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それにしてもスミス・ウェスタンズはいつまで夢を見つづけるつもりなのだろう?
ガールズは2枚のアルバムを僕らに残して解散してしまったし、ザ・ドラムスの鳴らした夏も過ぎ去ったように見える。海辺で昔の音楽と戯れていたザ・モーニング・ベンダースもポップ・エトセトラになって海からは遠く離れた場所に行ってしまった。もうあの青春はゆっくりと終わったと思っていた。
でもスミス・ウェスタンズはまだ青春を鳴らしつづけていた。いまも変わらぬ純度でもって。
おそらく彼らは大人になろうとはしていないないし、まったく現実なんてみるつもりもない。彼らの音楽からは「いま」が見えない。新しく公開された"アイドル"のヴィデオを見ればわかる。あたかもそれが地つづきのリアルであるかのように飄々としている。
しかし改めて言うまでもなく彼らの音楽は本当に輝いている。これだけいろんなものに溢れた世界だからこそ、それははっきりと浮き彫りになる。本当に好きなものだけを純粋に追っている。ちっともふざけてないし、真剣である。ザ・モーニング・ベンダースのようなフットワークの軽さも感じない。正真正銘のルーザーだ。
初めて"ウィークエンド"のミュージック・ヴィデオを観たときには、それがすぐに特別なものだとわかった。あまりにも完璧な曲だった。
今作でもその輝きはまったく色褪せることなく、10曲40分で異常なまでのポップスへのこだわりを全編にわたって響かせて終わる。そこには現実の入り込むわずかな隙間さえない。しかし突き抜けすぎたスミス・ウェスタンズの音楽は、その反対側にやるせない現実があることを逆に僕らに告げるようでもある。
"3AM・スピリチュアル"は新たな名曲だ。中盤では甘ったるい泣きのギター・ソロが炸裂する。彼らがいつの時代に対する憧憬を鳴らしているのかが窺い知れるようだ。4曲めの"XXIII"は、鍵盤の音ではじまりメランコリックに曲が展開されて、再び鍵盤の音で終わるインスト・ナンバー。曲名はローマ数字で「23」。これが彼らの年齢を示しているのだとすれば、そこにあった溢れんばかりの若さだけを手に「オール・ダイ・ヤング」と歌っていた前作との違いは大きい。
クロージング・トラックの"ヴァーシティ"で切なさは頂点に達する。
僕らがスミス・ウェスタンズと夢を見ていられるのもそう長くはないかもしれない。そんなことを思ってしまった。いつかは終わりが来る。
ちなみに今作のアナログ盤には同じ内容のCDが付いている、もしあなたがレコードを買ったなら、CDを誰か特別な人や友だちにあげてみてほしい。他の誰かとこの音楽から得る輝きを共有できれば、それは素敵なことだ。もちろん部屋でひとりきりで聴くことはもっともっと素敵なことであるけれども。
すべての大人になりたくない人たちのための音楽。『ソフト・ウィル』はそんなあなたのものだ。せめて、レコードの両面を聴き終わるまでは夢を見つづけさせて。それは僕の、そしてあなたの切なる願いでもある。
大倉 翼