「!K7」と一致するもの

Moskitoo - ele-king

 音。景色。記憶。光。時間。
 われわれはそれらをふだん持続的なものとして認識しているのだろうか。わたしたちの記憶はいつも断片的で、あやふやなものでできている。記憶の欠落は、しかし貧しさのみを生み出すわけでない。欠落があるからこそ想像し創造する。そうやってつなぎとめられた記憶を人は「ノスタルジア」と呼ぶかもしれない。つまりは記憶の蘇生、再生。

 モスキート(Moskitoo)の音楽はいつもそうだった。過去への記憶が未知の音響として生成していくような感覚。電子音とグリッチ。音楽と音。倍音と残響。ミニマルと逸脱。それらが端正に紡がれていくエレクトロニカの最良の継承のようでもあり、ポップの未来形のようでもあり、パーソナルな心象風景のような音楽でもあった。それは2007年に〈12k〉からリリースされた『Drape』の頃から変わらないものだ。
 モスキートのオリジナル・アルバムは、2007年の『Drape』、2012年の『Mitosis』、そして2024年の最新作『Unspoken Poetry』の3作のみである。もちろんコラボレーションや映画音楽、さらにはCM関連の音楽やサウンドデザインなども手掛けているので、その仕事の幅は実に多彩だ。本年2024年も高山康平監督の短編映画『冬の海の声の記憶』の サウンドトラックをリリースしているほど。
 12年ぶりの最新アルバムの『Unspoken Poetry』を最初に聴いたとき私は静かな驚きを感じた。グリッチや電子音など00年代エレクトロニカの象徴的な音の扱いは控えめな音作りがなされているのに、あの00年代エレクトロニカがもっていた浮遊感とドリーミーなポップネス、エレガンスなエクスペリメンタリズムとノスタルジアが濃厚にミックスされていたからである。ここでは音楽が音楽の形態を保ちながら、楽器音が、声が、電子音が、そのつど「音」そのものへと再生しているのだ。
 リリースが佐々木敦氏の〈HEADZ〉からというのも意外だったが、同時に深く納得するものもあった。〈HEADZ〉からのリリース作品はエクスペリメンタルな要素に加え、私は「うた/こえ」も重要な要素だと思っている。より正確にいえば「うた」が「こえ」に還元され、再蘇生していくようにコンポジションされていくような音楽をリリースしてきたというべきか。今年リリースされたクレア・ラウジーの『sentiment』も同様である。
 モスキートの最新作『Unspoken Poetry』もまた同様に「うた/こえ」がサウンドとして組み直されていくようなアトモスフィアを生成している。そう思うとこの『Unspoken Poetry』が〈HEADZ〉から送り出されたことも必然に思える。ことばとおとの関係において……。
 ミックスをフォーカラー、フィルフラの杉本圭一、マスタリングを〈12k〉主宰にしてアンビエント作家のテイラー・デュプリーが手掛けていることも重要だ。両者ともアンビエンスに敏感・繊細なふたりの音楽家/サウンドアーティストだからこそ本作ほ細やかな魅力を存分に浮かび上がらせているのだ。

 音の波のような1曲目 “That Awaking Weave” からアルバムは幕を開ける。まるで夜明けのようなムードの曲だ。続く2曲目 “Machine Choir” では軽やかなムードで始まる室内楽的な曲。歌と声、そしてベースに細やかなリズムが絡む実に秀逸なエレクトロニカポップである。
 3曲目 “Embroidery Story” では再び波のような感覚で始まり、そこに乾いた音とポエトリーリーディングが折り重なる。どこか時間が溶けていくようなムードを感じた。
 アルバムの基本のテーゼ、音、うたごえ、こえ、ことば、音楽というエレメントはこの冒頭3曲で見事に提示されている。音楽と音の境界線で踊るようなエレクトロニカとでもいうべきか。よく聞き込むと多様な楽器の音も鳴り響いており、どこか懐かしく、しかし聴いたことのない音楽を展開する。
 4曲目 “Evvve” は プカプカとはじける音にはじまり、やがて淡い音色からグリッチ風アンビエントへと展開するインスト曲。5曲目 “Words Wardrobe” はヴォーカル曲だが本質はミニマル、アンビエントといえよう。音が訪れる感覚に満ちている。6曲目 “Gii” は雨のような音、曲である。アルバムでは珍しいややダークな印象のサウンドだが、「こえ」が入ると雨雲からの光のような雰囲気へと変化する。いっけん儚さを感じる Moskitoo のヴォーカルの強さを感じた曲といえよう。
 7曲目 “Molder And Morrow (Album Mix)” では一転して 光さすムードに変化する。うたごえ、こえ、ことば、おとが優雅に緻密に軽やかに交錯し、2曲目 “Machine Choir” と並んでアルバムを象徴する曲に思えた。エレクトロニカ・アンビエント・ポップの逸品である。8曲目 “Dewdrop” はどこか 薄暗く、しかし優雅なトラックだ。声とアンビエンスの交錯が美しい。
 9曲目 “Nunc (FourColor Remix)” は、2021年にリリースされたシングル曲だが、ミックスを手がけている杉本圭一のフォーカラーによるリミックス曲を収録している。アルバムの音世界にまったく違和感なく共存しているのはさすがの一言。この曲はアルバム後半の良いアクセントになっている。
 続く10曲目 “Unspoken Poetry” は、モノオトと声と音が光のカーテンのようにレイヤーされ、聴き手の感覚を浮遊させてくれる。エレクトロニカ・サイケデリックとでもいうようなサウンドスケープを展開していく。この曲もまたアルバムのムードを象徴する曲に思えた。
 最終曲にして11曲目 “Salvaged Dream” では「声」と「うた」と「音」が「音楽」の只中に静かに溶けあっていくようなサウンドを展開する。乾いた親指ピアノのような音にモスキートの透明な声がまるで時のむこうに消え去っていく……。

 本作『Unspoken Poetry』を聴くと、「音。景色。記憶。光。時間」が「音楽」「音響」の只中でつながり、ひとつの「記憶」をかたち作るような「音楽」が構築されているように思えた。ここには濃厚なノスタルジアがあり、同時にこの瞬間に生まれた音のような新鮮さがある。
 このノスタルジアと新しさの感覚の同居こそ私が00年代以降のエレクトロニカに感じる魅力であった。創造の源泉としてのノスタルジア、それを生成する電子音楽である00年代エレクトロニカ。
 本作は00年代エレクトロニカが到達した美しい結晶のようなアルバムだ。端正に折り込まられた音/声/ことばたちの饗宴は聴き手の耳をいつまでも悦ばせてくれるに違いない。

Rai Tateishi - ele-king

 先月のスティル・ハウス・プランツとのツーマン公演でも強力なアンアンブルを響かせていたgoat。日野浩志郎率いるこのバンドのメンバーであり、太鼓集団「鼓童」に属していたこともある篠笛奏者の立石雷が、初めてのアルバムを発表する。篠笛以外にも尺八、ケーン、アイリッシュ・フルートなどが用いられているそうだ。リリース元は日野のレーベル〈NAKID〉で、日野はプロデュースも担当している。
 また発売記念ツアーも決定。11月に四国~中国~関西~北海道~九州の計11か所をめぐる。注目しましょう。

goatのメンバーとして活動する笛奏者の立石雷のデビューアルバム「Presence」の発売が決定。そのアルバムを記念した国内11公演のリリースツアーを開催する。
アルバムはgoat/YPYとして活動する音楽家 日野浩志郎によるプロデュースとなり、日野のレーベル「NAKID」から発売される。

<Tour schedule>
11/5 岡山(ソロ) w/THE NOUP
11/9 高松ルクス(ソロ)
11/10 広島福山NOQUOI (ソロ)
11/11 広島ONDO(ソロ)
11/18 京都UrBANGUILD(デュオ) w/Phew, Bing+YPY
11/19 大阪CONPASS(デュオ) w/Phew, YPY
11/20 神戸BAPPLE(デュオ)
11/23 当別 大成寺(ソロ)
11/24 札幌PROVO(デュオ)
11/28 福岡九州大学(デュオ)
11/29 熊本tsukimi(デュオ)

※上記日程のデュオと記載の公演は日野もライブに参加しエフェクト処理を行う。ツアーに合わせてCD先行発売し、遅れてLPも発売予定。

元鼓童、日野浩志郎率いるgoatの現メンバーとしても活躍する篠笛奏者・立石雷による初ソロ・アルバムが完成!

太鼓芸能集団「鼓童」の元メンバーであり、現在は多⺠族芸能集団「WATARA」やパフォーマンス集団「ANTIBODIES Collective」、リズム・アンサンブル「goat」などのメンバーとして活動するほか、関西を拠点にジャンルを跨いだ即興セッションも精力的にこなす篠笛奏者・立石雷による初のソロ・アルバム『Presence』が完成した。リリース元は日野浩志郎が2020年に設立したレーベル〈NAKID〉。録音/編集/ミックス/プロデュースは日野が務め、マスタリングは名匠ラシャド・ベッカーが手掛けた。

今作では、メイン楽器である篠笛のほか、我流で奏法を開拓したという尺八、ケーン、アイリッシュ・フルートなど複数の管楽器も使用し、全編インプロヴィゼーションによる演奏を収録。多重録音や加工/編集は基本的には施しておらず、使用したエフェクターはかけっ放しのリングモジュレーターとディレイのみ、スタジオでの演奏が一発録りでそのまま収められている。(細田成嗣によるインタビューを兼ねたレビュー記事より)


“Presence” カバーアート(写真家:Yuichiro Noda)

<アルバム情報>
Rai Tateishi - Presence

A1. Presence Ⅰ
A2. Presence Ⅱ
A3. Presence Ⅲ

B1. Presence Ⅳ
B2. Presence Ⅴ
B3. Presence Ⅵ

NKD10
Produced, Recorded, Mixed by Koshiro Hino
Mastered and Lacquer Cut by Rashad Becker
Artwork by Yuichiro Noda
Art direction by Yusuke Nakano
Designed by Junpei Inoue

立石雷 RAI TATEISHI(篠笛,打楽器奏者)
日本伝統楽器篠笛奏者。
太鼓芸能集団「鼓童」に入団。
篠笛を山口幹文氏に師事。
歌舞伎役者人間国宝坂東玉三郎、市川團十郎、片岡愛之助、振付家ダンサーSidi Larbi Cherkaouiらと共演。
これまでに世界30か国、1000回を越える公演に参加。
チベット・韓国・日本人音楽家からなる多民族伝統音楽団「WATARA」青森県八太郎えんぶり組と民族芸能をテーマにした活動と、前衛的な表現を行うリズムアンサンブル「goat」パフォーマンス集団「ANTIBODIES Collective」にも参加する。


NAKID
goat/YPYとして活動する音楽家 日野浩志郎による音楽レーベル。世界的な電子音楽家であるMark FellやKeith Fullerton Whitoman、Tobias Freund & Max LoderbauerのデュオNSI.などのリリースの他、日野によるプロジェクトであるgoatやKAKUHANの作品をリリース。それらのリリースはUKの流通会社兼オンラインレコードショップであるBoomkatでは軒並み年間ベストに挙げられてきた。不定期でNAKID showcaseとしてイベントを行っており、これまでMark Fell & Rian Treanor、Bendik Giske、Valentina Magaletti等を招聘した。

SNS
Rai Tateishi(Instagram)
Koshiro Hino(Instagram)
Koshiro Hino(X)

Terry Riley - ele-king

 テリー・ライリーが1964年に作曲し、サンフランシスコにて初演を披露した『In C』は音楽史における分水嶺のひとつだった。1968年に新たにスタジオ録音され音盤としてCBSからリリースされた同作は、その後、クロノス・カルテットからデイモン・アルバーンまで、中国からアイルランドまで、実に多様な『In C』を生み、そのどれもがそれぞれの魅力を放っているのは、この曲が、ひとつのシステムであり、メタ・ミュージックであるからにほかならない。50人ほどの演奏者がそれぞれ、ハ長調のフレーズを好きなように繰り返しながら生まれるこの曲には、テリー・ライリーのなかの、集団が自由に動きながら調和するという、理想主義的なコンセプトを見ることができるだろう。

 というわけで、今年の7月21日に京都は清水寺で実現した、『In C』60周年記念のコンサートの実況録音盤がCDリリースされる。当日のチケットは瞬殺だったそうで、行けなかった人もぜひこの60周年ヴァージョンを聴いて、『In C』から立ち上がる瑞々しい世界を体験して欲しい。
 なお、紙エレキングの年末号は、「特集:テリー・ライリーの『In C』とミニマリズムの冒険」です。山梨の小淵沢まで取材してきました。こうご期待。

アーティスト:テリー・ライリー (Terry Riley)
タイトル:In C - 60th バースデー・フルムーン・セレブレーション・アット・清水寺 (In C - 60th Birthday
Full Moon Celebration at Kiyomizu-dera Temple)

発売日:2024年12月20日(金)1枚組CD
品番:sibasi-1 / JAN: 4571260594982
定価:2,727円(税抜)
紙ジャケット仕様

Tracklist
1. In C - 60th Birthday Full Moon Celebration at Kiyomizu-dera Temple

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Photo by FEEL KIYOMIZUDERA / Sudo Kazuya

シビル・ウォー アメリカ最後の日

監督・脚本:アレックス・ガーランド
出演:キルスティン・ダンスト、ヴァグネル・モウラ、スティーヴン・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニー
原題:CIVIL WAR
製作国:アメリカ・イギリス
A24/2024年製作/109分/PG12/字幕翻訳:松浦美奈
配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式HP:https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/
©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.
10月4日(金)TOHOシネマズ日比谷 ほか全国公開

 近未来のアメリカで内戦が勃発するという戦争ファンタジー。3年前に起きた国会議事堂襲撃は確かに内乱の予感を孕んでいた。議事堂を埋め尽くす人々を見上げるように撮ったショットも南北戦争のひとコマとダブって見えた。だとすれば暴力的な方向に想像力を広げるという悪ノリはありなのだろう。アメリカが自壊するというファンタジーは世界的にも需要が高そうだし、オリヴァー・ストーンあたりが監督を務めれば内省の質も高くなり、別次元の面白さが期待できたと思う。アレックス・ガーランド監督による『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、しかし、19の州が連邦政府から離脱し、WFと呼ばれる反乱軍として政府軍に武力攻撃を仕掛けるところから話は始まっているものの、離脱した19の州には民主党の支持母体とされるカリフォルニア州と共和党の屋台骨であるテキサス州が両方とも参加していて内戦の主体が共和党と民主党の対立に基づくものではないことが前提となっている(南北戦争は英語だとCIVIL WARなので、南部連合の再現という可能性もなくはないものの、そうした説明はなかった)。つまり、現実の政治状況とはかなりかけ離れた世界が想定されていて、誰と誰がなんのために戦っているのか、その理由は最後まで明らかにされない。アメリカのような文明国家で内戦が起きているのにその理由が示されないというのはさすがにどうなんだろうと思うし、「国会議事堂襲撃事件」に少なからずの衝撃を覚えた者としてはやはりそこを省略するのは違うと感じたことは否めない。途中で差し挟まれる人種問題もイレギュラーな事態だと取れる説明があり、内戦の本質ではなく、便乗という扱いだった。そう、民主党と共和党の対立という構図を避けてしまったために『シビル・ウォー』は現実と向き合った作品ではなく、むしろアメリカの現状を無視した作品に見えてしまった。思想よりも暴力や戦争に関心があるという人はそれでもいいんだろうけれど、だったら『ダンケルク』でも繰り返し観ればいいのでは? 結論から先に言ってしまえば、『シビル・ウォー』はガーランド監督の母国であるイギリスがアメリカを途上国のひとつに成り下がったと見下す作品であり、ヴィクトリア朝の精神がいまだイギリスでは健在なんだなということがわかる作品だった。

 アレックス・ガーランドは96年に小説『ザ・ビーチ』でデビューし、脚本家としてダニー・ボイルと組んでからは映画業界に軸足を移したイギリスのマルチ・タレント。ショッキングな題材を好み、作品のほとんどはB級で、『シビル・ウォー』の監督がガーランドだとわかった時は「目端の効くやつだな」という感想が最初に湧き出てきた。本編はキルステン・ダンストらによって演じられるジャーナリストたちがスーサイド“Rocket USA”に乗って車を発進させるところから本題に入っていく(以後、戦闘シーンにデ・ラ・ソウル“Say No Go”などBGMはどうもピンと来ないものが多かった)。ストーリーのほとんどは彼らがワシントンへと向かうロード・ムーヴィーとして費やされ、一行は道中で様々なアメリカ人と出会う。その多くはエゴを剥き出した市民たちであり、アメリカ人がどれだけ市民として下等なのかということが逐一印象づけられる。彼らはいわば未開の風景のなかを旅して行くのである。ダニー・ボイルがレイヴ・カルチャーと重ね合わせて映画化した前述の『ザ・ビーチ』は、レオナルド・ディカプリオ演じる主人公が冒頭でタイのホテルに泊まる際、『地獄の黙示録』から短いシークエンスを2回ほどインサートしていて、それはその後の旅で主人公が味わう苦難を先取りしたイメージとなっている。西欧人が未開のパラダイスを求めてアジアなどにやってきて、先に乗り込んでいた西欧人と対立するという図式は『地獄の黙示録』も『ザ・ビーチ』も『シビル・ウォー』もまったく同じ。要するにジョぜフ・コンラッドが『闇の奥』(1899)で提起した主題が踏襲され、さらにいえばガーランド監督による『エクス・マキナ』も『MEN 同じ顔の男たち』も遠くに出掛けて行って怖い目に会うという展開はやはり同じ感覚から発生しているといえる。大袈裟にいえばイギリス人にとってホーム以外はどこもかしこも未開で恐ろしい場所だという感覚があり、その感受性は『ガリヴァー旅行記』や『ロビンソン・クルーソー』といったグランド・ツーリズムの時代から何も変わっていないとすら思えてくる。『シビル・ウォー』の冒頭でアメリカの大統領が傍若無人に振る舞い、南米の独裁者のように認識される時点でこうした投影は始まっていた。ザ・ザが“Heartland”で「This is the 51st state of the USA(イギリスはアメリカの51番目の州)」と歌っていた現状認識とは真逆の精神性に裏打ちされている。

 そのように考えていくと、カリフォルニア州とテキサス州を含むWFというのは実はイギリス軍というキャラクターを背負っていたと僕には思えてくる。『シビル・ウォー』が描いているのはアメリカの内戦ではなく、独裁者に支配され、途上国と変わらなくなったアメリカにイギリス軍が攻め入り、ワシントンを陥落させるという近未来ファンタジーではないのか。『パイレーツ・オブ・カリビアン』で海賊船として描かれていたのは実際の歴史ではイギリス軍のことであり、イギリスの侵略マインドは相当に根が深く、ヴィクトリア朝時代のイギリスが19世紀にアフリカでどれだけの部族を根絶やしにしたことか。イギリスはジェノサイドの実行数では他の国家を圧倒的に引き離し、インド人がいまだにチャーチルを許さないという感情にも歴史の実像が反映されている。イラク戦争の時にも明らかにイギリスはアメリカを追随する存在だったのに、まるでアメリカと同等か、むしろアメリカを従えているかのような発言には違和感があり、昨年、イスラエルがパレスティナへの攻撃を始めた際にもアメリカとイギリスは瞬時にしてパレスティナの沖合に戦艦を派遣している。インドネシアが同じくパレスティナ沖合に医療船を派遣してけが人の治療にあたっているのとは対照的に、ただ単に戦艦を停泊させているのはなぜなんだろう(イギリス国内で強い影響力を持つユダヤ・マネーに気を使っているということなのか?)。いずれにしろワシントンはWFによって陥落させられ、イギリス軍の残酷さは『シビル・ウォー』のラスト・シーンに集約されている。ジャーナリストたちを主役にしているので、それは1枚のスナップ写真として示され、戦争の喜びと高揚感をこれでもかと表すものになっている。悪ノリに導かれたある種の本質といえるだろう。

 ちなみにアメリカの歴史が変わる瞬間を捉えた作品としては2年前に公開されたジェームズ・グレイ監督『アルマゲドン・タイム』がとてもよくできていて、ザ・クラッシュがカヴァーした“Armageddon Time”を階級闘争ではなくレーガンを支持した再生派キリスト教徒の終末意識と重ね合わせて表現した同作は政治的な知識がないと人種の差を意識した青春ものといった内容でしかないけれど、ドナルド・トランプの父が財政を牛耳る高校でトランプの姉が行うスピーチやユダヤ教徒が再生派に対して覚える絶望感など、宗教が政治を動かす様がよくわかり、政治的な文脈を理解できる人たちにはなにがしかの戦慄を覚える内容になっていた。いわゆるボーン・アゲインやエヴァンジェリストがレーガンを動かした経緯に詳しくない方はグレース・ハルセル著『核戦争を待望する人々』を読んでから観ることをお勧めします。(2024年10月5日記)

ENDON & KAKUHAN - ele-king

 この組み合わせは見逃せない。夏に新作『Fall of Spring』をリリースし、あらためてその存在感を示した前衛的メタル・バンドのエンドン。最近ではgoatの復活が話題の日野浩志郎およびチェリストの中川裕貴からなるデュオ、KAKUHAN。それぞれのスタイルで音楽の冒険をつづけている両者によるツーマンが決まった。2025年1月4日、会場はCIRCUS TOKYO。年明け早々から刺戟的な一夜を経験できそうだ。

それぞれのベクトルで異彩を放つENDONとKAKUHANによるツーマンライブ。

2025年1月4日に東京・CIRCUS TOKYOにてライブイベント「HYPER IRONY」が開催される。
「HYPER IRONY」は異なるフィールドで活躍するアーティスト達の親和性にフォーカスしたライブシリーズで、今回は、新体制での再始動後もその勢いは衰えることなくエクストリームミュージックの領域を拡張し続けるENDON、リズムアンサンブル・goat等での活躍も目覚ましい日野浩志郎と前衛的アプローチでの活動が芸術分野からも賞賛を浴びるチェリスト・中川裕貴によるデュオ・KAKUHANのツーマンライブとして開催される。また、world's end girlfriendやmouse on the keys等でもVJを行うrokapenisが両アクトのライブ中の映像演出を担当し、グラフィティの枠に捉われない独自の作品が高い評価を受けるDF.SQEZが本イベントのアートワークを描き下ろしている。
既存のフォーマットを無視し続け、それぞれのベクトルで異彩を放つキーマン達が交差する貴重な一夜となるはずだ。
チケットは現在、主催者が管理する予約フォームにて受付中。

【詳細】
2025年1月4日(土) 東京都 CIRCUS TOKYO
<出演者> [LIVE] ENDON / KAKUHAN [VJ] rokapenis

[オープン]17:30 [スタート]18:00 / [前売]3,800円 [当日]4,000円 +1ドリンク

【予約フォーム】
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfKsiq5dBOmIdMAE0fMAV95NBIUXV9KwsxoERnDXpuuEP-NvQ/viewform

Shabaka - ele-king

 2024年のベストな作品のひとつ、『美の恵み(Perceive its Beauty, Acknowledge its Grace)』をこの春発表しているシャバカ。サックスを手放した彼がその後メインの相棒として選択した楽器は、フルートと、そして尺八だ。そんなシャバカによる単独来日公演が決定している。12月12日@渋谷WWW、一夜限りのソロ・セット、これを逃す手はないでしょう。

"UKジャズ界のキング"と評されるShabaka Hutchings(シャバカ・ハッチングス)ことSHABAKA(シャバカ)がサックス奏者としての活動を停止し、手に取ったフルート・尺八との向き合いー
SHABAKA初の東京単独公演はソロセット、12月12日(木)WWWにて一夜限りのショーを開催。

"UKジャズ界のキング"と評されるShabaka Hutchings(シャバカ・ハッチングス)がサックス奏者としての活動を停止し、SHABAKA(シャバカ)名義でのデビュー作となる『Perceive its Beauty, Acknowledge its Grace / 美の恵み』を今年4月にリリースした。

この作品の中でSHABAKAは世界中のフルートを演奏し、エスペランサ・スポルディング、カルロス・ニーニョ、アンドレ・3000、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、フローティング・ポインツ、ララージ、モーゼス・サムニー、ジェイソン・モラン等、ジャンルを超えた精鋭アーティストとともに様々な音の領域を探求。深く内省的であり、同時に聴き手の心の想像力に委ねられた、空間としての音楽を創り上げている。

SHABAKA名義での初の単独公演となる本公演は、SHABAKAによるソロセットで行われる。「自分にとって心地よいことというのは、結局は僕のすべてを左右する。そういう音を作るには前に進むしかない。自分が好きなメロディを演奏するには、楽器と共に前に進むしかないんだ。」(Rolling Stone Japan インタビュー)と語るSHABAKAによる、日本一夜限りのショーとなる。

SHABAKA solo show
出 演 : SHABAKA
日 程 : 2024年12月12日(木)
会 場 : WWW https://www-shibuya.jp/
時 間 : open 18:30 / start 19:30
料 金 : 前売 ¥6,000 (税込/ドリンク代別)

<<チケット>>
先行予約 (先着)
受付期間:10月18日(金)19:00〜10月25日(金)23:59
受付URL:https://wwwwwwx.zaiko.io/e/shabaka

一般発売:10月26日(土) 10:00-
Zaiko (English available)
e+

主催:WWW

お問い合せ:WWW 03-5458-7685
公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/018484.php

SHABAKA(シャバカ)
Shabaka Hutchings(シャバカ・ハッチングス) - 1984年、ロンドン生まれのサックス、クラリネット奏者。6歳の時にカリブ海に浮かぶ西インド諸島の国、バルバドスに移り住むが、その後イギリスに戻り、以来、ロンドンのジャズ・ シーンの中心を担っている。1960年代のジョー・ハリオットやエバン・パーカー以来の創造性を持つと言われ、その独特でパワフルなプレイからしばしば「カリスマ」もしくは「UKジャズ界のキング」と評される。 コメット・イズ・カミング、サンズ・オブ・ケメット、シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズの3つを主要プロジェクトとしており、プロジェクトを跨いで JazzFMやMOBOのジャズ・アクト・オブ・ジ・イヤーなど数々の賞を受賞している。

SHABAKA名義のデビューアルバム『Perceive its Beauty, Acknowledge its Grace / 美の恵み』で、彼はフルート、クラリネット、尺八を主に演奏。参加アーティストは、グラミー・アーティストのエスペランサ・スポルディング、カルロス・ニーニョ、アンドレ・3000、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、フローティング・ポインツ、ララージ、モーゼス・サムニー、ジェイソン・モラン等、ジャンルを超えた精鋭アーティストが集結している。

スタンダードな「バンド」形式から脱却し、世界中のさまざまな笛を使った作品を前景化する作曲の枠組みを創造性溢れるミュージシャンと共に創り上げた、美しく、穏やかで詩的なこの作品は、マイルス・デイヴィス『Kind of Blue』やジョン・コルトレーン『A Love Supreme』などのクラシックアルバムを生み出した伝説的なスタジオ「ヴァン・ゲルダー・スタジオ」で6日間かけてレコーディングされた。

https://www.shabakahutchings.com/
https://www.instagram.com/shabakahutchings/
https://x.com/shabakah
https://www.youtube.com/@shabakahutchings

Shabaka - End Of Innocence
https://youtu.be/d1X9Q6kGwew?si=NEaecXXIYW8hVwXu

Shabaka - Insecurities ft. Moses Sumney
https://youtu.be/pjWPGNuaGoM?si=b0UMEhtKE2HGra7L

Shabaka - I’ll Do Whatever You Want (Visualizer) ft. Floating Points, Laraaji
https://youtu.be/JuhIjzRW2Sg?si=YEHXfknunxOaeXY7

Marcellus Pittman - ele-king

 ムーディマンセオ・パリッシュリック・ウィルハイトから成る3チェアーズ、その第4のメンバーとしても知られるマーセラス・ピットマンの来日がアナウンスされている。11月1日(金)@大阪NOON、11月2日(土)@名古屋CLUB MAGO、11月8日(金)@東京VENTの3か所をツアー。次はいつ体験できるかわからない、デトロイト・ハウスの至宝によるDJセット──なにごとも速すぎる現代、ビートダウンしてダンスを楽しみたい。

Marcellus Pittman Japan Tour 2024


◆11/1 (Fri) 大阪 @NOON

DJ: Marcellus Pittman, MITSUKI (Mole Music), YOSHIMI (HIGH TIDE)
PA: Kabamix

Open 22:00

Advance Ticket 3,000yen + 1 Drink
U-23 3,000yen + 1 Drink
Door 4,000yen + 1 Drink

Info: NOON + CAFE http://noon-cafe.com
大阪市北区中崎西3-3-8 TEL 06-6373-4919
AHB Production http://ahbproduction.com


◆11/2 (Sat) 名古屋 @CLUB MAGO

DJ: Marcellus Pittman, TAIHEI, CAN TEE, SBT

Open/Start 22:00

Advance Ticket 3,000yen + 1 Drink
Ticket Information
https://club-mago.zaiko.io/item/366967

Door 4,000yen + 1Drink

Info: Club Mago http://club-mago.co.jp
名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館B2F TEL 052-243-1818


◆11/8 (Fri) 東京 @VENT

=ROOM1=
Marcelus Pittman
Midori Aoyama
SUZU

Open 23:00

Door ¥4000
Advance Ticket 2,500yen (priority entry) https://t.livepocket.jp/e/vent_20241108
※The purchase of ADV will be available until 23:59 on the day before the event.
※前売券の販売はイベント開催の前日23:59までです。
Before 24:00 2,000yen
SNS DISCOUNT: 3,000yen

Info: VENT http://vent-tokyo.net
東京都港区南青山3-18-19 フェスタ表参道ビルB1 TEL 03-6804-6652

[プロフィール]

Marcellus Pittman | Boiler Room x Beacon Festival

Marcellus Pittman (Unirhythm, 3Chairs / from Detroit)

マーセラス・ピットマンは、デトロイトに生まれ育ち、自身のレーベルUnirhythmを主宰する。
10代初めにはローカルのラジオステーションWJZZの熱心なリスナーになり多くを学び、Larry “Doc” Elliott や “the Rose” Rosetta Hinesの番組を聞いていたという。
ディスコがフェイドアウトし、よりプログレッシブな音楽が出始めた頃(当時デトロイトではハウスやテクノ、またそのプロトタイプ的なものは”Progressive"と呼ばれていた)、The Wizardと名乗っていたJeff MillsやElectrifying Mojoがラジオ電波上で新しいアーティストをプッシュし続け、世界中からの音楽をリスナーに提供していた。ヒップホップ、エレクトロ、テクノ、ハウス、ディスコをミックスするそのフリーなスタイルに大きく影響されたという。
Home Grownというヒップホップグループでトラックメイカーとして活動していたが、Theo Parrishに出会い、『Essential Selections』Vol.1、Vol.2をSound Signatureからリリース。Rick Wilhite、Kenny Dixon Jr. aka Moodymann、Theo Parrishで構成されていた3Chairsに、4番目のメンバーとしてDJツアーやプロダクションに参加している。また、Theo、Omar-S、Marcellusのプロジェクト、T.O.M Projectにも参加し、Omar Sのレーベル、FXHEからはM.Pittmanとして『M.Pittman EP』と『#2』をリリースしている。
デトロイトの新興レーベル/ディストリビューター、FITからリリースされた12”レコード、M.PITTMAN『Erase The Pain』は、某大御所DJ達の間でカルト的賞賛を得た。Hungry Ghost (International Feel), Ackin’ (Internasjonal), Madteo, Nina Kraviz, Erika (Interdimensional Transmissions), Motor City Drum Ensemble, Funkadelicらにリミックスを提供している。

IG https://www.instagram.com/marcelluspittman
RA https://jp.residentadvisor.net/dj/marcelluspittman

interview with Neo Sora - ele-king

『HAPPYEND』

新宿ピカデリー、 ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、絶賛上映中

監督・脚本:空 音央
撮影:ビル・キルスタイン
美術:安宅紀史
音楽:リア・オユヤン・ルスリ
サウンドスーパーバイザー:野村みき
プロデューサー:アルバート・トーレン、増渕愛子、エリック・ニアリ、アレックス・ロー アンソニー・チェン
製作・制作: ZAKKUBALAN、シネリック・クリエイティブ、Cinema Inutile
配給:ビターズ・エンド
日本・アメリカ/2024/カラー/DCP/113分/5.1ch/1.85:1 【PG12】

ⓒMusic Research Club LLC

 ファスビンダーはゴダール作品の多くに複雑な感情を抱いていたが、『女と男のいる舗道』だけは例外で、27回も観たそうだ。まあ、映画には音楽ほどの身軽さはないけれど、好きな映画はたしかに繰り返し観たくなる。空音央は、喩えるなら、ひとりの人間が20回以上は観たくなる映画を目指している、と思われる。それにデビュー作というものには、かまわない、やってしまえ、という雑然としたエネルギー(そこには政治性も内省も含まれる)があるものだ。そしてその熱量は、彼のモンタージュを吟味するような余裕を与えない。ぼくはもういちど、『HAPPYEND』を観に映画館に行かなければならないのである。

 高校を舞台にアナキズムを突き刺した作品といえば、ぼくの場合は真っ先にリンゼイ・アンダーソンの『If もしも……』、日本では相米慎二の『台風クラブ』が思い浮かぶ。もっとも『HAPPYEND』は、当たり前のことだが、それらのどれとも違っている。映像作家、空音央の長編映画デビュー作は、近未来のSFと言いながらも現在を語っている寓話だ。生々しい現実を「リアリズム」ではなくフィクションによって表現する手法は、音楽ファンにはアフロ・フューチャリズムを想起させるだろう。ブラック・ユーモアもふくめ、それは「テクノの聖地であるデトロイト」が得意とするやり方だ。
 しかも興味深いことに、『HAPPYEND』ではテクノと岡林信康という、集団のための機能的な音楽と60年代のプロテスト・シンガーの歌が重要な意味を持つ。このじつに妙な組み合わせは、いま、我々の日常生活を支配する「リアリズム」に抵抗したマーク・フィッシャーの思想ともリンクしている、とぼくには思える。
 というわけで、読者諸氏のために、空音央監督が本作制作中に聴いていた音楽のプレイリストを掲載しておこう。クラブ・カルチャーが映画で描かれるときは、ドラッグとセックスというあくびが出るようなお決まりのパターンばかりだが、『HAPPYEND』はまったく違っている。

それこそマーク・フィッシャーが言うように未来がなくなること、そのアイロニーと距離を持って世界と接することであって、フィッシャーが言う「メシア的な希望」、それともう新しいものはなにも生まれないという資本主義、ネオ・リベラリズムの絶望をつねに反復しているみたいな。

質問に入る前に、まず、最初にひとつお伝えしたかったのが、「デトロイト、テクノの聖地」、まさかこのセリフを(日本の)映画で聞けるとは思っていなかったです。あの場面で、涙腺が緩みましたね(笑)。

空:コアですね(笑)。

ほかにも印象的なシーンがいくつもあったんですけど、いちばん笑ったのは、楽器屋で働く無愛想なおばさんがおもむろに店内のDJブースの前に立って、テクノを爆音でプレイしはじめる場面。

空:あの楽器屋さんのモデルって、じつはPhewさんなんです。最初Phewさんにお願いしたんですが、タイミングが合わなくて。でも今回演じてくださった方もとても良かったです。

Phewさんだとかっこよすぎるんじゃないですか(笑)。

空:そうなんです。Phewさんっぽいけど、もうちょっと普通の人みたいな感じにしたくて、あれをやってもらった感じです。

あの、DJをやっている姿がさまになってしまっているんですよね。

空:あれ本当に一日で習得してもらったんですよ。全然DJとかやったことない方でしたけど。

そうでしたか、あれは見事でした。それにしても、高校生を主役にした青春ドラマはたくさんありますが、「テクノが好きでDJもやる高校生」という設定はないと思います(笑)。このアイデアはどういうところから来たんですか?

空:自分が好きだから、それだけでしかないんですけど。自分の高校時代は、テクノにドハマりしていたわけではなく、ファンクの方が好きだったんですけど、大学時代にかなりテクノにドハマりして、クラブに行くようになったんです。それで、近未来だったら高校生でもテクノぐらいやってるかなとか(笑)。自分の好きなものを入れたいから、そのために設定を紛れるみたいな。自分の趣味でしかないです。

行松(¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U)くんが出てるのもすごく嬉しかったですね。

空:僕も嬉しいです(笑)。

行松くんとはどんな繋がりで?

空:行松さんはめちゃくちゃシネフィルで、エリック・ロメールの映画とかを観に行くといたりするんで、それでだんだん仲良くなったんです。蓮見重彦の本を渡されたりとか、そういう感じです。

じゃあ映画を通じて友だちになったという?

空:そうですね。友だちですね。ニューヨークに住んでたころから一方的にファンで、Keep Hushっていうイベントの日本編に観にいって、話しかけたこともありました。そのあと、やけに映画館でよく遭遇するようになったり、自分も「GINZAZA」という短編上映シリーズをやっていたんですけど、それを観に来てもらったりとか、普通に家に遊びに来たりとか、そういう感じです。映画の趣味が合うんですよ。それで、「映画作るんだけど、ちょっと出てくれませんか」みたいな感じで言ったら「はい」みたいな感じで。

ニュー・ジャーマン・シネマでいまいちばん好きなのは、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーです。『八時間は一日にあらず』という未完成のテレビ・シリーズも好きだし、まあでも、いちばん好きなのは『マリア・ブラウンの結婚』ですかね。

もともとファンクが好きだったということですが、音楽遍歴を教えてもらえますか?

空:子どものころからいろんな音楽を聴かされていて、ピアノとか、ヴァイオリンとかも子どものころは弾かされてたんですけど、ぜんぜん下手で練習も好きじゃなくて。最初にハマって、自覚的に自分からCDとか買いにいったのがレッド・ホット・チリ・ペッパーズかな。あとはゴリラズとか。

10代前半とかのことですか?

空:そうですね、中学生ごろです。そこからベースを弾きはじめたら、だんだんファンクが好きになり、ジャコ・パストリアスとかそこらへんを通りつつ、同時進行でレディオヘッドやポーティスヘッドを好きになったりとか。同時期に現代音楽とかもいろいろ聴いてたりとかして、大学に上がっていったら、テクノにハマったっていう。

おー、なるほどね。

空:ちょうど僕が大学にいたときに、〈ナイト・スラッグス〉が流行ってたんですよ。そこらへんをどっぷり浴びて。

〈ナイト・スラッグス〉かぁ、若い(笑)。ニューヨークですか?

空:ウェズリアンっていって、コネチカット州なんで、ちょっと違うんですけど、近いです。うちの大学はすごく、まあユニークなのかな、なんか生徒主体のコンサートを企画するクラブみたいなのがあって、大学からお金をもらってコンサートを企画するんですけど。で、僕が最初、大学に到着した日とかかな、僕の大学のなんかこう寮みたいなところで、ビーチ・ハウスグリズリー・ベアがコンサートしてたり、〈ナイト・スラッグス〉のDJ、アーティストが来たり、でかくなる前のケンドリック・ラマーがいたり、そういう感じの環境だったんです。だから、そこで本当にいろんな音楽を吸収しましたね。

じゃあ、もうかなりの音楽好きなんですね。

空:そうです。大学を卒業した後はブルックリンに住んでたんで、ブルックリンのクィアなクラブ界隈によく遊びに行きました。

〈Mister Saturday Night〉周辺とか、アンソニー・ネイプルスとか。

空:アンソニー・ネイプルスは交流があって、前にPV撮ったこともあります。アンソニー・ネイプルスの曲も、編集中にちょっと入れたりしてました。

じゃあ、DJパイソンなんかも。

空:大好きです。その界隈には本当によく遊びに行きました。で、楽器屋の店長がぶち上げる曲は、まだデビューもしてないんですけど、友だちの曲です。

ああ、なるほど。あの曲も、2010年代のNYのアンダーグラウンドな感じがありますね。で、そんな空さんが映画という表現を考えるきっかけになったことってなんなんでしょうか?

空:生活のなかに映画を観るという習慣がありまして、友だちとつるむときも映画を観ていたし、両親と一緒にも観ていた。高校のころは通学路に映画館があって、普通のシネコンなんですけど、そこで友だちと一緒になんでも観るみたいな。高2、高3ぐらいになってくると、友だちのカメラを使ってみんなで映像を作ってましたね。まだ出たばっかりのYouTubeに載せたり。それで、大学に行って映画の授業をとってみたら、面白いなと思ったんです。自分がけっこう映画作品を観ていたこともわかったし。僕は多趣味で、絵も描いて、写真も撮って、音楽も好きだった。遊びで演奏もしていました。でも、まあ全部趣味で、下手くそなんですよ。全部平均よりちょっと上ぐらいな感じのレヴェルで、突出したものはなかったんです。

謙遜じゃないですか(笑)。

空:そんなことはないです。高校ではいちばん絵が上手かったんですけど、大学に行ったら一番下手になるみたいな感じのレヴェルです(笑)。ただ、その全部が好きだったっていうのがあって、それで、映画だったらそのすべてをまとめてできるようなメディアじゃないかなっていうのがあった。しかも、映画の歴史の授業を最初に取るんですけど、そのときにやっぱり面白いなって思いました。で、体系的に学んでいくとさらに理解が深まったりもするんで、だんだん好きになっていきましたね。

とくに大きな出会いは?

空:『アギーレ/神の怒り』ですね。クラウス・キンスキーが最後に猿を掴んで投げるやつとか、もう頭から離れないですよ。猿を掴む感じ、なんだこれは? みたいな。リュミエールから順に見ていくみたいな授業があって、それでニュー・ジャーマン・シネマにたどり着いて。ニュー・ジャーマン・シネマでいまいちばん好きなのは、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーです。『八時間は一日にあらず』という未完成のテレビ・シリーズも好きだし、まあでも、いちばん好きなのは『マリア・ブラウンの結婚』ですかね。

ある意味もっとも過激な人ですね。あの人も音楽を効果的に使いますよね。『ベルリン・アレクサンダー広場』だって、戦前ドイツが舞台なのになぜかクラフトワークがかかる(笑)。

空:それこそ、大学ではクラウトロックとニュー・ジャーマン・シネマの関係性の論文を書いたりしてました。

ヴェンダースの『都会のアリス』(音楽はCAN)もあります。いつか自分の作品を撮りたいって思ってたんですね?

空:はい、ずっと思ってました。大学生のころから、2011年、2010年、そのぐらいからです。

じゃあもう、今回の作品の構想みたいなものもあったんですね。

空:7年ぐらい前にはありました。メモ帳を見ると、最初に出てくるメモが、2017年なんです。たぶん言葉にする前の段階では、2016年ぐらいからだったんじゃないかと思うんですけど、そのぐらいからずっとこれを作りたいと思ってたんです。

自分の第一作目を青春映画、学園ドラマというか、そういうものにしようと思ったっていうのは、なぜなんですか?

空:たぶん多くの監督のデビュー作って成長や青春、まあ、カミング・オブ・エイジと言われるような、そういうものになると思うんですけど、それは比較的、自然なことなんじゃないかなと思っています。なぜなら、最初に作るものには、それまで、自分が生きてきた体験を詰め込みたくなるからだと思います。まさに自分もそうで、高校〜大学、卒業した後に渦巻いていた僕のなかにあったものを全部このなかに入れたみたいな感じです。

なるほど、じゃあ実体験も入ってるんですか?

空:リミックスしてはいますけど、めちゃくちゃ入ってますね。ジェンガ(※積み木ゲーム)もやってましたし。

青春映画を作るにしても、とくに学校を舞台にしなくてもいいわけですけど、それを選んだのは?

空:つまらない答え方だとなりゆきっていうか。友情の物語が核なんですけど、最初の方はもっと広い話で、学校外のこともいろいろ入ってたんですが、やっぱり物語を凝縮していって無駄なものをだんだん削っていくと、結局学校が舞台のメインになってきましたね。さらに予算のこととかも考えはじめると、最終的に(物語を作るうえでの)必要な場所が学校だったっていうのが正しいかな。

学園ドラマではあるんですけど、ひとつの寓話ですからね。

空:そうですね。まさにその通りです。

空さんの、いまの社会に対しての強い気持ちが、いろんな場面に現れていて、内的な葛藤みたいなものもふたりの主人公を軸に描写しているように思いました。で、空さんが最終的に何を言いたかったんだろうっていうのを考えるわけですけど……。

空:まあでも、伝えたいこととかはとくにないんです。(取材で)観客に対しての社会的なメッセージみたいなことをよく聞かれるんですけど、どういうメッセージなのかみたいな。映画とは、別にメッセージを伝えるものではないと思っています。メッセージを伝えるのは、プロパガンダ映画なんです。僕がこの脚本を書きたいって思うぐらい強い衝動が、2016年ぐらいに結実して書きだすんですけど、それは本当に溢れてくるから書くんですよね。書きたいという気持ちと、自分のなかで抑えきれない感情みたいなものが溢れてきて、それが合わさって映画になっていくみたいな感じでした。どちらかといえば、日記のように自分のなかの政治的な思いや社会に対する怒り、もしくは自分が経験した友人たちへの愛なんかを描いていくような。まあ実際に政治性をもとに人を突き放したり、突き放されたりっていう経験があって、その深い悲しみみたいなものだったりとか、まあそういうのが渦巻いてるわけですよね。とくに2016年にはトランプが大統領になってしまった。

なるほどね。

空:というのもあるんですけど、まあ、いろいろ渦巻いていて。自分は映画を、まあ練習してきたし、勉強していたんで、そうしたものを映画にするのがすごく自然だったんです。だから作ったという感じで、社会についてのメッセージを人びとに伝えたいっていう気持ちはむしろなかったですね。まあでも、映画を通して発言する機会を与えられるのであれば、言いたいことっていうのはいくつかあります。関東大震災のときの朝鮮人虐殺を忘れるな、っていうのと、いま起こってるジェノサイドに対して声を上げろっていうのを、どうせ発言の機会を与えられるんだったら、それを言いたいなってぐらいのことなんです。でもそれは別にこの映画とはある意味関係ないっていう。

ただ、ひとりの人間として言いたい、と。

空:映画ってすごい特異な場所で、劇場って何百人ぐらいの人が観るわけですよ、こっちのことを。しかもこんなに自分の脳内をさらけ出してるみたいな映画を観たあとに、監督本人が、質疑応答で出る機会があると、その人たちに対してなにか言える機会があってですね。そういう機会をくれるんだったら、そういうことは言いたいけど、でも、映画を通してそれを伝えたいかどうかって言ったら、違います。

映画を通して発言する機会を与えられるのであれば、言いたいことっていうのはいくつかあります。関東大震災のときの朝鮮人虐殺を忘れるな、っていうのと、いま起こってるジェノサイドに対して声を上げろっていうのを、どうせ発言の機会を与えられるんだったら、それを言いたいなってぐらいのことなんです。でもそれは別にこの映画とはある意味関係ないっていう。

僕が今年見た映画で一番ショッキングだったのが、この『HAPPYEND』にコメントを寄せている濱口竜介監督の『悪は存在しない』なんですね。で、あの映画は説明をしない。一方で空さんの映画には、説明しようとしているものを感じるんですよね。良い悪いでも、説明的という意味でもないですよ。

ああ、ただ設定が設定なので、説明しないと描ききれないというのがあるんです。

たしかに、未来が舞台なので、ある程度の説明は避けられませんからね

空:もっとも大変だったのは、友情が崩壊していくさま、その理由として政治性が芽生える。で、それを描くためには、政治性が芽生えるきっかけと社会の部分を描かないと描ききれない。それを描くには、左翼的な人たちが出てくるシーンも描くんですけども、難しかったのが、そういう人たちの会話の自然な台詞みたいなものを考えると、説明的になってしまうんです。なぜなら左翼は、めちゃくちゃはっきりとセオリーを言ってしまうから。資本主義はこうで、権力はこうでみたいなのを言うじゃないですか。で、そこをリアルに描いたヴァージョンもあったんですけど、そうすると映画的には非常につまらないものになってしまう。試行錯誤した結果、いまの形になってるんですね。座り込みのシーンもそうです。それを説明的に描いたらつまらないものになってしまったから、ああいうふうになってる。でも、本当はなるべく説明は避けたいと思っていますね。

なるほど。あと、これは音楽の話にもリンクするんですけどね、もうひとつ面白いなと思ったのは、未来の高校生たちが岡林信康の歌を歌うこと。あれはなんで岡林なのかっていう。

空:歌詞がすごくテーマとリンクしているっていうのもあるんですけども、単純にあの曲が好きです。プロデューサーの増渕愛子が教えてくれたんですけど。森崎東の『喜劇 女は度胸』っていう映画で歌われているのを増渕が発見して、YouTubeで聴かせてもらって、めちゃくちゃ面白いじゃんみたいな感じになって。それでしばらくして、脚本についてふたりで話し合ってたとき「合唱してるシーンって映画的だよね」みたいな話になって、そういうシーンを入れようとしたとき、ちょうどいいじゃんみたいな感じで。

未来の学園、テクノでDJで、岡林信康……。

空:いまってそういう感じじゃないですか。たとえば60年代70年代だったら時系列順にローリング・ストーンズ聴いて、ビートルズ聴いて、みたいな感じになってきますけど、いまはやっぱりもうTikTokの時代とかっていうストーリーですから。

まあそうですね、たしかに。

空:だから、新しい音楽と遭遇したのと同じように、岡林も発見したりするのが、たぶんいまの音楽や文化との接し方っていうか。新しいものを時系列に追うという感じじゃなくなって、まあモノ・カルチャーじゃないっていうことですよね。自分の興味にそそられるまま、ネットを通して、どの時代も、どの文化のものにもアクセスできるようになっているという。

なるほど。

空:この映画のなかには裏設定があって、DJっていうものがそんなにポピュラーじゃなくて、コアな変な人たちがやるものっていうふうにしたくて。この近未来の設定では、大衆が聴く音楽というのは、AIが生成して、自分のムードを検知したりとか、あるいは入れたりしたら、それを生成して聴かせてくれるみたいな時代になっている、と仮定しているんです。そのなかで昔の、——マーク・フィッシャーじゃないですけど——、古いものを再発見して、それで楽しむっていうのがユウタの癖というか、性癖というか。だけどそれって悲しいことであって、まあAIもそうなんですけど、結局古いものを融合させて、新しくないものをまた作り変えるみたいなことしかできない。それこそマーク・フィッシャーが言うように未来がなくなること、そのアイロニーと距離を持って世界と接することであって、フィッシャーが(『資本主義リアリズム』のなかで)ベンヤミンを引用して言う——英語でしか読んだことがないんですけど——「メシア的な希望」という、それともう新しいものはなにも生まれないという資本主義、ネオ・リベラリズムの絶望を常に反復しているみたいな。でも、「メシア的な希望」みたいなものを持ち合わせてないと革命は不可能なので、そのふたつの対立をここにいれたというような。だから、まさにマーク・フィッシャー。

(笑)

空:ユウタが、楽器屋の面接のシーンで言う、「新しいモノってないじゃないですか」っていうのもまさにそれで(笑)。

この映画をの作品名を『HAPPYEND』にしたのはなぜですか?

空:もともとは「アースクウェイク」、「地震」っていう仮タイルだったんですけど、で、考えていったときになぜか『HAPPYEND』っていうのに惹かれて。「ハッピー」が持っている語感のエネルギーみたいなものと「終末」を感じさせるエンディングが合体することによって、この映画の雰囲気っていうか、若者が発している、はつらつとしたエネルギーなんだけれども、それと対比して世界が、絶望的な世界がバックグラウンドにあるという、両方兼ね揃えたような雰囲気を醸し出しているかと思ってつけました。なので、有名なバンド名や曲名などとは関係はありません。

深読みされたりするんですか?

空:されます。本当に関係ないです。たまたまつけたっていう。シンプルでいいと思いました。聞いたことあるフレーズだし、本当に誰でもわかるような言葉だけれども、独特のフィーリングみたいなものがこの映画とマッチしているんじゃないかなと。

『悪は存在しない』もそうだけど、映画のタイトルは、作品を見終わったあとに考えるうえでのヒントになるというか、『HAPPYEND』もそうですよね。そこには、アンビヴァレンスなんだけどどこか清々しさがあるっていうか。

空:それはそうかもしれないですね。映画を観終わったあとにまた、劇場を出て『HAPPYEND』ってタイトルを見たら、たぶん入る前とだいぶタイトルの印象は変わるし、含みもありますよね。でも意外とつけたのは直感的というか。自分もバッチリな選択でしたね。

空監督が今回の作品のなかでとくに気に入ってる場面ってどこでしょう。

空:たくさんあります。毎回笑ってしまうのが座り込みのシーン。窓がコンコンって鳴って佐野さんが開けて、寿司があってそれで何事もなかったかのようにカーテンをシュッて閉めるっていう。あの本当になんでもないように閉めるみたいな佐野さんのシーンがもう毎回爆笑しちゃって、すごい好きなんです(笑)。

なるほど(笑)。

空:でもなんでしょうね、全部好きですよ。どのシーンもうまくいったなって。あと、もうひとつすごい地味なんですけど、機材が盗られてしまって、職員室に北沢って先生と5人が並んで、奥が深くて、っていう。あのシーンはワン・カットなんですけど、めちゃくちゃうまくいったなと思っています。カメラも動かないし、本当に引き画だけなんですけど、事務員が入ってきて鍵を渡すタイミングと、それが全部終わったあとに後ろでタイラがひょこって出てくるタイミング、リズム感が完璧だったんですよ、あのテイクは。ひとつのシーンで本当にミニマルにすべてができたなっていうのが、職業病的に見るとうまくいった実感があって。リズム感がいいんですよ(笑)。

Jeff Parker, ETA IVtet - ele-king

 ジャズ・ギタリストのジェフ・パーカーがまたもこのうえないアルバムをつくりあげたようだ。今回は彼が率いるETAカルテットとの録音で、スタンダードからダブまでがつながっているような、アンビエント・ジャズ作品に仕上がっている模様。国内盤CDは12月11日リリース。要チェックです。

Jeff Parker, ETA IVtet 『The Way Out of Easy』
2024.12.11 CD Release

LAの伝説的ライブハウス、ETAで行われていたセッションから生まれたETAカルテット。ジャズ・ギタリスト、ジェフ・パーカーはじめ、ジョシュ・ジョンソン、アンナ・バターズら実力者たちによる音源が、国内盤CDでリリース!! 近年、LAを中心に盛り上がりを見せるアンビエント・ジャズのまさしく最前線ともいえる現場で、即興的に生まれる彼らの音楽、息遣いを聴くことができる。

ジェフ・パーカーがまたも極上のアルバムを作った。彼が率いるETA IVtetは、LAのETAというレストランで結成され、2016年から毎週レジデントで演奏を続けた。最初はスタンダードを演奏していた。次第に1曲の時間が長くなり、音楽の旅へ導くような演奏は客を惹き付け、レストランの外に入場を待ち望む列が出来るようになった。そのETAにおいて、途切れなく流れる長尺の演奏が厳選された僅か4本のマイクとカスタム・ミキサーで録音された。スタンダードからダブ/レゲエまでを美しいラインに繋げることができるアンビエント・ジャズのエッセンスがここに刻まれている。 (原 雅明 ringsプロデューサー)

https://youtu.be/ErvST4ZkS1Y

【リリース情報】
アーティスト名:Jeff Parker, ETA IVtet (ジェフ・パーカー、イーティーエーカルテット)
アルバム名:The Way Out of Easy (ザ・ウェイ・アウト・オブ・イージー)
リリース日:2024年12月11日
フォーマット:CD
品番:RINC130
JAN: 4988044124981
価格: ¥3,300(tax in)
レーベル:rings

Track List
1. Freakadelic (23:50)
2. Late Autumn (17:21)
3. Easy Way Out (21:59)
4. Chrome Dome (16:45)

Anna Butterss - amplified double bass
Jay Bellerose - drums, cymbals and percussion
Josh Johnson - amplified alto saxophone with electronics
Jeff Parker - electric guitar with electronics and sampler

オフィシャルURL: https://www.ringstokyo.com/jeff-parker-eta-ivtet/
販売リンク: https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008935886

Neighbours Burning Neighbours - ele-king

 今年、2024年はオランダのインディ・ロック・バンドの盛り上がりに確信を持たせるような年になった。素晴らしい2ndアルバムを出したアムステルダムのパーソナル・トレーナー(2枚目のアルバムはなんとも優しいギター・ロックだった)、ポスト・パンクの領域を広げたデビュー・アルバムを出したロッテルダムのトラムハウス、リアル・ファーマーのアルバムにザ・クリッテンスのEP、軽く考えただけでも次々に名前が出てくる。そのほとんどのバンドがイングランドにツアーに出かけ、音楽的影響を持ち帰り自身の音楽をさらに広げていく。
 比較的、地理的に近いということも大きいのかUKのバンドとの交流も多い。ノッティンガムのオタラ(これからサウス・ロンドン・インディ・シーン以降の重要バンドになるのではと期待しているバンドのひとつだ)にインタヴューしたときに、いままででいちばん印象に残ったライヴは何かと尋ねたのだが、オランダ、ロッテルダムのサーキット・フェス、レフト・オブ・ザ・ダイアルの名前を挙げていたのも印象的だった。曰く、こんなにたくさん好きなバンドが見られるフェスはなかった、と。レフト・オブ・ザ・ダイアルのラインナップは本当に凄く、UKを中心にヨーロッパやアメリカ、アジア、世界各国のアンダーグラウンド・シーンの気配を持った100を超える若手バンドが集まっている。そのラインナップはどのメディアの期待のバンド・リストと比べても遜色がないだろう。こうしたフェスが毎年おこなわれているというのもまたオランダのインディ・シーンの地盤の固さを物語っている。

 そんなオランダ・シーンの中で自分が今年いちばん期待していたのがロッテルダムを拠点に活動するネイバーズ・バーニング・ネイバーズのアルバムだった。ザ・スイート・リリース・オブ・デスやソロとして素晴らしいアルバムを作り上げたアリシア・ブレトン・フェラーのバンドであり、パーソナル・トレーナーやトラムハウスなどがインタヴューでおすすめのオランダのバンドを聞かれたときに毎回名前をあげるようなバンドで、このシーンの重要バンドと言ってもいいかもしれない。ノイズとポスト・パンクの間でうごめく冷たい炎が宿ったカオス、バンド結成初期の時期がコロナ禍と重なるという難しさもあったのかデビュー・アルバムのリリースまで長い時間がかかったが、しかしついにアルバムがリリースされた。金属のメロディを刻むギターに、高い位置で膨らむベース、陶酔した意識を引き戻すかのようなドラム、そぎ落とされたネイバーズのストイックな音楽は冷たく強烈な衝動でもって心を後ろ暗く躍らせる。それは庭で遊ぶ子どもが壁の隙間から何かを除き見るときのような、背徳と期待が入り交じった感情で、否が応でも胸を高鳴らせるのだ。

 たとえば “Familiar Place” と名付けられたその曲は、何かを伝える信号と引っかいたようなノイズを生み出す二本のギターが相まって心を落ち着かなくさせる。不安にゆれる “Always Winning” のアルペジオにしても同様で、アリシア・ブレトン・フェレールとダニ・ファン・デン・アイセルのふたりのギターとヴォーカルは交互に行き来しながら虚空に意味を刻んでいく。暴力的でありながら優しく静かに。あるいはそれはカミソリで指先を傷つけたその瞬間に似ているのかもしれない。糸を引くように線が生まれ、血が噴き出し、わずかに溜まり、そうして重力に引かれ落ちていく。痛みを感じるのはその後だ。
 おそらくこのアルバムのなかで最も古い曲であろう2019年から演奏されてる “Hesitate” はやはり素晴らしい曲で、ソリッドなアレンジを施されてこのアルバムのなかで一際輝きを放っている。はやる心にシンクロするようなアラム・シーヴのドラムに、爆発するキャット・カルクマンのベース、そして落ち着くことを許さない二本のギターのフレーズ、鋭く薄い金属の刃で幾重にも切りつけるかのようなこの曲は、ノイズのカオスのなかでいかにこのバンドが特別であるのかを証明する。

 そう、このバンドは特別なのだ。この1stアルバムがリリースされる直前にギターとヴォーカルを務めるアリシア・ブレトン・フェラーの脱退が発表されて、ここに収められたネイバーズの姿はすでにない。だが記録された楽曲がバンドの輝きを示し続ける。抑制が効いたノイズのカオス、コントロールされた衝動が封じ込められた青白くゆらめく炎、このバンドのライヴをもう見ることができないのは残念だが、いまはしかしこの素晴らしい1stアルバムを残してくれたということに感謝すべきだろう。地下でうごめく静かな熱を僕は感じる。

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