ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Interview with Beatink. 設立30周年を迎えたビートインクに話を聞く
  2. Adrian Sherwood presents Dub Sessions 2024 いつまでも見れると思うな、御大ホレス・アンディと偉大なるクリエイション・レベル、エイドリアン・シャーウッドが集結するダブの最強ナイト
  3. Cybotron ──再始動したサイボトロンによる新たなEPが登場
  4. Senyawa - Vajranala
  5. interview with Still House Plants 驚異的なサウンドで魅了する | スティル・ハウス・プランツ、インタヴュー
  6. DUB入門――ルーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ
  7. Beak> - >>>>
  8. Columns Nala Sinephro ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている
  9. KMRU - Natur
  10. CAN ——ライヴ・シリーズの第6弾は、ファン待望の1977年のみずみずしい記録
  11. Jonnine - Southside Girl | ジョナイン
  12. Columns ♯8:松岡正剛さん
  13. Columns 8月のジャズ Jazz in August 2024
  14. みんなのきもち ――アンビエントに特化したデイタイム・レイヴ〈Sommer Edition Vol.3〉が年始に開催
  15. interview with Creation Rebel(Crucial Tony) UKダブ、とっておきの切り札、来日直前インタヴュー | クリエイション・レベル(クルーシャル・トニー)
  16. interview with Galliano 28年ぶりの新作を発表したガリアーノが語る、アシッド・ジャズ、アンドリュー・ウェザオール、そしてマーク・フィッシャー
  17. Various - Music For Tourists ~ A passport for alternative Japan
  18. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  19. Takuma Watanabe ──映画『ナミビアの砂漠』のサウンドトラックがリリース、音楽を手がけたのは渡邊琢磨
  20. Gastr del Sol - We Have Dozens of Titles | ガスター・デル・ソル

Home >  Reviews >  Album Reviews > DJ Girl- Hellworld

DJ Girl

BreakcoreElectroFootworkIDMTechno

DJ Girl

Hellworld

Planet Mu

野田努 Jun 23,2023 UP

 松島君に、DJ Girl(の曲)はかけるのかと訊いたら、彼は表情を変えずに「かけますよ」と言った。「けっこう盛り上がるんですよ」、と20代のDJは表情を変えずに付け足した。へぇ〜、盛り上がるんだ。いいなぁ、若いなぁ。松島君は表情を変えない。いや、でもね、気持ちはわかるよ。ぼくと同世代人たちも、若者と言える頃はあの手の曲(たとえば「Analogue Bubblebath 4」の1曲目)で狂ったように踊ったものだった。時代は変わっているようで変わっていないが、変わらないようで変わった。デトロイト出身のDJ Girlはジェフ・ミルズの大ファンだった。しかし彼女はジェフ・ミルズの模倣はしなかった。
 
 ぼくがDJ Girlに興味を抱いたのは、ノンディがきっかけだった。ノンディのアルバムは素晴らしい。フットワークとヴェイパーウェイヴとエレクトロニカが融合しスパークする、インターネットにおけるアンダーグラウンドなあやしげな動きから誕生した雑食のダンス・ミュージックで、さらに驚いたのは、彼女のアフロ・アメリカンとしての反抗心を象徴するアートワークのともすれば挑発的な政治性とは裏腹に、彼女が主宰するレーベル〈HRR〉——これがちょっと奇妙で「カワイイ」ことになっているのだ。マイメロ、クロミ ハローキティ? ノンノン? で、このギークな女子コミュニティのなかには8歳のTerri Howardsちゃんもいるし(AFXも真っ青の、「どうぶつの森」のグリッチを聴きたまえ!)、そしてDJ Girlもいると。ノンディの〈HRR〉は、DJ Girlのレーベル〈Eat Dis〉とネット・コミュニティとして繋がっているのだ。……にしてもこれは……いったい……なんというシーンだろうか……衝撃的というか、新しい何かが広がっているというか、恥ずかしながら歳も忘れて興奮してしまった次第なのである。(ノンディのアルバム・コンセプトを思えば、これは閉鎖的なオタク村でも退行現象でもあるまい)
 
 新しいと言ってもDJ Girlは、調べてみると2016年あたりから作品を出しはじめているので、すでにキャリアはある。コロナになって、デトロイトからテキサス州オースティンに移住したという情報も得た。アルバム『Hellworld』はノンディの『Flood City Trax』と同様に〈プラネット・ミュー〉からのリリースで、オールドファンはヴェネチアン・スネアズの『Songs About My Cats』などを思い出したりしている。つまりこれは〈プラネット・ミュー〉らしい作品と言えるのであって、フットワークにブレイクコアの激しさが混ざった“Get Down”ではじまる『Hellworld』には、多彩で奔放な、激しくて愉快なエレクトロニック・ミュージックが8曲収録されている。
  サイボトロンを彷彿させる“Technician”やラップをフィーチャーした“Opp Pack Hittin” にはオールドスクール・エレクトロへの愛情が注がれているかもしれないが、魅惑的なノイズや弾力性のある振動の楽しげな展開は若々しく新鮮だ。子供っぽいというか、いまノりにノっているというか、“Lucky” のような曲で見せる歪んだブレイクビートの暴走の合間に発せられる「俺ってラッキー」という声とのコンビネーションに生じる面白さに、このアルバムのひとつの魅力が象徴されていると言えるのかもしれない。頭が悪そうに見えながら決して悪くはない、いやしかし悪いかもというねじれた愉快な感覚は、おそらくはAFXに端を発しているのだろうけれど、サウンドでそれをうまく表現することは決して簡単なことではないのだ。もっとも、“When U Touch Me”のようなナイトコアの曲までこの老害が楽しめるはずはなく、本作を必聴盤と言うつもりもないけれど、面白いのはたしかです。エネルギーとユーモアがあって、“So Hot”のような曲を松島君が表情を変えずにDJでかければ、フロアはきっと笑顔に包まれるのだ。君たちの未来は明るいぞ。Peace!

野田努