「S」と一致するもの

New Order - ele-king

 ニュー・オーダーの3rdシングル「シンギュラリティ」の新PVも注目です。これは、まだ壁によって東西に分断されていた時代のベルリンのアンダーグラウンドの様子を編集したもの。まずは見て下さい。

 すごいでしょ。まさに無法地帯、いかに当時の西ベルリンがアナーキーな情況にあったのか……。これは、ファクトリー・レーベルのベルリン支部代表、マーク・リーダー(マンチェスター出身)が脚本を書いて制作されたドキュメンタリー映画『B Movie: Lust & Sound in West Berlin』をエディットしたもの。
 ちなみに、マーク・リーダーはやがてMFSを立ち上げてジャーマン・トランスの人気レーベルにまで大きくしますが、そのレーベルからは1996年に電気グルーヴの「虹」の12インチが出ています。

Massive Attack, Young Fathers - Voodoo In My Blood - ele-king

 すでにご存じの方も多いかと思いますが、マッシヴ・アタックの新作PV、格好良すぎです。昨年『ホワイト・メン・アー・ブラック・メン・トゥー』が前作『デッド』に続いて高評価された、エンジンバラの3人組ヤング・ファーザーズをフィーチャーした新曲のPVですが、なんといまもっともエロティックかつデンジャラスな女優、ロザムンド・パイクが出演!!!! 
 これは2016年のベストPVでしょうな。ロザムンド・パイクの演技を見れるだけでも素晴らしい……

Andrew Weatherall - ele-king

 音楽を聴き続けている者として、ひとつの好奇心、興味、関心のあり方として自分と同年齢の者がどのような表現の変遷、作家活動を辿るのだろうか、というのがある。ぼくより年下の人にもぜひ意識することをオススメしたい。自分と同じ歳で共感できるミュージシャンを探すことである。自分が25歳のときに、同じく25歳のあいつはこんな音楽を作って、35歳のときはこんな音楽を作ったと。そういうふうに聴いていると、なにかと考えさせられることがある。ときには励みにもなる。
 ぼくと同じ歳のミュージシャンというと、──ミュージシャンというよりDJだが──、デリック・メイとジェフ・ミルズがいる。この人たちは、しかしこう言ってはナンだが〝ハイパー〟なので、じつはそれほど同年齢意識を持っているわけではない。日本では菊地成孔がまったく同じ歳で、辿ってきた音楽体験が違いすぎるのだけれど、やはり、わかるところはすごくわかることがある。彼の近著『レクイエムの名手』がまさにそうだった。
 アンドリュー・ウェザオールもぼくと同じ歳である。今年で53歳という、立派な中年だ。そしていま〝中年〟であること、それはぼくがウェザオールに抱く関心のひとつとしてある。
 そもそも、アシッド・ハウス/テクノを直撃した世代の多くは、いま中年期に差し掛かっている。現役でがんばっているDJの多くも中年になってきた。この中年期は、ひとの人生においてじつにむずかしい。以下、エドワード・W・サイードの文章を引用する。

 中年期という年頃は、より明快に定義された二つの時期や事柄の間に挟まれたものの常として、かくべつ有益なものとはみられてこなかった。もはや将来を嘱望された青年でもなく、かといって敬われる老人でもない。不惑を過ぎてなお反抗的な若者ぶってもしばしば愚かしく、いっぽうで早くから老いた重鎮のようにみなされてしまうと、おぞましい尊大さや制度そのもものの厳格さを背負うことになりかねない。(中略)中年期は不確実性と、ある種の喪失性、身体的な弱さ、心気症、不安とノスタルジーの時期である。大多数の人びとにとって初めて死を意識するようになる時期でもある。
 いずれにしても、いま述べたことは経験にもとづいた現実の一部である。(中略)しかし誰であれ実際に中年にさしかかった者にとって、喜ぶよりは考えさせることのほうが多い。過去を繰り返すことなく(いっぽう悲しくもありがちないように)過去を裏切ることも避けながら、そこから学びつつあらためて来し方行く末を思い、猪突猛進してきたそれまでのエネルギーを新たな現実に合わせて修正しなければならないからである。あらゆる決まり文句が示唆するとおり、野暮ったく退屈な、色褪せた状態にもそれなりの真実はある。そしてそれが中年というものなのだ。

エドワード・W・サイード『サイード音楽評論』二木麻里訳

 なんの反論もない。思春期はたしかに人生においてむずかしい季節だが、中年期もすごくむずかしいのである。そのむずかしい季節をアンドリュー・ウェザオールは試行錯誤しながら生きている。ぼくと同じようにだ。
 そのアンドリュー・ウェザオール、彼こそはアシッド・ハウスにイングランドのゴシック趣味を注いだ張本人、彼こそは誰もがスニーカーを履いていた時代にラバーソウルを履いてDJをしていた男、彼こそは誰もが太陽を歌った時代に雨と霧を愛した人物である。近年流行っているゴシック/インダストリルの美学なんぞは、90年代の愛(バレアリック)の季節から表現し続けている。凡庸なDJがそんなことをすればただの異端児だが、ウェザオールという男は、その手の掟破りを最高に格好良く思わせてしまうのだ。彼の才能は、迎合しないその非凡なセンス、それをやってしまう思い切りの良さ、きわめて英国的な目利きにある。
 ロッターズ・ゴルフ・クラブとは彼のレーベル名であるが、この「ゴルフ・クラブ」という言葉を持ってくるところがいかにも彼らしい。ゴルフ・ファッションの元となったラウンジ・スーツは、19世紀つまりヴィクトリア朝時代の後期に流行っている。それはその時代のアウトドア・ファッションである。また最近の彼は顎ひげを生やし、ワークシャツを着ている。これも19世紀から20世紀初頭にかけての英国のスタイルだが、こうした服装からも読み取れることは、彼が〝現在〟に対して深い疑問を抱いているということだ。
 ファンションの問題もあるだろう。近年のウェザオールには見習うべきところがある。もしぼくが40代〜50代をターゲットにするファッション誌の編集者だったら、間違いなくこの男を特集するだろう。多少やり過ぎのところはあるが、もっともむずかしい中年期の身だしなみを彼になりに表現しているからだ。
 とはいえ、完璧な人間などいやしない。ウェザオールは、いまから12年前、中年期を目前としながらロカビリーを取り入れたことがある。41歳において過度に若者ぶったのだが、この気持ちもわかる。この年頃にありがちな、俺はまだいけるんだという、最後のあがきなのだ。そういう意味でウェザオールの作品からは、人生を生きるひとりの人間としての迷いや恐れといったものを感じるし、今作が7年ぶりになったのは、やはりこの歳のむずかしさがあったのだろう。誰もがいつでも時代に乗れるわけではない。  

 俺たちは川に蹴りを入れている
 流れを止めようとして
 無理そうな気がしてきたんだ
 俺が願うほうには流れていきそうにない
 “Kick In The River”

 先日書いたYuri Shulginのレヴューからも続く話だが、アンドリュー・ウェザオールがアシッド・ハウスのなかに注いだゴシック(リヴァイヴァル)運動は、ヴィクトリア朝時代の産業革命への抵抗の表れだった。いま起きている現実の変化こそ悪夢にほかならない。19世紀のテクノロジーの革新による変化をうながす原動力は資本主義だったが、それは現代にも通じる話であり、ゴシックという名の警鐘がいままさに打ち鳴らされていることはここ数年の音楽シーンをみればよくわかる。ゴシックの作家たちが150年前の最新テクノロジーを有効利用したように、彼らもデジタルを使いながらデジタル化社会を批判する。
 しかし、アンドリュー・ウェザオールという、その知性と趣味の良さ、アティチュードによって、長きにわたってDJカルチャーのトレンドに多大なる影響を与えてきた人物の最新ソロ作品は、ハウスでもテクノでも、トリップホップでもない。場末のライヴハウスで10人の客を相手に演奏する、誤解を恐れずに言えばうだつのあがらないバンドのようだ。強烈なまでにくみしたいと願うダンス・ミュージックのスタイルがいまの彼にはないのかもしれない。これもまた一考に値することだが、泉智のレヴューのように長くなってしまったので、先を急ごう。
 場末のライヴハウスで10人相手にするようなバンドは、ある意味では自由である。世間からのプレッシャーもなければ、自らを追い詰めるようなオブセッションもない。過去を美化するノスタルジーもない。曲が出来て、歌詞が書ければ、楽曲は生まれる。『コンヴェナンザ』は、いまのアンドリュー・ウェザオールの気持ちをもってして生まれた誠実な作品である。「野暮ったく退屈な、色褪せた状態にもそれなりの真実はある」とサイードが言うように、ここには若さゆえの勢い、老境ゆえの悟りにはない真実がある。

 どうかこの手紙を許して欲しい
 難破した魂が綴ったんだ
 残骸の専門家 砕けた石のなかで失われた名前
 どんな祈りも僕を救えなかった
 もう一度亡霊を呼び出そう
“Ghosts Again”

SUSUMU YOKOTA - ele-king

 昨年のもっとも悲しいニュースのひとつに、横田進の死があった。彼の早すぎる死は、世界中のDJにもリツイートされたが、それはいかに彼が国際的に評価の高いプロデューサーであったのかを証明した。
 さて、ときの経つのは早く、3月で1周忌となるわけだが、横田進が90年代に長く在籍していたサブライム・レーベルから、ススムヨコタ名義としてはデビュー・アルバムとなる1994年の『Acid Mt.Fuji』が復刻リリースされる。当時日本に上陸したサマー・オブ・ラヴを真っ向から捉えた作品で、時代のドキュメントでもある。
 オリジナルマスターからハイレゾに対応したリマスターを施したのに加えて、ボ ーナス・ディスク(CD アルバム限定)では、過去 CD シン グルのみに収録された3曲に、7インチ限定曲、完全未発表曲、さらに1994年6月のライヴ音源も収録。500枚限定生産なので、欲しい人はお早めに。発売日は3月23日。
 
 また、彼が名声を決定づけた3作、『1998』『1999』『ゼロ』の3枚のアルバムもボーナストラック付きでデジタル配信される。
 詳しくは、こちらをどうぞ。https://www.musicmine.asia/yokota/index.html

Ed Motta - ele-king

 2013年の『AOR』は、タイトルそのものズバリのAORアルバムだったエヂ・モッタ。スティーリー・ダンやボビー・コールドウェルなどから、日本の山下達郎や吉田美奈子までこよなく愛するエヂらしさが表れたアルバムで、近年はライト・メロウ~シティ・ポップスといったサウンドが好評を博す日本ではとくに評判が高かった。デヴィッド・T・ウォーカーとの共演も話題を呼んだ。1980年代後半にブラジルからデビューして以来、長いキャリアを誇るシンガー・ソングライターで、初期のファンクやブギー・ソウル(彼の叔父はあのブラジリアン・ファンクマスターのチン・マイア)から、1990年代後半はジャズ、ソウル、ファンク、レゲエから、R&B、ヒップホップ、ハウス、ディスコといったクラブ・サウンドを融合した作品をリリースし、世界的に活躍するようになった。一方、彼はかなりのレコード・コレクターでもあり、さまざまな分野の音楽を愛好する中で、とくにジャズのコレクションも充実している。そうした嗜好が表れた2002年の『ドゥイツァ(Dwitza)』は、ジャズやフュージョンに傾倒したアルバムだった。エヂはヴォーカルのほかに鍵盤奏者としても優れた才能を持ち、ここでのフェンダー・ローズやシンセを組み合わせたコズミックなプレイは素晴らしかった。そして、サンバをはじめとしたブラジル音楽とジャズ/フュージョンが結び付いたスタイルは、往年のアジムスやアイアートなどに通じていたと言えよう。

 『AOR』と『ドゥイツァ』はそれぞれ方向性が異なるもので、リスナーにとっても好みが分かれるところだろう。ただ、どちらもエヂが好きなタイプの音楽であり、そうした2つの世界を1枚のCDの収めたのが新作『パーペチュアル・ゲートウェイズ』だ。ここではわかりやすく、アルバムのA面にあたるのが「ソウル・ゲート」、B面が「ジャズ・ゲート」と色分けされている。とは言っても、「ソウル・ゲート」は『AOR』の二番煎じ的な印象が拭えず、それよりも「ジャズ・ゲート」の出来がいいという印象が個人的には強い。ひさびさにエヂが本格的なジャズに挑戦したアルバムではないだろうか。「ソウル・ゲート」の最後を飾る“ヘリテージ・デジャ・ヴ”にしても、いわゆるフュージョン・ソウル的な作品で、ジャズ・サイドへのうまい橋渡しとなっている。プロデュースを行うのはグレゴリー・ポーターの師匠格にあたり、アルバム『リキッド・スピリット』のプロデュースも手掛けていたカマウ・ケニヤッタ。そして、彼のつてでパトリース・ラッシェン、ヒューバート・ロウズ、グレッグ・フィリンゲインズ、チャールズ・オーウェンスといった往年の名手から、伝説的プレイヤーのセシル・マクビーの息子まで、という非常に豪華なラインナップだ。

 シリアスな佇まいの“ジ・オウナー”は、1960年代のモード・ジャズ~新主流派といった流れを彷彿とさせる作品。ウェイン・ショーターのブルーノートでの『スピーク・ノー・イーヴル』、『ジュジュ』あたりの演奏が思い浮かぶ。それに続く“ア・タウン・イン・フレームズ”は激しいリズム・セクションを持つアフロ・ジャズで、こちらはマッコイ・タイナー的だ。若いジャズ・ファンには、カマシ・ワシントンの『ザ・エピック』に繋がるようなスピリチュアルな世界、というとわかり易いかもしれない。オーウェンスによるコルトレーン調のテナー・サックスがフィーチャーされたモーダルな“オーヴァーブラウン・オーヴァーウェイト”も含め、これらは本作のディープ・サイドを象徴する楽曲群だろう。バップ調の“アイ・リメンバー・ジュリー”でのエヂのヴォーカルは、ヴォーカリーズの始祖であるエディ・ジェファーソンを彷彿とさせるもので、彼がいかにジャズ・ヴォーカルを研究しているかが伺える。また、『AOR』がいろいろな録音データをまとめて作ったのに対し、『パーペチュアル・ゲートウェイズ』はロサンゼルスのスタジオで一発録音という、昔ながらのジャズ・レコーディングのスタイルに則った。「ジャズ・ゲート」における緊密な空気は、やはりこうしたレコーディング・スタイルでないと生まれてこないものだろう。

Yuri Shulgin - ele-king

 よくアナログ盤は音がいいからという感覚的な話を聞くが、いま現在、12インチのヴァイナルEPなるメディアが意味するところは、90年代(=欧米のインディにとってカジュアルなリリース形態)とも、80年代(=ディスコ目的のリリース形態)とも違っている。高価にはなったが、その意味するところは、19世紀ヴィクトリア朝時代のウィリアム・モリスによるアーツ・アンド・クラフツ運動と似ている。そう、〝量〟に抗する手段である。
 いや、〝量〟というよりは、インターネット地獄に抗する手段というべきだろうか。カイル・ホールの素晴らしいアルバムがヴァイナル・オンリーの配信ナシで5千円することも、まったくもってアーツ・アンド・クラフツ運動のコンセプトと重なりはしないか。
 ウィリアム・モリスとは、19世紀の大英帝国を代表するデザイナーで、そして貧困を憎む社会主義者だった。イギリスで『資本論』を真っ先に読んだ人物としても知られ、英語版のデザインを手がけてもいる。カール・マルクスの娘とともに社会主義同盟のメンバーとして、ストリートでラジカルな演説をうったほどの人だ。モリスが世界を変えるために試みたアーツ・アンド・クラフツ運動による工芸品は、しかし結果、高価であるがゆえに、彼が味方した労働者に買えるものでなかったという矛盾があった。
 だからといって大量生産された安いものばかりを買うことは、職人気質や手工芸というものをこの世界から追放することに加担する。インディ音楽シーンにおいて、いまさらアナログ盤やカセットが重要な意味を持つに至った理由と大いに重なる話だ。そして、Yuri Shulgin(ユーリ・シュリジンと読むのでしょうか。わかる方教えてください)の2年ぶりの新作からは、これが12インチ・ヴァイナルでなければならない理由がよくわかる。デジタルで満足している人には悪いけど、ずば抜けている。そろそろ音楽について語るべきだろう。

 ホアン・アトキンスが「ジャズは先生(Jazz Is The Teacher)」なる曲を発表したのは1992年で、いまここでその時代に起きていたことを振り返ってみるのは、Yuri Shulginの新作を絶賛する理由がより見えやすくなるかもしれないが、そうした分析はときにうっとうしくもあるので、まず単刀直入に言うべきことは、このアナログ盤に彫られた4曲すべてに気持ちが揺さぶられる力があるとういこと。計算されながらも、優れた直観による力強い音響と抱擁、個性、美しい逸脱がある。ミスよりも勢い(グルーヴ)を重視しているところもいい。
 A面1曲目の“Nothing In The City”の出だしのリズムとコードは、飲んでいるビールを思わず吹き出してしまうほどマッド・マイク直系だが、タメの効いたベースライン、ブレイク、躍動するサックスと美しいソウル・ヴォーカル、華麗なピアノのソロ、これら抑制されたジャズの断片と連続してアシッド・ハウスがミキシングされたとき、まあ、微笑まずにはいられない。ジャズが〝先生〟で、音楽的向上心を意味するなら、アシッド・ハウスとは下々の祝祭へのリスペクトを意味する。
 続く“Polyphonic Mind ”を特別なものにしている要素のひとつにもリズムを刻む彼のベースがあり、ヴィブラフォンとサックス、ギターの即興がある。タイトルが言うように、すべての音が“ポリフォニック”に構成される、混然としていて、パワフルで、ハウス・ミュージックが本来持っている猥雑さが根を張るようにある。“Nothing In The City”と同様に、トランペット以外の楽器はすべて彼自身によって演奏されているが、これはフュージョンではないしIDMでもない。1993年のURを継承する音と言えるだろう。
 B面の2曲はダブの探求となる。“Livetrackrecording (Dubby) ”はベーシック・チャンネルを彷彿させ、“#1stereo (Analog Jam) ”はアンビエントを展開、こちらの2曲にもアシッド・ハウスとジャズがある。
 
 Yuri Shulginはロシア在住のプロデューサー(ベーシストとしてヴァクラなどの作品に参加している)で、アントン・ザップのレーベル、〈Ethereal Sound〉から2011年にEPを出している。いや、EPしか出していない。Mistanomistaという名義でもイタリアのレーベルから2枚出していて、その2枚と本人名義の3枚すべてがもっと広く賞賛されるべきものだ。本作は2年ぶりの新作になる。彼の音楽は小さなレーベルから発売されたアナログ盤でのみ発表されている。

HIROSHI WATANABE『MULTIVERSE』 - ele-king

 〈トランスマット〉からのリリースを控え、ヒロシ・ワタナベが今週末から日本全国ツアーを開始する。無茶苦茶気合いが入っていると思われるので、この機会にぜひ彼のDJを体験して欲しい。〈コンパクト〉のKaitoだけが彼のスタイルではない。彼の新作のように、エモーショナルなところも彼の魅力のひとつであり、その音楽は、きっとあなたを悪夢から覚ましてくれるでしょう。
 なお、アルバムも4月20日に発売が決定しました。

Matmos - ele-king

 どうして洗濯機なのだろう……マトモスの新作を聴きながら、そのことばかりを考えてしまう。ワールプール社製の洗濯機が発する音だけで構築された本作『アルティメット・ケアII』は、現代のライフスタイルと音楽との関係性をコンセプチュアルにユーモラスに問う彼ららしい作品だと言えるし、生活音で作り上げられたハーバートの『アラウンド・ザ・ハウス』(02)を思い出すまでもなく、モダンなミュージック・コンクレート――もしくは「コンセプトロニカ」――としては正統なあり様のように感じられる。ただ逆に言えば、コンセプトのみにおいては強烈な真新しさを感じなかったのは正直なところで、ドリュー・ダニエルのソロ・プロジェクトであるザ・ソフト・ピンク・トゥルースの近作における、社会学的なアプローチが続いたコンセプトのほうがキャッチーなようにはじめは思えた。だが、意地の悪いインテリジェンスをつねに武器としてきたマトモスの功績を思い返すほど、冒頭の問いに立ち返るのである。そこにはきっと何か理由があるはずだ。どうして洗濯機なのだろう……。

 その回答のヒントは、38分12秒にわたるアルバムが1曲のみで構成されていることにあるように思う。たとえば「注水」「洗い」「すすぎ」「脱水」といった行程によって分割する曲構成もあり得たはずだ。が、そうならなかったのは、その38分12秒――もちろんそれは1回の洗濯にかかる時間である――にひとつのストーリーを見出しているからだろう。汚れた服を入れ、ボタンを押したらあとは放っておかれる機械の架空の物語がここでは繰り広げられる。
 興味深いのは、全体としてブレイクコアやIDMといったマトモスの「節」は炸裂しながらも、得意の優雅でポップなハウス的展開がほとんど見当たらないところだ。冒頭、ダイヤルを回して洗濯の水が注がれれば徐々にパーカッシヴなビートが入ってくるのだが、なにせBPMが140近くある。せわしなく機械は動き、そしてノイズがギリギリと雄叫びを上げる……それは比喩ではない。本当に機械が上げる悲鳴のように聞こえるのだ。やがてもう一度水音が聞こえればビートは消え、ダーク・アンビエント/ドローン的展開になだれ込んでいくのだが、その幻影的な音像の隙間から抽象的だがとても物悲しげなメロディが漏れてくる。それはこの秘密めいた音楽的冒険のなかの、もっともエモーショナルでメランコリックな瞬間だ。そしてそのまま、中盤は陶酔的な時間が引き延ばされ続け、25分あたりの完全にビートレスの瞬間はほとんど官能的ですらある。

 この物悲しさを、僕はマトモスの音楽のなかにずっと忘れていたことにそのとき気づかされた。テレパシーを主題にした前作『ザ・マリアージュ・オブ・トゥルー・マインズ』の突飛さもあったし、何より彼らの作品には素っ頓狂で黒い笑いがつねに滾っているからだ。だが、その隙間では声にならない悲鳴もつねに上げられていたのではないか。
 「アルティメット・ケア」、すなわち「究極の世話」とは何と皮肉めいた名称だろう。洗濯という必要不可欠な、しかし取るに足らない日々の家事において毎度上げられる機械の悲鳴。それが「究極」だろうと何だろうと人間は気にも留めないし、そうした煩雑なルーティンのなかで少しずつ心を削っていく。だがマトモスが言うには、想像力を働かせれば、そこでも音楽は鳴らされているのである。もし本作のことをインダストリアル・テクノと呼ぶのであれば、それは空虚な労働の横で鳴らされている機械音が生み出すエモーションと物語がでっち上げられているからだろう。だとすれば、これはミューザックが姿を変えて全世界的なBGMとなった現代の資本主義社会に対する、愉快で哀しい抵抗にも思えてくる。

 終盤10分はほとんど冗談のような打撃音の応酬が繰り広げられる。ファンキーだと言ってもいい。何も聞かされていなければ、これが洗濯の音なんて誰も思わないだろう……と僕はほくそ笑みつつ、ビートに合わせて頭を振る。洗濯の完了を告げるブザーが鳴れば我に返るが……次回の洗濯はいつもよりも楽しめるかもしれない。

 90年代から現在までを通じて、もっとも幅広いシーンで愛されてきたといえるエレクトロニック・アクト、アンダーワールド。来月には6年ぶりにフル・アルバム『イフ・ラー』が発表される予定で、2012年にロンドンオリンピック開会式の音楽監督を務めて以来だという新曲“アイ・エグゼイル(I Exhale)”も公開され話題を集めている。
 そして今回は緊急来日の情報が解禁となった。抽選で一夜限りのスペシャル・ライヴ(彼ら推奨のハイファイヘッドフォンを使用)を体験できるほか、2次会場にて360度映像のライヴ・ストリーミングも楽しめるようだ。なお、この企画はの一環であり、本展ではカール・ハイドとリック・スミスによるペインティングと音のインスタレーションも見られるとのこと。それぞれ日程や詳細は以下のとおりだ。

アンダーワールドが緊急来日! ライヴで渋谷をジャック!
世界的デザイン集団「TOMATO」結成25周年記念大型企画展に登場!

3月16日に6年ぶり7作目となる最新スタジオ・アルバム『バーバラ・バーバラ・ウィ・フェイス・ア・シャイニング・フューチャー』をリリースするアンダーワールドの緊急来日が発表された。3月12日から4月3日に渡って、Parcoが東京・渋谷から世界に向けて開催する、世界的デザイン集団Tomato (www.tomato.co.uk) の結成25周年記念エキシビション「THE TOMATO PROJECT 25TH ANNIVERSARY EXHIBITION “O”」 のハイライトとしての来日となり、エキシビション初日に「Underworld Live: Shibuya Shibuya, we face shining future」と題したパフォーマンスで華を添える。

Tomatoの創立メンバーでもあるアンダーワールドのカール・ハイドとリック・スミスは、3月12日渋谷某所で、抽選に当選された幸運な200名のオーディエンスに向け、彼らが推奨するBowers & Wilkins 社製P5 ハイファイヘッドフォンを 使った一夜限りの「SUPER-HIGH-QUALITY-LIVE-TO-HEADPHONE」ライヴを行う。

さらに、今回のライヴは、この春開局する「渋谷のラジオ」(87.6MHz FM)とのコラボレーションで、ラジオ電波を通じて、渋谷の街へ生放送。最新アルバム「Barbara Barbara, we face a shining future」に収められた楽曲も初披露される。(詳細後日発表)

また、このライヴでは、「Galaxy」プロデュースによるライヴストリーミングを2次会場にて開催予定。「Gear VR」とともに360度映像で楽しめるかつてない体験をお届けし、さらに本企画に協力する「Galaxy」と「Bowers & Wilkins」がよりその空間を盛り上げます。(詳細後日発表)

この他、エキシビション本展への参加としてKarl Hydeによるペインティング作品と、Rick Smithによるサウンド演出からなるアートインスタレーションも展示される予定。(Gallery X: 渋谷パルコ・パート1 B1F)

詳細はコチラ >>> www.parco-art.com

また先日ブリストルで開催された6ミュージック・フェスティバルから、不朽の名曲「Cowgirl」と新曲「I Exhale」のパフォーマンス映像も公開されている。

「Cowgirl」 https://youtu.be/BmpBbnPSOTI
「I Exhale」>>> https://youtu.be/l2wOC1JIP1o

8月にはSUMMER SONIC 2016にも初出演を果たすアンダーワールドの6年ぶり7作目となる最新スタジオ・アルバム『バーバラ・バーバラ・ウィ・フェイス・ア・シャイニング・フューチャー』は3月16日にリリース。 日本盤CD限定のスペシャル・フォーマットとして、Tomatoがデザインを手がけたTシャツ付セットも限定数販売される。なお、2月29日(月) までに対象店舗(※オンラインストアは除く)で、日本盤CDを予約すると、オリジナル・A4クリアファイルがアルバム購入時にプレゼントされる。

Labels: Smith Hyde Productions / Beat Records
artist: UNDERWORLD(アンダーワールド)
title: Barbara Barbara, we face a shining future
『バーバラ・バーバラ・ ウィ・フェイス・ア・シャイニング・フューチャー』
release date: 2016/03/16 WED ON SALE
price: ¥2,450+tax
商品情報はこちら:https://www.beatink.com/Labels/Underworld/BRC-500/

Vol.81:Random access NY - ele-king

 今年もまたこの時期がやってきた。あー、アメリカにいるなー、と思える瞬間。スーパーボウルである。アメリカのプロフットボール「NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)」の優勝決定戦。アメリカで感謝祭の次に多くの食料が消費される日。

 アメリカでは、プロ・アメリカンフットボールが国民的にいちばん人気のあるスポーツ(33%)で、次が野球(15%)、その次が大学アメリカンフットボール(10%)である(ハリス・インタラクティブ2015年12月調べ)。プロと大学を合計した場合は43%で、2人に1人のアメリカ人はアメリカン・フットボール好き、というほど人気ぶり。アメリカの国技になっている。

 筆者は去年まで、スーパーボウルにも、ハーフタイム・ショーにもまったく興味はなかったが、たまたま去年、スーパーボウル時にいたバーで、ゲームを大きな画面で上映していた。周りはやんややんやの大盛り上がりで、ルールのわからない私には、まったく「???」だったのだが、そこまでアメリカ人を惹き付けるスーパーボウルとは何ぞや、と興味を持った。ルールは、実際きちんとは把握できていないのだが、4回の攻撃権で10ヤード進むと得点を入れることができる。まわりの友だちが、「いまのは……」とプレイごとに説明してくれるのだが、すぐに次のプレイに進み、「お~、ぎゃ~、ダメ~!!」など大声で野次を飛ばすので、ルールはいつまでも理解できないまま。詳しくはこのリンクを参照(https://www.nfljapan.com/guide/rule/)。

 観るほうも、自分の人生をかけるように真剣で、私はまわりの人の反応を見るほうがおもしろかった。

 ゲームの前に、真っ赤なパンツ・スーツと真っ赤なアイシャドウのレディ・ガガがナショナル・アンセム(国家)を独唱。グランドピアノ一台とガガのみで、後ろには、巨大なアメリカ国旗が広げられ、選手、オーディエンス、会場が一つになり、皆が胸に手を当て敬意を払う。その前では手話で国歌を通訳している女性がいたり、中継で海軍が敬礼している様子が写されたり、あらためて国家的行事なんだなと。ガガは堂々と落ち着き払い、その様子はオペラ歌手のようにもみえる。そしてお決まりの飛行機が飛ばされ、ゲームはスタート。

 ゲーム内容は割愛するが、スーパーボウルはCMの祭典といわれるほど、流されるCMにも気合が入っている。バドワイザー、T Mobile、アマゾン、コルゲートなど、ここで流すCMは500万円を超えるとか。私が好きだったのは、ケチャップのヘインズ。

 ホットドッグになったダックスフンドがヘインズ・ソース・ファミリーに向かって、パタパタ走っている。「かわいいー」と周りの反応も○。緊張感あるゲームの間、ひととき癒される。スーパーボウルのCMはどれも気合が入っているので見る価値ありだが、オーディエンスのダイレクトな反応もわかりやすい。いけてるユーモアを入れると反応するが、さじ加減がちがうと×なのだ。受けると思って作るとだめらしい。

 ハーフタイムショーには、今年はコールドプレイ、ビヨンセ、ブルーノ・マーズが出演。演奏者、ダンサー、チアリーダー、エキストラ、たくさんの人を巻き込み、豪華絢爛に会場を一つにする。

 コールドプレイがメインアクトなのだが、まずフィールドで歌うクリス・マーティンの後ろをたくさんのファンが走り抜ける。ステージは虹色に飾り付けられ、マーチング・バンドや応援団が登場、虹色の花傘を振りまわし、フィールドがお花畑のようになる。彼らが3曲歌った後にブルーノ・マーズが登場。そこで雰囲気ががらりと変わり、その後のビヨンセで、観客の心をガツーンと鷲づかみにした感がある。ビヨンセはこの一日前にニュー・シングル“Formation”をリリースしたばかりで、その曲を披露。ブラックパンサー党を彷彿させる、黒人女性ダンサーを何十人も従え、娯楽の場に政治的意味を盛り込み、ハーフタイムショーの主役を軽く持って行った。その後にコールドプレイが“Clocks”を演奏しはじめると、いままでのハーフタイムショーの映像が映し出され(ポール・マッカートニー、マイケル・ジャクソン、U2など)、3人がいっしょに登場し、“Fix You”、“Up&Up”と続く。最後は、観客席が「BELIEVE IN LOVE」と文字になって映し出され、まわりがすべて虹色に染まる。

 このショーだけでジーンと来るし元気を100倍ぐらいもらった気がする。これだけアメリカが一つになる日ってあるのでしょうか。 今年は、大統領選もあり、すでにドナルド・トランプとヒラリー・クリントン、バーニー・サンダースあたりの話題で持ちきりだが、皆アメリカにプライドを持っているし熱い! いろんな暗い話もあるが、これを観ると万事OK。スーパーボウルへの情熱は、アメリカを象徴している気がする。この国から生まれる音楽がタフなわけである。

Setlist:

Coldplay“Viva La Vida”
Coldplay“Paradise”
Coldplay“Adventure of a Lifetime”
Mark Ronson and Bruno Mars“Uptown Funk”
Beyonce“Formation”
Coldplay“Clocks”“Fix You”“Up&Up”

(参考リンク)
https://pitchfork.com/news/63378-beyonce-mark-ronson-bruno-mars-join-coldplay-for-super-bowl-halftime-show/

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