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YPY

Techno

YPY

Compact Disc

BLACK SMOKER

小林拓音   Sep 25,2020 UP

 コロナ禍により部屋にこもらざるをえない状況がつづいたためだろうか、ますます創作意欲に火がついているように見える。
 goat のようなエクスペリメンタル・ロック・バンドを率いる一方、行松陽介のパーティ《Zone Unknown》では Zodiak とともに実質的なレジデントを務め、コンサート《GEIST》や楽団 Virginal Variations では京都の前衛派チェリスト、中川裕貴を招くなど、大阪を拠点に多角的な文脈で活躍をつづけている日野浩志郎。彼による打ち込み主体のソロ・プロジェクトが YPY である。
 今年の頭、まだパンデミックが本格化するまえに彼は、同名義にて自身のレーベル〈birdFriend〉からダブにフォーカスしたカセットテープを2本リリースしているが、今度は〈BLACK SMOKER〉から新作が送り出されている。題して『Compact Disc』。丁寧に各曲の頭文字まで「CD」で統一されたこのアルバムは、まさにCDでしか聴くことができない。

 前々作『2020』や前作『Be A Little More Selfish』からはがらりと様子が変わっている。時流に乗ってこれまでよりもぐっとテンポを落とし、キックのパターンを固定、そのうえをいろんなノイズがフリーキーに乱れ舞う、というのが基本路線で、忘我の境地とでも言うべきか、ある種の逃避性を携えてもいる。
 その魅力を最大限に味わえるのが冒頭 “Cool Do!” だ。太い低音が牽引する力強いグルーヴは、彼が goat などのバンドや各地のプレイで培ってきた身体感覚に由来するのかもしれない。そのうえをシンセ・ノイズが縦横無尽に駈け巡る16分弱はまさしく電子音の狂宴といったあんばいで、いやでも恍惚とした気分になってくる。なかなかクラブに足を運べないこの時代に、これほど強烈なテクノ・トラックが生み落とされたことは素直に感嘆すべきだろう。ちなみに同曲を聴いた編集長は、「73~74年のドイツのコズミック・ミュージック、ベルリン・スクールのテクノ・ヴァージョン」「こころおきなくフリークアウトできる」と言っていた。つまりは究極の「トリップ」体験であると。

 おなじくランニング・タイムの長い終盤の “Collapse Dojo” も似たような感覚に浸らせてくれるが、こちらはより高い部分の音が暴れまわっている印象で、合成音声のごとくシンセがなにかを喋っているように聞こえるからおもしろい。
 一定に保たれたビートは時間感覚を狂わせる効果をもたらしてもいて、ゆえにリスナーの意識は展開よりも空間のほうへと誘導されることになる。たとえば “Cold Disc” などは極上のダブとしても享受可能だろう。本作中唯一4つ打ちの採用されていない “China Dynamic” や、ハンドクラップ~スネアの連打とおならのような電子音とのかけあいが楽しい “Cashout Dream” あたりも、レイヤー間のせめぎあいに惹きつけられる。
 バンド、ソロ、楽団とさまざまな試みを実践し、これまで幾度も自身の限界を更新してきた日野浩志郎。シンプルな機材とビートで、しかし無限の電子音の可能性を追求した本作もまた、彼のスタイルを拡張する1枚と言えよう。

小林拓音