「Re 」と一致するもの

The Alps - ele-king

 不抜けたクラウトロックの電子音が宙を蝶のように舞う......かと思えば電子ノイズの波が打ち寄せてくる。サンフランシスコの3人(昔タッスルにも参加していたアレクシス・ジョージアプレスをはじめ、ジーファ・カントゥ・レスマ、スコット・ヒーウィッカー)によるジ・アルプスの音楽もこの時代のサイケデリック・ミュージックだが、パンダ・ベアやウォッシュト・アウトのようにポップを志向するものではない。人によってはこれをポスト"ポスト・ロック"と呼ぶそうだが、たしかにインストゥルメンタル・バンドで、しかし"ポスト・ロック"よりヒプノティックで、トランスを志向するものである。トリップを誘発する反復するパーカッションとドローンに導かれて、ジ・アルプスは〈メキシカン・サマー〉に移籍して最初のリリースとなる本作の2曲目において印象的な旋律を重ねるが、それは彼らのひとつの武器だ。ゼラが主宰する〈タイプ〉からリリースされた前作『ル・ヴォヤージ』は70年代初頭のピンク・フロイドを最新のアンビエントで調理したような作品で、全体の出来としてはまあまあだったが、それでもアルバムの何曲かは彼らの演奏するメロディが冴えているためレコード店で流れていると「何ですか、これ?」と訊いてしまうのだ。

 『イージー・アクション』は、基本的には『ル・ヴォヤージ』の発展型だが、前作との大きな違いは、ブルース臭さがなくなり、エレクトロニクスを大胆に打ち出した音作りとなっていることである。エメラルズやOPNの影響もあるのだろう、クラウトロックからの影響はそのミニマルなアプローチにも注がれているが、先述したようにこのバンド特有の優美なメロディは維持している。ギターのアルペジオやピアノのよどみない音色を用いて、それが自分たちの武器であることを知っているかのように、美しい調べがクラスターめいた電子ノイズに飽きた頃に挿入される。
 90年代後半の"ポスト・ロック"を引き合いに出される所以のひとつは、おそらくは空間処理の巧さにあるのだろう。ジ・アルプスには素晴らしい静寂がある。このアルバムを聴いたあとでは、パンダ・ベアの『トムボーイ』など音数が多すぎると感じてしまうほどで......、というかあれはたしかに音数が多い音楽で、玄人のトビ好きなら間違いなくジ・アルプスを選ぶに違いない。どこまでもピースで、ホント、これこそ野外フェスティヴァルで聴いてみたい音楽である。
 まあしかし、このアルバムは何よりもアートワークですよ。ねぇ、見てくださいよ、これ、写真が下手でわかりづらいかもしれませんが素晴らしい! 音もベリー・ナイスだが、この立体のピラミッドのデザインゆえにE王。

Panda Bear - ele-king

彼はしかし、ずっと子どもでいることを謳歌しているわけではない文:木津 毅


Panda Bear
Tomboy

Domino/ホステス E王

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 「僕を頼っていいんだよ」......アルバムの冒頭を飾る"ユー・キャン・カウント・オン・ミー"のシングルのジャケットは、幼い子どもを肩車した父親のイラストで、それは本作のインナースリーブに転載されている。「僕は立ち向かうつもりさ/少なくとも頑張ってみるから」――父親となったパンダ・ベアの頼もしい宣言のようだが、それは「ダッド・ロック」にはならない。例の深いリヴァーヴで、甘く優しく心地良く歌われる。レディオヘッドのように、父親になったことがさらに世界を憂えたり嘆いたりするモチーフにもならない。思い出すのはアニマル・コレクティヴの"マイ・ガールズ"で、そこでは、僕は世俗的なものなんて興味がないんだ、僕が欲しいのは僕の女の子たちのための4つの壁と煉瓦の板が欲しいだけ、というようなことが歌われていた。僕の女の子たちというのが自分の家族のことだとすれば、とてもアニマル・コレクティヴらしい......というかパンダ・ベアらしい言い方だと思う。徹底して個人的であること、それが彼の表現では一貫している。

 『パーソン・ピッチ』は多くのフォロワーを生み出しチルウェイヴの呼び水になったのは周知のことで、昨年パンダ・ベアがシングルを続けてリリースしたのは、シングルが中心で語られるチルウェイヴに対するリアクションかもしれないと思っていた。だからはじめ僕はこのアルバムをチルウェイヴとの距離を測りつつ聴こうと思ったのだが、それはあまり上手くいかなかった。こうして彼の曲が並んだものを聴くと、単純に格が違いがはっきりするというか、チルウェイヴでは「何となく」で済まされがちなソングライティングの部分での力の入り方が違う。僕は「チルウェイヴはパンダ・ベアの新作が決着をつけるだろうから」というようなことを書いてしまったが、当の本人は自分が影響を与えたシーンのことに目配せするよりも、自身の音楽を前進させることに集中している。サンプリングの海に浮かぶようだった『パーソン・ピッチ』とは違って、構造がシンプルに整頓されていて、つまり歌としての体裁が整えられている印象だ。
 アルバムの前半、シングルとそのB面曲で固めた5曲は本当に見事なもので、ジャンクなサイケデリック・サウンドを鳴らしていたアニマル・コレクティヴがなぜこの10年でここまで浮上したのかが証明されている。複雑なリズム・パターンを持つ"スロウ・モーション"でも、高音の電子音が煌く"サーファーズ・ヒム"でも、はっきりとした展開があるメロディが堂々と中心に据えられている。それは"ラスト・ナイト・アット・ザ・ジェティ"でのまばゆい高揚でピークに達し、アルバムは文字通りのタイトルの"ドローン"を真ん中で挟んでより抽象的なサウンドへと突入していく。"シェヘラザード"の翳りに意識を奪われ、クロージングの"ベンフィカ"に気持ち良くまどろむ。実験性とポップの融合、ではなく音の冒険そのものをフックとして聞かせるその妙技は、音と遊び続けてきたパンダ・ベアだからこそ得られたものだろう。

 アルバムを通して、親となることとその責任、自立すること、親しい友人とのすれ違い、イノセンスを失うこと......つまり大人になることについてのモチーフが散見される。それは、「パンダさんクマさん」と自分のことを呼び、『パーソン・ピッチ』のアートワークにあったように想像上のユートピアを作り上げていた彼にとっての、社会のなかで生きることに目覚めていくドキュメントのようだ。ピーターパンだと言われ続けたパンダ・ベアも、ずっと子どもでいることを謳歌しているわけではないのだ。"アフターバーナー"での「僕はひどく疲れてしまった/踏み出すことに/苦痛に耐えることに」という呟きのあとに続く、「僕は金では買わない/地位を金では買わない/こう思うんだ/どこかにもっと本当のやり方があるはずだと」という決意がナイーヴすぎたとしても、それは彼なりに真摯に現実に向き合った結果である。
 だが、その音楽はやはりとてもドリーミーで甘くて......逃避的に響く。なぜだろう、と考えたときに、それは彼の表現があくまで個人としての視点から発されているからではないかと思った。パンダ・ベアが見ているものは自分の周りのものばかりで、その領域を大きくはみ出すことはない。そしてその場所を守り抜く。アニマル・コレクティヴがゼロ年代を通して体現したあり方は、社会に対する反抗でももちろん隷属でもなく、別のクリエイティヴな場所を作り上げてそこで戯れることだった。それは素晴らしいことだと思う。だけど、僕にとってはそこが同時に物足りなさでもある。現実との摩擦音がノイズとして耳に入ってくる瞬間がもっとあれば、ユートピアに入れない人間にとってもそれはスリリングなものに響くのではないだろうか。
 『トムボーイ』には、本当に見事な夢の世界がある。それはしかも現実に向かいつつ鳴らされているのだから、そのコントラストこそがこの煌きをもたらしているとも言えるだろう。パンダ・ベアが個人の領域を大きくはみ出して、より現実に目覚めたらその美は消えてしまうのだろうか? だとすれば、僕には「それが聴きたい」とは言えないけれど、この心地良いまどろみが永遠に続くわけでもない、とも思う。ここでは終わっていく何かの、その最後の輝きが反射しているのかもしれない。

文:木津 毅

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熱でもアイロニーでもない、静かに明るくひらけている肯定感文:橋元優歩


Panda Bear
Tomboy

Domino/ホステス E王

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 パンダ・ベアとアニマル・コレクティヴ最大の功績は、案外とリズムやビートにあるのかもしれない。ビートとは、心臓の鼓動がそうであるように、時間を分節するものだ。刻み、前進する。どもったり淀んだりすべったりしても、基本的にはリニアな流れを持つものだと言える。ループという方法は、我々が日ごろ感じているそうした流れを対象化するものである。リピートとは違う。「繰り返す」のではなく、「元に戻ってしまう」=「前に進まない」のがループで、そこには時間というものについての批評がある。パンダ・ベアの音楽はしばしばループの多用について指摘されるが、「元に戻りつづける」ことは、後に彼以降の音にヒストリカルな意味をもたらすことになるエスケーピズムを象徴していたのかもしれない。とくに3連符が2拍子で延々と続いていく"ファイアワークス"や"ウォーター・カーシズ"など、あの独特のビートを持った曲を聴いていると、ビート自体は非常に躍動的なものを孕んでいながら、それがループすることで独特の滞留感覚を生んでいることに気づく。それは揺りかごの時間みたいなものだ。赤ん坊に時間概念はない。目を覚ますたびに同じ地点に戻る。そして我々が赤ん坊でない限り、それは心地よい逃避として機能するだろう。彼の音楽についてよく指摘される祝祭性も、民俗音楽的なシミュラークルからではなく、このように普通の日常性から切り離された時間感覚によるものではないだろうか。

 パンダ・ベアのビート/時間感覚がもたらしたものの大きさについていま考えている。それは実際の手法としてのビートから、もう少し抽象的な意味にまでひろがる。彼とアニマル・コレクティヴが2000年代のインディ・ミュージック・シーンに与えつづけてきた影響は計り知れない。60年代から「死んだ」「死んでない」と続くロックの営み、先の10年でもガレージ・リヴァイヴァルとポスト・パンク・リヴァイヴァルといった形で弁証法的に進んできたロック・ミュージックの時間軸を、解体し、超越するものが、パンダ・ベアの祈りと祝福のループに隠されていなかっただろうか。
 ストロークスに象徴されるガレージ・リヴァイヴァリストたちのように、2000年代はそもそも復古的なロック・ヒーロー像によって幕を開けた。もちろんそれを駆動していたもの、そもそもそんなイメージをリヴァイヴァルさせたところには大いにクリティカルな態度があったと言える。続いてポスト・パンク・リヴァイヴァリストたちの隆盛があった。これはそのままガレージ・リヴァイヴァリストたちへのリアクション、批評である。ポスト・パンク自体がもともと非常に知的な動機を持っている。しかし、このようにメタな方法の追求はいずれ袋小路に陥る。
 パンダ・ベアの滞留するビートは、そのように線的に進み続けなければならないという近代的なオブセッションを解除したのだ......というのは私見である。結果、インディ・ミュージック・シーンには自由さや新たな風通しが生まれ、2008年前後に大いに果実を実らせた。サウンド面でも、シャワーのように光降り注ぐサイケデリアや無国籍で土俗的な意匠は、ポップなフィールドではMGMTというスターを生み、ダーティ・プロジェクターズやギャング・ギャング・ダンスなどブルックリン周辺の実験主義者たちの存在を押し上げ、現実世界とのやわらかい遮断装置のような覚醒感あるドリーミー・サウンドはチルウェイヴを準備した。ディアハンターの体現するサイケ/シューゲイズもまさにこの盛り上がりの中で萌芽し、パンダ・ベアのソロに色濃いトロピカリアは、エル・グインチョやドードースのように陽気なサイケというヴァリエーションを生んだ。
 またビーチ・ボーイズ=ブライアン・ウィルソンの血脈を宿した内省的できらきらとしたポップ・センスは、ザ・ドラムスモーニング・ベンダースなどのヴィンテージなサーフ・ポップ・ルネッサンスにまで連なるといえる。

 さて、今作についてみていこう。パンダ・ベアのソロとしては4作目となる。彼が率いた10年が終息し、前作は名盤として記憶され、作り手としてはひと息つくタイミングではあるだろう。やや地味で、パーソナルな印象に仕上がっている。"スワニー河"を思わせるアメリカン・トラッドなコーラスで幕を開ける冒頭"ユー・キャン・カウント・オン・ミー"。もちろんすべて彼自身の声である。
 この『トムボーイ』では、先に述べたビートの問題とともに、彼の声の力にもあらためて感服した。アトラス・サウンドの『ロゴス』収録の"ウォークアバウト"でパンダ・ベアのヴォーカルがおもむろに聴こえてきたとき、そしてパンタ・デュ・プランスの『ブラック・ノイズ』に1曲参加していたのを聴いたことを思い出す。まったく関係のない街角で聞いても、彼の声はそれとわかるのではないだろうか。くっきりと輪郭のあるヴォーカルで、あたりの色を変えてしまうような強さがある。むやみな熱でもやたらなアイロニーでもない。その両者を通過しつつ、静かに明るくひらけている肯定感。力強いが決してマッチョにならないあのヴォーカルを表現するのには、そうした言葉しか思いつけない。そして深くリヴァーブのきいたサウンドには、サンプリングされた音の断片が、この世界を生きる様々な生命の情報のように溶かし込まれている。声の上でも一人称や時間性を超えてくる。というか、ヴォーカル/バック・トラックという二元論を超えていて、彼の声は彼のビートであり、時間感覚だ。
 つづく表題曲"トムボーイ"は得意の8分の6拍子で展開する桃源郷サイケ・ポップ。パーカッシヴなギター・ストロークと脈のようなバスドラがひたすら心地よい。このループ感といい、養分の多いリヴァーブ感といい、そしてビームのように圧倒的な光量のヴォーカルといい、パンダ・ベアの粋ともいうべき曲である。ループが際立つのは"スロー・モーション"だ。スクラッチするように、とにかく進まない。主題の断片のみで出来上がっている。だがまったくストレスがなく、声の浮力で延々と気持ちいい。このままこの音楽の外へ出たくないと思わせる、逃避願望を誘う音だ。だが彼の音はそのことによって人を枯らしたり閉塞させもしない。"ドローン"でビートが消えたとき、彼の祈りが静かに浮かび上がってくる。パイプ・オルガンの、強弱も濃淡もない太く一定した響きに声が同調する、祝詞のようなトラックだ。幻夢のような世界だが、生きるエネルギーに満ちている。
 以上はパンダ・ベアのおさらいというか、パンダ・ベアの100パーセント、これまでに知っている彼の音を馥郁とたのしめるパートである。異色トラックを指摘するなら"アルセイシャン・ダーン"、"シェエラザード"、"アフタ―バーナー"といった後半の数曲になるだろう。おおらかで、センチメントな起伏の少ない彼の作風に、このようにエモーショナルな切なさが現れるのは驚きである。
 それはビートにも表れていて、"アルセイシャン・ダーン"は切迫感をもって前進する2拍子。独特の滞留感覚がない。"アフタ―バーナー"はボンゴやコンガをあしらいながらも16ビートで展開するトライバルなダンス・チューンで、これまた驚きだ。ベースもよく動き、やはり切迫感がある。ラストはループによって昂揚していくセクシーな構成。ループの中に安息と逃避を見出す彼のマナーを、大きく逸脱する曲である。"シェエラザード"は『キャンプファイア・ソングス』をピアノで作り直したような、古い引き出しを開けたアシッド・フォーク。いずれもパンダ・ベアの次のモードを占うものではなさそうだが、このアルバムが少し力の抜けた、クローズドな感覚をもった作品であることをしのばせる。いろいろと入っている。静かにアソートされている。私などのようにパンダ・ベア/アニマル・コレクティヴとロック史を振り返りながら随想するのもよいだろうし、イージーに聴くこともできるだろうし、しかし何度でも繰り返し聴くほどはまってしまうかもしれない。そういうアルバムだと思う。

文:橋元優歩

»Next 野田 努

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少年っぽい性質を持った少女のポップス文:野田 努


Panda Bear
Tomboy

Domino/ホステス E王

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 サイケデリック・ミュージックというのは、一応お題目としては、いま知覚しているこの現実が他の誰かの都合の良いように作られているある種の幻なのではないかという疑いと、そう思ったときの息苦しさから逃れるための音楽で、つまり倒錯しているのは現実のほうだと言っているような音楽で、だからそれがカウンター・カルチャーとなるのも筋が通っている。ところが、この10年、自分が聴いている音楽、欧米ではサイケデリック・ポップと呼ばれているアニマル・コレクティヴ以降のインディ・ロックにおけるサイケデリックとは、自分たちの現実と彼らの現実との接点で争う気配はない。それはある意味、とても小さな避難所となっている。そのことが伝統的なロックの物語を信仰する大人たちをいかに苛立たせ、もしくは同世代の音楽ファンからの批判に甘んじてきているかは、本サイトでずいぶんと書いてきた。だが、ヒップホップにしてもハードコア・パンクにしても、あるいはハウスにしても、社会的な機能の仕方としては大きさの差こそあれ同じように小さな避難所だ。釣り好きのお父さんがMCバトルに参加することはないし、音楽の多くが社会問題を扱っているわけでもない。
 いち部の音楽ファンのアニマル・コレクティヴへの嫌悪は、30年前のディスコやハウスのそれと少しばかり似ている。クラスのなかでもっとも口数が少なく、弱々しかった子がマッチョになることなく、それまで大声で喋っている子たちよりも、どんどん共感を呼ぶようになってしまった。それがこの10年のUSインディ・ロックで起きたことだった。
 だいたいアメリカのロックというのは、エルヴィス・プレスリーでもキャプテン・ビーフハートでもルー・リードでも、あるいはヒップホップでも、腕っ節が強そうか、あるいは口が達者な人たちが舞台に上がっているようなきらいがある。が、しかし、動物集団のパンダ・ベアというちゃんちゃらおかしな名前を冠した連中は、そうした人たちから嘲笑されてもおかしくないような、誤解を招きかねない喩えで恐縮だが、上の世代が捨てることのできないセックスと暴力の夢物語にうんざりした、いわば弱い子の代表のように思える。民主主義とはいえ、結局は口が達者で声がでかい人間がモノを言ってきた国において、アニマル・コレクティヴの、人前で威張ることのできない弱い子による綿菓子のようにやわらかい音楽は、強い大人が導いてきたその国の歴史にそもそも反している。9.11を目の当たりにした彼らは、もう強い人たちに世界をまかせていられないと思ったのだろう。ゆえにアニマル・コレクティヴがインターネットを通じてグランジとヒップホップしかないようなアメリカの田舎にまで影響を与えたというのは、実はパンク(カウンター)な出来事なのである。

 僕がパンダ・ベアとアニマル・コレクティヴにもっとも興奮を覚えていたのはゼロ年代半ばちょい前くらいの『サング・トングス』『キャンプファイア・ソングス』といった作品の頃なのだけれど、アニマル・コレクティヴにとっていまのところ最大のヒット作となっているのが2009年の『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』で、よく知られるようにあの作品が幅広く受けた伏線には2007年のパンダ・ベアのセカンド・ソロ・アルバム『パーソン・ピッチ』がある。実験的でありながらポップで、彼の長所が集約されたような、ずばぬけて美しいアルバムだった。そして『パーソン・ピッチ』は、同じ年のアニマル・コレクティヴの『ストロベリー・ジャム』よりも批評家受けした。パンダ・ベアとアニマル・コレクティヴは、数年前にいちど大きなクライマックスを迎えている。
 それでも『トムボーイ』がまたしても注目されているのは、アニマル・コレクティヴが切り拓いて、『パーソン・ピッチ』がさらに拡大したと言えるシーンがいま大いに盛りあがっているからだ。ディアハンターをはじめビーチ・ハウスのようなドリーム・ポップ、ウォッシュト・アウトのようなチルウェイヴ、ベスト・コーストのようなビーチ・ポップ......、サイモン&ガーファンクルの再発をうながしたのもパンダ・ベア、すなわちノア・レノックスだろう。

 "トムボーイ"というのは辞書では"お転婆娘"だが、パンダ・ベア本人の説明によれば「少年っぽい性質を持った少女」を指す言葉で、なるほど彼らしい主題と言える。音楽的に見れば、『パーソン・ピッチ』に顕著だったIDM的なエレクトロニクスの装飾性を剥ぎ取って、『トムボーイ』はメロディに重点を置いた、より歌を強調したアルバムになっている。それはピンク・フロイド時代のシド・バレットとブライアン・ウィルソンが合唱しているような音楽だ。そして、ある種の躁状態をロマンティックに描いた前作にくらべて『トムボーイ』にはメランコリーがあり、陰りがある。本人も「リスナーの顔を平手打ちしちゃうような音楽にしたかった」と言っている......が、そのわりには相変わらず彼の音楽は優しい感情に包まれている。とくに〈ファットキャット〉からシングル・リリースされた"ラスト・ナイト・アット・ザ・ジェティ"は絶品だと思うけれど、敢えて難癖をつけると、これは過去についての歌であり、メロディラインもレトロだ。パンダ・ベアは彼の実験精神と前向きさでリスナーを惹きつけてきたミュージシャンであり、ノスタルジーは似つかわしくない。
 『パーソン・ピッチ』のような遊びがないぶん『トムボーイ』には少しばかり堅苦しい神聖さが漂っている。潔癖性なのはもとからだが、トゥ・マッチに感じる箇所があるのだ。アフリカのリズムを取り入れた"アフタ―バーナー"がその良い例で、パンダ・ベアの歌の過剰な叙情性がコンガによるリズミックな高まりを消してしまっている。ダブが好きだというわりには、音の空間を自分の声で埋めてしまうところに良くも悪くも彼の自信がうかがえるし、それがストイックさを忘れなかった『サング・トングス』との決定な違いである。極端に言えば、声ばかりが耳に残ってしまうのだ(逆に言えば、彼の声がただひたすら好きだという人にはたまらない作品でもある)。
 これだけキャリアがあれば当たり前だが、"ドローン"のような曲は、自分のファンがいるという認識がなければ作れない曲だ。例えが古くて申し訳ないけれど、早い話、これはRCサクセションの"よォーこそ"のような曲だが(『SNOOZER』誌のインタヴュー記事参照)、それはそれとてティム・ヘッカーばりのトラックをバックに「いまの僕には君が見える」と繰り返すこれでは、あたかも森のなかでヨーダが演奏するエレクトロニカのようではないか......。
 と、まあ、こんな風にぶつくさ文句を書いているようだけれど、たしかにパンダ・ベアとアニマル・コレクティヴはアメリカの音楽を変革した。そう、確実に。か弱い子供がか弱い子供たちだけで船を造って航海に出た。幸いなことに、僕もまだその船から降りたいとは思わない。

文:野田 努

Eccy - ele-king

MILK IT CHART / MAY 2011


1
Pearson Sound - Deep Inside Refix - Night Slugs

2
Jamie Woon - Night Air (Deadboy Remix) - Numbers

3
Tyler, The Creator - Yonkers (Lil Silva Remix) - White

4
Eccy - Old Snake Rapier (Sam Tiba & Myd Remix) - Slye

5
Ciara - Ride feat.Ludacris - La Face

6
Julio Bashmore - Batty Knee Dance - 3024

7
Nosaj Thing - Voices (Dorian Concept Remix) - Alpha Pup

8
Sam Tiba & Spoek Mathambo - Burnin (Eccy Remix) - Top Billin

9
Jacques Greene - Another Girl - LuckyMe

10
Nicki Minaj - Roman's Revenge feat.Eminem - Universal Motown

Chart by JET SET 2011.05.09 - ele-king

Shop Chart


1

CALM

CALM MOONAGE ELECTRIC QUARTET - MUSIC IS OURS »COMMENT GET MUSIC
Clamの6thアルバムのリリース・ツアー・ファイナル @渋谷Plugでの最高の一夜を収めたLive盤が登場!初回完全限定生産の800枚プレスで特殊パッケージを施した超豪華仕様の2枚組。Calm以外の名義でリリースされた音源の"Live ver."も収録!

2

MAXMILLION DUNBAR

MAXMILLION DUNBAR MAX TRAX FOR WORLD PEACE »COMMENT GET MUSIC
人気作連発中の"Future Times"から最新作9番が到着!!Beautiful Swimmersを筆頭に素晴しいリリースを展開してきたUSインディ・レーベルFuture Timesからまたしてもの良質作。UK"Ramp"からリリースされた"Girls Dream"収録の傑作アルバムも記憶に新しい、Beautiful SwimmersのメンバーAndrew Field-Pickeringによるソロ・ワーク第4弾です。

3

JOHN TALABOT

JOHN TALABOT FAMILIES »COMMENT GET MUSIC
ご当地バルセロナHivern Discs、独Permanent Vacationからの傑作リリースで当店お馴染みのJohn Talabotが、XLの先物買い傘下Young Turksにピックされました。どうやら世界的に本物認定の模様です!!

4

V.A. (THE REVENGE)

V.A. (THE REVENGE) REEKIN' STRUCTIONS »COMMENT GET MUSIC
Joey Negro主宰Z Recordsから、Revengeによるリエディット/リミックス・アルバム!ハウス・ファンにお馴染みのRevengeが、ディスコ、ソウル、レアグルーヴ等の原曲を完全自分流にディスコ/スローモー・ハウス・リミックスしています。

5

SOUL INVESTIGATORS

SOUL INVESTIGATORS MAKE IT MELLOW »COMMENT GET MUSIC
Tighten Up+"I Can't Stop Dancing"な、無敵のパーティー・グルーヴ!!パワフルなドラムとド派手ホーンによる"Tighten Up"のカヴァー!!と思ったその先には"I Can't Stop Dancing"のあのフレーズが待ち構えている、キラー・チューン!!

6

INVISIBLE CONGA PEOPLE

INVISIBLE CONGA PEOPLE IN A HOLE / CAN'T FEEL MY KNEES »COMMENT GET MUSIC
Italians Do It BetterからデヴューしているNYのコンビ・ユニットによる久々の新作がDFAから。これは明らかにスクリュードされてる沼派必携の一枚!!

7

LAID BACK VS. SOUL CLAP

LAID BACK VS. SOUL CLAP COCAINE COOL (SOUL CLAP REMIXES) »COMMENT GET MUSIC
プレ・ハウス金字塔"White Horse"で知られるオランダのシンセ・ポップ・ユニットLaid Backの5年振りのカムバック作となった昨年のスマッシュ・ヒット"Cocaine Cool"を、今をときめくWolf + Lambクルー、Soul Clapがリミックスした話題作!!

8

DONATO DOZZY

DONATO DOZZY IN BED (TIN MAN REMIX) »COMMENT GET MUSIC
Tin Manによるシリーズ1stでのウルトラ・ディープ・リミックスを経て、満を持しての登場となったDonato Dozzyによる待望の新作。Labyrinth 2010のために制作/録音されたSpaced Out Ambient Acid Tuneこと"In Bed"と、Tin Manによるディープ・アシッド・リミックスの2トラックスを収録。

9

CULTS

CULTS YOU KNOW WHAT I MEAN »COMMENT GET MUSIC
【Record Store Day限定盤】ネット上で話題のこの曲が、片面プレス超限定リリース!!人気沸騰中のCults!!ドリーミーでスウィートなオールディーズ・ムードのキラー曲がまさかのヴァイナル・リリースです。片面エッチングの特殊仕様。再入荷はありません!!

10

RAPHAEL SAADIQ

RAPHAEL SAADIQ RADIO / CAN'T JIG ANYMORE »COMMENT GET MUSIC
【Record Store Day限定盤】新作アルバムからの限定7インチシングルが登場!待望の新作『Stone Rollin'』への期待が高まる中、先行シングル"Radio"に本作オンリーの"Can't Jig Anymore"を収録してのリリース。レトロなジャケもいかしてます!

The Mount Fuji Doomjazz Corporation - ele-king

 オランダからドゥーム・ジャズを名乗る8人構成のサード・アルバム。母体であるキリマンジャロ・ダーク・ジャズ・アンサンブルにゲストを加えたラインナップで、いまのところ交互に各3枚づつのアルバムをリリースしている。「擬人化」と題されたライヴ・インプロヴィゼイションはアド・ノイジアムからの前2作とは違い、人類の進化をイメージした1時間程度の組曲。
 ジョン・コルトレーン『アセンジョン』やレッド・クレイオラから発展し(様式化し?)、無調であることに歯止めが利かなくなったフリー・ジャズはすべての楽器が溶け合ってしまうニーモニスツ式のドローン状態がいわば終着地点になったと勝手に思っているのだけれど、ここでドゥーム・ジャズと宣言されているものはドゥーム・メタルよろしくディジェリドゥーの演奏を模したヴァリエイションと考えられ、楽器もそこまでドロドロに混ざり合うことはなく、トロンボーンやチェロ、あるいはエレクトロニクスやギターがそれぞれにロング・ドローンを演奏し、それらが明快なアンサンブルとして構成されている。簡単にいえばゴッドスピード・ユー~のジャズ・ヴァージョンで、時代が変化したせいか、あれほど重い演奏ではなく、90年代から続くドイツのストーナー・ロック(ボーレン・ウント・デル・クラブ・オブ・ゴアなど)から派生した流れだと解すればいいのだろう(ジャズには詳しくないので、ジャズ評論家による言及を探してみたものの、ネット上では発見できず。おそらくジャズ・ファンには相手にされていない......?)。
 勇壮としたイントロダクション(ちょっとクラウス・シュルツェ? それが人類誕生のイメージか)。"ディメンジョン"と題されたパートでは「進化」が起こっているようで、なんとなくアシッドな感じがよく、トロンボーン(?)の咆哮がそれに加えて緊張感を与える。"フォーム"でヴァイオリンがしみじみとする辺りは一種の停滞感を表現しているのか、全体的にはダーク・アンビエントといえる範囲。ドゥームには興味があるけれど、メタルはちょっと......という方にはちょうどいい感じでしょう(切れてなければ、まだダウンロードできるかも→https://www.mediafire.com/?bb3b23iru2424us)。

 ゴッドスピード・ユー~からティム・ヘッカーまでドゥーム・カルチャーの総本山と化したモントリオールからは新たに〈コンステレイション〉がサックス奏者のセカンド・アルバムを送り出した。これが一筋縄ではいかない。ドゥームかと思えばミニマルなベースのループにサックスやパーカッションでアクセントを与え、踊れるドゥーム・ジャズのような展開がいくつかと、いわばゴッドスピード・ユー~の呪縛を解いた上で、バロックじみたサキソフォンだけの多重録音(?)はロル・コクスヒルを早回しで聴いているようなチープ・スリル。タイトル曲や"ア・ドリーム・オブ・ウォーター"ではスポークン・ワーズにローリー・アンダースンがフィーチャーされ、ムダに知的な感じがする一方、感覚的に飛ばしてるだけといった曲も多く、戦前のブルース・シンガー、ブラインド・ウイリー・ジョンスンのカヴァー"ロード・アイ・ジャスト・キャント・キープ・フロム・クライング・サムタイムス"はかなり斬新なブルースのドゥーム解釈。なるほどそっちと結び付ける手があったかと。後半に向かってベースが蠢き出す曲が増えたりと、手法的にはまったく統一感がないはずなのに、全体としては奇妙な眼鏡で世界を覗き見たようなスチーム・パンク的な快感を持ったアルバムといえる(それもまだ未完成の魅力にあふれた)。
 ちなみに前作『ニュー・ヒストリー・ウォフェア Vol. 1』からのリミックス・シングルはティム・ヘッカーが手掛けている。

interview with Scuba - ele-king


Various Artists
ホットフラッシュ・レコーディングス・プレゼンツ......バック・アンド・フォース

Hotflush Recordings
/Pヴァイン・レコード
E王

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 DIY主義で成り立っているダブステップ・シーンにはいくつもの魅力的なレーベルがあるが、〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉は人気レーベルのひとつであり、また、このジャンルにおいて重要なレーベルのひとつでもある。そして、〈ハイパーダブ〉がブリアルを輩出したレーベルとして知られるように、〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉は昨年、マウント・キンビーのデビュー・アルバム『クルックス&ラヴァーズ』をリリースしているレーベルとしても知られるようになった。ブリアルとマウント・キンビーといえばジェームス・ブレイクが影響を受けた2トップとも言える存在だが、興味深いのは、〈ハイパーダブ〉を主宰するコード9がレゲエのサウンドシステム文化からの影響を受けているのに対して、〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉を運営するスキューバは20年前からテクノに親しんでいたばかりか、いまではベルリンで暮らし、高名な〈ベルグハイン〉でレギュラー・パーティをオーガナイズしている。
 こうした背景は、スキューバの音楽性ないしはレーベルの方向性にも表れている。〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉には独自の色があり、以下もちろん 褒め言葉として言うが、クロイドンのヤンキーっぽさとも〈ナイト・スラッグス〉のちゃらさとも別種の、やはりテクノ/ハウス臭の強さによってレーベルの色 は構成されている。
〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉にとって最初のコンピレーション・アルバムとなる『バック・アンド・フォース』のリリースを祝して、レーベルの主宰者であり、もうひとつのダブステップをうなが してきたスキューバを名乗る男、ポール・ローズに話を訊いた。

ダブステップは音が独特だったんだ。他に比べられるものがないくらいユニークだった。FWDはすごく小さなハコなのに、バカでかいサウンドシステムを入れてて、ああいう音を聴くにはすごく良かったというのもあったかな。あとは単純に多くの人があまり好きじゃなかったか、まだ聴いたこともなかったという点も魅力的だったね。

まずは現在の日本の震災、福島原発について知っていると思いますが、あなたのコメントをもらえますか?

スキューバ:すべてが非現実のように思えるほど、テレビなどで見た映像は悲惨で、心を痛めるものだった。みんなと一緒で、一刻でも早く、復興が実現することを心から願っているよ。日本では素晴らしい経験をいままでさせてもらってるから、みんなの生活が元に戻ることを祈ってる。

今回、初めてレーベルのコンピレーションをリリースしますね。ようやくそのタイミングが来たという感じですか?

スキューバ:そうだね、ここ最近多くの才能がレーベルに関わってくれるようになって、それをいちどまとめて世間にショーケースしたかったのがまずあった。はじめたときとは趣向が少し違うけど、そのときといまの音もひとつの作品にするのも面白いと思ったし、これからレーベルを通して出てくるアーティストも見せたかった。みんな素晴らしい人ばかりだから、すぐコンパイルできたよ。

〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉らしい、多様性のある内容になったと思います。だいたいあなたのレコードは、日本ではテクノ系のDJも好んでいるんですよ。

スキューバ:ははは、そうなんだ(笑)。でも納得できる状況だね。たしかにダブステップからはじまった感はあるけど、いまはとくに何のジャンルにこだわっているとかはないし、どちらかと言うとテクノ系のDJの方ほうが回しやすいのかもね。

初めての取材なので、あなたの個人史についてまずは教えてください。ネットで調べたのですが、あなたは幼少期からピアノを習い音楽に親しんできた。学生時代にコリン・フェイヴァーとコリン・デイルをきっかけにダンス・ミュージックの世界の足を踏み入れて、ジャングル、そして〈ワープ〉のようなテクノに熱中した。とくにオウテカの最初の2枚のアルバムが好きだった。当たってますか? 何か付け足すことは?

スキューバ:その通りだね。90年代なかばはコリン・フィヴァーとコリン・デイルがやっていたラジオ番組をよく聴いていてよ。当時はまだちゃんとしたラジオ番組がいっぱいあったからね。彼らの番組はけっこう幅広いエレクトロニック・ミュージックをかけてて、14~5歳の僕にとってはすごく新鮮だったね。ロンドンではクラブに若くて入れたりして、僕もその直後くらいから行きはじめたりしたんだ。海賊ラジオも聴いたりしてて、そこではジャングルが一時期すごく流行ったり、その後にガレージが来たりしたんだけど、それもチェックしてたね。ダブステップとの出会いはガレージからの流れだったと思うんだけど、いまでも続いてるフォワード(FWD)という月1回のイヴェントがあって、3年ほど何も面白い出来事がなかったような時期の2001年にはじまって、そこでいろんな面白い連中が集まっててね。いまも最前線にいるスクリーム、ベンガやマーラとかみんなそこを通っていったよ。

卒業後、あなたは6年間の会社勤めを経験したが、それがアホらしくなってドロップアウト、そして2003年、スペクター(Spectr)の名義で、最初の12インチ・シングルをリリースするために、〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉を設立する......。

スキューバ:2001年に学業を終えて、仕事に就いたけど、実は2007年くらいまでは辞めなかった(笑)。だからレーベルやりながら働いてたよ、普通に。

なぜ〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉という名前をつけたんですか?

スキューバ:一時期ブリストルで勉強をしていて、そこでやってたクラブ・イヴェントから名前を取ってるんだ。とくに深い意味はないんだけどね(笑)。

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いままで自分が影響を受けてきたエレクトロニック・ミュージックはアルバム形式のものが多いんだ。初期のオウテカの2枚、オービタルのセカンド・アルバム、エイフェックス・ツインとかもね。最初から最後まで楽しんで聴けるものを作りたかったし、当時はいろんな人を驚かせたと思う。


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ホットフラッシュ・レコーディングス・プレゼンツ......バック・アンド・フォース

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自分で音楽を作りはじめたのはいつからですか? 

スキューバ:10代の頃には少し遊びで曲を作ったりしてたけど、大学の頃はずっとDJばっかりだったね。でも学校を卒業してから作りはじめたんだ。2001年に卒業して、2003年に作品を出してるから、2~3年かけて作曲を身に付けていったって感じかな。そんな簡単に出来るものじゃないし、どのプロデューサーもそんなすぐ納得して出せるものもないと思うしね(笑)。

6年も会社勤めをしていながらそれを辞めて、レーベルをはじめるって、けっこう勇気がいったと思うんですよね。

スキューバ:最初はレーベルやりながら働いてたし、辞めたときには逆にほっとしたというか、やっとこれに集中できるって感じだったかな(笑)。

当時のあなたはダブステップのシーンとはどういう関係だったのでしょうか?

スキューバ:レーベルは2003年にはじめて、その当時はリンスFMでも番組をやってて、けっこうどっぷり関わってた感じかな。でもみんな最初はファンとして入っていったんだ。僕らもそうで、ゼド・ビアスとかジンクがレジデントをやっていて、彼らはガレージの延長線のようなものを流してて、それが好きで集まってたんだけど、気付いたら自分たちもダブステップという音楽を作ってて、出してて。本当に気付いたらそうなってた、という感じだったよ。

あなたが知っている初期のダブステップのシーンの良さについて話してもらえますか?

スキューバ:音が独特だったんだ。他に比べられるものがないくらいユニークだった。FWDがやってた場所はすごく小さなハコなのに、バカでかいサウンドシステムを入れてて、ああいう音を聴くにはすごく良かったというのもあったかな。あとは単純に多くの人があまり好きじゃなかったか、まだ聴いたこともなかったという点も魅力的だったね(笑)。

レーベルが本格的にスタートしたのは2004年ですが、ディスタンスやボックスカッターのような人たちとはどのように出会ったのですか? クラブで知り合って、テープをもらったっていう感じですか?

スキューバ:ディスタンスとかはFWDで出会った仲間だったね。最初の頃から友だちだったという感じ。ボックスカッターはレーベルでは10個目のリリースとかだったと思うけど、その時点ではもうデモとかも送ってもらえてる状況になって、彼はそのなかから出会えたアーティストだね。デモはほとんどの場合ダメなものばっかりだけど、根気強くいろいろ聴いてると、たまにすごい才能に出会えるんだ。ボックスカッターは外部から送られてきた音源で初めて契約に至ったアーティストじゃないかな。

2008年にあなたはスキューバとしての最初のアルバム『ア・ミューチュアル・アンティパシー』をリリースしますね。素晴らしいアルバムだと思いますが、あなたの音楽はこのとき、すでにダブステップのクリシェから離れています。ダブやテクノ、アンビエント、エレクトロニカなど、よりオープンなエレクトロニック・ミュージックを展開しいています。あなたのこうした展開の背後には何があったんでしょうか?

スキューバ:アルバムというロングプレイヤー(LP)を作るとなると、ある意味自由度が増すと思うんだ。だからアルバムを作ると決めたときはダンス・トラックを単に集めたものとかにしたくなかった。さっきも言ってたけど、いままで自分が影響を受けてきたエレクトロニック・ミュージックはアルバム形式のものが多いんだ。初期のオウテカの2枚、オービタルのセカンド・アルバム、エイフェックス・ツインとかもね。最初から最後まで楽しんで聴けるものを作りたかったし、当時はいろんな人を驚かせたと思う。当然ダブステップだけじゃないし、テンポはそれに近くても、いろんな音を表現できたと思う。

ダブステップのシーンに対するあなたの気持ちに変化があったのでしょうか? それはあなたがロンドンを離れた理由とも関係があるのでしょうか?

スキューバ:ダブステップ云々でもなかったし、ベルリンに行ったこともあまり関係無かったんだ。というのも、あのアルバムを書いているあいだにちょうど引っ越して、しばらくは部屋にこもって作曲をしていたから、あまり街から影響を受けることもなかった。気持ちに良い変化はあったから、より集中できたというのはあるかもしれないけど。

ベルリンに移住して良かったことは何ですか?

スキューバ:そうだね、まぁ音楽的にはいろいろあるし、いろんなミュージシャンがいるから、刺激はたくさん受けるね。その上ロンドンよりリラックスしているし、ドイツの首都って感じもしないし、その和やかな空気がいいね。個人的にはあまりどこかのシーンに属するってことはないけど、たくさんの人に出会えて、つねにフレッシュな気分でいれるんだ。ロンドンでは少し飽和状態になってたというか、疲れてきた感じだったから、変化を求めて、ここに来たんだけど、まさに良い意味での変化になってるよ。

昨年リリースした『トライアンギュレーション』はさらにディープな作品になりましたが、やはりベルリンの音楽シーンからの影響が大きいのでしょうか?

スキューバ:もともと自分はいろんなスタイルの音楽に興味があるんだ。だからそれを分けて表現するのもおかしな話だし、よく名前を変えてやる人もいるけど(自分もそうしたりしてるけど、もうバレてるしね(笑))、僕はそれをひとりのアーティストとしてやりたい。1枚目から2枚目、その後もいろんなスタイルの音を追求してきたし、いろんな方向にいっていると思う。ベルリンのシーンから具体的影響を受けたとかは感じてないね。

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もともとこのレーベルはひとつのジャンルにこだわりたいという意志は最初からなかったし、いまでもない。面白いと思ったエレクトロニック・ミュージックは何でも出していきたいんだ。あと、いまの時代はそのように幅広く、好き勝手にやっても受け入れてくれる時代だと思うんだ。


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さて、コンピレーション・アルバム『バック&フォース』の話に戻したいと思います。個性的なアーティストのいろんなタイプの曲があって、過去と未来を繋げたいという気概を感じたのですが、あなた自身はどのようなコンセプトで選曲したのですか?

スキューバ:みんな仲間なんだ。このレーベルに関わってくれた人、これから関わるような人を収録したって感じだね。リリースがあった人、ある人はもちろん、自分が一緒に仕事をした人、関わった人で素晴らしい才能を持った人を選んだつもりだよ。

レーベルには若い才能が集まっていますが、まずはマウント・キンビーとの出会いについて教えてください。

スキューバ:彼らもデモを送ってきて、そこから関係がはじまったアーティストなんだ。メンバーの片方のドムがとても不思議でオブスキュアな音源を送ってきてね(笑)。2分間の沈黙の後にスネアが1回鳴るような音とか。すごく興味を惹かれていったのを覚えているよ。そしていまの編成になってから、より自分たちの音を確立させたような感じだし、最初のEPはアンビエントな作品だったけど、すごく反応が良くて。あと彼らはバンド形式でライヴをやるから、それも助かってるんじゃないかな。努力して世界中でツアーをしているしね。

ジョイ・オービソンのどこをあなたは評価しますか? ジョージ・フィッツジェラルドなんかも似たタイプというか、よりハウス・ミュージックに近い感覚があるように思うのですが。

スキューバ:彼は天性のメロディの持ち主だよ。初期はダブステップ的なことをやっていたかもしれないけど、いまは言う通り、ハウスに近いことをやっているからね。でもそれはすごく努力が必要なことだったと思う。だって、一番か二番を争うようなヒットを出しておいて、そこに背を向けて自分の信じたことをやるってことだからね。その辺も立派だと思う。

あなた自身のなかで、ハウスやテクノのDJで好きなのは誰ですか?

スキューバ:ちょっとベタだけど、マルセル・デッドマン、ベン・クロック、ステッフィとかカシアスとか好きだね。ステッフィの新作はすごく良かったよ。あとはサージョンとかすごく好きだね。彼のライヴ・セットは最近見たけど最高だったよ。

ロスカやアントールド、フェルティDLやディーブリッジなど、〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉以外の、他のレーベルや自分のレーベルから作品を出しているキーパーソンの曲を選びましたね。ここにはどんな意図があったんでしょうか?

スキューバ:みんな友人だからさ。ロスカは昔から付き合いがあるし、ディーブリッジもフェルティ・DLもすごく面白いことやってると思うし、仲が良いし。レーベルで具体的にリリースが少なくても、いろいろと一緒にやってる人も多いしね。いろんなスタイルのアーティストがいるこの輪を見せたかったという気持ちもあったかな。

セパルキュア(マシン・ドラム)のようなアブストラクト・ヒップホップ系のベテランの、他のジャンルのシーンにいた人がいるのも面白いですね。

スキューバ:そうだね。彼らはいまレーベルにとって大事な存在だし、いまアルバムを制作中なんだ。9月頃に出したいと思ってるね。もともとこのレーベルはひとつのジャンルにこだわりたいという意志は最初からなかったし、いまでもない。面白いと思ったエレクトロニック・ミュージックは何でも出していきたいんだ。あと、いまの時代はそのように幅広く、好き勝手にやっても受け入れてくれる時代だと思うんだ。レーベル買いをしてくれる人もいるし、そのような人にも違ったスタイルを提供しないと面白くないしね。でもその幅広い中にもこのレーベルらしいカラーみたいなのはしっかりとあると思うんだ。

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個人的にいまはまったく興味がないだけなんだ(笑)。数年前は本当につまらなかったけど、ここ1年くらいはダブステップの周辺に面白い派生音楽があると思うし、そこはちょっと気にしてるけど、いまのダブステップを聴いてって言われたら、嫌だね。


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さて、あなたはいま、ダブステップというジャンルはどんな位置にいると思いますか? ダブステップはすでに終わって、いまはポスト・ダブステップにあると捉える人もいるし、まだまだシーンは元気だという人もいるし、いろんな解釈があると思いますが。

スキューバ:んー、まぁ終わってないことはたしかだね。この前マイアミに行ってたんだけど、ガンガンかかってたよ(笑)。でもたしかに変わったし、ここ数年の変化を客観的に見るのは面白かったけどね。そしてその変化はジャンルとして成功してきた結果の変化だと思う。それには問題はないんだけど、ただ個人的にいまはまったく興味がないだけなんだ(笑)。数年前は本当につまらなかったけど、ここ1年くらいはダブステップの周辺に面白い派生音楽があると思うし、そこはちょっと気にしてるけど、いまのダブステップを聴いてって言われたら、嫌だね。

欧米においてこのシーンはここ2~3年で加速的に拡大しましたね。最後にあなたがシーンの拡大を実感したときのことを教えてください。

スキューバ:んー、何かきっかけがあったという風には感じてないけど、徐々にそう感じるようになったかな。もともと自分もダブステップ専門とかじゃないし、レーベルも偶然ダブステップ的なレーベルに見られるようになっただけなんだよね。

ありがとうございました。日本でお会いできるのを楽しみにしています。

スキューバ:ありがとう。僕も早く日本に戻りたいと思ってるよ!

 最後に、『バック・アンド・フォース』に曲を提供している主なプロデューサーの名前を記しておこう。取材でも触れているように、ダブステップ、ファンキー、ミニマル、ハウスなど、実に多様性のある内容だが、ひと言で言えば、現在のベース・ミュージックにおけるテクノ系の総本山としての〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉の特徴の出ている好コンピレーションになっている。

■Boxcutter
Boxcutter / Oneric Planet Mu

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 2006年にデビュー・アルバム『Oneiric 』を〈プラネット・ミュー〉から発表したこのアイルランド人は、グライムとダブステップを盗みながら、ユニークなエレクトロニック・ミュージックを展開している。IDMの側からのダブステップへのもっとも初期のアンサーとも言える。

■dBridge
dBridge / Fabriclive 50 Fabric

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 ディーブリッジはインストラ:メンタルと同様にドラムンベースのシーンから来ている人気プロデューサー。

■Scuba
Scuba / Triangulation Hotflush Recordings

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 〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉を主宰するポール・ローズによるプロジェクト。2008年の『A Mutual Antipathy 』と2010年の『Triangulation』は日本でも人気盤となっている。

■FaltyDL
Falty DL / You Stand Uncertain Planet Mu

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 ニューヨーク在住のドリュー・ラストマンは、2009年に素晴らしいデビュー・アルバム『Love Is A Liability 』を発表。2011年にリリースしたUKガラージ調のシングル「Hip Love」では、ザ・XXのジェイミー・XXがリミックスを手掛けている。セカンド・アルバムも文句なく良い。

■George Fitzgerald
George Fitzgerald / Don't You Hotflush Recordings

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 2011年に〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉から最初のシングルをリリースしたばかりのロンドン在住の新人。ジョイ・オービソンのようにハウスの4/4のキックドラムを使い、ソウルフルなフューチャー・ガラージでダンスフロアを熱狂に導くであろう注目株。

■Roska
Roska / Rinse Presents Roska 12 Number One Rinse FM

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 UKファンキー(UKガラージにおけるアフロビートないしはソカのハウス的な混合)を代表するDJ/プロデューサー。


■Mount Kimbie
Mount Kimbie / Crooks & Lovers Hotflush Recordings

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 2010年〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉からデビュー・アルバム『クルックス&ラヴァース』を発表したドミニク・メイカーとケイ・カンポスのふたりによるマウント・キンビーは、IDMスタイルを取り入れ、音楽的にこのジャンルをさらに洗練させている。幅広い層から支持され、いまや〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉を代表する存在にまでなった。

■Joy Orbison
Joy O - Wade In / JelsHotflush Recordings

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 2009年に〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉からリリースされたデビュー・シングル「Hyph Mngo/Wet Look」によって瞬く間にシーン最大の注目株となった。ジェイディラをはじめ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインからGGアレンまで愛する若き才人は、ダブステップのクリシェにとらわれず、自由な発想でダンス・トラックを作っている。

■Untold
Untold / AnacondaGet Physical

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 〈ヘムロック・レコーディングス〉レーベルを主宰するジャック・ダニングによるアントールドはイノヴェイターのひとり。2011年はいよいよアルバムのリリースが控えているとの噂もあり、それは幅広く注目されることになるだろう。

■TRG & Dub U
Cosmin TRG / A Universal CrushRush Hour

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 最近ファースト・アルバム『A Universal Crush 』を〈ラッシュ・アワー〉から発表したばかりのTRGは、ディープ・ハウスからゲットーテックまで幅広くこなす。収録曲は2562によるリミックス・ヴァージョン。

Pantha du Prince - ele-king

 アニマル・コレクティヴ(ブルックリンのアート・ロック)とフォー・テット(ロンドンのIDM)が1枚のレコードのなかで並んでいると言っても驚きはしないだろうけれど、そこにモーリッツ・フォン・オズワルド(ベルリンのミニマル)も加わっていると言ったらどうだろう。パンタ・デュ・プランスを名乗るドイツ人、ヘンドリク・ウェーバーは、それを可能とする唯一といっていいほどのプロデューサーである。彼のロマン主義まるだしのアルバム『ブラック・ノイズ』が、ディスクユニオンのインディ・ロックの棚からクラブ系の12インチを扱うテクノのコーナーまで横断できたのは、パンダ・ベアが1曲歌っていながら(そしてLCDサウンドシステムやチック・チック・チックのメンバーも参加しながら)、あるいはドゥルッティ・コラムをサンプリングしながら、彼のスタイルがミニマル・テクノの発展型だったからだろうけれど、そうしたクレジットやジャンル分け以上にアルバムの音楽がユニークだったからである。地滑りで壊滅してしまったアルプスの小さな村をテーマにしたというそれは、なおさら現在の我々には重たいものがあるが、美しかった風景をなんとしてでも書き留めておきたいという抑えがたい欲望は、アルプスでのフィールド・レコーディングまでやったという彼の並々ならぬ情熱にも表れているように、作品のなかに圧倒的な思いを吹き込んでいる。『イレヴン・ヴァージョンズ・オブ・ブラック・ノイズ』は、昨年各方面で好評を得たそのアルバム『ブラック・ノイズ』のリミックス盤というわけだ。

 リミキサーは先述したモーリッツ・フォン・オズワルド、フォー・テット、アニマル・コレクティヴのほか、〈ゴーストリー・インターナショナル〉のザ・サイト・ビロー、そして〈コンパクト〉レーベルやその傘下〈ダイアル〉レーベル関係のプロデューサー(DJコーツェのところから作品を出しているディ・ヴォーゲル、東京の〈ミュール〉レーベルから作品を出しているローレンスなどなど)が参加している。要するに、ブルックリンのアート・ロック系と親和性の高いドイツのミニマリストたちが多数占めている。オリジナルにあったロマン主義的な迫力は良くも悪くも薄まって(ロマン的なものにありがちな鬱陶しさはなくなり)、田園主義の生活にほどよくポップ・アートが入ってきたというか、ミニマル・テクノのさばさばした感覚がパンタ・デュ・プランスの濃厚な美意識を中和している。

 というわけで全体的に押しつけがましさのない、やわらかいアルバムだが、白眉をいくつか挙げるとしたら、まずはモーリッツ・フォン・オズワルドのヴァージョンだ。トリオでやっているとっつきづらい即興とは別の、彼のドイツ的な装飾性を削除した機能的なダブの美学が素晴らしい。フォー・テットはパンダ・ベアが歌っていた"スティック・トゥ・マイ・サイド"をエロティックなミニマルに変換している。アニマル・コレクティヴは、オリジナル盤においてもっとも美しい曲のひとつ"ヴェルト・アン・ドラト"を、彼らのサイケデリック・ポップのレパートリーに加えているようだ。3人のビッグネームはそれぞれ期待に応えていると言えるだろう。牧歌性を打ち出すディ・ヴォーゲルやシカゴ・ハウスのワイルドな質感を注ぎ込むハイエログリフィック・ビーイングも印象的で、〈コンパクト〉が送るアンビエントの使者、ウォールズによるドリーミーな展開はクローザー・トラックとして申し分ないばかりか、〈コンパクト〉のミニマリズムとアニマル・コレクティヴのピーターパン・サイケデリックとの見事な結合の瞬間というか......言うなればこの10年、欧米のインディ・ミュージック・シーンがひたすら追求している終わりなき非日常を象徴するような締めである。

Thurston Moore - ele-king

 突然休刊宣言して世間を賑わせた田中宗一郎は、編集部でよくギターを弾いていたものだが、何を隠そう僕もたまに家でギターを弾く。下手の横好きに過ぎないので、こんな風に書くのも我ながらこっぱずかしのだけれど、早い話、ギターの音が好きなのだ。どんなギタリストが好きかと問われれば、フィンガー・ピッキングかスティール・ギターが上手い人だと言う。これは、自分には到底できないからで、つまり憧れとも言える。カントリー・ブルースが典型的だが、たった1本のギターを最大限に弾きこなしながら、ことこまかな感情表現までしてしまうところがすごいし、まあ何よりもそのプレイは曲芸師のような側面もあるし、見ているだけでもたまらない。要するに、最近あらためて人気がありそうなケヴィン・シールズのようなタイプのギタリストとは真逆のタイプである......というか、まあ、シールズみたいなセンス一発のギターとはまったく別の発想の演奏である。
 ジャック・ローズといえば、そのソロ・ワークにおいてはジョン・フェイヒィの後継者とも謳われた人物で、2年前に心臓発作で亡くなっている。まさにフェイヒィ流のフィンガー・ピッキング演奏を継承しながら、いわゆるアメリカーナ(アメリカのルーツ・ミュージック)という口当たりの良い括りを破壊するような彼の諸作――2003年の『オピウム・ミュージック(アヘン音楽)』や翌年の『ラーガ・マニフェスト』などなど――はゼロ年代のディケイドにおいて大きなインパクトを残している。ブルースやカントリーのギター奏法の発展型における複雑さ、ないしは逸脱していく感覚もさることながら、こうしたの音楽の、流浪のなかの憂鬱さというのに胸を打たれる。ホント、やるせねーなーというわけだ。

 カリフォルニアのレーベル〈VDSQ〉は2009年からギタリストのアコースティック・ギター演奏によるソロ作品をリリースし続けている。アコギのソロ演奏が好きな人には興味深いシリーズで、アートワークも品が良く、コレクター心もくすぐられるだろう。ちなみに第二弾がエメラルズのマーク・マッガイアで、第四弾が三田格が例によってやたら情報量を詰め込んだレヴューのなかで紹介していたファブリックのギタリスト、マシュー・マリンの作品、そして第五弾がサーストン・ムーアとなっている。ムーアの作品はサブ・タイトルにもあるようにジャック・ローズに捧げられている。
 ムーアは12弦のアコースティック・ギターを演奏しているが、当たり前の話、ソニック・ユースのファンが納得するであろう、ムーアらしい演奏だ。僕がこのアルバムを聴いてみようと思った理由は、『SNOOZER』のレヴューで書いたように、ベックがプロデュースしたサーストン・ムーアの最新ソロ・アルバム(アコギによる弾き語り)が良いと思ったからである。ムーアはどちらかとえいばケヴィン・シールズのほうに近い、センスで勝負するタイプのギタリストで、ローズやフェイヒィのような流暢なフィンガー・ピッキングはない。ムーアのようなギタリストがアコースティック・ギターのみでどのように表現をするのかという意味においても、興味深い作品である。
 結論を言えば、これは直球勝負の作品である。アルバムは、ムーアが得意とする変則チューニングによる不協和音をしゃらーんと鳴らしながらはじまり、演奏はいわばパンキッシュだがそれでも瞑想的なレヴェルへとあがっていく。それはアカペラで歌うシンガーのように生々しく、録音は目の前でムーアがギターをかき鳴らしているようにも感じられる。故人への敬意や思いは、レコードをひっくり返してから最後のほうでさらに高まる。かき鳴らされるギターの背後からは明らかにムーアの叫び声が聞こえる。センスよりも気持ちが全体を支配したアルバムで、そのエモーションは感動的だし、ギタリストが自分の思いを表現するうえでこんな演奏もあるのだと思い知る。
 ちなみに〈VDSQ〉はヴァイナルのみのリリースだ。このレーベル以外でも、アメリカで一昨年から続くこうした傾向は、今年もますます強まっているようだ。みんな、ヴァイナルの時代に戻せと主張しているのだろう。

Chart by JET SET 2011.05.02 - ele-king

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1

THE MYTHICAL BEASTS

THE MYTHICAL BEASTS COMMUNICATE »COMMENT GET MUSIC
Gatto Frittoによるレーベル初のアルバム・リリースも大好評頂いた、トップ・バレアリック・レーベル"International Feel"より新作14番がデリバリーされました。Felix Dickinson a.k.a. Foolish Felix & Toby Tobiasのタッグ"The Mythical Beats"による2007年"Hector Works"からのリリース以来となる待望の新作です。

2

ANDRES

ANDRES AS WE ROCK ON »COMMENT GET MUSIC
毎度カルトな人気を誇るUSリエディット・レーベルWhatchawannadoのニュー・シリーズ"Spills"から、デトロイトを代表する漆黒サウンドで御馴染みのDez a.k.a. Andresによるシリーズ第一弾がデリバリーされました。

3

DONATO DOZZY

DONATO DOZZY IN BED (TIN MAN REMIX) »COMMENT GET MUSIC
Tin Manによるシリーズ1stでのウルトラ・ディープ・リミックスを経て、満を持しての登場となったDonato Dozzyによる待望の新作。Labyrinth 2010のために制作/録音されたSpaced Out Ambient Acid Tuneこと"In Bed"と、Tin Manによるディープ・アシッド・リミックスの2トラックスを収録。

4

CMT

CMT ZONAZONA »COMMENT GET MUSIC
今や週末には欠かせない存在となったCMTの新作は一筋縄では終わらないストーリー性豊かなミックス ! 2010年9月にBlack Smokerからリリースされた『Observacion Astronomica』とは大きく異なり、幅広いジャンルで構成された1枚。

5

COYOTE

COYOTE ALWAYS »COMMENT GET MUSIC
Is It Balearic?で御馴染みのCoyoteがNeedwantに参戦。International Feel発"Moving"でシーンに大いなる足跡を残した人気バレアリック・チームによる新作が、The Revengeによる"Just Be Good to Be"カヴァーがヒットのNeedwantから登場。

6

GRACEFUL EXIT

GRACEFUL EXIT REVOLVE DISCO »COMMENT GET MUSIC
天才Walter Jonesによる新ユニット、第1弾!!デトロイト・テクノを演ってたWalt J時代の作品も再発が進んできたWalter JonesがChas Bronzを始めとするサポート・ミュージシャンと結成した新ユニット、Graceful Exitの1st.シングルがDFAから登場。

7

CAURAL

CAURAL DIE BEFORE YOU DIE »COMMENT GET MUSIC
オランダのRush Hour系名門Eat Concreteからの限定10インチ。持ち前のメロディ・センスはそのまま、モダン・ビート・リサーチの最新成果も見事に取り込んだ最高の内容!!

8

BANDA ACHILIFUNK & ORIGINAL JAZZ ORQUESTRA TALLER DE MUSICS

BANDA ACHILIFUNK & ORIGINAL JAZZ ORQUESTRA TALLER DE MUSICS I BELIEVE IN MIRACLES »COMMENT GET MUSIC
I Believe in Miraclesと"Ain't No Stopping Us Now"をスパニッシュ~ルンバ・カヴァー!!話題沸騰中のアルバムから、Jackson SistersとMcfadden & Whiteheadの大クラシックのカヴァーがシングル・カット。しかも日本先行発売です!!

9

クボタタケシ

クボタタケシ CLASSICS 1~4 同時購入セット »COMMENT GET MUSIC
正真正銘のザ『クラシックス』。遂にあの伝説のミックステープ・シリーズが初 CD化!!ノベルティ・7インチ付きの4タイトル同時購入セットで す。'98年にス タートし、その後のオールジャンルDJ Mixの新しい扉を開いたミックステープ・ シリーズ『Classics』!!この度リマスタリングが施され念願の初CD化です。ジャ ケット・デザインはオ リジナル・カセット同様に光嶋崇氏が担当。』

10

OWINY SIGOMA BAND

OWINY SIGOMA BAND S.T. »COMMENT GET MUSIC
Brownswoodからのロンドン~ナイロビ混合プロジェクト。話題のアルバム到着しました!!特大推薦盤★瑞々しくオーセンティックな音楽性とモダンなエッセンスが自然体のまま溶け合った、まさに"Havana Culture"のアフリカ版と評されるに相応しい仕上がりです!!

Chart by JAPONICA 2011.05.02 - ele-king

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1

V.A.

V.A. GO BANG ELECTRIC MINDS / UK / 2011/4/24 »COMMENT GET MUSIC
ARTHUR RUSSELL率いるバンドDINOSAUR Lによる名曲"GO BANG"のRADIO SLAVEリミックスは原曲のカオスティック/サイケ・フュージョンなあの雰囲気を余すことなく封じ込めタイトなディスコ~四つ打ちグルーヴで纏め上げた 快作!ピッチを細工したヴォーカル・フレーズもこれはこれでピタリとハマってます。すごい!

2

STEVE REICH / KIRA NERIS

STEVE REICH / KIRA NERIS VAKULA REMIXES UNKNOWN [UK] / 2011/4/24 »COMMENT GET MUSIC
ミニマル・ミュージックの代表的作曲家、御大STEVE REICHによる直近アルバムに収録の独特すぎる"間"が印象的なエクスペリメンタル・ナンバー"2X5"をエレガントなハウス・グルーヴでリミックス! オリジナル・ヴァージョンの雰囲気を存分に落とし込んだフレーズの"ずれ"を存分に活かしたダンス・ミュージックの枠組を超越しうる傑作ワークス です!

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MARC MAC PRESENTS VISIONEERS

MARC MAC PRESENTS VISIONEERS APACHE / SHAFT IN AFRICA (ADDIS) BBE [UK] / 2011/4/23 »COMMENT GET MUSIC
NAS"WORLD IS YOURS"、PHARCYDE"RUNNIN'"等ヒップホップ・クラシック中心としたジャズ・リメイクが多方面で話題となったMARC MAC(4 HERO)によるリメイク/カヴァー・プロジェクト=VISIONEERS、待望の新作は"APACHE"と"SHAFT IN AFRICA"というこれまたヒップホップの中枢的大ネタを大胆リメイク!もう多くを説明するまでもないですね。ベタですが、逆にこういうのって賞味期限 無でずっと使えます。限定盤。

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P. ELADAN

P. ELADAN MONOCHORDIUM MUTING THE NOISE / GER / 2011/4/26 »COMMENT GET MUSIC
レーベル・サイトのみでしか入手不可であった<MUTING THE NOISE>限定盤が流通開始!こちら第1弾は詳細不明のP.ELADANなる人物による制作年代すら不詳という超オブスキュア・トラックの発掘(新録音 源??)。ガムラン調の鳴り物を下地に、微小なダブワイズと共に様々なSEを絡ませ緩急つけつつも延々とBPM110前後のプリミティヴな生ドラ ム・グルーヴが紡がれるドープネス・カルト・トラック。

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RHYTHM OF ELEMENTS

RHYTHM OF ELEMENTS BEYOND REMIXES EP R2 / UK / 2011/4/23 »COMMENT GET MUSIC
DJ UCHIKAWAとピアニスト=MAKOTO KURIYAによる邦人ディープハウス・ユニットRHYTHM OF ELEMENTS、名門<R2>より来るリミックス・アルバムからの先行カットEP。ニュー・ジャズ~ハウス・シーンきっての引っ張りだこクリエイター AT JAZZ、大御所ALTON MILLERと期待通りのリミックス・ワークを披露する良質安心の名前が並びますが、個人的には本盤でも一際異彩を放つDJ Dによるレゲエ・エッセンスを注入したダブ・リミックスが断トツ!

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CMT

CMT ZONAZONA SBM / JPN / 2011/4/26 »COMMENT GET MUSIC
同時入荷の再発「SOLEADO」続編的内容のCMTの豊潤な音楽感が垣間見れるチルアウト・サイドを詰め込んだファンタスティック&マージナ ル・ミックス!アフリカ、南米、カリブ、中近東と世界を彷徨するかのように繋がれていくサイケ・ミュージックの数々・・ミニマルでずっぷりハメる CMTも最高ですが、音楽性豊かなこんなCMTも最高です!内容をモロ反映したQOTAROO氏(POWWOW/COSMIC LAB)によるジャケット・アートワークも素晴らしい~!

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AZYMUTH

AZYMUTH AURORA FAR OUT / UK / 2011/4/24 »COMMENT GET MUSIC
AZYMUTHの活動35周年を記念するニュー・アルバム「AURORA」が遂にリリース!昔ながらのファンも十二分に納得のかつての70年代 フュージョン・スタイルを踏襲しつつもモダンに洗練されたグルーヴで現在進行形のブラジリアン・フュージョン/ジャズ・ファンク/ブギーと多様に 広がる AZYMUTHサウンドを、その確固たるキャリアが物語る燻し銀アンサンブルにより奏で上げたサウダージ感溢れる極上の全8曲。

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KUNIYUKI

KUNIYUKI BAMBOO CITY MULE MUSIQ / JPN / 2011/4/24 »COMMENT GET MUSIC
洗練のモダン・ハウス・グルーヴにガムラン音楽の要素をふんだんに取り込んだアルバム中でも一際異彩を放っていたディープ・エキゾ・ミニマ ル"BAMBOO CITY"に、C/Wには同じく新曲"COME WITH US"の音数をタイトに削ぎ落とした上で打楽器音をほんのりダブワイズさせたニュー・ヴァージョンを収録!本盤も当たり前に世界基準です。大推薦!

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JED & LUCIA

JED & LUCIA HELIUM EP UBIQUITY / US / 2011/4/16 »COMMENT GET MUSIC
A面では、ゆるやかなダウンテンポ・トラックに郷愁感漂うピアノと幻想的雰囲気を増長させるスペイシー・シンセがキメ細やかに交錯する新 曲"HELIUM"をUKのクリエイター・ユニットLETHERETTEが潔いヒップホップ・ビーツを叩き込み洗練のブレイクビーツ・トラックへ とリミックス!そしてB面には「SUPER HUMAN HEART」収録曲を現行エレクトロニカ/ビート・エッセンスをふんだんに盛り込みダウンテンポ・トラックへとセルフ・リミックス!

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BLUNDETTO

BLUNDETTO BAD BAD VERSIONS HEAVENLY SWEETNESS / FRA / 2011/4/17 »COMMENT GET MUSIC
先行リリースの"NAUTILUS"カヴァーを筆頭にレゲエ/ダブをベースとした柔軟なクオリティ・トラックの数々で大好評完売に至った2010 年リリースの傑作ファースト・アルバム「BAD BAD THINGS」の前々から話題となっていたリミックス・アルバム、無事入手しました!オリジナル・アルバムのエッセンスを残したまま世界各地の BLUNDETTOお気に入りのアーティスト達がお得意のフォーマットにてリコンストラクト!ナンバリング入り、全世界250枚限定プレス。
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