ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Kendrick Lamar - GNX | ケンドリック・ラマー
  2. Waajeed ──デトロイトのワジード、再来日が決定! 名古屋・東京・京都をツアー
  3. Columns ♯10:いや、だからそもそも「インディ・ロック」というものは
  4. eat-girls - Area Silenzio | イート・ガールズ
  5. パソコン音楽クラブ - Love Flutter
  6. Shun Ikegai ──yahyelのヴォーカリスト、池貝峻がソロ・アルバムをリリース、記念ライヴも
  7. FKA twigs - Eusexua | FKAツゥイッグス
  8. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第1回 悪夢のような世界で夢を見つづけること、あるいはデイヴィッド・リンチの思い出
  9. Teebs ──ティーブスの12年ぶり来日公演はオーディオ・ヴィジュアル・ライヴにフォーカスした内容に
  10. Lifted - Trellis | リフテッド
  11. Meitei ──冥丁の限定12インチが発売、東京・京都では記念ライヴも(前者はジム・オルーク×石橋英子とのツーマンです)
  12. Lambrini Girls - Who Let the Dogs Out | ランブリーニ・ガールズ
  13. Brian Eno & Peter Chilvers ──アプリ「Bloom」がスタジオ作品『Bloom: Living World』として生まれ変わる | ブライアン・イーノ、ピーター・チルヴァース
  14. Double Virgo - Greatest Hits | ダブル・ヴァーゴ
  15. interview with Waajeed デトロイト・ハイテック・ジャズの思い出  | ──元スラム・ヴィレッジのプロデューサー、ワジード来日インタヴュー
  16. interview with Shuya Okino & Joe Armon-Jones ジャズはいまも私たちを魅了する──沖野修也とジョー・アーモン・ジョーンズ、大いに語り合う
  17. Yetsuby ──サラマンダでも知られる韓国のDJ・イェツビーがアルバム『4EVA』を発表
  18. Saint Etienne - The Night | セイント・エティエンヌ
  19. Columns 1月のジャズ Jazz in January 2025
  20. aya ——アヤの過激なセカンド・アルバムは3月28日に〈ハイパーダブ〉からリリース

Home >  Reviews >  Album Reviews > Mark Fell- Multistability

Mark Fell

Mark Fell

Multistability

Raster-Norton

Amazon iTunes

Mark Fell

Mark Fell

UL8

Edition Mego

Amazon iTunes

三田 格   Jan 24,2011 UP

 09年にはマット・スティールと組んだグリッチ・ミニマルのSNDとしても活動を再開し、さらに昨年末、2枚同時にリリースされたソロ3作目と4作目(1作目はセキュラー・ミュージックス・オブ・サウス・ヨークシャーの名義で、同郷であるヒューマン・リーグを再構築した『リプロダクション』アンビエントP197)。

 ソロではフロアを意識しないアブストラクト・タイプに徹し、神経症的なパッセージとシンプルな音階の移動だけで微妙なインプレッションを残そうとする。基本的に快楽的ではないけれど、苦行ではなく、過去の実験音楽のようでありながら、やはり過去のそれにはないダンス・カルチャーからのフィードバックを感得せざるを得ない。どちらかというと、そのことは〈メゴ〉盤に色濃く投影され、パート3にあたる"アシッズ・イン・ザ・スタイル・オブ・ライアン・トリーナー"というタイトルが示す通り(誰だ?)、09年にやはり〈メゴ〉からリリースされたフローリアン・ヘッカー『アシッド・イン・ザ・スタイル・オブ・デヴィッド・テュードア』を複数形にしてモジったことは瞭然だし、過去の実験音楽にアシッドを注入するという考え方と、その実践として聴くしかないものになっている。実際、かなりユーモラスな展開が目白押しで、パート2にあたる"ヴォルテックス・スタディーズ"もまたベーシック・チャンネルと同じタイプの地味なユーフォリアを内包し、重箱の隅をつついて回るようなトリップ・モードにまだこだわっていることがよくわかる。

 とはいえ「アシッド・イン・ザ・スタイル~」の方向性を重視するならトムトンツ(復刊エレキング1号P72)でも聴いた方がぜんぜん手っ取り早いことはたしかで、〈ラスター-ノートン〉盤はそれよりもシリアスな試みに終始し、マーク・フェルの資質がユーモアに軸を置いたものではないことがよくわかる。暴力性と叙情性をクラッシュさせたオープニングから一貫して緻密に構築された全17曲は『多重安定性』というタイトルとは裏腹にとてもスリリングで、〈メゴ〉盤よりも過剰にビートを駆使しつつもグルーヴは皆無というポリシーを堅持しつつもベーシック・チャンネルにはないダイナミズムを発揮し、頭でっかちにもまだ充分な未来が開けていることを予感させる(エレクトロニカ健在、というか)。

 〈ラスター-ノートン〉盤は09年8月~2010年7月にかけて録音され、メゴ盤は同じく2010年の8月に一気につくられたとあり、そのような制作プロセスの差も作品の違いによく表れている(電気グルーヴの『J-POP』と『イエロー』みたいな対照性というか)。

三田 格