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KAKUHAN

Bass MusicExperimental

KAKUHAN

Metal Zone

NAKID

小林拓音 Jan 06,2023 UP
E王

 エレクトロニック・ダンス・ミュージックと即興音楽/実験音楽の融合、その現時点における最高到達点。KAKUHAN なるデュオのデビュー作は、そう言い切ってしまっていい圧倒的な強度を誇っている。ゆえにだろう、たとえばミュージシャンからの信頼も厚いマンチェスターの独立系オンライン・レコード店 Boomkat は、2022年のベスト・リリース第5位に本作を選出している。にもかかわらず、日本ではほぼ無風状態に近い。なので紙版の年末号で2022年のベスト・アルバムの1枚に選んだ本作を(そして個人チャートでも複数の人間がベスト10にセレクトしている本作を)、あらためてウェブでも紹介しておきたい。

 大阪の日野浩志郎は、現代日本のエレクトロニック・ミュージック・シーンにおいて食品まつりSUGAI KEN と並ぶ存在感を放つ、重要プロデューサーだ。ダンスに特化した YPY 名義のアルバムもすばらしかったけれど、ほかにもエクスペリメンタルなバンド goat を率いたり、レーベル〈birdFriend〉やマーク・フェルなどをリリースする〈NAKID〉を主宰したり、オーケストラ・プロジェクト《GEIST》から芸能集団=鼓童との映像作品まで、保守的なここ日本において果敢に野心的な試みをつづけている勇者のひとりと言える。
 その《GEIST》にも参加していたチェリスト、中川裕貴と日野によるコラボがこの KAKUHAN だ。中川はおもにフリー・インプロヴィゼイションの分野で活躍する京都のチェリストで……というより、およそ「チェリスト」ということばからは想像のつかない奏法やパフォーマンスを実践する、これまた勇者のひとりである(詳しくは細田成嗣によるレポートおよびインタヴューを参照)。

 本作では、自由闊達なエレクトロニクスと非正統的なチェロの奏法がなんとも不気味なノイズ世界を生みだしている。冒頭 “MT-DMZ” からしてホラー感満載だ。木製の戸や床が軋むようなチェロに、絡みつく電子音。2曲目 “MT-STM” では「弾く」というよりも「弓でこする」印象のチェロを相手どり、ころころと心地いい音が転げまわっている。まるでお化けが楽しくおしゃべりしているかのようだ。他方で途中から割りこんでくるハンドクラップは、フロアの情景を呼び起こしもする。手のこんだリズムも聴きのがせない。
 4曲目 “MT-BZSR” になってようやく旋律らしきものが前面に出てくる。が、背後ではエレクトロニクスがもこもこと抽象的な音響を生成しており、やはりひと筋縄ではいかない。B面最初の “MT-SS1” では逆にチェロはドローン的な役割を担い、メタリックなパーカッションがテクノのムードを醸しだしている。つづく “MT-AUTC” もエレクトロニクスが主役な印象だけれど、妖怪のうめき声のようなノイズを発する弦もまた聴き手を惹きつけて放さない。

 いくつかのカセットを除けば、日野にとって本作は YPY 名義のCD以来のフルレングスにあたる。トリップの極地を追求していた件のCDとは異なり、ここではチェロとの共存が優先されている。攪拌(かくはん)とは「かきまぜる」という意味だそうだ。生クリームを泡立てるときのように、料理や化学の分野で用いられることばである。本作ではクラブ・ミュージックとしてのテクノやベース・ミュージックと、いわゆる即興シーンや実験音楽で培われたアイディアがみごとに攪拌されている。その混合レヴェルの高さとセンスのよさに、海外のリスナーも讃辞をおくっているにちがいない。

 ちなみに本盤のデザインを手がけているのは、ele-king books でもお世話になっている Zodiak こと Takashi Makabe。かつてデザイナーズ・リパブリックがそうだったように、サウンドが尖端的であるとき、ヴィジュアルもまた更新されていくのだ。ぜひフィジカルを手にとって、音以外の部分にも注目してほしい。

小林拓音