「IR」と一致するもの

King Krule - ele-king

 親になることを主題とするシンガーソングライターの作品は多い。いや音楽に限らず小説にしろ映画にしろ、それが人生における大きな変化の契機であり続けている以上、テーマになるのは自然なことだ。しかし……、キング・クルールの4作目『Space Heavy』ほどメランコリックに父になることを表現したものを、僕はすぐに思いつかない。
 前作『Man Alive!』のリリースの際に自分が書いた文章(https://www.ele-king.net/columns/007475/)を読み返してみると、すでに僕はアーチー・マーシャルが父になったときの心理状態を心配している。余計なお世話かもしれないが、しかし、『Man Alive!』が現代の荒廃にドライで攻撃的な音を援用しながら対峙した作品だったことを踏まえた上で、彼の混乱は親になることでかえって深まるのではないかと想像したのである。個人的にもちょうど、友人や知人に子どもができて、彼らの将来への不安を聞いていたことも関係している。どうやら未来は明るいようには思えない、だとしたら、この子に何を伝えてやれるのか?

 マーシャルが父親になってからすぐにパンデミックがやって来て、『Space Heavy』はその時期の内省的な日々から生まれた。そういう意味ではここ数年多く作られたロックダウン・アルバムのひとつではあるのだが、マーシャルの場合はこれまで活動してきた南ロンドンと家族と暮らすリヴァプールを行き来する過程に強く影響されたとのことで、その地に足のつかない感覚を探ったようなところがある。サウンド的には相変わらず雑食的で、ブルージーな冒頭の “Filmsier” のイントロから、ポスト・パンクというかノーウェーヴ的にも聞こえる荒々しさを持った “Pink Shell”……と、序盤はキング・クルールを聴いてきたひとの意表を大きく突くものではないだろう。だが、続く “Seaforth” で少し違うぞ、と思わせる。これまで以上にメロディアスなギターが鳴るなかで、マーシャルが優しい歌声を聴かせる。なんてことのない弾き語りのギター・チューンのように……おそらく『Space Heavy』はこれまででもっともソングライティングにフォーカスしたアルバムで、これまでの投げやりにも感じられた彼のヴォーカルもかなり変化している。4歳の娘のマリナの名前がクレジットされているこの曲で、そして、マーシャルは父親として語りかけるように歌う。「僕たちは僕たちの間にある暗い日々を共有しているんだ」。
 それから “That Is My Life, That Is Yours”、“Tortoise Of Independency” とダウナーなギター・ナンバーが2曲。“Empty Stomach Space Cadet” ではイグナシオ・サルヴァドーレスのサックスとともにキング・クルールらしいジャジーな感覚がムードを高めつつ、断片的なストリングスが抽象的な響きを残すアンビエントの “Flimsy” 辺りから、アルバムはより曖昧な領域に踏みこんでいく。ダークで陰鬱なジャズ・ロック “Hamburgerphobia”、マーシャルの気力のないヴォーカルに対して存外に爽やかなギター・ロック・チューンにも聞こえる “From The Swamp”、気鋭のソウル・シンガーであるラヴェーナが参加するアンビエント・ポップ “Seagirl”。気分が定まらない様をそのまま捉えているような危うさがここにはあるし、世界に対する混乱も家族に対する愛情も明瞭な形を見つけられないまま過ぎ去っていく。たしかに存在するのは、解決することのない憂鬱だ。

 前作には社会に対する苛立ちや怒りがはっきりと入っていた。『Space Heavy』はそれを通過したあとで、あらたに家族を持つということとパンデミックという予想を超えた変化が自分の人生にやってきた心象をぼんやりと眺めているようなアルバムだ。湧き上がってくる娘に対する愛情と世界が壊れているという認識との間のどこかを彷徨い、自分の場所を見つけられない。これはいま、多くのひとが共有しうる感覚ではないだろうか。その言葉では捉えがたいタッチを追い求めるように、ギターは乱暴に鳴らされたり繊細に爪弾かれたりしながら、空間に溶けて消えていくようにはかない響きを残していく。
 恐るべき子どもとしてアイコニックな佇まいでシーンに現れた頃を思えば、マーシャルは自身の人生を作品にダイレクトに注入するタイプだったということだろうし、それが彼の作品により複雑なニュアンスを与えることになった。人びとが忘れ去ったものとしてのビートニクに憧憬していた少年は――それはどこか厭世的な逃避でもあっただろう――若い父親になり、自分の小ささになおも震えている。そしてアルバムは、アブストラクトな美を頼りなく求めるような “Wednesday Overcast” で「多くのことが変わって、いまは多くのことが僕に意味を持っている」との言葉で締めくくられる。不安と憂鬱に苛まれながらも、変化することをどうにか受容するような一枚だ。

PIRANHA - Headed In The Right Direction - ele-king

PLP-7971

Ed Motta - ele-king

 80年代から活躍するシンガー・ソングライター、エジ・モッタはブラジリアンAOR~ジャズのヴェテランだ。4ヒーローのマーク・マックとコラボしたり、クラブ・ミュージックとも接点のあるアーティストだが、ここ10年のあいだも、タイトルどおりの内容の『AOR』(13)や、AORとジャズの両方を試みた『Perpetual Gateways』(16)など話題作を送り出しつづけてきた。前作から5年のときを経て放たれる新作『Behind The Tea Chronicles』は、なんともメロウでグルーヴィンな1枚に仕上がっている模様。発売は10月20日。先行シングル “Safely Far” が公開中です。

DJ Girl - ele-king

 松島君に、DJ Girl(の曲)はかけるのかと訊いたら、彼は表情を変えずに「かけますよ」と言った。「けっこう盛り上がるんですよ」、と20代のDJは表情を変えずに付け足した。へぇ〜、盛り上がるんだ。いいなぁ、若いなぁ。松島君は表情を変えない。いや、でもね、気持ちはわかるよ。ぼくと同世代人たちも、若者と言える頃はあの手の曲(たとえば「Analogue Bubblebath 4」の1曲目)で狂ったように踊ったものだった。時代は変わっているようで変わっていないが、変わらないようで変わった。デトロイト出身のDJ Girlはジェフ・ミルズの大ファンだった。しかし彼女はジェフ・ミルズの模倣はしなかった。
 
 ぼくがDJ Girlに興味を抱いたのは、ノンディがきっかけだった。ノンディのアルバムは素晴らしい。フットワークとヴェイパーウェイヴとエレクトロニカが融合しスパークする、インターネットにおけるアンダーグラウンドなあやしげな動きから誕生した雑食のダンス・ミュージックで、さらに驚いたのは、彼女のアフロ・アメリカンとしての反抗心を象徴するアートワークのともすれば挑発的な政治性とは裏腹に、彼女が主宰するレーベル〈HRR〉——これがちょっと奇妙で「カワイイ」ことになっているのだ。マイメロ、クロミ ハローキティ? ノンノン? で、このギークな女子コミュニティのなかには8歳のTerri Howardsちゃんもいるし(AFXも真っ青の、「どうぶつの森」のグリッチを聴きたまえ!)、そしてDJ Girlもいると。ノンディの〈HRR〉は、DJ Girlのレーベル〈Eat Dis〉とネット・コミュニティとして繋がっているのだ。……にしてもこれは……いったい……なんというシーンだろうか……衝撃的というか、新しい何かが広がっているというか、恥ずかしながら歳も忘れて興奮してしまった次第なのである。(ノンディのアルバム・コンセプトを思えば、これは閉鎖的なオタク村でも退行現象でもあるまい)
 
 新しいと言ってもDJ Girlは、調べてみると2016年あたりから作品を出しはじめているので、すでにキャリアはある。コロナになって、デトロイトからテキサス州オースティンに移住したという情報も得た。アルバム『Hellworld』はノンディの『Flood City Trax』と同様に〈プラネット・ミュー〉からのリリースで、オールドファンはヴェネチアン・スネアズの『Songs About My Cats』などを思い出したりしている。つまりこれは〈プラネット・ミュー〉らしい作品と言えるのであって、フットワークにブレイクコアの激しさが混ざった“Get Down”ではじまる『Hellworld』には、多彩で奔放な、激しくて愉快なエレクトロニック・ミュージックが8曲収録されている。
  サイボトロンを彷彿させる“Technician”やラップをフィーチャーした“Opp Pack Hittin” にはオールドスクール・エレクトロへの愛情が注がれているかもしれないが、魅惑的なノイズや弾力性のある振動の楽しげな展開は若々しく新鮮だ。子供っぽいというか、いまノりにノっているというか、“Lucky” のような曲で見せる歪んだブレイクビートの暴走の合間に発せられる「俺ってラッキー」という声とのコンビネーションに生じる面白さに、このアルバムのひとつの魅力が象徴されていると言えるのかもしれない。頭が悪そうに見えながら決して悪くはない、いやしかし悪いかもというねじれた愉快な感覚は、おそらくはAFXに端を発しているのだろうけれど、サウンドでそれをうまく表現することは決して簡単なことではないのだ。もっとも、“When U Touch Me”のようなナイトコアの曲までこの老害が楽しめるはずはなく、本作を必聴盤と言うつもりもないけれど、面白いのはたしかです。エネルギーとユーモアがあって、“So Hot”のような曲を松島君が表情を変えずにDJでかければ、フロアはきっと笑顔に包まれるのだ。君たちの未来は明るいぞ。Peace!

Meitei - ele-king

 日本文化をテーマにする広島のプロデューサー、冥丁の国内ツアーが開催されることになった。7月21日にリイシューされるファースト・アルバム『怪談』(オリジナルは2018年)をベースにしたライヴ・セットとのことで、これは貴重な機会だ。東京、豊田、和歌山、熊本、福岡、うきは、京都の7都市を巡回。会場もユニークなところが多そうで、土地全体、空間全体で音楽を楽しめるかもしれない。詳しくは下記より。

Nondi_ - ele-king

 ジューン・タイソン。彼女はいまの私の母と同じくらいの年齢だが、私が母にジューンの話をしたとしても、きっと誰のことなのかわからないだろう。ジューンはいわば盗賊団のなかの女神で、サン・ラーのもっとも有名な曲の数々を歌った偉大な声だった。また、彼女は私が初めて出会った、実験的な音楽に取り組む黒人女性でもある。

 2023年の現在、さて、どれだけの黒人女性が冒険的な音楽活動を成し遂げているのか、数えるのは難しい。ダンスやR&B、ラップなど主流の音楽では、慣習の外に踏み出す人はほとんどおらず、いま、私の頭に浮かぶのはわずか3人だ。NkisiMoor Mother、そしてLazara Rosell Albear。みんなそれぞれ素晴らしい、が、金メダルに値するのは間違いなくNondiだろう。 彼女の『Flood City Trax』はすでに、ジャンル分けなど許さないエクレクティックな音世界を持っている。

 アルバムには、ジュークにインスパイアされたという彼女の言葉通りハードコアなトラック、“01-25-2022 ” がある。この曲は刺激的な故障であり、説明するのが困難なほど背徳的だ。女王の鞭よりも鋭い殺人的な魅惑をもって、クラブでリピートされもしたら胴体は疲労困憊してもなお回旋し続けるだろう。しかし、それは1曲だけ。このアルバムの真のリズムは、1曲目の "Floaty Cloud "からはじまる。ヴェイパーなメロディ、DIYベッドルーム・プロダクション、そして決して途絶えることのないビート。これはフロア専用のダンス・ミュージックではないし、そうなるように作られたものでもない。Nondiが駄菓子屋の子供のように自分の正直な気持ちに従ったことは明らかで、私たちは、彼女のこの知恵によってますます祝福される。夢見心地は早い段階からはじまり、最後のトラックまで止まらない。が、ジューク・ミュージックが安定を保つための地面に杭を打っているとしたら、彼女のオーラル・ヴィジョンの焦点はそこではないのだ。

 ジューン・タイソンのことを考えると、彼女の声は同時にラーの声でもあった。ジムクロウ時代を生き抜いた彼女らの世代は、貧しい隔離されたコミュニティで育ち、白人の差別主義者が所有する農園(プランテーション)の近くに住むか時給自足の暮らしをしていた。私はジューン・タイソンの美しさに、斧を持ったカントリー・ウェアの女性が佇むこの反抗的なジャケットと同じ感覚を覚える。他方でそれは、『カラーパープル』の記憶をよみがえらせもする。あの、貧しくても反抗的な姿勢を。これこそFAFO*ってヤツだ。

 また、このジャケットは、多くの黒人がよく知っている状況を明確に示してもいる。何百万人もの人びとの命を剥奪した1970年代以前の南部の生活を思い出しながら、この女性は斧を持って復讐に燃えているのだ。

 そして、新しいシンセサイザーの宝庫を切り開く準備ができている。ジャケットに描かれた小作人のイメージと、各トラックから発せられる鮮やかな色のコントラストは、Nondiのトラックスとその意図の奥に染み込んだフューチャリズムの深さを示している。これは、黒人としての生活の重圧に苦しむ魂を癒す温かいサウンドだ。Nondiは、私の飢えた心に語りかけてくる。K-POPやフェイクDJに疲れ、私はひとつの様式などには留まらないミュージシャンを渇望している。ようこそ、Nondi。


*「FAFO」はもともとブラック・イングリッシュ。2022年に米ポップ・カルチャーの文脈でも流行り、同年の流行語大賞に選ばれた。「火遊びをすると火傷するかもしれない」、あるいは「もう火傷してしまった」ということを伝える生意気な表現だったが、いっぽうでは「斬新な挑戦に遭遇したときの」仲間の「気概」を表現しているとし、Urban Dictionaryではこのフレーズに「自信の表明」の意味も含めている。


Nondi_ / Flood City Trax / Planet Mu

June Tyson. About my mother`s age now but if I mentioned June to her, I’m sure she’d have no idea who she was. But June was a goddess among thieves, she was the grand voice of many of Sun Ra`s most famous songs. She was also the first Black woman I ever encountered doing experimental music. And to be sure even in 2023, it is damn hard to count how many Black women embrace eclectic music outright. Sure dance, Rnb, rap etc, they dominate but outside of convention few tread. I can only count 3 off hand. Nkisi, Moor Mother, and Lazara Rosell Albear. All amazing in their own right but Nondi is definitely going for the gold medal. With “Flood City Trax”, she already has an eclectic sound world that mentions genres and promptly ignores them. By her own words, she was inspired by Juke and indeed there is a hardcore Juke track, “01-25-2022”. To say that the track smacks fails to illustrate how vicious it is. A killer headturner sharper than lashes from a dominatrix. If on repeat at a club, torsos would gyrate into exhaustion. But that is only one track. The true rhythm of the album starts from 1st track “Floaty Cloud Dream”. Vapor melodies, DIY bedroom production, and a beat that never truly snaps. This is not foot to the floor dance music nor was it made to be. It’s clear that Nondi follows her voice like a kid in a candy shop. We are all the more blessed by this wisdom. The dreaminess starts early and doesn’t stop til the very last track. While Juke music is a stake in the ground for stability, it isn’t the focus of her aural visions.

In thinking of June Tyson, she was the voice of Ra just as much as he himself was. Their generation straight out of the Jim Crow era, grew up in poor, segregated communities, DIY living near or on plantations owned by white racists. When I think of the beauty of June Tyson, I get the same feeling with the defiant cover of the woman in country clothes carrying an axe. It immediately conjures memories for me of the Color Purple. Poor but defiant. A real FAFO attitude.

The cover is a clear nod to conditions that many Black people know all too well. Recalling pre1970`s southern life that greatly disenfranchised the lives of millions, the woman is instead vengeful holding an axe ready to defend my people and cut open a treasure trove of new synth sounds too. The extreme contrast between the share cropper imagery from the cover and the vibrant colors emanating each track shows the depth of futurism seeping deep in the trax and intention of Nondi. Warm sounds that soothe souls suffering from the weight of Black life. Nondi is a musician that speaks to my starving heart. With K-pop and fake dj fatigue, I am famished for a musician that doesn’t give a fuck about clear genres. Welcome Nondi.

ele-king vol.31 - ele-king

特集:コーネリアスの帰還
ロング・インタヴュー/新作『夢中夢』を考察する
砂原良徳

第2特集:日本の埋もれた宝石たち
日野浩志郎/downt/Peterparker69/SUGAI KEN
17人が選ぶ秘蔵の1枚
ほか

小山田圭吾インタヴュー
コーネリアスの帰還──騒動を経てからリリースされる新作『夢中夢』の核心にあるものとは?(取材:北沢夏音+野田努/写真:野田祐一郎)

reviews
非常に正直な作品だと私は感じている(大久保祐子)
これはコーネリアスの話ではなく、彼のニュー・アルバムと出会う自分自身の物語(イアン・F・マーティン/訳:江口理恵)
「新しい生活様式」から現実生活への中継地点で見る、覚めそうで覚めない「夢中夢」(水越真紀)

columns1
コーネリアスから広がるアンビエント/ニューエイジの音風景(小林拓音)
columns2
音楽表現におけるトランスグレッションとその限界、あるいはいまだパンクに夢見る人のための「エッジィ」でも「クール」でもない未来へのメモ(野田努)

砂原良徳インタヴュー
TESTSET のアルバムを完成させた砂原良徳に話を訊く(取材:野田努/写真: 小原泰広)

特集:日本の埋もれた宝石たち

日野浩志郎インタヴュー
10年代日本が生んだ最高の実験主義者(取材:小林拓音/写真:小原泰広)
・日野浩志郎 selected discography (編集部+竹中コウタ)
downt インタヴュー
新風を巻き起こす3ピース・バンドが目指すもの(取材:天野龍太郎/写真:小原泰広)
Peterparker69 インタヴュー
流れを変える新世代ポップ・ユニット(取材:つやちゃん/写真:小原泰広)
SUGAI KEN インタヴュー
世界で評価される神奈川のプロデューサー(取材:小林拓音/写真:小原泰広)
・SUGAI KEN selected discography (編集部)

17人が選ぶ秘蔵の1枚
(青木絵美、浅沼優子、天野龍太郎、大塚広子、岡部真依子、KLEPTOMANIAC、後藤護、柴崎祐二、島崎森哉、髙橋勇人、つやちゃん、デンシノオト、野田努、野中モモ、原雅明、細田成嗣、yukinoise)

VINYL GOES AROUND PRESENTS
そこにレコードがあるから
第1回 ジェイ・ティー(水谷聡男×山崎真央)

この人たち、すっかりAIにハマっております!(マシュー・チョジック、水越真紀、野田努)

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
Yahoo!ショッピング
HMV
TOWER RECORDS
disk union
紀伊國屋書店
honto
e-hon
Honya Club
mibon本の通販(未来屋書店)

全国実店舗の在庫状況
紀伊國屋書店
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丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
旭屋書店
有隣堂
◇くまざわ書店 *
TSUTAYA
未来屋書店/アシーネ

* 発売日以降にリンク先を追加予定。

bar italia - ele-king

 謎が音楽を面白くする。もちろんそうだ。ゾクゾクする美しい悪夢のようだった前作『bedhead』がそうだったように、謎に包まれたバー・イタリアはずっと僕の心をとらえて離さなかった。ディーン・ブラントが主宰する〈World Music〉からリリースされた2枚のアルバムは、そのどちらも1分あるいは2分と少しの短い曲をまるで映画のシーンのように繋ぎ合わせてひとつの物語、イメージを作り出すというスタイルで、ディーン・ブラントの匂いがそこから強く発せられていた。ミステリアスで、どこか人を喰ったようなユーモアを持ち、そしてこぼれ落ちていく夢のようにはかなく美しい音楽を作る、バー・イタリアとはそんな存在だったのだ。
 だがそれから2年の時間が経って、そのヴェールが少しずつはがされてきた。バー・イタリアはディーン・ブラントとコペンハーゲンで展覧会を開いていたイタリア人女性ニーナ・クリスタンテとサウス・ロンドンを拠点に活動するユニット、ダブル・ヴァーゴのジェズミ・タリック・フェフミとサム・フェントン、3人によるバンドであり、そうして信じられないくらいにドキドキと胸を高鳴らせる存在であると、そんな風にしてバー・イタリアはその姿を現したのだ。

 バー・イタリアについての流れが変わったのは2022年の2月 “Banks” と呼ばれる曲がリリースされたときだったように思う。顔も名前も、公式的に一切の情報を出していなかったバンドが、この曲のビデオで初めてその存在を露わにした。暗い街を歩く男と女と男、3人の佇まい、そしてバランスは強い引力を持っていて『突然炎のごとく』あるいは『はなればなれに』のような古く素晴らしい白黒映画のショットが頭に浮かぶくらいに「3」という数の魅力をこれでもかと表現していた(たぶんこのヴィジュアルから入ってもきっと裏切られることはなかった、そう信じられるくらいの雰囲気を持っていた)。
 そして音楽も変わった。“Banks” とその後に発表された “miracle crush”、“Polly Armour”、2022年の3曲はディーン・ブラントの成分が薄まり、しかしその匂いをかすかに残したまま、90年代前半の音楽に影響されたようなインディ・ロックに近づきスラッカーなギターを響かせていた。あるいはこれはダブル・ヴァーゴの嗜好が強く出たものなのかもしれない。このバー・イタリアの曲たちは2ndアルバムまでの音楽よりも、ヴィーガン(Vegyn)のレーベル〈PLZ Make It Ruins〉からリリースされたダブル・ヴァーゴのEPの方により近い。わずかにシューゲイズするギターにグランジ、宅録、ポスト・パンク、陰鬱な雰囲気の中にそれらを内包した2022年のバー・イタリアはインディ・ロック・バンドとしての魅力に満ち溢れていた。
 ドキドキするような興奮が高まっていくのを僕はこの期間にずっと感じていた。謎が次第に明らかになり、その下にあるものが徐々に姿を現す。この先に何が起きるのか、これはいったい何なのか? 期待を抱え次へ進み理解しようとしていく、それはもしかしたら自分がインディ・ミュージックに惹かれていく理由の大きな部分を占めているものなのかもしれない、そんなことを考えるくらいにバー・イタリアに引き寄せられていたのだ。

 だからある意味で〈Matador Record〉と契約し、2023年にリリースされたこのアルバム『Tracey Denim』はバー・イタリアの実質的なデビュー・アルバムに近いのではないかというそんな気がしている。明らかにギアを入れ替え、違った音楽性で送り出す集大成の音楽、2ndアルバムまでの音楽はまるで同じメンバー、同じ名前の前身バンドの音楽だったみたいに、そんな風に感じられるのだ(そうでありながら、22年のあの素晴らしかった3曲を一曲たりとも収録しないというところにもバー・イタリアの美学を感じる)。ピアノのリフがエディット感を醸しだし〈World Music〉期を思い起こさせるオープニング・トラックの “guard” から、初期のソーリーと共振するようなグランジ感のある “Nurse!” へと繋がっていくのはあるいはそれを象徴しているのかもしれない(そこにあるのは混ざり合い変わっていくバンドの姿だ)。
 アルバム全体に漂う陰鬱でアンニュイな雰囲気、暗くロマンティックなムードで静かにそして憂鬱に爆発する “NOCD”、まとわりつくギターのフレーズに虚無がオーヴァーラップしてくるような “yes i have eaten so many lemons yes i am so bitte”、“changer” ではその虚無はより繊細な面を覗かせる。それらはまるであてもなく街を彷徨い、居場所を探す主人公の姿を追った映画のサウンドトラックのように響いていく。この雰囲気こそがバー・イタリアの最大の魅力ではないかと思う。描写の仕方のセンス、音を使って空気を作り、漂う香りを感じさせ、そうしてそこに聞くものが入り込めることが出来るような隙間を残す。憂鬱でドキドキさせるような音楽でありながら決して突き放しはしない。だからこそこんなにも胸を高鳴らせ夢中にさせるのだ。

 ジャケットに写る3人の姿を見てこれから上映される物語を想像し、そうして再生ボタンを押して音楽を流す。〈World Music〉期よりもはっきりと歌い継がれるようになった男女3人の声が切り替わるそのタイミングで曲のムードが変わり、ギャップが生まれ、そうしてその隙間の中に心が吸い込まれていくように沈んでいく。完成していない、隙間のある完璧な音楽、バー・イタリアの存在は次の瞬間に何かが起こるのではないかと、心に静かな波をずっと打ち続けてくる。そんな存在に夢中にならないわけがない。

P-VINE Presents THIS TOWN - ele-king

 強力な面子が一堂に会するヒップホップ・イベント、《P-VINE Presents THIS TOWN》が開催される。ISSUGI を筆頭に、LIBRO、MUD、そして今年出たデビュー・アルバム『THROW BACK LP』が注目を集めている Flat Line Classics と、Pヴァインとゆかりのあるアクトたちが勢ぞろい。前売には特典もあるとのことなので、下記をチェック!

P-VINE主催のヒップホップ・イベント「P-VINE Presents THIS TOWN」が8/18(金)に渋谷WWW Xにて開催! ISSUGI、LIBRO、MUD、Flat Line Classicsら所縁のある面々が出演!

間もなく設立50周年を迎えるP-VINEの主催によるヒップホップ・イベント「P-VINE Presents THIS TOWN」が8/18(金)に渋谷WWW Xにて開催! 昨年発表の最新作『366247』も記憶に新しく、所属するMONJUやSICK TEAM、さらには16FLIP名義などでもP-VINEから作品を多数リリースしているISSUGIを筆頭に名曲 "雨降りの月曜" を収録した日本語ラップ・クラシックな名盤『胎動』を1998年にリリースしたLIBRO、KANDYTOWNのソロ作品としてIOやYOUNG JUJUらに続く形で2017年にソロ・デビュー・アルバム『Make U Dirty』をリリースしたMUD、今年初頭にリリースしたファースト・アルバム『THROW BACK LP』が各所で話題となっているFlat Line ClassicsとP-VINEに所縁あるアーティストたちがラインナップ。各アクトがP-VINEからのリリース楽曲も盛り込んだスペシャルなセットでのライブを予定しており、当日はTシャツなどのマーチャンダイズやCDなどの限定アイテムも会場にて多数販売。前売チケットは6/17(土)午前10時からe+とローソンチケットにて販売開始となり、前売チケットを購入いただいた方にはレアなアイテムもランダムに詰めたP-VINEステッカーパックが特典としてイベント当日に配布になる。

「P-VINE Presents THIS TOWN」
日程:2023年8月18日(金) OPEN 18時 / START 19時
会場:渋谷WWW X
出演:ISSUGI / LIBRO / MUD / Flat Line Classics 他
チケット:ADV. ¥4,000 / DOOR. ¥4,500(※税込 / ドリンク代別 / オールスタンディング)
※6/17(土)10:00販売開始
▼e+
https://eplus.jp/thistown/
▼ローソンチケット
【Lコード:71036】
https://l-tike.com/order/?gLcode=71036
INFORMATION:WWW X 03-5458-7688

*ISSUGI - 366247 Remix ft JJJ / prod DJ SCRATCH NICE (Official Video)
https://youtu.be/l-gi2XmuzbU

*LIBRO "雨降りの月曜" (Official Video)
https://youtu.be/yEpKC0wXy4M

*MUD - Chevy
https://youtu.be/7L2AjvMn7HI

*Flat Line Classics "HOT MAGIC" Prod by MASS-HOLE (Official Video)
https://youtu.be/ybfLhV0MVCk

Theo Parrish & Maurissa Rose - ele-king

 サンプリングで作られた〈KDJ〉からのデビュー・トラック “Lake Shore Drive” 以降、自らの音楽理論に基づき確信的な作品を生み出してきたセオ・パリッシュは今作でもその姿勢を失うことはない。シカゴのオリジナル・ハウス世代をリアルに体験しながら、異行のハウスを生み出し、ケニー・ディクソン・Jr とともに多くのフォロワーを世界中に生み出してきた彼は、ソウルやジャズといった “ブラック・ミュージック” の先達ジャンルへの敬愛も作品で強く表現してきた。オリジナルの作品を普通になぞるのではなく自らのフィルターを潜らせた上で。
 本作は初のシンガーとのコラボ・アルバムであり、セオ流のスピリチュアル・ジャズ作品と捉えることができる。
 相手のモーリサ・ローズはベテランのシンガーで、これまで〈サウンド・シグネチャ〉とは2017年のアルトン・ミラー「Bring Me Down」を皮切りに、セオとの初コラボ「This Is For You」、「It’s Out Of Your Control」を経て今回遂にアルバムへと至った。そのコラボ作品をざっと説明すると、〈サウンド・シグネチャ〉のカタログ史上最もソウルフルなヴォーカル・ハウスといえる “Bring Me Down” は、アルトン・ミラーによる心地よいジャジーなタッチのハウス・トラックとモーリサの歌声によるソウルフル・ハウスで、王道の歌モノ・ハウスの魅力に溢れた楽曲として幅広い層に受け入れられた。次作の “This Is For You” では、マイナーでアンニュイなキーボード・リフと4つ打ちの痕跡をアヴァンギャルドなリズム隊がなぞるセオ・パリッシュらしい実験性が散りばめられたトラックに、ほろ苦く切ないヴォーカルが合わさることで『Wuddaji』のハイライトとして記憶された。さらに2022年「It’s Out Of Your Control」では、ハイハットこそ裏打ちながらやはり実験的なドラム主体のトラックと、モーリサのコーラスのように歌い上げる酩酊感あふれるヴォーカルが独特のサイケデリック感を醸したディープなダンス・トラックとして、前2作とは異なるアプローチを表してみせた。
 さて、ここでモーリサ・ローズについても紹介しておくと、デトロイトを拠点とするベテランのシンガーで、わずか7歳でゴスペルのレジェンドであるビル・モスと妻であるエッシー・モスに認められ彼らの〈ビレース・レコード〉と契約し10才でレコード・デビューを果たして以降、メジャー〈EMI〉との契約、独立しレーベルを立ち上げ、自ら楽曲制作も始める、という幼いときより天才性を周囲に認められてきた人物。パフォーマーとしてもアニタ・ベイカーやチャカ・カーンともかつてステージを共にし、加えてブッキング・エージェンシーとしても活動、米国映画俳優組合・TV映画ラジオの芸術家協会である SAG/AFTRA のミシガン州役員も務めるなど、音楽都市デトロイトの音楽家として豊富な経験と、重要な役割を果たしてきたことがキャリアからうかがえる。
 そのような充分すぎるキャリアを重ねたデトロイトのベテラン・シンガーと、説明不要の個性を放ち続けるDJ/プロデューサーが10曲に渡ってコラボレーションをおこなったのが本作なのである。
 はたしてでき上がった作品は「Free Myself」のタイトルどおり、ふたりが枷を外し己を自由に解放させたタイトル通りの内容となった。先行EPとなった表題曲 “Free Myself” はモーリサの歌唱をじっくり染み渡らせるような、スロウで低い重心のダウンテンポ・ソウル。次の “The Truth” ではベスプレとして活動するデトロイトの若手アーティスト、ケイラン・ウォーターマンも加わり、ゴスペル・ソウルのようなビートダウンを聴かせてくれる(この2曲のみ7インチ・アナログとしてフィジカル化)。3曲目の “I’m Done” は、抑揚を効かせながら力強いイメージが残る歌唱がエキスペリメンタルなトラックを下敷きに訴えかける真夜中のソウル。続く “Spiral Staircase” でもモーリサの歌声が主旋律として響き、掴みどころのないドラムがビートを刻むなか、フリーキーなピアノやキーボードは後ろで控えめにある。ささやかなメランコリアを纏ったリフとベースラインの不穏さが押し寄せる “Purify Me” と、ミニマルなパーカッションのビートダウンにリフレインするヴォーカルの “Everything You Want” を経て、Duminie DePorres のファンキーなブルース・ギターとリズムを強く意識したモーリサの声によるデトロイト・ファンク “Snakes” が存在感を放つ。アルバム中最もセオのハウス・サイドが展開する “Surround The World”、“Once I Been Gone” の実験的でサイケデリックなアブストラクト・ハウス、“Spiral Staircase” のインストで幕を閉じる。
 初のヴォーカル・アルバムは過去最もジャズでアヴァンギャルドな作品となり、セオ・パリッシュは自らの革新性を改めて知らしめる。

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