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goat

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NEW GAMES

Headz / UNKNOWNMIX

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ExperimentalNew AgeNoiseWorld

BONANZAS

BONANZAS

bonansazs

MEATBOX Records

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松村正人   Aug 07,2013 UP

 女の子はともなっていなかったが、先週島に帰った私は南国の海に繰り出した――というか、島では海は繰り出すまでもなくすぐそこにあったのであった。どこまで行っても海しかない。潮騒が耳ざわりである。東京ではおがめない満点の星空がプラネタリウムのようで白々しい。島の特産はいろいろある。なかでもヤギ汁はヤギをまるごと釜ゆでにしたような、羊肉に何倍か臭みを足した味わいが珍味好きにはたまらないが、さいきんは家でヤギをつぶさなくなった、とは私の母の弁である。なんでも、法律によれば家庭内で勝手に家畜をつぶしてはならないらしく、そういえば、家で最後にヤギ汁が出たのは、内地の高校に行くことが決まったときのお祝いの席で、ロックを聴きはじめていた私はヤギ汁を前にストーンズの『山羊の頭のスープ』のことを考えていたが、このたびの帰島の折、ヤギを指す「ヒンジャ」なる島口を耳にしたとき、その言葉に私はむしろ「貧者」を連想した。富者、つまり富める者の対義語としての貧しき者。賢者の風采のヤギに貧者というのも失礼な気もするが、富者はたいがい賢者ではないことを考えあわせれば、足るを知る賢者はやはり貧者でなければならない。

 前身「TALKING DEAD GOATS"45」から2011年に「goat」と名称をつづめた日野浩志郎(ギター)、安藤暁彦(サックス)、西河徹志(ドラムス)、田上敦巳(ベース)からなる大阪の4人組のファースト『NEW GAMES』もまさに剰余をきりつめた貧者の音楽である。というと語弊があるかもしれないが、ギター、ベース、ドラムス、サックスというあたりまえの編成であるにもかかわらず、弦楽器のミュート、ハーモニクス、サックスのフラジオ、ドラムのリム・ショットなど、ものの本では効果音、装飾音に分類される奏法のノイズを純化し配置することで、ゴートの音楽は楽音の豊かさに背を向けている。精確にいえば、音を音楽ならしめる意味の体系にゴートは対抗する。ところが、意味の反作用としてノイズを位置づけるだけでは、サウンドの強度は容易に情動によみかえられる。ノイズがノイズ・ミュージックにフォーマット化されたのはそう遠い昔のことではない。そこから逃れたのは、変わることを、あるいは変わりつづける同じものを自覚した者だけであり、それはドローンの時代になり、やがてそれがひと息ついてからも、同じ過程をたどらないとはいえない。だからそこには、体系とか、ましては新ジャンルといっては大仰だが、楽音の世界に背を向けるだけでなく、交通の場が必要であり、ゴートはそれを「NEW GAME」と呼ぶ。彼らのルールでは、音はかすかに高低をもつ記譜困難なノートとなり、連鎖するノートは変拍子やポリリズムといった解釈可能な構造を跛行しながら踏みはずす。"NEW GAMES""HEXMAN""MW""std"、収録した4曲は初期のバトルズやsimを思わせる抽象度とリズムをもっているが、先達がハードコアやジャズから離反する方途として抽象化していったのとは反対に、ゴートはたとえばギターのハーモニクスを親指ピアノにみたて、リズムのズレを輻輳することで集団的なりズムに擬装し、架空の......というより異次元のワールド・ミュージックを想起させる新しいゲームの理論を提示することで、豊かさを盲信する意味の世界と積極的に軋轢を起こすのである。

 ゴートがワールド・ミュージックなら、日野浩志郎の参加するもうひとつのバンド、BONANZAS(ボナンザス)はハードコアである。といっても、ストレートなそれではない。いや、ボナンザスはじつはこれ以上ないほどストレートなのだけど、その直裁な一撃は複雑な経路をたどるため、一撃そのものが発せられたときには呆然としてしまっている感がある。日野はボナンザスではベースを担当しているのだが、ここでもあたりまえに単音だけ弾くのではなく、あるときはギターの役割を兼ね、コードを、ピチカットするのではなく叩きつけるように弾く。ちょうどハンマーダルシマーのように、あるいは打楽器アンサンブルを運営できなくなったケージが代わりにプリペアード・ピアノを発明したように、このやり方だと弦楽器はパーカッションに近づいていく。演奏陣はエレクトロニクスの蓮尾理之のほか、ドラムの西河と日野はゴートのメンバーなので、兄弟ユニットともいえるが、ボナンザスとゴートとを差別化しているのはなんといってもヴォーカルの吉田ヤスシだろう。元スパズマム/ナスカ・カーの吉田ヤスシは2000年代なかごろ、あらゆる音楽の断片を高速でシャッフルするうちに全体がシュールレアリスムというよりホラーめいてくるサスペリアなるバンドで気を吐いていたが、ボナンザスでは記号を攪拌するのではなく、攪拌しきった後に残ったものを鍛錬することで、それ以上のテンションをめざしているかにみえる。関西シーンの連綿たるややこしい音楽のなかでも、主流派に与しない特異さをみせる吉田ヤスシのフロントマンとしての存在感が演奏のテンションと渡り合うから、ボンナンザスはハードコアあるいはマス・ロック(ってもういわないですかね?)の軛(ルビ:くびき)から自由に、むしろ異形のダンスミュージックとしてさえ機能し、ゆえに昨年の『Music For The Quiet Hour / The Drawbar Organ EPs』でポスト・ダブステップのステップを踏み抜いてみせたシャックルトンと彼らを共演させようと企む方もいらっしゃったのだろう。それをこの目でたしかめようと私は先日のメテオナイトに足を運んだ。ドラムスを中心にベースとエレクトロニクスが対置するなか、あれはなんというのか、イスラムの女性のかぶるブルカに似た黒布をかぶる吉田ヤスシがステージでくねりはじめたとき、もしかしてムスリム・ガーゼへのオマージュもこめているのかしらん、といぶかったけれども、彼らのグルーヴは瞑想というよりも儀式的で、しかもスピリチャリズムには回収される気配もなかった。simの大島輝之の客演はドンズバすぎていささかメン食らったが、ボナンザスの(二重の意味で)コンクリートな音響構造物の内部で、アンサンブルを崩すことなく同居できるギタリストは大島をおいてほかにいない。私もしばらく頭をひねってみてそう思った。そして今回の彼らの演奏はハードコアの祭典で特異な位置を占めただけでなく、フォークやインディ・ロックとハードコアの折衷主義においても最先端を走ることを印象づけた。『bonanzas』はそんな彼らのファーストであり、LP片面ほどの時間に濃縮した5曲は、点状の打撃音と線状のノイズと面状のヴォイスが空間を画す彼らの特性を端的にとらえている。録音はタグ・ラグの前川典也。ヴァーミリオン・サンズのPAでもある。ゴートを録った西川文章ともども、音盤における録音の重要性をいやがおうにも教えてくれる。それは『bonanzas』のジッパー風にミシンを入れたジャケットにもいえる。CDをとりだそうと、ミシン目に沿って開けるとジャケはなくなってしまうのである。リリース元の〈MEATBOX〉のこだわりもまた付言すべきものである。

松村正人