ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Cornelius - Refractions | コーネリアス
  2. This Is Lorelei - The Singer in My Band | ディス・イズ・ローレライ
  3. RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO - TOKYO -
  4. Dusty - Dusty & Friends / Commodo - Deep Harbour ft. Alfa Mist / Untold - False Vacuum
  5. Rough Trade ──50周年イベント開催を祝し、恵比寿KATAにポップアップが出現
  6. Columns Dennis Bovell デニス・ボーヴェルひさびさの新録は無類のカヴァー集
  7. Columns P-VINE 50th Anniversary Interview Pヴァイン50周年対談
  8. interview with Wendell Harrison 音楽の楽園=デトロイトから、ウェンデル・ハリソンがファラオ・サンダースとサン・ラーの思い出を語る
  9. 鷲巣功
  10. interview with Toshimaru Nakamura 世界を魅了する、類い稀なる電子音響 | ──中村としまる、待望の初期ベスト盤リリースと超ロング・インタヴュー
  11. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  12. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  13. Lambchop - Punching the Clown | ラムチョップ
  14. Fishmans ——京都でフィッシュマンズ写真展とトークイベントのお知らせ
  15. Open Mike Eagle & Kenny Segal - DOOMED! | オープン・マイク・イーグル、ケニー・シーガル
  16. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  17. Crack Cloud ──カナダのインディ・バンド、クラック・クラウドの来日公演が決定
  18. 未来マニア──エレクトロニック・ミュージック・ガイド
  19. Betty Hammerschlag ——マニア受けしていたZ世代のe-girlシンガーが、実は中年のおじさんだったニュース
  20. R.I.P. Miru Shinoda 追悼:篠田ミル

Home >  Reviews >  Album Reviews > Cullen Omori- New Misery

Cullen Omori

Dream popPsychedelicRock

Cullen Omori

New Misery

Sub Pop / Traffic

Tower HMV Amazon

橋元優歩   Apr 01,2016 UP

 戻ってきたインディ・キッズたちに伝えたいアルバムだ。
 スミス・ウェスタンズが鮮やかに登場した2010年前後に、彼らと同じような年齢だった──おそらくはいまそれぞれに20代半ばを過ぎようとしていて、もうジェットセットには通っていないけれども、ときどきはなにかいい音楽が聴きたいなというひとたち。
 フロントマンのカレン・オオモリも同じような年齢で、同じように少しだけ齢をとっている。
かつてローファイ・ブームの上でおもいきりレイドバック・サウンドを楽しんでいたスミス・ウェスタンズだが、時は移ろい、ブームもひと段落した。そしてバンドは静かに分解し、オオモリもひとりで曲をつくりはじめる。
 そんな中で彼が自分なりのソングライティングを模索していく過程は、きっと多分に内省的な時間でもあったことだろう。自身初のソロ・アルバムとなる本作は、そうしたことがありありと想像される作品だ。彼の「その後」は、どんなふうにつづいていくのだろう。そして、あの頃手にしたSWのシングル盤は、もしかしたらただ仲間内での背比べのアクセサリーだったかもしれないけれど、いまなら本当に聴けるかもしれない。この『ニュー・ミザリー』を通して。

 当時について少し補足すると、舞台は2010年前後、あれはインディ・ロックが最後に輝いた時期だったのかもしれない──ローファイの一大ブームはガレージ・サイケを現代風に磨き上げ、トゥイーやジャングリー・ポップといった概念にふたたび光を当て、ウォール・オブ・サウンドを真似たレトロな音にビーチ・ポップ等の名を与え、シューゲイズのリヴァイヴァルやチルウェイヴとも交差した。シットゲイズなんて言葉もあった……まさに塵芥のように散ったけれども、だからこそ胸に残っている
 ザ・ドラムスの最初のEP『サマータイム!』やザ・モーニング・ベンダースの『ビッグ・エコー』が、リアル・エステイトの同名ファーストが、ベスト・コーストの『クレイジー・フォー・ユー』が、ウェイヴスの『キング・オブ・ザ・ビーチ』が、ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートのこれまた同名アルバムが……いっせいに出てきたタイミングだ。スミス・ウェスタンズもこうした無数の才能たちとともに、シーンに大きな星座を描いたバンドだった。

 そしてこのアルバムは「大人の自分に手紙を書いた/諦め時をわきまえててありがとうと」と歌う“ノー・ビッグ・ディール”からはじまる。タイトルは『新しい苦悩』だ。ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』がズタズタにコラージュされたスミス・ウェスタンズのファーストは、盛大にオーヴァーコンプ気味でノイジーなお気楽ガレージ・ナンバーが詰まっていたが、本作はテンションもプロダクションもなんとも対照的である。ごく内省的で、もったりと重いドリーミー・サイケ。勢いやラフさを捨て、楽曲としての輪郭と水準、そして歌を優先している。ジョン・レノンのソロを彷彿させる。「諦め時」という詞がそのまま彼の境遇や心情を表すものだとは言わないまでも、オオモリのいまがけっしてアッパーでイケイケではないことがまるで随筆のように伝わってくる。20代の真ん中は本当にぐるぐるとしてくるしく、くるおしいですよね。しかしそれは迷いの時間ではあっても、ネガティヴな時間ではけっしてなさそうだ。新しさもエッジもないが、生きている時間の切実さ、リアリティが、きちんと美しい楽曲として実を結んでいる。それは私たちがポップ・ミュージックに求めるものの中で重要なことのひとつであることは間違いない。

 もうひとつ、シンセに向かっていることも特徴だろう。サポート・プレイヤーにはMGMTのバンド・メンバーを務めるというジェームス・リチャードソンや元セレモニーのライアン・マットスの名も見える。ロックとエレクトロニック・ミュージックの狭間で、ポップスの2000年代を見つめてきた人々だ。もちろん「シンセ・ポップをやってみました」という安直な転身ではないからご安心を。むしろギターと溶けながら、あくまで彼の歌……心や魂と言いかえてもいい、を支える、柔らかくぬくもりある材質としてきこえてくる。10代のエネルギーの遠心力では回れない、しかし成熟にはまだまだ時間を必要とする、そんな時期を正直に生きるための音楽ではないだろうか。

橋元優歩