ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Kendrick Lamar - GNX | ケンドリック・ラマー
  2. Columns ♯10:いや、だからそもそも「インディ・ロック」というものは
  3. Columns 夢で逢えたら:デイヴィッド・リンチへの思い  | David Lynch
  4. guide to DUB ──河村祐介(監修)『DUB入門』、京都遠征
  5. eat-girls - Area Silenzio | イート・ガールズ
  6. FKA twigs - Eusexua | FKAツゥイッグス
  7. Waajeed ──デトロイトのワジード、再来日が決定! 名古屋・東京・京都をツアー
  8. Panda Bear ──パンダ・ベア、5年ぶりのニュー・アルバムが登場
  9. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第1回 悪夢のような世界で夢を見つづけること、あるいはデイヴィッド・リンチの思い出
  10. パソコン音楽クラブ - Love Flutter
  11. Teebs ──ティーブスの12年ぶり来日公演はオーディオ・ヴィジュアル・ライヴにフォーカスした内容に
  12. Shun Ikegai ──yahyelのヴォーカリスト、池貝峻がソロ・アルバムをリリース、記念ライヴも
  13. DUB入門――ルーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ
  14. Lambrini Girls - Who Let the Dogs Out | ランブリーニ・ガールズ
  15. Brian Eno & Peter Chilvers ──アプリ「Bloom」がスタジオ作品『Bloom: Living World』として生まれ変わる | ブライアン・イーノ、ピーター・チルヴァース
  16. ele-king presents HIP HOP 2024-25
  17. Columns ノエル・ギャラガー問題 (そして彼が優れている理由)
  18. Columns The TIMERS『35周年祝賀記念品』に寄せて
  19. Lifted - Trellis | リフテッド
  20. goat ──日野浩志郎率いるエクスペリメンタル・バンド、結成10周年を記念し初の国内ツアー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Riki Hidaka- Abandoned Like Old Memories

Riki Hidaka

Bohemian MuiscExperimentalFolkLo-Fi

Riki Hidaka

Abandoned Like Old Memories

Sereo Records

野田努   Mar 31,2016 UP

 4月は残酷な月……と言ったのはT.S.エリオットだが、しかしなんなんだろう、この世捨て人のような音楽は。ボヘミアニズムをためらうことなくにおわせる彼が生きている世界とは、どんな世界だ。日高理樹が息を吸って吐いている世界……それはぼくと同じ世界である。

 トリクルダウン(は幻に 終わった新自由主義)がもたらす冷酷な世界。考えてみればロック文化が世界的に、あるいは米国において昔にくらべて弱体化したのも、中間層の弱体化と関係しているのかもしれない。それは白人史観だと言われそうだが、なんだかんだいって大戦後の大衆音楽文化を支えた主成分は彼らであり、ウッドストックもそうだった。それがパンクでは、あらゆる階層が交錯したかもしれない。しかしいま下北沢を歩いても、新宿2丁目あたりを歩いても、残酷なほどクリーンになっている。数年前に改築された下北沢の小田急の駅は不便極まりないし。
 90年代までは日高理樹のような人が下北にはたくさんいた。平日の昼下がりに暇を持てあました若者が道ばたに座っている風景も、珍しくはなかった。しかしいまでは観光客の外国人が道ばたに座っているその横を、まるでそれが視界に入っていないかのように、人はさくさく歩いている。日高理樹の音楽も同じように、それがなかったかのように忘れられるのだろう。聴こえない人には聴こえない音楽。見えない人には目の前にいても見えない人。

 彼はすでに2枚のアルバムを発表しているようだ。これは3枚目のアルバムになるのだろうか、リリース元は広島のレコード店〈Sereo Records〉。グルーパーのようなドローン・フォーク調の曲があり、物静かな作品ではあるが、90年代末のキャレクシコのようなローファイ宅録ならではの捻りと面白味をもった曲もある。何も持たない人間が多重録音して作った音楽で、スタイルこそまったく別ものだが、ムーンドッグの音楽のような無邪気さ/誠実さも感じる。タイトルが言うように、彼は「見捨てられた(Abandoned)」領域に侵入する。ドアを開けて部屋に佇み、静かに微笑んでいる。
 わからない。彼の音楽に気がつく人は、ぼくが考えているより多くいるかもしれない。ぼくがこんな仕事を続けているのも、こういう人たちがいるからで、日高理樹のような人たちがいない世界を望んでいないからだと思う。というか、間違いなくそうだ。

野田努