「W K」と一致するもの

interview with Baths - ele-king


Baths
Cerulean

Anticon

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 バスは周知のとおりデイデラスやフライング・ロータスの周辺から浮上したビート・シーンの鬼っ子だが、リスナーの多くはインディ・ロック寄りの層なのではないかと思う。彼のサンプリングには他人からの引用というものがなく、ほぼ自作の音源しか用いられていないし、ライヴを観れば想像以上に「歌」への比重が置かれていることもわかる。実際のところ、ウォッシュト・アウトやトロ・イ・モワのような宅録ポッパーたちと近いところにモチベーションがあるのかもしれない。内向的で潔癖的な感覚も共通している。彼らの潔癖とは、ミストのように淡く広がる肯定感と、その肯定する対象への絶対的な距離感という、背反する感覚の表象ではないだろうか。ベッドルームから平熱で世界を祝福するチルウェイヴのマナーが、時代の作法としてバスにも流れ込んでいるように感じる。
 しかし、バスにおいてはそれはもっと激しいエモーションの奔流、エネルギーの過剰として表れるようだ。"プリー"の明るく天上的な響きと、どもって暴れ回るビートの攻撃性とは、背反し、摩擦を起こしながら、ともに彼の純粋さや若さを描き出す。屈託なく、恐れを知らない、本当に14歳の過剰を純粋培養したような音である。また、アートの世界からの影響や日本のカルチャーへの憧憬というものも彼の音楽を立体的にしていることがよくわかる。そうしたアーティスティックなアーティストとしての存在感が、今回のライヴとインタヴューのなかではっきりと増した。『セルリアン』は、若さがもたらした偶然と奇跡のアルバムではない。バスはもっともっと、大きくなるだろう。

僕はビョークが好きなんだ。彼女はソングライティングをエレクトロニクスやビートにミックスするのがとても上手くて、僕はその影響を受けているから、ビートも歌も同じくらい大事にしてる。

今回の滞在で3回のライヴを終えられたわけですが、いかがでしたか?

バス:3回ともまったく違うシチュエーションだったから、それぞれが特別で、すごく楽しかったよ。よけい日本が好きになったし、すぐにでも帰ってきたいね(笑)。

ドミューンなんかは少し変わった体験だったのではないでしょうか。オーディエンスがいないことでなにか変化が生まれたりはしませんか?

バス:過去にイタリアで一度だけウェブのライヴを経験したことがあるけど、ドミューンはサウンド・システムがほんとに素晴らしくて、オーディエンスがいないことは関係なしにほぼいつもの感じのライヴができたよ。ベースもよく出せたし。クラスカのほう(※24日のプレ・パーティ)は音響が少し弱い分、歌に集中できて、それはそれでよかったけどね。

私が観たのは25日のフィーバーの公演なんですが、ほんとにエモーショナルで、エネルギーに満ちたライヴだなと感じました。バスにおけるエモーションの発火点というのはいったい何なんでしょう? ビートですか、歌ですか?

バス:僕は音楽をはじめるにあたってソング・ライティングから入っているので、歌や作曲に重点を置いているんだけど、その後エレクトロも好きになってビートにも傾倒していった。僕はビョークが好きなんだ。彼女はソングライティングをエレクトロニクスやビートにミックスするのがとても上手くて、僕はその影響を受けているから、ビートも歌も同じくらい大事にしてる。

ビートに関しては、あなたはよくフライング・ロータスやデイデラスと比較されますね。でも3人ともまるで音の個性が違います。私のイメージだと、フライング・ロータスっていうのはすごくヒロイックで......

バス:ふふふ。

孤独で......

バス:うん。

タフネスがあって......

バス:うん。

ブルー。

バス:うんうん。

デイデラスの場合は愛、そして愉しみ......プレジャーとかジョイ、というイメージです。

バス:イヤー! あと、ダンディ、ね。

(笑)はい。で、バスはというと、力の定まらないものすごいエネルギーと攻撃性だと思うんです。すごく攻撃的だと感じます。それはたとえば14歳の少年が持っているようなエネルギーですね。まだ無方向的でどんなものにでもなり得るというような。この見方についてどう思われます?

バス:そのキーワードはじつにしっくりくるね。僕については、いま言ってくれたようなイメージを持ってもらえてうれしいよ。自分自身でもそういう作品だなって思っている部分がすごくあるんだ。アルバムの曲によっては、たとえば"ユア・マイ・エクスキューズ・トゥ・トラベル"とかは、若気のいたりっていうような感じをわざと出してもいる。僕はまだとても若いし、20歳のときの曲なんかには未熟な部分もたくさん残っていて、そういうものを含めたエネルギーが凝縮されたアルバムだと思うよ。

ああ、そうですね。さらに言うなら『魔女の宅急便』のほうきに乗れないキキですね。技術的に未熟という意味ではまったくないんですが、ほうきが暴走してるんです。巨大な才能と可能性が放出されるべき出口を求めて暴れている。

バス:キキね! それは素敵だ。

私はあなたのアーティスト写真もすごく好きなんですが、たとえばこのフライヤーに使用されているもの(※1)。顔に白い線が一本引かれていますよね。白い線と、白い犬。この2つはバスの純粋性を象徴しているんじゃないかなって思うんですよ。それは自分のピュアさであると同時に、なにか外界を遮断するような線なのではないかと。あの線は何なんですか?

バス:いやあ、じつはそんなに深い答えがあるわけではなくて......。実際のところ、ありのままの自分を見せるのにためらいがあって、もうちょっとなんかクールに撮れないかなって思ってやってみたというのが正直なところなんだ。でも白い線については、アルバムのイメージ・カラー......青と白なんだけど、それを際立たせるのは狙いではあった。できあがってみたら思ってたよりも印象的に仕上がっていて、自分でもびっくりしたよ。

※1

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"プリー"を書いたときには僕は少し落ちこんでいた。世界は真っ暗だってくらいのテンションだったかもしれない。それがすごく表現されているとは思うよ。いまは、まったく違うテンションで、そんなことは全然思ってないんだけど。

白と青がコンセプトだというのは、タイトルの『セルリアン』にも表れていますが、『セルリアン』というイメージはどこからきたものなんですか? そしてそれは何を表現しているんでしょう?

バス:セルリアンという色自体、たくさんの段階を持った色なんだ。このジャケットでも薄いところや濃いところがあるけど、そのどれもがセルリアン。いろんな可能性を秘めているという比喩だね。それにセルリアンっていう言葉は、ラテン語では「ヘヴン」とか「スカイ」とかそういうポジティヴな意味を持ったものなんだ。そういうところにも惹かれたし、バラエティをもった概念だと思ってタイトルに選んだんだ。それにこのセルリアンという言葉はアルバムを作る前から頭の中にあった。曲を作っているときも、「これは"セルリアン1"。これは"セルリアン2"」って感じでイメージしてたから、バラバラでありながらどこか統一感のあるものになっていると思う。

へえ! いいお話がきけました。実際にそういう天国、天上的な雰囲気がすごくありますね。アニマル・コレクティヴ以降のインディ・ロックには何らかの形でそういった肯定的なムードが示されているようにも感じるのですが、あなた自身のロック体験というものについてうかがいたいです。バスはビート・シーンの俊英という枠に収まらない、とてもロック的な存在だと思うんですが。

バス:ロックの影響はとてもあって、音楽をはじめたばかりの頃はクラシックだったんだけど、そのあとにエレクトリック・ベースとかギターとかそういうものをひと通りさわって、それからネフューズといういわゆるマスロック・バンドを組んだんだ。バンド体験は大きいよ。僕はベースだったんだけど、まずライヴというものをどうやってするかってことを学んだし、ひとりでやるのとはエネルギーが全然違う。観客からのフィードバックとか、メンバー同士での掛け合いなんかも一人でやるときには体験できないことだから、総合的にはとても得がたい経験だったよ。あと、バンドのほうがミステリアスなことができるしね。あの頃のことを思い出すと、うれしくてテンションあがっちゃうな。

バンドの方がミステリアスだっていうのはおもしろいですね。ところでもうちょっと白い線の話でひっぱりたいんですが(笑)、あのようなヴィジュアル的な見せ方を含め、バスには実際にとてもアート的な雰囲気を感じます。お母様が画家だともうかがいましたが、そのような環境や美術の世界から影響を受けていると思いますか?

バス:たしかに、育った環境のなかにアートというものが大きく含まれていたので、そういう影響は知らないうちに受けていると思う。調べてくれたように、母親は画家で水彩画と油絵をやってる。とてもクラシカルなものを描いてるんだ。父はテレビの脚本家をやってて......だから、そういうクリエイティヴィティといったものはどこかで受け継いでいるのかなとは思うよ。僕自身は、音楽でもアートでも映画とかその他の表現ジャンルでも、いちばん大事なのはそこにきちんとエモーションやハートに訴えかけるものがあるかどうかだと思っている。それに、シンプルな表現が好きなんだ。シンプルでありながら多くのことを語っているものがね。マンガやアニメとかでも、白い紙にさらっと線だけが描かれた絵コンテみたいなもの......そこにストーリーがあって、自分の想像力を自由にふくらませることができるようなものに惹かれる。たとえば、E.E.カミングスっていう詩人が好きなんだけど、彼は詩の朗読をしながらスケッチをするんだ。ほんの3~40秒くらいでささっと描いちゃうんだけど、そのなかでとっても好きなのが、ふたりの人が手をとりあっていて月が出ている絵なんだ。ほんとにシンプルで、だけどそこにいろんなストーリーを想像して何時間でも眺めていられる。ていうか、ビョークもE.E.カミングスの詩を使ってるんだ。"サン・イン・マイ・マウス"って曲なんだけど。あとは、ファッションの世界ではアレキサンダー・マックイーンも大好き。ニュー・ヨークのエキシヴィジョンには行けなかったけど、オンラインで全部みて、すごくインスパイアされたよ。いま挙げたものの全部に共通するのが、シンプルであることと、シンプルでありながらそこにきちんとストーリーが存在すること。だから自分が表現をするうえでも、派手派手しい形をとるのではなくて、シンプルだけど......

象徴性の高いもの?

バス:そう、潔くて、たくさんのものをインスパイアできるものにしたいと思ってる。それは僕が日本のカルチャーが好きということにもつながると思うんだけど、日本のカルチャーはシンプルなものが多いよね。トータルに、僕の表現はそういうものにしていきたい。

うんうん、だから、ほら、つながったじゃないですか、白い線! フライング・ロータスの場合、それはお面になるんですよ。けど、バスは一本の線になるんです。シンプルの極致ですね。ビョークもそこまでシンプルではない。あの一本の線の喚起力っていうのはすごくて、バスというアーティストについてとても正確に表現し、伝えてくれるものだと思います。

バス:撮ってるときは無意識にやったことなんだけど、たしかにそうかもしれないね。いまこうやってアナライズしてもらって、やってよかったって思えるよ! すごくいい写真に思えてきた(笑)。

ははは、そうですよ! しつこくてすみませんねー。では、アートつながりでもうひとつ。"ラヴリー・ブラッドフロウ"のミュージック・ヴィデオがありますね(※2)。あれにはまさに日本のファンタジー、ジブリ的な世界が......

バス:(独り言で)あ、ジブリって言った。

あははっ、さすがにジブリは耳が拾っちゃうんですね! 三鷹にも行ったんですよね。......そう、で、そのジブリ的な世界が展開されていると思ってんですが、あんな舞台を設定したり、侍をモデルにしたのはなぜですか?

バス:ディレクターがふたりいて、アレックスとジョーっていうんだけど、メインのアレックスが僕と同じようなカルチャーやアーティストに影響を受けているんだ。影響を受けていたものをリスト・アップしたらほとんどカブっていたくらい。で、いちばんはじめにいろんなアイディアがあったんだけど、その中でざっくり決めていたことが日本を舞台にしようということと、アニメーションにしようということなんだ。ふたりとも石岡瑛子という日本のアーティストの衣装デザインが好きで、その雰囲気を取り入れたいと思ったのもある。それからあまりにベタにアニメっぽいものではなくて、また違ったレヴェルに引き込めるものにしたいとも思った。ほんとにいろんなことを考えていたんだけど、3分のヴィデオにするにはあまりに壮大なアイディアばっかり出てきちゃって......。僕はパッケージでもアートワークでも曲でもパフォーマンスにしても、すごくこだわりをもってやってるんだ。アレックスは僕のそういうこだわりを僕以上に理解してくれてて、歌詞の内容やメッセージについても彼の方が深くいろんなものを感じとってくれてた。だから、途中からクリエイティヴ・コントロールがすべてアレックスの手に移ってしまったんだ。現場での僕はADみたいなもので、「サンドイッチ買ってきて」とか言われてパシリになってたよ(笑)。

ははは。

バス:(笑)そのくらい彼を信用して全面的に任せたんだ。あとは何度も出てきている「シンプル」ってキーワードなんだけど、ここでもそれは大事にした。けど、印象的にはしたいけど、ショッキングにしたくはなかったんだ。穏やかにこのイメージを伝えたかった。『もののけ姫』の雰囲気だね。とてもインスパイアされているよ。自然とか、生命の息吹とか、そんなものを大事に表現したかった。最後、お侍が死んで、土になって、葉っぱとかになって戻ってくるんだ。

ああ!

バス:輪廻転生っていうかね。そんなふうに命を表現した作品なんだ。たださっきも言ったけど、そんなテーマだとふつうは3分のミュージック・ヴィデオじゃなくて映画の規模になっちゃうよね。アレックスとジョーはとても上手にまとめてくれたと思う。すごく満足してるんだ。

うんうん。すごくよくわかります。じゃ"ブラッドフロウ"っていうのは人間の血流というより、宇宙の血流、宇宙のブラッドフロウってことなんですね。

バス:イエス。そうだね! 歌詞からはストレートな意味でとれるけど、自分の血の流れっていうことでは必ずしもないんだ。それはインスピレーションだったり、比喩的なものだったりもするし。

はい。うんうん、今のですごくよくあの歌詞の意味がわかりました。なるほどなあ。あの曲ってどのパートからできたんですか?

バス:ええと、2年くらい前に作ったからいま一生懸命思い出しているんだけど......確実なのはベース・ラインからできたってことだね。

ベース? へえ。

バス:なんとなくベースを弾いてたときに、日本ぽい感じのフレーズだなっていうのが出てきて、それを録音して重ねていったんだ。で、何度も聴いていろいろ録音しているうちに、すごくダークな雰囲気が生まれてきた。そのダークな雰囲気に自分自身がインスパイアされて詞が出てきたんだ。そんな順序だね。このアルバムは、基本的にはポジティヴなものとして作っていたんで、すごくダークなものっていうのは入れているつもりがないんだけど、結果的にはこの曲はダークなものになったかもしれない。

ダークっていう言葉、じつは私もキーワードとして考えていたものなんです。いま聞いてとてもその言葉が響きました。『セルリアン』というタイトルについて話してくださったように、このアルバムには天上的な雰囲気がありますね。明るくて透明なものです。でもそのなかに攻撃性とか暗さというものが分かちがたく張りついていると思うんです。実際に"プリー"なんかには「ダーク・ワールド」ってモチーフが出てきますよね。「セルリアン」は同時にダーク・ワールドを表現してもいるんじゃないかって......あなたは、この世界がほんとに「ダーク・ワールド」だって思いますか?

バス:ええと......この、いま生きている世界がダークな場所だってふうには思っていないよ。他の曲でも、必ずしも書いたことが本心からそう思っていることだというわけではないんだ。と言いつつも、"プリー"を書いたときには僕は少し落ちこんでいた。世界は真っ暗だってくらいのテンションだったかもしれない。それがすごく表現されているとは思うよ。いまは、まったく違うテンションで、そんなことは全然思ってないんだけど、ライヴで演奏するとその時のエモーションがすごく戻ってくるんだ。だから聴いてくれるオーディエンスの人びとにもそれが伝わってしまうんじゃないかな。歌詞の内容は恋の話なんだけど、実際に自分はそのとき恋愛をしていなかったんだ。でも恋愛というものがどういうものか、どんな気持ちになるのかっていうのは、一般的な情報としては知っているから、曲を書くときにそのキャラクターにはなりきれる。そういう演じていた部分もあるかな。よくこういう取材とか友だちからの質問で、恋愛の相手は誰なんだ? ってきかれたりするんだよね。でも相手はべつにいないんだ。

"プリー"の演奏はほんとに心に残りますよ。逆に冒頭の"アポロジェティック・ショルダー・ブレイド"は教会音楽的な響きを持っていて、ずばり天上のイメージなんですが、あの「ヒュー」っていうモチーフはなんですか?「ヒュー」がコンピューターから這い出したってことを祝福する音楽なんですか?

バス:あははは! あれ、くだらないんだけど、ヒュー・ジャックマンのことなんだ。

(一同笑)

が、出てきたんですか(笑)? このインタヴュー、締まらないじゃないですか!

バス:いや、ヒュー・ジャックマンが好きで......あはは! 夢の話なんだ。夢ってすごくロマンチックなものなんだけど、実際の内容はすごくバカみたいでありえなかったりするよね!

あれ、あのワン・センテンスしかなくて(※「ヒューがコンピュータから這い出していった」という一行のみの詞)、しかもむちゃくちゃハイ・トーンで感情こめて歌うじゃないですか(笑)。

(一同笑)

バス:一番はじめに指摘してくれたように、このアルバムはすごく若さにあふれたものなんだ。若いときの攻撃性とかパッションとかエモーションが詰まってるって言ってくれたけど、この曲なんかはまさにそうで、若気のいたりですらあるよ。このときは、こんなふうにやるのが超おもしろいって思ったんだ!歌詞はもっとあったんだけど、全部切ってこれだけにした(笑)。

超、印象的ですね。全部切って正解ですよ。ええと、時間がないということで、私まだまだいろいろ聞くことあったんですけど......

バス:さっき、ダークネスって話も出たけど、次の作品は「ダーク」なものにしよう、そういうインテンスなものにしようと思ってるんだ。楽しみにしててください。アリガトウ!

※2

James Ferraro - ele-king

 ベスト・バイは、日本で言えばヨドバシ・カメラやビック・カメラのようなアメリカの超巨大家電チェーン店だが、しかしそれは主として郊外にある。フォックス・スポーツはFOX社のスポーツ中継番組で、アメリカンフットボールをはじめ、メジャーリーグベースボールも放映している。昨年、〈オールド・スペリング・イングリッシュ・ビー〉からアナログ盤として再発された(オリジナルは2008年のカセット・リリース)ジェームズ・フェラーロの『ラスト・アメリカン・ヒーロー』のスリーヴ・アートは、ベスト・バイの鮮やかな発色の青と黄の看板の写真が使われている。裏側にはフォックス・スポーツのロゴ、そしてベスト・バイの駐車場に駐めてある車とロボットがコラージュされている。封入されたライナーノーツには、アメリカの郊外におけるスプロール化に関する記述、「表紙の写真は空虚な世界における現代のゴモラ寺院たるベスト・バイ・プラザ・センター」、ロボットについては「グーグル以降のデジタル・コロシアムにおける闘士」などという説明もある。

 今日のアメリカにおいて中産階級の貧困化は大きな社会問題のひとつとしてある。アメリカにある程度の時間滞在したことがある人にはわかる話だが、しかし日本における貧困とアメリカのそれとは違う。アメリカは、そのスプロール化と郊外の巨大なウォール・マート文化、その住宅事情だけを見たら、たとえば東京郊外のニュータウンや北関東の住宅地など何と説明すればいいのだろう、そもそもの国の豊かさの基準がどれほど違うのかという話でもある。
 『ラスト・アメリカン・ヒーロー』は、そうしたアメリカの郊外文化の豊かさと貧しさの両側をシニカルに描いている。作品からは、木々などの自然がところどころ部分的に残っているような、キレイに整備された広大な住居地域の、日本人(もしくはイギリス人)からしたら羨ましくなるような、それなりに広い一軒家のなかで、車で買ってきた1ガロンのマウンテンデューを冷蔵庫から取り出してアメフトに熱狂する母親、そしてその奥の部屋に閉じこもりっぱなしでPCに向かっている肥満体の青年を思わず想像してしまう。
 だいたいフェラーロの異常な数のリリース(2008年で7作、2010年は18作のアルバム)をdiscogsを見ながら数えていると、彼自身が手に負えないオタクなのではないかと思えてくる。彼のポートレイトを見ると、名前の通りラテン系顔の、70年代のディスコから飛び出してきたように見える。

 『ファー・サイド・ヴァーチュアル(仮想の向こう側)』は、しかし2011年に彼が発表する唯一のソロ・アルバムである。1枚、彼はダニエル・ロパーティン(OPN)らとの共同作品を出しているが、ソロ作品は2010年末の『ナイト・ドールズ・ウィズ・ヘアスプレー』以来となるようだ。
 前作ではMTV的な消費文化としてのアメリカン・ポップを主題としていたが、この新しいアルバムで彼は、アートワークが暗示するように、タッチスクリーンが表象するある種の快適さを扱っている。ゆえに楽曲は、まるで嘘のようにポップで、キャッチーで、わざとらしいほど心地よい。"あなたのマックが眠っているあいだのスターバックス、スジズム博士"、"ヤシの木、Wi-Fiと理想の寿司"、"グーグル詩集"、"グローバルな昼食"、"リンデンドル"(有名な仮想貨幣ですね)......ずいぶんと興味深い曲名が並んでいる。作り方はほとんどOPNと同じだと思われるが、展開される音楽は別だ。1980年代の映画『コヤニスカッツィ/平衡を失った世界』におけるフィリップ・グラスと比肩される今作だが、フェラーロはデジタル時代の病的なまでの快適さを実に巧妙に描いている。繰り返すようだが、やけに軽快なのだ。デジタル時代のマーティン・デニーのように、そう、最後の2曲、"分譲マンションのペットたち"の暗さ、そして"太陽光発電の微笑み"の微妙な曲調を除けば。

DUBBY - ele-king

2011.12.3チャート


1
Andreas Reihse - Romantic Comedy - m=minimal

2
Gold Panda - DJ Kicks (Peaking Lights Dub) - !K7

3
The Kham Lingtsang Band - Solen - Unknown

4
Discossession - Manitoba - Crue-L

5
Legowelt - Poverties Paradise EP - Echovolt

6
Extrawelt - Neuland (Robag Wruhme Rekksmow) - Darkroom Dubs

7
Luv Jam - Outlander - We Play House

8
Tyedye - Fisherman's Bend - Italians Do It Better

9
Seahawks - Invisible Sunrise LP - Ocean Moon

10
Brain Machine - Alpha Beta Gamma (Von Spar Remix) - Titan's Halo

Chart by JET SET 2011.12.05 - ele-king

Shop Chart


1

FRISCO

FRISCO VIRTUAL INSANITY »COMMENT GET MUSIC
各方面から絶賛されている5thアルバムから、注目の7"シングルが登場!Alton Ellis定番曲のオケに絶大な人気を誇るRickie-Gのヴォーカルという、鉄板の組み合わせによる傑作カヴァー。エレガントな一時を演出してくれる カップリングの"Ska Devil"共に必聴です!

2

WHO KNOWS?

WHO KNOWS? SAY GOODBYE TO THE JOBS EP »COMMENT GET MUSIC
前2作も恐るべしカルト・ヒットを記録、DJ Harvey, Idjut BoysらトップDJのへヴィ・プレイも話題となった"Crue-L"ボス瀧見憲司氏手掛けるリエディット・シリーズ"Who Knows?"から待望の新作Vol.3が新着。

3

ONUR ENGIN

ONUR ENGIN SWEET POWER / SUMMER MADNESS »COMMENT GET MUSIC
ビッグ・ヒットを記録したセルフ・レーベル最新作Vol.5からの勢いをそのままに、原曲の陶酔感を最大限に引き出しながらフロア・アップデートを果たした特大傑作リエディット2作品をカップリング。

4

TERRENCE PARKER

TERRENCE PARKER LOST TREASURES VOL 1: LOVE'S GOT ME HIGH »COMMENT GET MUSIC
京都発"TR Kyoto"からの12"リリースも記憶に新しいデトロイトの重鎮Terrence Parkerによる'95年作品"Love's Got Me High"を、現行シーンの要人2方がリミックス。両サイド共にお勧めです。

5

MASAMATIX

MASAMATIX MOVIN' EP »COMMENT GET MUSIC
2011年6月に長い沈黙を破りついにリリースされたソロ・アルバムからDJユースな楽曲2曲に加え、Boof名義で放ったEPのヒットが記憶に新しいMaurice Fultonによるリミックスを収録!

6

MURO

MURO SUPER CHRISTMAS BREAKS -REMASTER EDITION- »COMMENT GET MUSIC
Diggin Ice~Diggin Heatシリーズ各種のCD化がすべて特大ヒットを記録している「King of Diggin'」=Muro氏の名作復刻シリーズ。番外編として本作「Super Christmas Breaks」がCD化です!!

7

SOUNDSTREAM / SOUNDHACK / T.S.O.S.

SOUNDSTREAM / SOUNDHACK / T.S.O.S. SOUND SAMPLER VOL.1 »COMMENT GET MUSIC
相棒ErrorsmithとのデュオSmith N Hackも既に伝説化している解体/再構築ディスコ天才SoundstreamことSoundhack。謎の新鋭T.S.O.S.も交えた超強力コンピ12"がこちら!!

8

FORD & LOPATIN

FORD & LOPATIN SNAKES / FLYING DREAM »COMMENT GET MUSIC
もはや説明不要のUSインディ・シンセ最高峰デュオ、Ford & Lopatin!!アルバム"Channel Pressure"未収録の2曲をカップリングした完全限定クリア・ヴァイナル!!

9

MAIN STEM

MAIN STEM ELECTRIC CHURCH »COMMENT GET MUSIC
Prins Thomas主宰"Internasjonal"から昨年デビューを果たし、Chicken Lipsの"Lip service"からのシングル作品やリミックス・ワークで頭角を現した、Ben Shenton, Robert Johnston & Tim Silverを中心とした新生ディスコ・ユニットThe Main Stemによる待望のデビュー・アルバムです。

10

ONRA

ONRA CHINOISERIES PT 2 »COMMENT GET MUSIC
前回と同様に、今回もベトナム他東南アジア産の60's/70's音源縛りによるサンプリング・ビート集。前作のアウトテイクを煮詰めた結果、それを遥かに凌ぐ仕上がりになりました!

Chart by UNION 2011.12.05 - ele-king

Shop Chart


1

PINCH & SHACKLETON

PINCH & SHACKLETON Pinch & Shackleton HONEST JONS / UK »COMMENT GET MUSIC
2011年下半期最大級の問題作!! TECTONICの首領・PINCHとダブステップ・シーンの異端児SHACKLETONとのコラボレーション!!!2011年前半にリリースがアナウンスされ大きな反響を巻き起こしていたPINCHとSHACKLETONのコラボレーション・アルバムが遂に、遂に登場!! ブリストルにて自身のレーベル・TECTONICを運営しつつ、PLANET MUやPUNCH DRUNK、DEEP MEDIなど主要レーベルからも精力的にシングルを切る実力者PINCHと、拡張を続けるシーンにおいてなお孤高の存在であり続ける奇才SHACKLETONが創出した異次元の音響空間がここに!! 生々しいパーカッションと不穏なドローンが覚醒感たっぷりのM-2、重々しいベースライン上で女性のヴォイス・サンプルが奇妙にに変調していくM-5など、どこを切っても濃厚すぎるトラックばかり!!まさにこれこそがダブステップの正当なる進化を体現した真にアンダーグラウンドな作品、シーンの歴史に鋭利な爪跡を残す怪作の誕生です!!

2

VAKULA

VAKULA Leleka001 LELEKA / UK »COMMENT GET MUSIC
限定500枚プレス、ハンドスタンプ仕様の180グラム重量盤!!デトロイト/シカゴのアイデンティティーを昇華/消化した初期衝動的な6トラックを収録した注目の1枚!!別名義VEDOMIR、3RD STRIKEからリリースされた"Saturday"のリミックス12"を控えるシーンの中でも突出した実力者VAKULAがセルフレーベルLELEKAのファーストリリースに登場!!

3

NO BOUNDARIES

NO BOUNDARIES Modular Pursuits (Daphni Remixes) PLANET E / US »COMMENT GET MUSIC
DAPHNI (CARIBOU/MANITOBA)リミックス!!! 昨年突如リリース、モジュラー・シンセの発信音のみで収録&構成されたアルバムが話題となったCARL CRAIGのプロジェクト・NO BOUNDARIESのトラックを、LEAF~DOMINO等でお馴染みの鬼才・CARIBOU/MANITOBAの別プロジェクト・DAPHNIが2バージョン・リミックス!!! 軽くバウンスするボトムに細かく刻むハット、そこへ発信音やヒプノなシンセ、ヴォイス&ボーカル・サンプル、時にヘビー&ヒステリックに打ち付けるパーカッション等、様々な音の欠片が時に過度なボリュームの強弱をつけ次から次へと飛び交っては変容、ズブズブに引き込んでいく圧巻の2ミックス。

4

TOFU PRODUCTIONS

TOFU PRODUCTIONS Trabalhador SUNDANCE / GER »COMMENT GET MUSIC
THOMAS MELCHIOR & FUMIYA TANAKAによるニュー・プロジェクト・TOFU PRODUCTIONSリリース第一弾!! これまでもRICARDO VILLALOBOSやJOHN THOMAS等、ミニマル・シーン注目のコラボレートでも話題を集めてきたFUMIYA TANAKAが、主宰SUNDANCEレーベルよりPERLONやSMALLVILLE、LUCIANOの共作等で知られるTHOMAS MELCHIORとの新プロジェクト・TOFU PRODUCTIONSのデビュー・シングルをドロップ。少ない音数の隙間から生み出される絶妙なグルーヴとブラック&ジャズ・フィーリング溢れるサンプル使いがたまらなくファンキーな仕上がりです!!

5

FLOATING POINTS

FLOATING POINTS Shadows EGLO / UK »COMMENT GET MUSIC
セルフレーベルEGLOからFLOATING POINTSによる2枚組12"がリリース!!リリースの度に即売れが続くUK発EGLOの22番は主宰者FLOATING POINTSの新作12"!!デトロイト・マナーなシンセトラックから、ダブステップ、エレクトロニカ的な音響など、これまでにも増してそのレンジの広い才能を発揮した5トラック収録の2枚組!!

6

ONUR ENGIN

ONUR ENGIN Sweet Power/Summer Madness GAMM / SWE »COMMENT GET MUSIC
ホワイトでリリースされた「Onur Engin Edits Vol. 5」収録の山下達郎"Love Talkin' (Honey It's You)"のリエディットが注目される中、ONUR ENGINがスウェーデンのGAMMレーベルから再登場!!A-サイドにはJAMES MASON"Sweet Power"を、KOOL & GANG"Summer Madness"をビートダウン仕様にエディット/アレンジしたB-サイドと2トラックを収録した1枚。

7

MIKE HUCKABY

MIKE HUCKABY Tresor Records 20th Anniversary (国内仕様盤) TRESOR / JPN »COMMENT GET MUSIC
SURGEON!JOEY BELTRAM!DREXCIYA!クラシック満載!!!!!ベルリンで20年以上の歴史を誇り、数々の傑作を残すドイツはベルリンの老舗レーベル・TRESORの20周年を記念した超強力オフィシャル・ミックスCD。本CDのミックスではなんとデトロイト・ミュージック・シーンに於いて欠かせない存在として長きにわたり活躍してきたベテランDJ/プロデューサー、MIKE HUCKABYをフィーチャー。これまで幾度もクラブTRESORに出演してきた彼ですが、TRESORレーベルからのリリースは本作が初。全22曲でまとめられたそのトラック・リストは冒頭のSURGEONからROBERT HOOD、BAM BAM、JEFF MILLS、BELTRAM、DREXCIYAまでお馴染みのトレゾア・ファミリーの名作/代表作に加え、"The Tresor Track"と題されたMIKEによる未発表トラックも。

8

RROSE

RROSE Merchant Of Salt SANDWELL DISTRICT / UK »COMMENT GET MUSIC
UKインダストリアル~アンダーグラウンド・ミニマルの最深部・SANDWELL DISTRICT新作に16番でも変態度満点のドープ・テクノ・チューンを鳴らし大きなインパクトを残したあのRROSEが2度目の登場 !!!! 唸りをあげてドライブするビッキビキのマッシヴ・テクノ・ビートが兎に角ヤバい圧倒的な内容でドープ&ドラッギー全搭載といった様相の超強力な1枚です。マスト!!!!!

9

NINA KRAVIZ

NINA KRAVIZ Ghetto Kraviz REKIDS / UK »COMMENT GET MUSIC
ジャケットからしてTRAXイズム丸出しのRADIO SLAVE主宰・REKIDS新作。そのジャケが指し示す通りオールド・スクール・シカゴ/ゲットーテイストなトラックを搭載していますが、これを手がけるのはこのREKIDSは勿論、DJ JUS-EDのUQやEFDEMINのNAIF等、毎度強烈なレーベルからリリースを重ねているロシア出身の才女・NINA KRAVIZ。スッカスカのトラックの隙間をグルーヴさせますが、けだるげな女性ヴォイスで構成されたループは往年のシカゴ・ルーツものよりグッとクールな印象でそこがまた独自の世界を作り出しています。

10

TROPICS OF CANCER

TROPICS OF CANCER End Of All Things DOWNWARDS / UK »COMMENT GET MUSIC
REGIS主宰・UKアンダーグラウンド・レーベルDOWNWARDSを拠点にBLACKEST EVER BLACK等からのリリースでもその異色のノイジー&アヴァンギャルド/ダブなサウンドで圧倒的な存在感を示すSANDWELL DISTRICT一派・SILENT SERVANT=JOHN MENDEZがパートナーCAMELLA LOBOと組む漆黒のゴシック~ノイズ/ダブ・オルタナ・デュオ、TROPIC OF CANCERが遂にリリースした7曲入りデビュー・アルバム。

Anstam - ele-king

 テクノとダブステップの架け橋となったモードセレクターの3作目にはあまりいい部分を感じることはできなかったけれど(がんばれ、トム・ヨーク!)、彼らが主宰するモンキータウン傘下の〈50ウェポンズ〉からデビュー・アルバムを放ったラース&ヤン・シュトゥーヴェにはUKベースに対するドイツからの最良のアンサーを感じ取ることができた。すでにレイディオヘッドのリミックス・アルバムにも起用されていたので、その感触に触れた人も少なからずではないかと思うけれど、イージーにいうと、これはブラック・ストロボのダブステップ・ヴァージョンであり、ジャーマン・トランスをベース・ミュージックに様変わりさせたアップ・トゥ・デイト・ヴァージョンだといえる(ブラック・ストロボといってもシングルだけが好きだった人に朗報です。つーか、12年待ちましたよ!)。

 重いベースをローリングさせ、コケ脅かしのフレーズを散りばめながら、しっかりとハットでステップを導いていく。何もここまで重々しくしなくてもいいだろうと思うほど全世界を暗闇に閉ざし、リン・ドラムを徘徊させるオープニングから一気に人びとをダンサー・イン・ザ・ダークへと変換させる。09年にリリースされた3連作シングルではインダストリアル趣味がもう少し剥き出しになっていたものを、ここではかなり洗練されたフォームに移し変えられ、よりダンス・ミュージックとしての機能がアップされたことで、その対比は皮肉なほど明確に感じられる。残念なのは40分ちょっとしかこの人工庭園では遊ばせてもらえないことで、まったく正反対のことをラスティが『グラス・スウォーズ』で延々と展開していたことはたしか。いずれもフィクショナルな想像力の展開としては相当な力量の持ち主といえる。足して2で割ったらパフュームには......ならないか(ギャラクシアスもがんばろー)。

 それにしても重い。このようなドイツに特有の重さというのは、一体、なんなのか、カンにもDAFにもデットマンにも認められるものだし、2年前にグトルン・グートとAGFが結成したグライエ・グート・フラクションもIDMスタイルのマラリア!といった過剰なヘヴィネスが最初から最後まで漲っていて、とにかくカッコよかった。そのリミックス・アルバムがなぜかいま頃になって完成。10人のゲスト・リミキサーを迎えながら、やはり独特の重々しさは統一されている。

 GGF自身もカウントすると、まずはリミキサーの男女比が4:8と圧倒的に女性で占められ、グルジアに戻ったTBAことナタリー・ベリツェやバーバラ・モーゲンシュテルン以外はほぼニュー・フェイスといった布陣(変わったところではクロスタウン・レベルズからテック-ハウスのリリースがあったジェニファー・カーディーニも)。男性4人はシングル・カットされたパレ・シャンブール"ヴィア・バウエン・アイエ・ノイエ・シュタット"のカヴァーからアルヴァ・ノト(Aサイド)とヴォルフガング・フォイト(Bサイド)を採録した以外にミカ・ファイニオによる重々しいアンビエント・リミックスと、ソウルフィクションによるダブ・テクノ。男女でとくに出来に差があるわけでもなく、個人的には(意外と長い人のようだけれど)ディー・パティンネン・テイル2のドンナ・ネーダによる歪んだダブ・ミックスに最も興味はそそられたものの、どれもがGGFの美意識を損ねることなく、独特の世界観を補強する仕上がりで、とてもリミックス・アルバムとは思えない完成度といえる。単に重いだけでなくセクシーなところがGGFはいい。

Irrelevant - ele-king

 2011年を1曲で表せと言われれば(言われないけれど)、ホーリー・アザー「ウイズ・U」を僕は選んでしまうだろう(映画で1本と言われれば『スコット・ピルグリムvs元カレ軍団』か『メランコリア』か、マンガで1冊と言われれば桜場コハル『そんな未来はウソである』、ネコで一匹と言われれば......)。

 そして、ホーリー・アザーの新作が待ちきれないという人に似たようなものを(笑)。寡作ではあるものの、着実に話題作を送り出し続けているアレイ・キャットのレーベルからイレルヴァントのデビュー・アルバム。ダブステップとウィッチハウスの架け橋となったホーリー・アザーをさらにリヴァーブの海に沈めたような展開で(ウイッチネスが増したというか)、まさにベリアルのUKガラージ版といった内容になっている(ショップによってはチル・ステップ、もしくはハード・ワックスなどはアンビエント・UKガラージとアナウンス)。

 ドラムンベースのリズムを使っている曲もあったりするものの、リズム感があまり巧みとは言いがたいのでホーリー・アザーのような官能性には欠けるし、せっかく面白い音を多用しているわりには、ウィッチネスを強調したいせいか、音の分離もそれほどよくはないので、どうしても雰囲気モノとして聴いてしまいがちだけれど(別にそれでいいんだけど)、逆にいえば、チル・ステップというような呼称を持ち出してくるほど極端なものをダンスフロアが求めているともいえ、異形の存在感には事欠かない。"ノー・ラヴ""ゼロ以下""自傷""裏切り"と、曲名もネガティヴなことこの上なく、『多分、大丈夫だと思う』という意に取れるアルバム・タイトルも思春期の王道を醸し出す。

 映画『アンノウン』を観ていたら、ベルリンのクラブでクラウドがジョイ・ディヴィジョンを聴きながら踊りまくっているシーンがあり、そういえば僕もジョイ・ディヴィジョンはダンスフロアで出会った音楽だったということを思い出した。ダンスフロアで流れる音楽が内省的で重苦しいものを排除しているというようなことはいまも昔もなかった。コクトー・ツインズしかり、セイバーズ・オブ・パラダイスしかり。むしろ、ある種の雰囲気に埋没できることがダンスフロアの強みといえ、ウイッチハウスというのはそれを極端にしたシーンだといえる。外からの見た目はかなり気持ち悪いらしいけれど(ジョン・レイト談)、ジェイムズ・ブレイクといい、ボン・イヴァーといい、この種の雰囲気とリンクしてしまう傾向はあらゆる場面で散見できる。フェネスも関わり出したブラック・メタルがその背景にはどこまでも広がっている。

 ゴシックといわずにウィッチ(ネス)というのはなるほどで、ダンス・ミュージックに関する限りはどこかインダストリアルをオミットしている部分があるのだろう。インダストリアル・ミュージックのフロントラインはポスト・クラシカルに移行していると僕は思っているので、ゴシックが担うべき重圧感はそちらに任せられるという事情もあるのではないだろうか。ウイッチネスとは、まさにその予感であり、アニマル・コレクティヴやディプロに対するカウンターの位置にある。あるいはゼロ年代のアンダーグラウンドを主要な棲家としていたノイズ・ドローンの浮上ないしは変形と考えてもいいか。

 意外ななリンケージだけど、スペーシー・ドローンのマイ・キャット・イズ・アン・エイリアンもこの数年でじわじわとウィッチネス効果を高めてきた。『エレキングVol.2』にも書いた通り、トリノの工業地帯からアルプス山中にスタジオを移したことで、手法的には同じでもアーシーな響きへと様変わりしたことで、宇宙を漂うのではなく、森の中を彷徨っているようなニュアンスを放つようになってきたからである。イフェクターを通してギターやピアノが乱舞する"#3"の美しさは彼らのなかでも新境地といえる。そう、20年目のアリオ・ダイといい、ベルルスコーニのイタリアはIMFの監視下に入るというし、一体、国民感情に何をもたらしているというのだろう......(ベルルスコーニのニュー・アルバムも出るというのだから意味がわからない......)。

Chart by Underground Gallery 2011.12.01 - ele-king

Shop Chart


1

GERALD MITCHELL

GERALD MITCHELL Family Property (GMI Productions / CD) »COMMENT GET MUSIC
ジェラルド・ミッチェル、待望の1st・ソロ・アルバム完成!! UG 限定特典ミックスCD付き![Soul City]、[Metroplex]、[Underground Resistance]、そしてLOS HERMANOSと、彼 が歩んできた輝かしい音楽活動の本質が、すべてここに凝縮されている。あの 「Knight Of Jaguar」のリフレインを弾き出したテクノ・マスターから届いた、美し くも雄々しい、そして温かく響き渡る、珠玉の14篇。20年以上に渡るキャリアのター ニング・ポイントとなる、初のソロ・アルバムが遂に完成!"G2G"の初代主要メンバーならではのスペーシーでエモーショナルなメロディー、 LOS HERMANOSで魅せるドライブ感ある黒いグルーヴ、彼のエッセンスすべてを 凝縮したファンクネスに満ちたハウシーな空気感、まさにGERALD MITCHELLの 集大成と呼べる全14曲!

2

PSYCHEMAGIK

PSYCHEMAGIK Heelin' Feelin' (Psychemagik / 12inch) »COMMENT GET MUSIC
自身主宰レーベルや[History Clock]などから注目リリースが続く PSYCHEMAGIK新作が、これまた自身が新たに立ち上げた新レーベル[Heelin' Feelin']より登場。THE WALKER BRTOHERSが78年にリリースしたアルバム「Nite Flights」に収録されていた「Disciples Of Death」をネタにした、ブルージーなミッド・ブギー・ファンク「Welcome To The Boogie Drome」のA面、ネタが分からなかったのですが、イタロ系のヴォコーダー・ヴォイスや、アルぺジオ・シンセが印象的なディスコ・ロック「Diamond Star」のB面の2トラックス。特にA面は、 HARVEYや IDJUT BOYS辺りがプレイしそうな雰囲気もあり、大きな話題を集めそうです。

3

V.A

V.A Sound Sampler Vol. 1 (Soundsampler / 12inch) »COMMENT GET MUSIC
KILLER!ベルリン・アンダーグラウンド・ディスコ・ヒーロー、SOUNDSTREAM & SOUNDHACK収録のコンピ12インチ! ベルリンHARDWAXが贈る、人気ディスコ・レーベルSOUNDSTREAM & SOUNDHACKのサンプラー12インチがリリース!得意のワンループ・ディスコ・スタイルで、グイグイとファンクさせるSOUNDSTREAM、極端のカットアップされたディスコ・サンプルがグルグルとリフレインするSOUNDHACK、[Ostgut Ton]からリリースされたPROSUMERのミックスCD 「Panorama Bar 03」に収録されていたT.S.O.S.「Over And Over」など、全4曲を収録!

4

LATECOMER

LATECOMER Cosmic Cart (Mcde / 12inch) »COMMENT GET MUSIC
2011年を代表するミックスCDの一つ、MOTOR CITY DRUM ENSEMBLE「DJ Kicks」に先行収録され大きな話題となっていた LATECOMER「Cosmic Cart」が遂に12インチ化!まず Side-Aに収録された そのオリジナルは、躍動感のあるウッドベースが◎なハウスグルーブに、可憐でムーディーなピアノメロ、ド渋な男性ヴォーカルを絡ませた、これからの時期にピッタリなモダン・ジャズ・ハウス。コレだけでも十分に満足できちゃう1枚なのですが、さらにカップリングには、[Philpot Records]オーナー SOULPHICTIONによるリミックスが収録され、こちらは THEO PARRISHワークっぽいLo-Fiさに、クラシカルなアシッドテイストを加えた、デトロイト・スタイルのディープ・ハウス・リミックスを披露。

5

DVS1

DVS1 Evolve (Hush / 12inch) »COMMENT GET MUSIC
ミネアポリスのベテラン・ミニマリストZAK KHUTORETSKYことDVS1、HARDWAX流通の新レーベル(自身のレーベル?)からの新作12インチ! BEN KLOCK主宰の[Klockworks]、DERRICK MAYの[Transmat]などからのリリース、そして、オリジナルなグルーヴを生み出すDJプレイの評判もあり、現在世界中のパーティー・ピープルから、大きな注目を集めている、ミネアポリスのベテラン・ミニマリストZAK KHUTORETSKYことDVS1の新作HARDWAX流通の新レーベル(自身のレーベル?)からリリース! 往年の[M-Plant]作品を思わせるようなメカニカルなシンセ・フレーズをリフレインさせたA面、雲のもこもこした手触りのシンセ・リフを浮かばせたデトロイティシュなB面の2トラックを収録。

6

HEAVY DISCO / DARKSTARR

HEAVY DISCO / DARKSTARR I Ain'T Hiding / Smiling Faces (Modern Artifacts / 12inch) »COMMENT GET MUSIC
NORMAN WHITFIELD Prod. THE TEMPTATIONの73年産 サイケ・ファンク・クラシック「Smiling Faces」のASHLEY & DJ COSMO Edit Side-Bが◎!! 過去に PHIL COLLINS、KATE BUSHらのリエディット作品で話題を集めた ASHELY BEEDLEによる人気リエディットレーベル[Modern Artifacts]新作は、自身と [Disco Devience]オーナー BARRYによるプロジェクト HEAVY DISCOと、DJ COSMOとの DARKSATARR名義による 2リエディット作品を収録した1枚。オススメは DARKSTARRによる、THE TEMPTATIONSの73年リリースのサイケ・ファンク・クラシック「Smiling Faces (Sometimes)」を仕様した Side-Bで、原曲の土着的なムードを残しながらも、パワフルなリズムやサイケ感の増したロッキン・ファンクな鍵盤、ギタープレイが◎な、ナイス・フロアーユーズ・リエディット。コレは DJ HARVEY辺りのプレイも間違いないのでは!?また Side-Aには、HEAVY DISCOが 2009年にリリースされた THE BLACK CROWES 通産8枚目のアルバム「Before The Frost...」より、HORSE MEAT DISCOクルーもフェーヴァリットに上げる、80年代風のエレクトロ・ロックナンバー「I Ain't Hiding」を、原曲に忠実にディスコ・リエディット。

7

FLOATING POINTS

FLOATING POINTS Shadows (Eglo Records / 2x12inch) »COMMENT GET MUSIC
先日リリースされた新作7インチも、速攻でソールドアウトとなった、ロンドン育ちの若き才能、FLOATING POINTSが、12インチ2枚組にて新作をリリース! 今作も、彼の幅広い音楽性と、その才能を遺憾なく発揮した、捨て曲無しの、全5曲を収録。エレクトロニカ的なシンセワークを多用した繊細さ、ジャズ的な生楽器演奏、ダブステップ以降のビート感覚、ビートダウンとも通じるグルーヴ、現在のシーンの大事な所が全て凝縮されたかのような、完璧な2枚組!

8

NINA KRAVIZ

NINA KRAVIZ Ghetto Kraviz (Rekids / 12inch) »COMMENT GET MUSIC
絶好調なリリースが続いている[Reklids]新作はまたしてもキラー!! STEVE REICH「Come Out」バリのヴォイスループが◎な B1が一押し。 JUS-EDの[Underground Quality]や[Bpitch Control]などからのリリースで話題を集める、ロシアの美女アーティスト NINA KRAVIZ新作が、RADIO SLAVE主宰の人気レーベル[Reklids]より再び登場。 今回は、ヴォイスサンプルを執拗にループさせた覚醒度の強いキラー・ミニマル・トラックを 3作収録した1枚なのですが、中でも、シンプルながらも音圧のあるパワフルでバウンシーなトラックに、STEVE REICH「Come Out」っぽい雰囲気の声ネタがグルグルと連呼された B1「Show Me Your Time」が強烈! 是非チェックしてみて下さい。

9

A MADE UP SOUND

A MADE UP SOUND Take The Plunge (A Made Up Sound/ 12inch) »COMMENT GET MUSIC
2562名義の作品も高い人気を誇る、ダブステップ×テクノ・ハイブリッドの先駆 者DAVE HUISMANS aka A MADE UP SOUNDが自身のレーベルから新作をリリース! ベースの効いたバウンシーなハイブリッド・グルーヴに、AUTECHERのように不規則な グリッジーなカットアップ電子音が立体的に飛び交う、A MADE UP SOUNDの新境地とい える、実験的なミニマル・テクノを披露した「Take The Plunge」が凄まじくヤバイ! 個人的に、ここ最近、90年代後半のエレクトロニカやグリッジ・テクノが、新鮮に感 じていたところなので、こういうアプローチは大歓迎!面白いです!!

10

V.A.

V.A. Hortoug Edits (Wah Dubplate / 7inch) »COMMENT GET MUSIC
DUSTY SPRINGFIELDによる大名作「Son of a Preacher Man」をスローモー・ハウス化。 詳細不明のデンマーク人アーティスト HOLTOUGが、ファンク/ソウルの名曲2作をダンスフロア仕様にリミックスした要注目の1枚。 オススメは、NANCY WILSON、TINA TURNERらによるカヴァーでも知られる DUSTY SPRINGFIELD 68年作「Son Of A Preacher Man」を使ったA面!心地の良いテンションで響くギター、カリンバなど、原曲のユラユラとした気持ちの良い空気感を、そのままスローモーなハウスグルーヴに絡ませた、シンプルで飽きの来ない好作品! 意外とこの曲をネタにした、こういう仕上がりのリミックスって今までリリースされていなかっただけに、これは希少ですよー!さらに Side-Bには、レアグルーブ古典としても人気の CHARLES WRIGHT & THE WATTS 103rd STREET RHYTHM BANDの 70年作「Express Yourself」をネタにした、ファンキー・ディスコ・リミックスを収録。

Thee oh sees, total control, doomsday student, the beets
@285 kent ave
Nov.17.2011


Thee Oh Sees
Carrion Crawler / Dream
In the Red Records

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 チケットはソールドアウトだし、最初はとくに乗り気でなかったというのに、午後10時ぐらいになると私は会場に向かっていた。会場に着くと、いちど入場して、そしてスタンプをもらった人までもが再入場できなくなっている。ドアの兄さんは、暴動が起こる寸前のようにみんなから文句の攻撃を浴びさせられていて、かなりかわいそうだった。いずれにしてもかなり大変な状態なのだろう。
 仕方なく、私は隣の会場のグラスランズでひと休みする。このふたつの会場は隣合わせで私はよく行ったり来たりしている。
 そこでのライヴを見いつつ15分ぐらいが経って、もういちどトライしようと外にでる。するとドア付近で怒っていたかたまりが、いち列にきちんと並んでオーガナイズされているで。少しずつ列は動いているようだ。罵声を浴びさせていたキッズのひとりは、入るときに「さっきは怒鳴ったりしてごめん」とお兄さんに謝っている。よく見ると、その日のオーガナイザーのトッドPが入場を規制している。さすがだなと思っていると、彼はウィンクしながら私をこっそり裏から入れてくれた。

 場内はサウナかと思うほどの熱気だった。何も見えないので、とりあえず頑張っていちばん前に行こうする。が、人が多すぎて動けない。
 すると場内をウロウロしているトッドPがいたので、彼の背中についてなんとか最前列まで行けた。そしてトータル・コントールの最後の演奏がが少し見れた。
 というか、この状態でひとつのバンドの演奏が保つのだろうかと思うぐらい場内は息苦しい。そして案の定、ジ・オー・シーズ(Thee Oh Sees)がはじまった瞬間には集団は大揺れに揺れ、スピーカーは倒れ、人が上から降って来る。危険な状態だ。私はなんとか壁際に移動する。それでも人がどんどん攻撃的にぶつかってくる。後方を見ても大変な数の人だ。ライトニング・ボルトの観客と同じようなタイプだが、もう少し若いし、圧倒的に男が多い。

 ジ・オー・シーズ(theeohsees.com)は、最近(5月ぐらい)新メンバーとしてインテリジェンスのラーズ・フィンバーグを迎え、5ピースになった。ニューアルバム『Carrion Crawler/ The Dream』も11月15日に〈In the Red〉から、リリースされたばかりだ。マーチ(物販)テーブルには、そのリリース以外にシルクスクリーンのツアー・ポスター($20)、ゲロをはいてる(?)ジ・オー・シーズのキャラのイエローとブラックTシャツ($15)、ライトに照らされたその先には、そのスマイル・キャラが浮かび上がっている。たしかすべてJPDのデザイン。ディテールは細かく、しかも可愛いので、思わず買ってしまう。

Photos by Eric Phipps for Impose Magazine
https://www.imposemagazine.com/photos/thee-oh-sees-at-285-kent

 ジ・オー・シーズの楽曲自体はそれほど攻撃的というわけではないのだが、どうしてキッズはこんなにエキサイトしているんだろう。トッドPは「何かあれば、すぐに音楽はストップする」とアナウンスしている。そのあいだにも暴れすぎているキッズを横目に、いまにも倒れそうな大型スピーカーを必死になって抑えているキッズがいる。ステージのJPDはあまりにもフロアがキチキチなので、「あがって来いよ」とキッズを煽っている。
 そしてステージはキッズで溢れ、これって逆ライトニング・ボルト? と思わず笑ってしまう。しかしたしかに、フロアの威圧感が少々マシになった。JPDはステージから「ビールないかな?」と言っている。ステージからバーまでは、人が多すぎてまず行き来できそうにない。
 いよいよスピーカーの音が出なくなった。しばらくその状態で演奏していると、手にビールを持ったトッドPがステージに颯爽と現れる。そして大急ぎでスピーカーの抜けたコードを探して、無事に音を戻す。フロアからは大声援だ。彼こそはインディー救世主。ジャンクヤード、クイーンズの端のダイブバー、工場スペース、冷蔵庫屋......どこでも普通にショーをオーガナイズしている。

 7~8曲目で私は、暑さと危険感で外に出た。人を掻き分けて外へ出るのに余裕で5分かかった。外ではまだ人が待っている。そしてまだ人が入ってきている。物販をもういちど見に行こうとしても、そのまわりで踊っているキッズ達がいて、テーブルにも近寄れない。どういうことだ!

 とにかく、ふたたび最前列には戻れない。隣のグラスランズに移動する。そこのスタッフたちとしばらくハングアウトしていると、トッドPが現れ、「キッズたちがナッツ(気が狂ってる)になってるの見たい?」と言う。
 私は彼のあとについていく。道を回ってこう行くとここに出るのねと、285 kent aveのステージの真裏に来た。たしかにキッズが大暴れの真っ最中だ。ハラハラと、気が気でなかっただろう彼の顔にもやっと笑顔が見えていた。
 ジ・オー・シーズのショーは何回も見ている。新しいとは思わないのだが、いつも見たくなる。彼らがニューヨークにいると聞くと、憑かれたようにショーにきている。今回何度も名前を出しているが、ライトニング・ボルトと同じように、何か大きな魅力がある。ちなみに彼らは同じ時期のRISD(ロード・アイランド・スクール・オブ・デザイン)出身。私は10年ほど前の同じ日に、偶然彼らに出会った。比べたくなくてもつい比べてしまう。この話は機会があればぜひ。

 翌日(nov.18)はマンハッタンのル・ポワソン・ルージュでのショーだ。そして、それを終えると彼らは北へ向かう。今回のツアーは(w/トータル・コントロール、)11月4の日オースティンのファン・ファン・ファン・フェストを皮ぎりに、サウスを東へ、イーストコーストを北へ、ミッドウエストを通り、西海岸に戻るという丸1ヶ月強のツアー。サンクスギビング・デーはさすがに休んだそうだが、その前日(シカゴ、ダブルショー)も次の日(ローレンス)も演奏している。ジ・オー・シーズはほとんどツアーが生活である。1年に3~4回はツアーをしている。それがジ・オー・シーズというバンドなのだ。

Simi Lab - ele-king

「アンダーグラウンドのままでいよう。どうせ、ブロンクス以外でこんなものを聞きたがる奴なんていないんだから」(グランドマスター・フラッシュ)

 だが......ヒップホップは世界中に拡がった。どんなにヒップホップを嫌悪する人間でさえ、『Arular』(M.I.A.、2005)が世に問われる頃には、その普及度を認めずにはいられなかった。たかだか30年の歴史ではあるが、サンプリング・ビートという特殊な構造を持つこの音楽は、理論的には無限のトラックを生み出すことが可能であり、また、この音楽特有のラップという手法も、あらゆる隙間を流れ、R&Bやロック、ポップスといったジャンルの半径を拡張させている。それは、ジャンル間での交流・交通を流動的に促し、ヒップホップそれ自体をも変えていった。もはや、それはヒップホップと呼べない、呼ぶべきではない、という声もある。しかし、カニエ・ウェストとジェイ-Zがビルボードの頂上からヒップホップのチャンピオンシップを宣言するような現在、それでもなお、変わっていく変わらないもの(changing same)がこの文化にはあり、すなわち、「優れたヒップホップは必ずアンダーグラウンドからやって来る」、ということだ。

 そう、『ヒップホップはアメリカを変えたか?』(菊池訳、2008)の序盤で、この音楽の持つ種々の潜在性を軽視していた言葉として強調されている冒頭の、フラッシュによる自虐的なフレーズは、いまや、ヒップホップの持つべき矜恃をむしろ代弁している。あるいは、『いるべき場所』(ECD、2007)を思い出してもいい。この音楽にはこの音楽に相応しい場所があるのだ。しばしば、それが「どこからやって来たか」が、音楽以上に評価を決めることもある。この国のドメスティック・ラップは、商業的な規模にはいまだ恵まれていないが、そうした意味で、シーンのルールが一夜にしてひっくり返る、そうした可能性を孕んだ文化なのだ。具体的には、YouTube、SNSが音楽伝播の補助インフラとして機能する現在、王が城で高いびきをかく夜に、伏兵がひとつの鮮烈な動画を世界に問いかけ、一晩でシーンのルールを変えてしまうこともあり得る。"WALKMAN"(2009)は、いち部ではそのようなざわめきとともに迎えられた。

 以降、準備は着実に進められてきており、じらすようにして各所で発表されたSIMI LABの断片は、すでに収集困難になりつつある。また、クルーの核となるQN(a.k.a Earth No Mad)は、各所でのインタヴューによればヒップホップ・クラシックに限らず広い射程で音楽を聴くというし、何人かの異なる趣向を持つビート・メイカーを抱えているわけだから、SIMI LAB名義でのアルバムがどのような内容になるのか、想像し難かった。が、結果から言えば、本作『Page 1 : ANATOMY OF INSANE』はどちらかと言えばこれまでの「伏線回収」の観が強く、個人的には『The W』(Wu-Tang Clan、2000)を思い出すなど、ひとまずはヒップホップの面子を立てた作品となった。Hi'Specによる、ハスラー・ラップばりに高圧的なトラックの上で堂々とマイクを回すクラシック・スタイルの"Show Off"が、それを象徴している。

 思えば、アメリカのローカル・ミュージックが複雑な変換を伴って受容されるに際して、この国のドメスティック・ラップは様々な歪み、膿、しがらみを抱え込んできた。不毛な内紛もあった。また、先人らの奮闘の甲斐あり、90年代のうちに「何語でラップするか」という段階を越え、USのシーンとの時差を一挙に減らしながら、ゼロ年代には「何をラップするか」という次元に突入しつつも、結局、新しい季節に「何をラップするか」で再び躓いた。SIMI LABはいま、この国で日本語を使ってラップすることの不自由さをまったく感じさせない。むしろ、日本語と英語のあいだを自由にフロウしつつ、意味性に囚われることなく無意味性をも避け、武装よりは内省を好む彼らのラップは、絶妙なバランスの上でラップ本来の軽やかさを取り戻しているようでもある。また、ネット・ネイティヴなのだろう、YouTube、Twitterなどの拡散力を巧みに利用しつつも、隠すべきものは隠しており、Googleでどう検索をかけても、SIMI LABの全貌は見えない。彼ら・彼女らのそうした自由な振る舞いを見ていると、この国のドメスティック・ラップが新しい季節を通過していることがわかる。

 正直、アルバムとしてはいささかムラのある仕上がりとなった。個人的には、QNにもう少し出しゃばりを期待していたが、それを含めてもやはり、SIMI LABはいずれの固有性をも拒絶し、物語性を排除することでアンダーグラウンドの掟を守ったのであり、敬意を込めて言えば、この音楽を好む人はまだ少ないだろう。にも関わらず、SIMI LABの周辺がにわかに騒がしくなってきた。そう、あらゆるジャンルにおいて、既存の価値観を問い直すような表現は、喝采ではなく常にざわめきとともに迎えられる。前例なきメンバー構成が成す魅力的なヴィジュアル・イメージも、極めてクールだ。このざわめきが聴こえるだろうか? プレスされたような息苦しいアンビエンス、不穏な金属音、淡々と進行するビート、各々のメランコリアを内破するような堂々たるマイク・リレー、いまの閉塞感に対するアンサーのようにもなったアンダーグラウンド・クラシック"The Blues"(pro by OMSB'Eats)は、この先もっと多くの聴き手にこのざわめきを届けるだろう。

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