーティン・デニーやアーサー・ライマンなどのスペースエイジ・ミュージック、古典的なSF映画の音楽やジャングルなど未開地を舞台としたミュージカル、B級のモンド音楽などのエッセンスが詰まったよう不思議な作品だ。

 “マーシャルズ・グルーヴ” はブルース形式のモーダルな楽曲で、ホーン・セクションがレイジーで不穏なムードを演出する。アーケストラならではのスペイシーなアレンジも加えられ、ビッグ・バンド・ジャズに前衛的なスパイスを振りかけたような楽曲だ。一方で “ファイアーフライ” はグレン・ミラー楽団のようにムーディーなジャズ・オーケストラだが、そのなかでマーシャル・アレンのアルト・サックスがフリーキーな唸りを上げて異彩を放つ。続く “ウィッシュ・アポン・ア・スター” はディズニー映画でも有名なスタンダード・カヴァー。こちらも基本的にはムーディーなバラードであるが、調子はずれなサックスが絡むことによって、水と油が交わるような演奏となっている。
 そんな調子でショパンの “前奏曲第7番イ長調 op28-7” も(“ショパン” のタイトルで)演奏している。異色のカヴァーだが、実はこれもサン・ラー・アーケストラのレパートリーのひとつ。これまでにもライヴ録音などでは披露してきたが、今回が初めてのスタジオ録音となる。アーケストラは至って大真面目に演奏するなかで、唯一サックスだけが異質なブロウを繰り広げる。こうした本気とも冗談ともつかないユーモア精神も、サン・ラーの世界の魅力のひとつである。

小川充

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