「Nothing」と一致するもの

Fika(フィーカ) - ele-king

「スウェーデン人にとってFika(フィーカ)は生活の一部よ」

フィーカって、ご存知ですか?
それはスウェーデン流の“お茶の時間”を指す言葉です。
お隣の家で、友人とカフェで、会社でさえも、
顔を合わせれば「Ska vi fika?(スカ・ヴィ・フィーカ/お茶にしましょう)」と誘いあう──
スウェーデン人はお茶が大好きなのです。
そして、それは休み上手、楽しみ上手な彼らの文化をよく象徴しています。
フィーカで大事なのは、くつろぐこととおいしいお菓子。
多くの家庭には、フィーカのためのさまざまな手作りお菓子が常備されています。
そうした定番お菓子のレシピと、さまざまなコラム、そしてたくさんの素敵なイラストとともに、
フィーカの12か月をたどります!

■Contents

はじめに * 合い言葉は「Ska vi fika?」 2

スウェーデン人のFika 4

Fika i mars * Våfflor
3月 ヴォッフロル(ワッフル) 15
Våffeldagen * ワッフルの日 / Påsk * 復活祭 / Kafferep * かしこまったお茶会 / Alla korvars dag * すべてのソーセージの日

Fika i april * Kärleksmums
4月 シャーレクスムムス(チョコレートのスポンジケーキ) 27
Jättegott!* おいしいときの合い言葉「mums=う~ん(おいしい)♡」 / Gott till kaffet * おかしな名前のお菓子 / Valborgsmässoafton * ヴァルプルギスの夜 / Surdeg * 天然酵母の日

Fika i maj * Morotskaka
5月 モーローツカーカ(ニンジンケーキ) 39
Morotens dag * ニンジンの日 / Prinsesstårta * お祝いのケーキ / Kaffe * Fika=コーヒー / Primör * スウェーデンの野菜事情

Fika i juni * Nationaldagsbakelse & Smörgåstårta
6月 ナショナルダーグスバーケルセ(建国記念日のミニケーキ)& スモルゴストータ(サンドイッチケーキ) 51
Sveriges Nationaldag * ナショナルデー / Utspring * Fikaで旅立ちのお祝い / Midsommardagen * スウェーデン最大のイベント・夏至祭 / Sju sorters kakor * 一家に1冊あるFika菓子の教本 / Färskpotatisens dag * 新ジャガの日

Fika i juli * Chokladbollar
7月 ショクラードボッラル(チョコレートボール) 67
Sommarlov & Sommarsemester * 夏の暑い日は火を使わないチョコレート菓子作り / Fläderblomssaft * 夏のFikaはサフト / Praktiskt & Enkelt * 合理的で簡単に作れるレシピ / Kryddor & örter *スパイスとハーブ

Fika i augusti * Rabarberpaj
8月 ラバルベルパイ(ルバーブのクランチパイ) 79
Rabarbersäsong *季節限定のフレッシュ菓子・ルバーブのパイ / Sylt * ジャム作りは夏の終わりのシーズンワーク / Kräftskiva * ザリガニの解禁日 / Köttbullens dag * ミートボールの日

Fika i september * Sockerkaka & Äppelkaka
9月 ソッケルカーカ(スポンジケーキ)& エッペルカーカ(リンゴのスポンジケーキ) 91
Äppelsäsong * スウェーデン人はリンゴが大好き / Glass * アイスの消費量は世界トップクラス / Teets historia * 意外に古い紅茶の歴史 / Paket * スーパーは北欧デザインの宝庫

Fika i oktober * Kanelbullar
10月 カネールブッラル(シナモンロール) 103

Kanelbullens dag * シナモンロールの日 / Mejeriprodukter * おいしくて種類も充実、スーパーの乳製品売り場 / Svampar & Allemansrätten * 森や山はスウェーデン人みんなの宝 / Höst & Vinter * もっともFikaが重要になる時期

Fika i november * Kladdkaka
11月 クラッドカーカ(ぐちゃぐちゃチョコレートケーキ) 115
Kladdkakans dag * クラッドカーカの日 / Chokladens dag * 10月から11月にかけてチョコレート三昧のFika / Ärtsoppa * 木曜日に豆のスープを食べる習慣 / Martinsdagen * 聖マッティン祭

Fika i december * Lussekatter & Mjuk pepparkaka 127
12月 ルッセカッテル(サフラン入りパン)& ミューク・ペッパルカーカ(ソフトジンジャーケーキ)
St. Lucia * サフラン入りのパンを食べる聖ルシア祭 / Pepparkakans dag * ジンジャークッキーで「お菓子の家」作り / Advent * アドベントからはじまるクリスマス月間 / Julafton * もっとも盛り上がるクリスマスイブ / Nobelbanketten * ノーベル賞の授賞式、晩餐会のメニューは注目の的

Fika i januari * Hallongrottor
1月 ハッロングロットル(ラズベリージャムのクッキー) 143
Gott nytt år!* Fika定番の伝統クッキー / Tjugondedag jul * 世界で一番長いクリスマス / Nötter & Frön * お菓子作りに欠かせないナッツ類 / Rörstrand&Gustavsberg / クオリティーの高さで知られるスウェーデンデザイン

Fika i februari * Semla
2月 セムラ 155
Fettisdagen * 春を告げるシーズン菓子、セムラ / Geléhallonens dag * ラズベリーグミの日 / Kvällsfika * 夜のFikaは、ホットチョコレートでほっと一息 / Vinter▷▷▷Våren * 暖かい春へと向かう日々


■著者プロフィール

塚本佳子(つかもと・よしこ)
編集者・ライター。さまざまなジャンルの書籍や雑誌の制作に携わる。週末のみ「北欧雑貨の店 Fika」の店主。暮らしを豊かにするための方法を日々模索中。著書に『小さくてかわいい家づくり』(新潮社)、『好きなことだけ』(Pヴァイン)など。

ホームページ
https://zakka-fika.com/



見瀬 Klingstedt 理恵子(みせ・くりんぐすてっと・りえこ)
フリーランスイラストレーターとして活躍。1995年から現在まで通算12年間を家族とともにスウェーデンの首都ストックホルムで暮らす。帰国後は友人井上佳子と料理ユニット「SPISEN(スピーセン)」を組み、スウェーデン大使館のイベント等で料理を提供するかたわら、コラムニストとしても活動。著書に『シンプルを楽しむ 北欧の幸せのつくり方』(エディシォンドゥパリ)など。

ホームページ
https://www.riekomise.com

flickr
Rieko Mise Klingstedt on Flickr

光りの墓 - ele-king

「後はもれ姫がどうなったのか気になるんだな、でもどういう姫だったのかはもう判りません、もまえらもれのかわりに思い出してください、もれの気持が判れば思い出せますよ。」 笙野頼子『だいにっほん、ろんちくおげれつ記』2007

 数年前、タイの映画監督と話をしていた時に彼女は「でも私の映画はタイでは上映できない。学生服を着たキャラクターがセックスするシーンが検閲に引っかかる」と言っていましたが、『ブンミおじさんの森』で2010年にカンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を獲ったタイの映画監督、アピチャッポン・ウィーラセタクンの新作『光りの墓』も検閲でカットされかねない要素を含むため、始めからタイ国内での上映は無いものとして作られたようだ。

 タイ東北部にある、昔は学校だった建物が今は病院になっている。そこには原因不明の昏睡状態で眠り続ける兵士たちが収容されており、主人公のジェンおばさんが(母校でもある)病院にやってくるところから話は始まる。何だかよく判らないままに入院中のある青年の介護を始めたジェンの、ほぼ周囲のみにおける光景が波紋のように行ったり来たりする映画、とでも言えばいいのだろうか。病院が建っている土地は元は王家の墓だった、という設定が検閲をクリアしないと判断したそうだが、ただそうした「歴史の大きな流れ」から何かを説明しようとする映画ではない。

 この映画の日本版予告編が全編クールな音楽に貫かれているのに対し、本編にはいわゆる「音楽」がほとんど付けられておらず、かなり異なる印象のサウンドスケープで覆われている――隣の工事現場で人が歩いている音、鳥の、または虫の声、回る水車の音から兵士たちが立てる寝息までも――が、全ての好ましい音として組み上げられた光景の中に彼に特有の、音に対する(言うなればDJ的、な)卓越した才能と感覚が響き渡っている。

 アピチャッポンはいわゆる「わかりやすいゲイ映画」を撮るゲイの作家ではない。が、別に本人が秘密にしているわけでもないのに日本では妙に(これまたいかにも日本的な感じで)その部分が触れられないでいるせいで、観客が受け取り損なってしまう要素が案外あるかもしれない。例えば話の途中で、地元の信仰を集める隣国ラオスのお姫様(姉妹)を祀ったお堂が出てくる。ジェンがそこへお参りをした後に「お姫様本人」も「王女です。もう死んでるけど」などと言いながら大変ラフな感じでお出ましになったりするのですが、その祭壇などは何だかもう女装の神棚みたいなのである。

 生きているとも死んでいるとも言いがたい、文字通り「眠っている」さまざまな人や土地の、或いは自分自身の記憶にも触りながら、足の悪いジェンは終始、あくまでゆっくりと画面の中をうごいてゆく。それはまるで、達観した人が眼の前にある風景をただ眺めているかのようだ。だが軍事政権下のタイで撮られた、「眠ったままの兵士(兵士としては機能していない人間)」が見ている夢と現実とをあっさり繋いでしまうこの作品を、ある意味で検閲よりもさらに厄介な「自主規制」によって表現が萎縮しつつある日本で観るとき、「現実を恐れずに先へと進め」というシグナルを受け取らずにはいられない。

RAINBOW DISCO CLUB 2016 - ele-king

 いきなり昔話から始めてもいいですか? 90年代の中頃だったかな、ロンドンのKings Cross駅の近くのダンジョンみたいなハコでやってる渋いパーティがあったんですよ。日曜なのにやけに豪華なDJが出てた。その日は、メインがアンドリュー・ウェザオールで、セイバーズ・オブ・パラダイスとかでガンガン活躍してた時代だったから、もう喜んで行ったわけ。前の晩も朝まで遊んでてヘロヘロだった気がするけど、ウェザオールがやるなら行かなきゃって。
 その日はたしかワールドカップの予選でイングランドの大会出場がかかってる大事な試合があって、ロンドン中がそのことで沸き立ってた。クラブに早めに着いたら、驚いたことに客が全員フロアに座って、テレビでサッカー観てるんですよ。当時の日本だとサッカーなんてマイナーなスポーツだったしワールドカップで国中大騒ぎなんて理解できなかったんだけど、ウェザオール自身も試合中はDJなんてやってらんねぇって感じだったのかね(笑)。試合が終わったら、おもむろにDJが始まって、試合の熱狂を引きずるようにウェザオールもすごくいいプレイを聴かせてくれて、最初は「なんでクラブに来たのにサッカーの中継観させられるんだよ」ってちょっと頭来たけど、やっぱりウェザオールすげえぜ! って踊り狂ったのを覚えてる。ハッピー・マンデーズやプライマル・スクリームのプロデュースで台頭した頃から何度も彼のDJは聴いてるけど、このときのプレイがすごく印象に残ってるのは、非日常的な雰囲気だったからかなと思ってる。いいDJはやっぱり、ロケーションとかクラウドの持ってるポテンシャルを最高に引き出すワザを持ってると思うんだよね。選曲とか技術だけじゃなくて、場の雰囲気を掴んでそれをぐぐっと持ち上げるというか。

 そんなウェザオールが、伊豆に移って2年目のRAINBOW DISCO CLUBにヘッドライナーとして登場するのは、ほんと楽しみだ。自身のオーガナイズするフランスの古城でのフェスには敵わないかもしれないけど、4年ぶりの日本で、しかも広々とした東伊豆クロスカントリーコースでの、音楽フリークたちを前にしてのプレイは絶対彼だってあがるはず。さらに、ナイトメアーズ・オン・ワックス、ムーヴD、ジャイルス・ピーターソン、瀧見憲司、井上薫といったエクレティックで頼もしい大ベテランたちがメイン・ステージを盛り上げる。今年の夏、ヨーロッパのフェスで引っ張りだこな日本人アーティスト2人がスペシャルな組み合わせで登場するのも楽しみだ。ハウス・レジェンド寺田創一は、昨年彼をフックアップしてスポットライトを当てたアムステルダムのラッシュ・アワー・チームの一員として登場。また、DJ NOBUは、シカゴの伝説的クラブのレジデントDJザ・ブラック・マドンナとの超レアなB2Bセットで登場する。それとそれと、レッドブルのステージにDJファンクとエジプシャン・ラヴァーとサファイア・スロウズっていうひと癖ある個性的な連中がまとめて出るのも嬉しい。たぶん、最近フェス行きはじめたとかアゲアゲでビキビキなのだけがエレクトロニックなダンス・ミュージックだと思ってる層には「誰?」って感じのDJ/アーティストたちかもしれないけど、とにかく騒げればOKみたいなノリじゃない大人な(元)パーティ・ピープルにはグッと来るはずだ。
 ただ、どこにでもある夕方から翌日昼までみたいなフェスだと、いくらラインナップが魅力的でも、全然メインのアクトを見れない! って悩む人も多いと思う。うちもそうなんだけど、子供がいるファミリー層がまさにそれ。なんせ夜は子供と一緒に寝ないとだから、深夜が一番盛り上がるタイムテーブルだと、高い入場料払っても一番美味しいところは寝てるかテントで遠くから残響音が聞こえるくらいで楽しめないっていう。その点、RDCがすごくいいのは、夜は音が止まるかわりに、3日間たっぷり楽しめるってところ。豊かな自然の中でキャンプしながらゆったり贅沢に音楽とプチ・アウトドアな週末が楽しめる。
 晴海でやってた頃から、RAINBOW DISCO CLUBはクラブ界隈のトレンドとか流行りの音とかでパーティを作ってないなというのが伝わってきた。だから、音に関しては信頼してるんだけど、いくら海辺と言っても都心で寝転がっても下がコンクリだったりするとどうしてもしっくりこない部分があった。それが、伊豆になったでしょ。実は僕は、去年すごくたくさんの友人知人から誘われていたにも関わらず行けなくて、後でとっても楽しげな写真を見たり話を聞かされたりして悔しい思いをした。つまり、この会場は今年が初体験。フェスやレイヴの楽しみの結構でかい部分は、知らないところに行って初めての環境で踊るってことでしょう。わがままだけど、何年もずーっと同じ場所で同じように開催してるイヴェントに段々興味が薄れていくのはそういう理由。だから、去年パスした僕と同じように、今これを読んで今年初めて「行ってみようかな」なんて思った人はすげーラッキーなんじゃないかな。2年目で運営面もさらに改善してきてるだろうし、ファンクション・ワン使ってかなりよかったというサウンドももっとよく鳴るだろう。それでこのラインナップだからね。あとは天気さえよければ、それこそパラダイスじゃない? (渡辺健吾/Ken=go→)

Lifted - ele-king

  〈フューチャー・タイムズ〉を運営するマックス・Dと、コ・ラのマシュー・パピッチのユニット、リフテッドの国内盤CDが〈メルティング・ボット〉よりリリースされた。オリジナルはエクスペリメンタル・レーベルとしてほかの追随を許さない〈パン〉から2015年に発表されたアルバムで、しかもCD盤でのリリースは日本のみという快挙。
 最初に断言してしまうが、このアルバムは、 ポスト・インターネット以降のアンビエント/ニューエイジ・シーンでも極めて重要なアルバムである。傑作といってもいい。昨年のリリース時は、どこかワン・オートリックス・ポイント・ネヴァー『ガーデン・オブ・デリート』の登場に掻き消されてしまった印象であったが(皮肉なことにOPNの〈ソフトウェア〉から発表されたコ・ラの新譜も素晴らしいアルバムだった)、その騒動がひと段落ついた2016年だからこそ、この作品の真価が伝わりやすい状況になっているように思えるのだ。

 さて、ここで事態をわかりやすくするために、あえて単純化してみよう。OPN『ガーデン・オブ・デリート』(以下、『G O D』)よりも、リフテッド『1』は、より「音楽的」である、と。もっとも「音楽の残骸」を庭から拾い集めるように組み上げたOPN『G O D』は、いわば20世紀のポップ音楽の亡霊=ゴースト・ノイズのような作品であり、「音だけのインスタレーション」とでも形容したいアート作品であったのだから、「音楽性の希薄さ」は当然だ。そもそもダニエル・ロパティンは、これまでもそういう作品を作ってきた。また、『G O D』は、聴き手に「語り」の欲望を刺激させ、俯瞰的な意識を持たせることにも成功しているのだが(あたかも「神」のように?)、アートにおいて作品と語り(批評)は共存・共感関係にあるので、これもまた当然のことといえよう。その意味で、ダニエル・ロパティンは確信犯的に『G O D』を世界に向けて送り出した(はずだ)。彼は「いま」という時代に、音楽が生き残るためには、単に「音楽」の領域だけに留まっていてはダメだと直感している(と思う)。『G O D』の成功は、その戦略によるものと思われる。

 だが、OPN『G O D』において、確信犯的に切り捨てられた「2010年代以降のアンビエント的な、ニューエイジ的な」音楽の系譜には、「音楽的」進化の余白があることも事実だ。そして、このリフテッド『1』は、その「新しさ」を内包したアルバムなのである。それは何か。これまたザックリと書くと、「2010年代的なアンビエント的な、ニューエイジ的音楽」に、「ジャズのリズム」を分断するように導入することで、「アンビエント+ジャズ」という新たなフォームを生み出している点が、本作特有の「新しさ」である。

 もっともコーネリアス・カーデューが参加したAMMなどの例を挙げるまでもなく、実験音楽やアンビエントとジャズの関係はいまに始まったわけではないし、また、カーデューとブライアン・イーノとの関係を踏まえると、実験音楽からアンビエントの移行は必然ですらあったのだろう。

 だが本作のおもしろさは、オーセンティックなジャズのリズム(ドラム)を分断するようにトラック上にコンストラクションしている点である。いわゆるジャズ的な和声感は皆無なのだ。上モノは極めて端正なテクノ以降の2010年代的ニューエイジ/アンビエント・ミュージックだ。
 そうではなく、『1』で抽出されたジャズ的な要素は、ハイハットとシンバルの非反復的な運動によって生成する音響的なエレメントなのだ。それはビート・キープのため「だけ」に用いられているわけではない。リズムは分断され、ほかの音楽的要素のレイヤーと交錯し、複雑で端正なサウンドを形作っていく。シンバルの音が電子ノイズのように聴こえる瞬間もあるほどだ。
 とはいえオーセンティックなジャズのビートも、ほぼベースによってキープされているものだから、これもまた当然の帰結といえる。しかし90年代のクラブジャズ以降における「ジャズ的記号」の援用はリズムではなく、コード感の簡素な流用にあったわけで、本作のリズム主体のジャズの音響エレメントの抽出は確かに新しいのだ。ちなみにリズム面の豊かさは、パーカッションでゲスト参加のジャレミー・ハイマンの功績も大きいだろう(本作の「新しいワールド・ミュージック」感覚は、今後の音楽を考えていく上で重要ではないか)。

 アルバム中、7分51秒に及ぶ“ベル・スライド”は、「アンビエント+ジャズ」の総決算ともいえる曲だ。まさにジャズ的/アンビエント的/ニューエイジ的なエクレクティック・サウンドで、まるで仮想空間のリゾート・ホテルのロビーで演奏されているような浮遊感に満ちた電子ラウンジ・ミュージックが展開する。この“ベル・スライド”からアンビエント・ジャイアンツであるジジ・マシンの透明なピアノが響く“シルヴァー”に繋がるのだが、これはニューエイジ/アンビエントの歴史性を意識した構成といえよう。
 ジジ・マシンは近年再評価が著しいアンビエント音楽家である。彼が自主制作した『ウィンド』は中古市場において高値で取引されていたが、昨年、アムステルダムの優良アンビエント再発レーベル〈ミュージック・フロム・メモリー〉からようやくリイシューされた。また同レーベルからリリースされていた未発表音源集『トーク・トゥー・ザ・シー』も素晴らしいアルバムで、彼の黄昏の色のアンビエント感を満喫できる作品集であった。現在のニューエイジ/アンビエント・シーンを語る上で、最上級のリスペクトを受ける重要人物である。
 本作はその彼に深いリスペクトを捧げている。それほどまでに、この『1』において、ジジのピアノはアルバムの中心で深く、深く、鳴り響いているように聴こえるのだ(ジジ・マシンは続く“ミント”にもギターで参加)。『1』における彼の演奏は、ヒトのいない仮想世界に、不意にヒトによる真に美しい音楽が鳴り響くような感覚をもたらしてくれる。
 むろん、ゲストはジジ・マシンだけではない。マックス・Dとマシュー・パピッチは、ジェレミー・ハイマン、ダヴィト・エクルド、ジョーダン・GCZ、そしてモーション・グラフィック=ジョー・ウィリアムズらと共に、アンビエント/電子音楽の「庭」に新しい種を蒔いていく。そう、新しい「音楽」を育てるために。

 ここまで書けばわかるだろう。本作が2016年にもう一度、「新譜」としてリリースされる意味、それは『ガーデン・オブ・デリート』的な「音楽の廃墟の庭」に、仮想空間のラウンジ・ミュージック、新しいニューエイジ、海の煌きのようなアンビエント、ジャズのリズム・エレメント、新世代のワールド・ミュージックなどの音楽の種が、すでに「蒔かれていた」ことを実感できる点にある。そう、この2015年作品にこそ、2016年以降の「新しいモダン・アンビエント/モダン・ニューエイジ」の萌芽であった、とはいえないか? そして、〈パン〉主宰のビル・コーリガスのモダニスト的な審美眼にもあらためて唸らされてしまうのだ。

 春です。春が来ましたよ! 皆さん、新年度、元気にスタートされましたか?

 いやぁ、しばらく更新がないから「ひょっとして借りパクネタがもう尽きてしまったのでは?」と勘ぐられているみなさん、とんでもございません。まだまだあります。

 年の瀬にちょっとわたくしめの新著新譜のWリリースがあったりで、しばらくドタバタとイベントライフを過ごしておりましたが、いつ何時も借りパクにまつわる深い反省の気持ちと貸してくれた恩人一人ひとりの残像への想起が途切れることはなかったのです。そして、今回からは、僕だけの借りパク音楽だけでなく、僕の友人や仲間たちからいただいたエピソードも踏まえて紹介していければと思います。

 では、本日はあの曲。誰もが一度ならず耳にしたことがあり、平原綾香も「ひとりぃじゃあ?なぁ?いぃ??」と日本語歌詞をつけて熱唱した「Jupiter(ジュピター)」が収録されている、G・ホルストの組曲『惑星』の3連発です! いちばん上が僕。そして次が高校時代の友人、森下くん、そして最後が同じく高校時代の友人、河井さん。




2012年時のもの

 もうお気づきかと思いますが、僕も含めてこの3人はみんな同じ高校の同じブラスバンド部に所属していました。こんなに身近すぎるブラバン友人をリサーチしただけでも、このホルスト『惑星』借りパク・エピソードが重複しているなんて、いったい、全国のブラスバンド青少年たちの何十人、何百人、いや、何千人がこの作品を借りパクしてるんだ……って話ですよね。しかも指揮者や楽団、レーベル別に多様な名盤があるからもうその借りパクヴァリエーションの芳醇さは計り知れない……。

 まず僕はと言えば、パートは打楽器だったんですね。日々、メトローム60で4分音符、8分音符、3連符、16分音符とスティックを振るわけですよ。もちろん一人に一台ずつスネア(小太鼓)なんてないから、机です。あの教室にある木の机。放課後誰もいなくなった教室にパーカッション・パートが陣取り、誰か知らないやつの机をバカスカ傷だらけにする。いま思えば、何気にけっこうひどいことをやっていたなと思います。そして、この名盤は、そのパートリーダーだった一つ上のT先輩から借りた気が。で、カバーするのはやはり『ジュピター』ですわな。そこで、はっきり覚えているのはグロッケン(小さい鉄琴ね)担当だったこと。あとはたしかシンバルも兼務していたような……。で、何よりも入部してたしか最初に演奏会への出演が決まった課題曲だったんですよ。もう、ただでさえ楽譜読むの苦手(いまでもだけど)なのにいきなり初見演奏とかさせられて結果はさんざんだったのは言うまでもなく。曲をディスクマン(CDのウォークマンね)で日々聴いてとにかく身体に覚え込んでキンコンコンキンコンコンと演ってましたね。こういう課題曲のCDってなかなかなんというかズルズルと返すタイミング逃してしまうもので、しかもうちの高校はいちおう進学校だったためか部員の引退が早くてね(みんな受験勉強するから)。よけいに返しそびれ……ともう言い訳でしかないけど20年たったいまも手元にあるというわけです。

 森下くんは、テナーサックスでしたね。やつはどうも同期のユーフォニウム(いまアニメの影響で脚光浴びてますね)担当のGさんに借りたらしく、オカン的頼られキャラのGさんがゆえにドーンと貸してくれて、そのままドーンと快く借りパクを受け入れてくれたのかもしれませんが。森下くんいわく、同窓会の幹事を引き受けた際に「これを機に返そう」と思っていたらしいですが、結局のその幹事の仕事すらさぼってしまってさらに顰蹙を買い深い反省に包まれたことを、後日僕に報告してくれています。

 そして河井さんは、トロンボーン。やっちゃんというニックネームで呼ばれていた彼女は中学時代からブラスバンド部だったこともあり、課題曲などの知識も豊富でしっかり者だったんですが、そんな彼女にもこんな借りパクエピソードがあるとはリサーチするまで知る由もありませんでした。まさに「お前もホルスト借りパクかよ!」って感じです。しかも中学当時貸してくれた先輩がタバコ事件で部活出入り禁止になって返すタイミング逃したってのが、なかなか時代も感じる味わい深い話ですよね。しかもその先輩が指揮者だったって、そりゃもう楽団ごとしょっぴかれそうな勢い。

 と、まぁ、今日は「ブラバン」という文化ならではの借りパクエピソードをお届けしました。
 みなさんからの多様な借りパク投稿、引続きお待ちしております~!!



■借りパク音楽大募集!

この連載では、ぜひ皆さまの「借りパク音楽」をご紹介いただき、ともにその記憶を旅し、音を偲び、前を向いて反省していきたいと思っております。
 ぜひ下記フォームよりあなたの一枚をお寄せください。限りはございますが、連載内にてご紹介し、ささやかながらコメントとともにその供養をさせていただきます。

Cullen Omori - ele-king

 戻ってきたインディ・キッズたちに伝えたいアルバムだ。
 スミス・ウェスタンズが鮮やかに登場した2010年前後に、彼らと同じような年齢だった──おそらくはいまそれぞれに20代半ばを過ぎようとしていて、もうジェットセットには通っていないけれども、ときどきはなにかいい音楽が聴きたいなというひとたち。
 フロントマンのカレン・オオモリも同じような年齢で、同じように少しだけ齢をとっている。
かつてローファイ・ブームの上でおもいきりレイドバック・サウンドを楽しんでいたスミス・ウェスタンズだが、時は移ろい、ブームもひと段落した。そしてバンドは静かに分解し、オオモリもひとりで曲をつくりはじめる。
 そんな中で彼が自分なりのソングライティングを模索していく過程は、きっと多分に内省的な時間でもあったことだろう。自身初のソロ・アルバムとなる本作は、そうしたことがありありと想像される作品だ。彼の「その後」は、どんなふうにつづいていくのだろう。そして、あの頃手にしたSWのシングル盤は、もしかしたらただ仲間内での背比べのアクセサリーだったかもしれないけれど、いまなら本当に聴けるかもしれない。この『ニュー・ミザリー』を通して。

 当時について少し補足すると、舞台は2010年前後、あれはインディ・ロックが最後に輝いた時期だったのかもしれない──ローファイの一大ブームはガレージ・サイケを現代風に磨き上げ、トゥイーやジャングリー・ポップといった概念にふたたび光を当て、ウォール・オブ・サウンドを真似たレトロな音にビーチ・ポップ等の名を与え、シューゲイズのリヴァイヴァルやチルウェイヴとも交差した。シットゲイズなんて言葉もあった……まさに塵芥のように散ったけれども、だからこそ胸に残っている
 ザ・ドラムスの最初のEP『サマータイム!』やザ・モーニング・ベンダースの『ビッグ・エコー』が、リアル・エステイトの同名ファーストが、ベスト・コーストの『クレイジー・フォー・ユー』が、ウェイヴスの『キング・オブ・ザ・ビーチ』が、ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートのこれまた同名アルバムが……いっせいに出てきたタイミングだ。スミス・ウェスタンズもこうした無数の才能たちとともに、シーンに大きな星座を描いたバンドだった。

 そしてこのアルバムは「大人の自分に手紙を書いた/諦め時をわきまえててありがとうと」と歌う“ノー・ビッグ・ディール”からはじまる。タイトルは『新しい苦悩』だ。ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』がズタズタにコラージュされたスミス・ウェスタンズのファーストは、盛大にオーヴァーコンプ気味でノイジーなお気楽ガレージ・ナンバーが詰まっていたが、本作はテンションもプロダクションもなんとも対照的である。ごく内省的で、もったりと重いドリーミー・サイケ。勢いやラフさを捨て、楽曲としての輪郭と水準、そして歌を優先している。ジョン・レノンのソロを彷彿させる。「諦め時」という詞がそのまま彼の境遇や心情を表すものだとは言わないまでも、オオモリのいまがけっしてアッパーでイケイケではないことがまるで随筆のように伝わってくる。20代の真ん中は本当にぐるぐるとしてくるしく、くるおしいですよね。しかしそれは迷いの時間ではあっても、ネガティヴな時間ではけっしてなさそうだ。新しさもエッジもないが、生きている時間の切実さ、リアリティが、きちんと美しい楽曲として実を結んでいる。それは私たちがポップ・ミュージックに求めるものの中で重要なことのひとつであることは間違いない。

 もうひとつ、シンセに向かっていることも特徴だろう。サポート・プレイヤーにはMGMTのバンド・メンバーを務めるというジェームス・リチャードソンや元セレモニーのライアン・マットスの名も見える。ロックとエレクトロニック・ミュージックの狭間で、ポップスの2000年代を見つめてきた人々だ。もちろん「シンセ・ポップをやってみました」という安直な転身ではないからご安心を。むしろギターと溶けながら、あくまで彼の歌……心や魂と言いかえてもいい、を支える、柔らかくぬくもりある材質としてきこえてくる。10代のエネルギーの遠心力では回れない、しかし成熟にはまだまだ時間を必要とする、そんな時期を正直に生きるための音楽ではないだろうか。

news_Moe and ghosts × 空間現代『RAP PHENOMENON』、いよいよリリース、そしてレコ発のお知らせ

 彼女は、そうだね、たとえば最近の、ゆるふわ系女子がラップしましたっていうのとはわけが違うんだよ。ホンモノのラッパーだ! と、信頼のおける某ライター氏が言っておりました。たしかに……Moe and ghosts 、その速くて独特のアクセントのフローに、ジャズドミュニスターズなどで聴いてびっくりされた方も多いでしょう。
 早くから期待が高まっていたMoe and ghostsと空間現代との共作『RAP PHENOMENON』は、いよいよ来週の水曜日(6日)に発売されます。
 また、4月6日にDOMMUNEにてオンライン・リリース・パーティ、5月30日には渋谷WWWにてZAZEN BOYSとのツーマン・レコ発も決定しました。これ、間違いなく注目作です。



Moe and ghosts × 空間現代
RAP PHENOMENON
NKNOWNMIX 42 / HEADZ 212
2016年4月6日発売

Amazon

■TRACK LIST:

01. DAREKA
02. 不通
03. 幽霊EXPO
04. TUUKA
05. 新々世紀レディ
06. 可笑しい
07. 少し違う
08. TASYATASYA
09. 同期
10. DOUKI
11. 数字
12. ITAI

Moe and ghosts: Moe, Eugene Caim
kukangendai: Junya Noguchi, Keisuke Koyano, Hideaki Yamada

All lyrics by Moe and Junya Noguchi
Except Track 6 (Mariko Yamauchi "It's boring here, Pick me up.")
All music produced by kukangendai
Except Track 1, 4, 8, 10, 12 produced and mixed by Eugene Caim, contain samples of kukangendai

Recorded by Noguchi Taoru at Ochiai soup
Rap Recorded and Mixed by Eugene Caim at DADAMORE STUDIO
Mixed and Mastered by Tatsuki Masuko at FLOAT

Photographs: Osamu Kanemura
Design: Shiyu Yanagiya (nist)

 2012年に発売され異形のフィメール・ラップ・アルバムとして話題となった1st『幽霊たち』から、約4年振りの作品リリースとなる"Moe and ghosts"と、昨年はオヴァルやマーク・フェル、ZS、OMSBら国やジャンルを越えたリミキサーが参加したリミックス・アルバム『空間現代REMIXES』をリリースし、日本最大級の国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」に出演するなど各方面で注目を集める"空間現代"のコラボ・アルバムが発売決定。
 2015年に開催されたHEADZの20周年イベントにて初披露されたこのコラボレーションは、巷の安易な共作ではなく、互いが互いの音楽を研究しつくし、互いの音楽が寄り添いつつ並列し昇華される、前代未聞のコラボレーション、前代未聞のラップ・アルバムに仕上がった。
 山内マリコの小説「ここは退屈迎えに来て」のテキスト使用した楽曲や、未だ謎に包まれるMoe and ghostsのトラックメイカー、ユージーン・カイムが空間現代をリコンストラクトしたトラックも収録。
 ジャケット写真は金村修。ジャケットデザインはブックデザイナーの柳谷志有。バンド録音は、にせんねんもんだい等の録音を手がける野口太郎。ラップ録音はユージーン・カイム。ミックス・マスタリングは砂原良徳やiLL等を手がける益子樹が担当。
 2016年4月6日にDOMMUNEにてオンライン・リリース・パーティ、5月30日には渋谷WWWにて、ZAZEN BOYSとのツーマン・レコ発が決定している。

■アルバムのティザー映像

■LIVE

2016年4月6日(水)
@DOMMUNE 21:00-24:00
【"RAP PHENOMENON" ONLINE RELEASE PARTY】
LIVE:Moe and ghosts × 空間現代
DJ:GuruConnect(from skillkills)

2016年5月30日(月)
@渋谷WWW
【"RAP PHENOMENON" release live】

LIVE:
Moe and ghosts × 空間現代
ZAZEN BOYS

open18:30/start19:30

前売:3000円(+1D)
※ぴあ[Pコード:295-316]、ローソン[Lコード:75789]、e+[https://sort.eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002187031P0030001]にて4/9~販売開始

https://www-shibuya.jp/schedule/1605/006575.html

RP Boo - ele-king

 3年ぶりのセカンド・アルバム『Fingers, Bank Pads & Shoe Prints』を携えて、フットワークのオリジネーター、RP・ブーが今週末ふたたび来日する。前回は“これからくる音楽”だったジューク/フットワークも、いまや時代の音として揺るぎない影響力を持つにいたった。今回のアルバム、そしてツアーでは、どんな風景を見せてくれるのだろうか。

■RP Boo Japan Tour 2016

4.2 sat at Circus Osaka | SOMETHINN Vo.14
w/ EYヨ、行松陽介、D.J.Fulltono、etc

https://circus-osaka.com/events/somethinn-vo-14-rp-boo-japan-tour-2016/

4.3 sun at Circus Tokyo | BONDAID #8
w/ OMSB & Hi'Spec、食品まつり a.k.a foodman、D.J.Fulltono、etc

https://meltingbot.net/event/bondaid8-rp-boo

ダンスとアヴァンが交じる現代アフロ・インテリジェンスの雄、世界標準から異種交配を繰り返し未来へと向かうフットワークの神RP Boo再来日!

シカゴ・ゲットー発のダンス・ミュージック・カルチャー、ジューク / フットワークのオリジネーターとしてシーンで最も敬愛されるRP Booが3年ぶりにセカンド・アルバム『Fingers, Bank Pads & Shoe
Prints』を携え再来日。シカゴ・ハウスの伝説的なダンス・クルー〔House-O-Matics〕の洗礼を受けキャリアをスタート、再評価を受けるゲットー・ハウスの老舗〈Dace Mania〉から90年代後期にデビュー、初期作品を含め数々のクラシックスを残し、フットワークに共通する無秩序にシンコペートするリズム・パターンはRP Booの作品に起因すると言われ、ジューク / フットワークの歴史その物であり、古代から発掘されたフューチャー・クラシックスとも称されている。〈Planet Mu〉や〈Hyperdub〉を筆頭としたUKベース・ミュージックを経由し、同世代のベテランTraxmanや英雄となった故DJ Rashadのブレイクによって世界標準へと上り詰め、その後も若手の新鋭プロダクション・クルー〔Teklife〕やダンス・クルー〔The Era〕の世界的な活躍、昨年にはRP Booの秘蔵っ子である才女Jlinが新人では異例の英WIREマガジン年間ベスト第1位を獲得、フットワークは着実な進化をみせている。またその振れ幅も広がり、ここ最近ではヒップホップ界の若手最注目株Chance The Rapper、テクノ/電子音楽界ではMark FellやVladislav Delayといった他ジャンルや大御所も自らのプロダクションに取り入れ、US、UK、ヨーロッパ、そして日本の先鋭プロデューサーを刺激しながら、3連符を軸とした奇怪なグルーヴと同様にダンス・ミュージックの枠をはみだし、先鋭的な電子音楽やアヴァンギャルド・ミュージックとしても未知の領域に踏み込んでいる。大阪公演はEYヨを軸とした電子音楽/アヴァンギャルド、東京公演はOMSBを軸としたヒップホップ/ハウスといったフットワークの枠を飛び越えRP Booの多層的な黒いリズムとグルーヴをフィーチャー。

主催 : CIRCUS
PR : melting bot
制作 : BONDAID, SOMETHINN

【ツアー詳細】
https://meltingbot.net/event/rp-boo-japan-tour-2016

■バイオグラフィ
RP Boo [Planet Mu from Chicago]

本名ケヴィン・スペース。シカゴの西部で生まれ、80年代に南部へと移住し、 多くのジューク / フットワークのパイオニアと同じようにシカゴ・ハウス / ジュークの伝説的なダンス一派House -O-Maticsの洗礼を受け、〈Dance Mania〉から数多くのクラシックスを生み出したゲットー・ハウスのパイオニアDj Deeon、Dj MiltonからDjを、Dj Slugoからはプロデュースを学び、それまであったRolandのドラム・サウンドの全てにアクセス、またパンチインを可能にした、現在も使い続けるRoland R-70をメインの機材にしながらトラックを作り始め、1997年に作られた‘Baby Come On’はフットワークと呼ばれるスタイルを固めた最初のトラックであり、その後1999年に作られたゴジラのテーマをチョップしたゴジラ・トラックとして知られる‘11-47-99’はシーンのアンセムとなり、数多くのフットワークのトラックに共通する無秩序にシンコペートするリズム・パターンはRP Booのトラックに起因すると言われる。地元ではシーンの才女Jlinも所属するクルー〔D’Dynamic〕を主宰し、〈Planet Mu〉よりリリースのフットワーク・コンピレーション『Bangs & Works Vol.1』(2010)、『Bangs & Works Vol.2』(2011)に収録され、2013年にデビュー・アルバム『Legacy』、2015年にセカンド・フル『Fingers, Bank Pads & Shoe Prints』を同レーベルより発表。フットワークの肝である3連を基調とした簡素なドラム・マシーンのレイヤーとシンコペーションによる複雑かつ大胆なリズムワークに、コラージュにも近いアプローチでラップような自身のボイスとサンプリングを催眠的にすり込ませ、テクノにも似たドライでミニマルな唯一無二の驚異的なグルーヴを披露。古代から発掘されたフューチャー・クラシックスとも称され、先鋭的な電子音楽やアヴァンギャルドとしてもシーンを超えて崇められるフットワークの神的存在。

https://twitter.com/RP_BOO
https://soundcloud.com/rp_boo

interview with Bibio - ele-king


Bibio
A Mineral Love

BEAT / WARP

PopsFolktronica

Tower HMV Amazon

 これはビビオのソウル・レコードである。もちろんそこは「ビビオの」という注釈を強調しておかなければならないのだが、フォークとエレクトロニカ、それにヒップホップの愛らしい出会いを演出してきたビビオことスティーヴン・ウィルキンソンの8枚めのアルバム『ア・ミネラル・ラヴ』は、甘い歌声に彩られたポップ・ソングのコレクションになっている。“タウン&カントリー”や“フィーリング”のジャズとファンク、“ウィズ・ザ・ソート・オブ・アス”のエレクトロとハウス、“セ・ラ・ヴィ”のダウンテンポ、“ガソリン&ミラーズ”のシンセ・ポップと楽曲によってスタイルは異なれど(“レン・テイルズ”、“セイント・トーマス”のようなインストのフォーク・トラックを除けば)、とくに7、80年代のブラック・ミュージックの気配が消えることはなく、そしてほとんどの曲でスムースな歌を聴くことができる。オーガニックな感触の生楽器と、よくシンコペートするメロディ。ゴティエ、オリヴィエ・セイント・ルイスといったゲスト・シンガーの貢献もあるが、何よりスティーヴン・ウィルキンソン自身のヴォーカルが線は細くも情熱的になっており、“ライト・アップ・ザ・スカイ”では近年のR&Bメール・シンガーに引けを取らないファルセットを聞かせてくれる。

 とはいえ、ビビオが紡ぎ出す牧歌的なユートピアは、音の姿を変えることはあっても、あの美しいジャケットの『ファイ』から変わることはない。それはベッドルームで見る夢と言うよりは部屋から窓の外をふと見たときの風景であり、そのままぶらりと出かけるような足取りの軽さもある。緩やかなグルーヴが持続する『ア・ミネラル・ラヴ』ではゆっくりと身体を揺らしながら、子どもの頃の記憶をたどることもできるだろう。それはカラフルでどこまでも優しくて……聴き手のなかにあるピースフルな感覚を、たとえどんなに殺伐とした気分のときにも引っ張り出そうとする。たとえばいま、春の到来に胸の高鳴りがどうしたって感じられるように。
たくさんの音楽的な記憶が小さな生き物たちのように息づき共存しているビビオの音は、さらなる甘美さを携えつつ、いまも豊かな水彩画を描いている。

イギリス人プロデューサー。2005年に〈マッシュ〉よりデビュー・アルバム『ファイ』(2005)をアルバムをリリース。その後数枚のリリースを経て〈ワープ〉に移籍し、『アンビバレンス・アヴェニュー』(2009)、『マインド・ボケ』(2011)、『シルヴァー・ウィルキンソン』(2013)をリリース。CM音楽などを幅広く手掛け、2012年にはHONDAのCM「負けるもんか」がADCグランプリを受賞。2016年に7枚めとなるアルバム『ア・ミネラル・ラヴ』を発表した。

僕は、キャッチーでメロディックな音楽、そしてグルーヴと意味、永続性をもった曲を書きたいんだ。

あなたの新作『ア・ミネラル・ラヴ』を聴いて、私がこの作品をレヴューするとすれば「これはビビオのソウル・レコードである」という一文からはじめようと思いました。こうした意見をどう思われますか?

スティーヴン・ウィルキンソン(以下SW):はは。その意見には賛成だね。でも、僕は自分がソウル・シンガーだとは思わない(そうだったらいいんだけど)。このアルバムは、確実に70年代と80年代のソウル、ファンク、そしてディスコに影響を受けているよ。

もちろん、ソウル以外にも多様な音楽性が『ア・ミネラル・ラヴ』のなかにはあるのですが、あなたのディスコグラフィのなかでもっとも(「トラック」と言うよりは)「ソング」としての体裁が整ったものだと思えたんです。制作しているとき、本作をソングブックにしたいという想いはありましたか?

SW:そうでもないね。いまの自分がソングライティングにより興味を持っているだけだと思う。僕は、キャッチーでメロディックな音楽、そしてグルーヴと意味、永続性をもった曲を書きたいんだ。それはすごくやりがいのあることで、曲作りのあいだは気が抜けないんだよ。

あなたは好きなソウルやR&Bのアーティストとしてはスティーヴィー・ワンダー、ホール&オーツ、スティーリー・ダンなどを挙げていますが、いまでもあなたが好きなソウル・ミュージックは、やはり子どもの頃に親しんだものが多いですか?

SW:いや、昔はヘビメタにハマっていたんだ。でも音楽史を学ぶと、すべてはアフリカン・アメリカン・ミュージック、とくにブルースに遡ることがわかる。15か16歳くらいの時、僕はジャズやヒップホップ、そしてサンプリングを好みはじめた。ヒップホップを聴くという経験のおかげで、ソウル・ミュージックがいかに美しいかを知ることができたと思う。16歳のときは、DJシャドウのようなアーティストたちの作品を通じて、美しくてあまり知られていないソウル・レコードの存在を知ったし、その後はディラやドゥーム、マッドリブからそれを学んだんだ。ヒップホップは、70年代からソウル・ミュージックに影響を受けているからね。

最近のヒップホップのことはあまりよく知らないんだ。多くのヒップホップがトラップ・サウンドに移行しているし、たくさんの人々が808を使っているから、音が少しつまらなくなっていると思う。

ヒップホップからの影響はあなたの音楽においてとても重要です。Jディラやマッドリブへのシンパシーを以前からあなたは表明していましたが、とくに最近のヒップホップに評価しているものはありますか?

SW:とくにないね。最近のヒップホップのことはあまりよく知らないんだ。多くのヒップホップがトラップ・サウンドに移行しているし、たくさんの人々が808を使っているから、音が少しつまらなくなっていると思う。でも、すごく印象深いアーティストが一人いるよ。トゥリーっていうシカゴのラッパーで、彼は自分の音楽を「ソウル・トラップ」と呼んでいるんだ。彼のトラックのうち数曲か好きなものがあって、そのほとんどが加工されていないアグレッシヴなサウンドなんだけど、そこには同時にメロディと感情が含まれている。僕のお気に入りのトラックは“トゥリー・シット”。あと、KNXWLEDGE(フィラデルフィアのヒップホップ・アーティスト)っていうアーティストもクールだと思う。彼はたくさん作品をリリースするから、彼のすべての作品をチェックするのはすごく大変なんだけど、彼が作る作品はたいてい気に入るんだ。

本作ではゲスト・ヴォーカルを迎えていますが、あなたが歌う曲と、ゲストが歌う曲とを分けるポイントは何でしょう?

SW:“ホヮイ・ソー・シリアス?”は、僕がインストのパートをオリヴィエ・セイント・ルイスに送ったことからはじまったんだ。本当に強い声を持った本物のソウル・シンガーに歌われることでより価値を増す曲だと思ったから、素晴らしいシンガーであり、自分のトラックに適したスタイルとトーンを作り出すことができる彼に送ることにしたんだよ。僕には彼があのトラックでやっていることはできなかったと思う。僕には、あの曲に合う声やヴォーカル・スキルが備わっていないんだ。“ザ・ウェイ・ユー・トーク”は、じつは自分の声でいくつかのヴァージョンをレコーディングしたんだよ。それはそれで悪くはなかったんだけど、ゴティエの声の方があのトラックのスタイルに合ってると思ったんだよね。

イージーリスニングという言葉は現在あまりいい意味で使われないことも多いですが、いいものもたくさんありますし、のちに与えた影響も大きいですよね。という前置きをした上での質問なのですが、あなたにはイージーリスニングと呼ばれるものからの影響はあると言えますか?

SW:僕が思う「イージーリスニング」は、中古屋やフリーマーケットで見つけるような安いレコード、もしくは自分の祖父母が聴くような音楽。その多くがかなり時代遅れでお決まりのサウンドだけど、じつは、その多くのプロダクション・クオリティやミュージシャンシップは素晴らしい。時代遅れでダサいのはメロディなんだと思う。昔のイージーリスニングのレコードには、サンプルするのにいい要素やインスピレーションを受ける部分が多少はあると思うよ。どこかで読んだんだけど、ウィリアム・バシンスキは『ディスインテグレーション・ループス』の一部をミューザック・レイディオの音楽の断片をレコーディングして作ったらしい。すでに存在している音楽をまったく違うものに変えるというアートは大好きなんだ。ヒップホップのサンプリングというアートもそのひとつだと思うね。

本作の“ホヮイ・ソー・シリアス?”という曲名にも表れていますが、あなたの音楽ではリラックスしていること、心地よいことがとても重要なのだと感じます。それはどうしてだと思いますか?

SW:おもしろい意見だね。僕自身にとっては、そのトラックはダンスしたくなるトラックなんだけど(笑)。僕の音楽にとって大切なのは、さまざまなフィーリング。暖かみがあってリラックスできる音楽をたくさん作ってはいるけど、ラウドでアフレッシヴなものもときどき作るよ。

自分がどれだけ高い声で歌えるかを試したかったんだ(笑)。“ライト・アップ・ザ・スカイ”では僕のヴォーカルがすごく前面に出ているから、ひとの前でプレイするのがすごく恥ずかしい。

ラストの“ライト・アップ・ザ・スカイ”はとてもスウィートなR&Bで、私は本作でもっとも驚かされました。この曲において、あなたのチャレンジしたいテーマはどのようなものでしたか?

SW:自分がどれだけ高い声で歌えるかを試したかったんだ(笑)。何でかはわからないけど、そうなったんだよね。計画してやったことではなかった。クラビネットのコードからはじまって、そのあとヴォーカル部分を思いついたんだ。あのトラックでは僕のヴォーカルがすごく前面に出ているから、ひとの前でプレイするのがすごく恥ずかしい。でも、いまのところみんなのリアクションはいいよ。これまでの自分の作品とはぜんぜん違ったトラックだと思う。前にもファルセットで歌ったことはあるけど、今回の歌い方はとくに高いし、より中性的なんだ。プリンスとコクトー・ツインズのコンビネーションといった感じかな。でももちろん、プリンスとエリザベス・フレイザーは僕と比べものにならないくらい素晴らしいシンガーだけどね。

その“ライト・アップ・ザ・スカイ”や“フィーリング”ではファンク・シンガー風の歌を披露されていますが、本作において「歌う」という感覚はいままでのアルバムと異なるテーマやチャレンジがあったと言えますか?

SW:自分ではそう思ってる。訓練を重ねたから、ヴォーカルを前よりもよりコントロールできるようになっているんだ。だから、今回はこれまでに試したことのないスタイルを探求することができたし、もしそれを過去に試したことがあるとしても、もっとそれを単純化することができた。ニューアルバムでは、シンガーとしての自分がより前に出ていると思う。自分でできるのかどうか確信が持てなかったことを、このアルバムで試してみたんだ。

本作では子どもの頃に観たTV番組のテーマ曲がインスピレーションになっているそうですが、どのような番組が好きな子どもでしたか?

SW:メランコリックなギターやフルートの音楽が流れる野生生物のドキュメンタリーが好きだったね。そういった感じの番組や、『ナイトライダー』みたいな番組が好きだった。でも、イギリスの番組と見た目やサウンドがぜんぜん違うアメリカのテレビ番組もたくさん見ていたよ。そのときのサウンドをなんとなく覚えていて、それをこのレコードでは参考にしたんだ。何か明確なものから影響を受けているわけではないんだけどね。あと、『セサミストリートみたいに自分が子どもの頃とくに好きではなかった番組のことも思い出してみた。自分の好みとかけ離れていて昔は好きじゃなかったんだけど、あのスタイルとクオリティからは確実にインスピレーションを受けている。いまはそういうのがYouTubeで見れるけど、70年代や80年代の『セサミストリート』では本当に素晴らしい音楽が使われているんだよ。

いま自分が子ども番組を参考にするときというのは、悲しみや喪失感、純粋さを失う感覚を曲に取り込みたいときなんだよ。

あなたの音楽にはどこか、子どものような無邪気さや明るさが感じられます。あなたはご自身の音楽を通じて、子ども時代を再訪しているような感覚を持つことはありますか?

SW:子ども時代のものに大人のテーマを乗せたものを作るのが好きなんだ。“タウン&カントリー”のようなトラックでは、70年代や80年代のアメリカのテレビ番組のようなメロディが流れるけれど、歌詞の内容は葛藤や困難、逃避に関してだったりする。自分が子どもの頃でさえ、僕はすでに悲しい音楽や映画、テレビ番組が好きだった。いま自分が子ども番組を参考にするときというのは、悲しみや喪失感、純粋さを失う感覚を曲に取り込みたいときなんだよ。もしも何か過去のものを参照したりほのめかすことで人びとの心の奥底に隠れたフィーリングに刺激を与えることができるとしたら、それはすごく大きな効果だと思う。“ラヴァーズ・カーヴィングス”のようなトラックで聴くことができるノスタルジックな感覚は、トラックが成功した主な理由のひとつだと思うし、みんなにとってあの感覚は、なぜか馴染みのあるものでありながらも耳に新しい要素なんだよ。

あるいは“セ・ラ・ヴィ”のような曲ではあなたの得意とする心地よいメロウさがあります。「セ・ラ・ヴィ」というタイトルでこのような物悲しさが出てくるのがおもしろいなと思ったのですが、あなたにとってメロウな感覚は自分にしっくりくる、居心地のいいものなのでしょうか?

SW:あまり気にかけたことはないな。もちろんあのトラックには「メロウ」以外のさまざまなフィーリングが取り込まれている。だから、僕は自分の音楽が「チル」と呼ばれることが好きではないんだ。その言葉には何の意味もないし、使われすぎていると思う。僕は、音楽を言葉で表現しようとはしない。それは無駄なことだと思うね。

『ファイ』や『アンビヴァレンス・アヴェニュー』のアートワークのイメージが大きいかもしれませんが、あなたの音楽には自然や風景を聴き手に喚起させる力があるように思います。あなた自身が『ア・ミネラル・ラヴ』から連想する風景はどのようなものがありますか?

SW:それはトラックによるよ。“フィーリング” や“タウン&カントリー” のようなトラックでは、たぶん70年代のニューヨークがイメージできると思うし、“レン・テイルズ”のようなトラックでは、イギリスの牧草地に通じる隠れた小道のような風景が想像できると思う。トラックのなかにはそれがすごく抽象的なものもあるしね。僕は都会よりも田舎を好むけど、それと同時に僕の音楽の世界はいつもファンタジーでもある。だから都会についての音楽を書くこともできるし、それは何年もずっとやってきたことでもあるんだ。でも、それは8ミリフィルムを通して見える都会。もっとノスタルジックでユートピアのような都市。僕は都会には絶対に住めないけど、観光で行くのは好きなんだよね。美しい環境は僕にとって大切なんだ。もし自分がそうでない環境にいたら、僕は不安を感じてしまう。僕は歴史がある街が好きだし、そこから何かあたたかいものを感じるような、不安定なビルが並ぶ町並みが好きなんだ。

季節はどうでしょう? 私は『ア・ミネラル・ラヴ』には夏のはじまりのイメージを感じたのですが、あなたにとってはどんな季節、あるいはどんな天気のレコードですか?

SW:このアルバムは春にリリースされるけど、春はパーフェクトなタイミングだと思うね。まあ、南半球では春じゃないけど……。南アメリカとオーストラリアのファンにとっては違ってくるけど、花が咲き出し満開になる時期にみんながこのレコードを聴いてくれるのがすごくうれしいよ。

『ファイ』はいまでもアーティストとしての自分にとってすごく大きな意味のある作品だね。

『ファイ』から10年が経ち昨年リイシューもされましたが、ご自身のなかで、当時ともっとも変わったことは何だと思いますか? あるいは、本質的には何も変わっていない?

SW:もう11年経つんだよね。信じられないよ。いまはスタジオを持っていてるけど、『ファイ』を書いていたときのほとんどは、マイク、サンプラー、テープレコーダー、ミニディスクレコーダー、そしてG3 iMacを使っていた。でもいまは前よりも音楽プロダクションの知識があるし、歌にも自信が持てるようになっていると思う。でも、いまでも『ファイ』のようなサウンドを作ろうとするときもあるし、いつかそれをリリースするつもりだよ。『ファイ』の制作は、僕にとって本当に特別な経験だった。当時自分がどのようにして音楽にアプローチしていたか、自分が何からインスピレーションを受けていたかをいまでもよく振り返るんだ。僕はぐんと前進したし、いまはたくさんの「ポップ・ソング」を作ってはいるけど、『ファイ』はいまでもアーティストとしての自分にとってすごく大きな意味のある作品だね。

ビビオの音楽を聴いていると、私がいつも感じるのは「まぎれもなく人が作ったものである」ということです。手作りのものだと感じるのです。そのような、人の手が入った質感というのはあなたにとって重要なことですか?

SW:そうだね。僕はマシンも好きだけど、ひとの手から作られたもののほうが、サウンドが豊かになると思う。当時おそらく未来的であることとエレクトロニックであることを意識して作られていたであろう80年代のブギー・ミュージックを聴いていると、すごく豪華な質感を感じることができる。なぜかというと、それは経験を積んだミュージシャンたちによって楽器が演奏されているからなんだ。多くのモダン・ミュージックがコンピュータによって作られているし、それは効果的なアプローチだとは思うけど、僕はそれに加えて何か人間味を感じられる音楽を聴きたいと思う。自分の手を使って物理的にプレイすれば、ドラムマシンのパターンやシンセのメロディにグルーヴやフィーリングを取り込みやすくなるんだ。だから、たまにドラム・パターンを口を使って作ってみたり、それをさらに複雑にするために物を動かしてみたりする。本物の電子ピアノの音、本物のベースギターの音、本物のサックスの音なんかも大好きだね。そういったサウンドはソフトウェア・ヴァージョンよりも変化しやすいし、深みがある。それに、それを自分の手でプレイすることで、いい意味での不完全さが生まれる。それが、サウンドに手作り感を与えるんだよ。

Riki Hidaka - ele-king

 4月は残酷な月……と言ったのはT.S.エリオットだが、しかしなんなんだろう、この世捨て人のような音楽は。ボヘミアニズムをためらうことなくにおわせる彼が生きている世界とは、どんな世界だ。日高理樹が息を吸って吐いている世界……それはぼくと同じ世界である。

 トリクルダウン(は幻に 終わった新自由主義)がもたらす冷酷な世界。考えてみればロック文化が世界的に、あるいは米国において昔にくらべて弱体化したのも、中間層の弱体化と関係しているのかもしれない。それは白人史観だと言われそうだが、なんだかんだいって大戦後の大衆音楽文化を支えた主成分は彼らであり、ウッドストックもそうだった。それがパンクでは、あらゆる階層が交錯したかもしれない。しかしいま下北沢を歩いても、新宿2丁目あたりを歩いても、残酷なほどクリーンになっている。数年前に改築された下北沢の小田急の駅は不便極まりないし。
 90年代までは日高理樹のような人が下北にはたくさんいた。平日の昼下がりに暇を持てあました若者が道ばたに座っている風景も、珍しくはなかった。しかしいまでは観光客の外国人が道ばたに座っているその横を、まるでそれが視界に入っていないかのように、人はさくさく歩いている。日高理樹の音楽も同じように、それがなかったかのように忘れられるのだろう。聴こえない人には聴こえない音楽。見えない人には目の前にいても見えない人。

 彼はすでに2枚のアルバムを発表しているようだ。これは3枚目のアルバムになるのだろうか、リリース元は広島のレコード店〈Sereo Records〉。グルーパーのようなドローン・フォーク調の曲があり、物静かな作品ではあるが、90年代末のキャレクシコのようなローファイ宅録ならではの捻りと面白味をもった曲もある。何も持たない人間が多重録音して作った音楽で、スタイルこそまったく別ものだが、ムーンドッグの音楽のような無邪気さ/誠実さも感じる。タイトルが言うように、彼は「見捨てられた(Abandoned)」領域に侵入する。ドアを開けて部屋に佇み、静かに微笑んでいる。
 わからない。彼の音楽に気がつく人は、ぼくが考えているより多くいるかもしれない。ぼくがこんな仕事を続けているのも、こういう人たちがいるからで、日高理樹のような人たちがいない世界を望んでいないからだと思う。というか、間違いなくそうだ。

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